説明

寸法測定装置

【課題】初心者であっても容易かつ高精度にワークの凹部間の寸法を測定することができる寸法測定装置を提供すること。
【解決手段】マイクロメータ11の可動部12及び固定部15に設けられた各測定子13,16を、ワーク5の両側に形成された各凹部5a,5bに当接させてワーク5を挟み込み、各測定子13,16間の距離から各凹部5a,5b間の寸法Tを測定する寸法測定装置10であって、ワーク5を保持し基台6に対して揺動可能に設けられたクランプ20と、可動部12の測定子13を、可動部12に対して微動可能に保持するスプリング14とを備え、ワーク5を各測定子13,16によって挟み込んだ状態で、マイクロメータ11を揺動させることにより、クランプ20がワーク5とともに揺動し、スプリング14が測定子13を微動させて、各測定子13,16の先端を各凹部5a,5bの底に当接させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、両側に凹部を有するワークにおける凹部間の寸法を測定する寸法測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、両側に凹部を有するワークにおける凹部間の寸法を測定する技術として、様々なものが提案されている。例えば、特許文献1及び特許文献2には、オーバーボール径測と呼ばれる簡易測定法が開示されている。この方法では、歯車(ワーク)において対称位置に設けられた凹部に、マイクロメータの先端に設けられたボール状の測定子が挿入される。そして、このボール状の測定子により歯車を両側から挟み込み、両測定子間の距離を測定して歯車のピッチ円径が測定される。また、ボール状の測定子の代わりに、ピン状の測定子を用いたものも知られている(特許文献3)。
【0003】
こうした技術では、各測定子を凹部に挿入した状態で回転させるなどして、各測定子の先端を各凹部の底に当接させることができる。これにより、ワークの凹部間の寸法を安定した精度で測定することができる。
【特許文献1】実開平3−114003号公報
【特許文献2】実開昭60−51404号公報
【特許文献3】特開昭64−43701号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記した特許文献1〜3に記載の技術によると、ワークの凹部が対称位置からずれていた場合や、ワークが傾いていた場合には、各凹部の位置のずれ具合やワークの傾き具合に応じて、測定子の先端が凹部の底からずれた位置に当接してしまうという問題があった。こうした場合にも、熟練した測定技能を身に付けた高技能者であれば、音、光、手に伝わる振動等を警告としながら測定子の位置をずらして調節し、各測定子の先端を各凹部の底に当接させることが可能であった。これに対して、熟練した測定技能を身に付けていない初心者が測定した場合には、各測定子の先端を各凹部の底に確実には当接させることができず、測定精度にばらつきが生じていた。
【0005】
そこで、本発明は上記した問題点を解決するためになされたものであり、初心者であっても容易かつ高精度にワークの凹部間の寸法を測定することができる寸法測定装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)上記課題を解決するためになされた本発明に係る寸法測定装置は、マイクロメータの可動部及び固定部に設けられた各測定子を、ワークの両側に形成された各凹部に当接させて前記ワークを挟み込み、前記各測定子間の距離から前記各凹部間の寸法を測定する寸法測定装置において、前記ワークを保持し、基台に対して揺動可能に設けられた第1のワーク保持手段と、前記各測定子の少なくとも一方を、その測定子を備える前記可動部又は前記固定部に対して微動可能に保持する測定子保持手段とを備え、前記ワークを前記各測定子によって挟み込んだ状態で、前記マイクロメータを揺動させることにより、前記第1のワーク保持手段が前記ワークとともに揺動し、前記測定子保持手段が前記保持する測定子を微動させて、前記各測定子の先端を前記各凹部の底に当接させることを特徴とする。
【0007】
この寸法測定装置では、マイクロメータの可動部及び固定部に設けられた各測定子を、ワークの両側に形成された各凹部に当接させてワークを挟み込み、各測定子間の距離から各凹部間の寸法が測定される。ここで、この装置では、基台に対して揺動可能に設けられた第1のワーク保持手段により、ワークが保持されている。また、測定子保持手段により、各測定子の少なくとも一方が、その測定子を備える可動部又は固定部に対して微動可能に保持されている。そして、ワークを各測定子によって挟み込んだ状態で、マイクロメータを揺動させることにより、第1のワーク保持手段がワークとともに揺動し、測定子保持手段が測定子保持手段により保持された測定子を微動させて、各測定子の先端を各凹部の底に当接させるようになっている。このように、この寸法測定装置では、マイクロメータを揺動させるという単純な操作により、測定子と凹部との当接位置を調節することができる。これにより、熟練した測定技能を身に付けていない初心者であっても、各測定子の先端を各凹部の底に容易に当接させることができる。その結果、初心者であっても容易かつ高精度にワークの凹部間の寸法を測定することができる。
