説明

定着装置及びこれを用いた画像形成装置

【課題】無端状ベルト部材の内面に塗布された潤滑剤が外面に廻り込むのを回避することが可能な定着装置及びこれを用いた画像形成装置を提供する。
【解決手段】未定着トナー像を保持した記録媒体が通過する圧接部において互いに圧接するように配置される加熱部材及び加圧部材の少なくとも一方を構成する無端状ベルト部材371と、前記無端状ベルト部材371の内面に潤滑剤を塗布する潤滑剤塗付部395と、前記潤滑剤塗付部395の前記無端状ベルト部材371の移動方向と交差する方向に沿った両端部に配置され且つ前記無端状ベルト部材371の内面から潤滑剤を回収する潤滑剤回収部396、397とに分割され、前記無端状ベルト部材371の内面に潤滑剤を塗布する潤滑剤塗布部材391を備えるように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、定着装置及びこれを用いた画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、上記画像形成装置では、記録用紙等の記録媒体上にトナー像を形成した後、記録媒体上に未定着トナー像を定着する定着装置が用いられている。定着装置としては、記録媒体を加熱又は加圧する部材の少なくとも一方として無端状ベルト部材を用い、当該無端状ベルト部材の内面に潤滑剤を塗付するように構成したものがある。定着装置に関する技術としては、例えば、特開2007−279386号公報や特開2010−60697号公報等に開示されたものが既に提案されている。
【0003】
上記特開2007−279386号公報に係る画像加熱装置は、記録材上の画像をニップ部にて加熱するベルトと、前記ベルトをその幅方向へ揺動させる揺動手段と、前記ベルトの幅方向両端側の塗布量が中央部よりも少なくなるように前記ベルトの内面に潤滑剤を塗布する潤滑剤塗布手段と、を有するように構成したものである。
【0004】
また、上記特開2010−60697号公報に係る定着装置は、加熱ローラと、複数のローラに張架され前記加熱ローラに当接する無端状の定着ベルトと、前記定着ベルトを内周面側から前記加熱ローラに押圧し、定着ニップ部を形成する押圧部材と、前記定着ベルトの内周面に潤滑剤を塗布する潤滑剤塗布手段と、を有する定着装置において、前記潤滑剤塗布手段は、前記潤滑剤を保持及び塗布する機能を有する第1の潤滑剤塗布部材と第2の潤滑剤塗布手段とを備え、前記第2の潤滑剤塗布手段は、前記第1の潤滑剤塗布手段より、潤滑剤保持量が少なく、且つ単位面積当たりの塗布量が多くなるように構成したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−279386号公報
【特許文献2】特開2010−60697号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、この発明が解決しようとする課題は、無端状ベルト部材の内面に塗布された潤滑剤が外面に廻り込むのを回避することが可能な定着装置及びこれを用いた画像形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、請求項1に記載された発明は、未定着トナー像を保持した記録媒体が通過する圧接部において互いに圧接するように配置される加熱部材及び加圧部材の少なくとも一方を構成する無端状ベルト部材と、
前記無端状ベルト部材の内面に潤滑剤を塗布する潤滑剤塗付部と、前記潤滑剤塗付部の前記無端状ベルト部材の移動方向と交差する方向に沿った両端部に配置され且つ前記無端状ベルト部材の内面から潤滑剤を回収する潤滑剤回収部とに分割され、前記無端状ベルト部材の内面に潤滑剤を塗布する潤滑剤塗布部材を備えたことを特徴とする定着装置である。
【0008】
また、請求項2に記載された発明は、前記無端状ベルト部材は、複数のロールに予め定められた張力で掛け渡されており、前記無端状ベルト部材を前記ロールの軸方向に沿って移動させるように制御する蛇行制御手段を備えていることを特徴とする請求項1に記載の定着装置である。
【0009】
さらに、請求項3に記載された発明は、前記潤滑剤塗付部は、前記無端状ベルト部材の移動方向と交差する方向に沿った中央部に配置されており、前記潤滑剤回収部は、前記潤滑剤塗付部の前記無端状ベルト部材の移動方向と交差する方向に沿った両側に、それぞれ間隙を介して配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の定着装置である。
【0010】
