説明

室内ガス置換方法および室内ガス置換設備

【課題】室内における酸欠を防止する室内ガス置換方法および室内ガス置換設備を提供する。
【解決手段】本発明の室内ガス置換方法は、窒素ガスを利用するガス充填包装機1と、原料空気から窒素を主成分とする窒素ガスを抽出して、ガス充填包装機1に供給するとともに酸素を含む排ガスを排出する窒素ガス供給装置3とを準備し、ガス充填包装機1が設置されて当該ガス充填包装機1から窒素ガスが放出される窒素充填室5内に窒素ガス供給装置3の排ガスを導入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、室内における酸素欠乏を防止する室内ガス置換方法および室内ガス置換設備に関するものである。
【背景技術】
【0002】
食品や薬品等の製品の品質を保持するため、酸素を除去した包装が用いられている。酸素の除去は、窒素ガス等によるガス置換または真空包装により行なわれているが、ガス置換の場合は、包装機から室内に漏れる窒素ガス等により室内の酸素濃度が低下して作業環境が酸素欠乏(以下、「酸欠」という)雰囲気になる危険性がある。空気中の酸素濃度は概ね20.9%であり、これが18%を下回ると酸欠雰囲気となる。
【0003】
特に、HACCP(Hazard Analysis Critical Control Point System:危害分析・重要管理点方式)対応の食品工場では、製造場所への虫,埃等の浸入を防ぐため、気密性の高い室内での作業となる傾向がある。また、薬品工場等のクリーンルームの場合、室内の空気は循環使用される。このような現状から作業環境における空気中の酸素濃度が低下すると、作業者はまともに影響を受けることとなり、酸欠となる危険性が高い。
【0004】
そこで、酸欠状態の発生を防止するようにした酸欠防止装置が提案されている(例えば、下記の特許文献1参照。)。この特許文献1に示す装置は、酸素センサからの検出データにより大気導入し、迅速に酸欠状態の解消を図ることができるようになっている。
【0005】
また、換気を行なうことにより酸欠を防止する地下放水路換気方法が提案されている(例えば、下記の特許文献2参照。)。この特許文献2に示す方法は、換気の状態を検出し効率良く換気するための換気ファン等の運転制御を行なうようになっている。
【0006】
また、ハウス内の過度の炭酸ガス量及び酸素欠乏を解消するための炭酸ガス濃度調整装置が提案されている(例えば、下記の特許文献3参照。)。この特許文献3に示す装置は、所定時間毎あるいはハウス内の炭酸ガス濃度により開閉式ダンパーを開閉してハウス内の炭酸ガス濃度を調整し酸素欠乏を解消するようになっている。
【特許文献1】実開平6−74155号公報
【特許文献2】特開平10−61398号公報
【特許文献3】特開2000−139239号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1,2,3に示すような装置や方法は、作業環境の酸素濃度を監視して換気設備の運転を制御し、作業環境の酸素濃度を監視するようになっている。このような装置や方法では、酸素濃度が低くなると換気設備を運転し、酸素濃度が高くなると換気設備の運転を停止するため、室内では作業環境の酸素濃度が不安定となり、作業者はまともに影響を受けることになる。また、低下した酸素濃度から通常の酸素濃度に戻すには多量の換気量や多くの時間が必要であり、その間に作業者が酸欠となる恐れもある。また、換気のためにわざわざ換気用の設備を設置しなければならず、その設備コスト,設置場所,メンテナンスの手間等がかかるという問題がある。さらに、気密性の高い室内やクリーンルーム等の室内では、気密性の保持やスペースの問題から上記のような装置や方法を用いることができないのが実情である。
【0008】
本発明は、上記のような事情に鑑みなされたもので、室内における酸欠を防止する室内ガス置換方法および室内ガス置換設備の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の室内ガス置換方法は、窒素ガスを利用する窒素ガス利用設備と、原料空気から窒素を主成分とする窒素ガスを抽出して、上記窒素ガス利用設備に供給するとともに酸素を含む排ガスを排出する窒素ガス供給装置とを準備し、上記窒素ガス利用設備が設置されて当該窒素ガス利用設備から窒素ガスが放出される室内に上記窒素ガス供給装置の排ガスを導入することを要旨とする。
【0010】
