説明

対物レンズアクチュエータ、光ヘッド、および光ディスクドライブ

【課題】軸摺動回動型の対物レンズアクチュエータにおいて、フォーカシング制御、トラッキング制御、およびチルト制御を高精度で実現する。
【解決手段】対物レンズアクチュエータ17は、対物レンズを保持するレンズホルダ21と、レンズホルダ21を、対物レンズの光軸方向Cに沿って移動可能に、かつ光軸方向Cと平行な回転軸を中心に回転可能に保持するホルダ保持部材22と、ホルダ保持部材22を保持するベース23と、を有している。ホルダ保持部材22とベース23との間に、ホルダ保持部材22とベース23との接合部24の周りに広がるギャップ25が設けられ、ギャップ25に複数の圧電素子26が挿入されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対物レンズアクチュエータ、光ヘッド、および光ディスクドライブに関し、特に、対物レンズアクチュエータのチルト制御機構に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、波長405nm付近の青色レーザ光を用いて高密度の記録再生をおこなう光ヘッドが知られている。このタイプの記録再生方式には異なる記録媒体を用いた2種類の方式があり、いずれの方式にも適合できるユニバーサルタイプの光ヘッドが開発されている。ユニバーサルタイプの光ヘッドにおいては、各記録媒体に対応した光学系を単独で設けずに、光路を共用化する構成が一般的である。光路を共用化することによって、ビームスプリッタ等の光学部品を共通化することができる。しかし、記録媒体に隣接して設けられ、レーザ光を記録媒体の所定の位置、深さに収束させる役割を有している対物レンズは、記録方式ごとに開口数(NA)が異なるため、記録方式ごとに専用の対物レンズを設けることがある。すなわち、HD−DVD(High-Density Digital Versatile Disc)用の対物レンズのNAは0.65であるが、同じ青色レーザ光を用いる記録再生でも、いわゆるブルーレイ(登録商標)用の対物レンズでは0.85と大きい。さらに、CD(Compact Disc)の記録再生やDVD(Digital Versatile Disc)の記録再生を同一の光ヘッドでおこなう場合、より広範なNAの範囲に対応する必要が生じ(CD用の対物レンズのNAは0.45であり、DVD用の対物レンズのNAは0.60である。)一つの対物レンズで全てをカバーすることは不可能である。このため、光学系を共用化した場合でも対物レンズを2つ設け、記録媒体に応じて切り替えて用いる構成が一般的である。
【0003】
対物レンズによって形成されるレーザ光の合焦点(集光スポット)は、記録媒体の凹凸や回転中の偏芯によって所定の位置に対して光軸方向やトラック幅方向にずれる可能性があるため、このずれを補正する必要がある。このため、光ヘッドには、合焦点の光軸方向(焦点深さ)の調整をおこなうフォーカシング制御機構と、トラック幅方向の調整をおこなうトラッキング制御機構と、が設けられている。また、光ヘッドでは、再生の際に、レーザ光源から出射したレーザ光をビームスプリッタを介して記録媒体に照射させ、反射光を同一光路を経てビームスプリッタに入射させ、ビームスプリッタを通過したレーザ光を光検出手段で検知して記録媒体の情報を読み出す。このため、レーザ光の光路が記録媒体の法線に対して斜めにずれていると、記録媒体への入射光の光路と反射光の光路とがずれてしまい、正確な再生が困難となる。そこで、レーザ光の光路、すなわち対物レンズの光軸を記録媒体に対して垂直に維持する機構が必要となる。この機構はチルト制御機構と呼ばれる。
【0004】
