説明

対称ジアルキルカーボネート及び非対称ジアルキルカーボネートの製造方法

【課題】アルキレンカーボネートと2種以上のアルコールとのエステル交換反応で、対称ジアルキルカーボネートと非対称ジアルキルカーボネートを工業的に有利に製造する方法を提供する。
【解決手段】アルキレンカーボネートと2種以上のアルコールとを同一の反応器内でエステル交換反応させて、対称ジアルキルカーボネートと非対称ジアルキルカーボネートを製造する。この方法において、前記エステル交換反応液に対して、エステル交換反応で生成するアルキレングリコールと同じアルキレングリコールを抽出溶媒とする抽出蒸留を行うことにより、副生するエーテル化合物を除去しながらエステル交換反応を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルキレンカーボネートと2種以上のアルコールとをエステル交換反応させて、対称ジアルキルカーボネートと非対称ジアルキルカーボネートとを製造する方法に関する。
本発明はまた、エチレンカーボネートあるいはプロピレンカーボネートと、エタノールとをエステル交換反応させてジエチルカーボネートを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレンカーボネートあるいはプロピレンカーボネートと、エタノール、あるいはエタノールとメタノールの混合物とをエステル交換反応させて、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート及びジメチルカーボネートのいずれかのジアルキルカーボネートを製造する際、メチルグリコールエーテル類やエチルグリコールエーテル類が副生する。
【0003】
即ち、この反応は下記反応式(1)〜(4)に従って進行するが、この際、以下の反応式(5)〜(8)の副反応により、グリコールエーテル類が副生する。
【0004】
【化1】

【0005】
【化2】

【0006】
【化3】

【0007】
反応原料及び目的生成物とこれらの副生物の沸点は以下の通りであり、これらの副生物は目的生成物と共沸し易いため、このような副生物を含む反応生成物から目的生成物と副生物とを蒸留分離することは非常に困難である。
【0008】
エチレンカーボネート:246℃
プロピレンカーボネート:242℃
エタノール:78.3℃
メタノール:64.6℃
ジエチルカーボネート:127℃
ジメチルカーボネート:90℃
エチルメチルカーボネート:107℃
エチルグリコールエーテル:136℃
プロピレングリコールエチルエーテル:133℃((6)−2の場合)
メチルグリコールエーテル:125℃
プロピレングリコールメチルエーテル:120℃((8)−2の場合)
エチレングリコール:198℃
プロピレングリコール:188℃
【0009】
即ち、エチレンカーボネートとエタノールとのエステル交換反応で得られる反応生成物には、目的生成物であるジエチルカーボネート(沸点127℃)とエチレングリコール(沸点198℃)と、残存する反応原料のエチレンカーボネート(沸点246℃)とエタノール(沸点78.3℃)と、副生物であるエチルグリコールエーテル(沸点136℃)とが含まれ、このうち、ジエチルカーボネート(沸点127℃)とエチルグリコールエーテル(沸点136℃)とは沸点が近く、共沸関係にあり蒸留分離は困難である。
【0010】
また、プロピレンカーボネートとエタノールとのエステル交換反応で得られる反応生成物には、目的生成物であるジエチルカーボネート(沸点127℃)とプロピレングリコール(沸点188℃)と、残存する反応原料のプロピレンカーボネート(沸点242℃)とエタノール(沸点78.3℃)と、副生物であるプロピレングリコールエチルエーテル(沸点133℃:(6)−2の場合)とが含まれ、このうち、ジエチルカーボネート(沸点127℃)とプロピレングリコールエチルエーテル(沸点133℃:(6)−2の場合)とは沸点が近く、共沸関係にあり蒸留分離は困難である。
【0011】
更に、エチレンカーボネートとエタノール及びメタノールの混合物とのエステル交換反応で得られる反応生成物には、目的生成物であるジエチルカーボネート(沸点127℃)、ジメチルカーボネート(沸点90℃)、エチルメチルカーボネート(沸点107℃)とエチレングリコール(沸点198℃)と、残存する反応原料のエチレンカーボネート(沸点246℃)とエタノール(沸点78.3℃)及びメタノール(沸点64.6℃)と、副生物であるエチルグリコールエーテル(沸点136℃)及びメチルグリコールエーテル(沸点125℃)とが含まれ、このうち、ジエチルカーボネート(沸点127℃)とエチルグリコールエーテル(沸点136℃)及びエチルメチルカーボネート(沸点107℃)とメチルグリコールエーテル(沸点125℃)とは沸点が近く、共沸関係にあり蒸留分離は困難である。
【0012】
また、プロピレンカーボネートとエタノール及びメタノールの混合物とのエステル交換反応で得られる反応生成物には、目的生成物であるジエチルカーボネート(沸点127℃)、ジメチルカーボネート(沸点90℃)、エチルメチルカーボネート(沸点107℃)とプロピレングリコール(沸点188℃)と、残存する反応原料のプロピレンカーボネート(沸点242℃)とエタノール(沸点78.3℃)及びメタノール(沸点64.6℃)と、副生物であるプロピレングリコールエチルエーテル(沸点133℃:(6)−2の場合)及びプロピレングリコールメチルエーテル(沸点120℃:(8)−(2)の場合)とが含まれ、このうち、ジエチルカーボネート(沸点127℃)とプロピレングリコールエチルエーテル(沸点133℃:(6)−2の場合)とは沸点が近く、共沸関係にあり、またエチルメチルカーボネート(沸点107℃)とプロピレングリコールメチルエーテル(沸点120℃)及びジエチルカーボネート(沸点127℃)とプロピレングリコールエチルエーテル(沸点133℃)は沸点が近く共沸関係にあり、いずれも蒸留分離は困難である。
【0013】
従来、これらの副生物を分離除去する方法として、例えば、特許文献1には、エチレンカーボネートとメタノールのエステル交換反応で副生するメチルグリコールエーテルを蒸留塔の側流から抜き出し、塔頂よりグリコールエーテルを含まないジメチルカーボネートを回収する方法が提案されている。しかし、特許文献1には、エチルグリコールエーテルを、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート及びジメチルカーボネート等と分離する方法は開示されていない。
【0014】
また、従来、メチルグリコールエーテル及びエチルグリコールエーテルを含むジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネートとジエチルカーボネートの混合物から、これらのグリコールエーテル類を分離除去する方法も提案されていない。
【0015】
このように、副生物の分離除去が困難であることから、従来においては、例えば、エチレンカーボネートあるいはプロピレンカーボネートと、エタノールとメタノールの混合物とを同一反応器内でエステル交換反応させることは行われていない。