また、上記目的を達成するため、本発明の室内ガス置換設備は、窒素ガスを利用する窒素ガス利用設備と、原料空気から窒素を主成分とする窒素ガスを抽出して、上記窒素ガス利用設備に供給するとともに酸素を含む排ガスを排出する窒素ガス供給装置と、上記窒素ガス利用設備が設置されて当該窒素ガス利用設備から窒素ガスが放出される室内に上記窒素ガス供給装置の排ガスを導入する排ガス導入手段とを備えたことを要旨とする。
【発明の効果】
【0011】
すなわち、本発明によれば、上記窒素ガス利用設備が設置されて当該窒素ガス利用設備から窒素ガスが放出される室内に上記窒素ガス供給装置の排ガスを導入する。
【0012】
したがって、窒素ガス利用設備から室内に窒素ガスが放出されたとしても、窒素ガス供給装置から排出される酸素リッチな排ガスを室内に供給することにより、室内の酸素濃度の低下を防止し、室内が酸欠雰囲気になるのを防止することができる。また、換気ではなく、室内に直接酸素リッチな排ガスを導入することから、多くの時間をかけることなく、室内の酸素濃度をすばやく正常な濃度に回復させることができる。また、上記窒素ガス利用設備に窒素を供給するための窒素ガス供給装置から排出される排ガスを有効的に活用することができるため、従来不可欠であった換気設備が不要になり、酸欠雰囲気を防止するための設備コスト,設置場所,メンテナンスの手間等をかけることがなく、容易に酸欠雰囲気を防止することができ、室内のスペースが限られているときにも好適である。さらに、換気で外気を導入する必要がないため、室内が、例えば埃等の粉塵(ダスト)や雑菌の浸入を防ぐために気密性を高めたクリーンルーム等の室内であっても、その気密性を保持することができ、特に好適に用いることができる。
【0013】
本発明において、上記排ガス導入手段は、上記排ガスのうち一定割合を室内に導入する場合には、室内の酸素濃度を自動的に安定させることができ、室内の作業者に対して良好な作業環境を提供することができる。
【0014】
本発明において、上記室内に導入される排ガスの流量を制御する流量制御手段を備えた場合には、室内の酸素濃度を任意の濃度に設定することができる。例えば、上記窒素ガス利用設備から放出される窒素ガスの濃度が高いときには、排ガスの流量を多くし、放出される窒素ガスの濃度が低いときには、排ガスの流量を少なくすることができる。
【0015】
本発明において、上記流量制御手段は、上記窒素ガス利用設備の動作状態に応じて上記室内に導入される排ガスの流量を制御する場合には、上記窒素ガス利用設備の動作状態に応じて室内に導入する酸素リッチな排ガスの導入量を調整できて室内の酸素濃度が変動することを防止することができ、室内の酸素濃度を安定させることができる。例えば、上記窒素ガス利用設備の動作により上記窒素ガス利用設備から放出される窒素ガスの量が多いときには上記室内に導入される排ガスの流量を多くし、上記窒素ガス利用設備の動作が停止し上記窒素ガス利用設備から放出される窒素ガスの量が少ないときには上記室内に導入される排ガスの流量を少なくすることができる。
【0016】
本発明において、上記室内の酸素濃度または窒素濃度を計測する濃度計測手段を備え、上記流量制御手段は、上記濃度計測手段の計測結果に応じて上記室内に導入される排ガスの流量を制御する場合には、室内の酸素濃度や窒素濃度を直接計測して酸素リッチな排ガスの導入量を調整するため、室内の酸素濃度を安定させることができる。例えば、上記室内の酸素濃度が低いときには上記室内に導入される排ガスの流量を多くし、上記室内の酸素濃度が高いときには上記室内に導入される排ガスの流量を少なくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
つぎに、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【実施例1】
【0018】
図1は、本発明の室内ガス置換設備の一実施の形態を示す図である。
【0019】
図1に示すように、室内ガス置換設備は、窒素ガスを利用する窒素ガス利用設備であるガス充填包装機1と、原料空気から窒素を主成分とする窒素ガスを抽出して、上記ガス充填包装機1に供給するとともに酸素を含む排ガスを排出する窒素ガス供給装置3と、上記ガス充填包装機1が設置されて当該窒素ガス利用設備から窒素ガスが放出される室(窒素充填室5)内に上記窒素ガス供給装置3の排ガスを導入する排ガス導入手段である排ガス導入管7とを備えている。
【0020】
上記排ガス導入管7は、一端が上記窒素ガス供給装置3の排出口に接続され、他端が窒素充填室5内に接続されることにより、上記窒素ガス供給装置3から排出される排ガスを窒素充填室5内に導入するようになっている。また、上記排ガス導入管7は、上記窒素ガス供給装置3から排出される排ガスのうち所定量を窒素充填室5の外に排出するよう分岐している。