又、請求項4に記載された発明は、前記潤滑剤供給部は、前記無端状ベルト部材の移動方向と交差する方向に沿った両端部が、前記蛇行制御手段によって前記無端状ベルト部材が前記ロールの軸方向に沿って移動する端部にそれぞれ対応して配置されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の定着装置である。
【0011】
更に、請求項5に記載された発明は、記録媒体上にトナー像を形成する画像形成手段と、
前記画像形成手段によって前記記録媒体上に形成されたトナー像を定着する定着手段とを備え、
前記定着手段として、前記請求項1乃至4のいずれかに記載の定着装置を用いたことを特徴とする画像形成装置である。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載された発明によれば、無端状ベルト部材の内面に塗布された潤滑剤が外面に廻り込むのを回避することが可能となる。
【0013】
また、請求項2に記載された発明によれば、無端状ベルト部材の端部が当該無端状ベルト部材を張り渡すロールの同じ位置に接触するのを回避することができる。
【0014】
さらに、請求項3に記載された発明によれば、無端状ベルト部材を掛け渡すロールの同じ位置が摩耗するのを抑制することができる。
【0015】
又、請求項4に記載された発明によれば、無端状ベルトに蛇行が発生した場合でも、潤滑剤が無端状ベルトの外側に廻るのを確実に回避することができる。
【0016】
更に、請求項5に記載された発明によれば、無端状ベルト部材の内面に塗布された潤滑剤が外面に廻り込むのを回避することができ、記録媒体に潤滑剤が付着して汚れが発生するのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】この発明の実施の形態1に係る定着装置の要部を示す模式図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係る定着装置を適用した画像形成装置を示す構成図である。
【図3】この発明の実施の形態1に係る定着装置を示す断面構成図である。
【図4】潤滑剤塗布部材を示す断面図である。
【図5】潤滑剤塗布部材を示す正面図である。
【図6】潤滑剤塗布部材を示す斜視図である。
【図7】従来の潤滑剤塗布部材を示す構成図である。
【図8】この発明の実施の形態2に係る定着装置の潤滑剤塗布部材を示す断面図である。
【図9】この発明の実施の形態2に係る定着装置の潤滑剤塗布部材を示す正面図である。
【図10】この発明の実施の形態2に係る定着装置の潤滑剤塗布部材を示す斜視図である。
【図11】この発明の実施の形態3に係る定着装置の潤滑剤塗布部材を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、この発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0019】
実施の形態1
図2はこの発明の実施の形態1に係る定着装置を適用した画像形成装置としてのタンデム方式のフルカラー画像形成装置を示すものである。なお、このタンデム方式のフルカラー画像形成装置は、画像読取装置を備えており、フルカラーの複写機としても機能するように構成されているが、画像読取装置を備えていなくとも勿論良い。また、このフルカラー画像形成装置は、単位時間あたりに画像形成可能な記録用紙の枚数である生産性が高く設定されており、例えば、A4サイズのLEF(Long Edge Feed)の記録用紙に毎分当たり120〜140枚(PPM)程度画像を形成することが可能となっている。ただし、本発明は、高速のタンデム方式の画像形成装置に限定されるものではないことは勿論であり、感光体ドラムを1つのみ備えた単色の画像形成装置であっても適用可能である。
【0020】
図2において、1は画像形成装置の本体を示すものであり、この画像形成装置本体1の上部の一端(図示例では、左端)には、原稿2の画像を読み取る画像読取装置4が配置されている。この画像読取装置4は、原稿押え部材3によって押圧された状態でプラテンガラス5上に置かれた原稿2を光源6によって照明し、原稿2からの反射光像をフルレートミラー7及びハーフレートミラー8、9及び結像レンズ10からなる縮小光学系を介してCCD等からなる画像読取素子11上に走査露光することにより、画像読取素子11によって原稿2の画像を予め定められたドット密度で読み取るように構成されている。
【0021】
