説明

容器詰め飲料の製造方法

【課題】口部結晶化ポリエステル容器を使用しないでもポリエステル容器詰め酸性・低酸性飲料の製造が可能な製造方法を提供する。また、生産効率を向上させたポリエステル容器詰め酸性・低酸性飲料の製造方法を提供する。
【解決手段】温水及び/又は蒸気により空間内壁全面および空間内に設置された装置表面が湿熱加熱殺菌されるとともに無菌エアーにより陽圧保持される無菌閉鎖空間に口部非結晶ポリエステル容器を導入し、前記容器の少なくとも内面を温水及び/又は蒸気により湿熱加熱殺菌し、次いで前記殺菌済み容器に酸性・低酸性飲料を40℃以上で容器の含水率によって定まるガラス転移温度未満の温度範囲内の充填温度で充填して密封する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器詰め飲料、特に口部非結晶ポリエステルボトル入り酸性・低酸性飲料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来PETボトル詰め飲料の製造方法としてホットパックと呼ばれる方法が知られている。1例として特許文献1および2を挙げる。
【0003】
この方法は、85〜95℃に加温した酸性飲料(pH4.6未満)や低酸性飲料(pH4.6以上)を口部を結晶化させることにより耐熱性を持たせたPETボトルに充填し、密封後ボトルを横倒しにすることによりボトルの口部やキャップ部に内容液を接触させることにより口部やキャップ部を殺菌し、次いでボトルを冷却パストライザーにより冷却して製品とするものである。
【特許文献1】特開2001−278225号公報
【特許文献2】特開平8−309841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のとおり、PETボトル詰め飲料の製造方法は、一般に充填温度85〜95℃の高温で内容液をPETボトルに充填するものであるから、PETボトルはこの充填温度で充分な耐熱性を有する口部結晶化PETボトルを使用しなければならず、口部を結晶化していない口部非結晶PETボトルを使用することはできない。口部結晶化PETボトルは口部非結晶PETボトルに比べて高価であるから、ホットパックによるPETボトル詰め酸性飲料・低酸性飲料の製造コストが高いという欠点がある。
【0005】
また、ホットパックはボトル口部やキャップ部の殺菌のために密封後ボトルを横倒しにする工程を必要とし、この工程に時間を要する上に、ホットパックによる殺菌後に冷却パストライザーによりボトルを冷却する際に、ボトルが高温になっているため冷却に時間を要し、生産効率を悪くするという欠点がある。
【0006】
また、PETボトル詰飲料のように内容物が外部から見える容器詰飲料の場合は、容器内の内容物の体積減少が入味線により確認できるため、密封後の製品入味線を確認することで容器密封性を確認することができるが、一方製品のヘッドスペース部が広いと飲料の量が少ないという印象を消費者に与えるため、飲料の入味線(液面)をなるべく上昇させたいという要請が製造者側にはある。しかしホットパックは充填温度が高温であるため、冷却後の内容物の体積減少が大きく、開封後の入味線が大幅に下がりヘッドスペース部が広くなって、飲料の量が少ないという印象を与え勝ちである。
【0007】
本発明は、上記従来のPETボトル詰め飲料における高温充填法の欠点に鑑みなされたものであって、本発明の第1の目的は、口部結晶化PETボトル等の口部結晶化ポリエステル容器を使用しないでも容器詰め酸性・低酸性飲料の製造が可能な製造方法を提供することである。
【0008】
また、本発明の第2の目的は、容器の横倒し工程や冷却に従来のホットパックほど時間を必要とせず、生産効率を向上させることができるボトル詰め飲料等容器詰め酸性・低酸性飲料の製造方法を提供しようとするものである。
【0009】
さらに、本発明の第3の目的は、製品の入味線を確認することにより容器密封性を確認することができる一方入味線の大幅な低下を防止することができる容器詰め酸性・低酸性飲料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明者らは、鋭意研究と実験を重ねた結果、無菌閉鎖空間に口部非結晶ポリエステル容器を導入し、容器の少なくとも内面を温水及び/又は蒸気により湿熱加熱殺菌し、次いで前記殺菌済み容器に内容物を40℃以上で容器の含水率によって定まるガラス転移温度未満の温度範囲内の充填温度で充填して密封することにより、従来のホットパックによる充填温度85〜95℃を下回る範囲内の充填温度でも充分な商業的無菌性を確保できることを発見し、本発明に到達した。
【0011】