【0021】
このように、排ガス導入管7は、上記のように分岐し、上記窒素ガス供給装置3から排出される排ガスのうち一定割合を窒素充填室5内に常時導入するようになっている。このようにすることにより、適量の排ガスを窒素充填室5内に導入することができる。
【0022】
上記排ガス導入管7には、当該排ガス導入管7を開閉し窒素充填室5内への排ガスの導入を開閉制御する排ガス用第1開閉弁7aが設けられ、上記排ガス導入管7から分岐した排ガス分岐管9には、当該排ガス分岐管9を開閉し窒素充填室5外への排ガスの排出を開閉制御する排ガス用第2開閉弁9aが設けられている。
【0023】
ここで、図2を参照して、上記窒素ガス供給装置3について説明する。
【0024】
上記窒素ガス供給装置3は、PSA(Pressure Swing Adsorption)方式を用いて、所定量の原料空気から所定の窒素収率で窒素ガスを抽出し、ガス充填包装機1に所定量の窒素ガスを供給するようになっている。上記窒素ガス供給装置3は、連続的に窒素ガスを供給するために所定容量(PSA容量)の第1吸着塔11と第2吸着塔13の2つの吸着塔を有し、これらの吸着塔を切り替えて運転するようになっている。
【0025】
上記窒素ガス供給装置3の第1吸着塔11内と第2吸着塔13内には、主として酸素を吸着する吸着剤が封入されている。上記吸着剤は、吸着塔内の圧力を高くすると酸素を吸着し、圧力を下げると吸着した酸素を放出するようになっている。
【0026】
図2(A)は、上記第1吸着塔11から所定量の窒素ガスを供給し、第2吸着塔13から所定量の排ガスを排出している窒素ガス供給装置3を示し、図2(B)は、上記第2吸着塔13から所定量の窒素ガスを供給し、第1吸着塔11から所定量の排ガスを排出している窒素ガス供給装置3を示している。
【0027】
図2(A)に示す窒素ガス供給装置3は、高圧の第1吸着塔11に所定量の原料空気を導入し、第1吸着塔11で原料空気から酸素を吸着することで窒素ガスを抽出し、その窒素ガス(N)を供給口からガス充填包装機1に供給している。この間、上記抽出された窒素ガスのうちの所定量を低圧の第2吸着塔13に導入し、第2吸着塔13から所定量の酸素(O)を含む排ガスを排出口から排出している(逆流パージ)。なお、図示のように、窒素ガス供給装置3には、原料空気,窒素ガス,排ガスが流通する流通路、これらの流通路を制御する複数の開閉弁はそれぞれ必要に応じて流通方向を切り替えるよう流通路を開閉するようになっている。
【0028】
図2(B)に示すように、第1吸着塔11の吸着材が酸素で飽和する前に、窒素ガス供給装置3は、第2吸着塔13内を高圧に切り替えるとともに、第1吸着塔11内を低圧に切り替える。そして、高圧の第2吸着塔13に所定量の原料空気を導入し、第2吸着塔13により原料空気から酸素を吸着することで窒素ガスを抽出し、その窒素ガスを供給口からガス充填包装機1に供給している。この間、上記抽出された窒素ガスのうちの所定量を低圧の第1吸着塔11に導入し、第1吸着塔11から所定量の酸素を含む排ガスを排出口から排出している。
【0029】
このように、窒素ガス供給装置3は、連続的に所定量の窒素ガスをガス充填包装機1に供給するとともに、窒素充填室5内に所定量の酸素を含む排ガスを排出するようになっている。
【0030】
つぎに、図1および図3を参照して、ガス充填包装機1について説明する。
【0031】
図1および図3に示すように、ガス充填包装機1は、内容物である食品を袋15に入れ、その袋15内に窒素ガスを充填するようになっている。具体的には、ガス充填包装機1は、食品を入れる所定容量の袋15を保持する保持工程,袋15を開ける開封工程,袋15に食品を入れる内容物充填工程,食品が入った袋15に窒素ガスを充填する窒素ガス充填工程,食品と窒素ガスが充填された袋15を封止する封止工程、封止された袋15を製品として取り出す取出工程等の作業工程を順番に自動的に行なう非チャンバーロータリ式の装置である。
【0032】
なお、上記非チャンバー方式に限られず、チャンバー方式を採用してもよい。
【0033】
上記ガス充填包装機1の内部は、作業を行なうための空間部17と、ガス充填包装機1の動作を制御する各種装置を収容する収容部19とを備えている。上記空間部17内には、上記作業工程を順番に行なうために回転する回転円盤21と、食品が入った袋15内に窒素ガスを噴射するためのノズル23等の必要な装置が配置されている。
