説明

密封装置

【課題】回転体の偏心に対する追随性に優れ、しかも回転体のスラスト変位に対してもシールリップの密接状態の安定性が損なわれない密封装置を提供する。
【解決手段】ハウジングとその内周の回転体との間に介装される密封装置であって、ハウジング側に密嵌され軸方向に並んだ複数のフランジ11b,12bを有する支持体1と、密封装置本体2とを備え、密封装置本体2が、前記複数のフランジ11b,12bの間に連続気孔を有する多孔質弾性体からなる弾性体3,3を介して軸方向及び径方向変位可能に支持された被支持環21と、この被支持環21に一体的に設けられて前記回転体に摺動可能に密接されるシールリップ22からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は密封装置に関するものであって、特に、ハウジングと軸との相対的な偏心や相対的な軸方向変位の大きい部位での密封に適したものに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車のエクステンションハウジングと回転軸との間の密封手段として用いられる密封装置として、従来から、例えば図4あるいは図5に示されるようなものが知られている。
【0003】
このうち、図4に示される密封装置は、ハウジングの内周面に圧入される外周シール部102と、回転軸の外周面に摺動可能に密接される対油リップ103、対ダスト用リップ104、及び対ダスト用のサイドリップ105が、金属製の補強環101に、ゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料で一体的に成形された構成を備える。
【0004】
この種の密封装置では、回転軸の偏心に対する追随性を確保するためには、対油リップ103の肉厚を薄くすることが有効であるが、この場合は対油リップ103の剛性が低下することから、軸方向変位に対しては回転軸の外周面と対油リップ103の接触状態が不安定になることが懸念される。
【0005】
また、図5に示される密封装置は、ハウジングの内周面に圧入される金属製の外環201及びこれに一体に組み込まれた金属製の内環202と、この内環202にゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料で一体的に成形され、ベロー部203及びその内径側に連続して設けられて回転軸の外周面に摺動可能に密接される対油リップ204とを備える(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平9−112706号公報
【0006】
しかしながらこの密封装置も、ベロー部203によって対油リップ204の優れた偏心追随性が確保されるものの、軸方向変位に対しては回転軸の外周面と対油リップ204の接触状態が不安定になることが懸念される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上のような点に鑑みてなされたものであって、その技術的課題は、軸偏心に対する追随性に優れ、しかも軸のスラスト変位に対してもシールリップの密接状態の安定性が損なわれない密封装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した技術的課題を有効に解決するための手段として、請求項1の発明に係る密封装置は、ハウジングとその内周の回転体との間に介装される密封装置であって、前記ハウジング側に密嵌され軸方向に並んだ複数のフランジを有する支持体と、密封装置本体とを備え、前記密封装置本体が、前記複数のフランジの間に弾性体を介して軸方向及び径方向変位可能に支持された被支持環と、この被支持環に一体的に設けられて前記回転体に摺動可能に密接されるシールリップからなるものである。
【0009】
請求項2の発明に係る密封装置は、請求項1に記載された弾性体が連続気孔を有する多孔質弾性体からなるものである。なお、ここでいう連続気孔を有する多孔質弾性体としては、例えばファブリックやフェルト、綿状体などの繊維集合体や、連続気泡を有する発泡樹脂(スポンジ)が挙げられる。
【0010】
請求項3の発明に係る密封装置は、請求項1に記載された支持体と被支持環に、互いの回り止め手段が形成されたものである。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明に係る密封装置によれば、密封装置本体の被支持環が、ハウジング側に密嵌される支持体のフランジ間に弾性体を介して軸方向及び径方向変位可能に支持されているので、ハウジングに対する回転体の偏心や軸方向変位に対して、密封装置本体が良好に追随することができ、密封装置本体におけるシールリップの密接状態の安定性が確保される。
【0012】
請求項2の発明に係る密封装置によれば、支持体のフランジと密封装置本体の被支持環の間に介在させる弾性体を連続気孔を有する多孔質弾性体からなるものとすることによって、回転体の偏心や軸方向変位に対する密封装置本体の追随性を一層良好にすることができる。
【0013】
請求項3の発明に係る密封装置によれば、回転体と摺動するシールリップの摺動トルクによる密封装置本体の回転が防止される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係る密封装置の好ましい実施の形態について、図面を参照しながら説明する。まず図1は、本発明に係る密封装置の第一の形態を、その軸心を通る平面で切断して示す半断面図である。
