説明

寸法安定性が改善されたポリマー電解質膜

本発明は、燃料電池において有用な膜電極アセンブリー(MEA)及び触媒被覆膜(CCM)を製造するために使用できる異方性ポリマー電解質膜を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、寸法安定性が改善されたポリマー電解質膜、該膜の製造方法及び該膜を具有する燃料電池に関する。
【0002】
関連出願のクロス・リファレンス
この出願は、米国の仮出願第60/687,408号(出願日:2005年6月2日)に基づく優先権を主張する出願であり、該仮出願の明細書の記載内容も本願明細書の一部を成すものである。
【背景技術】
【0003】
燃料電池は、主としてその非汚染特性に起因して、携帯用電子装置、電気自動車およびその他の用途に対する前途有望な電源として開発されている。種々の燃料電池系のうちで、ポリマー電解質膜に基づく燃料電池、例えば、直接メタノール燃料電池(DMFC;direct methanol fuel cell)及び水素燃料電池は多大の注目を集めているが、これは該燃料電池の高い出力密度と高いエネルギー変換効率に基づくものである。ポリマー電解質膜に基づく燃料電池の「核心部」は、所謂「膜電極アセンブリー」(MEA;membrane-electrode assembly)であり、該アセンブリーは、プロトン交換膜(PEM;proton exchange membrane)、PEMの対置表面上に配設されて触媒被覆膜(CCM;catalyst coated membrane)を形成する触媒、および触媒層と電気的に接触するように配設される一対の電極(即ち、アノードとカソード)を具備する。
【0004】
DMFC用プロトン伝導性膜は既知であり、この種の膜としては「ナフィオン(Nafion)」(登録商標)[E.I.デュポン・デ・ネムール・アンド・カンパニー社製]およびドウ・ケミカルズ社から市販されている類似製品が例示される。しかしながら、これらのペルフルオロ化炭化水素スルホネートアイオノマー製品は、高い温度での燃料電池に使用する場合には重大な制限がある。ナフィオンは、燃料電池の作動温度が80℃を越えると伝導性を失う。さらに、ナフィオンは非常に高いメタノールのクロスオーバー速度(crossover rate)を示し、このためDMFCにおける適用が妨げられる。
【0005】
バラード・パワー・システム社へ譲渡された米国特許第5773480号明細書には、α,β,β−トリフルオロスチレンを原料とする部分的にフッ素化されたプロトン伝導性膜が記載されている。この膜の1つの欠点は、α,β,β−トリフルオロスチレンモノマーの複雑な合成法に起因して膜の製造コストが高くなるだけでなく、ポリ(α,β,β−トリフルオロスチレン)のスルホン化能が低いことである。この膜の別の欠点は、非常に脆いために、支持マトリックス中へ組み込まなければならないことである。
【0006】
ケルレスらによる米国特許第6300381号および同第6194474号各明細書には、プロトン伝導性膜用の酸−塩基二成分ポリマーブレンド系が記載されている。この場合、スルホン化ポリ(エーテルスルホン)はポリ(エーテルスルホン)の後スルホン化によって調製される。
【0007】
M.ウエダは、スルホン化モノマーを使用してスルホン化ポリ(エーテルスルホンポリマー)を調製する方法を開示している[ジャーナル・オブ・ポリマー・サイエンス、第31巻(1993年)、第853頁]。
【0008】
マクグラスらは、この方法を使用してスルホン化ポリスルホンポリマーを調製している(米国特許出願2002/0091225A1)。
【0009】
イオン伝導性ブロックコポリマーはPCT/US2003/015351に開示されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
燃料電池の作動に関して良好な膜の必要性に対しては、該膜の種々の特性のバランスが要求される。このような特性には、プロトン伝導率、耐燃料油性、特に高温で使用されるときの化学的安定性と燃料のクロスオーバー、DMFCの迅速な起動、及び耐久性が含まれる。さらに、該膜に関しては、燃料の作動温度範囲にわたって寸法安定性が維持されることが重要である。常套のPEMは、燃料、例えば、メタノールに曝されたときに、異方性的に膨潤する。このような寸法の変化は、PEM/触媒界面の破損、封止機能の損傷、又は異常な流動分布若しくはその他の問題をもたらす燃料電池内での膜移動に起因する燃料電池の故障を惹起する。寸法安定性の欠如は、燃料の欠乏に起因してPEMが乾燥するときに、燃料電池の不十分な応答ももたらす。従って、膜の面内での寸法安定性は、燃料電池に使用されるPEMを形成させる場合には重要であり、本願発明はこのような事情に鑑みてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
寸法安定性を有するPEMは、異方性的に膨潤したPEMを機械的に加工することによって製造される。この機械的加工によって、PEMは異方性的に膨潤性を示すPEMへ変換される。
【0012】
本発明による方法は、平面状の第1対置膜表面と第2対置膜表面を有する膨潤化イオン伝導性膜を熱圧することによって、異方性的な膨潤性を示すPEMを形成させる工程を含む。熱圧工程においては、膨潤化膜の少なくとも第1表面を、第1面と第2面を有する第1有孔部材と接触させる。第1面は膜の第1表面の全部又は一部と接触させる。有孔部材の第2面及び/又は該部材の穿孔は所望により吸収材料と接触させる。このようにして形成されるPEMは、水、メタノール又はこれらの混合物に曝されたときに、膜の平面に対して垂直方向において異方性的膨潤性を示すことによって証明される特有の面内寸法安定性を示す。