【0034】
上記空間部17内における収容部19の上面には、上記回転円盤21を軸支する回転軸25を通す第1開口部27と、動作に必要な部材を通す第2開口部が設けられている。上記第2開口部は、見えない位置に設けられている。上記収容部19内には、上記第1開口部27を通って回転円盤21の中心部に接続された回転軸25を有する駆動部31と、駆動部31の駆動を制御する制御部33等の必要な装置が配置されている。上記制御部33は、駆動部31を制御し回転円盤21を回転させるとともに、後述の窒素用第1開閉弁35aの開閉を制御し上記ノズル23からの窒素ガスの噴射動作を制御するようになっている。
【0035】
上記ガス充填包装機1には、上記窒素ガス供給装置3から供給される窒素ガスをガス充填包装機1内に供給するための供給管35が設けられている。上記供給管35は、一端が上記窒素ガス供給装置3の供給口に接続され、他端が上記ノズル23と接続されている。また、上記供給管35は、上記窒素ガス供給装置3から供給される窒素ガスをガス充填包装機1の空間部17に供給するよう分岐している。
【0036】
上記供給管35には、当該供給管35を開閉し袋15への窒素ガスの充填(噴射)を開閉制御する窒素用第1開閉弁35aが設けられ、上記供給管35から分岐した窒素ガス分岐管37には、ガス充填包装機1の空間部17への窒素ガスの供給を開閉制御する窒素用第2開閉弁37aが設けられている。
【0037】
図4に示すように、上記ガス充填包装機1の空間部17を形成する筐体の上面には、袋15内に食品を入れるための内容物供給口41が設けられ、一方の側面にはガス充填包装機1内に袋15を供給するための袋供給口43、他方の側面には製品を取り出すための取出口45が設けられている。上記内容物供給口41,袋供給口43,取出口45等の開口部は、所定の幅,高さ,奥行きにより形成され、所定の面積を有する。
【0038】
上記窒素ガス充填工程において、外部から空気が浸入することを防ぎ、袋15内に所定量の窒素ガスを安定して充填するため等により、上記空間部17に常に所定の流量で窒素ガスが供給されている。
【0039】
図5に示すように、上記ガス充填包装機1は、上記のような構成により、まず、上記保持工程において袋供給口43から袋15が供給され、回転円盤21に袋15を装着して保持し、開封工程において上記保持している袋15の開口部を開ける。ついで、内容物充填工程において内容物供給口41から袋15に食品を入れ、窒素ガス充填工程において食品が入った袋15内に所定量の窒素ガスを充填する(すなわち、袋15内の気体を窒素ガスに置換するガス置換を行なう)。ついで、封止工程において食品と窒素ガスが充填された袋15を封止する。ついで、取出工程において封止された袋15を製品として取り出すようになっている。
【0040】
このように、上記ガス充填包装機1が設置されて当該ガス充填包装機1から窒素ガスが放出される窒素充填室5内に窒素ガス供給装置3の排ガスを導入するようになっているため、ガス充填包装機1から窒素充填室5内に窒素ガスが放出されたとしても、窒素ガス供給装置3から排出される酸素リッチな排ガスを室内に供給することにより、窒素充填室5内の酸素濃度の低下を防止し、窒素充填室5内が酸欠雰囲気になるのを防止することができる。また、換気ではなく、窒素充填室5内に直接酸素リッチな排ガスを導入することから、多くの時間をかけることなく、窒素充填室5内の酸素濃度をすばやく正常な濃度に回復させることができる。
【0041】
また、上記ガス充填包装機1に窒素を供給するための窒素ガス供給装置3から排出される排ガスを有効的に活用することができるため、従来不可欠であった換気設備が不要になり、酸欠雰囲気を防止するための設備コスト,設置場所,メンテナンスの手間等をかけることがなく、容易に酸欠雰囲気を防止することができ、窒素充填室5内のスペースが限られているときにも好適である。さらに、換気で外気を導入する必要がないため、本実施例のように窒素充填室5内が、例えば埃等の粉塵(ダスト)や雑菌の浸入を防ぐために気密性を高めた室内であっても、その気密性を保持することができ、特に好適に用いることができる。
【0042】
なお、窒素充填室5内がクリーンルームであっても、同様な効果を奏する。
【0043】