対物レンズはレンズホルダに保持され、レンズホルダはホルダ支持部によって支持されている。対物レンズはレンズホルダのレンズ取付け部の開口縁部に沿って支持されている。近年、レンズホルダに軸孔を設け、ホルダ支持部に固定され軸孔に挿入された軸によってレンズホルダをガイドする軸摺動回動型と呼ばれる方式が知られている。従来、軸摺動回動型ではチルト制御が困難であるという課題があったが、近年、チルト制御が可能な軸摺動回動型の光ヘッドも開発されている(特許文献1)。この技術では、レンズホルダのレンズ取付け部の外周縁部に圧電素子と突起とが設けられている。対物レンズは圧電素子と突起に当接するようにレンズ取付け部に嵌められ、さらに反対側から弾性部材で押付けられてレンズホルダに支持されている。圧電素子が対物レンズの光軸方向に変形すると、対物レンズは突起を中心として回動し、チルト制御が実現される。また、レンズホルダにはコイルが、ホルダ支持部にはコイルと対向する位置にマグネットが設けられている。コイルに通電することによってコイルとマグネットとの間に磁気的作用(ローレンツ力)が生じ、レンズホルダが対物レンズの光軸方向および記録媒体のトラック幅方向に移動する。これによってフォーカシング制御とトラッキング制御とが実現される。このように、レンズホルダやホルダ支持部を含み、対物レンズを可動に支持する部品は対物レンズアクチュエータと呼ばれる。
【特許文献1】特開2003−115121号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のチルト制御機構は、対物レンズを保持するレンズホルダが対物レンズを直接チルトさせる方式である。しかし、対物レンズは記録媒体に近接して設けられているため、わずかなチルトでも合焦点が大きくずれてしまい、最悪の場合、サーボ機構がまったく機能しなくなってしまう可能性があった。また、対物レンズに圧電素子が直接接触しているため、対物レンズ自体が激しく振動する。対物レンズはフォーカシング制御およびトラッキング制御によっても常時振動しているため、対物レンズがさらに圧電素子によって振動させられると、弾性部材で押さえているだけでは対物レンズの保持機能が不安定となり、性能劣化や信頼性の低下につながる。さらに、対物レンズの光軸は記録媒体に対して垂直に維持されるが、レンズホルダおよびホルダ支持部は記録媒体に対して斜めにチルトした状態のままとなる。フォーカシング制御およびトラッキング制御は、レンズホルダおよびホルダ支持部に支持されたコイルとマグネットとによって実現されるため、コイルおよびマグネットも、記録媒体に対してチルトした状態となり、これらの制御を高精度で実行することも困難となる。
【0006】
本発明は、フォーカシング制御、トラッキング制御、およびチルト制御を高精度で実現することのできる、軸摺動回動型の対物レンズアクチュエータを提供することを目的とする。また、本発明はかかる対物レンズアクチュエータを用いた光ヘッドおよび光ディスクドライブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の対物レンズアクチュエータは、対物レンズを保持するレンズホルダと、レンズホルダを、対物レンズの光軸方向に沿って移動可能に、かつ光軸方向と平行な回転軸を中心に回転可能に保持するホルダ保持部材と、ホルダ保持部材を保持するベースと、を有している。ホルダ保持部材とベースとの間に、ホルダ保持部材とベースとの接合部の周りに広がるギャップが設けられ、ギャップに複数の圧電素子が挿入されている。
【0008】
このように構成された対物レンズアクチュエータにおいては、チルト制御はホルダ保持部材とベースとの接合部の周りに広がるギャップに設けられた圧電素子によって実現される。圧電素子が変形すると、圧電素子は接合部を中心としてホルダ保持部材を回動させ、それによってホルダ保持部材に支持されたレンズホルダの記録媒体に対するチルト角が変化する。圧電素子の変形によるレンズホルダのチルト角は圧電素子自体の変形量と圧電素子同士の間隔に依存し、圧電素子同士の間隔が大きいほど、圧電素子の同一の変形量に対するレンズホルダのチルト角は減少する。上記構成によれば圧電素子の配置自由度は高く、圧電素子同士の間隔を確保することは容易である。したがって、圧電素子の変形によるレンズホルダのチルト角の急激な変化を効果的に抑制することができる。
【0009】
また、圧電素子はホルダ保持部材とベースとの間に設けられているため、対物レンズに圧電素子の動きが直接伝わることはなく、対物レンズの過度の振動が防止される。さらに、圧電素子が変形したときに、ホルダ保持部材とレンズホルダとは一体となって記録媒体に対して回動する。このため、圧電素子が変形しても、レンズホルダを対物レンズの光軸方向に沿って移動可能に保持する機能(フォーカシング機能)、および光軸方向と平行な回転軸を中心に回転可能に保持する機能(トラッキング機能)に影響することはない。
【0010】