また、エチレンカーボネートあるいはプロピレンカーボネートと、エタノールとをエステル交換反応させて、ジエチルカーボネートを製造する際、副生するグリコールエーテル類の分離除去が困難であるために、目的生成物を高純度で効率良く製造することができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2002−371037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、アルキレンカーボネートと2種以上のアルコールとのエステル交換反応で、対称ジアルキルカーボネートと非対称ジアルキルカーボネートを工業的に有利に製造する方法、特にこの方法において、目的生成物と共沸する副生物を効率的に分離除去することにより、目的生成物を高純度で効率良く製造する方法を提供することを課題とする。
【0018】
本発明はまた、エチレンカーボネートあるいはプロピレンカーボネートと、エタノールとをエステル交換させて、ジエチルカーボネートを製造する方法において、目的生成物と共沸する副生物を効率的に分離除去することにより、目的生成物を高純度で効率良く製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、上記課題を解決するため、各種の検討を行った結果、アルキレンカーボネートとアルコールとのエステル交換によりジアルキルカーボネートを製造する際、エステル交換反応で生成するものと同じアルキレングリコールを抽出溶媒とする抽出蒸留を行うことにより、目的生成物と共沸する副生物と目的生成物とを容易に蒸留分離することができることを見出して、本発明を完成させるに至った。
【0020】
即ち、本発明は以下を要旨とする。
【0021】
[1] アルキレンカーボネートと2種以上のアルコールとを同一の反応器内でエステル交換反応させることを特徴とする、対称ジアルキルカーボネート及び非対称ジアルキルカーボネートの製造方法。
【0022】
[2] 前記アルキレンカーボネートがエチレンカーボネートであり、前記2種以上のアルコールがエタノール及びメタノールであり、前記対称ジアルキルカーボネートがジエチルカーボネート及びジメチルカーボネートであり、前記非対称ジアルキルカーボネートがエチルメチルカーボネートであることを特徴とする、[1]に記載の対称ジアルキルカーボネート及び非対称ジアルキルカーボネートの製造方法。
【0023】
[3] 前記エステル交換反応により生成するエーテル化合物をエステル交換反応液から除去しながらエステル交換反応を行うことを特徴とする、[1]または[2]に記載の対称ジアルキルカーボネート及び非対称ジアルキルカーボネートの製造方法。
【0024】
[4] 前記エステル交換反応液に対して、前記エステル交換反応で生成するアルキレングリコールと同じアルキレングリコールを抽出溶媒とする抽出蒸留を行うことにより、前記エーテル化合物を除去することを特徴とする、[3]に記載の対称ジアルキルカーボネート及び非対称ジアルキルカーボネートの製造方法。
【0025】
[5] 以下の第1工程〜第5工程を含み、前記抽出蒸留を第2工程で行うことを特徴とする、[4]に記載の対称ジアルキルカーボネート及び非対称ジアルキルカーボネートの製造方法。
(1)アルキレンカーボネートと2種以上のアルコールとのエステル交換反応を行う第1工程
(2)第1工程の反応生成物を、アルコールと対称ジアルキルカーボネート及び非対称ジアルキルカーボネートとを主成分とする低沸点留分と、アルキレンカーボネートとアルキレングリコールとを主成分とする高沸点留分に蒸留分離する第2工程
(3)第2工程で蒸留分離された低沸点留分を、アルコールを主成分とする低沸点留分と、対称ジアルキルカーボネート及び非対称ジアルキルカーボネートを主成分とする高沸点留分とに蒸留分離する第3工程
(4)第2工程で蒸留分離された高沸点留分を、アルキレングリコールを主成分としアルキレンカーボネートを含む低沸点留分と、アルキレンカーボネートを主成分とする高沸点留分とに蒸留分離する第4工程
(5)第3工程で蒸留分離された低沸点留分と、第4工程で蒸留分離された高沸点留分とを第1工程にリサイクルする第5工程
【0026】
[6] 前記第4工程で蒸留分離された低沸点留分中のアルキレングリコールを抽出溶媒として用いることを特徴とする、[5]に記載の対称ジアルキルカーボネート及び非対称ジアルキルカーボネートの製造方法。
【0027】
[7] 前記第4工程で蒸留分離された低沸点留分中のアルキレンカーボネートを加水分解してアルキレングリコールを得る第6工程を有することを特徴とする、[5]または[6]に記載の対称ジアルキルカーボネート及び非対称ジアルキルカーボネートの製造方法。
【0028】
[8] 前記アルキレンカーボネートがエチレンカーボネートであり、前記2種以上のアルコールがエタノール及びメタノールであり、前記対称ジアルキルカーボネートがジエチルカーボネート及びジメチルカーボネートであり、前記非対称ジアルキルカーボネートがエチルメチルカーボネートであって、以下の第i工程〜第v工程を含み、前記抽出蒸留を第ii工程で行うことを特徴とする、[4]に記載の対称ジアルキルカーボネート及び非対称ジアルキルカーボネートの製造方法。
(i)エチレンカーボネートと、エタノール及びメタノールの混合物とのエステル交換反応を行う第i工程
(ii)第i工程の反応生成物を、エタノール及びメタノールとジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート及びエチルメチルカーボネートを主成分とする低沸点留分と、エチレンカーボネートとエチレングリコールとを主成分とする高沸点留分に蒸留分離する第ii工程
(iii)第ii工程で蒸留分離された低沸点留分を、エタノール及びメタノールを主成分とする低沸点留分と、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート及びエチルメチルカーボネートを主成分とする高沸点留分とに蒸留分離する第iii工程
(iv)第ii工程で蒸留分離された高沸点留分を、エチレングリコールを主成分としエチレンカーボネートを含む低沸点留分と、エチレンカーボネートを主成分とする高沸点留分とに蒸留分離する第iv工程
(v)第iii工程で蒸留分離された低沸点留分と、第iv工程で蒸留分離された高沸点留分とを第i工程にリサイクルする第v工程
【0029】
[9] 前記第iv工程で蒸留分離された低沸点留分中のエチレングリコールを抽出溶媒として用いることを特徴とする、[8]に記載の対称ジアルキルカーボネート及び非対称ジアルキルカーボネートの製造方法。
【0030】
[10] 前記第iv工程で蒸留分離された低沸点留分中のエチレンカーボネートを加水分解してエチレングリコールを得る第vi工程を有することを特徴とする、[8]または[9]に記載の対称ジアルキルカーボネート及び非対称ジアルキルカーボネートの製造方法。
【0031】
