説明

害虫防除装置

【課題】加熱時間を短縮しても殺虫効果が長時間持続し得る害虫防除装置が望まれていた。
【解決手段】本発明に係る害虫防除装置は、殺虫成分を含有する処理薬剤を、発熱体を用いて加熱することによって空中に揮散する害虫防除装置において、殺虫成分として30℃における蒸気圧が2×10−4〜1×10−2mmHgであるピレスロイド化合物から選ばれた1種又は2種以上の化合物を含有する処理薬剤を、発熱体の表面温度を70〜150℃に加熱して、短時間で加熱蒸散させて、空中に揮散する殺虫成分を含有する前記処理薬剤の粒子径を1μm以下とし、加熱蒸散時間の2倍以上の時間を害虫防除可能な雰囲気とすることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蚊等の飛翔害虫を防除する害虫防除装置に係り、さらに詳しくは殺虫成分を低温で、かつ短時間で加熱蒸散させることによって長時間の害虫防除効果を発現させることができる害虫防除装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、蚊等の飛翔害虫や吸血性害虫を駆除する方法として、殺虫成分を含有する処理薬剤を発熱体を用いて加熱蒸散させる、蚊取りマットや液体式電気蚊取り等の害虫防除装置が広く用いられている。
これらの害虫防除装置は、就寝時間中などの長時間あるいは、数日という長期間にわたって防除効果を保持することが特長であり、従前においても防除効果を保持させるために、殺虫成分を如何に連続して長時間蒸散させるかという観点から各種の技術開発が行われてきた。
例えば特許文献1には、特定の殺虫成分と揮散調整剤を用い、さらにマットの面積と放熱板の面積を所定の割合にすることによって、5日以上の長期間にわたり、具体的には12時間という長時間の連続加熱蒸散を10日間実施した場合においても安定した殺虫成分の蒸散を維持し得る殺虫マットが開示されている。
【0003】
ところで、近年、衛生環境の整備や住宅事情の変化で、特に都市部のマンション等では住居の密閉化が進んでいることもあり、建物外から建物内に蚊等の害虫が侵入する機会が減っている。このため、このような居住空間においては、就寝前に部屋にいる蚊等を駆除すれば、必ずしも従来の害虫防除装置のように就寝時間中など連続して殺虫成分を蒸散させる必要がなくなってきている。
【0004】
かかる状況から、元来殺虫効果が一過性のスプレーやエアゾールタイプの防虫剤については、近年、噴霧後の殺虫成分気中濃度の減少を抑え、殺虫効果の持続化を図る試みが提案されている。
例えば、特許文献2には、主として、エアゾール噴霧方式やピエゾ噴霧方式の防虫剤において、好ましくは常温揮散性ピレスロイドを用い、蒸気圧の高い溶媒を使用することによって処理薬剤の粒子径を微細化し、処理薬剤量の気中残存率を処理開始から3時間以上12時間未満の間において1%以上とするか、または処理開始から12時間以上24時間未満の間において0.5%以上にできることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許3286833号公報
【特許文献2】特許4554008号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載の害虫駆除方法は、エアゾール噴霧方式やピエゾ噴霧方式の防虫剤に関するものであり、蚊取りマットなどの熱エネルギーによって殺虫成分を蒸散させる害虫防除装置の場合とは、空中での殺虫成分の挙動は大きく異なることになる。従って、殺虫効果の持続化に関する特許文献2に記載の方法は害虫防除装置には参考にならない可能性がある。
【0007】
また、特許文献2に記載の方法では、処理薬剤量の一部が12時間後においてもある程度空気中に残存し、一定の殺虫効果を示すものと評価できるが、改良の余地がないわけではない。
【0008】
以上のことから、蚊取りマットや液体式電気蚊取り等の害虫防除装置に関しては、加熱時間を短縮しても殺虫効果が長時間持続し得るという効果を達成したものは存在していなかった。