本発明の他の実施態様によれば、光ヘッドは、上述の対物レンズアクチュエータと、対物レンズアクチュエータに取付けられた対物レンズと、を有している。
【0011】
本発明のさらに他の実施態様によれば、光ディスクドライブは上述の光ヘッドを有している。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、本発明によれば、フォーカシング制御、トラッキング制御、およびチルト制御を高精度で実現することのできる、軸摺動回動型の対物レンズアクチュエータを提供することができる。また、本発明によれば、かかる対物レンズアクチュエータを用いた光ヘッドおよび光ディスクドライブを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の対物レンズアクチュエータ、光ヘッド、および光ディスクドライブの実施形態について説明する。
【0014】
まず、本実施形態の光ディスクドライブについて説明する。図1は、本実施形態の光ディスクドライブの構成を概略的に示すブロック図である。
【0015】
光ディスクドライブ101は、光ヘッド1と、記録媒体19を回転させるためのスピンドルモータ112と、スピンドルモータ112および光ヘッド1の動作を制御するコントローラ113と、光ヘッド1にレーザ駆動信号を供給するレーザ駆動回路114と、光ヘッド1にレンズ駆動信号を供給するレンズ駆動回路115と、を備えている。
【0016】
コントローラ113にはフォーカスサーボ追従回路116、トラッキングサーボ追従回路117、チルトサーボ追従回路118、およびレーザコントロール回路119が含まれている。フォーカスサーボ追従回路116が作動すると、回転している記録媒体19の情報記録面にフォーカスがかかった状態となり、トラッキングサーボ追従回路117が作動すると、記録媒体19の偏芯している信号トラックに対して、レーザ光のスポットが自動追従状態となる。チルトサーボ追従回路118が作動すると、対物レンズ14a,14b(後述)の光軸方向が記録媒体19の法線方向に一致するよう、対物レンズ14a,14bのチルト角が自動制御される。フォーカスサーボ追従回路116には、フォーカスゲインを自動調整するためのオートゲインコントロール機能が備えられている。トラッキングサーボ追従回路117には、トラッキングゲインを自動調整するためのオートゲインコントロール機能が備えられている。チルトサーボ追従回路118には、チルトゲインを自動調整するためのオートゲインコントロール機能が備えられている。フォーカスサーボ追従回路116、トラッキングサーボ追従回路117、およびチルトサーボ追従回路118で生成された制御信号はレンズ駆動回路115に送られ、レンズ駆動回路115によってフォーカス制御、トラッキング制御、およびチルト制御がおこなわれる。レーザコントロール回路119は、レーザ駆動回路114により供給されるレーザ駆動信号を生成する回路であり、記録媒体19に記録されている記録条件設定情報に基づいて、適切なレーザ駆動信号の生成をおこなう。これらフォーカスサーボ追従回路116、トラッキングサーボ追従回路117、チルトサーボ追従回路118、およびレーザコントロール回路119は、コントローラ113内に組み込まれた回路である必要はなく、コントローラ113と別個の部品であってもかまわない。さらに、これらは物理的な回路である必要はなく、コントローラ113内で実行されるソフトウェアであっても構わない。
【0017】
図2は、本発明の一実施形態に係る光ヘッドの光学的構成を示す模式図である。光ヘッド1は波長405nmのレーザ光(青色レーザ光)を出射するレーザ発振器3を備えている。波長405nmは一例であって、レーザ発振器3は399〜413nmの範囲の任意の波長のレーザ光を出射するものであればよい。レーザ発振器3はレーザ光のオン・オフや強度を制御する制御部2に接続されている。レーザ発振器3から出射されるレーザ光の光路上には、回折格子・1/2波長板5が設けられている。回折格子はレーザ光のオントラック制御のために用いられる。1/2波長板はレーザ光の偏光方向を制御し、後述の偏光ビームスプリッタ9における反射、透過を制御する。これらは一体で設けられているが、別々の構成でもかまわない。
【0018】