[11] エチレンカーボネートあるいはプロピレンカーボネートと、エタノールとをエステル交換反応させて、ジエチルカーボネートを製造する方法において、該エステル交換反応で得られた反応生成物に対して、エチレングリコールあるいはプロピレングリコールを抽出溶媒として抽出蒸留を行って、エーテル化合物を含む留分を蒸留分離する工程を有することを特徴とする、ジエチルカーボネートの製造方法。
【0032】
[12] 以下の第I工程〜第V工程を含み、前記抽出蒸留を第II工程で行うことを特徴とする、[11]に記載のジエチルカーボネートの製造方法。
(I)エチレンカーボネートあるいはプロピレンカーボネートとエタノールとのエステル交換反応を行う第I工程
(II)第I工程の反応生成物をエタノールとジエチルカーボネートとを主成分とする低沸点留分と、エチレンカーボネートあるいはプロピレンカーボネートとエチレングリコールあるいはプロピレングリコールとを主成分とする高沸点留分に蒸留分離する第II工程
(III)第II工程で蒸留分離された低沸点留分を、エタノールを主成分とする低沸点留分と、ジエチルカーボネートを主成分とする高沸点留分とに蒸留分離する第III工程
(IV)第II工程で蒸留分離された高沸点留分を、エチレングリコールあるいはプロピレングリコールを主成分としエチレンカーボネートあるいはプロピレンカーボネートを含む低沸点留分と、エチレンカーボネートあるいはプロピレンカーボネートを主成分とする高沸点留分とに蒸留分離する第IV工程
(V)第III工程で蒸留分離された低沸点留分と、第IV工程で蒸留分離された高沸点留分とを第I工程にリサイクルする第V工程
【0033】
[13] 前記第IV工程で蒸留分離された低沸点留分中のエチレングリコールあるいはプロピレングリコールを抽出溶媒として用いることを特徴とする、[12]に記載のジエチルカーボネートの製造方法。
【0034】
[14] 前記第IV工程で蒸留分離された低沸点留分中のエチレンカーボネートあるいはプロピレンカーボネートを加水分解してエチレングリコールあるいはプロピレングリコールを得る第VI工程を有することを特徴とする、[12]または[13]に記載のジエチルカーボネートの製造方法。
【発明の効果】
【0035】
本発明の対称ジアルキルカーボネート及び非対称ジアルキルカーボネートの製造方法によれば、アルキレンカーボネートと2種以上のアルコールとを同一の反応器内でエステル交換反応させることにより、対称ジアルキルカーボネートと非対称ジアルキルカーボネートとを同時に、かつ効率的に製造することができる。
【0036】
特に、エステル交換反応により、生成するエーテル化合物をエステル交換反応液から除去しながらエステル交換反応を行うことにより、とりわけ、エステル交換反応液に対して、エステル交換反応で生成するアルキレングリコールと同じアルキレングリコールを抽出溶媒とする抽出蒸留を行って、副生エーテル化合物を除去することにより、目的生成物と共沸する副生物を効率的に分離除去して、目的生成物を高純度で効率良く製造することができる。
【0037】
本発明の対称ジアルキルカーボネート及び非対称ジアルキルカーボネートの製造方法は、特に、アルキレンカーボネートとしてエチレンカーボネートを用い、2種以上のアルコールとしてエタノール及びメタノールの混合物を用いて、対称ジアルキルカーボネートとしてジエチルカーボネート及びジメチルカーボネートを、非対称ジアルキルカーボネートとしてエチルメチルカーボネートを製造する場合に有効である。
【0038】
即ち、エチレンカーボネートと、エタノールとメタノールの混合物とをエステル交換反応させて、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート及びジメチルカーボネートを同時に製造する場合、副生するメチルグリコールエーテル及びエチルグリコールエーテルは、それぞれエチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネートと共沸関係にあり、通常の蒸留では分離が困難であることから、目的生成物であるエチルメチルカーボネート及びジエチルカーボネートへの副生物の混入が避けられず、このことが目的生成物の純度を下げる原因となる。
この場合において、本発明によれば、エチレングリコール又はプロピレングリコールを抽出溶媒とする抽出蒸留を行うことにより、これらの副生物を目的生成物と効率的に分離して、目的生成物を高純度で効率良く製造することが可能となる。
【0039】
また、エチレンカーボネートあるいはプロピレンカーボネートと、エタノールとをエステル交換反応させてジエチルカーボネートを製造する際に副生するエチルグリコールエーテルは、ジエチルカーボネートと共沸関係にあり、従来の通常の蒸留では分離が困難であるため、目的生成物であるジエチルカーボネートへの副生物の混入が避けられず、このことが目的生成物の純度を下げる原因となっていたが、本発明のジエチルカーボネートの製造方法によれば、エチレングリコール又はプロピレングリコールを抽出溶媒とする抽出蒸留を行うことにより、これらの副生物を目的生成物と効率的に分離して、目的生成物を高純度で効率良く製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明によりジアルキルカーボネートを製造する方法の一実施形態を示す製造工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下に、本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施の形態の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容には特定されない。
【0042】
本発明の対称ジアルキルカーボネート及び非対称ジアルキルカーボネートの製造方法において、反応原料であるアルキレンカーボネートとしては特に制限はないが、例えば、炭素数2〜10のアルキレン基を有するもの、具体的には、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、シクロへキセンカーボネート、およびスチレンカーボネート等が挙げられる。
【0043】
これらのアルキレンカーボネートの2種以上をエステル交換反応に供することも可能であるが、通常は、1種のアルキレンカーボネートが用いられる。
【0044】
これらのアルキレンカーボネートのうち、特にエステル交換反応で副生するエーテル化合物と目的とするジアルキルカーボネートとの蒸留分離が困難である点において、エチレンカーボネート又はプロピレンカーボネート、とりわけエチレンカーボネートを原料アルキレンカーボネートとする場合に、本発明の効果が有効に発揮される。
【0045】
一方、上記のアルキレンカーボネートとエステル交換反応させるアルコールとしては、特に制限はないが、炭素数1〜10のアルコールが挙げられ、具体的にはメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール等が挙げられ、本発明の対称ジアルキルカーボネート及び非対称ジアルキルカーボネートの製造方法では、これらのアルコールのうちの任意の2種以上、好ましくは2種又は3種をエステル交換反応に供する。