【0013】
本発明方法には、第1面と第2面を有する第2有孔部材の使用を含めることができる。この場合、第1面は膜の第2表面と接触させる。該有孔部材の該第2面及び/又は該面の穿孔は所望により吸着性材料と接触させる。
【0014】
膜は、イオン伝導性ポリマーを含有する溶液の流延によって製造される材料の連続的なウェブであってもよい。膜のウェブは、膜が膨潤状態で存在するのに十分な溶剤を保有すべきである。
【0015】
膜のウェブを使用する場合、好ましい有孔部材は有孔円筒体である。該円筒体は、膨潤化膜が該円筒体を連続的に通過するときに、該膨潤化膜を熱圧する。
【0016】
異方性PEMは、燃料電池、例えば、水素燃料電池及び直接メタノール電池等において特に有用な膜電極アセンブリー(MEA)及び触媒を被覆したポリマー電解質膜(CCM)を製造するために使用することができる。この種の燃料電池は携帯型及び固定型の電子装置、補助出力ユニット(APU)を含む電源、住居用電源、バックアップ電源及び輸送機関(例えば、自動車、航空機、船舶)用移動電源、並びにこれらに関連するAPUにおいて利用することができる。
【0017】
本発明には、少なくとも1つ又は2つの有孔部材を具備する熱圧プレスが含まれる。該有孔部材は、該有孔部材の第1表面が、熱圧処理されるべき膜の表面と接触するように配設される。有孔部材の第2表面は所望により吸収材料と接触するように適合させる。
【0018】
添付図面について簡単に説明する。
図1は、典型的なPEMの次元を定義する。膜の幅はX次元において測定される。ウェブ加工のように、シートが長い場合、Xはシートのロールの幅と等しくなる。シートの長さはY次元において測定される。シートの厚さはZ次元において測定される。
【0019】
図2は、改善された寸歩安定性を有するPEMを形成させるために膨潤化膜を熱圧処理する状態の模式図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
PEMの次元を図1に示す。この場合、XとYはPEMの平面を定義し、Zは、X/Y平面に垂直な次元を規定する。1つの観点においては、本発明によれば、PEMが水及び/又は液状燃料に曝されたときに、X/Y平面内における寸法の変化は最小となる。
【0021】
膜の「膨潤(swelling)」は、水又はその他の液体が膜によって吸収されるとき発生し、これによって膜の体積は増大する。ここで使用するように、「異方性膨潤(anisotropic swelling)」は一次元における膨潤であり、その膨潤度はその他の次元にわたる膨潤とは異なる。「等方性膨潤」は全ての次元における膨潤度が等しいか、又はほぼ等しい。
【0022】
本発明方法には、平面状の第1対置表面と第2対置表面を有する膨潤化したイオン伝導性膜を有孔膜(perforated membrane)と熱圧させることによって、Z次元において異方性膨潤能を発揮するPEMを形成させる工程が含まれる。熱圧工程においては、膨潤化膜の少なくとも第1表面を、第1面と第2面を有する第1有孔部材と接触させる。第1面は膜の第1表面の全部又は一部と接触させ、一方、有孔膜の第2面及び/又はその穿孔は所望により吸収材料と接触させる。このようにして形成されるPEMは、平面内において特有の寸法安定性を発揮するが、このことは、水、メタノール又はこれらの混合物に曝したときに発揮される異方性膨潤能によって証明される。この種の異方性PEMは、X/Y平面内においては、Z次元における膜膨潤と比較した場合、著しい膨潤性を示さない。
【0023】
膨潤化膜は非水性溶剤、水又はこれらの混合物を含有することができる。あるいは、膨潤化膜は、熱圧処理前に水で洗浄することができ、これによって、流延溶剤を実質上含有しない水和膜が得られる。
【0024】
本発明方法には、第1面と第2面を有する第2有孔部材の使用を含めることができる。この場合、第1面は膜の第1表面と接触させる。この有孔部材の第2面及び/又はその穿孔は所望により吸着性材料と接触させることができる。
【0025】
膜は、イオン伝導性ポリマー含有溶液の流延によって製造される材料の連続的ウェブであってもよい。このポリマー膜ウェブは、膜が膨潤状態で存在するのに十分な溶剤を含有すべきである。次いで、この膜は、少なくとも1つの有孔部材を用いる熱圧処理によって連続的に処理される。膜のウェブを使用する場合の好ましい有孔部材は有孔円筒体である。有孔円筒体は、膨潤膜が円筒体を通過するときに、連続的ウェブを熱圧する。
【0026】
熱圧処理は、膨潤化膜のTgよりも高い温度であって、乾燥時の膜のTgよりも低い温度でおこなわれる。また、熱圧処理は10〜50kg/cmの圧力下でおこなわれる。熱圧処理後、膜は冷却される。好ましい冷却速度は少なくとも15℃/秒である。
【0027】
異方性PEMは、有孔部材で処理された表面上に島状体(island)を保有する。これらの島状体は、予め決められたパターン、即ち、熱圧部材内に配置される穿孔によって規定されるパターンに従って配設される。これらの島状体は、PEMの表面積を増大させるという付加的な利点をもたらす。これによって触媒層の結合性が強化され、また、PEMから製造されるCCMから発生する電流の増加がもたらされる。
【0028】