回折格子・1/2波長板5の先には偏光ビームスプリッタ9が設けられている。レーザ光は偏光ビームスプリッタ9で屈折し、反射ミラー10に入射する。反射ミラー10で反射されたレーザ光は、コリメータレンズ11、液晶素子12、1/4波長板13を経て、対物レンズアクチュエータ17に保持された対物レンズ14aに入射する。光ヘッド1はさらに対物レンズ14bを備えており,記録媒体に応じていずれかに切り替えられる。
【0019】
レーザ光は対物レンズ14aまたは14bによって記録媒体19の所定の深さに集光され、記録再生が行われる。記録時には、レーザ光は記録媒体19に照射され、記録媒体19に相変化を生じさせる。再生時には、レーザ光は記録媒体19の記録内容に応じた反射波となって対物レンズ14から偏光ビームスプリッタ9まで逆方向に進行する。反射波は偏光ビームスプリッタ9を透過し、センサレンズ15を経てフォトディテクタ(受光素子)16に入射し、受光強度が測定される。光ヘッド1の外部に設けられた測定回路(図示せず)は、受光強度に応じて記録媒体19の記録内容を識別する。
【0020】
図3は、対物レンズアクチュエータの上面図、図4は、図3に示す対物レンズアクチュエータの4−4線に沿った断面図である。対物レンズアクチュエータ17は、対物レンズ14a,14bを保持するレンズホルダ21と、ホルダ保持部材22と、ホルダ保持部材を保持するベース23と、を有している。
【0021】
レンズホルダ21は、リブ44で補強された胴部41と、胴部41の内側に設けられた軸孔42と、対物レンズ14a,14bを受け入れる対物レンズ取付け部43a,43bと、を有している。対物レンズ取付け部43a,43bは円形の開口部47a,47bを備えており、開口部47,47bの周縁部に設けられた段差(図示せず)に対物レンズ14a,14bの外周縁部が当接するようにされている。対物レンズ14a,14bはさらに当接面の反対側からゴム製のキャップ(図示せず)に押付けられて、対物レンズ取付け部43a,43bに固定される。軸孔42には軸33が挿入されている。軸33はレンズホルダ21を光軸方向Cにガイドする役割を有している。軸33の直径は軸孔42の内径よりも小さくされており、これによって、レンズホルダ21は軸33に対してスムーズに相対運動する。
【0022】
ホルダ保持部材22は、胴部51と、底部52と、底部52から延びる脚部53と、を有している。胴部51は、レンズホルダ21の胴部41の外側に、胴部41と同心円状に設けられている。ホルダ保持部材22は、脚部53が後述する調整球座31の凹部34に挿入されることによって、調整球座31に固定されている。すなわち、脚部53と凹部34は、ホルダ保持部材22と調整球座31との接合部24を形成している。軸33は脚部53の軸孔54に挿入されて、ホルダ保持部材22に固定されている。
【0023】
ベース23は、半球状の凹部30を備えたベースプレート29と、一方の面に半球状の凸部32が、他方の面に接合部24が設けられた調整球座31と、を有している。調整球座31は、凹部30と凸部32とが嵌合した状態でベースプレート29に固定されている。光ヘッド1の製作時には、まず、調整球座31、軸33、ホルダ保持部材22、およびレンズホルダ21を一体に組立て、対物レンズ14a,14bを装着する。その後、半球状の凸部32をベースプレート29の凹部30内で動かしながら対物レンズ14a,14bの光軸の向きを調節し、接着剤61で調整球座31をベースプレート29に固定する。凸部32を動かすためには、例えばベースプレート29と調整球座31を貫通する調整ネジ(図示せず)を複数個設け、各調整ネジを回転させればよい。調整球座31を用いた構成は、対物レンズ14a,14bの光軸方向Cへの移動量が少なく、高精度の光軸調整が可能であるという特徴がある。
【0024】
次に、対物レンズアクチュエータ17においてフォーカシング制御およびトラッキング制御を実現する機構について説明する。レンズホルダ21の胴部41の外面には、フォーカシング用駆動コイル44a,44bが、互いに対向する位置に(すなわち180度の間隔で)設けられている。レンズホルダ21の外面にはさらに、トラッキング用駆動コイル45a,45bが、互いに対向する位置に(すなわち180度の間隔で)設けられている。隣接するフォーカシング用駆動コイル44a,44bとトラッキング用駆動コイル45a,45bとの間隔は90度である必要はない。レンズホルダ21の胴部41の外面には、これらのコイル44a,44b,45a,45bに給電するためのリード部46も設けられている。ホルダ保持部材22の胴部51の内面には、フォーカシング用マグネット55a,55bが、各々フォーカシング用駆動コイル44a,44bと対向した位置に設けられている。同様に、ホルダ保持部材22の胴部51の内面には、トラッキング用マグネット56a,56bが、各々トラッキング用駆動コイル45a,45bと対向した位置に設けられている。