【0008】
(2)上記課題を解決するためになされた本発明に係る寸法測定装置は、マイクロメータの可動部及び固定部に設けられた各測定子を、ワークの両側に形成された各凹部に当接させて前記ワークを挟み込み、前記各測定子間の距離から前記各凹部間の寸法を測定する寸法測定装置において、前記各測定子が上下に配置されるように前記マイクロメータを固定するスタンドと、前記スタンドにより下側に配置された測定子の略鉛直線上に重心を有し、自重により前記下側に配置された測定子上に前記ワークを略水平に保持する第2のワーク保持手段と、前記各測定子の少なくとも一方を、その測定子を備える前記可動部又は前記固定部に対して微動可能に保持する測定子保持手段とを備え、前記ワークを前記各測定子によって挟み込んだ状態で、前記第2のワーク保持手段を前記下側の測定子を中心として前記ワークとともに揺動させることにより、前記測定子保持手段が前記保持する測定子を微動させて、前記各測定子の先端を前記各凹部の底に当接させることを特徴とする。
【0009】
この寸法測定装置でも、マイクロメータの可動部及び固定部に設けられた各測定子を、ワークの両側に形成された各凹部に当接させてワークを挟み込み、各測定子間の距離から各凹部間の寸法が測定される。ここで、この装置では、各測定子が上下に配置されるようにマイクロメータがスタンドによって固定されている。また、下側に配置された測定子の略鉛直線上に重心を有する第2のワーク保持手段により、その自重を利用して下側に配置された測定子上にワークが略水平に保持されている。そして、ワークを各測定子によって挟み込んだ状態で、第2のワーク保持手段を下側の測定子を中心としてワークとともに揺動させることにより、測定子保持手段が測定子保持手段により保持された測定子を微動させて、各測定子の先端を各凹部の底に当接させるようになっている。このように、この寸法測定装置では、第2のワーク保持手段を揺動させるという単純な操作により、測定子と凹部との当接位置を調節することができる。これにより、熟練した測定技能を身に付けていない初心者であっても、各測定子の先端を各凹部の底に容易に当接させることができる。その結果、初心者であっても容易かつ高精度にワークの凹部間の寸法を測定することができる。
【0010】
上記(1),(2)に記載する寸法測定装置において、前記測定子保持手段としては、特に限定されないが、前記測定子とその測定子を備える前記可動部又は前記固定部との間に回転可能に配置された複数の球体と、前記測定子をその測定子を備える前記可動部又は前記固定部へ付勢する弾性部材とを備えている態様を例示できる。
【0011】
この態様によれば、測定子とその測定子を備える可動部又は固定部との間に配置された複数の球体の回転を利用して、測定子を可動部又は固定部に対し容易に微動させることができる。また、測定子が弾性部材により可動部又は固定部へ付勢されているため、不注意等により測定子が紛失するなどして測定作業が中断されるおそれもない。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る寸法測定装置によれば、上記した通り、初心者であっても容易かつ高精度にワークの凹部間の寸法を測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係る寸法測定装置を具体化した最も好適な実施の形態について、図面に基づき詳細に説明する。以下に示す寸法測定装置は、両側に凹部を有するワークの凹部間の寸法を測定するものである。
【0014】
[第1実施形態]
まず、本発明の第1実施形態に係る寸法測定装置について、図1〜図3を参照しながら説明する。図1は、第1実施形態に係る寸法測定装置の概略構成を示す上面図である。図2は、同装置の一部を示す部分拡大図である。図3は、同装置を示す側面図である。
【0015】
本実施形態に係る寸法測定装置10は、図1に示すように、ワーク5の寸法を測定するためのマイクロメータ11と、ワーク5を挟持するクランプ20と、クランプ20を保持する回転止め22とを備えている。
【0016】
ワーク5は、図2に示すように、二枚の板状部材を中央で溶接したものである。ワーク5の一方面(図2において上側の面)には、球状に凹んだ凹部5aが形成されている。また、ワーク5の他方面(図2において下側の面)には、球状に凹んだ凹部5bが形成されている。そして、ワーク5の厚さ方向における各凹部5a,5b間の寸法Tが、本装置10の測定対象となる。
