説明

害虫の誘引材

【課題】 茸を露地栽培する際に茸にナメクジ、蝸牛、だんご虫などの害虫を誘引して茸から遠ざけ、茸が被害を受けるのを少なくできるようにした誘引材を提供する。
【解決手段】 ナメクジ、蝸牛、だんご虫などの害虫を誘引するのに用いる誘引材であって、穀粒培地(128)にアガリクスビスポラス菌(121)及び納豆菌(124)を植えつけて培養して製造される。純粋培養したアガリクスビスポラス菌を穀粒培地に植えつけて菌糸を増殖させ、そこに純粋培養した納豆菌を植えつけて増殖させることにより、害虫誘引材を製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は害虫の誘引材に関し、特に茸を露地栽培する際に茸にナメクジ、蝸牛、だんご虫などの害虫を誘引して茸から遠ざけ、茸が被害を受けるのを少なくできるようにした誘引材に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、シメジなどの茸を人工栽培する場合、培地に種菌を接種して培養し、芽だしを経て菌床から株状の子実体を発生させ、収穫することが行われている(特許文献1、特許文献2)。
【0003】
ところで、茸を人工栽培する場合、光量、温度、湿度などの栽培条件をコントロールする必要があるとともに、ナメクジやキノコバエ等の害虫対策を必要とすることから、建屋やビニールハウスなどを利用して栽培することが行われている。
【0004】
【特許文献1】特開2006−115834号公報
【特許文献2】特開平10−215678号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、建屋やビニールハウスを建て栽培条件をコントロールしようとすると、設備コストが高くなり、栽培された茸のコスト高を招来する。
【0006】
これに対し、本件発明者らは茸の露地栽培方法を開発するに至ったが、茸を安定に露地栽培する上で、ナメクジ、蝸牛、だんご虫などの害虫に対する対策が非常に重要であることを知見するに至った。
【0007】
本発明はかかる点に鑑み、ナメクジ、蝸牛、だんご虫などの害虫を誘引して茸が虫害を少なくできるようにした害虫の誘引材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明に係る害虫の誘引材は、ナメクジ、蝸牛、だんご虫などの害虫を誘引するのに用いる誘引材であって、穀粒培地にアガリクスビスポラス(Agaricus bisporus)菌及び納豆菌(Bacillus sbtilis natto)を植えつけて培養してなることを特徴とする。
【0009】
本件発明者らはアガリクスビスポラス菌及び納豆菌を培養した穀粒培地を茸の栽培地の周囲に置いたときに、顕著な誘引効果があることを確認した。
【0010】
また、本発明に係る害虫誘引材の製造方法は、純粋培養したアガリクスビスポラス菌を穀粒培地に植えつけて菌糸を増殖させ、そこに純粋培養した納豆菌を植えつけて増殖させるようにしたことを特徴とする。
【0011】
アガリクスビスポラス菌及び納豆菌は寒天培地に各々植えつけて純粋培養することができる。
【0012】
穀粒培地には、麦、マイロ、粟、稗、大豆、大麦、小麦から選ばれる1又は複数の煮沸液に石膏及び炭酸カルシウムを混合して製造したものを用いることができる。
【0013】
寒天培地には、麦汁抽出エキス寒天培地、馬糞抽出エキス寒天培地、もみがら抽出エキス寒天培地、マスマ抽出エキス寒天培地、ビール酵母抽出エキス寒天培地、ススキ抽出エキス寒天培地、稗抽出エキス寒天培地、粟抽出エキス寒天培地のいずれかを用いることができる。
【0014】
茸を露地栽培する場合、畑に凹状の溝を形成して堆肥又は土壌を入れ、茸の種菌を接種するか又は種菌を接種した菌床フロックを埋設し、その上を遮光材で覆うと、光量、温度、湿度などを適切な栽培条件にコントロールして茸を安定に露地栽培することができる。その結果、建屋やビニールハウスを用いる必要がなく、茸の製造コストを大幅に低減できる。
【0015】
凹状の溝は畑に直接形成してもよく、又畑の畝の中央に形成するようにしてもよい。茸を安定に栽培する上で、畑の土壌はpH6.5〜7.5、好ましくは中性pH7に調整するのがよい。
【0016】
茸を栽培する上で、適度の湿度を必要とするが、畑の水はけがよい場合には溝の底部に水真砂又はくろぼくを敷くようにするのがよい。有機栽培をしている畑では、水はけが悪いことなどないが、残留農薬や雑菌に侵されないように、栽培用のプランターを用いて菌を蔓延させる。この時水はけの良い堆肥を沢山前もって用いて土壌改良をはかる必要がある。
