説明

定着装置

【課題】 IH方式の定着装置において、加熱ローラの温度制御が容易で、また加熱ローラの直径を大きくすることなく、加熱ローラの外周に剥離爪や清掃部材の配置場所を確保できるようにする。
【解決手段】 導電部材からなる2本の加熱ローラ11a,11bを加圧ローラ12に圧接させ、加熱ローラ11a,11bの間にIHコイル13を配置する。そして、IHコイル13に高周波電流を流すことによって加熱ローラ11a,11bを加熱する。ここでニップ幅を大きくして定着性を向上させる観点から、加熱ローラ11a,11bの間に定着ベルト14を掛架し、この定着ベルト14を介して加熱ローラ11a,11bを加圧ローラ12に圧接させてもよい。また加熱ローラ11a,11bの材料としては、キューリ温度が200℃以下の整磁合金を用いるのが望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は定着装置に関し、より詳細には電磁誘導加熱(IH;Induction Heating)を用いた定着装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式の画像形成装置では定着装置として熱定着ローラ方式のものがこれまで広く使用されてきた。この熱定着ローラ方式の定着装置は、ハロゲンヒータを内蔵させた加熱ローラに加圧ローラを圧接させ、両ローラのニップ部分に、トナー画像が載った転写紙を通すことによって、トナー画像を転写紙上に溶融定着させるものである。
【0003】
このような熱定着ローラ方式の定着装置は、画像形成装置全体の約70%もの電力を消費していた。このため、近年の環境問題の意識の高まりを受けて、定着装置の省エネルギー化が市場から強く要請さている。この定着装置の省エネルギー化を図るためには、電源を入れてから定着可能温度になるまでの時間、いわゆるウォーミングアップ時間の短縮、及び待機時の低温度設定が効果的である。
【0004】
そこで、電磁誘導加熱を用いた定着方式がこれまでから種々提案され、一部実用化されている。電磁誘導加熱方式の定着装置は、加熱ローラの内側又は外側に配置したIHコイルに高周波電流を流すことによって、IHコイル周辺に高周波磁界を発生させ、この磁界によって加熱ローラに渦電流を発生させ、これによるジュール熱で加熱ローラを発熱させるものである。例えば特許文献1では、2本の加熱ローラを加圧ローラに圧接させるとともに、2本の加熱ローラの各々の外周にIHコイルを対向配置した定着装置が提案されている。
【特許文献1】特開2003−76170号公報(特許請求の範囲、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、提案された技術では、2本の加熱ローラのおのおのにIHコイルを設けるので定着温度の制御が複雑となる。また、定着後の転写紙を加熱ローラから剥がすための剥離爪や、加熱ローラの表面を清掃するための清掃部材を、加熱ローラの周辺に配置する場所を確保することが困難となる。一方、IHコイルを加熱ローラの内側に配置すると、加熱ローラの外周に剥離爪や清掃部材の配置場所を確保しやすくはなるものの、加熱ローラの直径が大きくなり定着装置が大型化する。また加熱ローラの熱容量が増大し、ウォーミングアップ時間が長くなるという問題がある。
【0006】
本発明はこのような従来の問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、加熱ローラの温度制御が容易で、また加熱ローラの直径を大きくすることなく、加熱ローラの外周に剥離爪や清掃部材の配置場所を確保できるIH方式の定着装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、加圧ローラと、この加圧ローラに圧接する導電部材からなる2本の加熱ローラと、2本の加熱ローラ間に配置された加熱用励磁コイルとを備え、加熱用励磁コイルに高周波電流を流すことにより前記2本の加熱ローラを加熱することを特徴とする定着装置が提供される。
【0008】
ここでニップ幅を大きくして定着性を向上させる観点から、2本の加熱ローラ間にベルトを掛架し、このベルトを介して前記2本の加熱ローラを加圧ローラに圧接させるのが好ましい。
【0009】
