説明

密封装置

【課題】 回転軸などの動作軸2に摺接するゴム製のリップ3を備えてなる密封装置において、確実な低摩擦化を実現でき、かつゴムの変形に対する追従性に優れたコーティング層4を有する密封装置を提供する。
【解決手段】 リップ3のゴム表面に、パーハイドロポリシラザン及びポリオルガノシラザンを含む溶液を熱処理して得られる緻密性と柔軟性を併せ持つコーティング層4を形成する。さらにコーティング層4は、リップ3のゴム表面に、ポリオルガノシラザンを含む溶液を熱処理して得られる第1のコーティング層(柔軟層)を形成し、さらにその上に、パーハイドロポリシラザン及びポリオルガノシラザンを含む溶液を熱処理して得られる第2のコーティング層(緻密層)を形成した2層構造とするのが効果的である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は密封装置に関し、さらに詳しくは、回転軸や往復動軸などの動作軸に摺接するゴム製のリップを備えてなる密封装置において、低摩擦化を目的とするものである。
【背景技術】
【0002】
密封装置として例えば回転軸用のオイルシールは、回転軸に摺接するゴム製のリップを備えて構成されている。
【0003】
従来このようなオイルシールにおいては、リップと回転軸の摺接部での摩擦を低減し、トルクを低く抑えるために、例えば下記の特許文献1に開示されるように、リップの表面に樹脂によるコーティング層を形成したものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−217746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このようなコーティング層を形成した密封装置では、コーティング層の素材自体に伸びがないため、ゴムの変形に対する追従性に劣り、コーティング層に亀裂が入りやすいという欠点を有していた。
【0006】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたもので、確実な低摩擦化を実現でき、かつゴムの変形に対する追従性に優れたコーティング層を有する密封装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために本発明は、回転軸や往復動軸などの動作軸に摺接するゴム製のリップを備えてなる密封装置において、リップのゴム表面に、パーハイドロポリシラザン及びポリオルガノシラザンを含む溶液を熱処理して得られるコーティング層を形成したものである。
【0008】
さらに本発明は、回転軸や往復動軸など動作軸に摺接するゴム製のリップを備えてなる密封装置において、リップのゴム表面に、ポリオルガノシラザンを含む溶液を熱処理して得られる第1のコーティング層を形成し、さらにその上に、パーハイドロポリシラザン及びポリオルガノシラザンを含む溶液を熱処理して得られる第2のコーティング層を形成したものである。
【0009】
これに加えて本発明の密封装置では、リップのゴムにケイ素化合物を含有することを特徴とし、ここでケイ素化合物としては二酸化ケイ素あるいはシランカップリング剤が好適に用いられる。
【発明の効果】
【0010】
上記の如く構成される本発明の密封装置においては、コーティング層にパーハイドロポリシラザンを含ませたことにより緻密なコーティング層が形成されるので、動作軸に対する摩擦が確実に低減されると共に、コーティング層にポリオルガノシラザンを含ませたことにより柔軟性を持たせることができ、ゴムの変形に対する追従性が向上するので、コーティング層に亀裂が発生し難い。
【0011】
さらに本発明では、ゴムにケイ素化合物を含有させたことによりコーティング層との密着性が向上するので、コーティング層が剥離するおそれはなく、長期にわたって安定した性能を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明が適用される回転軸用オイルシールの主要部の縦断面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態を示す縦断面図である。
【図3】本発明の第2の実施形態を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明が適用される密封装置の例としては、回転軸用オイルシール、往復動軸用オイルシールなどが挙げられるが、ここではその一例として図1に回転軸用オイルシールを示す。
即ちこのオイルシール1は、動作軸である回転軸2に所要の締めしろを持って摺接するゴム製のリップ3を有し、このリップ3の表面(回転軸2との摺接面)に特殊なコーティング層4が形成されている。
【0014】
ここで本発明の第1の実施形態は図2に示す如く、リップ3のゴム表面に、二酸化ケイ素(SiO)を主成分とする1層のコーティング層4を形成したものである。
【0015】