本発明には、不連続的又は連続的な熱圧プレスが含まれる。熱圧プレスは、PEMをアニーリング処理に付すために従来から使用されている。一般的には、この種の装置は、PEMをプレスするために使用される平坦な中実プレート(solid plate)を具備する。本発明においては、異方性PEMの製造に使用するために、このような中実プレートは穿孔される。あるいは、穿孔プレートを中実プレートへ固定することによって、該穿孔プレートを熱圧プレスに装着させることができる。場合によっては、吸収性材料を中実プレートと穿孔プレートとの間に配設することによって、膜の乾燥を促進させてもよい。熱圧処理中においては、このような穿孔は、膜からの液体又は気体の逃散を可能にする。液体又は気体の輸送を促進するために、この種の穿孔プレートは吸上性材料(wicking material)と併用してもよい。好ましい吸収性材料は、糸屑のない布(lint free cloth)、例えば、テクス・ワイプ社(マーワン、ニュージャーシ)製の「TX409」等である。
【0029】
穿孔プレート内の穿孔の一般的な形態は、125〜200ミクロン(好ましくは、約150〜180ミクロン)の直径を有する円形である。このような穿孔は幾何学的なパターン、例えば、反復する六角状パターンで配設される。穿孔の大きさと数は、穿孔プレートの表面積の約15〜50%(より好ましくは25〜35%、最も好ましくは約30%)を穿孔が占めるように選択される。本発明の実施に際して有用な穿孔プレートとしては、マックマスター−カール社(アトランタ、ジョージア)製の市販品及び特許第92315T101号、第9255T581号、第9255T451号及び第9255T151号の明細書に記載されているプレートが例示される。
【0030】
1又は複数の穿孔プレートを使用する場合、得られるPEM電池は、処理された表面上に島状体を含む。一般的には、このような島状体は穿孔の寸法に一致し、プレス板上の穿孔パターンに対応して配設される。このような島状体は約1ミクロン又はそれよりも低い高さを有する。一般的には、該島状体は約1ミクロン以下の高さを有する。
【0031】
イオン伝導性コポリマーは、いずれかのイオン伝導性ポリマー又はイオン伝導性ポリマーと非イオン性ポリマーとのブレンドを含有することができる。好ましいイオン伝導性ポリマーは、ポリマー主鎖中に分布される1種又は複数種のイオン伝導性オリゴマーを含有するコポリマーであり、該ポリマー主鎖は次の成分(1)〜(3)から選択される少なくとも1種、2種又は3種(好ましくは少なくとも2種)の成分を含む:(1)1種又は複数種のイオン伝導性モノマー、(2)1種又は複数種の非イオン性モノマー及び(3)1種又は複数種の非イオン性オリゴマー。これらのイオン伝導性オリゴマー、イオン伝導性モノマー、非イオン性モノマー及び/又は非イオン性オリゴマーは酸素原子及び/又は硫黄原子を介して相互に共有結合する。
【0032】
好ましい実施態様においては、イオン伝導性オリゴマーは第1コモノマーと第2コモノマーを含有する。第1コモノマーは1又は複数のイオン伝導性基を含む。第1コモノマーと第2コモノマーの少なくとも一方は2個の脱離基を有し、他方のコモノマーは2個の置換基を有する。1つの実施態様においては、第1コモノマーと第2コモノマーの一方を他方に比べてモル過剰量で存在させて両者を反応させることによって形成されるオリゴマーは、イオン伝導性のオリゴマーの各末端に脱離基又は置換基を有する。
【0033】
このイオン伝導性オリゴマー前駆体は、次の成分(1)〜(3)から選択される少なくとも2種の成分と組み合わされる:(1)1種又は複数種のイオン伝導性モノマー前駆体、(2)1種又は複数種の非イオン性モノマー前駆体及び(3)1種又は複数種の非イオン性オリゴマー前駆体。イオン伝導性モノマー、非イオン性モノマー及び/又は非イオン性オリゴマーの各々の前駆体は2つの脱離基又は2つの置換基を有する。各々の前駆体に対する脱離基又は置換基の選択は、これらの前駆体が結合して酸素結合及び/又は硫黄結合が形成されるようにおこなわれる。
【0034】
「脱離基(leaving group)」という用語は、一般的には別のモノマー中に存在する求核性部分によって置換されることができる官能性部分を意味する。脱離基は当該分野においては周知であり、ハロゲン化物(塩化物、フッ化物、ヨウ化物、臭化物)、トシルおよびメシル等が例示される。特定の態様においては、モノマーは少なくとも2つの脱離基を有する。好ましいポリフェニレンの実施態様においては、これらの脱離基は、これらが結合する芳香族モノマーに関して相互に「パラ」の関係にある。しかしながら、これらの脱離基は相互に「オルト」又は「メタ」の関係にあってもよい。
【0035】
「置換基(displacing group)」という用語は、一般的には求核試薬として作用することによって適当なモノマーの脱離基と置換する官能性部分を意味する。置換基を有するモノマーは、一般的には共有結合によって、脱離基を有するモノマーと結合する。好ましいポリアリーレンの例においては、芳香族モノマーのフッ化物基は、芳香族モノマーに結合したフェノキシドイオン、アルコキシドイオン、スルフィドイオンによって置換される。ポリフェニレンの実施態様においては、これらの置換基は相互に「パラ」の関係にある態様が好ましい。しかしながら、これらの置換基は相互に「オルト」又は「メタ」の関係にあってもよい。
【0036】
以下の表1には、脱離基と置換基との例示的な組合せを示す。イオン伝導性オリゴマー前駆体は2つの脱離基(フッ素原子F)を含み、他の3種の成分はフッ素原子及び/又はヒドロキシル(−OH)置換基を含む。硫黄結合は、チオール(−SH)による−OHの置換によって形成させることができる。イオン伝導性オリゴマー中の置換基Fは、置換基(例えば、−OH)によって置き換えることができる。この場合、他の前駆体は、脱離基が置換基で置換されるか、又は置換基が脱離基で置換されることによって変性される。