また加熱ローラの過熱を防止する観点から、加熱ローラの材料として、キューリ温度が200℃以下の整磁合金を用いるのが望ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の定着装置では、IHコイルに高周波電流を流して加熱ローラを直接加熱するので、加熱ローラの温度制御が容易となる。また、2本の加熱ローラ間に1つのIHコイルを配置して、2本の加熱ローラを同時に加熱するようにしたので、加熱ローラの外周に剥離爪や清掃部材の配置場所を確保できるようになる。
【0011】
また、2本の加熱ローラ間にベルトを掛架し、このベルトを介して2本の加熱ローラを加圧ローラに圧接させると、ニップ幅を大きくでき定着性を向上させることができる。さらに、加熱ローラの材料としてキューリ温度が200℃以下の整磁合金を用いると、加熱ローラの表面温度がキューリ温度以上にはならないため、加熱ローラの過熱が効果的に防止される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の定着装置について図に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施形態に何ら限定されるものではない。
【0013】
図1は、本発明に係る定着装置が適用される複写機の一実施形態を示す概説図である。図1の複写機の画像形成機構についてまず説明すると、感光体ドラム70は帯電装置71によってその表面が正又は負に一様に帯電される。他方、原稿載置台90に原稿(不図示)が載置され、その画像データが読取装置91によって読みとられる。読み取られた画像データはレーザスキャナ(露光装置)72によって感光体ドラム70の表面に書き込まれ、感光体ドラム70の表面に静電潜像が形成される。具体的には反転現像方式の場合には画像に相当する部分の帯電が除去され、正規現像方式の場合は背景に相当する部分の帯電が除去されて、それぞれ静電潜像が形成される。次に現像装置73によって感光体ドラム70上の静電潜像をトナーで可視像化する。このときトナーの帯電極性は、反転現像方式の場合には感光体ドラム70の帯電極性と同極性であり、正規現像の場合は感光体ドラム70の帯電極性と逆極性である。
【0014】
一方、給紙カセット81に収納されている用紙Pは、ピックアップローラ82により引き出され、給紙ローラ83とさばきローラ84とで挟持されて搬送路へ送られる。そしてレジストローラ対80によって、感光体ドラム70上のトナー画像が転写部に到達するのにタイミングを合わせて、用紙Pは転写部へ送り出される。転写部では、感光体ドラム70と転写ローラ74との間で用紙Pが挟持されている状態で、トナー帯電極性と逆極性の電荷が転写ローラ74に印加されることにより、感光体ドラム70上のトナー像が用紙P上に移動する。一方、用紙P上に移動せず感光体ドラム70上に残留したトナーはクリーニング装置75によって除去回収される。そして、トナー像を載置した用紙Pは定着装置1へ搬送される。後述するように、ここでトナー像は定着装置1によって加熱・加圧されて用紙Pに定着する。そして用紙Pは排出ローラ対86に送られ、トレイ87へ排出される。
【0015】
図2及び図3に示すように、本発明の定着装置1は、金属製の軸部材の周りに弾性層を形成した加圧ローラ12に2つの加熱ローラ11a,11bが圧接し、加熱ローラ11aと加熱ローラ11bとの間にはIHコイル13が配置されている。図3から理解されるように、IHコイル13は、板状のフェライトコア131の両面に略コ字状のボビン132a,132bが取り付けられ、ボビン132a,132bの凹部にコイル133が巻回されてなる。コイル133は1本の銅線からなり、フェライトコア131の軸方向の両側面を回り込むように巻回されている。図の実施形態ではコイル133は、ボビン132a,132bの凹部に2重に巻回されているが、実際にはさらに多重に巻回される。これにより、発生する磁界を強くすることができる。センサSによって加熱ローラ11aの表面温度が測定され、加熱ローラ11aの表面温度が所定温度となるように、コイル133に高周波インバータ電源15から高周波電流が流される。
【0016】
このような構成の定着装置では、IHコイル13に高周波電流が流れることによって、IHコイル13の周辺に高周波磁界が発生する。この磁界によって加熱ローラ11a,11bに渦電流が流れ、ジュール熱によって加熱ローラ11a,11bが加熱される。また、加熱ローラ11a,11bが磁性体からなる場合には、高周波磁界によるヒステリシス損失が発生し、これも加熱に寄与する。したがって、従来のハロゲンヒータを用いた定着装置に比べて、ウォーミングアップ時間が格段に短くなる。加熱ローラ11a,11bのそれぞれにIHコイルと配置した従来の定着装置に比べて、同じ定着条件で消費電力を10%程度削減することができる。