【0009】
そこで、本発明者らは、これまで長時間の連続使用が基本と考えられてきた加熱蒸散製剤のコンセプトを根本的に見直し、加熱時間を短縮しても殺虫効果が長時間持続し得る独創的な害虫防除方法の開発に取り組み、殺虫成分気中濃度と殺虫効果の持続性との関係を鋭意検討した結果、特定の殺虫成分を用いることによって、加熱時間を短縮しても殺虫効果が長時間持続し得ることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は上記した従来の問題点に鑑みてなされたものであって、加熱時間を短縮しても殺虫効果が長時間持続し得る害虫防除装置の提供を目的とする
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1に係る害虫防除装置は、殺虫成分を含有する処理薬剤を、発熱体を用いて加熱することによって空中に揮散する害虫防除装置において、殺虫成分として30℃における蒸気圧が2×10−4〜1×10−2mmHgであるピレスロイド化合物から選ばれた1種又は2種以上の化合物を含有する処理薬剤を、発熱体の表面温度を70〜150℃に加熱して、短時間で加熱蒸散させて、空中に揮散する殺虫成分を含有する前記処理薬剤の粒子径を1μm以下とし、加熱蒸散時間の2倍以上の時間を害虫防除可能な雰囲気とすることを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項2に係る害虫防除装置は、ピレスロイド化合物が、メトフルトリン、トランスフルトリン、プロフルトリン及びエンペントリンから選ばれた1種又は2種以上の化合物であることを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項3に係る害虫防除装置は、害虫防除装置が、発熱体の加熱時間を制御する制御手段を備えることを特徴とする。
【0014】
本発明の請求項4に係る害虫防除方法は、請求項1から3のいずれか一項に記載の害虫防除装置を用いて、加熱蒸散時間の2倍以上の時間を害虫防除可能な雰囲気とすることを特徴とする。
【0015】
本発明に係る害虫防除装置は、殺虫成分を含有する処理薬剤、発熱体を主要な構成要件として構成される。なお、本発明にかかる害虫防除装置の代表例としては、蚊取りマットや液体式電気蚊取りがあげられる。
【0016】
本発明で用いる処理薬剤は、30℃における蒸気圧が2×10−4〜1×10−2mmHgであるピレスロイド化合物から選ばれた1種又は2種以上の殺虫成分が薬剤担持体などに含有されたものである。このような殺虫成分は、常温揮散性を有するものであり、例えば、メトフルトリン、トランスフルトリン、プロフルトリン、エンペントリン、テラレスリン、フラメトリン等があげられる。そしてその中でも、メトフルトリン、トランスフルトリン、プロフルトリン、エンペントリンを用いることが好ましい。
なお、ピレスロイド化合物の酸成分やアルコール部分において、不斉炭素に基づく光学異性体や幾何異性体が存在する場合にはこれら異性体やその混合物も本発明に包含されることはもちろんである。
また、本発明の目的に支障を来たさない限りにおいて、上記殺虫成分よりも蒸気圧の低い従来の汎用ピレスロイド化合物、例えば、アレスリン、プラレトリン、ピレトリン等を配合することもできる。
【0017】
本発明で用いる処理薬剤中の殺虫成分の含有量は、短時間に比較的高濃度の殺虫成分を蒸散させる必要があることから、従来の処理薬剤に比べて高濃度となる。もちろん、使用する殺虫成分の種類や設定される加熱時間等によって、処理薬剤当たりの殺虫成分含有量を適宜決定してよいが、例えば、メトフルトリン、プロフルトリン、トランスフルトリンを含有する1日用蚊取りマットの場合には、従来タイプにおいては2.0〜15mg/マットの含有量であるのに対して、本発明においては1〜100mg/マット程度が、また、60日用液体式電気蚊取りの場合には、従来タイプにおいては0.1〜2.0容量%の含有量であるのに対して、本発明においては1.0〜20容量%程度が好適である。