【0037】
【表1】

【0038】
イオン伝導性ポリマーの前駆体の好ましい組合せを表1の第5列と第6列に示す。
【0039】
イオン伝導性コポリマーは次式 I で表されるコポリマーであってもよい:
【化1】

【0040】
式中、Ar、Ar、Ar及びArは相互に独立して同一又は異なる芳香族部分を示し、Arの少なくとも1つはイオン伝導性基を含み、Arの少なくとも1つはイオン伝導性基を含み、T、U、V及びWは結合部分を示し、Xは相互に独立して−O−又は−S−を示し、i及びjは相互に独立して1よりも大きな整数を示し、a、b、c及びdはモル分率を示し(但し、a+b+c+d=1であり、aは0又は0よりも大きな値を示し、また、b、c及びdの少なくとも2つは0よりも大きい値を示す)、m、n、o及びpは該コポリマー中の異なるオリゴマー又はモノマーの数を表す整数を示す。
【0041】
a、b、c及びd、i及びj、並びにm、n、o及びpの好ましい値については後述する。
【0042】
イオン伝導性コポリマーは次式 II で表されるコポリマーであってもよい:
【化2】

【0043】
式中、Ar、Ar、Ar及びArは相互に独立してフェニル、置換フェニル、ナフチル、テルフェニル、アリールニトリル及び置換アリールニトリルを示し、Arの少なくとも1つはイオン伝導性基を含み、Arの少なくとも1つはイオン伝導性基を含み、Xは相互に独立して−O−又は−S−を示し、i及びjは相互に独立して1よりも大きな整数を示し、a、b、c及びdはモル分率を示し(但し、a+b+c+d=1であり、aは0又は0よりも大きな値を示し、また、b、c及びdの少なくとも2つは0よりも大きな値を示す)、m、n、o及びpは該コポリマー中の異なるオリゴマー又はモノマーの数を表す整数を示し、T、U、V及びWは相互に独立して単結合又は下記の群から選択される結合を示す:
【0044】
【化3】

【0045】
イオン伝導性コポリマーは次式 III で表されるコポリマーであってもよい。
【化4】

【0046】
式中、Ar、Ar、Ar及びArは相互に独立してフェニル、置換フェニル、ナフチル、テルフェニル、アリールニトリル及び置換アリールニトリルを示し、Xは相互に独立して−O−又は−S−を示し、T、U、V及びWは相互に独立してO、S、C(O)、S(O)、アルキル、分枝状アルキル、フルオロアルキル、分枝状フルオロアルキル、シクロアルキル、アリール、置換アリール又は複素環を示し、i及びjは相互に独立して1よりも大きな整数を示し、a、b、c及びdはモル分率を示し(但し、a+b+c+d=1であり、aは0又は0よりも大きな値を示し、また、b、c及びdの少なくとも2つは0よりも大きな値を示す)、m、n、o及びpは該コポリマー中の異なるオリゴマー又はモノマーの数を表す整数を示す。
【0047】
上記の式 I 、式 II 及び式 III において、次式 i)、ii)、iii)及びiv)で表されるコポリマーの構成単位はそれぞれイオン伝導性オリゴマー、イオン伝導性モノマー、非イオン性オリゴマー及び非イオン性モノマーを示す。従って、一部の態様においては、式 I 〜 III は、次の成分(1)〜(3)から選択される少なくとも2種の成分と組み合わされるイオン伝導性オリゴマーを含有するイオン伝導性コポリマーを示す:(1)1種又は複数種のイオン伝導性モノマー、(2)1種又は複数種の非イオン性モノマー及び(3)1種又は複数種の非イオン性オリゴマー。
【0048】
【化5】

【0049】
好ましい実施態様においては、iとjは相互に独立して2〜12、より好ましくは3〜8、最も好ましくは4〜6の数を示す。
【0050】
コポリマー中のイオン伝導性オリゴマーのモル分率aは0〜0.9、好ましくは0.1〜0.9、より好ましくは0.3〜0.7、最も好ましくは0.3〜0.5の値を示す。
【0051】
コポリマー中のイオン伝導性モノマーのモル分率bは、好ましくは0〜0.5、より好ましくは0.1〜0.4、最も好ましくは0.1〜0.3の値を示す。
【0052】
非イオン伝導性オリゴマーのモル分率cは、好ましくは0〜0.3、より好ましくは0.1〜0.25、最も好ましくは0.01〜0.15の値を示す。
【0053】
非イオン伝導性モノマーのモル分率dは、好ましくは0〜0.7、より好ましくは0.2〜0.5、最も好ましくは0.2〜0.4の値を示す。
【0054】
m、n、o及びpは、同一のコポリマー中又はコポリマーの混合物中における異なるモノマー及び/又はオリゴマーの使用を考慮して選択される整数を示し、mは好ましくは1、2又は3を示し、nは好ましくは1又は2を示し、oは好ましくは1又は2を示し、pは1、2、3又は4を示す。
【0055】
一部の実施態様においては、Ar、Ar及びArの少なくとも2つは相互に異なる。また、別の実施態様においては、Ar、Ar及びArは相互に異なる。
【0056】
疎水性オリゴマーが存在しない一部の実施態様、即ち、前記の式 I 、 II 又は III においてcが0を示す場合には、(1)イオン伝導性ポリマーを調製するために使用されるイオン伝導性モノマー前駆体は2,2’−ジスルホン化4,4’−ジヒドロキシビフェニルでななく、(2)イオン伝導性ポリマーは、該イオン伝導性モノマー前駆体を用いて形成されるイオン伝導性モノマーを含有せず、及び/又はイオン伝導性ポリマーは、本願明細書の実施例3に従って調製されるポリマーではない。
【0057】