また、上記排ガス導入管7は、上記排ガスのうち一定割合を常時窒素充填室5内に導入するため、窒素充填室5内の酸素濃度を安定させることができ、窒素充填室5内の作業者に対して良好な作業環境を提供することができる。また、従来のように酸素濃度が低下してから換気するのではなく、酸素リッチな排ガスを常時室内に導入して酸素濃度を確保しているため、常に安定した酸素濃度を維持することができる。すなわち、従来は換気装置にトラブルが発生すると、酸素濃度の低い状態が続いたり十分な換気ができずに酸欠雰囲気になったりするおそれがあったが、本発明では、室内の酸素濃度が常時確保されているため、極めて安全性が高い。
【0044】
つぎに、上記室内ガス置換設備の具体的な運転条件の一例について説明する。
【0045】
上記ガス充填包装機1は、上記袋供給口43の幅が210mm(ミリメートル)、高さが190mmで、開口部の奥行きは50mmである。また、取出口45は、幅が210mm、高さが100mmで奥行きは50mmである。第1開口部27は、外形(直径)が50mm、内径(回転軸25の直径)が20mmで、その奥行きは20mmである。第2開口部も同様である。内容物供給口41は、幅が100mm、高さが100mmで奥行きは150mmである。これらの開口部から空気が浸入してガス充填包装機1内部の酸素濃度が上昇するのを抑えるためにその内部に窒素ガスを供給し、各開口部から放出した。このとき必要とした窒素流量は3m/hrであった。
【0046】
本実施例では、窒素ガスが充填された1L(リットル)容量の袋15内(製品中)の酸素濃度を0.5%以下にするために、ガス充填包装機1の空間部17内(以下、「ガス充填包装機1内」という)の酸素濃度を0.5%以下に保って、製品中の酸素濃度を0.5%以下にするよう所定量の窒素ガスを製品に充填した。
【0047】
図6に示すように、上記ガス充填包装機1内の酸素濃度を0.5%以下に保つために、窒素ガス供給装置3から3m/hrの窒素ガスを供給した。このように、一定量の窒素ガスをガス充填包装機1内に流し続けることにより、外部からの空気の浸入を防いでガス充填包装機1内の酸素濃度を低く保つことができる。
【0048】
また、本実施例のガス充填包装機1により、1L容量の袋15に食品を入れてガス置換する場合、製品の充填速度50袋/分の条件では製品とともに持ち出される窒素ガスの必要量は、最大で1L×50袋/分×60分=3000L=3m/hrである。すなわち、製品に窒素ガスを充填するために必要な窒素ガスの量は、3m/hrである。したがって、上記のように、製品に窒素ガスを充填するために、窒素ガス供給装置3から3m/hrの窒素ガスを供給した。
【0049】
このように、本実施例では、上記ガス充填包装機1内に必要な3m/hrの窒素ガスと、充填に必要な3m/hrの窒素ガスの合計により、窒素ガス供給装置3から合計6.0m/hrの窒素ガスを供給した。
【0050】
図6のAに示す窒素ガス供給装置3は、PSA容量(窒素発生量)6.0m/hrであり、原料空気量20m/hrから窒素収率38%で窒素純度約99.9%の窒素ガスを抽出でき、14.0m/hrの排ガスを排出する。この排ガス中の酸素量は29.9%であった。
【0051】
製品充填中は製品内のガス置換も兼ねて、窒素用第1開閉弁(バルブ)35aを介してノズル23から窒素ガス6m/hrを袋15へ供給した。このうち、3m/hrが製品と一緒に持ち出され、3m/hrが窒素充填室5内に放出される。非充填中は窒素用第2開閉弁(バルブ)37aからガス充填包装機1へ窒素ガスを3m/hr供給して空気の浸入を防止した。
【0052】
PSA方式の窒素ガス供給装置はその内部に窒素タンクを有している。このタンク内の窒素の圧力変動によって原料空気コンプレッサーのロード/アンロードを行ない、窒素消費量の変動に対応するようになっている。例えば、タンク内の窒素の圧力が0.7MPaまで上がったら原料空気コンプレッサーをアンロードし、タンク内の窒素の圧力が0.6MPaまで下がったら原料空気コンプレッサーをロードする。これを繰り返すことにより、窒素供給量にあわせて窒素ガスの発生量を制御している。
【0053】
図6のAに示すように、PSA容量6.0m/hrの窒素ガス供給装置3を用いた場合は、排ガスの65%を窒素充填室5内に導入するよう上記排ガス用第1開閉弁7aや排ガス用第2開閉弁9aの開閉度合いを設定する。このようにすることにより、製品内に窒素ガスを充填しているときは、排ガスの発生量は時間平均14.0m/hrとなり、その65%の9.1m/hrが窒素充填室5に供給されることとなり窒素充填室5内の酸素濃度は22.5%となった。ガス充填包装機1が全く充填(噴射)動作していないときは、排ガスの発生量は時間平均7.0m/hrとなり、その65%の4.5m/hrが窒素充填室5に供給されることとなり窒素充填室5内の酸素濃度は18.0%となった。このようにして、作業者の酸欠を防止することができる。