【0018】
また、従来の蚊取りマットの場合には、マットを100〜180℃で加熱することから、ステアリン酸ブチル、ピペロニルブトキサイドやN−(2−エチルヘキシル)−ビシクロ[2,2,1]ヘプタ−5−エン−2,3−ジカルボキシイミドのような揮散徐放化剤を配合しないと初期段階で過剰の殺虫成分が揮散してしまい、使用中期から後期にかけて殺虫効果の低下が著しいが、本発明の処理薬剤は、短時間加熱のため、そのような揮散徐放化剤の配合を必要としない。
【0019】
殺虫成分が含有される薬剤担持体としては、紙、不織布、樹脂製フィルム、繊維製シート、ゲル状物質、セラミックスなどがあげられる。
また、殺虫成分をゲル状物質に含有したものや液状の殺虫成分を容器に収納して透過性フィルムで蓋をしたもの、さらに、殺虫成分を2,4,6−トリイソプロピル−1,3,5−トリオキサンなどの昇華性部材に練り込んだものを処理薬剤として用いることもできる。
【0020】
薬剤担持体の形状としては特に限定されず、平板状、筒状、リング状、棒状、円錐状、U字状など各種の形状を採用することができる。また、薬剤担持体の外周や外周の一部には、殺虫成分などの薬剤に指などが直接接触しないように枠体を設けることができる。
【0021】
なお、本発明で用いる処理薬剤は公知の製造方法を採用できる。例えば、殺虫成分などの薬剤を薬剤担持体に印刷または練り込むことによって製造することができる。
【0022】
本発明で用いる発熱体は、従来よりも低い温度である、70〜150℃の範囲で加熱されることによって使用される。
【0023】
発熱体としては、PTC特性などを利用したヒーターに代表される電気加熱、水と酸化カルシウムや酸素と酸化鉄との反応熱を利用した化学反応による加熱などを採用することができる。
また、発熱体の形状としては特に限定されず、平板状、リング状、棒状、円錐状、U字状など各種の形状を採用することができる。
【0024】
本発明の害虫防除装置は、加熱時間を短時間にする必要があることから、発熱体の加熱を制御する制御手段が設けられていることが好ましい。これら制御手段としては、所定の加熱蒸散時間が経過した後に加熱を終了するスイッチオフ機能を始め、加熱開始と加熱終了の両方を制御するタイマー機能や、加熱時間と休止時間を設け、例えば加熱時間を1時間以下(好ましくは15〜30分間)とする一方、所定の休止時間を適宜設定し、これを交互に作動させる間欠式運転機能などが挙げられる。
また、蚊取りマットや液体式電気蚊取りのいずれに用いられるものであっても、蒸散する殺虫成分が微量であることから、加熱温度を厳密にコントロールできることが好ましい。
【0025】
本発明の害虫防除装置は、発熱体の加熱に電気加熱を採用する場合には、乾電池、蓄電池、太陽電池などの電池や家庭用電源などを電源として使用することができる。ここで、本発明の害虫防除装置は、加熱時間が短時間であることから、特に、乾電池を電源として使用すれば、装置がコンパクトになり好適である。
【0026】
そして、本発明の害虫防除装置は、上記した構成、すなわち、殺虫成分として特定の蒸気圧を有するピレスロイド化合物を使用し、従来の加熱温度よりも低い温度で殺虫成分を加熱蒸散させることで、加熱時間を短時間に短縮しても、その処理空間を加熱時間の2倍以上にわたり害虫防除可能な雰囲気とすることができるのである。
例えば、加熱時間を2時間未満に短縮しても、その処理空間を4時間以上にわたり害虫防除可能な雰囲気とすることができる。
【0027】
より具体的には、本発明の害虫防除装置は、殺虫成分として常温揮散性を有するピレスロイド化合物を使用し、かつ空中に放出される薬剤の粒子径が1μm以下であることより、処理空間における殺虫成分の気中濃度の低下を緩やかとし、その処理空間を長時間害虫防除可能な雰囲気とすることが可能となる。
ここで、特許文献2の[0058]によれば、蒸散する殺虫成分の粒子径が小さいほど気中に留まる確率が高い旨記載されている。特に、蚊取りマットや液体式電気蚊取りなどの加熱蒸散製剤の場合には蒸散する殺虫成分の粒子径は極めて小さいことが知られている。