【0017】
溝の深さは温度や湿気を維持し得る深さ、例えば40cm〜50cmとし、堆肥又は土壌を30cm〜40cmの深さに入れるようにするのがよい。
【0018】
害虫の忌避材は次のものを採用するのがよい。即ち、木酢を入れた容器を畑の溝の廻りに間隔をあけて設置すると、キノコバエなどを忌避することができる。
【0019】
本件発明者らはハタケシメジ、マッシュルーム、フクロタケを露地栽培できることを確認したが、ホンシメジ、ヒラタケ、ブナシメジ、シイタケ、エリンギなどの他の食用茸にも同様に適用できることが期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を図面に示す具体例に基づいて詳細に説明する。図1ないし図3は本発明に係る害虫誘引材の製造方法の好ましい実施形態を示す。本例の害虫誘引材を製造する場合、予め穀物培地及び寒天培地を製造する。
【0021】
穀粒培地を製造する場合、図1の(a)に示されるように、鍋100に1.5リットルの水102を入れ、これに1kgの麦101を加え、加熱して炊き出す。炊き出してから15分程度経過すると、図1の(b)に示されるように、笊103で湯切りをし、麦汁は容器104にとっておく。
【0022】
次に、図1の(c)に示されるように、笊103の麦を数回切り返し、この麦に図1の(d)(e)に示されるように12gの石膏104と3gの炭酸カルシウム105を加えてかき混ぜ、全体に馴染ませる。この混合物を図1の(f)に示されるように1リットルの瓶107に対して8分目程度まで入れ、綿で塞ぎ、複数本の瓶107の上方をアルミ箔で覆い、これを図1の(g)に示されるように高圧殺菌鍋108に入れ、120°Cで30分以上加熱し、殺菌すると、穀粒培地が得られる。
【0023】
また、図2の(a)(b)に示されるように、容器104で取った麦汁に水を加えて1.5リットルとし、これに30gの砂糖(又は蔗糖)110と37.5gの寒天111を加え、加熱して煮沸し、図2の(c)に示されるように分注器を用いて試験管112に8ミリリットルを分注し、綿で塞ぎ,複数本の試験管112の上方をアルミ箔で覆い、図2の(d)に示されるように高圧殺菌鍋113に入れ、120°Cで30分以上加熱し、殺菌すると、麦汁抽出エキス寒天培地が得られる。
【0024】
こうして穀粒培地及び寒天培地が得られると、図3の(a)(b)に示されるように、容器120からアガリクスビスポラス菌121を取り出して試験管126の寒天培地122に植えつけるとともに、容器123から納豆菌124を取り出して試験管127の寒天培地125に植えつけ、クリーンベンチを用いて純粋培養する。
【0025】
試験管126、127の寒天培地122、125に菌糸が十分に蔓延すると、図3の(c)に示されるように、クリーンベンチ内においてアガリクスビスポラス菌121を穀粒培地128に植えつける。
【0026】
アガリクスビスポラス菌121が穀粒培地128表面の1/5程度まで増殖すると、図3の(d)に示されるように、納豆菌124を植えつけ、穀粒培地128表面の全体に増殖すると、誘引材が得られる。
【0027】
本例の誘引材をハタケシメジの露地栽培に適用した。ハタケシメジを露地栽培する場合、秋頃にハタケシメジが収穫できるように準備をする。まず、図4に示されるように、畑10に50cm〜100cmの範囲内の幅、例えば100cm、40cm〜50cmの深さ、例えば40cmの凹状の溝11を長手方向に延びるように掘る。畑10は市販のpH調整剤などを用いて土壌を中性域pH6.5〜7.5に調整しておく。
【0028】
また、マッシュルーム(アガリクスビスポラス)に対する虫除けのために、溝11の両側にその年の5月頃にヤーコン15を1.5m間隔で植えておく(また、前年のハヤトウリの葉だけを乾燥したものを溝11の周囲に吊るようにしてもよい)。ヤーコンは後日健康茶として用いることができる、芋自体は生で食べることができるし、それを翌年の種芋にすることができる。また、タバコの葉を乾燥させ忌避材として利用することもできる。11月に麦を植えて、藁自体はフクロウタケの栄養分として使用できる。麦は穀粒培地として茸の栄養分として培養することができるし、誘引材として利用することもできる。
【0029】
畑10の土壌の水はけがよい場合には溝11の底に水真砂を適当な厚さで敷く。次に、溝11内に土壌12を厚さ30cmに入れ、土壌12内に菌床ブロック14を埋設する。菌床ブロック14にはおが屑を用いて製作しハタケシメジの種菌を接種しておく。