上記画像読取装置4によって読み取られた原稿2の画像は、例えば、赤(R)、緑(G)、青(B)(例えば、各8bit)の3色の画像データとして画像処理装置等を備えた制御装置12に送られ、この制御装置12では、原稿2の画像データに対して、シェーディング補正、位置ズレ補正、明度/色空間変換、ガンマ補正、枠消し、色/移動編集等の予め定められた画像処理が施される。また、上記の如く制御装置12で予め定められた画像処理が施された画像データは、同じく制御装置12によってシアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、黒(K)の4色の画像データに変換される。なお、制御装置12によって変換される画像データの色数は、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、黒(K)の4色の画像データに限らず、後述するように、高彩度シアン(HC)や高彩度マゼンタ(HM)を含む6色等に変換しても良く、その色数は任意である。また、上記制御装置12に入力される画像データとしては、図示しない通信回線を介してパーソナルコンピュータ等から送られてくるものであっても勿論良い。
【0022】
ところで、この実施の形態では、互いに色の異なるトナーを用いて画像を形成する複数の画像形成手段を備えるように構成されている。
【0023】
すなわち、この実施の形態に係る画像形成装置本体1の内部には、図2に示すように、複数の画像形成手段として、シアン(C)、マゼンタ(M)、高彩度シアン(HC)、高彩度マゼンタ(HM)、イエロー(Y)、黒(K)の各色に対応した6つの画像形成部13C、13M、13HC、13HM、13Y、13Kが、水平方向に沿って一定の間隔をおいて並列的に配置されている。なお、高彩度シアン(HC)は、シアン色系の色相を有し、シアン(C)色よりも色調が明るく彩度が相対的に高いシアン色である。また、高彩度マゼンタ(HM)は、マゼンタ色系の色相を有し、マゼンタ(M)色よりも色調が明るく彩度が相対的に高いマゼンタ色である。
【0024】
また、上記シアン(C)、マゼンタ(M)、高彩度シアン(HC)、高彩度マゼンタ(HM)、イエロー(Y)、黒(K)色の各画像形成部13C、13M、13HC、13HM、13Y、13Kの配列順序は、図示のものに限定されるものではなく、異なる順序で配列しても良い。また、上記シアン(C)、マゼンタ(M)、高彩度シアン(HC)、高彩度マゼンタ(HM)、イエロー(Y)、黒(K)色の各画像形成部13C、13M、13HC、13HM、13Y、13Kは、一体的にユニット化されており、画像形成装置本体1に対して交換可能に装着されている。なお、上記高彩度シアン(HC)及び高彩度マゼンタ(HM)の画像形成部13HC、13HMで形成される画像データも、他の色の画像データと同じく制御装置12から出力される。
【0025】
これらの6つの画像形成部13C、13M、13HC、13HM、13Y、13Kは、図2に示すように、使用するトナーの種類を除いて、基本的にすべて同様に構成されており、大別して、矢印A方向に沿って予め定められた回転速度で駆動される像保持体としての感光体ドラム15と、この感光体ドラム15の表面を一様に帯電する一次帯電手段としてのスコロトロン16と、当該感光体ドラム15の表面に各色の画像データに対応した画像を露光して静電潜像を形成する潜像形成手段としての画像露光装置14と、感光体ドラム15上に形成された静電潜像を対応する色のトナーで現像する現像手段としての現像装置17と、感光体ドラム15の表面に残留した転写残トナーを清掃するクリーニング装置18とから構成されている。
【0026】
上記画像露光装置14は、図2に示すように、半導体レーザ19を画像データに応じて変調し、この半導体レーザ19からレーザ光LBを画像データに応じて出射する。この半導体レーザ19から出射されたレーザ光LBは、反射ミラー20、21を介して回転多面鏡22によって偏向走査され、図示しないf−θレンズで走査角度に応じて焦点距離が調整された状態で、複数枚の反射ミラー23、24等を介して像保持体としての感光体ドラム15上に走査露光される。なお、上記画像露光装置14としては、レーザ光LBを偏向走査させて画像露光を行う装置に限らず、例えば、LED発光素子を多数配列したLEDアイレを用いた装置を用いても良く、LEDアイレを用いた画像露光装置の場合には、レーザ光LBを偏向走査させて画像露光を行う画像露光装置と比較して、画像露光装置の大幅な小型化が可能となり、画像形成装置全体を小型化することができ望ましい。
【0027】
