説明

寝たきり患者の興奮を時間ベースで解析する装置および方法

患者の叫び声を取得する手段(4)と、患者の動作を取得する手段(5)とを具備し、前記2つの取得手段は、後者のタイムスタンプを添付して取得データを保存するのに適した記憶手段(9)に接続され、前記両手段は、所定の期間を超えた患者の興奮を表す、患者の叫び声および動作の周波数および期間の表示を介護スタッフに提供するのに適した解析・表示手段(10)に接続される、寝たきり患者の興奮を時間ベースで解析する装置において、前記叫び声を取得する手段は、発話および周辺雑音から叫び声を分離するのに適した帯域フィルタ(6)を具備することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、寝たきり患者の興奮を時間ベースで解析する装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
病院の精神科および老年科は、多くの場合、「叫び声を上げる人(shouter)」として知られる患者の世話をする必要がある。
【0003】
上記患者は、多くの場合、判断をすることが困難であり、ベッドで突然精神的安定を失うとともに、不定期間に叫び始めるという理由で、患者となっている。
【0004】
上記「叫び声を上げる」患者の人口は、平均寿命と、アルツハイマー病などの加齢に伴う疾病の患者数との増加に伴って、急激に増加している。
【0005】
上記叫び声は、上記患者がいる診療科の日々の生活を妨げるため、上記患者は、介護スタッフにとって、非常に大きな負担となっている。
【0006】
上記叫び声の原因を見つけ出すためには、第1に、期間、強度、及び時間に関して、それらの定量化が可能である必要があり、上記叫び声の程度に関して調べることは、今のところ非常に困難である。最近まで、上記定量化は、そのような方法に関連する測定の信頼性に乏しい、介護スタッフによって作られた手書きのノートのみに基づいていた。
【0007】
非特許文献1は、患者の興奮を検出する赤外線センサと、叫び声の音量が所定の音声閾値を越えたことを検出するマイクとに基づいた測定システムを開示している。
【0008】
上記方法で取得されたデータは、その日を表す図の形式で、結果を表示することができるように、処理される。したがって、医療スタッフは、患者の叫び声および興奮を最小限にするために、最も適切な処置を探ることができる。
【0009】
ここで、上記システムは、その部屋にいる人物によって生成された音声及び雑音など、患者の周囲に対して感度が高過ぎるという欠点を有している。上記欠点は、静寂の保証が不可能である、病院または養護ホームでの使用に、上記システムを適さないものにしている。
【0010】
上記赤外線カメラによる患者の動作検出は、普通の自然な動作(たとえば、ベッドでの患者の寝返り)と、突然の動作によって認められる興奮との区別を可能にする画像処理に対して、比較的大きな計算パワーが必要であるという欠点を有している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】M. Schaff et al., “Aide technique a levaluation des patients crieurs alites”, ITMB. RBM 26 (2005) 357-362.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、寝たきり患者の周囲で生成された雑音から患者の叫び声および興奮を分離するように適切に選択可能で、患者の興奮を測定する装置の存在が望まれている。
【0013】
さらに、多数のベッドに対して装備可能にするため、比較的低コストである装置の存在が望まれている。事実、上述の非特許文献1では、多くの場合、最適な処置を決定する前に、長期間にわたって患者の興奮を記録する必要があることが示されている。
【0014】
さらに、簡単かつ低コストの方法で、普通の動作を突然の興奮と区別可能である装置の存在が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
これらの1つまたは複数の問題に対して、最善に取り組むために、本発明の第1態様では、寝たきりの患者の興奮を時間的に解析する装置が提供される。上記装置は、患者の叫び声を取得する手段と、患者の動作を取得する手段とを具備する。これらの取得手段は、後者のタイムスタンプを添付して取得データを保存する記憶手段に接続されている。上記記憶手段は、所定の期間を超えた患者の興奮を表す、患者の叫び声および動作の周波数および期間の表示を介護スタッフに提供するのに適した解析・表示手段に接続されている。上記叫び声を取得する手段は、発話および周辺雑音から叫び声を分離するのに適した帯域通過フィルタを具備している。