すなわち、上記本発明の上記目的を達成するボトル詰め飲料の製造方法は、口部非結晶ポリエステル容器の少なくとも内面を湿熱加熱殺菌した後、40℃以上で容器の含水率によって定まるガラス転移温度未満の温度範囲内の充填温度によりpHが4.6未満の酸性飲料またはpHが4.6以上の低酸性飲料を容器に充填して密封することを特徴とする
【0012】
本発明によれば、容器の少なくとも内面を湿熱加熱殺菌した後40℃以上で容器の含水率によって定まるガラス転移温度未満の温度範囲内の充填温度により酸性・低酸性飲料を容器に充填することにより充分な商業的無菌性を得ることができるので、口部非結晶ポリエステル容器を使用することが可能となる。また、充填温度が従来のホットパックに比べて大幅に低いので、殺菌後の冷却に要する時間も短縮できるので生産効率を向上させることができる。また、容器の湿熱加熱殺菌により容器口部やキャップ部も殺菌されるので、酸性・低酸性飲料充填・密封後に容器を横倒しにして容器口部やキャップ部を殺菌する工程を省くことができ、生産効率を一層向上させることができる。さらに、充填温度がホットパックに比べて大幅に低いので、容器冷却後の内容物の体積減少が少なく、入味線をホットパックに比べて上昇させることができ、消費者に満足感を与えるとともに、容器密封性を確認することができる。
【0013】
さらに、本発明の1側面によれば、前記口部非結晶ポリエステル容器の少なくとも内面を湿熱加熱殺菌する工程及び低酸性飲料を容器に充填する工程は、温水及び/又は蒸気により空間内壁全面および空間内に設置された装置表面が湿熱加熱殺菌されるとともに無菌エアーにより陽圧保持される無菌閉鎖空間に口部非結晶ポリエステル容器を導入して行われるため、従来の殺菌剤散布の方法に比べて空間内殺菌後の洗浄工程や洗浄設備が不要となり、従来と同等の無菌環境が維持されつつも設備コスト等が削減される。
【0014】
本発明の1側面においては、前記無菌閉鎖空間内の装置表面の殺菌は、殺菌対象表面温度が60℃以上80℃未満となるように湿熱加熱殺菌することにより行われることを特徴とする。
【0015】
本発明の1側面においては、前記無菌閉鎖空間に導入される容器は、外面を温水及び/又は蒸気による湿熱加熱殺菌された後に無菌閉鎖空間内に導入されることを特徴とする。
【0016】
本発明のこの側面によれば、無菌閉鎖空間の外において容器の外面を湿熱加熱殺菌した後無菌閉鎖空間内に容器を導入して容器の少なくとも内面を温水で殺菌するので、容器は汚染度の高い容器外面のかびや細菌が殺菌された状態で無菌閉鎖空間内に導入され、その結果閉鎖空間内に導入されるかびや細菌の量が最大限に減少し、容器内面殺菌後の容器にかびや細菌が再び付着する可能性が最大限に減少し、容器内外面の殺菌をもっとも効率的に行うことができる。
【0017】
本発明の1側面においては、前記無菌閉鎖空間に導入される容器の外面殺菌の工程は、温水噴出ノズルまたは蒸気噴出ノズルより温水及び/又は蒸気を該容器に噴出させ、該容器の外面温度が63℃以上80℃未満となるように湿熱加熱殺菌することにより行われることを特徴とする。
【0018】
本発明の1側面においては、前記無菌閉鎖空間に導入される容器の外面殺菌は、前記無菌閉鎖空間に連通し、容器の搬入・搬出口が設けられた外面殺菌室内で行われることを特徴とする。
【0019】
本発明の1側面においては、前記外面殺菌室は、水蒸気で満たされていることを特徴とする。
【0020】
本発明の1側面においては、前記容器の少なくとも内面を殺菌する工程は、該容器の内表面温度が63℃以上80℃未満となるように湿熱加熱殺菌することにより行われることを特徴とする。
【0021】
本発明の他の側面において、容器詰め内容物の製造方法における容器の含水率は、非結晶である容器口部の含水率であることを特徴とする。
【0022】
製法上、実質的に非結晶かつ未延伸となるPETボトルのようなポリエステル容器口部は、容器の中でもっとも耐熱性が劣る場所である。したがって、容器の中でも特に容器口部の含水率によって定まるガラス転移温度未満となるような充填温度で充填を行うことが、熱による口部の歪み発生を防止するためにもっとも重要である。また、シート成形によるPETカップのように、その製法上、実質、延伸されるものの非結晶であるポリエステル容器口部も同様である。
【0023】
本発明の他の側面においては、容器に内容物を充填する前に、容器の含水率を減少させる工程をさらに備えることを特徴とする。
【0024】