従って、本発明の効果は、以下の2つの作用が相互に組み合わさって達成されるものと推察される。
(a)蒸散した殺虫成分の粒子径が0.001〜0.1μmと微細なため、空間により長く浮遊できる。
(b)殺虫成分が常温揮散性であるため、床や壁に付着したものが再揮散する。
【0028】
以下、本発明の害虫防除装置において採用することができる他の事項について述べる。
【0029】
上記した通り、本発明にかかる害虫防除装置の代表例としては、蚊取りマットや液体式電気蚊取りがあげられる。
蚊取りマットは、一般に殺虫成分にケロシンのような炭化水素系溶剤、必要ならば、BHT、パラヒドロキシ安息香酸メチルのような安定剤、着色剤、芳香成分、消臭成分などを適宜配合して原液を調製した後、パルプやリンター等のセルロース製マットに原液を含浸させることによって作製されるものである。
【0030】
液体式電気蚊取りは、蚊取りマットと同様の原液を使用することもあるが、ケロシンのような炭化水素系溶剤ではなく、水とともに、エタノール、イソプロパノールのような低級アルコール、エステル系もしくはエーテル系溶剤や、界面活性剤、分散剤等を適宜使用して水性原液とすることもでき、こうして調製された原液は、吸液芯を備えた薬液ボトルに充填後、吸液芯を介して60〜140℃で加熱蒸散させる方式に適用される。
吸液芯の素材としては、殺虫成分に対して安定で、かつ毛細管現象により原液を吸液するものが用いられ、具体的には、クレー、タルク、パーライト、珪藻土等の無機質材料を成形したもの、多孔質セラミック芯、ポリエステル系繊維及び/又はポリアミド系繊維からなるプラスチック芯等があげられる。なかでも、ポリエステル系繊維及び/又はポリアミド系繊維は殺虫成分に対する影響がほとんどないので好適である。但し、原液中の殺虫成分濃度が従来のものに較べて高くなるので、吸液芯中に目詰まりを生じないように幾分ポーラスなものを選定した方がよい。
また、吸液芯に色素、防腐剤、4,4’−メチレンビス(2−メチル−6−t−ブチルフェノール)、ステアリル−β−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート等の酸化防止剤を適宜添加してもよい。
【0031】
なお、本発明では、上記した殺虫成分とともに、他の揮散性薬剤を添加してもよい。このような揮散性薬剤としては、ディート、ジメチルフタレート、p−メンタン−3,8−ジオール等の忌避成分、ヒノキチオール、テトラヒドロリナロール、オイゲノール、シトロネラール、アリルイソチオシアネート等の抗菌成分、イソプロピルメチルフェノール、オルトフェニルフェノール等の防黴成分、オレンジ油、レモン油、ラベンダー油、ペパーミント油、ユーカリ油、シトロネラ油、ライム油、ユズ油、ジャスミン油、檜油、緑茶精油、リモネン、α−ピネン、リナロール、ゲラニオール、フェニルエチルアルコール、アミルシンナミックアルデヒド、クミンアルデヒド、ベンジルアセテート等の芳香成分、「緑の香り」と呼ばれる青葉アルコールや青葉アルデヒド配合の香料成分などがあげられるがこれらに限定されない。
【0032】
近年、芳香成分を室内に漂わせて、気分を和らげ疲労回復を促す、いわゆるアロマテラピーが普及しているが、本発明の害虫防除装置と効果的に協働させることができる。具体的には、殺虫成分とともに、オレンジ油、レモン油、ラベンダー油、ペパーミント油、ユーカリ油等を添加した処理薬剤を本発明に適用することによって、優れた害虫防除効果とアロマテラピー効果を同時に長時間にわたり享受することが可能となる。例えば、就寝前に施用すれば、蚊に刺咬されることなく、しかもリラックスした気分で安眠できるので、極めて実用的である。
【0033】
さらに、必要により、色素、防腐剤、安定剤、界面活性剤、分散剤、溶剤等が含有されてもよい。色素としては、例えば青色2号等の有機染料があげられ、防腐剤としては、例えばソルビン酸、デヒドロ酢酸、p−ヒドロキシ安息香酸等の酸、あるいはそれらの塩等が代表的である。