上記制御装置12からは、シアン(C)、マゼンタ(M)、高彩度シアン(HC)、高彩度マゼンタ(HM)、イエロー(Y)、黒(K)の各色の画像形成部13C、13M、13HC、13HM、13Y、13Kの画像露光装置14C、14M、14HC、14HM、14Y、14Kに各色の画像データが順次出力される。これらの画像露光装置14C、14M、14HC、14HM、14Y、14Kから画像データに応じて出射されるレーザ光LBは、対応する感光体ドラム15C、15M、15HC、15HM、15Y、15Kの表面に主走査方向(感光体ドラムの軸方向)に沿って走査露光されて静電潜像が形成される。上記各感光体ドラム15C、15M、15HC、15HM、15Y、15Kの表面に形成された静電潜像は、現像装置17C、17M、17HC、17HM、17Y、17Kによって、それぞれシアン(C)、マゼンタ(M)、高彩度シアン(HC)、高彩度マゼンタ(HM)、イエロー(Y)、黒(K)の各色のトナー像として現像される。
【0028】
上記各画像形成部13C、13M、13HC、13HM、13Y、13Kの感光体ドラム15C、15M、15HC、15HM、15Y、15K上に、順次形成されたシアン(C)、マゼンタ(M)、高彩度シアン(HC)、高彩度マゼンタ(HM)、イエロー(Y)、黒(K)の各色のトナー像は、図2に示すように、各画像形成部13C、13M、13HC、13HM、13Y、13Kの下方に配置された中間転写体としての中間転写ベルト25上に、一次転写ロール26C、26M、26HC、26HM、26Y、26Kによって互いに重ね合わせた状態で一次転写される。
【0029】
上記中間転写ベルト25は、駆動ロール27と、従動ロール28と、張力付与ロール29と、従動ロール30と、二次転写部の背面支持ロール31と、従動ロール32からなる複数のロール間に予め定められた張力で掛け渡されており、図示しない定速性に優れた専用の駆動モータによって回転駆動される駆動ロール27により、矢印B方向に沿って感光体ドラム15C、15M、15HC、15HM、15Y、15Kの回転速度(周速)と略等しい予め定められた速度で循環移動するように駆動される。上記中間転写ベルト25としては、例えば、可撓性を有するポリイミドやポリアミドイミド等の合成樹脂フィルムを無端ベルト状に形成したものが用いられる。
【0030】
上記中間転写ベルト25上に多重に転写されたシアン(C)、マゼンタ(M)、高彩度シアン(HC)、高彩度マゼンタ(HM)、イエロー(Y)、黒(K)の各色のトナー像は、背面支持ロール31に中間転写ベルト25を介して圧接する二次転写ロール33によって記録媒体としての記録用紙34上に一括して二次転写され、これらの各色のトナー像が転写された記録用紙34は、二連の搬送ベルト35、36によって本発明の実施の形態に係る定着手段としての定着装置37へと搬送される。そして、上記各色のトナー像が転写された記録用紙34は、定着装置37によって熱及び圧力で定着処理を受けた後、シート搬送装置40を介して冷却ユニット41へ搬送されて冷却され、カール矯正ユニット42によってカールが矯正された状態で、片面プリントの場合には、そのまま画像形成装置本体1の外部に設けられた排出トレイ43上に排出される。
【0031】
上記記録用紙34は、図2に示すように、例えば、複数の給紙トレイ44、45のうちの何れかから予め定められたサイズや材質のものが、給紙ロール46及び用紙搬送用のロール対47からなる用紙搬送経路48を介して1枚ずつ分離された状態で、レジストロール49まで一旦搬送される。上記給紙トレイ44、45のうちの何れかから供給された記録用紙34は、所定のタイミングで回転駆動されるレジストロール49によって中間転写ベルト25の二次転写位置50へと送り出される。
【0032】
また、上記画像形成装置によって記録用紙34の両面に画像を形成する場合には、定着装置37によって片面に画像が定着された記録用紙34を、そのまま機外に排出せずに、切り替えゲート51によって、記録用紙34の搬送経路を下方に切り替え、反転用の用紙搬送経路52を介して給紙ローラ54によって中間トレイ53に一旦収容される。そして、この中間トレイ53に収容された記録用紙34は、給紙ローラ54によってその搬送方向を反転した状態で、両面用の用紙搬送経路55及び通常の用紙搬送経路48を介して、表裏が反転された状態で、再度、中間転写ベルト25の二次転写位置50まで搬送され、裏面に画像が形成された後、定着装置37によって熱及び圧力で定着処理を受けて、シート搬送装置40を介して冷却ユニット41へ搬送されて冷却され、カール矯正ユニット42によってカールが矯正された状態で、画像形成装置本体1の外部に設けられた排出トレイ43上に排出される。
【0033】