口部非結晶PETボトル等容器のガラス転移温度と容器の含水率の間には図7に示したように相関関係があり、容器の含水率が低いほどガラス転移温度は高くなる。したがって、充分な殺菌を行うためにより高い温度によって殺菌にする必要がある場合は、容器のガラス転移温度をできるだけ高くするように容器の含水率を減少させる必要がある場合がある。本発明のこの側面においては、容器の含水率を減少させることにより、容器のガラス転移温度を必要な殺菌温度を超える温度に上昇させることができる。
【0025】
本発明の他の側面においては、容器の予備成形物を成形し、成形された予備成形物を成形する前に、予備成形物の含水率を減少させる工程をさらに備えることを特徴とする。容器の予備成形物の含水率を減少させることにより、容器のみの含水率を減少させる場合に比べて容器のガラス転移温度をより高い温度に上昇させることができる。
【0026】
容器、および容器の予備成形物の含水率を減少させる工程は、好ましくは容器および予備成形物の除湿を行うことにより達成することができる。具体的には、除湿機により容器、予備成形物の除湿を行う他、成形直後から乾燥室等の湿度調整室で保管することにより行ってもよい。
【0027】
本発明の他の側面においては、容器成形を行った後、成形された容器を前記無菌閉鎖空間において容器の少なくとも内面を殺菌する工程、または前記無菌閉鎖空間に導入される容器の外面殺菌工程に直接移送することを特徴とする。これによって、容器成形から容器殺菌工程までの時間を短縮することにより、容器が外部環境から吸収する湿気の量が減少し、それだけ容器の含水率を低く維持することができる。
【0028】
本発明の他の側面においては、容器成形後容器を殺菌工程に直接移送するとともに、容器成形を外環境制御空間内で行うことを特徴とする。これによって、容器の無菌性を一層高めることができる。
【0029】
本発明の他の側面においては、容器の予備成形物を成形し、成形された予備成形物を容器成形工程に直接移送することを特徴とする。
【0030】
本発明の他の側面においては、予備成形物の成形、予備成形物の容器成形工程への移送、および容器の成形を外環境制御空間内で行うことを特徴とする。
【0031】
本発明の他の側面においては、外環境制御空間がクラス10万以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0032】
以上述べたように、本発明によれば、容器の少なくとも内面を湿熱加熱殺菌した後40℃以上で容器の含水率によって定まるガラス転移温度未満の温度範囲内の充填温度により酸性・低酸性飲料を容器に充填することにより充分な商業的無菌性を得ることができるので、容器のガラス転移温度がこの温度範囲内にある口部非結晶ポリエステル容器を使用することが可能となる。また、充填温度が従来のホットパックに比べて大幅に低いので、殺菌後の冷却に要する時間も短縮できるので生産効率を向上させることができる。また、容器の湿熱加熱殺菌により容器口部やキャップ部も殺菌されるので、低酸性飲料充填・密封後に容器を横倒しにして容器口部やキャップ部を殺菌する工程を省くことができ、生産効率を一層向上させることができる。さらに、充填温度がホットパックに比べて大幅に低いので、容器冷却後の低酸性飲料の体積減少が少なく、入味線をホットパックに比べて上昇させることができ、消費者に満足感を与えるとともに、容器密封性を確認することができる。
【0033】
さらに、本発明によれば、容器の少なくとも内面を温水で殺菌する無菌閉鎖空間は、温水及び/又は蒸気により空間内壁全面および空間内に設置された装置表面が湿熱加熱されるとともに無菌エアーにより空間内が陽圧保持されるため、従来の殺菌剤散布の方法に比べて空間内殺菌後の洗浄工程や洗浄設備が不要となり、従来と同等の無菌環境が維持されつつも設備コスト等が削減される。
【0034】
また、本発明の1側面によれば、無菌閉鎖空間の外において容器の外面を湿熱加熱殺菌した後無菌閉鎖空間内に容器を導入して容器の少なくとも内面を温水で殺菌するので、容器は汚染度の高い容器外面のかびや細菌が殺菌された状態で無菌閉鎖空間内に導入され、その結果閉鎖空間内に導入されるかびや細菌の量が最大限に減少し、容器内面殺菌後の容器にかびや細菌が再び付着する可能性が最大限に減少し、容器内外面の殺菌をもっとも効率的に行うことができる。
【0035】
また、口部非結晶PETボトル等ポリエステル容器のガラス転移温度と容器の含水率の間には相関関係があり、容器の含水率が低いほどガラス転移温度は高くなる。したがって、充分な殺菌を行うためにより高い温度によって殺菌する必要がある場合は、容器のガラス転移温度をできるだけ高くするように容器の含水率を減少させる必要がある場合がある。本発明の1側面においては、容器の含水率を減少させることにより、容器のガラス転移温度を必要な殺菌温度を超える温度に上昇させることができる。
【0036】