【0054】
また、図6のBに示すように、上記図6のAに示す窒素ガス供給装置3と同様にPSA容量6.0m/hrの窒素ガス供給装置3を用いた場合は、製品充填(充填動作)中は、排ガスの導入量を50%とするよう上記排ガス用第1開閉弁7aや排ガス用第2開閉弁9aの開閉度合いを設定した。一方、製品を充填していない間(非充填中)は、上記排ガス用第1開閉弁7aを完全に開状態にするとともに、排ガス用第2開閉弁9aを完全に閉状態にして、排ガスの導入量を100%とした。このように充填中と非充填中の動作に応じて切り替えることで、充填動作の実行にかかわらず窒素充填室5内の酸素濃度は20.9%となり、窒素充填室5内の酸素濃度が安定した。
【0055】
窒素充填中と非充填中のどちらもガス充填包装機1へ供給される窒素量が変化しないときも同様の効果がある。すなわち、排ガスの65%を窒素充填室5へ供給すると、図7に示すように、窒素充填中は6m/hrの窒素ガスがガス充填包装機1へ供給され、このうち3m/hrが製品と一緒に持ち出され3m/hrが窒素充填室5内に放出されるときは、窒素充填室5内の酸素濃度は22.5%となり、非充填中6m/hrの窒素ガスの全量がガス充填包装機1を介して窒素充填室5へ放出される場合は、窒素充填室5内の酸素濃度は18.0%となった。
【0056】
すなわち、ガス充填包装機1から窒素充填室5内に放出される窒素ガス量に相当する排ガスを窒素充填室5内に導入すれば、窒素充填室5内の酸素濃度は一定となった。
【0057】
以上の方法により、ガス充填包装機1で利用(使用)される窒素ガスの量(条件)に応じて窒素ガス供給装置3から窒素充填室5内に導入する排ガスの排ガス導入量を設定しておけば、窒素充填室5内への排ガスの導入量を特にリアルタイムに制御することなく、窒素充填室5内の酸素濃度または窒素濃度を一定の幅に保ち酸欠を防止することができる。また、上記排ガス導入管7や排ガス分岐管9に設けられた排ガス用第1,第2開閉弁7a,9aによる簡単な切替機構で、ガス充填包装機1の動作状態(運転状態)に応じて排ガス導入量を変化させることにより、窒素充填室5内の酸素濃度を一定に保ち、安定化させることができる。
【0058】
なお、上記実施例では、上記窒素ガス供給装置として、PSA方式の窒素ガス供給装置3を採用しているが、これに限定されるものではなく、例えば膜分離式の窒素ガス供給装置を採用してもよい。
【0059】
上記膜分離式の窒素ガス供給装置は、気体の膜透過速度の違いを利用して、原料空気中の窒素ガスを分離・発生するようになっている。ガスが膜を透過する速度が気体分子の膜に対する溶解性と拡散性等により決まるため、透過速度の早い酸素等が膜外部に排出され、透過速度の遅い窒素が供給されるようになっている。
【0060】
上記膜分離式の窒素ガス供給装置を採用することにより、窒素ガスを安定して供給、操作が簡単、振動部がなく騒音振動が少ないとともに、装置構成が簡易、設置スペースが小さい、メンテナンスフリー、高圧ガス保安法に規制を受けない等の効果を奏する。
【0061】
図8を参照して、上記膜分離式の窒素ガス供給装置を用いた例について説明する。
【0062】
図8のAに示す例では、上記膜分離式の窒素ガス供給装置の容量6.0m/hrであり、原料空気量37.9m/hrから窒素収率20%で窒素ガスを抽出でき、31.9m/hrの排ガスを排出する。この排ガス中の酸素量は24.8%となった。
【0063】
この例では、排ガスの50%を窒素充填室5内に導入するよう上記排ガス用第1開閉弁7aや排ガス用第2開閉弁9aの開閉度合いを設定した。このようにすることにより、製品内に窒素ガスを充填しているときは、排ガスの供給量は31.9m/hrの50%で16.0m/hrとなり窒素充填室5内の酸素濃度が20.9%となった。ガス充填包装機1が全く充填(噴射)動作していないときは、排ガス供給量は16.0m/hrの50%で8.0m/hrとなり窒素充填室5内の酸素濃度が18.0%となった。これにより、作業者の酸欠を防止することができる。
【0064】
また、図8のA'に示す例では、上記窒素ガス供給装置の容量6.0m/hrであり、原料空気量37.9m/hrから窒素収率20%で窒素ガスを抽出でき、31.9m/hrの排ガスを排出する。この排ガス中の酸素量は24.8%であった。
【0065】