なお、トナー像の一次転写が終了した後の感光体ドラム15は、その表面がクリーニング装置18によって清掃される。また、トナー像の二次転写が終了した後の中間転写ベルト25は、その表面が駆動ロール27の近傍に配置されたベルトクリーニング装置56によって清掃される。
【0034】
図2中、符合57は、ユーザが画像形成条件等を入力するユーザインターフェイスを示している。
【0035】
図3は上記の如く構成される画像形成装置に適用される定着装置を示す断面構成図である。
【0036】
この定着装置37は、図3に示すように、加熱部材としての無端状ベルト部材からなる加熱ベルト371と、加熱ベルト371に圧接する加圧部材としての加圧ロール372とを備えている。加熱ベルト371は、当該加熱ベルト371の内周に配置された押圧部材としての定着ロール373と、第1の張架ロール374と、内部加熱ロール375と、第2の張架ロール376との外周に掛け渡されている。また、加熱ベルト371は、第1の張架ロール374と内部加熱ロール375との間において、加熱ベルト371の外周面に接触する外部加熱ロール377を備えている。さらに、加熱ベルト371は、定着ロール373の外周に巻き付けられた領域において加圧ロール372と圧接されており、当該圧接部が未定着トナー像Tを保持した記録用紙34が通過する定着ニップ部378を構成している。また、上記定着ロール373の外周には、加熱ベルト371の移動方向に沿った下流側に剥離パッド379が配置されている。この剥離パッド379は、加熱ベルト371と加圧ロール372が圧接する定着ニップ部378によって定着された記録用紙34を、加熱ベルト371の曲率によって記録用紙34の“腰”(剛性)を利用して加熱ベルト371の表面から剥離するため、加熱ベルト371の移動方向を急激に変化させるように構成されている。
【0037】
なお、上記定着ニップ部378の出口には、記録用紙34の“腰”(剛性)を利用して加熱ベルト371から記録用紙34が剥離されなかった場合に、加熱ベルト371の表面から記録用紙34を強制的に剥離する剥離補助部材380が配置されている。
【0038】
上記加熱ベルト371は、例えば、ポリイミド樹脂やポリアミドイミド樹脂等からなる基層と、基層の表面に積層されたシリコンゴム等からなる弾性体層と、弾性体層の表面に積層されたPFA等からなる離型層とから構成されている。
【0039】
また、定着ロール373は、アルミニウムやステンレス等の金属製の円筒状部材からなり、図示しない駆動モータ等からなる駆動手段によって矢印方向に沿って予め定められた速度で回転駆動される。この定着ロール373の内部には、例えば、加熱源として3本のハロゲンランプ381が配置されており、当該定着ロール373の表面は、例えば、予め定められた温度(例えば、150℃程度)に加熱される。
【0040】
さらに、内部加熱ロール375は、同じくアルミニウムやステンレス等の金属製の円筒状部材からなる。この内部加熱ロール375の内部には、例えば、加熱源として4本のハロゲンランプ382が配置されており、当該内部加熱ロール375の表面は、例えば、予め定められた温度(例えば、190℃程度)に加熱される。また、内部加熱ロール375は、加熱ベルト371の内側から外側に向けて変位するように図示しないスプリング等の弾性部材によって力が付加されており、加熱ベルト371には、予め定められた張力(例えば、15kgf)が付与されている。
【0041】
また、内部加熱ロール375には、加熱ベルト371を張架するロールの軸方向に沿って加熱ベルト371を移動させる蛇行を制御する蛇行制御手段383が設けられている。蛇行制御手段383は、内部加熱ロール375の軸方向に沿った一方の端部を、当該内部加熱ロール375の軸方向と交差する方向に沿って移動させることにより、加熱ベルト371の軸方向に沿った両端部に作用する張力のバランスを制御することで、加熱ベルト371を内部加熱ロール375の軸方向に沿って予め定められた距離(例えば、±5mm程度)だけ予め定められたタイミングで往復移動させるように構成されている。
【0042】
一方、外部加熱ロール377は、同じくアルミニウムやステンレス等の金属製の円筒状部材からなる。この外部加熱ロール377の内部には、例えば、加熱源として3本のハロゲンランプ384が配置されており、当該外部加熱ロール377の表面は、例えば、予め定められた温度(例えば、190℃程度)に加熱される。
【0043】