このコーティング層4は、パーハイドロポリシラザン及びポリオルガノシラザンを含み、かつパーハイドロポリシラザンの含有量がパーハイドロポリシラザン及びポリオルガノシラザンを含むポリシラザン全体量1に対して0.65〜0.95である溶液を大気中もしくは水蒸気を含む雰囲気中で熱処理して得られるもので、緻密性と柔軟性を併せ持つ。
【0016】
上記のパーハイドロポリシラザンは、少なくとも分子内にSi−H結合を有するもので、下記化学式(1)
【化1】

で表される骨格を繰り返し単位として鎖状に結合した鎖状ポリマー、あるいは環状に結合した環状ポリマーである。
【0017】
また、ポリオルガノシラザンは、下記化学式(2)
【化2】

(但し、R1、R2、R3は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アルキルシリル基、アルキルアミノ基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリル基のいずれか1種であり、かつ、R1、R2、R3の少なくとも1つはアルキル基である)で表される骨格を繰り返し単位として鎖状に結合した鎖状ポリマー、あるいは環状に結合した環状ポリマーである。ポリオルガノシラザンとして好ましいものは、R1をアルキル基、R2及びR3を水素原子としたもので、アルキル基の中でもメチル基が特に好ましい。
【0018】
このコーティング層のより好ましい構造としては、下記化学式(3)
【化3】

(但し、Rは、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基であり、m+nは8から54の正の整数である)において、m/(m+n)が0.65〜0.95であるパーハイドロポリシラザンポリオルガノシラザン共重合体を大気中もしくは水蒸気を含む雰囲気中で熱処理して得られる緻密なガラス質のSiO層が挙げられる。
【0019】
ここで、パーハイドロポリシラザン及びポリオルガノシラザンそれぞれの含有量と緻密度との関係について説明すると、パーハイドロポリシラザン単体をゴム上に成膜して得られる層は、緻密度が最も高い極めて緻密な層となり、またポリオルガノシラザン単体をゴム上に成膜して得られる層は、有機基を含むことから上記の緻密層に比べて原子間結合が疎になり、緻密度が最も低い極めて柔軟な層となる。
【0020】
従って、これらの混合溶液でパーハイドロポリシラザン及びポリオルガノシラザンそれぞれの含有量を連続的に変化させれば、層の緻密度を、上記の極めて緻密な層と極めて柔軟な層との間でコントロールすることができる。
【0021】
上記のコーティング層が緻密性及び柔軟性を併せ持つためには、パーハイドロポリシラザンの含有量とポリオルガノシラザンの含有量の比を、パーハイドロポリシラザンの含有量がパーハイドロポリシラザン及びポリオルガノシラザンを含むポリシラザン全体量1に対して0.65〜0.95とすることが好ましい。その理由は、パーハイドロポリシラザンの含有量がポリシラザン全体量1に対して0.95を越えると、硬度が高くなり過ぎて柔軟性を失うからであり、パーハイドロポリシラザンの含有量がポリシラザン全体量1に対して0.65未満であると、柔軟性が高くなるとともに緻密性が大幅に低下するからである。
【0022】
次に、本実施形態のオイルシールの製造方法について説明する。
ここでは先ず、通常の方法によってゴムを加硫してオイルシールを成型し、その後これを洗浄して乾燥させておく。一方で、コーティング層の出発原料となるパーハイドロポリシラザン及びポリオルガノシラザンを含む塗布液(溶液)を作製しておく。この塗布液は、各所定量のパーハイドロポリシラザン及びポリオルガノシラザンを有機溶媒に溶解したもので、パーハイドロポリシラザンの含有量がパーハイドロポリシラザン及びポリオルガノシラザンを含むポリシラザン全体量1に対して0.65〜0.95の範囲となるように調整されている。
【0023】
有機溶媒は、これらのポリシラザンの反応に悪影響を与えないものであればよく、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、トリメチルベンゼン、トリエチルベンゼン等の芳香族化合物、シクロブタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン等のシクロパラフィン、n−ペンタン、i−ペンタン、n−ヘキサン、i−ヘキサン、n−ヘプタン、i−ヘプタン、n−オクタン、i−オクタン、n−ノナン、i−ノナン、n−デカン、i−デカン等の飽和炭化水素化合物、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル類等が好適に用いられる。
【0024】
次いで、この塗布液をリップのゴム表面に塗布し、乾燥させる。塗布法としては、スプレー塗布法、ディップ法、刷毛塗り法、静電塗布法、グラビアロール塗布法、バー塗布法、フロー塗布法等があり、シール部材の形状や大きさに合わせて最適な方法を適宜選択すればよい。そして、この塗布液が塗布されたゴムを大気中あるいは水蒸気を含む雰囲気中で、80〜400℃の温度範囲で30〜180分加熱処理することにより、塗布液は処理過程で分解した後にガラス化し、SiO2を主成分とするコーティング層となる。
