説明

容器包装詰加熱殺菌食品用臭い改良剤及び密封容器詰食品

【課題】肉類を内容物とするレトルト食品の風味を損なうことなく、レトルト臭を低減可能な容器包装詰加熱殺菌食品用臭い改良剤を提供することである。
【解決手段】肉類を内容物とする容器包装詰加熱殺菌食品用の臭い改良剤であって、2−フランメタンチオールから成ることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器包装詰加熱殺菌食品用の臭い改良剤及びこの臭い改良剤を含有してなる容器包装詰加熱殺菌食品に関するものであって、より詳細には、肉類を内容物とする容器包装詰加熱殺菌食品における加熱殺菌に伴う不快臭を低減可能な臭い改良剤、及びこの臭い改良剤及び肉類を内容物とする含有してなる容器包装詰加熱殺菌食品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、種々の食品を、缶、パウチ等の容器に充填した後密封し、これをレトルト殺菌と呼ばれる加圧加熱殺菌処理に付してなる容器包装詰め加熱殺菌食品(以下、「レトルト食品」ということがある)は知られており、食品の長期保存性に優れると共に、調理済み食品の簡便な提供が可能であることから市場に広く出回っている。
【0003】
しかしながら、このレトルト食品においては、レトルト殺菌に起因する不快臭(以下、「レトルト臭」ということがある)が発生することが知られており、このようなレトルト食品に特有のレトルト臭を除去、低減させるために種々の提案がなされている。
例えば、風味油を添加する方法(特許文献1)、クロロゲン酸、カフェー酸、フェルラ酸から選ばれる少なくとも1種を有効成分として含有するレトルト食品用風味劣化防止剤(特許文献2)、酵母抽出物を有効成分とするレトルト臭改善剤(特許文献3)等が提案されている。
【0004】
【特許文献1】特開平6−339364号公報
【特許文献2】特開2000−308477号公報
【特許文献3】特開2002−191298号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来提案されていたレトルト臭を除去、低減させる方法は、内容物の風味を損なうおそれがある。またレトルト食品の中でも肉類を内容物とするものは、レトルト臭が発生しやすく、その臭いも強いことから、従来提案されていた方法では、特に肉類を内容物とするレトルト食品のレトルト臭を十分満足し得る程度まで除去或いは低減することが困難である。
従って本発明の目的は、肉類を内容物とするレトルト食品の風味を損なうことなく、レトルト臭を低減可能な容器包装詰加熱殺菌食品用臭い改良剤を提供することである。
本発明の他の目的は、肉類を内容物とする、レトルト臭の低減された密封容器詰食品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、肉類を内容物とする容器包装詰加熱殺菌食品用の臭い改良剤であって、2−フランメタンチオールから成ることを特徴とする臭い改良剤が提供される。
本発明によればまた、肉類を内容物とする容器包装詰加熱殺菌食品であって、内容物中に50乃至500ppbの2−フランメタンチオールを含有することを特徴とする容器包装詰加熱殺菌食品が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明の臭い改良剤は、肉類を内容物とするレトルト食品に配合することにより、内容物の風味を損なうことなく、レトルト臭を有効に低減することが可能であると共に、肉類独特の好ましい香りを付与することが可能となる。
また本発明の密封容器詰食品は、肉類を内容物とするレトルト食品に特有のレトルト臭が低減されていると共に、肉類独特の風味を備え、フレーバー性にも優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
前述したとおり、レトルト臭は、レトルト殺菌と呼ばれる加圧加熱殺菌処理に付してなる容器包装詰め加熱殺菌食品(レトルト食品)に特有の不快臭であり、特に肉類が主原料である内容物の場合には、一般的な調理済み食品等に比してレトルト臭が顕著に現われやすく、従来技術では肉類を内容物とする場合のレトルト臭を有効に低減することができず、いまひとつおいしさに欠けるという問題があった。