【0046】
その組み合わせについても特に制限はないが、これらのアルコールのうち、特にエステル交換反応で副生するエーテル化合物と目的とするジアルキルカーボネートとの蒸留分離が困難である点において、メタノールとエタノールを原料アルコールとする場合に、本発明の効果が有効に発揮される。
【0047】
本発明の対称ジアルキルカーボネート及び非対称ジアルキルカーボネートの製造方法は特に、アルキレンカーボネートとしてエチレンカーボネートを用い、2種以上のアルコールとしてエタノールとメタノールの混合物を用い、対称ジアルキルカーボネートとしてジエチルカーボネート及びジメチルカーボネートを、非対称ジアルキルカーボネートとしてエチルメチルカーボネートを製造する方法に有効である。
【0048】
アルキレンカーボネートと2種以上のアルコールとの同一反応器内でのエステル交換反応においては、エステル交換反応により副生するエーテル化合物をエステル交換反応液から除去しながらエステル交換反応を行うことが好ましい。ここで、「エステル交換反応液からエーテル化合物を除去しながらエステル交換反応を行う」とは、本発明の対称ジアルキルカーボネート及び非対称ジアルキルカーボネートを精製する工程(以下の第3工程)までのいずれかで、エーテル化合物を除去する工程を含むことを意味する。このエーテル化合物の除去は、エステル交換反応で生成するアルキレングリコールと同じアルキレングリコールを抽出溶媒とする抽出蒸留を行うことにより行うことが好ましい。また、上記エステル交換反応液に、含有される対称及び非対称ジアルキルカーボネートの全量に対して0.1〜5重量倍の水を添加して、水抽出することにより、エーテル化合物を除去することもできる。水を添加して静置すると、油水の2層に分離するので、油層を適当な方法で分離取得した後、蒸留により対称ジアルキルカーボネート及び非対称ジアルキルカーボネートを分離することができる。
【0049】
本発明の対称ジアルキルカーボネート及び非対称ジアルキルカーボネートの製造方法は、好ましくは以下の第1工程〜第5工程、より好ましくは更に以下の第6工程を含み、上述の抽出蒸留を第2工程で行うことが好ましい。
【0050】
(1)アルキレンカーボネートと2種以上のアルコールとのエステル交換反応を行う第1工程
(2)第1工程の反応生成物を、アルコールと対称ジアルキルカーボネート及び非対称ジアルキルカーボネートとを主成分とする低沸点留分と、アルキレンカーボネートとアルキレングリコールとを主成分とする高沸点留分に蒸留分離する第2工程
(3)第2工程で蒸留分離された低沸点留分を、アルコールを主成分とする低沸点留分と、対称ジアルキルカーボネート及び非対称ジアルキルカーボネートを主成分とする高沸点留分とに蒸留分離する第3工程
(4)第2工程で蒸留分離された高沸点留分を、アルキレングリコールを主成分としアルキレンカーボネートを含む低沸点留分と、アルキレンカーボネートを主成分とする高沸点留分とに蒸留分離する第4工程
(5)第3工程で蒸留分離された低沸点留分と、第4工程で蒸留分離された高沸点留分とを第1工程にリサイクルする第5工程
(6)第4工程で蒸留分離された低沸点留分中のアルキレンカーボネートを加水分解してアルキレングリコールを得る第6工程
【0051】
前述の如く、本発明の対称ジアルキルカーボネート及び非対称ジアルキルカーボネートの製造方法は特に、アルキレンカーボネートとしてエチレンカーボネートを用い、2種以上のアルコールとしてエタノールとメタノールの混合物を用い、対称ジアルキルカーボネートとしてジエチルカーボネート及びジメチルカーボネートを、非対称ジアルキルカーボネートとしてエチルメチルカーボネートを製造する方法に有効であり、この場合、本発明の対称ジアルキルカーボネート及び非対称ジアルキルカーボネートの製造方法は、好ましくは下記の第i〜第v工程、より好ましくは更に下記の第vi工程を含み、前述の抽出蒸留を第ii工程で実施することが好ましい。
【0052】
(i)エチレンカーボネートと、エタノール及びメタノールの混合物とのエステル交換反応を行う第i工程
(ii)第i工程の反応生成物を、エタノール及びメタノールとジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート及びエチルメチルカーボネートを主成分とする低沸点留分と、エチレンカーボネートとエチレングリコールとを主成分とする高沸点留分に蒸留分離する第ii工程
(iii)第ii工程で蒸留分離された低沸点留分を、エタノール及びメタノールを主成分とする低沸点留分と、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート及びエチルメチルカーボネートを主成分とする高沸点留分とに蒸留分離する第iii工程
(iv)第ii工程で蒸留分離された高沸点留分を、エチレングリコールを主成分としエチレンカーボネートを含む低沸点留分と、エチレンカーボネートを主成分とする高沸点留分とに蒸留分離する第iv工程
(v)第iii工程で蒸留分離された低沸点留分と、第iv工程で蒸留分離された高沸点留分とを第i工程にリサイクルする第v工程
(vi)第iv工程で蒸留分離された低沸点留分中のエチレンカーボネートを加水分解してエチレングリコールを得る第vi工程
【0053】
本発明のジエチルカーボネートの製造方法は、エチレンカーボネートあるいはプロピレンカーボネートと、エタノールとをエステル交換反応させて、ジエチルカーボネートを製造する方法において、該エステル交換反応で得られた反応生成物に対して、エチレングリコールあるいはプロピレングリコールを抽出溶媒として抽出蒸留を行って、エーテル化合物を含む留分を蒸留分離する工程を有することを特徴とする。
【0054】
本発明のジエチルカーボネートの製造方法は、好ましくは下記の第I〜第V工程、より好ましくは更に下記の第VI工程を含み、上述の抽出蒸留を第II工程で実施することが好ましい。
(I)エチレンカーボネートあるいはプロピレンカーボネートとエタノールとのエステル交換反応を行う第I工程
(II)第I工程の反応生成物をエタノールとジエチルカーボネートとを主成分とする低沸点留分と、エチレンカーボネートあるいはプロピレンカーボネートとエチレングリコールあるいはプロピレングリコールとを主成分とする高沸点留分に蒸留分離する第II工程
(III)第II工程で蒸留分離された低沸点留分を、エタノールを主成分とする低沸点留分と、ジエチルカーボネートを主成分とする高沸点留分とに蒸留分離する第III工程
(IV)第II工程で蒸留分離された高沸点留分を、エチレングリコールあるいはプロピレングリコールを主成分としエチレンカーボネートあるいはプロピレンカーボネートを含む低沸点留分と、エチレンカーボネートあるいはプロピレンカーボネートを主成分とする高沸点留分とに蒸留分離する第IV工程
(V)第3工程で蒸留分離された低沸点留分と、第IV工程で蒸留分離された高沸点留分とを第I工程にリサイクルする第V工程
(VI)第IV工程で蒸留分離された低沸点留分中のエチレンカーボネートあるいはプロピレンカーボネートを加水分解してエチレングリコールあるいはプロピレングリコールを得る第VI工程