【0025】
この処理プロセスでは、処理の初期段階においては、パーハイドロポリシラザンやポリオルガノシラザンの反応が進行すると、Si−O結合の他に、Si−N結合、Si−H結合、Si−R結合等を含む重合体が形成される。この段階では、シロキサン結合(Si−O−Si)が充分形成されていないために、セラミックスへの転化が不十分なものである。処理が更に進行すると、前記重合体が水や酸素と反応することで反応物の酸化、水蒸気による加水分解が進行し、シロキサン結合(Si−O−Si)あるいはSi−N結合が形成されて、緻密性と柔軟性を併せ持つセラミックスに転化する。
【0026】
本発明で用いるポリシラザン系重合体を実用的な時間で加熱分解するには450℃以上の温度が必要であるが、ポリシラザン系重合体の一部を改質したり、触媒添加もしくは水蒸気雰囲気中での加熱分解によって、加熱温度は100℃以下の温度で十分な分解反応が進行しシリカ膜が生成する。
【0027】
ポリシラザン系重合体の熱分解温度を低下させることができる触媒としては、無機触媒系では、代表的なもので銀、金、パラジウム、ニッケルなどの金属微粒子があり、特にパラジウム微粒子が触媒効果として優れている。また有機触媒系では、アミン類、ピリジン類、酸類等が挙げられる。
【0028】
このようにして製造された本実施形態のオイルシール1は、コーティング層4がパーハイドロポリシラザンによる緻密性を有していることにより、回転軸2に対する摩擦が確実に低減される。一方でこのコーティング層4は、ポリオルガノシラザンによる柔軟性を有しているため、ゴムの変形に対する追従性が良く、亀裂が発生しにくいものであり、これによって安定した密封性が確保される。
【0029】
本発明の第2の実施形態は図3に示す如く、リップ3の表面に形成されるコーティング層4を2層構造としたものである。即ちこの例では、リップ3のゴム表面に第1のコーティング層として柔軟層4Aを形成し、さらにその上に、第2のコーティング層として緻密層4Bを形成してある。
【0030】
ここで柔軟層4Aは、パーハイドロポリシラザンの含有量がパーハイドロポリシラザン及びポリオルガノシラザンを含むポリシラザン全体量1に対して0〜0.65の範囲となるように調整されている。また、緻密層4Bは、パーハイドロポリシラザンの含有量がパーハイドロポリシラザン及びポリオルガノシラザンを含むポリシラザン全体量1に対して0.65〜0.95の範囲となるように調整されている。
【0031】
上記構成を有する本実施形態のオイルシールは、コーティング層4に柔軟層4Aを有することにより、ゴムの変形に対する追従性がさらに良好となるので、コーティング層での亀裂の発生がより確実に抑えられる。
【0032】
さらに本発明の他の実施形態としては、上記柔軟層と緻密層をそれぞれ複数層で形成し、そこでパーハイドロポリシラザンの含有量を柔軟層から緻密層にかけて連続的に増加させる傾斜組成とすることにより、ゴムの変形に対する追従性をさらに向上させることができる。
【0033】
本発明においてリップの材料に用いられるゴムは特に限定されるものではないが、NBR、アクリルゴム、フッ素ゴムなどが好適に用いられる。
【0034】
NBRは、アクリロニトリルとブタジエンとの共重合体であり、ここでいうNBRはカルボキシル基含有NBRや水素化NBRや部分架橋型NBRを含む。ここでは、ニトリル量の調整などでニトリル量の異なるNBRをブレンドしてもよいし、あるいは、耐熱性、耐薬品性、耐候性などの向上目的で、水素化NBRやカルボキシル基含有NBRなどをブレンドしてもよい。
【0035】
アクリルゴムはアクリル酸エステルの重合、またはそれを主体とする共重合により得ることのできるゴム状弾性体で、アクリル酸エステルとしてはエチルアクリレートまたはブチルアクリレートまたはメトキシエチルアクリレートが主として用いられる。またここでいうアクリルゴムはエチレンとアクリル酸エステルの共重合体であるエチレン−アクリルゴムを含む。
【0036】
フッ素ゴムとしては、特に限定されるものではないが、例えばフッ化ビニリデン系、テトラフルオロエチレン−プロピレン系、テトラフルオロエチレン−パーフルオロメチルビニルエーテル系、バーフロロエーテル系等が挙げられる。
【0037】
その他のゴムとしてエチレン−プロピレンゴムは、エチレン−プロピレン共重合体に不飽和結合を持った第3成分として非共役ジエンを導入したエチレン−プロピレン−非共役ジエン3元共重合体(EPDM)が例示され、第3成分としては、ジシクロペンタジエン、ジシクロオクタジエン、5−メチレン−2−ノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、1,4−ヘキサジエンなどが例示される。これらのEPDMは単独で用いてもよいし、ムーニー粘度、プロピレン含有量、油展オイル量、加硫速度などの調整目的で2種類以上のEPDMを適宜ブレンドして用いてもよい。また、必要に応じてNBRなどとブレンドしてもよい。