本発明の他の側面によれば、容器成形から内容物充填までの時間を短縮することにより、ボトルが外部環境から吸収する湿気の量が減少し、それだけボトルの含水率を低く維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の方法の1実施形態を示すフローチャートである。
【図2】温水によるボトル外面の殺菌方法の1例を示す説明図である。
【図3】温水によるボトル内面の殺菌方法の1例を示す説明図である。
【図4】無菌閉鎖空間殺菌装置の1例を示す概略図である。
【図5】本発明の方法の他の実施形態を示すフローチャートである。
【図6】本発明の方法の他の実施形態を示すフローチャートである。
【図7】ボトルの含水率とガラス転移温度の関係を示すグラフである。
【図8】内溶液充填温度とボトル内圧の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下添付図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
本発明の方法に使用する容器はPETボトル等のポリエステルボトルの他ポリエステル製カップ、トレー、チューブ等のポリエステル容器である。また、本発明の方法が適用される内容物は、飲料の他ジャム等の食品、みりん、たれ等の調味料、その他化粧品、薬品等である。本発明が適用される好適な飲料は、pHが4.6未満の酸性飲料、pHが4.6以上の低酸性飲料およびミネラウオーターである。酸性飲料としては果実飲料、野菜飲料、乳性飲料、紅茶飲料(レモンテイー)、酸性機能性飲料(スポーツドリンク)、ニアウオーター等が挙げられ、低酸性飲料としてはコーヒー飲料、茶飲料等で乳を含まないもの、たとえば無糖コーヒー、加糖コーヒー、緑茶、紅茶、煎茶、ウーロン茶等が挙げられる。
【0039】
本発明の製造方法においては、温水及び/又は蒸気により空間内壁全面および空間内に設置された装置表面が湿熱加熱殺菌されるとともに無菌エアーにより陽圧保持される無菌閉鎖空間に口部非結晶ポリエステル容器を導入し、前記容器の少なくとも内面を温水及び/又は蒸気により湿熱加熱殺菌し、次いで前記殺菌済み容器に内容物を40℃以上で容器の含水率によって定まるガラス転移温度未満の温度範囲内の充填温度で充填して密封する。
【0040】
以下、代表的な例として口部非結晶PETボトルに飲料を充填する実施形態について説明する。
本発明の方法をボトルに充填される飲料について適用する場合は、ボトルの外面の殺菌と内面の殺菌を分けて2段階で行い、まず無菌閉鎖空間の外において温水または蒸気でボトルの外面を湿熱加熱殺菌した後無菌閉鎖空間内にボトルを導入してボトルの内面を温水で殺菌することが好ましい。この実施形態の概要を図1のフローチャートに示す。
【0041】
ボトルの外面の湿熱加熱殺菌は、63℃〜80℃で行い、63℃の場合殺菌時間は8秒以上が必要であり、より好ましい殺菌条件は65℃で10秒以上である。また95℃の場合は2秒以上が好ましい。さらにできれば無菌閉鎖空間に連通し容器の搬入・搬出口が設けられた無菌状態の閉鎖空間とした外面殺菌室内で行うことが好ましい。なお、ボトル外面の殺菌はボトルが正立、倒立いずれの状態でも行うことができる。
【0042】
温水によるボトル外面の殺菌は、ボトルが正立、倒立いずれの状態の場合でも、図2に示すように、外面殺菌室を設けて複数の温水スプレーノズルをボトルの側面および底面に向けて温水を噴射することにより行うことができる。
【0043】
ボトル外面の殺菌工程が行われる外面殺菌室は、温水を放散するか水蒸気を吹込むことにより発生する飽和水蒸気で満たすようにしてもよい。外面殺菌室内を飽和水蒸気で満たすことにより、ボトル外面殺菌効果が向上するとともに、外面殺菌室内がボトル搬入口の外部の大気に対してエアシールされた状態となり、外部の大気中の菌が無菌閉鎖空間内に流入することが防止される。
【0044】
ボトル内面の殺菌は、無菌閉鎖空間内で行う。この無菌閉鎖空間内において、ボトルが倒立の状態で、1本の温水スプレーノズルを図3に示すようにボトルの口の下方に配置し、温水をボトル内部に向けて噴射することによって行う。温水スプレーノズルをボトルの内部に挿入して温水を噴射することも可能であるが、図3に示すように温水スプレーノズルをボトルの口の下方に固定して配置した状態で温水を噴射する方が、温水スプレーノズルの昇降動作が不要であるので、装置の機械的な構造を簡素化することができる。なお、図3の例では、ボトルの内面のみならずボトルの外面にも温水を噴射して殺菌を行っている。
【0045】
