説明

室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物

【課題】表面が艶消しされたシリコーンゴムになり得、物理的特性の低下もない室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物を提供する。
【解決手段】(A)25℃における粘度が20〜1,000,000センチストークスであり、分子鎖末端がシラノール基またはケイ素原子結合加水分解性基で封鎖された実質的に直鎖状のポリオルガノシロキサン100重量部、
(B)1分子中にケイ素原子結合加水分解性基を3個以上有する有機ケイ素化合物0.1〜15重量部、
(C)縮合反応触媒0〜15重量部、
(D)未処理の重質炭酸カルシウムまたは表面が樹脂酸で処理された重質炭酸カルシウム100〜400重量部
(E)未処理の軽質炭酸カルシウムまたは表面が樹脂酸で処理された軽質炭酸カルシウム1〜200重量部
(但し、(D)成分、(E)成分の少なくとも一方は樹脂酸で処理されている必要がある。また、(D)成分、(E)成分の合計中、(D)成分が50〜99.9重量%である)
よりなる室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、室温にて硬化後、表面が艶消しされたシリコーンゴムになり得る室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空気中の水分と接触することにより室温で硬化してゴム状弾性体になる室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物としては種々のタイプのものが知られており、建築物の外装用シーリング材などとして使用されている。
【0003】
従来のシリコーンシーリング材は、硬化後、その表面が光沢を有するため、太陽光を反射して付近の人を眩しくさせたり、美観の点で雰囲気にそぐわないものとなる場合もあった。
【0004】
そのため、硬化後、艶消しされた表面を有するシリコーンゴムになり得る室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物が望まれていた。
【0005】
このような艶消しされた表面を有するシリコーンゴムの提供のため、珪藻土および/またはマイカ粉末を配合すること(特許文献1)、空気酸化硬化性の不飽和高級脂肪酸等を含有させること(特許文献2)、極性部位を有し大部分が非極性部位からなる低分子有機化合物をを含有させること(特許文献3)、特定の調製方法により特別な添加物を用いることなく艶消し表面を得る手法(特許文献4)等が提案されている。
【0006】
しかしながら、このような従来の手法では、艶消し効果が十分でないと共に、場合により硬化物の物理的特性に悪影響を与えるという問題があった。
【特許文献1】特開平6−157910号公報
【特許文献2】特開2000−129128号公報
【特許文献3】特開2000−169711号公報
【特許文献4】特開20007−39485号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題点を解決し、表面が艶消しされたシリコーンゴムになり得、物理的特性の低下もない室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究した結果、室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物に特定2種の炭酸カルシウムを併用配合すれば、硬化後の表面光沢を抑えることができ、また、その物理特性も維持できることを見出し、本発明に至った。
【0009】
即ち、本発明は、
(A)25℃における粘度が20〜1,000,000センチストークスであり、分子鎖末端がシラノール基またはケイ素原子結合加水分解性基で封鎖された実質的に直鎖状のポリオルガノシロキサン100重量部、
(B)1分子中にケイ素原子結合加水分解性基を3個以上有する有機ケイ素化合物0.1〜15重量部、
(C)縮合反応触媒0〜15重量部、
(D)未処理の重質炭酸カルシウムまたは表面が樹脂酸で処理された重質炭酸カルシウム100〜400重量部
(E)未処理の軽質炭酸カルシウムまたは表面が樹脂酸で処理された軽質炭酸カルシウム1〜200重量部
(但し、(D)成分、(E)成分の少なくとも一方は樹脂酸で処理されている必要がある。また、(D)成分、(E)成分の合計中、(D)成分が50〜99.9重量%である)