【0017】
マイクロメータ11は、可動部12と固定部15とを備えている。そして、可動部12の先端には、測定子13がスプリング14により微動可能に取り付けられている。このスプリング14が、本発明の「測定子保持手段」の一例である。本実施形態では、測定子13に中空開口部13bが形成されており、この中空開口部13bに可動部12の先端が挿入されている。また、測定子13の先端(可動部12とは逆側)には、ワーク5の凹部5bより小径の球状部13aが形成されている。この球状部13aが、ワーク5の凹部5bに当接させる部位である。
一方、固定部15の先端には、測定子16が固定されている。この測定子16の先端(固定部15とは逆側)には、ワーク5の凹部5aより小径の球状部16aが形成されている。この球状部16aが、ワーク5の凹部5aに当接させる部位である。
【0018】
クランプ20は、図1及び図2に示すように、略棒状をなしている。このクランプ20の先端には、ワーク5を挟持するために二股に枝分かれした挟持部20bが形成されている。そして、ワーク5の一部を挟持部20bで挟持したままボルト21によって固定することにより、ワーク5がクランプ20に保持されるようになっている。クランプ20の基端20aは、後述する回転止め22により揺動可能に保持されている。なお、本実施形態のクランプ20が、本発明の「第1のワーク保持手段」の一例である。
【0019】
回転止め22は、図1及び図3に示すように、略棒状をなしており、基台6に固定されている。そして、回転止め22の長さ方向における中間部には、クランプ20の基端20bが、クランプ20と回転止め22とを直交させるように、ボルト23で固定されている。こうした構成により、クランプ20が、基台6に固定された回転止め22を中心OとしてS方向に揺動できるように保持されている。また、本実施形態では、マイクロメータ11がS方向へ揺動すると、マイクロメータ11には、図3に示すR方向への回動も微小発生するようになっている。
【0020】
続いて、上記構成を有する寸法測定装置10の作用について、図4及び図5を参照しながら説明する。図4は、寸法測定時における主な当接点の様子を模式的に示した説明図である。図5は、各当接点の移動の様子を模式的に示した説明図である。
【0021】
まず、寸法測定装置10を用いて測定を行う際、ワーク5を鉛直平面と平行になるようにクランプ20により保持する(図1参照)。その後、マイクロメータ11の可動部12及び固定部15に設けられた各測定子13,16の先端(球状部13a,16a)を、ワーク5の両側に形成された各凹部5a,5bに当接させてワーク5を挟み込む。
【0022】
ここで、寸法測定装置10において、寸法の測定精度に寄与する主な当接点は、図4に示すように、ワーク5の凹部5aと固定部15に設けられた測定子16の球状部16aとの当接点U、ワーク5の凹部5bと可動部12に設けられた測定子13の球状部13aとの当接点L及び可動部12の先端と測定子13の中空開口部13bの内面との当接点Laの3点である。なお、当接点Laは、荷重がゼロに近い時点では1点となっているが、荷重の増加や測定子13の微動などに応じて、2点、3点と増加する。その後、弾性変形も加わると、可動部12の先端と測定子13の中空部開口部13bの内面とが面接触して安定状態となる。このとき、当接点Laは、完全に固定される。
【0023】
ところで、図4に示すようにワーク5の凹部5aと凹部5bとが対称位置にない場合には、各凹部5a,5bの位置のずれ具合に応じて、各測定子13,16の球状部13a,16aが凹部5a,5bの底からずれた位置に当接してしまうおそれがある。これにより、寸法の測定精度にばらつきが生じるおそれがある。
【0024】
これに対して、この寸法測定装置10では、ワーク5が、基台6に対して揺動可能に設けられたクランプ20により挟持されている。このため、ワーク5を各測定子13,16によって挟み込んだ状態で、測定者が、図5に示すように、マイクロメータ11をS方向に揺動させると、各測定子13,16を介して、ワーク5及びワーク5を挟持したクランプ20も揺動する。また、マイクロメータ11には、S方向への揺動に伴ってR方向への回動も微小発生するため、ワーク5及びワーク5を挟持したクランプ20も回動する。ここで、寸法測定装置10では、測定子13が、スプリング14により、可動部12に対して微動可能に保持されている。このため、マイクロメータ11のS方向への揺動やR方向への回動に伴ってワーク5及びクランプ20が揺動及び回動する際、測定子13を可動部12に対して微動させることができる。
【0025】