【0016】
本発明の第2態様において、
a.患者の叫び声を取得するステップと、
b.患者の動作を取得するステップと、
c.後者のタイムスタンプを添付して取得データを保存するステップと、
d.所定の期間を超えた患者の興奮を表す、患者の叫び声および動作の周波数および期間の表示を介護スタッフに提供するのに適した上記タイムスタンプされたデータを解析および表示するステップと、
を具備する、寝たきり患者の興奮を時間的に解析する方法において、
上記叫び声を取得する方法は、発話および周辺雑音から叫び声を分離するのに適した帯域通過フィルタリングを行うサブステップを具備することを特徴とする。
【0017】
特定の実施形態の他の特徴は、添付の特許請求の範囲において、従属請求項に記載されている。
【発明の効果】
【0018】
したがって、音声の周波数フィルタリングは、好ましくは、周辺雑音から患者の叫び声を容易に区別することを可能にする。
【0019】
同様に、振動センサの使用は、好ましくは、突然の動作の検出を簡単にするとともに、8ビットマイクロコントローラなどの低パワーの計算手段のみの使用を可能にする。
【0020】
したがって、一般的な低コストの装置を使用して本発明を実施することが可能であるため、本発明の装置は低コストで製造することが可能であることが理解される。
【0021】
本発明は、添付図面の参照とともに、単に実施例として与えられる以下の記載を読むことで、より理解されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態による装置の概略図である。
【図2】図1の装置の動作フローチャートである。
【図3】特定の実施形態における測定回路の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1を参照すると、患者1は、患者の動作を取得する装置3を装備したベッド2に寝ている。
【0024】
前記動作を取得する装置3は、好ましくは、前記患者1の動作によって生成されたベッドの振動を取得するために、ベッドのフレームに接続されたセンサである。
【0025】
マイク4は、好ましくは、雑音と、特に患者1から発せられる叫び声とを取得するように、前記ベッドの上に配置されている。
【0026】
前記動作を取得する装置3は、強度フィルタ5に接続されている。前記フィルタ5は、所定の最小強度を超えた振動に対応する情報のみを送信するように、調節可能である。
【0027】
前記マイク4は、介護スタッフの音声などの周辺雑音から、患者の叫び声を分離するのに適した帯域通過フィルタ6に接続されている。
【0028】
前記フィルタ5,6は、取得した情報のタイムスタンプを可能にするクロック8を具備する処理装置7に接続されている。
【0029】
記憶装置9は、前記情報の保存を可能にする。
【0030】
診察のために、ヒューマン−マシンインターフェース11を具備する端末10は、有線または無線データリンク12によって、前記記憶装置9に接続されている。
【0031】
図2を参照すると、前記興奮を解析する装置の動作は、以下のとおりである。
【0032】
患者の突然の動作によって起きたベッドの振動は、ステップ20で、前記振動センサ3によって記録される。
【0033】
ある一定の振幅でかつ普通の動作でない、突然の身振りに対応する信号のみを維持するために、前記センサ3によって生成された信号は、ステップ22で、前記強度フィルタ5によってフィルタリングされる。
【0034】
同時に、前記マイク4は、ステップ24で、前記ベッド2からの音声を記録する。前記介護スタッフの音声などの周辺雑音から前記叫び声を分離するために、マイク4によって生成された電気信号は、ステップ26で、前記帯域通過フィルタ6によってフィルタリングされる。前記帯域通過フィルタは、患者の叫び声の周波数範囲に対して調節されるように、パラメータ化が可能である。事実、女性の叫び声は、男性から発せられる叫び声よりも尖頭形の周波数範囲内にある。
【0035】
同様に、前記帯域通過フィルタ6は、好ましくは、最小通過パワーを超えた音声のみを通す強度フィルタによって、実現される。
【0036】
前記患者の突然の動作によって生成されるような、前記叫び声によって生成された信号は、ステップ28で、それらの記録の日付および時間を添付してデータベースに保存される。