よりなる室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に使用される(A)成分のポリオルガノシロキサンは、分子鎖末端がシラノール基またはケイ素原子結合加水分解性基で封鎖された実質的に直鎖状のポリオルガノシロキサンである。ここで、実質的に直鎖状とは、完全な直鎖状だけでなく、若干分岐した直線状のものであってもよいことを意味している。このポリオルガノシロキサンの分子鎖末端に存在するケイ素原子結合加水分解性基としては、メトキシ基,エトキシ基,プロポキシ基のようなアルコキシ基、メチルエチルケトキシム基,ジメチルケトキシム基のようなオキシム基、イソプロペノキシ基のようなアルケニルオキシ基、ならびにトリメトキシシリルプロピル基が例示される。さらに、このポリオルガノシロキサン中に存在する他のケイ素原子結合有機基としては、メチル基,エチル基,プロピル基,ブチル基,オクチル基のようなアルキル基;ビニル基,アリル基,ヘキセニル基のようなアルケニル基;フェニル基、トリル基のようなアリール基;ベンジル基;3,3,3−トリフルオロプロピル基,3−クロルプロピル基,3−シアノプロピル基,クロルメチル基のような置換アルキル基が例示される。このポリオルガノシロキサンは、粘度が低すぎると硬化したシーラントのゴム弾性が乏しくなり、粘度が高すぎると押し出し性が重くなりカートリッジ等の容器からの吐出作業が難しくなるため、25℃における粘度が20〜1,000,000センチストークスの範囲内にあることが必要であり、望ましくは、100〜100,000センチストークスの範囲内である。
【0011】
本発明に使用される(B)成分の有機ケイ素化合物は、本組成物の架橋剤として作用し、本組成物を架橋硬化せしめるための成分である。この有機ケイ素化合物は1分子中にケイ素原子結合加水分解性基を3個以上有する有機ケイ素化合物である。このケイ素原子結合加水分解性基は(A)成分中のケイ素原子結合加水分解性基と同一であることが好ましく、このような加水分解性基としては、(A)成分の説明の項で説明したアルコキシ基,アルケニルオキシ基,オキシム基があり、とりわけ、アルコキシ基およびオキシム基が好ましい。アルコキシ基を有する有機ケイ素化合物としては、メチルトリメトキシシラン,エチルトリメトキシシラン,フェニルトリメトキシシラン,ビニルトリメトキシシランなどの3官能性アルコキシシラン類およびその部分加水分解縮合物、メチルオルソシリケート,エチルオルソシリケート,n−プロピルオルソシリケート,メチルセルソルブシリケートなどのアルキルシリケート類およびその部分加水分解縮合物、環状アルコキシシロキサン類、直鎖状アルコキシシロキサン類などが例示される。アルケニルオキシ基を有する有機ケイ素化合物としては、メチルトリイソプロペノキシシラン,ビニルトリイソプロペノキシシラン,フェニルトリイソプロペノキシシラン,テトライソプロペノキシシラン,メチルトリシクロヘキセノキシシラン,ビニルトリシクロヘキセノキシシランなどのアルケニルオキシシラン類およびその部分加水分解縮合物が例示される。
【0012】
これらの有機ケイ素化合物は1種または2種以上を使用することができる。また、1分子中に複数の加水分解性基を有する有機ケイ素化合物を使用してもよい。
【0013】
(B)成分の添加量は(A)成分100重量部に対して0.1〜15重量部の範囲であり、好ましくは0.5〜10重量部の範囲である。これは(B)成分の添加量が0.1重量部より少ないと本組成物は硬化せず、また15重量部より多くなると硬化が遅くなったり、経済的に不利となるためでる。
【0014】
本発明に使用される(C)成分の縮合反応触媒は本発明組成物の硬化を促進するために必要に応じて使用されるものである。この種の触媒としては錫,チタン,ジルコニウム,鉄,アンチモン,ビスマス,マンガン等の有機酸塩,有機チタン酸エステル,有機チタンキレート化合物などが挙げられる。このような縮合反応触媒の具体例としては、ジブチル錫ジラウレート,ジブチル錫ジオクトエート,スタナスオクトエートなどの有機錫化合物、テトラブチルチタネート,テトライソプロピルチタネート,ジイソプロポキシビス(アセチルアセトネート)チタン,ジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)チタンなどの有機チタン化合物が例示される。ここで、(B)成分がビニルトリオキシムシランであるときは(C)成分は不要である。本成分の添加量は、(A)成分100重量部に対して0〜15重量部であり、0.001〜10重量部の範囲が好ましい。
【0015】
本発明では、(D)成分、(E)成分という2種の炭酸カルシウムを併用配合することに特徴を有する。
【0016】
炭酸カルシウムは当業者に周知のように、重質炭酸カルシウム,軽質炭酸カルシウム,コロイド質炭酸カルシウムなどがあり、また、それらを脂肪酸,樹脂酸,界面活性剤などで表面処理されたものがある。
【0017】