ここで、測定子13が微動すると、各測定子13,16の球状部13a,16aと、ワーク5の凹部5a,5bとの相対位置がずれる。このため、各当接点U,Lが移動する。このとき、測定子13は、可動部12の先端によって凹部5b側から離れる側への移動を規制されている。また、各球状部13a,16aは、凹部5a,5bの球状面によって相対移動を規制されている。したがって、現在の当接点U及び当接点Lは、各測定子13,16の球状部13a,16aをさらに各凹部5a,5bの底へと近づけた当接点U1及び当接点L1に移動する。その後、マイクロメータ11の可動部12を前進させて荷重を増加させる。そして、数回この動作を繰り返して各当接点U,L,Laを順次移動させていくと、荷重の増加による弾性変形によって、可動部12の先端と測定子13の中空部開口部13bの内面とが面接触して安定状態となる。こうして、当接点Laが完全に固定されると、マイクロメータ11を揺動させても測定子13は微動しなくなる。そして、この状態で、各測定子13,16間の距離を検出することにより、各測定子13,16の球状部13a,16aを各凹部5a,5bの底に当接させた状態で各凹部5a,5b間の寸法Tを測定することができる。このとき、固定部15と可動部12の間の距離から寸法Tを測定してもよい。
【0026】
以上、詳細に説明したように本実施形態に係る寸法測定装置10によれば、マイクロメータ11をS方向に揺動させるという単純な操作により、寸法の測定精度に寄与する主な当接点U,L,Laの位置を容易に調節して、各測定子13,16の先端(球状部13a,16a)を各凹部5a,5bの底に容易に当接させることができる。これにより、熟練した測定技能を身に付けていない初心者であっても、容易かつ高精度にワーク5の凹部5a,5b間の寸法Tを測定することができる。
【0027】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態に係る寸法測定装置について、図6を参照しながら説明する。図6は、第2実施形態に係る寸法測定装置の概略構成を示す側面図である。
本実施形態に係る寸法測定装置50は、図6に示すように、ワーク5の寸法を測定するためのマイクロメータ11と、マイクロメータ11を固定するスタンド51と、ワーク5を挟持して保持するクランプ60とを備えている。なお、ワーク5及びマイクロメータ11については、上記第1実施形態のものと同一であるため、以下では同一の符号を付してその説明を省略する。
【0028】
スタンド51の下部は、基台6に固定されている。スタンド51の上部は、マイクロメータ11の各測定子13,16が上下に配置されるように、マイクロメータ11を固定している。本実施形態では、可動部12に設けられた測定子13が上側に配置され、固定部15に設けられた測定子16が下側に配置されている。
【0029】
クランプ60は、マイクロメータ11の可動部12又は固定部15との干渉を避けられるように、略コ字状に形成されている。このクランプ60の一端(図6において上方先端)には、ワーク5を挟持するために二股に枝分かれした挟持部61が形成されている。そして、ワーク5の一部を挟持部61で挟持したままボルト62によって固定することにより、ワーク5がクランプ60に保持されるようになっている。他方、このクランプ60の他端(図6において下方先端)には、球状に形成された重心調節用の重り63が設けられている。この重り63は、クランプ60の重心が、スタンド51により下側に配置された測定子16の略鉛直線上に位置するように設計されている。そして、この重り63を備えたクランプ60が、自重により下側に配置された測定子16上にワーク5を略水平に保持するようになっている。また、このクランプ60は、下側に配置された測定子16を中心として、ワーク5とともにS2方向に揺動するようになっている。なお、本実施形態のクランプ60が、本発明の「第2のワーク保持手段」の一例である。
【0030】
続いて、上記構成を有する寸法測定装置50の作用について、図4及び図5を参照しながら説明する。
まず、寸法測定装置50を用いて測定を行う際、スタンド51によってマイクロメータ11を、可動部12に設けられた測定子13が上側に配置され、固定部15に設けられた測定子16が下側に配置されるように保持する。その後、ワーク5を、水平平面と平行になるようにクランプ60により保持する(図6参照)。そして、マイクロメータ11の可動部12及び固定部15に設けられた各測定子13,16の先端(球状部13a,16a)を、ワーク5の両側に形成された各凹部5a,5bに当接させてワーク5を挟み込む(図2参照)。
【0031】