本発明の臭い改良剤を構成する、2−フランメタンチオール(フルフリルメルカプタン)は、下記式(1)で表される硫黄化合物であり、コーヒーの焙煎香中に存在することが知られ、香料としても市販されているが、本発明においては、この2−フランメタンチオールを肉類を内容物とするレトルト食品に配合することにより、肉類を内容物とするレトルト食品のレトルト臭が顕著に低減されると共に、肉類独特の好ましい香りを付与することが可能になるのである。
【0009】
【化1】

【0010】
一般に肉類には種々の香気成分が含有されており、本発明者等はこのような肉類に含有される香気成分について後述する分析方法を用いて研究を行った結果、2-フランメタンチオールがレトルト臭を低減可能であると共に、肉類独特の好ましい香りを付与できることを見出した。
すなわち、後述する実施例の結果から明らかなように、肉類から捕捉し、香調が判明した種々の香気成分を、肉類を内容物とするレトルト食品に添加したところ、2−フランメタンチオールは好ましい香りを付与するのみならず、レトルト臭が低減されているのに対し(実施例1及び2)、肉類に含有される他の香気成分は、それ単独では好ましい香調を有するものであったとしても、レトルト臭を低減することは勿論、付加することによりかえって不快臭を増しており(比較例1及び2)、2−フランメタンチオールが肉類を内容物とするレトルト食品に対して特に優れた作用効果を発現できることが明らかである。
【0011】
本発明の容器包装詰加熱殺菌食品(レトルト食品)においては、内容物中の2−フランメタンチオールの量が50乃至500ppb、特に100乃至300ppbの範囲にあることが重要である。これによりレトルト臭を効果的に抑制すると共に、内容物に肉類特有の好ましい香気が付与されたレトルト食品を提供することが可能となる。上記範囲よりも配合量が少ない場合には、2-フランメタンチオールを配合することによるレトルト臭の低減及び好ましい香りの付与が十分に達成されず、その一方上記範囲よりも配合量が多い場合には、かえって不快臭を増すことになる。
【0012】
本発明者等が加熱殺菌前後のレトルト食品における内容物中の2−フランメタンチオールの濃度について調査した結果、2−フランメタンチオールは、加熱殺菌によって内容物たる肉類が加熱され、肉組織が分解されることによって生成する一方、加熱殺菌中に容器内面への吸着等により減少するため、内容物の種類によっても相違するが、2−フランメタンチオールを内容物中に30乃至1000ppb、特に50乃至600ppbの範囲で配合することが好ましい。これにより、加熱殺菌後の容器中の内容物に含まれる2−フランメタンチオールの量を50乃至500ppbの範囲に調整することが可能となる。
【0013】
2−フランメタンチオールは、一般に香料としてエタノールに希釈された状態で入手可能であり、これをそのまま肉類を主原料とする内容物に配合することもできるが、希釈剤を用いて内容物に配合することが、極微量の2-フランメタンチオールを内容物中に均一且つ効率的に配合することができるので好ましい。希釈剤としては、これに限定されないが、大豆油、綿実油等を用いることができる。
【0014】
本発明の臭い改良剤は、肉類を内容物とする容器包装詰加熱殺菌食品のレトルト臭の低減に効果的に用いられるが、肉類としては、これに限定されないが、牛肉、豚肉、鶏肉、羊肉等の畜肉、或いは魚、貝、甲殻類、頭足類等の魚介類や、猪、鹿、兎等の獣肉類、鴨、アヒル、ダチョウ等の鳥肉類、鯨肉等の哺乳類等を挙げることができる。また人間の食用のもののみならず、家畜或いはペット用のものも含まれる。このような内容物としては、例えば、ランチョンミート、コンビーフ、ツナ油漬、鮭水煮、牛肉の大和煮、鶏ささみ油漬等の他、ペットフード等を挙げることができる。
またかかる内容物を充填する容器の形態としては、缶、瓶、パウチ、チューブ、紙及びプラスチック容器等、従来、容器包装詰加熱殺菌食品用の容器として用いられていたすべての容器形態を採用することができる。
【0015】
容器包装詰加熱殺菌食品(レトルト食品)中の香気成分の抽出・捕集方法には、大きく分けて溶媒抽出法、蒸留法、ヘッドスペース分析法の3つが知られているが、本発明においては、レトルト食品中に含まれる香気成分の定量には、少量の溶媒で効率よく食品成分中の香気成分を抽出できる減圧蒸留抽出法を用い、定性には密閉容器の中でレトルト食品から立ち上り、試料上方に漂う香気成分をそのままGC−MSに注入し分析するヘッドスペース分析法及び臭い嗅ぎ法を組み合わせることにより、肉類を内容物とするレトルト食品中の2−フランメタンチオールの最適範囲を最も端的に調整することが可能となる。