本発明者らは、(D)未処理の重質炭酸カルシウムと(E)表面が樹脂酸で処理された軽質炭酸カルシウムの組み合わせ、(D)表面が樹脂酸で処理された重質炭酸カルシウムと(E)表面が樹脂酸で処理された軽質炭酸カルシウムの組み合わせ、(D)表面が樹脂酸で処理された重質炭酸カルシウムと(E)未処理の軽質炭酸カルシウムの組み合わせが、表面の艶消しに顕著な効果を示すことを見出したのである。後記する実施例・比較例の対比から明らかなように、上記以外の組み合わせ、例えば、表面が脂肪酸で処理された重質炭酸カルシウムと表面が樹脂酸あるいは脂肪酸で処理された軽質炭酸カルシウムの組み合わせ、未処理の重質炭酸カルシウムと表面が脂肪酸で処理された軽質炭酸カルシウムの組み合わせ、未処理の重質炭酸カルシウムの単独配合等では、有効な艶消し効果は得られないのである。
【0018】
(D)成分、(E)成分の粒径、その他の性状については特に制限はなく、通常の重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウムと認識されるものが広く使用できる。また、(D)成分、(E)成分における炭酸カルシウムの表面処理剤である樹脂酸の種類は一般的に用いられるものであれば、特に制限はなく、例えばロジン酸等が挙げられる。その処理量も特に制限はなく、3%程度が好ましい。
【0019】
(D)成分、(E)成分としては、市販されている各種のものが使用でき、(D)成分としては、丸尾カルシウム株式会社製スーパーSS、スーパー#2000、備北粉化工業株式会社製μ-POWDER 2R、(E)成分としては、白石工業株式会社製白艶華TDD、Brilliant-1500、丸尾カルシウム株式会社製軽質炭酸カルシウム等が例示できる。
【0020】
本発明において、(D)成分、(E)成分の配合量は、(A)成分100重量部に対し、(D)成分100〜400重量部、(E)成分1〜200重量部であることが必要であり、且つ(D)成分、(E)成分の合計中、(D)成分が50〜99.9重量%であることが必要である。(D)成分、(E)成分の配合量が少なすぎると艶消し性、機械的強度および接着性が不足し、多すぎると硬化前の容器からの押し出し作業性に悪影響を与える。本発明組成物は前記した(A)成分〜(E)成分、あるいは(A)成分,(B)成分,(D)成分および(E)成分を均一に混合することにより容易に製造できる。また、これらの成分に加えて有機溶剤,流動性コントロール剤,防かび剤,難燃剤,耐熱剤,接着促進剤,顔料,(D)成分と(E)成分以外の無機質充填剤,導電性付与成分などを添加配合することは、本発明の目的を損なわない限り差し支えない。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を実施の形態によってさらに詳細に説明する。なお、実施例および比較例中の部は、すべて重量部を示すものとする。また、粘度などの特性値はことわらない限り、23℃における測定値を示す。
【0022】
実施例1
粘度20,000mPa・sの分子鎖両末端メチルジメトキシシロキシ基封鎖ポリジメチルシロキサン100部、未処理の重質炭酸カルシウム(丸尾カルシウム株式会社製/スーパーSS)200部、樹脂酸で表面処理された軽質炭酸カルシウム(白石工業株式会社製/白艶華TDD)100部、カーボンブラック5部、粘度100mPa・sの分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ポリジメチルシロキサン33部を均一に混合した後、メチルトリメトキシシラン5部、ジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)チタン3部、イソシアヌル酸1,3,5,−トリス[3−(トリメトキシシリル)プロピル]1部を混合して1液型室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物を調製した。
【0023】
得られた組成物が付着しないようにテフロン(登録商標)板に、同様にテフロン(登録商標)板でできた厚さ2mmの型枠を置き、得られた組成物を泡が入らないように充填し、へらを用いて表面を平らにならした。その後、23℃、50%RHの条件で7日間静置して硬化させ、150mm×300mm×2mmの試料を作成した。得られた硬化物について光沢度と物理特性を測定した。また、同様な硬化条件で、ガラスとアルミに対するせん断接着試験体(厚み2mmで接着面積が25mm×10mm)を作成し、その接着力と凝集破壊率を測定した。
【0024】
結果を表1に示す。艶消し性の指標である光沢度は、JIS Z 8741に基づき60度鏡面光沢を光沢計IG-310(堀場製作所製)を用いて測定した。数値が小さいほど光沢が少なくなることを意味する。他の特性は、JIS A 5758およびK 6301に従って測定した。
【0025】
実施例2
実施例1において、未処理の重質炭酸カルシウムを270部に、樹脂酸で表面処理された軽質炭酸カルシウムを30部に変更した以外は、実施例1と同様にして1液型室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物を調製した。
【0026】
実施例3