【0038】
本発明においては、リップのゴムとコーティング層との密着性をより確実なものとするために、ゴムにケイ素化合物を添加する。このケイ素化合物としては、二酸化ケイ素もしくはシランカップリング剤が挙げられる。
【0039】
二酸化ケイ素としては、シリカや石英粉、珪藻土などが例示され、種類にもよるが、ゴム100重量部に対して3〜50重量部、好ましくは3〜30重量部、さらに好ましくは5〜15重量部の範囲で添加される。この場合、添加量が3重量部より少ないと添加による密着性改善効果がなく、また50重量部を超える大量の添加はゴム硬度の上昇と加工性の低下をもたらすので好ましくない。
【0040】
シランカップリング剤は分子の一端に加水分解でシラノール基(Si−OH)を与えるエトキシ(又はメトキシ)基を有し、他端にアミノ基やグリシジル基などの有機官能基を有する。この種の官能基を有するシランカップリング剤としては、ビニルシラン、アミノシラン、エポキシシラン、メルカプトシラン、クロロプロピルシラン、アルコキシシラン、クロロシラン等が挙げられる。
【0041】
この種の有機官能基を有するシランカップリング剤の具体例をあげると、例えば、ビニルシランとしては、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩、ジメチルビニルメトキシシラン、ジメチルビニルエトキシシラン、メチルビニルジメトキシシラン、メチルビニルジエトキシシラン等が例示される。
【0042】
アミノシランとしては、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−ビス(β−ヒドロキシエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−〔N´−β−(アセトキシエチル)−β−アミノエチル〕−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−〔N´−β−(アミノエチル)−β−(アミノエチル)〕−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(フェニルメチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩等が例示される。
【0043】
さらに、エポキシシランとしては、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等が例示される。
【0044】
また、メルカプトシランとしては、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン等が例示される。
【0045】
また、クロロプロピルシランとしては、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルメチルジクロロシラン、γ−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ−クロロプロピルメチルジエトキシシラン等が例示される。
【0046】
また、アルコキシシランとしては、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、メチルジメトキシシラン、メチルジエトキシシラン、ジメチルエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン等が例示される。
【0047】
また、クロロシランとしては、トリメチルクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、メチルトリクロロシラン、メチルジクロロシラン、ジメチルクロロシラン、ジメチルビニルクロロシラン、メチルビニルジクロロシラン、メチルクロロジシラン、トリフェニルクロロシラン、メチルジフェニルクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン、メチルフェニルジクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、クロロメチルジメチルクロロシラン等が例示される。
また、上述した各種のシランカップリング剤の部分加水分解縮合物等も使用し得る。
【0048】
本発明のゴム部材の加硫(架橋)は、不飽和結合を有するゴムであれば、通常の硫黄加硫系を適用することができる。この硫黄加硫に用いられる硫黄は、ベースゴム100重量部に対して、0〜5重量部程度添加される。
【0049】