【0034】
安定剤としては酸化防止剤や、前記炭素粉末に対する安定剤としてのポリエチレングリコール等があげられる。特に、沸点が250℃以上のジ−tーブチル−フェノール系安定剤を添加することは好ましい。この安定剤には、2,6−ジ−ターシャリーブチル−4−メチルフェノール(BHT)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−ターシャリーブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−ターシャリーブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−ターシャリーブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−ターシャリーブチルフェノール)、2−ターシャリーブチル−6−(3−ターシャリーブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2,4−ジ−ターシャリーブチルフェニル 3,5−ジ−ターシャリーブチル−4−ヒドロキシベンゾエート等が挙げられる。このような安定剤を添加することにより、ピレスロイド化合物の保存時における経時的な安定性のみならず、加熱蒸散時の安定性も著しく増強させ、さらに揮散後の有効成分の効力持続性の向上にも寄与しえるものである。安定剤の添加量としては、ピレスロイド化合物に対し、0.01〜0.5倍量を配合するのが好ましい。
【0035】
界面活性剤や分散剤は、殺虫成分等を含む分散液の調製に適宜用いられ、このようなものとして、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルアミノエーテル類などのエーテル類、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル類などの脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンスチレン化フェノール、脂肪酸のポリアルカロールアミド等を例示できる。
また、上記分散液の調製に用いる溶剤としては通常、沸点が150〜350℃の飽和炭化水素系溶剤が好適である。
【0036】
なお、本発明では、蚊取りマットや液体式電気蚊取りのように、便宜的に蚊取り用の製剤として称するが、蚊以外の害虫にも適用されるものであることは言うまでもない。
【0037】
また、このように構成される本発明の害虫防除装置は、屋内、屋外を問わず、好ましくは就寝時の室内、外出時の玄関やリビングルーム等で有用であり、各種の害虫、例えば、アカイエカ、コガタアカイエカ、ネッタイイエカ、チカイエカ等のイエカ類、ネッタイシマカ、ヒトスジシマカ等のヤブカ類、ユスリカ類、イエバエ類、チョウバエ類、ノミバエ類、アブ類、ブユ類、ヌカカ類、イガ類等の飛翔害虫、並びに、チャバネゴキブリ、ワモンゴキブリ、クロゴキブリ等のゴキブリ類、ダニ類、アリ類、ナンキンムシ、チャタテムシ、シバンムシ、コクゾウムシ等の匍匐害虫を防除する場面で実用性が高い。
【発明の効果】
【0038】
本発明に係る害虫防除装置および害虫防除方法によれば、蚊取りマットなどの害虫防除装置において、短時間の加熱蒸散によっても長時間の殺虫効果を持続させることができる。また、加熱温度を150℃以下にできることで火傷を防止することができる。さらに、加熱時間が短時間であり、かつ加熱時間を制御できることから電池でも装置の駆動ができ、携帯が可能となり、また使用場所の制約をなくすことができる。
【発明を実施するための形態】
【0039】
つぎに具体的実施例ならびに試験例に基づいて、本発明の害虫防除方法を更に詳細に説明するが、本発明はもちろんこれらに限定されない。
【実施例1】
【0040】
殺虫成分としてメトフルトリン20mgを用い、BHT2.0mg、および微量の青色染料をケロシン100mgに溶解させて原液を調製し、パルプ/リンター製マット(大きさ:22×35mm、厚さ:2.8mm)に含浸させて実施例1の蚊取りマットを得た。