【0055】
以下に、本発明の対称ジアルキルカーボネート及び非対称ジアルキルカーボネートの製造方法ないしジエチルカーボネートの製造方法の製造工程の一実施形態を示す図1を参照して本発明を詳細に説明するが、本発明は何ら図1に示す方法に限定されるものではなく、また、以下においては、本発明の対称ジアルキルカーボネート及び非対称ジアルキルカーボネートの製造方法において、アルキレンカーボネートとしてエチレンカーボネートあるいはプロピレンカーボネートを用い、2種以上のアルコールとしてエタノール及びメタノールの混合物を用いる場合を例示しているが、アルキレンカーボネート及びアルコールの種類は何らこれに限定されるものではない。
【0056】
なお、以下において、エチレンカーボネートあるいはプロピレンカーボネートを単に「原料カーボネート」と称し、エタノール、又はエタノール及びメタノールの混合物を「原料アルコール」と称す場合がある。
また、主反応で生成する目的生成物であるジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートを「目的カーボネート」と称し、エチレングリコールあるいはプロピレングリコールを「生成グリコール」と称し、副生物であるエチルグリコールエーテル、メチルグリコールエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルを「副生グリコールエーテル」と称す場合がある。
【0057】
図1の方法においては、原料カーボネート(エチレンカーボネートあるいはプロピレンカーボネート)と原料アルコール(エタノール、あるいはエタノール及びメタノールの混合物)を、後述のアルコール回収塔3からの低沸点留分と原料カーボネート回収塔4からの高沸点留分と共に、エステル交換反応器1に導入してエステル交換反応を行う(第1工程,第i工程,第I工程)。
【0058】
このエステル交換反応は、いずれも、触媒の存在下で行われる。ここで用いる触媒としては、エステル交換反応触媒として一般的に使用されている公知の触媒を適宜選択して用いることができる。例えば、均一触媒の場合はトリエチルアミン等のアミン類、ナトリウム等のアルカリ金属、クロロ酢酸ナトリウムやナトリウムメチラート等のアルカリ金属化合物、タリウム化合物等が用いられ、不均一触媒の場合には、官能基により変性したイオン交換樹脂、アルカリ金属、アルカリ土類金属の珪酸塩を含浸した無定型シリカ類、アンモニウム交換Y型ゼオライト、コバルトとニッケルとの混合酸化物等が用いられる。これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0059】
エステル交換反応触媒としては、反応生成物との分離操作を行う必要がない不均一触媒が好ましく、具体例としては、イオン交換樹脂等が用いられ、ゲル型の強塩基性アニオン交換樹脂が好ましく用いられる。
【0060】
エステル交換反応を行う反応器としては、バッチ型反応器又は固定床反応器のいずれでもよい。また、反応条件としては、用いる反応器や原料(原料カーボネート、原料アルコール)及び触媒によって適宜選択することができるが、例えば、反応温度としては40〜200℃、原料の混合比としては、原料カーボネートに対して原料アルコールがモル比で0.1〜20の範囲で、反応圧力は10〜2000kPaで0.5〜10時間反応させる条件等が挙げられる。
【0061】
このエステル交換反応は、平衡反応であるため、反応生成液には、目的生成物である目的カーボネート(ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート)、生成グリコール(エチレングリコールあるいはプロピレングリコール)の他に、原料カーボネートと原料アルコールが含まれている。更に主反応と同時に起こる副反応により、エチレンカーボネートとエタノールとの反応であればエチルグリコールエーテルが、プロピレンカーボネートとエタノールとの反応であればプロピレングリコールエチルエーテルが、エチレンカーボネートとメタノールとの反応であれば、メチルグリコールエーテルが、プロピレンカーボネートとメタノールとの反応であればプロピレングリコールメチルエーテルが副生し、それぞれ反応生成液中に含まれることとなる。
しかし、これらの副生グリコールエーテルは、前述の如く、目的カーボネートと沸点が近いことにより、蒸留分離が困難である。
【0062】
なお、反応生成液中には、主反応の中間体であるヒドロキシエチルメチルカーボネート、ヒドロキシエチルエチルカーボネート(以下、これらを「ヒドロキシカーボネート」と称す場合がある。)が存在するが、これらの中間体は、後段の蒸留分離工程での加熱により原料カーボネートと原料アルコールに分解され、未反応の原料として反応工程に循環されるので目的生成物への混入が問題となることはない。
【0063】
エステル交換反応器1の反応生成液は、軽沸蒸留塔2に送給して、原料アルコールと目的カーボネートを主成分とする低沸点留分と、原料カーボネートと生成グリコールを主成分とする高沸点留分に蒸留分離する(第2工程,第ii工程,第II工程)。
【0064】
この軽沸蒸留塔2における蒸留の際に、前述の反応中間体であるヒドロキシカーボネートは、原料カーボネートと原料アルコールに加熱分解される。
【0065】
前述の如く、エステル交換反応で得られる反応生成液には、目的生成物である目的カーボネートと蒸留分離が困難な副生グリコールエーテルが含まれている。本発明においては、この副生グリコールエーテルを、原料カーボネートとしてエチレンカーボネートを用いた場合にはエチレングリコールを、また原料カーボネートとしてプロピレンカーボネートを用いた場合にはプロピレングリコールをそれぞれ抽出溶媒とする抽出蒸留を行って、目的カーボネートを分離する。
【0066】
即ち、副生グリコールエーテルを抽出溶媒であるエチレングリコールあるいはプロピレングリコールと原料カーボネートと共に高沸点留分として、図1の軽沸蒸留塔2の塔底より抜き出すことにより、副生グリコールエーテルと目的カーボネートとを効率的に蒸留分離することができる。
【0067】
本発明において、このような抽出蒸留を行う蒸留塔は、特に制限はないが、図1における製造工程を経る場合には、この軽沸蒸留塔2において抽出蒸留を行うことが好ましい。
従って、軽沸蒸留塔2に、エステル交換反応器1からの反応生成液と共に抽出溶媒を供給し、この軽沸蒸留塔2で、原料アルコールと目的カーボネートを含む低沸点留分と、原料カーボネートと生成グリコールを含む高沸点留分とに蒸留分離する際に、副生グリコールエーテルを高沸点留分中に移行させて目的カーボネートと効果的に蒸留分離する。高沸点留分中に分離された副生グリコールエーテルは、原料カーボネート回収塔4において、生成グリコールを主成分とし、原料カーボネートを含む低沸点留分側に分離される。この低沸点留分中に分離された副生グリコールエーテルは、後段の加水分解反応器5を通過した後、脱水する際、水分と共に生成グリコールから分離除去される。
【0068】