【0037】
医師が前記患者の動作を調べたい場合、前記医師は、端末10(普通のパーソナルコンピュータ、またはパームトップコンピュータが可能)を使用する。
【0038】
前記医師による照会に関して、前記端末は、ステップ30で、前記記録されたデータを再生する(recover)とともに、たとえば、時間の関数として叫び声/興奮エピソードのグラフ形式で、それらを医師に提示する。
【0039】
図3を参照すると、特定の実施形態において、前記動作を取得する装置3は、圧電振動センサ40を具備している。
【0040】
前記マイクおよび圧電センサからの信号は、50Hzの阻止フィルタ42,44によってフィルタリングされ、次いで、46,48で増幅される。
【0041】
増幅後、最小較正幅が0.5秒のパルスを得るように、前記振動センサからの信号は、その出力が再トリガ可能な単安定マルチバイブレータ52に送信されるデジタル信号である、比較器50の調節可能な電圧と比較される。前記パルスは、他の入力においてマイクロコントローラ56からの4096Hzのクロック信号Clkを受信する、論理ゲート54をトリガする。これによって、興奮の期間に依存したパルス数で、大なり小なりの期間の連続パルスを引き起こす。
【0042】
前記連続パルスは、前記マイクロコントローラのカウンタの入力に到達する。一定の間隔、たとえば毎時間、前記マイクロコントローラは、前記カウンタの内容を異なる記憶域に保存する。
【0043】
前記マイクからの増幅された信号は、前記マイクロコントローラ56のアナログ−デジタル変換器の入力58に与えられる。次いで、前記叫び声に含まれた周波数を分離するとともに、発話(speech)に含まれた周波数を阻止するように、前記得られたデジタル値の連続は、デジタル帯域通過フィルタで処理される。ソフトウェアのパラメータ化は、女性の叫び声または男性の叫び声を選択可能にする。
【0044】
前記帯域通過フィルタは好ましくは、その全ての係数が整数である、再帰関数を得ることを可能にする、Z変換技術を使用する。したがって、短時間、典型的には100μsのオーダーで計算を行うように、低コストである8ビットのマイクロコントローラを使用することが可能である。したがって、前記音声信号は、音声信号の良好なスペクトル解析を可能にする、10kHzの最大周波数で、サンプリングされる。
【0045】
スイッチは、2つのサンプリング周波数、6kHzまたは10kHzを選択可能にする。
【0046】
第1ケースにおいて、使用される伝達関数に関連したフィルタの通過帯域は、約1500Hzの幅を有するとともに、約2500Hzにその中心を有する。第2ケースにおいて、前記通過帯域は、約900Hzの幅を有するとともに、約1500Hzにその中心を有する。
【0047】
前記第1通過帯域は、特に女性の声に適しているのに対して、前記第2通過帯域は、より男性の声に適している。
【0048】
デジタル帯域通過フィルタからの出力において、かつ叫び声が検出された場合、前記マイクロコントローラは、論理ゲート62を制御する再トリガ可能な単安定マルチバイブレータ60の入力に、パルスを送信する。前記パルスは、フィルタリングされた叫び声に対応するデジタル信号を、その出力が比較器66に接続されたデジタル−アナログ変換器64に送信することによって、生成される。これは、振動に関して、ある一定の強度を有する叫び声のみを維持することを可能にする。
【0049】
コマンドに依存して、前記論理ゲート62は、前記叫び声の期間に比例する連続長で、期間が大なり小なりの連続クロックパルスを通過させる。
【0050】
前記連続パルスは、前記マイクロコントローラの第2カウンタの入力に与えられる。興奮に関して、同じ方法で、マイクロコントローラは、一定の間隔で、たとえば常に、前記カウンタに到達するパルスをカウントするとともに、特定の記録域にその総数を保存する。
【0051】
医療スタッフが前記患者の叫び声および興奮の総数を知りたい場合、前記医療スタッフは、携帯グラフィックディプレイと、計算装置(Bluetooth(登録商標)技術を装備した、パームトップコンピュータ、ラップトップPC、タブレットPC、またはスマートフォン)とを使用して、前記装置に照会を行う。携帯装置にインストールされたアプリケーションは、Bluetooth無線型接続を介して、前記装置への接続を可能にする。前記携帯装置にダウンロードされたデータの結果は、2つのヒストグラム形式でスクリーンに表示される。
【符号の説明】
【0052】
1 患者
2 ベッド