ここで、寸法測定装置60においても、寸法の測定精度に寄与する主な当接点は、図4に示すように、ワーク5の凹部5aと固定部15に設けられた測定子16の球状部16aとの当接点U、ワーク5の凹部5bと可動部12に設けられた測定子13の球状部13aとの当接点L及び可動部12の先端と測定子13の中空開口部13b内面との当接点Laの3点である。なお、当接点Laは、荷重がゼロに近い時点では1点となっているが、荷重の増加や測定子13の微動などに応じて、2点、3点と増加する。その後、弾性変形も加わると、可動部12の先端と測定子13の中空部開口部13bの内面とが面接触して安定状態となる。このとき、当接点Laは、完全に固定される。
【0032】
ところで、図4に示すようにワーク5の凹部5aと凹部5bとが対称位置にない場合には、各凹部5a,5bの位置のずれ具合に応じて、各測定子13,16の球状部13a,16aが凹部5a,5bの底からずれた位置に当接してしまうおそれがある。これにより、寸法の測定精度にばらつきが生じるおそれがある。
【0033】
これに対して、この寸法測定装置60では、マイクロメータ11の各測定子13,16が上下に配置されるように、マイクロメータ11がスタンド51によって固定されている。また、下側に配置された測定子13の略鉛直線上に重心を有するクランプ60により、その自重を利用して下側に配置された測定子13上にワーク5が略水平に保持されている。このため、ワーク5を各測定子13,16によって挟み込んだ状態で、測定者が、クランプ60をS2方向に揺動させると、クランプ60とともにワーク5も揺動する。ここで、寸法測定装置50では、ワーク5を挟持する一方の測定子13が、スプリング14により、可動部12に対して微動可能に保持されている。このため、マイクロメータ11及びワーク5をS2方向へ揺動させる際、測定子13を可動部12に対して微動させることができる。
【0034】
ここで、測定子13が微動すると、各測定子13,16の球状部13a,16aと、ワーク5の凹部5a,5bとの相対位置がずれる。このため、各当接点U,Lが移動する。このとき、測定子13は、可動部12の先端によって凹部5b側から離れる側への移動を規制されている。また、各球状部13a,16aは、凹部5a,5bの球状面によって相対移動を規制されている。したがって、現在の当接点U及び当接点Lは、各測定子13,16の球状部13a,16aをさらに各凹部5a,5bの底へと近づけた当接点U1及び当接点L1に移動する。その後、マイクロメータ11の可動部12を前進させて荷重を増加させる。そして、数回この動作を繰り返して各当接点U,L,Laを順次移動させていくと、荷重の増加による弾性変形によって、可動部12の先端と測定子13の中空部開口部13bの内面とが面接触して安定状態となる。こうして、当接点Laが完全に固定されると、マイクロメータ11を揺動させても測定子13は微動しなくなる。そして、この状態で、各測定子13,16間の距離を検出することにより、各測定子13,16の球状部13a,16aを各凹部5a,5bの底に当接させた状態で各凹部5a,5b間の寸法Tを測定することができる。このとき、固定部15と可動部12の間の距離から寸法Tを測定してもよい。
【0035】
以上、詳細に説明したように本実施形態に係る寸法測定装置50によれば、クランプ60をS2方向に揺動させるという単純な操作により、寸法の測定精度に寄与する主な当接点U,L,Laの位置を容易に調節して、各測定子13,16の先端(球状部13a,16a)を各凹部5a,5bの底に容易に当接させることができる。これにより、熟練した測定技能を身に付けていない初心者であっても、容易かつ高精度にワーク5の凹部5a,5b間の寸法Tを測定することができる。
【0036】
[変更例]
ここで、上記したマイクロメータ11の変更例について、図7を参照しながら説明する。図7は、変更例に係るマイクロメータの一部を示す部分拡大図である。なお、上記実施形態と同一の構成部品については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0037】
変更例に係るマイクロメータは、測定子を保持する構成において、上記実施形態のものと相違する。この変更例に係るマイクロメータは、可動部12及び固定部15と、可動部12の先端に設けられた測定子72と、測定子72と可動部12との間に回転可能に配置された複数のボール71と、測定子72を可動部12へ付勢するスプリング73とを備えている。なお、この変更例に係るボール71が、本発明の「球体」の一例であり、この変更例に係るスプリング73が、本発明の「弾性部材」の一例である。
【0038】
可動部12の先端には、フランジ70aを有する先端部70が固定して取り付けられている。測定子72は、中空開口形状をなしており、その内部に先端部70の一部が挿入されている。そして、スプリング73の一端は、先端部70のフランジ70aに取り付けられ、スプリング73の他端は、測定子72の開口端72aに取り付けられている。また、各ボール71は、同一の大きさ及び形状に形成され、測定子72の開口内面と先端部70との間に一段に配置されている。