本発明において、この抽出蒸留を行う蒸留塔(図1においては軽沸蒸留塔2)としては、充填塔、スルザーパッキング、メラパック、MCパック等の規則充填物、又はIMTP、ラシヒリング等の不規則充填物を充填した充填塔、泡鐘塔、シーブトレイ、バルブトレイ塔を用いた棚段塔等、いずれの型式でも用いることができる。
【0069】
抽出溶媒の供給量及び供給速度、抽出蒸留塔の供給箇所としては、エステル交換反応生成液の組成や供給量によって適宜選択されるが、例えば次のような条件を採用することが好ましい。
【0070】
<抽出溶媒としてエチレングリコールを用いた場合>
供給量:蒸留原料フィード量に対して0.1〜10重量倍
供給箇所:エチレングリコールの供給箇所は、抽出蒸留塔の原料供給箇所と同じか又はそれより高い位置であれば特に制限はないが、塔頂に供給すると留出液と混合するので好ましくないことから、塔高の上部が好ましい。
【0071】
<抽出溶媒としてプロピレングリコールを用いた場合>
供給量:蒸留原料フィード量に対して0.1〜10重量倍
供給箇所:プロピレングリコールの供給箇所は、抽出蒸留塔の原料供給箇所と同じか又はそれより高い位置であれば特に制限はないが、塔頂に供給すると留出液と混合するので好ましくないことから、塔高の上部が好ましい。
【0072】
抽出溶媒の供給量が上記範囲よりも少な過ぎると、抽出溶媒を用いることによる本発明の効果を十分に得ることができず、多過ぎると抽出溶媒の回収エネルギーが大きくなる。 また、抽出溶媒の供給箇所が、原料供給箇所より高いと抽出効果が増大し、塔頂であると留出液に抽出溶媒が混入しやすくなるので好ましくない。
【0073】
なお、この抽出蒸留の条件としては、原料の組成により適宜決定されるが、例えば圧力1〜100kPa、還流比0.01〜10程度で行うことが好ましい。また、上記抽出溶媒は、本発明の対称ジアルキルカーボネート及び非対称ジアルキルカーボネートないしはジエチルカーボネートの製造方法の製造プロセスの外で得られるものを用いても良いが、例えば、下述する原料カーボネート回収塔4の上部より側流として低沸点留分を抜き出して抽出溶媒として用いることができる。ここで、低沸点留分を抜き出す位置は、原料カーボネート回収塔4の供給液の供給箇所より上部で、抜き出される低沸点留分中の副生グリコールエーテル濃度が100重量ppm以下、好ましくは50重量ppm以下となるような位置である。
【0074】
軽沸蒸留塔2で蒸留分離された低沸点留分は、原料アルコールと目的カーボネートを含み、副生グリコールエーテルを実質的に含まないものであり、この低沸点留分は、次いで、アルコール分離塔3に送給して原料アルコールを主成分とする低沸点留分と、目的カーボネートを主成分とする高沸点留分とに蒸留分離する(第3工程,第iii工程,第III工程)。
【0075】
この目的カーボネートを主成分とする高沸点留分は、必要に応じて更に精製して製品とする。例えば、目的カーボネートとして、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート及びエチルメチルカーボネートを含む場合には、これらを順次蒸留することにより各目的カーボネートを高純度成分として回収することができる。
【0076】
一方、軽沸蒸留塔2で蒸留分離された高沸点留分は、原料カーボネート回収塔4に送給して、生成グリコールを主成分とし原料カーボネートと副生グリコールエーテルを含む共沸混合物である低沸点留分と、原料カーボネートを主成分とする高沸点留分とに蒸留分離する(第4工程,第iv工程,第IV工程)。
【0077】
この原料カーボネート回収塔4で蒸留分離された原料カーボネートを主成分とする高沸点留分と、アルコール回収塔3で蒸留分離された原料アルコールを主成分とする低沸点留分は、エステル交換反応器1に返送してそれぞれ原料カーボネート、原料アルコールとして再利用する(第5工程,第v工程,第V工程)。
【0078】
また、原料カーボネート回収塔4で蒸留分離された生成グリコールを主成分とし原料カーボネートと副生グリコールエーテルを含む低沸点留分は、加水分解反応器5に送給し、この低沸点留分中の原料カーボネートに対して水の添加により、触媒の存在下、原料カーボネートを加水分解して生成グリコール(エチレングリコールあるいはプロピレングリコール)とし、生成グリコールを主成分とする反応生成液を得る(第6工程,第vi工程,第VI工程)。この加水分解反応生成液は常法に従って蒸留等により脱水、精製して製品のエチレングリコールあるいはプロピレングリコールを取り出す。この際、副生グリコールエーテルはエチレングリコールあるいはプロピレングリコールよりも沸点が十分に低いものであるため、水側に効率的に分離除去される。なお、原料カーボネート回収塔の高沸点留分は、パージしても良いし一部をカーボネート回収の為に加水分解反応器へ供給してもよい。また、ここで得られる生成グリコールを抽出溶媒として用いることもできる。
【0079】
本発明では、このように反応生成液に対して、エチレングリコールあるいはプロピレングリコールを抽出溶媒とする抽出蒸留を行って、本来、目的カーボネートと共沸する副生グリコールエーテルを目的カーボネートから効率的に蒸留分離するが、ここで、抽出溶媒として用いられるエチレングリコールあるいはプロピレングリコールは、反応生成液中に、副生グリコールとして存在するものである。
この様な量で副生グリコールを含む反応生成液に対して、抽出溶媒として抽出蒸留塔にエチレングリコールあるいはプロピレングリコールを供給することにより、抽出溶媒とグリコールエーテルとの親和性を利用することにより、グリコールエーテルと目的カーボネートとの相対揮発度を大きくするという作用機構で良好な副生グリコールエーテルの分離効果を得ることができる。
【実施例】
【0080】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0081】
[原料カーボネートとしてエチレンカーボネートを用いるエステル交換反応]
<触媒調整>
エステル交換反応器として、内径17mm、長さ50cmのジャケット付き管型反応器を用い、内部に触媒として強塩基性イオン交換樹脂(SA−11A:三菱化学(株)製)を50mL充填した。この反応器にメタノール500mLを100mL/hrで流通させて樹脂を洗浄した。次に、純水250mLを100mL/hrで流通させて樹脂を水洗した後、2N−NaOH水溶液500mLを100mL/hrで流通させて樹脂をCL型からOH型に変換させた。その後、純水500mLを100mL/hrで流通させてNaOH水溶液を取り除いた。最後に樹脂中の水分が無くなるまでメタノールを100mL/hrで流通させた。
【0082】
<エステル交換反応>
上記触媒調整を行ったエステル交換反応器を外部よりジャケットで温度60℃に保持して、エチレンカーボネートとメタノールとエタノールの混合原料(組成比1/1/1(モル比))を導入し、圧力101.3kPa、滞留時間2時間(SV=0.5hr−1)で反応を実施し、下記の組成の反応生成液を得た。
(反応生成液組成)
ジメチルカーボネート :7.5重量%
エチルメチルカーボネート :8.5重量%