ここで無菌閉鎖空間とは、容器搬入のための出入り口を設けた作業室内の一部空間を囲って密封空間とし、この密封空間内に陽圧の無菌空気を導入して無菌状態を維持するようにした空間を意味する。クリーンルーム内で湿熱加熱殺菌を行うとクリーンルーム壁面全面は殺菌されず、またクリーンルーム天井部のHEPAフイルターが水蒸気により損傷を受けるので、クリーンルームは湿熱加熱殺菌およびその後のフイラーによる内容物のボトルへの充填作業を行うには不適である。またこのような無菌閉鎖空間を使用することにより、設置費用が高価で制御も難しいクリーンルームを使用しないですむので、容器殺菌に要する費用を一層低減することができる。無菌閉鎖空間内におけるボトル内面の温水による殺菌も63℃〜95℃で行い、後述の実施例1に示すように、63℃の場合殺菌時間は8秒以上が必要であり、より好ましい殺菌条件は65℃で10秒以上である。また95℃の場合は2秒以上が好ましい。69℃以上とする場合は殺菌価がより高くなり、95℃が安定的な噴射を行う上限温度である。ボトルの外面、内面の殺菌はそれぞれ上記温度の温水をポンプで循環させることにより行うことができる。また、ボトル内面の殺菌は、殺菌作業後の温水がボトルの口から自然落下によりボトル外に排出されるように倒立状態で行うことが望ましい。
【0046】
ボトル内外面の殺菌は水蒸気による殺菌によっても温水による殺菌と同様の効果が得られる。
【0047】
ボトル外面の殺菌を外面殺菌室内で行なう場合は、この殺菌室をボトル内面の殺菌を行なう無菌閉鎖空間と連通させるように構成することが好ましい。こうすることによって、ボトルが外面殺菌室から無菌閉鎖空間に移送される途中で外部から菌が付着することが防止される。
【0048】
ボトル内面の殺菌を終了後ボトルは上記と同一条件の無菌閉鎖空間内に設けられたフイラーに移送され、ヘッドタンクユニット内に保持された内容液がボトル内に充填される。ヘッドタンクユニット内には下限が40℃、上限は80℃でボトルの含水率によって定まるガラス転移温度未満の温度範囲内の所定の温度に加温された内溶液が貯蔵されている。したがって、ボトルとしては、そのガラス転移温度が充填される内溶液の温度以下であるものが選択される。ボトルの含水率はボトルのガラス転移温度を決定する一つの重要な要素であり、ボトルの含水率が小さいほどガラス転移温度は高くなるので、充分なガラス転移温度を確保するために、必要に応じ、ボトルを殺菌する前に除湿機等によりボトルの除湿を行い、その含水率を下げるようにしてもよい。
【0049】
内溶液の充填温度が40℃未満では、内溶液の充分な体積減少すなわちヘッドスペースの減圧を達成することが困難であり、また本発明においては、80℃を超える充填温度はボトルの殺菌上不必要であり、エネルギーの浪費である上に、充填温度が80℃を超えると口部非結晶PETボトルでは充分な耐熱性を得ることが困難となる。したがって、本発明における好ましい充填温度の下限は40℃であり、上限は80℃である。
【0050】
ここで、充填温度とは、充填後の容器口部温度を意味する。 容器口部温度とは、口部の内面から外面に至るいずれかの箇所における温度であるが、容器口部内外面の温度、特に密封部と接触する容器口部内外面の温度が重要である。容器口部内外面と密封部の間にわずかな間隙が生じる場合があり、この間隙に水分が残留したまま充分な殺菌が行われないと、菌が繁殖したりカビが発生するという問題が生じる。したがって、容器口部内外面の温度、特に密封部と接触する容器口部内外面の温度が40℃以上になるように殺菌条件を調整することが必要である。
【0051】
また、内面と外面との中間部の温度も重要である。この中間部の温度が容器の含水率によって定まるガラス転移温度以上になると、口部に歪みが生じ、密封不良となる。したがって、この中間部の温度が容器の含水率によって定まるガラス転移温度以上にならないように殺菌条件を調整することが必要である。
【0052】
内容液が充填されたボトルは同一条件の無菌閉鎖空間内に設けられたキャッパーに移送され、キャップ供給装置からキャップ殺菌装置に供給され公知の方法で殺菌されたキャップで完全に密封された後容器詰め飲料製品として無菌閉鎖空間外に排出される。次いでボトルは冷却バストライザーに移送され常温になるまで冷却された後製品として排出される。
【0053】
ボトル外面殺菌後のボトル内面殺菌、内容物充填、キャッピング工程を行う装置の1具体例を図4の概略図に示す。
【0054】
図4において、食品充填システム10は飲料をPETボトルに充填するための充填装置であって、PETボトルの搬送方向の順にボトルの内面を殺菌するボトルリンサー11、フイラー12、アセプキャッパー13、ボトルを2列に振り分けるための振り分け装置14が配列されている。食品充填装置10は鋼板からなるカバー15によって覆われており、このカバー15によって無菌閉鎖空間を構成する枠体16が形成されている。無菌閉鎖空間内はダクト17から供給される無菌エアーにより陽圧に保持されている。