【0025】
図5は、これらのマグネットの着磁パターンとコイルの形状を示す模式的斜視図である。いずれのコイル44a,44b,45a,45bも矩形形状を有しているが、円形、楕円形、多角形等の任意の形状を取ることができる。フォーカシング用マグネット55a,55bのフォーカシング用駆動コイル44a,44bに面する側では、N極とS極は光軸方向Cに沿って図面の上下方向に分布している。したがって、磁界は主としてフォーカシング用駆動コイル44a,44bの上辺および下辺(破線で表示した部分)に作用し、上辺および下辺がコイルの有効領域となる。フォーカシング用駆動コイル44a,44bに電流を流すと、フォーカシング用マグネット55a,55bの磁界とフォーカシング用駆動コイル44a,44bを流れる電流との間に磁気的作用(ローレンツ力)が生じる。この力によって、フォーカシング用駆動コイル44a,44bは電流の流れる向きに応じて光軸方向Cに上向きまたは下向きの力を受け、レンズホルダ21は光軸方向Cに移動することができる。
【0026】
トラッキング用マグネット56a,56bのトラッキング用駆動コイル45a,45bに面する側では、N極とS極は光軸方向Cと直交する方向Pに沿って図面の左右方向に分布している。したがって、磁界は主としてトラッキング用駆動コイル45a,45bの右辺および左辺(破線で表示した部分)に作用し、右辺および左辺がコイルの有効領域となる。トラッキング用駆動コイル45a,45bに電流を流すと、トラッキング用マグネット56a,56bの磁界とトラッキング用駆動コイル45a,45bを流れる電流との間に磁気的作用(ローレンツ力)が生じる。この力によって、トラッキング用駆動コイル45a,45bは電流の流れる向きに応じて、方向Pに沿って右向きまたは左向きの力を受け、レンズホルダ21は回転軸R(図3参照)を中心として回転することができる。この結果、中心軸Rからずれた位置に取付けられた対物レンズ14a,14bは、図3に示すように図面上を左右方向(図中A−A方向)に回動する。図面の左右方向が記録媒体のトラック幅方向と一致するように光ヘッド1を記録媒体に対して位置させることによって、対物レンズ14a,14bはトラック幅方向に移動することができる。
【0027】
このようにして、レンズホルダ21は、ホルダ保持部材22によって、対物レンズ14a,14bの光軸方向Cに沿って移動可能に、かつ光軸方向Cと平行な回転軸Rを中心に回転可能に保持される。なお、対物レンズ14a,14bの切替えもレンズホルダ21の回転を利用しておこなうことができる。
【0028】
ホルダ保持部材22の底部52とベース23の球形球座31との間には、ホルダ保持部材22とベース23との接合部24の周りに広がるギャップ25が設けられている。したがって、接合部24の周りでは、ホルダ保持部材22とベース23とは直接的に接合されていない。ギャップ25には複数の圧電素子26が挿入されている。図6は、図4の6−6線から見た断面図で、後述する弾性体の表示は省略している。一実施形態では、同図(a)のように、互いに対向する位置に2つの圧電素子26a,26bが設けられている。しかし、この実施形態では2つの圧電素子26a,26bを含む平面内でのチルト制御しかできない。本実施形態では、同図(b)のように、互いに120度の間隔で、中心軸Rから等距離の位置に圧電素子26c,26d,26eを設けている。各圧電素子26c,26d,26eの光軸方向Cの変形量を独立して調整することによって、任意の光軸方向Cを含む平面でチルト制御が可能となる。一例を挙げれば、圧電素子28cを変形させず、圧電素子28d,28eを光軸方向Cに関して逆方向に同一量変形させると、図中0°−180°を結ぶ軸を中心線とするチルト運動が可能となる。圧電素子28cを光軸方向Cに関していずれかの方向に変形させ、圧電素子28d,28eを圧電素子28cの半分の量だけ、光軸方向Cに関して反対方向に変形させれば、図中90°−270°を結ぶ軸を中心線とするチルト運動が可能となる。光軸方向Cは記録媒体に対してどの向きにもチルトする可能性があるため、本実施形態のように圧電素子を3つ設けるのが好ましい。