ジエチルカーボネート :2.1重量%
メチルグリコールエーテル :0.007重量%
エチルグリコールエーテル :0.002重量%
エチレングリコール :11.4重量%
ヒドロキシエチルメチルカーボネート:5.8重量%
ヒドロキシエチルエチルカーボネート:7.2重量%
エチレンカーボネート :27.9重量%
メタノール :9.7重量%
エタノール :19.9重量%
【0083】
<モデル液の設定>
上記エステル交換反応で得られた反応生成液中には反応中間体であるヒドロキシエチルメチルカーボネート、ヒドロキシエチルエチルカーボネートが存在するが、これらは蒸留塔で加熱されそれぞれエチレンカーボネートとメタノール、エチレンカーボネートとエタノールに分解される。従って、以下の実施例1〜3及び比較例1,2の蒸留実験では、この中間体の分解を考慮して、以下の組成のモデル液Aを蒸留原料として蒸留分離することとした。
【0084】
(モデル液Aの組成)
ジメチルカーボネート :7.5重量%
エチルメチルカーボネート :8.5重量%
ジエチルカーボネート :2.1重量%
メチルグリコールエーテル :0.01重量%
エチルグリコールエーテル :0.01重量%
エチレングリコール :11.4重量%
エチレンカーボネート :36.8重量%
メタノール :11.3重量%
エタノール :22.3重量%
【0085】
<実施例1>
1L容のフラスコの上部に、内径40mmのガラス製蒸留塔を設け、ステレンス製充填剤(コイルパック3mmφ)を600mmカラムに充填した(理論段約12段に相当)ものを取り付け、カラムの中段に上記モデル液Aをフィードした。
圧力13.4kPa、還流比1の条件で、蒸留原料のモデル液Aを、200mL/hrでフィードすると共に抽出溶媒のエチレングリコールを25mL/hrでカラムの最上部よりフィードした。塔頂の留出液と塔底のフラスコの缶出液を分析したところ、塔頂の留出液にはジアルキルカーボネートと未反応アルコールとともにメチルグリコールエーテル0.01重量%が含まれていたが、エチルグリコールエーテルは定量下限10ppm以下であった。
【0086】
<実施例2>
抽出剤のエチレングリコールのフィード量を50mL/hrとし、それ以外は実施例1と同条件にて抽出蒸留を行ったところ、塔頂の留出液中のメチルグリコールエーテル、エチルグリコールエーテルは、いずれも定量下限以下であった。
【0087】
<実施例3>
抽出剤のエチレングリコールのフィード量を100mL/hrとし、それ以外は実施例1と同条件にて抽出蒸留を行ったところ、塔頂の留出液中のメチルグリコールエーテル、エチルグリコールエーテルは、いずれも定量下限以下であった。
【0088】
<比較例1>
抽出溶媒を用いず、600mmカラムの代りに、ステレンス製充填剤(コイルパック3mmφ)を充填した800mmカラムを用い(理論段約16段に相当)、それ以外は実施例1と同条件にて蒸留を行ったところ、メチルグリコールエーテル、エチルグリコールエーテルのいずれも塔頂留出液に混入が見られた。
【0089】
<比較例2>
エチレングリコールを抽出溶媒として用いた場合、実験ではジエチルカーボネートが全て留出せず、少量塔底に混入していた。そこで比較例2では抽出溶媒を入れず、シミュレーションソフトにてジエチルカーボネートを少量缶出として抜出した場合を計算によって求めた結果、抽出溶媒が無い場合はメチルグリコールエーテル、エチルグリコールエーテルのいずれも塔頂留出液に混入することが推定された。
【0090】
上記実施例1〜3及び比較例1,2の運転条件と分析結果を表1,表2に示す。また、比較例2の計算結果を表3に示す。
【0091】
【表1】

【0092】
【表2】

【0093】
【表3】

【0094】
[原料カーボネートとしてプロピレンカーボネートを用いるエステル交換反応]
<モデル液の設定>
上記のエチレンカーボネートを用いたエステル交換反応において、エチレンカーボネートの代わりにプロピレンカーボネートを用いた場合のエステル交換反応をシミュレーションソフトによる計算により行った。プロピレンカーボネートを用いた場合は、エチレングリコールがプロピレングリコールに置き換わる。また、副生成物のメチルグリコールエーテル、エチルグリコールエーテルはそれぞれプロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテルに置き換わる。
従って、以下の実施例4及び比較例3では、以下の組成のモデル液Bを蒸留原料として蒸留分離することとした。
【0095】
(モデル液Bの組成)
ジメチルカーボネート :16.7重量%
エチルメチルカーボネート :8.4重量%
ジエチルカーボネート :1.4重量%
プロピレングリコールメチルエーテル:0.02重量%
プロピレングリコールエチルエーテル:0.002重量%
プロピレングリコール :10.9重量%
プロピレンカーボネート :34.2重量%
メタノール :16.3重量%
エタノール :12.2重量%
【0096】
<実施例4>
実施例1と同様にして設計した理論段数25段の蒸留塔の12段目に、上記モデル液Bを2918kg/hrの流量でフィードした。圧力80mmHg(10.7kPa)、還流比0.3の条件で、抽出溶媒のプロピレングリコールを300kg/hrで蒸留塔の4段にフィードする抽出蒸留を行ったところ、塔頂の留出液にはプロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテルは僅かに含まれるのみで大部分は塔底に除去された。
【0097】
<比較例3>
抽出溶媒を用いず、環流比を1.0とした以外は実施例4と同条件にて蒸留を行ったところ、塔頂留出液にプロピレングリコールエーテル類の混入が見られた。
【0098】
上記実施例4及び比較例3の運転条件を表4に、マスバランスを表5に示す。
【0099】
【表4】

【0100】
【表5】

【0101】
以上の結果から、本発明によれば、目的生成物であるジエチルカーボネート等のジアルキルカーボネートと共沸関係にある副生物であるグリコールエーテル類を、エチレングリコールあるいはプロピレングリコールを抽出溶媒とする抽出蒸留を行うことにより効率的に目的生成物から蒸留分離することができることが分かる。
【符号の説明】
【0102】
1 エステル交換反応器
2 軽沸蒸留塔
3 アルコール回収塔
4 原料カーボネート回収塔
5 加水分解反応器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキレンカーボネートと2種以上のアルコールとを同一の反応器内でエステル交換反応させることを特徴とする、対称ジアルキルカーボネート及び非対称ジアルキルカーボネートの製造方法。
【請求項2】
前記アルキレンカーボネートがエチレンカーボネートであり、前記2種以上のアルコールがエタノール及びメタノールであり、前記対称ジアルキルカーボネートがジエチルカーボネート及びジメチルカーボネートであり、前記非対称ジアルキルカーボネートがエチルメチルカーボネートであることを特徴とする、請求項1に記載の対称ジアルキルカーボネート及び非対称ジアルキルカーボネートの製造方法。