さらにこのゴムには、低硬度の組成物を得るため、および、配合剤の混合・分散を助け、圧延、押し出しなどの成形作業を容易にし、未加硫ゴムの粘着性を増して成形しやすくするために、ベースゴム100重量部に対して、0〜80重量部、好ましくは0〜30重量部程度の軟化剤を充填してもよい。具体的な軟化剤としては、パラフィン系オイル、ナフテン系オイル、芳香族系オイル、フタル酸誘導体、イソフタル酸誘導体、アジピン酸誘導体、リン酸誘導体などの使用が良好である。
【0050】
また、ゴム部材とした場合の成型性等を考慮して、黒サブ、白サブ、飴サブ、ゴールデンファクチス、ネオファクチス、無硫黄ファクチス(以上、天満サブ化工株式会社製商品名)の如きサブ(ファクチス)も、5〜50重量部程度併用できる。
【0051】
さらにこのゴムでは、ベースゴム100重量部に対して、0〜120重量部、好ましくは0〜80重量部程度のカーボンブラックなどの補強剤が添加される。この場合、80重量部を越える使用は、ゴムの混練り性が悪くなるので好ましくない。
【0052】
さらにこのゴムには、必要に応じて、寸法安定性や低価格などを目的として、ベースゴム100重量部に対して、5〜100重量部程度の増量充填剤を添加してもよい。
【0053】
さらにこのゴムには、必要に応じて、ゴム練り性や押し出し性の改善のために、ベースゴム100重量部に対して、0.3〜5重量部程度の滑剤や内部離型剤を添加することができる。あまり多量の添加は、ブルームやブリードや融合不良などを引き起こすので、種類にもよるが通常は0.5〜1重量部程度の添加量が適当である。
【0054】
なお、本発明におけるゴムの加硫(架橋)は、当業者に周知の常法により行われる。
【0055】
次に、本発明に係る密封装置のより具体的な実施例とその試験結果を表1に示す。
【表1】

【0056】
〔実施例1〕
ここでは先ず、フッ素ゴム原料としてデュポンエラストマー株式会社製バイトンA32Jを100重量部、カーボンブラックとしてMTカーボンのThermax N−990(カンカーブ(Cancarb)社製商品名:カナダ)を20重量部、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシランを0.5重量部、更に受酸剤としての高活性酸化マグネシウム(キョーワマグ150:協和化学工業株式会社製商品名)を3重量部、水酸化カルシウム(カルビット:近江化学工業株式会社製商品名)を6重量部の割合で混練りし、これを材料として170℃で10分加硫した後、200℃で24時間二次加硫して、評価用の密封装置である回転軸用オイルシール(内径80mm、外径100mm、幅10mm)を成型した。また、同様にして2mm厚のテストピース(ゴムシート)を作成した。
【0057】
そして次に、ペルヒドロシラザンとポリオルガノシラザンの含有量の比が0.70:0.30となるようにパーハイドロポリシラザン及びポリオルガノシラザンそれぞれの含有量を調整した塗布液を作製し、この塗布液を上記回転軸用オイルシールのリップの表面にスプレー塗布したる後、大気中で280℃にて2時間熱処理を行い、厚み0.8μmの1層のコーティング層を形成した。同様にして、テストピースの表面にも厚み0.8μmの1層のコーティング層を形成した。
【0058】
〔実施例2〕
ペルヒドロシラザンとポリオルガノシラザンの含有量の比が0.30:0.70となるようにパーハイドロポリシラザン及びポリオルガノシラザンそれぞれの含有量を調整した塗布液を作製し、この塗布液を上記回転軸用オイルシールのリップの表面にスプレー塗布したる後、大気中で280℃にて2時間熱処理を行い、第1のコーティング層として厚み0.8μmの柔軟層を形成した。続いて、ペルヒドロシラザンとポリオルガノシラザンの含有量の比が0.75:0.25となるようにペルヒドロシラザン及びポリオルガノシラザンそれぞれの含有量を調整した第2の塗布液を作製し、この第2の塗布液を上記柔軟層上にスプレー塗布したる後、大気中で280℃にて2時間熱処理を行い、第2のコーティング層として厚み0.8μmの緻密層を形成した。
以上により回転軸用オイルシールのリップの表面に柔軟層を介して緻密層を有する2層構造の膜厚1.6μmの積層コーティング層を形成した。同様にして、テストピースの表面にも2層構造の膜厚1.6μmの積層コーティング層を形成した。
【0059】
〔比較例1〕
回転軸用オイルシールのリップの表面及びテストピースの表面には何らのコーティングも施さなかった。
【0060】
〔比較例2〕
回転軸用オイルシールのリップの表面及びテストピースの表面にそれぞれパーハイドロポリシラザンのみを含む塗布液をスプレー塗布したる後、大気中で280℃にて2時間熱処理を行い、厚み0.8μmの1層の緻密層を形成した。
【0061】
〔比較例3〕
回転軸用オイルシールのリップの表面及びテストピースの表面にそれぞれポリオルガノシラザンのみを含む塗布液をスプレー塗布したる後、大気中で280℃にて2時間熱処理を行い、厚み0.8μmの1層の柔軟層を形成した。
【0062】
〔試験方法〕