【0029】
圧電素子を3つ設けることでさらに別のメリットも得られる。従来、対物レンズの光軸方向を調整するには、対物レンズの合焦点でのスポット品位、または記録媒体を再生して得られる電気信号を人間が確認しながら光軸方向を微調整する必要があった。圧電素子を3つ設けると任意の方向でのチルト制御が可能となるため、製作時の光軸方向の微調整は不要である。すなわち、光軸方向は自動調整されるので、製作時には粗い調整で十分であり、場合によっては調整作業自体も省略できる。このため、調整時間の短縮や工程の無人化等のメリットが得られる。
【0030】
図4を参照すると、ギャップ25にはさらに、ゴムからなる弾性体28が挿入されている。弾性体28は外部からの振動を対物レンズアクチュエータ17に伝えることを防止する。対物レンズアクチュエータ17が外部からの振動を受けると、フォーカシング制御およびトラッキング制御に悪影響が生じるほか、対物レンズ14a,14bにも振動が伝わり、性能劣化や信頼性低下の原因となる。本実施形態では、圧電素子26c,26d,26eは調整球座31に取付けられ、弾性体28を介してホルダ保持部材22の底部52に接続されている。圧電素子26c,26d,26eが設けられていない部位では、弾性体28は底部52と調整球座31の双方に接触して設けられている。
【0031】
弾性体としてばねを用いることも考えられるが、ゴムの方がより広い周波数範囲で高い振動減衰効果を得ることができるため、より望ましい。特に、ゴムの共振周波数より高い周波数領域では、外部振動とゴムの振動の位相が180度反転して、外部振動とゴムの振動の相対速度が増加する。ゴムの粘弾性によるエネルギ減衰はこの相対速度に比例するため、ゴムの共振周波数より高い周波数の振動に対して、より高い振動減衰効果が得られる。ばねを用いる場合、対物レンズアクチュエータ17の共振周波数に合わせてばねを設計する必要があるが、振動減衰効果は、共振周波数以外の周波数に対してはさほど高くない。
【0032】
以上、光ヘッドおよび対物レンズアクチュエータの実施形態を説明したが、本発明が上記の実施形態に限定されないことは勿論である。一例として、圧電素子および弾性体の構成は本実施形態に限定されず、チルト制御と振動減衰の目的が達成できれば任意の構成が可能である。図7は、圧電素子と弾性体の構成の変形例を示す概念図である。同図(a)では、圧電素子26f(他の圧電素子の図示は省略。図7の各図において同様。)および弾性体28bは各々、底部52と調整球座31の双方に接触して設けられている。同図(b)では、圧電素子26gはホルダ保持部材22の底部52に取付けられ、弾性体28cを介して調整球座31に接続されている。同図(c)では、圧電素子26hだけが設けられている。圧電素子はそれ自体が振動減衰効果を備えているため、外部振動の少ない用途や、他の手段によって外部振動が規制されている場合には、弾性体を省略することも可能である。同図(c)の構成は圧電素子だけでチルト制御と振動減衰をおこなうため、部品点数が減少するというメリットがある。
【0033】
また、上記実施形態では光軸調整をおこなうために調整球座を用いたが、ピボット方式の光軸調整機構を設けてもよい。図8は、対物レンズアクチュエータの他の実施形態を示す概念図であり、同図(a)は断面図、同図(b)は調整ベースの下面図である。本実施形態では調整球座の代わりに調整ベース71が用いられている。ベースプレート29aからは突起部72が延びており、突起部72の先端は調整ベース71の底面に形成された凹部75と嵌合している。ねじ73がベースプレート29aに設けられた開口77を貫通して、調整ベース71のねじ山が切られた開口76aに係合している。図示しないもうひとつのねじも、ベースプレート29aに設けられた図示しない開口を貫通して、調整ベース71のねじ山が切られた開口76bに係合している。調整ベース71とベースプレート29aとの間にはばね74が設けられている。2つのねじを調整すると、調整ベース71は突起部72を支点として、図8(b)のx軸およびy軸の周りでピボット運動する。