このように、上記加熱ベルト371は、複数のロールの間に掛け渡されて循環して移動する間に、定着ロール373、外部加熱ロール377、内部加熱ロール375によって予め定められた表面温度となるように内部及び外部から加熱される。なお、加熱ベルト371を掛け渡す複数のロール373、374、375、377は、いずれも、その軸方向に沿った長さが加熱ベルト371の移動方向と交差する方向の長さ(幅)よりも長く設定されている。
【0044】
また、加圧ロール372は、アルミニウムやステンレス等の金属製の円筒状部材385と、当該円筒状部材385の表面に積層されたシリコンゴム等からなる弾性層386と、弾性層386の表面に積層されたPFA等からなる離型層387とから構成されている。
【0045】
ところで、この実施の形態に係る定着装置37では、加熱ベルト371の摩耗等を抑制するため、加熱ベルト371の内面に潤滑剤を塗布する潤滑剤塗布手段390を備えている。この潤滑剤塗布手段390は、図3に示すように、第1の張架ロール374と外部加熱ロール377との間において、加熱ベルト371の内周面に接触するように配置されている。なお、潤滑剤塗布手段390の配置としては、第1の張架ロール374と外部加熱ロール377との間に限られる訳ではなく、加熱ベルト371の内周面に接触する位置であれば任意で良く、例えば、第2の張架ロール376と定着ロール373との間などに配置しても良く、第1の張架ロール374と外部加熱ロール377との間、及び第2の張架ロール376と定着ロール373との間の双方に配置しても良い。
【0046】
潤滑剤塗布手段390は、図4乃至図6に示すように、トミーファイレックス(商品名:新巴川製紙株式会社)シートあるいはウイック等の不織布などからなる潤滑剤を含浸させた潤滑剤塗布部材391と、潤滑剤塗布部材391の表裏両面を挟んだ状態で保持する金属板等からなる一対の保持部材392、393とから構成されている。保持部材392、393は、トミーファイレックスシート等からなる潤滑剤塗布部材391を折り返した状態で、当該含浸部材391の表裏両面を挟んだ状態で保持するとともに、バーリング加工等によるカシメ394によって長手方向に沿って複数箇所が互いに連結固定されている。
【0047】
上記潤滑剤としては、例えば、予め定められた粘度に調合されたシリコーンオイル等が用いられ、予め定められた量(2〜5g程度)だけ含浸部材391に含浸される。
【0048】
また、上記保持部材392、393は、その先端部392a、393aが加熱ベルト371側に向けて折り曲げられており、潤滑剤塗布部材391は、保持部材392、393の先端部392a、393aから予め定められた長さだけ突出するように配置されている。潤滑剤塗布部材391の先端は、加熱ベルト371の内面に対して予め定められた量だけ食い込むように、加熱ベルト371に対する保持部材392、393の取付位置が調整されている。図4は、便宜上、潤滑剤塗布部材391の先端が加熱ベルト371に対して食い込んだ状態を図示している。
【0049】
さらに、上記潤滑剤塗布部材391は、図1に示すように、その全長L1が加熱ベルト371の移動方向と交差する方向に沿った長さL2よりも長く設定されており、潤滑剤塗布部材391の両端391a、391bは、加熱ベルト371が蛇行によって移動する範囲L3よりも内側に位置するように配置されている。
【0050】
従来の定着装置37では、図7に示すように、潤滑剤塗布部材391の全長L1’が加熱ベルト371の移動方向と交差する方向に沿った長さL2と略等しい長さに設定されていた。そのため、加熱ベルト371が蛇行した場合には、加熱ベルト371の内面に塗布された潤滑剤が、加熱ベルト371を張り渡すロールの表面において、加熱ベルト371の移動方向と交差する方向に沿った長さ以外の領域に塗布されてしまい、当該加熱ベルト371の移動方向と交差する方向に沿った長さ以外の領域に塗布された潤滑剤が、加熱ベルト371の蛇行に伴って加熱ベルト371の端部によって掻き寄せられて溜まることになる。そして、この加熱ベルト371を張り渡すロールの表面において、加熱ベルト371の端部に掻き寄せられて滞留する潤滑剤の量がある程度の量に達すると、加熱ベルト371の外面に廻り込み、加熱ベルト371によって加熱され定着される記録用紙34に付着して“オイル染み”等の画質欠陥が発生する虞れがあった。
【0051】
そこで、この実施の形態に係る潤滑剤塗布部材391は、図1に示すように、加熱ベルト371の移動方向と交差する方向に沿って、その中央部に位置して潤滑剤が含浸された潤滑剤塗布部としての潤滑剤供給部395と、その両側に位置して潤滑剤が含浸されていない左右の潤滑剤回収部396、397とに複数(図示例では、3つ)に分割されており、潤滑剤供給部395と潤滑剤回収部396、397との間には、予め定められた長さの間隙398が形成されている。潤滑剤供給部395は、例えば、加熱ベルト371の移動方向と交差する方向に沿った両端部395a、395bが、蛇行制御手段383によって加熱ベルト371がロールの軸方向に沿って移動する端部にそれぞれ対応して配置されている。