実施例1において、未処理の重質炭酸カルシウムを290部に、樹脂酸で表面処理された軽質炭酸カルシウムを10部に変更した以外は、実施例1と同様にして1液型室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物を調製した。
【0027】
実施例4
実施例1において、未処理の重質炭酸カルシウムを297部に、樹脂酸で表面処理された軽質炭酸カルシウムを3部に変更した以外は、実施例1と同様にして1液型室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物を調製した。
【0028】
実施例5
実施例2において、未処理の重質炭酸カルシウム270部の替わりに、樹脂酸で表面処理された重質炭酸カルシウム(備北粉化工業株式会社製/μ-POWDER 2R)270部を配合した以外は、実施例1と同様にして1液型室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物を調製した。
【0029】
実施例6
実施例2において、未処理の重質炭酸カルシウム270重量部の替わりに、樹脂酸で表面処理された重質炭酸カルシウム(備北粉化工業株式会社製/μ-POWDER 2R)270部、樹脂酸で表面処理された軽質炭酸カルシウム30部の替わりに、未処理の軽質炭酸カルシウム(白石工業株式会社製/Brilliant-1500)を30部に変更した以外は、実施例1と同様にして1液型室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物を調製した。
【0030】
比較例1
実施例1において、未処理の重質炭酸カルシウム200部の替わりに、脂肪酸で表面処理された重質炭酸カルシウム(OMYA Inc.製/OMYACARB FT)200部に変更した以外は、実施例1と同様にして1液型室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物を調製した。
【0031】
比較例2
実施例1において、樹脂酸で表面処理された軽質炭酸カルシウム100部の替わりに、脂肪酸で表面処理された軽質炭酸カルシウム(白石工業株式会社製/白艶華CCR)を100部に変更した以外は、実施例1と同様にして1液型室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物を調製した。
【0032】
比較例3
実施例1において、未処理の重質炭酸カルシウム200部の替わりに、脂肪酸で表面処理された重質炭酸カルシウム(OMYA Inc.製/OMYACARB FT)200部、樹脂酸で表面処理された軽質炭酸カルシウム100部の替わりに、脂肪酸で表面処理された軽質炭酸カルシウム(白石工業株式会社製/白艶華CCR)を100部に変更した以外は、実施例1と同様にして1液型室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物を調製した。
【0033】
比較例4
実施例1において、未処理の重質炭酸カルシウム(丸尾カルシウム株式会社製/スーパーSS)を300部に変更し、樹脂酸で表面処理された軽質炭酸カルシウムを使用しないこと以外は、実施例1と同様にして1液型室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物を調製した。
【0034】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)25℃における粘度が20〜1,000,000センチストークスであり、分子鎖末端がシラノール基またはケイ素原子結合加水分解性基で封鎖された実質的に直鎖状のポリオルガノシロキサン100重量部、
(B)1分子中にケイ素原子結合加水分解性基を3個以上有する有機ケイ素化合物0.1〜15重量部、
(C)縮合反応触媒0〜15重量部、
(D)未処理の重質炭酸カルシウムまたは表面が樹脂酸で処理された重質炭酸カルシウム100〜400重量部
(E)未処理の軽質炭酸カルシウムまたは表面が樹脂酸で処理された軽質炭酸カルシウム1〜200重量部
(但し、(D)成分、(E)成分の少なくとも一方は樹脂酸で処理されている必要がある。また、(D)成分、(E)成分の合計中、(D)成分が50〜99.9重量%である)
よりなる室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物。

【公開番号】特開2009−138166(P2009−138166A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−319154(P2007−319154)
【出願日】平成19年12月11日(2007.12.11)
【出願人】(000221111)モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社 (257)
【Fターム(参考)】