イオン伝導性コポリマー、該コポリマーを調製するために使用されるモノマー、及び本願明細書で特に言及されていないモノマーも使用することができる。この種のイオン伝導性コポリマー及びモノマーには下記の特許文献に記載されているものが包含され、これらの文献の記載内容も本明細書の一部を成すものである:
1)米国特許出願No.09/872,770(出願日:2001年6月1日);米国特許公報US2002−0127454A1(発行日:2002年9月12日)「ポリマー組成物」、
2)米国特許出願No.10/351,257(出願日:2003年1月23日);米国特許公報US2003−0219640A1(発行日:2003年2月20日)「酸塩基プロトン伝導性ポリマーブレンド膜」、
3)米国特許出願No.10/438,186(出願日:2003年5月13日);米国特許公報US2004−0039148A1(発行日:2004年2月26日)「スルホン化コポリマー」、
4)米国特許出願No.10/438,299(出願日:2003年5月13日);米国特許公報US2004−0126666(発行日:2004年7月1日)「イオン伝導性ブロックコポリマー」、
5)米国特許出願No.10/449,299(出願日:2003年2月20日);米国特許公報US2003−0208038A1(発行日:2003年11月6日)「イオン伝導性コポリマー」、
6)米国特許出願No.10/987,178(出願日:2004年11月12日);米国特許公報US2005−0181256(発行日:2005年8月18日)「イオン伝導性ランダムコポリマー」、
7)米国特許出願No.10/987,951(出願日:2004年11月12日);米国特許公報US2005−0234146(発行日:2005年10月20日)「1種又は複数種の疎水性のモノマー又はオリゴマーを含有するイオン伝導性コポリマー」、
8)米国特許出願No.10/988,187(出願日:2004年11月11日);米国特許公報US2005−0282919(発行日:2005年12月22日)「1種又は複数種の疎水性オリゴマーを含有するイオン伝導性コポリマー」、及び
9)米国特許出願No.11/077,994(出願日:2005年3月11日);米国特許公報US2006−0041100(発行日:2006年2月23日)。
【0058】
その他のコモノマーには、スルホン化トリフルオロスチレン調製用コモノマー(米国特許5,773,480)、酸−塩基ポリマー調製用コモノマー(米国特許6,300,381)、ポリアリーレンエーテルスルホン調製用コモノマー(米国特許公報US2002/0091225A1)、グラフトポリスチレン調製用コモノマー(マクロモレキュルズ、第35巻、第1348頁、2002年)、ポリイミド調製用コモノマー(米国特許6,586,561及び J. Membr. Sci. 、第160巻、第127頁、1999年)並びに日本国特許出願2003−147076及び2003−055457に記載されているコモノマーが包含され、これらの開示内容も本明細書の一部を成すものである。
【0059】
本発明によるコポリマーについて、アリーレンポリマーの用途に関連して説明したが、次の成分(1)〜(3)の少なくとも2種と組み合わせるイオン伝導性オリゴマーの使用原理は多くのその他の系に対しても適用することができる:(1)1種又は複数種のイオン伝導性コモノマー、(2)1種又は複数種の非イオン性モノマー、及び(3)1種又は複数種の非イオン性オリゴマー。例えば、イオン性オリゴマー、非イオン性オリゴマー並びにイオン性及び非イオン性モノマーは必ずしもアリーレンである必要はなく、イオン伝導性基を有する脂肪族若しくはペルフルオロ化脂肪族の主鎖を有するものであってもよい。イオン伝導性基は主鎖に結合していてもよく、あるいは主鎖に対する側基(pendant)であってもよい。例えば、該基はリンカー(linker)を介してポリマー主鎖に結合していてもよい。あるいは、イオン伝導性基は、ポリマーの標準的な主鎖の一部として形成されていてもよい(例えば、米国特許公報US2002/018737781(発行日:2002年12月12日)参照)。これらのイオン伝導性オリゴマーのいずれも本発明の実施に使用することができる。
【0060】
イオン伝導性コポリマーを調製するために使用されるモノマーを下記の表2に例示する。
【表2】

【0061】
下記の式 IV (式中、n及びmはモル分率を示す)で表されるポリマーは好ましいランダムコポリマーである。この場合、nは0.5〜0.9の値を示し、mは0.1〜0.5の値を示し、好ましい態様においては、nは0.7で、mは0.3である。
【0062】
【化6】

【0063】
1個のイオン伝導性基が存在する場合の該基の好ましいモル%は30〜70モル%、より好ましくは40〜60モル%、最も好ましくは45〜55モル%である。1個よりも多くのイオン伝導性基がイオン伝導性モノマー中に含まれる場合の該基のモル%の値は、モノマーあたりのイオン伝導性基の総数をモル%を乗じた値である。従って、2個のスルホン酸基を有するモノマーのスルホン化度は、好ましくは60〜140%、より好ましくは80〜120%、最も好ましくは90〜110%である。
【0064】
あるいは、イオン伝導性基の量はイオン交換能(IEC)によって測定することができる。比較例としての「ナフィオン」の一般的なIECは0.9ミリ当量(meq)/gである。本発明の場合のIECは、好ましくは0.9〜3.0meq/g、より好ましくは1.0〜2.5meq/g、最も好ましくは1.6〜2.2meq/gである。
【0065】
ポリマー膜は、イオン伝導性コポリマーの溶液流延法(solution casting)又はホットメルト押出法によって製造してもよい。あるいは、ポリマー膜は、酸性ポリマーと塩基性ポリマーとのブレンドであるイオン伝導性ポリマーの溶液流延法によって製造してもよい。