【0039】
この変更例に係るマイクロメータによれば、各ボール71の回転を利用して、測定子72を可動部12に対し容易に微動させることができる。また、測定子72がスプリング71により可動部12の先端部70へ付勢されているため、不注意等により測定子72が紛失するなどして測定作業が中断されるおそれもない。
【0040】
[測定判別例]
次に、上記した寸法測定装置10,50や市販のマイクロメータ(市販品)のいずれを用いて測定を行うべきかについての判別例について、図8〜図10を参照しながら説明する。図8は、測定方法の判別の様子を示すフローチャートである。図9は、測定対称となるワークの一例を示す図である。図10は、板厚、許容誤差及び逆算角度の一例を示す表である。
【0041】
図8に示すように、ステップS1において、測定者は、測定対象となるワーク80の形状を演算装置に入力する。例えば、図9に示すワーク80において、測定者は、ワーク80の左右方向における寸法t0と、上下方向における凹部80a,80b間の位置ずれΔyとを測定して、演算装置に入力する。なお、ワーク80における凹部80a,80b間の寸法(板厚)tが測定対象である。
そして、ステップS2において、測定者は、所望の測定精度を演算装置に入力する。具体的には、測定者は、寸法tに許容可能な許容誤差Δを入力する。
【0042】
ステップS3において、測定者は、ステップS1で入力したワーク形状とステップS2で入力した測定精度を利用して演算装置により逆算角度θを算出する。このとき、逆算角度θの角度誤差θeも、算出される。ここで、逆算角度θを求める式の一例として、次の式(A)を示す。
θ=COS−1(1−Δ/1000/t)×180/π・・・(A)
さらに、参考までに、式(A)から実際に算出した逆算角度θと許容誤差Δの関係を図9(a),(b)に示す。なお、板厚tが大きくなるにつれて、相対的に誤差の許容範囲が大きくなるため、図9(a)に示された表では、所定の許容誤差Δに対する逆算角度θの値が、板厚tに伴って小さくなることがわかる。一方、図9(b)に示された表によれば、所定の逆算角度θに対する許容誤差Δが、板厚tに伴って大きくなることがわかる。
【0043】
続いて、ステップS4において、測定者は、角度誤差θe≒0とみなせるか否かを判断する。そして、角度誤差θe≒0とみなせる場合には、測定者の測定技能が低くても所望の測定精度を満たした測定が可能であるため、測定者は、ステップS7において、市販のマイクロメータを使用してワーク80の寸法tを測定する。一方、角度誤差θe≒0とみなせない場合に、測定者は、次のステップS5を行う。
【0044】
ステップS5において、測定者は、自身が高技能者であるか否かの判断を行う。そして、測定者が高技能者である場合に、市販品のマイクロメータによりワークの寸法を測定する。これは、測定者が高技能者であれば、音、光、手に伝わる振動等を警告としながら測定子81a,81bの位置をずらして調節し、各測定子81a,81bの先端を各凹部80a,80bの底に当接させることが可能なためである。一方、測定者が高技能者でない場合に、測定者は、次のステップS6を行う。
【0045】
ステップS6において、測定者は、ワーク80が量産測定の対象であるか否かを判断する。そして、ワーク80が量産測定の対象である場合に、測定者は、寸法測定装置50を用いてワーク80の寸法tを測定する。一方、ワーク80が量産測定の対象でない場合に、測定者は、次のステップS7を行う。なお、このステップ80において、測定者は、寸法測定装置50のクランプ60(図6参照)を、測定対象となるワーク80に適したものに交換する。これは、ワーク80の形状に応じて、ワーク80を保持した状態でのクランプ60の重心の位置が変化するからである。
【0046】
ステップS7において、測定者は、寸法測定装置10を用いてワークの寸法を測定する。このステップ7では、角度誤差θeが測定精度に大きく影響しかつ測定者が高技能者でない場合であっても、寸法測定装置10のマイクロメータ11をS方向に揺動させるだけで容易かつ高精度に寸法tの測定を行うことができる。
【0047】
以上のように、測定精度に大きく影響する要素であるワーク80の寸法t0、位置ずれΔy、許容誤差Δ、逆算角度θ、角度誤差θe、測定者の技量に応じて、適切な測定方法を選択することにより、所望のコスト、手間、時間、測定精度でワーク80における凹部80a,80b間の寸法tの測定を行うことができる。
【0048】
なお、上記した実施の形態は単なる例示にすぎず、本発明を何ら限定するものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることはもちろんである。