本発明においては上述した減圧蒸留抽出法、ヘッドスペース分析法及び臭い嗅ぎ法を組み合わせることにより、レトルト食品中の2−フランメタンチオールの含有量と、レトルト臭及び肉類の好ましい香りの存在を調整することが可能になった。
【実施例】
【0016】
(肉類を主原料とする内容物の調製)
(1)鶏肉ささみ油漬
鶏ささみを常法にて蒸煮器で10〜15分間蒸煮した後冷却して、フレーク状にほぐした。
牛すね肉750gを水で洗浄後、鍋に塩45gと共に入れ、水3500gを加え、強火で加熱した。灰汁を取り除き、ローリエ5葉とぶつ切りにした野菜(にんじん300g、たまねぎ500g、セロリ200g、パセリ50g、キャベツ100g)を加え弱火で1時間30分間煮込んだ。予め血合いを除去した鯛のアラ500gとこしょう0.15gを加え、更に30分間煮込み、布巾で濾して約2500gの野菜汁を得た。
【0017】
(2)ランチョンミート
牛もも肉8.5kgと牛脂肪1.5kgを細刻後、鍋に入れ混合し、500mLの水を数回に分けて入れた。亜硝酸ナトリウム(関東化学株式会社製)700mg、食塩300gを数回に分けて入れ、ゲル化剤(三晶株式会社製GENUGELtypeCHP−40i−J)50gを添加した。更に水500mLを加えて攪拌した。その後一晩冷蔵庫に保管して塩漬けし、塩漬け肉を調製した。
【0018】
(減圧連続蒸留抽出法による2−フランメタンチオールの濃度測定)
減圧連続蒸留抽出には、NickersonとLinkensによって考案され、Schultz等によって改良された装置を文献(Schultz,T.H.,Flath,R.A.,Mon,T.R.,Eggling,S.B. and Teranishi,R : J.Agric. Food Chem., 25, 446(1977)Isolation of volatile components from a model system)通りの寸法で製作した器具を用いた。
抽出溶媒は100ml容のナス型フラスコに注入したジクロロメタン50mLを使用した。冷却管には−10℃の溶媒を循環させた。
蒸留フラスコの温度が65℃になったとき減圧コックを閉じ、定圧状態で2時間蒸留抽出した。抽出溶液に内標準としてシクロヘキサノール(1mg/1mLメタノール溶液)を一定量を添加後、無水硫酸ナトリウムを加え振とう、脱水した。
グデルナダニッシュ濃縮装置を用い、500μLまで濃縮後、更に寒剤(氷と食塩)中で窒素をシリンジ針から吹き込んで約100μLまで濃縮した。その1μLをGC−MSに注入し、同定、定量した。
【0019】
揮発性成分の分離・同定は以下のシステムで行った。
GC−MS:Hewlett Packard 6890
カラム:DB−Wax(J&W Scientfic)
カラムサイズ:長さ60m、内径0.25mm、膜厚0.25μm
キャリアガス:He
線速度:25cm/秒
スプリット比:20:1
オーブン温度:40℃、5分間保持、3℃/分で200℃まで昇温
注入口温度:260℃
トランスファーライン温度:250℃
検出器(MSD):イオン化法
イオン化電圧:70eV
スキャンレンジ:m/z 10.0〜300.0 1.58scan/sec
【0020】
NIST(National Institute of Standards and Technology,U.S.A.)のデータベースを含む、Hewlett Packard Chemistation Systemによりデータ解析及びライブラリーサーチを行った。マススペクトルとKovatsの保持指標が標準物質と一致するものを同定した。定量はシクロヘキサノールを内標準とし、感度補正なしで(補正係数=1)、2-フランメタンチオールの含有量を求めた。
【0021】
(実施例1)
上述した方法により調製されたフレーク状ささみ肉、野菜汁及び大豆油を、それぞれ45.5g、16.5g、3gを袋(東洋製罐株式会社製レトルトパウチRP−F、以下「レトルトパウチ」という)に入れ、2−フランメタンチオールのエタノール1%溶液(塩野香料株式会社製)を大豆油99gに対して1000mg配合してなる、2−フランメタンチオール含有大豆油を0.4gレトルトパウチに注入した。
このレトルトパウチをヒートシール機を用いて密封した後、121.1℃で20分間殺菌を行った後40℃以下まで冷却することにより、鶏肉ささみ油漬レトルトパウチを調製した(本発明品1)。尚、殺菌・冷却はシャワー等圧殺菌シャワー冷却方式で行った。