【0034】
さらに、上記実施形態では対物レンズは2つ設けられているが、1つでもよいし、CD用やDVD用の対物レンズをさらに組み合わせてもよい。圧電素子は、全てが回転軸に対して等距離の位置に設けられている必要はないし、4つ以上設けられていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本実施形態の光ディスクドライブの構成を概略的に示すブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る光ヘッドの光学的構成を示す模式図である。
【図3】対物レンズアクチュエータの上面図である。
【図4】図3に示す対物レンズアクチュエータの4−4線に沿った断面図である。
【図5】マグネットの着磁パターンとコイルの形状を示す模式的斜視図である。
【図6】図4の6−6線から見た断面図である。
【図7】弾性体と圧電素子の構成の変形例を示す概念図である。
【図8】対物レンズアクチュエータの他の実施形態を示す概念図である。
【符号の説明】
【0036】
1 光ヘッド
3 レーザ発振器
14a,14b 対物レンズ
17 対物レンズアクチュエータ
19 記録媒体
21 レンズホルダ
22 ホルダ保持部材
23 ベース
24 接合部
25 ギャップ
26,26a,26b,26c,26d,26e,26f,26g,26h 圧電素子
28,28b,28c 弾性体
30 凹部
31 調整球座
32 凸部
33 軸
41 胴部
42 軸孔
43a,43b 対物レンズ取付け部
44a,44b フォーカシング用駆動コイル
45a,45b トラッキング用駆動コイル
54 軸孔
55a,55b フォーカシング用マグネット
56a,56b トラッキング用マグネット
61 接着剤
101 光ディスクドライブ
C 光軸方向
R 中心軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対物レンズを保持するレンズホルダと、
前記レンズホルダを、前記対物レンズの光軸方向に沿って移動可能に、かつ該光軸方向と平行な回転軸を中心に回転可能に保持するホルダ保持部材と、
前記ホルダ保持部材を保持するベースと、
を有し、
前記ホルダ保持部材と前記ベースとの間に、前記ホルダ保持部材と前記ベースとの接合部の周りに広がるギャップが設けられ、該ギャップに複数の圧電素子が挿入されている、
対物レンズアクチュエータ。
【請求項2】
前記ギャップにさらに弾性体が挿入されている、請求項1に記載の対物レンズアクチュエータ。
【請求項3】
前記弾性体はゴムである、請求項2に記載の対物レンズアクチュエータ。
【請求項4】
前記圧電素子は3つ設けられている、請求項1から3のいずれか1項に記載の対物レンズアクチュエータ。
【請求項5】
前記ベースは、半球状の凹部を備えたベースプレートと、一方の面に半球状の凸部が、他方の面に前記接合部が設けられた調整球座と、を有し、
前記調整球座は、前記凹部と前記凸部とが嵌合した状態で前記ベースプレートに固定されている、請求項1から4のいずれか1項に記載の対物レンズアクチュエータ。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の対物レンズアクチュエータと、
前記対物レンズアクチュエータに取付けられた対物レンズと、
を有する光ヘッド。
【請求項7】
請求項6に記載の光ヘッドを有する光ディスクドライブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−293547(P2008−293547A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−135063(P2007−135063)
【出願日】平成19年5月22日(2007.5.22)
【出願人】(500393893)新科實業有限公司 (361)
【氏名又は名称原語表記】SAE Magnetics(H.K.)Ltd.
【住所又は居所原語表記】SAE Technology Centre, 6 Science Park East Avenue, Hong Kong Science Park, Shatin, N.T., Hong Kong
【Fターム(参考)】