この例では、排ガスの100%を窒素充填室5内に導入するよう上記排ガス用第1開閉弁7aや排ガス用第2開閉弁9aの開閉度合いを設定した。具体的には、排ガス用第2開閉弁9aを閉状態にした。このようにすることにより、製品内に窒素ガスを充填しているときは、排ガスの供給量は31.9m/hrの100%で31.9m/hrとなり窒素充填室5内の酸素濃度が22.7%となった。ガス充填包装機1が全く充填(噴射)動作していないときは、排ガスの供給量は16.0m/hrの100%で16.0m/hrとなり窒素充填室5内の酸素濃度が20.9%となった。これにより、作業者の酸欠を防止することができる。
【0066】
また、図8のBに示す例では、製品充填(充填動作)中は、排ガスの導入量を50%とするよう上記排ガス用第1開閉弁7aや排ガス用第2開閉弁9aの開閉度合いを設定した。一方、製品を充填していない間(非充填中)は、上記排ガス用第1開閉弁7aを完全に開状態にするとともに、排ガス用第2開閉弁9aを完全に閉状態にして、排ガスの導入量を100%とした。このように充填中と非充填中の動作に応じて切り替えることで、充填動作の実行にかかわらず窒素充填室5内の酸素濃度は20.9%となり、窒素充填室5内の酸素濃度が安定した。
【0067】
膜分離式の窒素ガス供給装置を用いて窒素ガスを供給し、窒素充填中と非充填中のどちらもガス充填包装機1へ供給される窒素量が変化しないときの窒素充填室5内の酸素濃度は図9に示すようになった。この場合も同様に酸欠を防止することができる。
【実施例2】
【0068】
つぎに、図10を参照して、第2の実施例について説明する。
【0069】
本実施例では、排ガスの導入量を上記ガス充填包装機1の動作状態に応じて変更するようにしている。それ以外は、上記実施例と同様であり、同じものには同じ符号を付している。
【0070】
例えば、図10に示すように、上記排ガス用第1開閉弁7aや排ガス用第2開閉弁9aは、上記ガス充填包装機1の動作状態に応じて窒素充填室5内に導入される排ガスの流量を自動的に制御するようにしてもよい。
【0071】
具体的には、上記排ガス用第1開閉弁7aや排ガス用第2開閉弁9aの開閉制御を行なう開閉弁制御装置51を設ける。開閉弁制御装置51は、上記ガス充填包装機1の制御部33と接続され、その制御状態に応じてリアルタイムに上記排ガス用第1開閉弁7aや排ガス用第2開閉弁9aの開閉制御を行なうようにする。
【0072】
このようにすることにより、窒素充填室5内に放出される窒素量に相当する排ガスを供給して、窒素充填室5内の酸素濃度を安定させることができる。
【0073】
このため、上記排ガスの流量を多くするには、排ガス用第1開閉弁7aの開き度合いを大きく開状態にし、排ガス用第2開閉弁9aの開き度合いを小さく開状態または閉状態にする。一方、上記排ガスの流量を少なくするには、排ガス用第1開閉弁7aの開き度合いを小さく開状態または閉状態にし、排ガス用第2開閉弁9aの開き度合いを大きく開状態にすることで、窒素充填室5内の酸素濃度を任意の濃度に設定することができる。
【0074】
なお、上記流量制御手段は、上記排ガス用第1開閉弁7aや排ガス用第2開閉弁9a等の開閉弁に限られず、例えば、排ガス導入管7や排ガス分岐管9の内径(太さ)を設定する等により排ガスの導入量を設定することができる。
【0075】
また、上記窒素充填室5内の酸素濃度または窒素濃度を計測する濃度計測手段として濃度センサ55を備えて、上記排ガス用第1開閉弁7aや排ガス用第2開閉弁9aは、濃度センサ55の計測結果に応じて窒素充填室5内に導入される排ガスの流量を制御するようにしてもよい。
【0076】
具体的には、上記濃度センサ55を開閉弁制御装置51と接続する。そして、開閉弁制御装置51は、濃度センサ55の計測結果を受信し、その計測結果に応じて上記排ガス用第1開閉弁7aや排ガス用第2開閉弁9aの開閉制御を行なうようにする。このようにすることにより、例えば、酸素濃度を計測するときには、窒素充填室5内の酸素濃度が低いときには窒素充填室5内に導入される排ガスの流量を多くし、窒素充填室5内の酸素濃度が高いときには窒素充填室5内に導入される排ガスの流量を少なくすることができる。一方、窒素濃度を計測するときには、窒素充填室5内の窒素濃度が高いときには窒素充填室5内に導入される排ガスの流量を多くし、窒素充填室5内の窒素濃度が低いときには窒素充填室5内に導入される排ガスの流量を少なくすることができる。これにより、窒素充填室5内の酸素濃度または窒素濃度を直接計測して酸素リッチな排ガスの導入量を調整するため、窒素充填室5内の酸素濃度を一層安定させることができる。
【実施例3】
【0077】
つぎに、図11を参照して、第3の実施例について説明する。
【0078】