【0055】
なお、カバー15にはボトル外面殺菌室および装置(図示せず)に連続するボトル導入口15aとボトル排出口15bが形成されているが、枠体16は実質的に密閉されている。
【0056】
無菌閉鎖空間殺菌装置1は、枠体16内において温水を散布する手段を構成する複数の回転ノズル2および複数の固定ノズル3を備えている。回転ノズル2はスプレーボールからなり、噴射口を下方に向けて枠体16内の上部に配置されている。固定ノズル3はフルコーンノズルからなり、噴射口を斜め上方に向けて枠体16内の下部の床面付近に配置されている。回転ノズル2および固定ノズル3はそれぞれ配管4により弁7および加温ヒーター6を介して温水供給源5に接続されており、該供給源5から温水の供給を受けることができる。
【0057】
この装置を使用して殺菌を行う場合は、弁7を操作して配管4を温水供給源5に接続する。温水供給源5からの水は加温ヒーター6により加温され、配管4を経由して枠体16内の回転ノズル2および固定ノズル3に供給され、これらのノズル2、3から枠体内に散布される。散布された温水は枠体16内のボトルリンサー11、フイラー12、アセプキャッパー13、振り分け装置14等の機器の外表面、枠体16の内壁面およびボトルリンサー11に温水を供給するライン配管(図示せず)等の殺菌対象表面の大部分に降りかかってこの部分を濡らす。散布された温水は殺菌対象表面の大部分を濡らすことによってこの部分を殺菌するとともに、蒸発した水蒸気が枠体16内に充満し、温水によって濡れていない部分を含む全殺菌対象表面に接触することによってさらなる殺菌が行われる。この温水の散布を所定時間継続することによって全殺菌対象表面の完全な殺菌が達成される。この場合無菌閉鎖空間の内壁面である枠体16の内壁面も全面が機器表面と同様に充分に殺菌される。
【0058】
殺菌温度は殺菌対象表面が60℃以上、好ましくは65℃以上とし、大気圧下で行うために96℃未満となるように温水の加温を調節する。
【0059】
なお、装置殺菌の場合には過熱蒸気加熱方法等により、大気圧下100度以上の加熱も可能であるが、新たな設備が必要となり、96度未満の温水で殺菌することが合理的である。
【0060】
図5は本発明の他の実施形態を示すフローチャートである。この実施形態においては、図1の実施形態におけるボトル外面殺菌室の前段において、プリフオーム整列装置とPETボトル成形装置が外環境制御空間内に配置されている。ここで外環境制御空間とは無菌状態を所定のクラス以下とするように制御された作業室または作業室の一部を区画した空間等の外部環境を意味する。外環境制御空間としてはクラス10万以下のものが好ましく、たとえばクリーンルームも好ましい外環境制御空間である。なお、図5の実施形態においては、キャップ整列装置、キャップ殺菌装置およびヘッドタンクユニットも外環境制御空間内に配置されている。
【0061】
PETボトルのプリフオーム(予備成形物)はプリフオーム整列装置により一線上に整列されて順次次段のPETボトル成形装置に移送される。PETボトル成形装置においてプリフオームは口部非結晶PETボトルに成形され、成形されたPETボトルは直ちに直接ボトル外面殺菌室に移送される。この実施形態においては、成形されたPETボトルは成形直後にボトル外面殺菌室に移送されるので、成形されたPETボトルが外部環境から湿気を吸収する時間はほとんどなく、こうしてボトル製造から内溶液充填までの時間を短縮することによりボトルの含水率を最小限にとどめることができ、それによってボトルのガラス転移温度を所望の高い温度に維持することができる。したがって、本実施形態は、口部非結晶ボトルを使用しながらできるだけ高い殺菌温度が得たい場合に有効である。
【0062】
ボトル外面殺菌以降の工程は図1の実施形態と同一であるので、説明を省略する。
【0063】
図6は本発明の他の実施形態を示すフローチャートである。この実施形態においては、図1の実施形態におけるボトル外面殺菌室の前段において、プリフオーム成形装置とPETボトル成形装置が外環境制御空間内に配置されている。なお、図6の実施形態においては、キャップ整列装置、キャップ殺菌装置およびヘッドタンクユニットも外環境制御空間内に配置されている。
【0064】
この実施形態においては、プリフオームの成形自体を外環境制御空間内において行い、成形されたプリフオームを直ちに直接PETボトル成形装置に移送することにより、成形されたプリフオームが外部環境から湿気を吸収する時間はほとんどなく、こうしてプリフオーム成形からボトル製造を介して内溶液充填までの時間を最大限に短縮することによりボトルの含水率をさらに小さくすることができ、それによってボトルのガラス転移温度を80℃以下の一層高い温度に維持することができる。ボトル成形以降の工程は図5の実施形態と同一であるのでその説明を省略する。