【請求項3】
前記エステル交換反応により生成するエーテル化合物をエステル交換反応液から除去しながらエステル交換反応を行うことを特徴とする、請求項1または2に記載の対称ジアルキルカーボネート及び非対称ジアルキルカーボネートの製造方法。
【請求項4】
前記エステル交換反応液に対して、前記エステル交換反応で生成するアルキレングリコールと同じアルキレングリコールを抽出溶媒とする抽出蒸留を行うことにより、前記エーテル化合物を除去することを特徴とする、請求項3に記載の対称ジアルキルカーボネート及び非対称ジアルキルカーボネートの製造方法。
【請求項5】
以下の第1工程〜第5工程を含み、前記抽出蒸留を第2工程で行うことを特徴とする、請求項4に記載の対称ジアルキルカーボネート及び非対称ジアルキルカーボネートの製造方法。
(1)アルキレンカーボネートと2種以上のアルコールとのエステル交換反応を行う第1工程
(2)第1工程の反応生成物を、アルコールと対称ジアルキルカーボネート及び非対称ジアルキルカーボネートとを主成分とする低沸点留分と、アルキレンカーボネートとアルキレングリコールとを主成分とする高沸点留分に蒸留分離する第2工程
(3)第2工程で蒸留分離された低沸点留分を、アルコールを主成分とする低沸点留分と、対称ジアルキルカーボネート及び非対称ジアルキルカーボネートを主成分とする高沸点留分とに蒸留分離する第3工程
(4)第2工程で蒸留分離された高沸点留分を、アルキレングリコールを主成分としアルキレンカーボネートを含む低沸点留分と、アルキレンカーボネートを主成分とする高沸点留分とに蒸留分離する第4工程
(5)第3工程で蒸留分離された低沸点留分と、第4工程で蒸留分離された高沸点留分とを第1工程にリサイクルする第5工程
【請求項6】
前記第4工程で蒸留分離された低沸点留分中のアルキレングリコールを抽出溶媒として用いることを特徴とする、請求項5に記載の対称ジアルキルカーボネート及び非対称ジアルキルカーボネートの製造方法。
【請求項7】
前記第4工程で蒸留分離された低沸点留分中のアルキレンカーボネートを加水分解してアルキレングリコールを得る第6工程を有することを特徴とする、請求項5または6に記載の対称ジアルキルカーボネート及び非対称ジアルキルカーボネートの製造方法。
【請求項8】
前記アルキレンカーボネートがエチレンカーボネートであり、前記2種以上のアルコールがエタノール及びメタノールであり、前記対称ジアルキルカーボネートがジエチルカーボネート及びジメチルカーボネートであり、前記非対称ジアルキルカーボネートがエチルメチルカーボネートであって、以下の第i工程〜第v工程を含み、前記抽出蒸留を第ii工程で行うことを特徴とする、請求項4に記載の対称ジアルキルカーボネート及び非対称ジアルキルカーボネートの製造方法。
(i)エチレンカーボネートと、エタノール及びメタノールの混合物とのエステル交換反応を行う第i工程
(ii)第i工程の反応生成物を、エタノール及びメタノールとジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート及びエチルメチルカーボネートを主成分とする低沸点留分と、エチレンカーボネートとエチレングリコールとを主成分とする高沸点留分に蒸留分離する第ii工程
(iii)第ii工程で蒸留分離された低沸点留分を、エタノール及びメタノールを主成分とする低沸点留分と、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート及びエチルメチルカーボネートを主成分とする高沸点留分とに蒸留分離する第iii工程
(iv)第ii工程で蒸留分離された高沸点留分を、エチレングリコールを主成分としエチレンカーボネートを含む低沸点留分と、エチレンカーボネートを主成分とする高沸点留分とに蒸留分離する第iv工程
(v)第iii工程で蒸留分離された低沸点留分と、第iv工程で蒸留分離された高沸点留分とを第i工程にリサイクルする第v工程
【請求項9】
前記第iv工程で蒸留分離された低沸点留分中のエチレングリコールを抽出溶媒として用いることを特徴とする、請求項8に記載の対称ジアルキルカーボネート及び非対称ジアルキルカーボネートの製造方法。
【請求項10】
前記第iv工程で蒸留分離された低沸点留分中のエチレンカーボネートを加水分解してエチレングリコールを得る第vi工程を有することを特徴とする、請求項8または9に記載の対称ジアルキルカーボネート及び非対称ジアルキルカーボネートの製造方法。
【請求項11】
エチレンカーボネートあるいはプロピレンカーボネートと、エタノールとをエステル交換反応させて、ジエチルカーボネートを製造する方法において、該エステル交換反応で得られた反応生成物に対して、エチレングリコールあるいはプロピレングリコールを抽出溶媒として抽出蒸留を行って、エーテル化合物を含む留分を蒸留分離する工程を有することを特徴とする、ジエチルカーボネートの製造方法。
【請求項12】
以下の第I工程〜第V工程を含み、前記抽出蒸留を第II工程で行うことを特徴とする、請求項11に記載のジエチルカーボネートの製造方法。
(I)エチレンカーボネートあるいはプロピレンカーボネートとエタノールとのエステル交換反応を行う第I工程
(II)第I工程の反応生成物をエタノールとジエチルカーボネートとを主成分とする低沸点留分と、エチレンカーボネートあるいはプロピレンカーボネートとエチレングリコールあるいはプロピレングリコールとを主成分とする高沸点留分に蒸留分離する第II工程
(III)第II工程で蒸留分離された低沸点留分を、エタノールを主成分とする低沸点留分と、ジエチルカーボネートを主成分とする高沸点留分とに蒸留分離する第III工程
(IV)第II工程で蒸留分離された高沸点留分を、エチレングリコールあるいはプロピレングリコールを主成分としエチレンカーボネートあるいはプロピレンカーボネートを含む低沸点留分と、エチレンカーボネートあるいはプロピレンカーボネートを主成分とする高沸点留分とに蒸留分離する第IV工程
(V)第III工程で蒸留分離された低沸点留分と、第IV工程で蒸留分離された高沸点留分とを第I工程にリサイクルする第V工程
【請求項13】
前記第IV工程で蒸留分離された低沸点留分中のエチレングリコールあるいはプロピレングリコールを抽出溶媒として用いることを特徴とする、請求項12に記載のジエチルカーボネートの製造方法。
【請求項14】
前記第IV工程で蒸留分離された低沸点留分中のエチレンカーボネートあるいはプロピレンカーボネートを加水分解してエチレングリコールあるいはプロピレングリコールを得る第VI工程を有することを特徴とする、請求項12または14に記載のジエチルカーボネートの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−168365(P2010−168365A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−290722(P2009−290722)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】