【実施例2】
【0041】
殺虫成分としてトランスフルトリンを用いた以外は実施例1と同様にして実施例2の蚊取りマットを得た。
【実施例3】
【0042】
殺虫成分としてプロフルトリンを用いた以外は実施例1と同様にして実施例3の蚊取りマットを得た。
【実施例4】
【0043】
殺虫成分としてエンペントリンを用いた以外は実施例1と同様にして実施例4の蚊取りマットを得た。
【比較例】
【0044】
殺虫成分としてエトックを用いた以外は実施例1と同様にして比較例1の蚊取りマットを得た。
【0045】
つぎにこの蚊取りマットを電気蚊取り器具の加熱板に載置して、表1に記載の条件で加熱板を加熱し、以下に示す「25m3の部屋での実地殺虫効力試験」を実施した。結果を纏めて表1に示す。
【0046】
(25m3の部屋での実地殺虫効力試験)
閉めきった25m3の部屋の中央で蚊取りマットを表1に記載の条件で加熱蒸散させた。直ちに、アカイエカ雌成虫50匹を放ち2時間暴露させた後、全ての供試蚊を回収した。その間、時間経過に伴い落下仰転したアカイエカ雌成虫を数え、KT50値を求めた。同じ部屋で引き続き、加熱蒸散4時間後、および加熱蒸散7時間後についても同様な操作を行った。
【0047】
【表1】

【0048】
試験の結果、実施例1〜4の蚊取りマット結果を使用した本発明の害虫防除装置(試験例1〜6)によれば、30分〜2時間の短時間の加熱蒸散処理でも、その後7時間以上にわたり極めて優れた殺虫効果を保持した。
これに対し、比較例1の従来の蚊取りマットのように、殺虫成分として比較的蒸気圧が低いエトックを用いた場合には、殺虫効果が時間の経過と伴に速やかに低下した。これらの試験結果から、殺虫成分として、30℃における蒸気圧が2×10−4〜1×10−2mmHgであるピレスロイド化合物、好ましくは、メトフルトリン、プロフルトリン、トランスフルトリンから選ばれた1種又は2種以上を選択することの効果並びに有用性が実証された。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の害虫防除装置は、害虫防除用途だけでなく、抗菌、消臭、芳香用等、各種の分野に利用できる可能性がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
殺虫成分を含有する処理薬剤を、発熱体を用いて加熱することによって空中に揮散する害虫防除装置において、
殺虫成分として30℃における蒸気圧が2×10−4〜1×10−2mmHgであるピレスロイド化合物から選ばれた1種又は2種以上の化合物を含有する処理薬剤を、
発熱体の表面温度を70〜150℃に加熱して、
短時間で加熱蒸散させて、
空中に揮散する前記殺虫成分を含有する前記処理薬剤の粒子径を1μm以下とし、
加熱蒸散時間の2倍以上の時間を害虫防除可能な雰囲気とすることを特徴とする害虫防除装置。
【請求項2】
前記ピレスロイド化合物が、
メトフルトリン、トランスフルトリン、プロフルトリン及びエンペントリンから選ばれた1種又は2種以上の化合物であることを特徴とする請求項1に記載の害虫防除装置。
【請求項3】
前記害虫防除装置が、
前記発熱体の加熱時間を制御する制御手段を備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の害虫防除装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の害虫防除装置を用いて、加熱蒸散時間の2倍以上の時間を害虫防除可能な雰囲気とすることを特徴とする害虫防除方法。

【公開番号】特開2012−90539(P2012−90539A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−239115(P2010−239115)
【出願日】平成22年10月25日(2010.10.25)
【出願人】(000207584)大日本除蟲菊株式会社 (184)
【Fターム(参考)】