3 患者の動作を取得する装置
4 マイク
5 強度フィルタ
6 帯域通過フィルタ
7 処理装置
8 クロック
9 記憶装置
10 端末
11 ヒューマン−マシンインターフェース
12 データリンク
20,22 患者の動作を取得するステップ
24,26 患者の叫び声を取得するステップ
28 タイムスタンプを添付して取得データを保存するステップ
30 タイムスタンプされたデータを解析および表示するステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の叫び声を取得する手段(4)と、患者の動作を取得する手段(3)とを具備し、前記2つの取得手段は、後者のタイムスタンプ(8)を添付して取得データを保存するのに適した記憶手段(9)に接続され、所定の期間を超えた患者の興奮を表す、患者の叫び声および動作の周波数および期間の表示を介護スタッフに提供するのに適した解析・表示手段(10,11)に接続された、寝たきり患者の興奮を時間ベースで解析する装置において、
前記患者の叫び声を取得する手段(4)は、発話および周辺雑音から前記叫び声を分離するのに適した帯域通過フィルタ(6)を具備することを特徴とする解析装置。
【請求項2】
前記動作を取得する手段は、患者のベッドの振動センサを具備することを特徴とする請求項1に記載の解析装置。
【請求項3】
前記動作を取得する手段は、所定の閾値を越えた強度を有する振動のみが前記記憶手段に保存されるように、選択された強度フィルタを具備することを特徴とする請求項2に記載の解析装置。
【請求項4】
前記帯域通過フィルタは、2つの所定の帯域幅から通過帯域を選択する手段を具備することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の解析装置。
【請求項5】
前記所定の通過帯域は、約1500Hzの帯域幅で2500Hzに中心がある第1通過帯域と、約900Hzの帯域幅で1500Hzに中心がある第2通過帯域とを有することを特徴とする請求項4に記載の解析装置。
【請求項6】
前記帯域通過フィルタは、Z変換技術に基づいたデジタルフィルタであることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の解析装置。
【請求項7】
a.患者の叫び声を取得するステップ(24,26)と、
b.患者の動作を取得するステップ(20,22)と、
c.後者のタイムスタンプを添付して取得データを保存するステップ(28)と、
d.所定の期間を超えた患者の興奮を表す、患者の叫び声および動作の周波数および期間の表示を介護スタッフに提供するように、前記タイムスタンプされたデータを解析および表示するステップ(30)と
を具備する、寝たきり患者の興奮を時間ベースで解析する方法において、
前記叫び声を取得するステップは、発話および周辺雑音から叫び声を分離するのに適した、帯域通過フィルタリングを行うサブステップを具備することを特徴とする解析方法。
【請求項8】
前記帯域通過フィルタリングを行うステップは、2つの所定の通過帯域から通過帯域を選択する事前ステップを具備することを特徴とする請求項7に記載の解析方法。
【請求項9】
前記所定の通過帯域は、約1500Hzの帯域幅で2500Hzに中心がある第1通過帯域と、約900Hzの帯域幅で1500Hzに中心がある第2通過帯域とを具備することを特徴とする請求項8に記載の解析方法。
【請求項10】
前記動作を取得するステップは、患者のベッドの振動を取得するサブステップを具備し、
これに続いて、所定の閾値を超えた強度を有する振動のみが保存されるように、調節された強度フィルタリングのサブステップを具備することを特徴とする請求項7から9のいずれか1項に記載の解析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−503443(P2010−503443A)
【公表日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−527869(P2009−527869)
【出願日】平成19年9月11日(2007.9.11)
【国際出願番号】PCT/FR2007/051909
【国際公開番号】WO2008/031984
【国際公開日】平成20年3月20日(2008.3.20)
【出願人】(507002516)アンセルム(アンスティチュート・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・メディカル) (4)
【Fターム(参考)】