【0066】
ポリマー膜は、イオン伝導性コポリマーの溶液流延法によって製造してもよい。
【0067】
燃料電池において使用するための膜を注型する場合、好ましい膜厚は0.1〜10ミル、より好ましくは1〜6ミル、最も好ましくは1.5〜2.5ミルである。
【0068】
ここで使用するように、プロトン束(proton flux)が約0.005S/cmよりも大きいとき、より好ましくは0.01S/cmよりも大きいとき、最も好ましくは0.02S/cmよりも大きいときには、膜はプロトンを透過させる。
【0069】
ここで使用するように、所定の厚さを有する膜を横断するメタノールの移動度が、同じ厚さを有するナフィオン膜を横断するメタノールの移動度よりも小さいときには、膜はメタノールを実質上透過させない。好ましい実施態様においては、メタノールの透過度は、ナフィオン膜の場合に比べて好ましくは50%小さく、より好ましくは75%小さく、最も好ましくは80%よりも大きな割合で小さい。
【0070】
イオン伝導性コポリマーから膜(PEM)を形成させた後、該膜は触媒被覆膜(CCM)を製造するのに使用してもよい。ここで使用するように、CCMはPEMを含有しており、PEMの対置する少なくとも一方の側(好ましくは両側)は、部分的もしくは全面的に触媒層によって被覆される。好ましくは、触媒層は触媒とアイオノマー(ionomer)から構成される層である。好ましい触媒はPtおよびPt−Ruである。好ましいアイオノマーにはナフィオンおよびその他のイオン伝導性ポリマーが含まれる。
【0071】
一般に、アノード触媒とカソード触媒は、十分に確立された標準的な技法によって膜上へ塗布される。直接メタノール燃料電池に対しては、一般にアノード側には白金/ルテニウム触媒が使用され、カソード側には白金触媒が使用される。水素/空気燃料電池又は水素/酸素燃料電池に対しては、一般にアノード側には白金又は白金/ルテニウムが使用され、カソード側には白金が使用される。
【0072】
触媒は、所望により、カーボン上に担持されていてもよい。触媒は、最初は少量の水に分散させる(水1g中に触媒約100mgを分散させる)。この分散液に、水/アルコールを溶媒とする5%アイオノマー溶液(0.25〜0.75g)を添加する。得られる分散液はポリマー膜上へ直接的に塗布してもよい。あるいは、イソプロパノール(1〜3g)を添加した分散液を膜上へ直接的に噴霧してもよい。触媒は、次の公知文献に記載のようにして転写法(decal transfer)によって膜上へ塗布してもよい:エレクトロキミカ・アクタ、第40巻、第297頁(1995年)。
【0073】
CCMはMEAの製造に使用される。ここで使用するように、MEAは、本発明によるCCMから製造されるイオン伝導性ポリマー膜に、CCMの触媒層と電気的に接触するように配置されたアノード電極とカソード電極を組合せたものを示す。
【0074】
電極と触媒層との電気的接触は、直接的におこなってもよく、あるいはガス拡散層又はその他の伝導性層を介して間接的におこなってもよく、これにより、CCM及び燃料電池の電流が供給される負荷を含む電気回路が該電極によって完成される。特に、第1触媒は、水素若しくは有機燃料の酸化を促進するように、PEMのアノード側と電気触媒的に連絡する。一般に、このような酸化によって、プロトン、エレクトロン、並びに二酸化炭素および水(有機燃料の場合)が生成する。膜は分子状水素、メタノールのような有機燃料および二酸化炭素を実質上透過させないので、このような成分は膜のアノード側に保持される。電気触媒反応によって生成するエレクトロンはアノードから負荷へ伝達され、次いでカソードへ伝達される。この直接的なエレクトロンの流れのバランスは、当量数のプロトンが膜を通過してカソードコンパートメントへ移動することである。該コンパートメントにおいては、移動したプロトンの存在下での酸素の電気触媒的還元がおこなわれ、水が生成する。1つの実施態様においては、空気が酸素源となる。別の実施態様においては、酸素に富む空気又は酸素が使用される。
【0075】
膜電極アセンブリーは一般に燃料電池をアノードコンパートメントとカソードコンパートメントに分割するのに使用される。この種の燃料電池系においては、水素ガスのような燃料又はメタノールのような有機燃料はアノードコンパートメントに加えられ、一方、酸素もしくは周囲空気のようなオキシダントはカソードコンパートメントに導入される。
【0076】
燃料電池の特定の用途に応じて、多数の電池を組合せることによって適当な電圧と電力出力を達成することができる。このような用途には、住宅用、工業用および商業用の電力システムまたは自動車におけるような移動力に使用するための電力源が含まれる。本発明が特に適用できる他の用途には次に例示するような携帯用電子機器類における燃料電池が含まれる:セル電話およびその他の遠距離通信用機器、消費者用のビデオとオーディオ機器、ラップトップ型コンピューター、ノートブック型コンピューター、パーソナルデジタル補助機器および他の計算装置並びにGPS装置等。
【0077】
さらに、このような燃料電池は、高出力な用途(例えば、工業用および住宅用下水施設)に供するために設置して電圧と電流容量を高めるのに使用してもよく、あるいは、輸送機関へ移動力を供給するのに使用してもよい。この種の燃料電池の構造体には、次の米国特許の明細書に開示されているものが含まれる:6,416,895、6,413,664、6,106,964、5,840,438、5,773,160、5,750,281、5,547,776、5,527,363、5,521,018、5,514,487、5,482,680、5,432,021、5,382,478、5,300,370、5,252,410 及び 5,230,966。