【0017】
本発明で使用する加熱ローラ11a,11bとしては、導電性のものであれば特に限定はないが、強磁性体である鉄、ニッケルなどが誘電加熱効率の点から好適である。また例えばSUS430などのステンレス鋼も使用できる。さらには、弱磁性体や非磁性体を用いても構わない。そしてまた、加熱ローラ11a,11bの材料として、温度が高くなると磁性を失う特性を有する整磁合金であって、キュリー温度(磁性がなくなる温度)が定着温度近傍のものを用いることが推奨される。加熱ローラ11a,11bの材料として整磁合金を用いた場合、加熱ローラ11a,11bの温度が定着温度(キューリ温度)を超えると、磁性がなくなり加熱されなくなるので、加熱ローラ温度が異常に高くなることが確実に防止される。このことは、軸方向幅の狭い用紙を連続して定着処理するときに、用紙が通過する加熱ローラ11a,11bの中央部分の表面温度が下がり、これを防ごうと加熱ローラ11a,11bをさらに加熱するために、用紙が通過しない加熱ローラ11a,11bの両側部の表面温度が異常に上昇するという不具合を、加熱ローラ11の材質面から解決できるようになる。整磁合金としては例えばFe−Ni合金が挙げられ、Ni含有量によってキューリ温度が調整される。
【0018】
図4に、本発明に係る定着装置の他の実施形態を示す。図4の定着装置が、図3の定着装置と異なっている点は、定着ローラ11a,11bとの間に定着ベルト14が掛架されている点である。この定着装置では、IHコイル13に高周波電流が流されることによって加熱ローラ11a,11bが加熱され、そして加熱ローラ11a,11bによって定着ベルト14が加熱される。この構造の定着装置では定着ベルト14が掛架されていることによって、加圧ローラ12とのニップ幅を広くでき、用紙P上のトナー定着をより確実に安定して行えるようになる。
【0019】
定着ベルト14としては、例えばポリイミドからなるベルト基体の表面にPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)を被覆したもの等が挙げられる。ここで、導電性粒子をベルト基体に含有させる、あるいは導電性部材でベルト基体を表面被覆すると、IHコイルによって定着ベルト自体も加熱されるようになり、ウォーミングアップ時間の一層の短縮化が図れるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る定着装置を用いた画像形成装置の概説図である。
【図2】本発明に係る定着装置の一実施形態を示す概説図である。
【図3】図2の定着装置の部分拡大図である。
【図4】本発明に係る定着装置の他の実施形態を示す概説図である。
【符号の説明】
【0021】
1 定着装置
S センサ
11a,11b 加熱ローラ
12 加圧ローラ
13 IHコイル(加熱用励磁コイル)
14 定着ベルト
15 高周波インバータ電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加圧ローラと、この加圧ローラに圧接する、導電部材からなる2本の加熱ローラと、2本の加熱ローラ間に配置された加熱用励磁コイルとを備え、
加熱用励磁コイルに高周波電流を流すことにより前記2本の加熱ローラを加熱することを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記2本の加熱ローラ間にベルトが掛架され、このベルトを介して前記2本の加熱ローラが加圧ローラに圧接した請求項1記載の定着装置。
【請求項3】
前記加熱ローラとして、キューリ温度が200℃以下の整磁合金を用いた請求項1又は2記載の定着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−10812(P2007−10812A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−189184(P2005−189184)
【出願日】平成17年6月29日(2005.6.29)
【出願人】(000006150)京セラミタ株式会社 (13,173)
【Fターム(参考)】