【0030】
また、溝12の上方を樹木の枝や笹(遮光材)16で覆う。枝や笹に代え、市販の遮光ネットを用いることもできる。
【0031】
本例の誘引材17を畑10の溝11の周囲に播く。また、誘引材17は畑10に麦を植え、藁を取り入れ、これを原料として穀粒培地を製作することができる。この誘引材17にはナメクジ、蝸牛及びだんご虫などが誘引され、栽培しているハタケシメジが虫害を受けるのを少なくできる。また、容器18に詰めた脱脂綿に木酢をしみ込ませ、これを溝11の周囲に適当な間隔をあけて設置すると、ハタケシメジに近寄ってきたキノコバエなどを忌避することができる。
【0032】
また、畑10の溝11の廻りの雑草は除草せず、そのままにしておくと、虫よけに利用でき、除草に対する作業者の負担を少なくできる。
【0033】
こうして準備が完了すると、後はハタケシメジが育ち、収穫することができる。本件発明者らの実験によれば2.5kgの菌床ブロック45個から平均1.2kgのハタケシメジを収穫することができた。また、ナメクジ、蝸牛及びだんご虫などによる虫害はほとんど発生しなかった。
【0034】
図5はマッシュルームの露地栽培に適用した例である。本例では土壌12に代え、堆肥12''を溝11内に入れ、堆肥12''にマッシュルームの菌を接種するようにしている。菌がまわりきったら覆土12''Aを約3cmして菌かきをする。水はけがよい場合には溝11の底にくろぼくを敷いておく。
【0035】
図6はフクロタケの露地栽培に適用した例である。本例では溝11’の深さを50cmとし、藁堆肥12’を40cmの厚さに敷き、藁堆肥12’にフクロタケの菌を接種するようにしている。
【0036】
マッシュルーム及びフクロタケの露地栽培においても本例の誘引材を用いることによってナメクジ、蝸牛及びだんご虫などによる虫害がほとんど発生さず、安定した収穫が可能であった。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係る害虫誘引材の製造方法の好ましい実施形態における穀粒培地の製造例を説明するための図である。
【図2】上記実施形態における寒天培地の製造例を説明するための図である。
【図3】上記実施形態における害虫誘引材を製造例を説明するための図である。
【図4】上記実施形態が適用されるハタケシメジの露地栽培方法の1例を示す図である。
【図5】上記実施形態が適用されるマッシュルームの露地栽培方法の1例を示す図である。
【図6】上記実施形態が適用されるフクロタケの露地栽培方法の1例を示す図である。
【符号の説明】
【0038】
121 アガリクスビスポラス菌
122、125 麦汁抽出エキス寒天培地
126、127 試験管
128 穀粒培地
17 誘引材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナメクジ、蝸牛、だんご虫などの害虫を誘引するのに用いる誘引材であって、
穀粒培地にアガリクスビスポラス菌及び納豆菌を植えつけて培養してなることを特徴とする害虫の誘引材。
【請求項2】
純粋培養したアガリクスビスポラス菌を穀粒培地に植えつけて菌糸を増殖させ、そこに純粋培養した納豆菌を植えつけて増殖させるようにしたことを特徴とする害虫誘引材の製造方法。
【請求項3】
寒天培地にアガリクスビスポラス菌及び納豆菌を各々植えつけて純粋培養するようにした請求項3記載の害虫誘引材の製造方法。
【請求項4】
上記穀粒培地が、麦、マイロ、粟、稗、大豆、大麦、小麦から選ばれる1又は複数の煮沸物に石膏及び炭酸カルシウムを混合して製造されたものである請求項3記載の害虫誘引材の製造方法。
【請求項5】
上記寒天培地に、麦汁抽出エキス寒天培地、馬糞抽出エキス寒天培地、もみがら抽出エキス寒天培地、マスマ抽出エキス寒天培地、ビール酵母抽出エキス寒天培地、ススキ抽出エキス寒天培地、稗抽出エキス寒天培地、粟抽出エキス寒天培地のいずれかを用いるようにした請求項3記載の害虫誘引材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−301755(P2008−301755A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−151231(P2007−151231)
【出願日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【出願人】(507187868)マツケン産業株式会社 (2)
【Fターム(参考)】