【0015】
図1に示される密封装置は、不図示のハウジングの内周面に密嵌される支持体1と、この支持体1に弾性体3を介して支持された密封装置本体2とを備える。
【0016】
支持体1は、互いに一体的に嵌着された金属製の外環11及び内環12と、ゴム材料又はゴム状弾性材料で成形され前記外環11に一体的に設けられた外周シール部13及びサイドリップ14からなる。
【0017】
詳しくは、支持体1における外環11は、外径筒部11a及びその一端から内径側へ屈曲形成されたフランジ11bを有し、内環12は、外環11の外径筒部11aの内周面に嵌着された外径筒部12aと、この外径筒部12aの一端から内径側へ屈曲形成され前記フランジ11bと軸方向に所定間隔で並んだフランジ12bと、このフランジ12bの内径端から外径筒部12aと同心に折り返された内径筒部12cを有する。
【0018】
支持体1における外周シール部13は、ハウジングの内周面に適当な圧縮状態で密接されるものであって、外環11の外径筒部11aの外周面に加硫接着等により一体化されている。
【0019】
支持体1におけるサイドリップ14は、機外側を向いた先端側が大径となるような円錐筒状をなし、先端が例えば後述する回転軸側に取り付けられる不図示のスリンガなどに摺動可能に密接されるものであって、その根元14aは外環11のフランジ11bの内径部に加硫接着等により一体化され、外周シール部13と連続している。
【0020】
密封装置本体2は、支持体1における外環11のフランジ11bと内環12のフランジ12bとの間に遊嵌状態に配置された金属製の被支持環21と、ゴム材料又はゴム状弾性材料で成形され前記被支持環21に一体的に設けられた対油リップ22、対ダスト用リップ23及び外周リップ24と、前記対油リップ22の外周に装着されたガータスプリング25からなる。なお、対油リップ22は請求項1に記載されたシールリップに相当する。
【0021】
詳しくは、密封装置本体2における被支持環21は、外径が支持体1における外環11の外径筒部11aの内径より適宜小径のワッシャ状をなすものであって、その外径部21aが、支持体1における外環11のフランジ11bと内環12のフランジ12bとの間に、一対の弾性体3,3を介して軸方向及び径方向変位可能に挟持されている。
【0022】
密封装置本体2における対油リップ22は、不図示の軸受等が存在する機内側を向いていて、すなわち支持体1におけるサイドリップ14と反対側を向いていて、その根元が被支持環21の内径部21bに加硫接着等によって一体化されており、先端内径部のリップエッジ22aが、ハウジングの内周に挿通された不図示の回転軸の外周面に適当な締め代をもって摺動可能に密接されることによって、機内側の潤滑油等の機外側への漏洩を防止するものである。なお、回転軸は、請求項1に記載された回転体に相当する。
【0023】
また、リップエッジ22aの機外側の内周面には、回転軸の回転によって機内側へ向けて螺子ポンプ作用を発揮する螺旋溝(又は螺旋突条)22bが形成され、さらにそれより機外側には、対油リップ22の姿勢を安定させるためのサブエッジ22cが円周方向に連続して形成されている。
【0024】
密封装置本体2における対ダスト用リップ23は、対油リップ22と反対側すなわち機外側を向いていて、その根元が対油リップ22の根元と連続して、被支持環21の内径部21bに加硫接着等によって一体化されており、先端内径部が、回転軸の外周面に摺動可能に密接されることによって機内側へのダスト等の侵入を阻止するものである。
【0025】
密封装置本体2における外周リップ24は、機内側を向いた先端側が大径となるような円錐筒状をなすものであって、その根元が対油リップ22の根元の外周位置で被支持環21に加硫接着等によって一体化されており、R面状に面取りされた先端外径部が、支持体1における内環12の内径筒部12cの内周面に適当な締め代をもって密接されている。そしてこのため、密封装置本体2を支持体1に対して径方向へ弾性的に支持する作用を有する。
【0026】
密封装置本体2におけるガータスプリング25は、回転軸に対する対油リップ22の緊迫力を補償するためのものであって、金属製の細長いコイルスプリングを環状に繋げたものである。
【0027】
支持体1における外環11のフランジ11b及び内環12のフランジ12bと密封装置本体2の被支持環21との対向面間にそれぞれ介在する弾性体3は、連続気孔を有する多孔質弾性体、例えばファブリック、綿、フェルトなどの繊維集合体や、連続気泡を有する発泡樹脂(スポンジ)などを環状に成形したもので、柔軟に変形可能である。この弾性体3は、前記フランジ11b,12bと被支持環21のうちいずれか一方に接着しても良い。
【0028】
以上のように構成された第一の形態の密封装置によれば、支持体1における外環11のフランジ11bと内環12のフランジ12bとの間で、密封装置本体2の被支持環21が一対の弾性体3,3を介して軸方向及び径方向変位可能に挟持されているため、回転軸が例えばハウジングに対して偏心した場合、この回転軸の外周面に対油リップ22及び対ダスト用リップ23が密接されている密封装置本体2は、支持体1に対して、前記外環11の外径筒部11aの内径と被支持環21の外径との径方向隙間Gの範囲内で、径方向へ追随変位することができる。このため、回転軸の外周面に対する対油リップ22及び対ダスト用リップ23の密接状態が損なわれたり、円周方向一部で対油リップ22及び対ダスト用リップ23の面圧が異常に増大したりするのを有効に防止することができる。