【0078】
このようなCCMおよびMEMは、例えば、次の米国特許の明細書に開示されているような燃料電池において一般に有用であり、これらの明細書の開示内容は本明細書の一部を成すものである:5,945,231、5,773,162、5,992,008、5,723,229、6,057,051、5,976,725、5,789,093、4,612,261、4,407,905、4,629,664、4,562,123、4,789,917、4,446,210、4,390,603、6,110,613、6,020,083、5,480,735、4,851,377、4,420,544、5,759,712、5,807,412、5,670,266、5,916,699、5,693,434、5,688,613 及び 5,688,614。
【0079】
本発明によるCCMおよびMEMは、当該分野において知られている水素燃料電池において使用してもよい。この種の燃料電池としては次の米国特許の明細書に開示されている燃料電池が例示され、これらの明細書の開示内容は本明細書の一部を成すものである:6,630,259、6,617,066、6,602,920、6,602,627、6,568,633、6,544,679、6,536,551、6,506,510、6,497,974、6,321,145、6,195,999、5,984,235、5,759,712、5,509,942 及び 5,458,989。
【0080】
本発明によるイオン伝導性ポリマー膜は、バッテリーにおけるセパレーターとしても使用することができる。特に好ましいバッテリーはリチウムイオンバッテリーである。
【実施例】
【0081】
実施例1
式 IV で表されるランダムコポリマーのようなポリマー製の膜をメタノール又はメタノール/水溶液で膨潤させた後、DI(脱イオン)水を用いて洗浄することによりメタノールを除去することによって異方性膜を調製した。図2に模式的に示すように、洗浄した膜は、クロス状材料で被覆した2枚のステンレス鋼製の有孔プレートの間において熱圧処理に付した(温度:150℃〜水和膜のTgよりも高温、圧縮圧:15kg/cm、圧縮時間:45秒間)。膜中にかなりの量の水が含まれることに起因して、Tg(ガラス転移温度)は低下したが、熱圧処理中に膜から水が失われるにつれて、Tgは乾燥膜のTg近くまで上昇した。ステンレス鋼製プレートは均一な圧力を印加し、吸着剤のような作用をするクロス内へ水を移動させる。膜の表面はステンレス鋼製プレートと接触するが、クロスとは接触しない。
【0082】
実施例2
異方性膜はX/Y面(表面)においては膨潤せず、Z面(表面に対して垂直な面)において膨潤する。主としてZ方向(厚さ方向)において膨潤する異方性挙動は、その他のポリマー系(特に、主鎖構造中に芳香環を有するポリマー)から得られるPEMに対しても認められる。このような異方性膜は、以下の表3に示すように、膨潤に関するZ/X比の増加に伴って、より高い伝導度と吸水率を示す。この表においては、式 IV で表されるランダムコポリマーから製造される標準的なDMFC膜及び同じポリマーから製造される異方性膜が比較される。
【0083】
【表3】

【0084】
実施例3
式 IV で表されるランダムコポリマーから製造された膜(5cm×5cm)を、メタノール/水溶液(メタノールを85重量%含有する溶液)中で16時間膨潤させた後、DI水中に30分間浸漬した。この場合、10分毎に水を交換した。次いで、膜を図2に示す「スタック(stack)」の間に配置させ、熱圧処理に45秒間付した(温度:150℃、圧力:10kg/cm)。得られた膜を溶剤/水溶液中に浸漬することによって異方性的に膨潤させた。メタノールを85重量%含有する水溶液中における膜の膨潤度は、XとY次元においては8%未満であり、Z次元においては86%であった。
【0085】
実施例4
式 IV で表されるランダムコポリマーから製造された膜(5cm×5cm)を、メタノール/水溶液(メタノールを85重量%含有する溶液)中で16時間膨潤させた後、DI水中に30分間浸漬した。この場合、10分毎に水を交換した。次いで、膜を図2に示す「スタック(stack)」の間に配置させ、熱圧処理に15〜45秒間付した(温度:120℃〜170℃、圧力:10〜50kg/cm)。得られた膜を溶剤/水溶液中に浸漬することによって異方性的に膨潤させた。メタノールを85重量%含有する水溶液中における膜の膨潤度は、XとY次元においては8%未満であり、Z次元においては86%であった。
【0086】
実施例5
ランダムコポリマーから製造された膜(5cm×5cm)を、メタノール/水溶液(メタノールを85重量%含有する溶液)中で16時間膨潤させた後、DI水中に30分間浸漬した。この場合、10分毎に水を交換した。次いで、膜を図2に示す「スタック(stack)」の間に配置させ、熱圧処理に45秒間付した(温度:150℃、圧力:10kg/cm)。得られた膜を溶剤/水溶液中に浸漬することによって異方性的に膨潤させた。メタノールを85重量%含有する水溶液中における膜の膨潤度は、XとY次元においては8%未満であり、Z次元においては86%であった。
【0087】
実施例6