【0052】
また、左右の潤滑剤回収部396、397の中央側の端部396a、397aは、保持部材392、393に保持された端部から先端部に向けて潤滑剤供給部395から離れるように斜めに切断されており、加熱ベルト371に蛇行が生じた場合においても、加熱ベルト371の端部371a、371bが左右の潤滑剤回収部396、397の中央側の端部396a、397aに引っ掛かるのを防止するように構成されている。
【0053】
以上の構成において、この実施の形態に係る定着装置を適用した画像形成装置では、次のようにして、定着直後のシートを吸引して搬送する際に、シート搬送方向の上流側に位置する案内部材とシートが擦れることによって生じるシート裏面の画像欠陥を抑制することが可能となっている。
【0054】
すなわち、この実施の形態に係る定着装置37を適用した画像形成装置では、図2に示すように、シアン(C)、マゼンタ(M)、高彩度シアン(HC)、高彩度マゼンタ(HM)、イエロー(Y)、黒(K)の各画像形成部13C、13M、13HC、13HM、13Y、13Kにおいて対応する色のトナー像が形成され、これらの各画像形成部13C、13M、13HC、13HM、13Y、13Kの感光体ドラム15上に形成された各色のトナー像は、中間転写ベルト25上に多重に一次転写された後、二次転写位置50において中間転写ベルト25上から記録用紙34上に一括して二次転写される。
【0055】
上記シアン(C)、マゼンタ(M)、高彩度シアン(HC)、高彩度マゼンタ(HM)、イエロー(Y)、黒(K)の一部又はすべての色のトナー像が一括して二次転写された記録用紙34は、図3に示すように、定着装置37によって加熱・加圧されて、未定着トナー像Tが定着された後、シート搬送装置40によって冷却ユニット41へと搬送され冷却され、カール矯正ユニット42によってカールが矯正された状態で、画像形成装置本体1の外部に設けられた排出トレイ43上に排出される。
【0056】
その際、上記定着装置37では、図3に示すように、加熱ベルト371の摩耗等を抑制するため、加熱ベルト371の内面に潤滑剤を塗布する潤滑剤塗布手段390が設けられている。この潤滑剤塗布手段390は、図1に示すように、加熱ベルト371の内面に潤滑剤を塗布する潤滑剤塗布部材391を備えているが、この潤滑剤塗布部材391は、潤滑剤を含浸させた潤滑剤供給部395と、当該潤滑剤供給部395の加熱ベルト371の移動方向と交差する方向の両端部に間隙398を介してそれぞれ配置された潤滑剤回収部396、397とに分割して構成されている。
【0057】
そのため、上記潤滑剤供給部395によって加熱ベルト371の内面に塗布された潤滑剤は、加熱ベルト371が蛇行制御手段383によって加熱ベルト371の移動方向と交差する方向に移動するように蛇行した場合でも、潤滑剤供給部395の加熱ベルト371の移動方向と交差する方向の両端部にそれぞれ配置された潤滑剤回収部396、397によって回収され、加熱ベルト371の外面に廻り込むことが回避される。
【0058】
したがって、上記定着装置37では、加熱ベルト371の内面に塗布された潤滑剤が、加熱ベルト371の外面に廻り込むことが回避され、加熱ベルト371によって加熱され定着される記録用紙34に潤滑剤が付着する所謂“オイル染み”等の画質欠陥が発生するのを抑制することが可能となる。
【0059】
実施の形態2
図8乃至図10はこの発明の実施の形態2を示すものであり、前記実施の形態1と同一の部分には同一の符号を付して説明すると、この実施の形態2では、潤滑剤塗布部材に供給する潤滑剤を収容する潤滑剤収容部材を備えるように構成されている。
【0060】
すなわち、この実施の形態2では、図8乃至図10に示すように、潤滑剤塗布部材391に供給する潤滑剤を収容する潤滑剤収容部材400を備えている。この潤滑剤収容部材400は、トミーファイレックス(商品名:新巴川製紙株式会社)シートなどからなる潤滑剤塗布部材391の後端部401を、保持部材392、393の後端から湾曲した形状に突出させるとともに、この湾曲した形状に突出した後端部401に潤滑剤を含浸させたトミーファイレックス(商品名:新巴川製紙株式会社)シートやウイック等の含浸部材402を収容することによって構成されている。
【0061】