【0065】
上記各実施形態によれば、40℃〜80℃以下の充填温度で内溶液をボトルに充填することにより、後述の実施例5に示されるように、冷却後の内溶液の体積減少によってボトルのヘッドスペース部には充分な内圧降下が生じることが判った。PETボトル詰飲料のように内容物が外部から見える容器詰飲料の場合は、製品のヘッドスペース部が広いと飲料の量が少ないという印象を消費者に与えるため、飲料の入味線(液面)をなるべく上昇させたいという要請が製造者側にはある。また、ボトル詰飲料の場合、容器内減圧度が入味線により確認できるため、密封後の製品入味線を確認することで容器密封性を確認することができる。上記実施形態によれば、ヘッドスペース部に充分な減圧が生じることにより、容器密封性を確認することができる一方入味線がホットパックに比べて上昇し、消費者に満足感を与えることができる。
【実施例1】
【0066】
供試ボトルとして250ml 口径φ38mmのPETボトルを使用した。
また、供試菌としてAspergillus niger ATCC6275を30日間ポテトデキストロース寒天培地で培養したものを使用した。
【0067】
供試ボトルの外面に、供試菌の胞子懸濁液を0.1ml噴霧して、10cfu/ボトルとなるように懸濁液を付着させた後、一昼夜クリーンルーム内で乾燥させ、供試ボトルとして用いた。
【0068】
この供試ボトルを正立の状態で図2に示す方法により湿熱加熱殺菌した。
殺菌後のボトル外面の生残菌数をポテトデキストロース寒天培地で30℃×7日間培養して菌数を計測し、Log(初期菌数/生残菌数)より、殺菌効果を求めた。
ボトル外面の殺菌温度・時間と殺菌効果の関係を表1に示す。
【0069】
【表1】

【実施例2】
【0070】
供試ボトルとして250ml 口径φ38mmのPETボトルを使用した。
また、供試菌としてAspergillus niger ATCC6275を30日間ポテトデキストロース寒天培地で培養したものを使用した。
【0071】
供試ボトルの内外面に、供試菌の胞子懸濁液を各0.1ml噴霧して、10cfu/ボトルとなるように懸濁液を内外面にそれぞれ付着させた後、一昼夜クリーンルーム内で乾燥させ、供試ボトルとして用いた。
【0072】
この供試ボトルを倒立の状態で図3に示す方法によりその内外面を温水殺菌した。
殺菌後のボトル内外面の生残菌数をポテトデキストロース寒天培地で30℃×7日間培養して菌数を計測し、Log(初期菌数/生残菌数)より、殺菌効果を求めた。
ボトル内外面それぞれの殺菌温度・時間と殺菌効果の関係を表2に示す。
【0073】
【表2】

【実施例3】
【0074】
供試菌としてAspergillus niger ATCC6275を30日間ポテトデキストロース寒天培地で培養したものを使用した。
この供試菌の胞子懸濁液を図4の装置内の機器表面の適当な場所に10cfu/100cmとなるように付着させ、乾燥後、温水循環による殺菌を行った。
殺菌後の機器表面の生残菌数をポテトデキストロース寒天培地で30℃×7日間培養して菌数を計測し、Log(初期菌数/生残菌数)より、殺菌効果を求めた。
機器表面における殺菌温度・時間と殺菌効果の関係を表3に示す。
【0075】
【表3】

【実施例4】
【0076】
口部非結晶PETボトルの耐熱性を求めるために、口部非結晶部分(未延伸部分)の含水率とTg(ガラス転移温度、DSC)の関係を求めた。結果を図7に示す。図7から、ボトルの含水率とガラス転移温度との間には直線的な相関関係があり、含水率が小さいほどガラス転移温度は高くなることがわかる。
【実施例5】
【0077】
内溶液充填による口部非結晶PETボトルのヘッドスペース部の減圧状態を求めるため、図1のフローチャートに示す製造工程により充填温度とボトル内圧の関係を求めた。結果を図8に示す。図8から、40〜80℃の充填温度により、−1.5kPa〜−5kPa程度の内圧が得られることがわかる。
【0078】
なお、本図は容量500mlの角型の減圧吸収パネルを有するPETボトルを使用し、充填時のヘッドスペース量を17mlとして求めたものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
口部非結晶ポリエステル容器の少なくとも内面を湿熱加熱殺菌した後、40℃以上で容器の含水率によって定まるガラス転移温度未満の温度範囲内の充填温度によりpHが4.6未満の酸性飲料またはpHが4.6以上の低酸性飲料を容器に充填して密封することを特徴とする容器詰め飲料の製造方法。