異方性膜のX/Y面(表面)における膨潤度は実質上小さいが、該膜はZ面(表面に対して垂直な面)において大きく膨潤する。主としてZ次元(厚さ方向)において膨潤するこのような異方性挙動は、その他のポリマー系(特に、主鎖構造中に芳香環を有するポリマー)から得られるPEMに対しても認められる。このような異方性膜は、以下の表4に示すように、膨潤に関するZ/X比の増加に伴って、より高い伝導度と含水量を示す。この表においては、式 IV で表されるランダムコポリマーから製造される標準的なDMFC膜及び同じポリマーから製造される異方性膜が比較される。実施例1〜5に従って調製した標準的な膜と異方性膜との比較は、室温においてこれらの膜を、メタノールを85重量%含有する水性溶液中に浸漬することによっておこなった。
【0088】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】図1は、典型的なPEMの次元を定義するもので、膜の幅はX次元において測定され、シートの長さはY次元において測定され、シートの厚さはZ次元において測定される。
【図2】図2は、改善された寸歩安定性を有するPEMを形成させるために膨潤化膜を熱圧処理する状態の模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程(a)及び(b)を含む異方性ポリマー電解質膜(PEM)の製造方法であって、該膜が水及びメタノールと接触したときに、該膜のX/Y面に対して垂直なZ次元に比べて該X/Y面において著しく膨潤しない膜である該製造方法:
(a)平面状の第1対置表面と第2対置表面を有する膨潤化イオン伝導性膜を供給する工程、及び
(b)該膨潤化イオン伝導性膜を熱圧することによって異方性PEMを形成させる工程であって、i)該膜の少なくとも第1対置表面を、第1面と第2面を有する第1有孔部材と接触させ、ii)該有孔部材の該第1面を該膜の第1対置表面の全部又は一部と接触させ、該有孔部材の該第2面を所望により吸収材料と接触させる該工程。
【請求項2】
熱圧工程において、第1面と第2面を有する第2有孔部材をさらに使用し、該第1面を該膜の第2対置表面と接触させ、該第2面を吸着材料と接触させる請求項1記載の方法。
【請求項3】
該膜中の穿孔が125〜200ミクロンの直径を有する孔を含む請求項1記載の方法。
【請求項4】
有孔部材中の穿孔が、該膜の該第1面の面積の15〜50%を占める請求項1記載の方法。
【請求項5】
該膜中の穿孔が繰返パターン状に配設される請求項1記載の方法。
【請求項6】
有孔部材が有孔円筒体であり、熱圧を膨潤化膜の連続的なウェブについておこなう請求項1記載の方法。
【請求項7】
熱圧を、膨潤化膜のTgよりも高い温度であって、乾燥時の膜のTgよりも低い温度でおこなう請求項1記載の方法。
【請求項8】
熱圧の圧力が10〜50kg/cmである請求項1記載の方法。
【請求項9】
熱圧後の膜を少なくとも15℃/秒の冷却速度で冷却させる工程をさらに含む請求項1記載の方法。
【請求項10】
冷却を15〜25℃/秒の冷却速度でおこなう請求項9記載の方法。
【請求項11】
請求項1から10いずれかに記載の方法によって製造されるPEM。
【請求項12】
/Y次元によって規定される膜状面及びX/Y面に対して垂直なZ次元における厚さを有するPEMであって、該X/Y面において改善された寸歩安定性を示すPEM。
【請求項13】
/Y面における膨潤に比べて、Z次元において異方性的に膨潤する請求項12記載のPEM。
【請求項14】
イオン伝導性ポリマーを含有するPEMであって、平面状の第1対置表面と第2対置表面を有し、これらの表面の少なくとも一方がイオン伝導性ポリマーの複数の隆起状島状体を含む該PEM。
【請求項15】
隆起状島状体が予め決定されたアレイを該表面上に含む請求項14記載のPEM。
【請求項16】
請求項12記載のPEMを含有する触媒被覆膜(CCM)であって、該PEMの少なくとも1つの対置する表面の全部又は一部が触媒層を含む該触媒被覆膜。
【請求項17】
請求項16記載のCCMを含有する膜電極アセンブリー(MEA)。
【請求項18】
請求項16記載のCCMを含有するMEAであって、対置する表面の少なくとも一方が、該表面に結合した電極を含む該MEA。
【請求項19】
請求項18記載のMEAを含有する燃料電池。
【請求項20】
水素燃料電池又はメタノール燃料電池を含有する請求項19記載の燃料電池。
【請求項21】
請求項19記載の燃料電池を具備する電子装置。
【請求項22】
請求項19記載の燃料電池を具備する電源。
【請求項23】
請求項19記載の燃料電池を具備する電気モーター。
【請求項24】
請求項23記載の電気モーターを具備する乗り物。
【請求項25】
ポリマー電解質膜(PEM)を処理するための熱圧プレスであって、該熱圧プレスで処理されたPEMと接触した状態で設置するのに適合した平面状の有孔部材を少なくとも1つ具備する該熱圧プレス。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2008−546156(P2008−546156A)
【公表日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−514952(P2008−514952)
【出願日】平成18年6月2日(2006.6.2)
【国際出願番号】PCT/US2006/021664
【国際公開番号】WO2006/130878
【国際公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【出願人】(502435797)ポリフューエル・インコーポレイテッド (15)
【氏名又は名称原語表記】POLYFUEL, INC.
【Fターム(参考)】