【0029】
なお、支持体1に対する密封装置本体2の偏心に際しては、外周リップ24は、径方向への曲げ変形を受けながら、先端外径部が、支持体1における内環12の内径筒部12cの内周面との密接状態が維持されるので、支持体1のサイドリップ14の摺動部から、多孔質弾性体からなる弾性体3に侵入したダストがこの弾性体3からさらに機内側へ侵入するのを、阻止することができる。
【0030】
また、回転軸が例えばハウジングに対して軸方向へ変位した場合、この回転軸の外周面と対油リップ22及び対ダスト用リップ23との摩擦力によって、密封装置本体2は、被支持環21とその軸方向両側のフランジ11b,12bとの間での弾性体3の柔軟な変形を伴いながら、軸方向へ追随変位するので、対油リップ22及び対ダスト用リップ23がめくれたりしてその姿勢が不安定になるのを有効に防止することができる。しかも、この密封装置本体2の軸方向変位量は、弾性体3の圧縮限度の範囲内に制限されるので、先に説明した図5の従来構造のようにベロー部203によって軸方向追随性を与えたものに比較して、対油リップ22及び対ダスト用リップ23によるシール位置を安定させることができる。
【0031】
そしてこのとき、外周リップ24は、支持体1における内環12の内径筒部12cの内周面と軸方向に摺動することになるが、外周リップ24の先端外径部はR面状に面取りされているので、弾性体3側にダストが存在する場合でも、このダストを機内側へ掻き出すような作用は生じない。
【0032】
ここで、多孔質弾性体からなる弾性体3は、圧縮に対する反発力が小さく、すなわち被支持環21(密封装置本体2)に対する固定力が小さいため、対油リップ22及び対ダスト用リップ23の摺動トルクによって密封装置本体2が回転してしまうことが懸念される。図2は、このような密封装置本体2の回転を防止するための回り止め手段を設けた第二の形態を、その軸心を通る平面で切断して示す半断面図、図3は、図2におけるIII-III断面図である。
【0033】
この第二の形態において、上述した第一の形態と異なるところは、支持体1の外環11と密封装置本体2の被支持環21に、相対回転を防止する回り止め手段が形成されたことにある。その他の部分は、基本的には図1と同様に構成されている。
【0034】
詳しくは、支持体1における外環11の外径筒部11aのうち、フランジ11bと内環12のフランジ12bとの間に位置する部分の内周面には、複数の係合突起11cが円周方向所定の位相間隔で形成されている。なお、この係合突起11cは、エンボス加工などにより外径側から陥没させて形成することができる。
【0035】
一方、密封装置本体2における被支持環21の外径部21aには、複数の係合切欠21cが、上述した係合突起11cと対応する位相間隔で形成されており、各係合突起11cと遊嵌状態で円周方向に互いに係合している。
【0036】
以上のように構成された第二の形態の密封装置によれば、先に説明した第一の形態による効果に加え、回転軸の外周面と摺動する対油リップ22及び対ダスト用リップ23の摺動トルクによって密封装置本体2が支持体1に対して相対回転するのを、係合突起11cと係合切欠21cの互いの係合によって確実に防止することができる。
【0037】
なお、回り止め手段としては、図2及び図3に示されるもののほかに、例えば外環11のフランジ11b、内環12のフランジ12b及び被支持環21の外径部21aにそれぞれエンボス加工等による軸方向突起を形成し、これを弾性体3,3に食い込ませることによって、弾性体3,3を介して被支持環21が回り止めされるように構成したものなどが考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る密封装置の第一の形態を、その軸心を通る平面で切断して示す半断面図である。
【図2】本発明に係る密封装置の第二の形態を、その軸心を通る平面で切断して示す半断面図である。
【図3】図2におけるIII-III断面図である。
【図4】従来の技術による密封装置の一例を、その軸心を通る平面で切断して示す半断面図である。
【図5】従来の技術による密封装置の他の例を、その軸心を通る平面で切断して示す半断面図である。
【符号の説明】
【0039】
1 支持体
11b,12b フランジ
11c 係合突起(回り止め手段)
2 密封装置本体
21 被支持環
21c 係合切欠(回り止め手段)
22 対油リップ(シールリップ)
23 対ダスト用リップ
24 外周リップ
3 弾性体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングとその内周の回転体との間に介装される密封装置であって、前記ハウジング側に密嵌され軸方向に並んだ複数のフランジを有する支持体と、密封装置本体とを備え、前記密封装置本体が、前記複数のフランジの間に弾性体を介して軸方向及び径方向変位可能に支持された被支持環と、この被支持環に一体的に設けられて前記回転体に摺動可能に密接されるシールリップからなることを特徴とする密封装置。
【請求項2】
弾性体が連続気孔を有する多孔質弾性体からなることを特徴とする請求項1に記載の密封装置。
【請求項3】
支持体と被支持環に、互いの回り止め手段が形成されたことを特徴とする請求項1に記載の密封装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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