先ず、上記回転軸用オイルシールによってオイルを密封した状態で、リップと回転軸の摺接部での摩擦によるトルク試験として、回転軸を高速回転させて初期トルク及び10時間後のトルクを測定した。また、10時間後にコーティング層を観察して亀裂の有無を判定すると共に、オイル漏れの有無を確認した。なお、このときの試験温度は100℃、回転数は2000rpmとした。
次に、コーティング層の拡張試験として、上記テストピースを引張試験機によって15%及び30%拡張させ、その表面のコーティング層を観察して亀裂の有無を判定した。
【0063】
〔結果〕
表1から明らかな如く、本発明の実施例1では、トルク試験においては比較例1及び3に比べて低いトルクが測定され、また10時間後のコーティング層では亀裂が認められず、オイル漏れもなかった。さらにコーティング層の拡張試験においては30%拡張では一部に亀裂が認められたものの、15%拡張では亀裂が認められなかった。
【0064】
さらにコーティング層を2層構造とした本発明の実施例2では、トルク試験において実施例1よりもさらに低いトルクが測定され、また10時間後のコーティング層では亀裂が認められず、オイル漏れもなかった。さらにコーティング層の拡張試験においては15%拡張と30%拡張の何れにおいても亀裂が認められなかった。
【0065】
これに対し、比較例1では、トルク試験において実施例1及び実施例2に比べて明らかに高いトルクが測定された。
【0066】
また比較例2では、トルク試験においては比較的低いトルクが測定されたものの、10時間後のコーティング層では亀裂の発生が認められ、オイルの漏れも確認された。さらにコーティング層の拡張試験においても15%拡張と30%拡張の何れにも明らかな亀裂が認められた。
【0067】
さらに比較例3では、10時間後のコーティング層では亀裂が認められず、オイル漏れもなく、またコーティング層の拡張試験においても亀裂が認められなかったものの、トルク試験においては比較的高いトルクが測定された。
【0068】
以上の結果から、本発明によれば、確実な低摩擦化を実現できると共に、コーティング層における亀裂の発生を抑えることができ、特にコーティング層を柔軟層と緻密層の2層構造とすることにより亀裂の発生が一段と確実に抑えられ、安定した密封性を維持できることが確認された。
【0069】
次に、ゴムの配合例とその試験結果を表2に示す。
【表2】

【0070】
〔配合例1〕
フッ素ゴム原料としてデュポンエラストマー株式会社製バイトンA32Jを100重量部、カーボンブラックとしてMTカーボンのThermax N−990(カンカーブ(Cancarb)社製商品名:カナダ)を20重量部、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシランを0.5重量部、更に受酸剤としての高活性酸化マグネシウム(キョーワマグ150:協和化学工業株式会社製商品名)を3重量部、水酸化カルシウム(カルビット:近江化学工業株式会社製商品名)を6重量部の割合で混練りし、これを材料として170℃で10分加硫した後、200℃で24時間二次加硫して、評価用の2mm厚のテストピース(ゴムシート)を作成した。
【0071】
そして次に、ペルヒドロシラザンとポリオルガノシラザンの含有量の比が0.30:0.70となるようにパーハイドロポリシラザン及びポリオルガノシラザンそれぞれの含有量を調整した塗布液を作製し、この塗布液を上記テストピースの表面にスプレー塗布したる後、大気中で280℃にて2時間熱処理を行い、第1のコーティング層として厚み0.8μmの柔軟層を形成した。続いて、ペルヒドロシラザンとポリオルガノシラザンの含有量の比が0.75:0.25となるようにペルヒドロシラザン及びポリオルガノシラザンそれぞれの含有量を調整した第2の塗布液を作製し、この第2の塗布液を上記柔軟層上にスプレー塗布したる後、大気中で280℃にて2時間熱処理を行い、第2のコーティング層として厚み0.8μmの緻密層を形成した。
以上によりテストピースの表面に柔軟層を介して緻密層を有する2層構造の膜厚1.6μmの積層コーティング層を形成した。
【0072】
〔配合例2〕
配合例1の材料中、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシランの添加量を0.1重量部に変更した。
【0073】
〔配合例3〕
配合例1の材料中、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシランの添加量を0.3重量部に変更した。
【0074】
〔配合例4〕
配合例1の材料中、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシランの添加量を1重量部に変更した。
【0075】
〔配合例5〕
配合例1の材料中、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシランの添加量を2重量部に変更した。
【0076】
〔配合例6〕