このレトルトパウチ(本発明品1)における加熱殺菌前後の2-フランメタンチオールの濃度を測定したところ、加熱殺菌前の濃度は600ppbであったが、最終製品中の濃度は382ppbであった。
2−フランメタンチオールを配合しない以外は、同様の方法により鶏肉ささみ油漬レトルトパウチを調製した(比較品1)。加熱殺菌後の2-フランメタンチオールの濃度は19ppbであった。
本発明品1と比較品1の鶏肉ささみ油漬レトルトパウチについて、20人のパネルによる2点嗜好試験法により官能評価を行った。その結果20人中15人が比較品1の鶏肉ささみ油漬よりも本発明品1の鶏肉ささみ油漬を好むと回答した。有意水準5%で有意差が認められた。
【0022】
(実施例2)
上述した方法により調製した塩漬け肉110gを缶体(東洋製罐株式会社製F3RF)に充填し、2−フランメタンチオールのエタノール1%溶液(塩野香料株式会社製)を大豆油98.9gに対して1100mg配合してなる、2−フランメタンチオール含有大豆油を0.1g缶体に注入した。チャンバーバキュームのゲージ圧を−70kPaとしたM2シーマーで缶蓋(東洋製罐株式会社製301)を巻き締めした。
このランチョンミート缶詰を113℃で61分間の殺菌を行い、缶詰を布で拭き、箱詰め後、室温で分析に供するまで保管した(本発明品2)。尚、殺菌・冷却は蒸気加圧冷却方式である。
実施例1と同様に、このランチョンミート缶詰(本発明品2)における加熱殺菌前後の2-フランメタンチオールの濃度を測定したところ、加熱殺菌前の濃度は100ppbであったが、最終製品中の濃度は67ppbであった。
2−フランメタンチオールを配合しない以外は、同様の方法によりランチョンミート缶詰を調製した(比較品2)。加熱殺菌後の2-フランメタンチオールの濃度は1ppbであった。
本発明品2と比較品2のランチョンミート缶詰について、31人のパネルによる2点嗜好試験法により官能評価を行った。その結果31人中22人が比較例2のランチョンミートよりも実施例2のランチョンミートを好むと回答した。有意水準5%で有意差が認められた。
【0023】
(比較例1)
実施例1と同様のレトルトパウチに、上述した方法により調製したフレーク状ささみ肉、野菜汁及び大豆油を、それぞれ45.5g、16.5g、3gを入れ、ジメチルジスルフィドのエタノール1%溶液(塩野香料株式会社製)を大豆油100g中に83mg、167mg、833mg、1667mg、5000mg、8333mg、16667mg配合してなる、7種の濃度の異なるジメチルジスルフィド含有大豆油をそれぞれ0.4gレトルトパウチに注入した。加熱殺菌前の7種のレトルトパウチのジメチルジスルフィドの濃度は50ppb、100ppb、500ppb、1000ppb、3000ppb、5000ppb、10000ppbであった。
この7種のレトルトパウチを実施例1と同様にして、密封後、殺菌・冷却を行った。加熱殺菌後の7種のレトルトパウチについて官能評価を行ったところ、何れもレトルト臭は抑制されておらず、またジメチルジスルフィドの濃度が1000〜5000ppbのレトルトパウチではキャベツ臭が付加されてしまい、かえって不快臭が増していた。
【0024】
(比較例2)
ジメチルジスルフィドのエタノール1%溶液の代わりにジメチルトリスルフィドのエタノール1%溶液(塩野香料株式会社製)を用いた以外は、比較例1と同様にして、ジメチルトリスルフィドの濃度の異なる、7種の鶏ササミ油漬レトルトパウチの製造を行った。
加熱殺菌後の7種のレトルトパウチについて官能評価を行ったところ、何れもレトルト臭を抑制することはできなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
肉類を内容物とする容器包装詰加熱殺菌食品用の臭い改良剤であって、2−フランメタンチオールから成ることを特徴とする臭い改良剤。
【請求項2】
肉類を内容物とする容器包装詰加熱殺菌食品であって、内容物中に50乃至500ppbの2−フランメタンチオールを含有することを特徴とする容器包装詰加熱殺菌食品。

【公開番号】特開2009−34034(P2009−34034A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−200851(P2007−200851)
【出願日】平成19年8月1日(2007.8.1)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【Fターム(参考)】