図11に示すように、本発明は、窒素充填室5内に複数のガス充填包装機1が設置された場合にも好適に用いることができる。この場合、各ガス充填包装機1の動作状態や窒素充填室5内の酸素濃度または窒素濃度に応じて、窒素充填室5内に導入する排ガスの流量を制御することで、窒素充填室5内から放出される窒素を効果的に酸素に置換することができる。
【0079】
例えば、上記複数のガス充填包装機1のうちのいずれかが動作停止し、窒素ガスを放出しなくなった場合、あるいは窒素充填室5内への放出量が少ない場合には、窒素充填室5内に導入する排ガスの流量を少なくし、窒素充填室5内の酸素または窒素濃度を安定させることができる。一方、上記の状態から窒素充填室5内への放出量が多くなった場合には、窒素充填室5内に導入する排ガスの流量を多くし、窒素充填室5内の酸素または窒素濃度を安定させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、ガス充填包装機だけでなく、室内で窒素ガスを利用する窒素ガス利用設備から窒素ガスが放出されうる環境であれば適用でき、室内の酸素欠乏を防止する用途に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の室内ガス置換設備の一実施例を示す図である。
【図2】窒素ガス供給装置を示す図である。
【図3】ガス充填包装機を示す斜視図である。
【図4】ガス充填包装機を示す断面図である。
【図5】ガス充填包装機を示す平面図である。
【図6】PSA方式の窒素ガス供給装置を用いた例を示す図である。
【図7】PSA方式の窒素ガス供給装置を用いた例を示す図である。
【図8】膜分離式の窒素ガス供給装置を用いた例を示す図である。
【図9】膜分離式の窒素ガス供給装置を用いた例を示す図である。
【図10】第2の実施例の室内ガス置換設備を示す図である。
【図11】第3の実施例の室内ガス置換設備を示す図である。
【符号の説明】
【0082】
1 ガス充填包装機
3 窒素ガス供給装置
5 窒素充填室
7 排ガス導入管
7a 排ガス用第1開閉弁
9 排ガス分岐管
9a 排ガス用第2開閉弁
11 第1吸着塔
13 第2吸着塔
15 袋
17 空間部
19 収容部
21 回転円盤
23 ノズル
25 回転軸
27 第1開口部
31 駆動部
33 制御部
35 供給管
35a 窒素用第1開閉弁
37 窒素ガス分岐管
37a 窒素用第2開閉弁
41 内容物供給口
43 袋供給口
45 取出口
51 開閉弁制御装置
55 濃度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素ガスを利用する窒素ガス利用設備と、原料空気から窒素を主成分とする窒素ガスを抽出して、上記窒素ガス利用設備に供給するとともに酸素を含む排ガスを排出する窒素ガス供給装置とを準備し、
上記窒素ガス利用設備が設置されて当該窒素ガス利用設備から窒素ガスが放出される室内に上記窒素ガス供給装置の排ガスを導入することを特徴とする室内ガス置換方法。
【請求項2】
窒素ガスを利用する窒素ガス利用設備と、
原料空気から窒素を主成分とする窒素ガスを抽出して、上記窒素ガス利用設備に供給するとともに酸素を含む排ガスを排出する窒素ガス供給装置と、
上記窒素ガス利用設備が設置されて当該窒素ガス利用設備から窒素ガスが放出される室内に上記窒素ガス供給装置の排ガスを導入する排ガス導入手段とを備えたことを特徴とする室内ガス置換設備。
【請求項3】
上記排ガス導入手段は、上記排ガスのうち一定割合を室内に導入する請求項2記載の室内ガス置換設備。
【請求項4】
上記室内に導入される排ガスの流量を制御する流量制御手段を備えた請求項2または3記載の室内ガス置換設備。
【請求項5】
上記流量制御手段は、上記窒素ガス利用設備の動作状態に応じて上記室内に導入される排ガスの流量を制御する請求項4記載の室内ガス置換設備。
【請求項6】
上記室内の酸素濃度または窒素濃度を計測する濃度計測手段を備え、
上記流量制御手段は、上記濃度計測手段の計測結果に応じて上記室内に導入される排ガスの流量を制御する請求項4または5記載の室内ガス置換設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−42968(P2006−42968A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−225316(P2004−225316)
【出願日】平成16年8月2日(2004.8.2)
【出願人】(000126115)エア・ウォーター株式会社 (254)
【Fターム(参考)】