【請求項2】
前記口部非結晶ポリエステル容器の少なくとも内面を湿熱加熱殺菌する工程及び低酸性飲料を容器に充填する工程は、温水及び/又は蒸気により空間内壁全面および空間内に設置された装置表面が湿熱加熱殺菌されるとともに無菌エアーにより陽圧保持される無菌閉鎖空間に口部非結晶ポリエステル容器を導入して行われることを特徴とする請求項1に記載の容器詰め飲料の製造方法。
【請求項3】
前記無菌閉鎖空間内の装置表面の殺菌は、殺菌対象表面温度が60℃以上96℃未満となるように湿熱加熱殺菌することにより行われることを特徴とする請求項1または2に記載の容器詰め飲料の製造方法。
【請求項4】
前記無菌閉鎖空間に導入される容器は、外面を温水及び/又は蒸気による湿熱加熱殺菌された後に無菌閉鎖空間内に導入されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の容器詰め飲料の製造方法。
【請求項5】
前記無菌閉鎖空間に導入される容器の外面殺菌の工程は、温水噴出ノズルまたは蒸気噴出ノズルより温水及び/又は蒸気を該容器に噴出させ、該容器の外面温度が63℃以上80℃未満となるように湿熱加熱殺菌することにより行われることを特徴とする請求項4に記載の容器詰め飲料の製造方法。
【請求項6】
前記無菌閉鎖空間に導入される容器の外面殺菌は、前記無菌閉鎖空間に連通し、容器の搬入・搬出口が設けられた外面殺菌室内で行われることを特徴とする請求項4または5に記載の容器詰め飲料の製造方法。
【請求項7】
前記外面殺菌室は、水蒸気で満たされていることを特徴とする請求項6に記載の容器詰め飲料の製造方法。
【請求項8】
前記容器の少なくとも内面を殺菌する工程は、該容器の内表面温度が63℃以上96℃未満となるように湿熱加熱殺菌することにより行われることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の容器詰め飲料の製造方法。
【請求項9】
容器の含水率は、非結晶である容器口部の含水率であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の容器詰め飲料の製造方法。
【請求項10】
容器に飲料を充填する前に、容器の含水率を減少させる工程をさらに備えることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の容器詰め飲料の製造方法。
【請求項11】
容器の予備成形物を成形し、成形された予備成形物を容器に成形する前に、予備成形物の含水率を減少させる工程をさらに備えることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の容器詰め飲料の製造方法。
【請求項12】
容器成形を行った後、成形された容器を前期無菌閉鎖空間において容器の少なくとも内面を殺菌する工程に直接移送することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の容器詰め飲料の製造方法。
【請求項13】
容器成形を行った後、前期無菌閉鎖空間に導入される容器の外面を殺菌する工程に直接移送することを特徴とする請求項4〜7のいずれかに記載の容器詰め飲料の製造方法。
【請求項14】
容器成形を外環境制御空間内で行うことを特徴とする請求項12または13記載の容器詰め低酸性飲料の製造方法。
【請求項15】
容器の予備成形物を成形し、成形された予備成形物を容器成形工程に直接移送することを特徴とする請求項12または13に記載の容器詰め飲料の製造方法。
【請求項16】
予備成形物の成形、予備成形物の容器成形工程への移送、および容器の成形を外環境制御空間内で行うことを特徴とする請求項15記載の容器詰め飲料の製造方法。
【請求項17】
外環境制御空間がクラス10万以下であることを特徴とする請求項14または16に記載の容器詰め飲料の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2009−113870(P2009−113870A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−7760(P2009−7760)
【出願日】平成21年1月16日(2009.1.16)
【分割の表示】特願2004−255726(P2004−255726)の分割
【原出願日】平成16年9月2日(2004.9.2)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【Fターム(参考)】