例えば、上記実施形態では、マイクロメータ11における可動部12の測定子13が可動部12に対して微動可能に保持されるとともにマイクロメータ11における固定部15の測定子16が固定部15に対して固定される場合について説明したが、可動部12の測定子13を可動部12に固定して固定部15の測定子16を固定部15に微動可能に保持する構成としてもよいし、可動部12及び固定部15の双方の測定13,16を可動部12又は固定部15に対して微動可能に保持する構成としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】第1実施形態に係る寸法測定装置の概略構成を示す上面図である。
【図2】同装置の一部を示す部分拡大図である。
【図3】同装置を示す側面図である。
【図4】寸法測定時における主な当接点の様子を模式的に示した説明図である。
【図5】各当接点の移動の様子を模式的に示した説明図である。
【図6】第2実施形態に係る寸法測定装置の概略構成を示す側面図である。
【図7】変更例に係るマイクロメータの一部を示す部分拡大図である。
【図8】測定方法の判別の様子を示すフローチャートである。
【図9】測定対称となるワークの一例を示す図である。
【図10】板厚、許容誤差及び逆算角度の一例を示す表である。
【符号の説明】
【0050】
5 ワーク
5a 凹部(上面側)
5b 凹部(下面側)
6 基台
10 寸法測定装置(第1実施形態)
11 マイクロメータ
12 固定部
13 測定子
13a 球状部
13b 中空開口部
14 スプリング(測定子保持手段)
15 可動部
16 測定子
16a 球状部
20 クランプ(第1のワーク保持手段)
22 回転止め
50 寸法測定装置(第2実施形態)
51 スタンド
60 クランプ(第2のワーク保持手段)
71 ボール(球体)
72 測定子
73 スプリング(弾性部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロメータの可動部及び固定部に設けられた各測定子を、ワークの両側に形成された各凹部に当接させて前記ワークを挟み込み、前記各測定子間の距離から前記各凹部間の寸法を測定する寸法測定装置において、
前記ワークを保持し、基台に対して揺動可能に設けられた第1のワーク保持手段と、
前記各測定子の少なくとも一方を、その測定子を備える前記可動部又は前記固定部に対して微動可能に保持する測定子保持手段とを備え、
前記ワークを前記各測定子によって挟み込んだ状態で、前記マイクロメータを揺動させることにより、前記第1のワーク保持手段が前記ワークとともに揺動し、前記測定子保持手段が前記測定子保持手段に保持された測定子を微動させて、前記各測定子の先端を前記各凹部の底に当接させる
ことを特徴とする寸法測定装置。
【請求項2】
マイクロメータの可動部及び固定部に設けられた各測定子を、ワークの両側に形成された各凹部に当接させて前記ワークを挟み込み、前記各測定子間の距離から前記各凹部間の寸法を測定する寸法測定装置において、
前記各測定子が上下に配置されるように前記マイクロメータを固定するスタンドと、
前記スタンドにより下側に配置された測定子の略鉛直線上に重心を有し、自重により前記下側に配置された測定子上に前記ワークを略水平に保持する第2のワーク保持手段と、
前記各測定子の少なくとも一方を、その測定子を備える前記可動部又は前記固定部に対して微動可能に保持する測定子保持手段とを備え、
前記ワークを前記各測定子によって挟み込んだ状態で、前記第2のワーク保持手段を前記下側の測定子を中心として前記ワークとともに揺動させることにより、前記測定子保持手段が前記測定子保持手段に保持された測定子を微動させて、前記各測定子の先端を前記各凹部の底に当接させる
ことを特徴とする寸法測定装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載する寸法測定装置において、
前記測定子保持手段は、前記測定子とその測定子を備える前記可動部又は前記固定部との間に回転可能に配置された複数の球体と、前記測定子をその測定子を備える前記可動部又は前記固定部へ付勢する弾性部材とを備えている
ことを特徴とする寸法測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−145110(P2010−145110A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−319513(P2008−319513)
【出願日】平成20年12月16日(2008.12.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】