配合例1の材料中、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシランの添加量を3重量部に変更した。
【0077】
〔配合例7〕
配合例1の材料中、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシランに代えて、珪藻土としてラジオライトF(昭和化学株式会社製商品名)を3重量部添加した。
【0078】
〔配合例8〕
配合例1の材料中、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシランに代えて、珪藻土としてラジオライトFを5重量部添加した。
【0079】
〔配合例9〕
配合例1の材料中、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシランに代えて、珪藻土としてラジオライトFを10重量部添加した。
【0080】
〔配合例10〕
配合例1の材料中、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシランに代えて、珪藻土としてラジオライトFを20重量部添加した。
【0081】
〔配合例11〕
配合例1の材料中、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシランに代えて、珪藻土としてラジオライトFを30重量部添加した。
【0082】
〔配合例12〕
配合例1の材料中、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシランに代えて、珪藻土としてラジオライトFを50重量部添加した。
【0083】
〔比較例1〕
実施例1の材料中、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシランの添加量を0とした(ケイ素化合物を添加しない配合とした)。
【0084】
〔試験方法〕
ここでは、JIS K5600−5−6に準拠した碁盤目法により、ゴムとコーティング層の密着性を評価した。即ちこの場合、テストピースである2mm厚のゴムシートの片面に上記のコーティング層を形成し、そのコーティング層に1mm間隔のカット目を碁盤目状に入れ、10×10の合計100個の正方枡を形成する。そして、その上に粘着テープを貼り付け、これを引き剥がした後、コーティング層を拡大鏡で観察して100個の正方枡の残存率から密着性を判定した。
【0085】
〔結果〕
表2の結果から明らかな如く、本発明における配合例1〜12ではコーティング層の残存率がほぼ100%であったのに対し、比較例1では60%程度に留まった。この結果から、本発明のように珪藻土やシランカップリング剤などのケイ素化合物をゴムに添加することにより、コーティング層の密着性が向上することが確認された。
【0086】
なお、以上の実施例では、パーハイドロポリシラザン及びポリオルガノシラザンからなる塗布液からシリカ膜を形成するために高温で熱処理を実施したが、ゴム基材の耐熱性が低い場合には、大気圧プラズマやエキシマ光などの光エネルギーによって処理してもよい。
【符号の説明】
【0087】
1 オイルシール(密封装置)
2 回転軸(動作軸)
3 リップ
4 コーティング層
4A 柔軟層(第1のコーティング層)
4B 緻密層(第2のコーティング層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動作軸に摺接するゴム製のリップを備えてなる密封装置において、上記リップのゴム表面に、パーハイドロポリシラザン及びポリオルガノシラザンを含む溶液を熱処理して得られるコーティング層を形成したことを特徴とする密封装置。
【請求項2】
動作軸に摺接するゴム製のリップを備えてなる密封装置において、上記リップのゴム表面に、ポリオルガノシラザンを含む溶液を熱処理して得られる第1のコーティング層を形成し、さらにその上に、パーハイドロポリシラザン及びポリオルガノシラザンを含む溶液を熱処理して得られる第2のコーティング層を形成したことを特徴とする密封装置。
【請求項3】
上記リップは、ゴムにケイ素化合物を含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の密封装置。
【請求項4】
上記ケイ素化合物は、二酸化ケイ素であることを特徴とする請求項3に記載の密封装置。
【請求項5】
上記ケイ素化合物は、シランカップリング剤であることを特徴とする請求項3に記載の密封装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−169261(P2010−169261A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−299545(P2009−299545)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000143307)株式会社荒井製作所 (100)
【Fターム(参考)】