上記潤滑剤収容部材400は、図9及び図10に示すように、潤滑剤供給部395の全長にわたって設ける必要はなく、潤滑剤供給部395の長手方向に沿った中央部に予め定められた長さにわたって設ければ良い。
【0062】
この実施の形態2では、潤滑剤塗布部材391が潤滑剤収容部材400を備えているので、加熱ベルト371の内周面に長期間にわたって安定して潤滑剤を供給して塗布することができ、加熱ベルト371の内周面の摩耗を防止することができ、定着性を良好に維持することができる。
【0063】
その他の構成及び作用は、前記実施の形態1と同様であるので、その説明を省略する。
【0064】
実施の形態3
図11はこの発明の実施の形態3を示すものであり、前記実施の形態1と同一の部分には同一の符号を付して説明すると、この実施の形態3では、加熱ベルトの内周面を清掃する清掃部材を潤滑剤塗布手段に一体的に設けるように構成されている。
【0065】
すなわち、この実施の形態3では、図11に示すように、潤滑剤塗布手段390の保持部材392、393のうち、一方の保持部材392の後端392bを加熱ベルト371の移動方向に沿った上流側において当該加熱ベルト317と略平行になるように折り返し、この加熱ベルト371と略平行になるように折り返した後端部392cに、加熱ベルト371の内周面を清掃するウイック等の不織布からなる清掃部材410が一体的に取り付けられている。
【0066】
このように構成した場合には、図11に示すように、加熱ベルト317が摩耗した摩耗粉が潤滑剤塗布手段390の潤滑剤供給部395や潤滑剤回収部396の表面に付着して目詰まりが発生するのを抑制することができ、潤滑剤供給部395によって潤滑剤を安定して供給して、加熱ベルト317を走行させることが可能となる。
【0067】
その他の構成及び作用は、前記実施の形態1と同様であるので、その説明を省略する。
【符号の説明】
【0068】
37:定着装置、371:加熱ベルト、391:潤滑剤塗布部材、395:潤滑剤供給部、396、397:潤滑剤回収部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
未定着トナー像を保持した記録媒体が通過する圧接部において互いに圧接するように配置される加熱部材及び加圧部材の少なくとも一方を構成する無端状ベルト部材と、
前記無端状ベルト部材の内面に潤滑剤を塗布する潤滑剤塗布部と、前記潤滑剤塗布部の前記無端状ベルト部材の移動方向と交差する方向に沿った両端部に配置され且つ前記無端状ベルト部材の内面から潤滑剤を回収する潤滑剤回収部とに分割され、前記無端状ベルト部材の内面に潤滑剤を塗布する潤滑剤塗布部材を備えたことを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記無端状ベルト部材は、複数のロールに予め定められた張力で掛け渡されており、前記無端状ベルト部材を前記ロールの軸方向に沿って移動させるように制御する蛇行制御手段を備えていることを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
前記潤滑剤塗布部は、前記無端状ベルト部材の移動方向と交差する方向に沿った中央部に配置されており、前記潤滑剤回収部は、前記潤滑剤塗布部の前記無端状ベルト部材の移動方向と交差する方向に沿った両側に、それぞれ間隙を介して配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の定着装置。
【請求項4】
前記潤滑剤塗布部は、前記無端状ベルト部材の移動方向と交差する方向に沿った両端部が、前記蛇行制御手段によって前記無端状ベルト部材が前記ロールの軸方向に沿って移動する端部にそれぞれ対応して配置されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の定着装置。
【請求項5】
記録媒体上にトナー像を形成する画像形成手段と、
前記画像形成手段によって前記記録媒体上に形成されたトナー像を定着する定着手段とを備え、
前記定着手段として、前記請求項1乃至4のいずれかに記載の定着装置を用いたことを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−83677(P2013−83677A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−221516(P2011−221516)
【出願日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】