説明

封着加工用無鉛ガラス材とこれを用いた封着加工物及び封着加工方法

封着加工用ガラス材として、鉛を含まないガラス組成を有し、封着対象とし得る材質選択幅の拡がり、封着加工性、封着品質等の面で高性能なものを提供するで、V、ZnO、BaO、Pの4種の金属酸化物を必須成分として含むガラス組成を有してなる。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
本発明は、電子管、蛍光表示管、蛍光表示パネル、プラズマディスプレイパネル、半導体パッケージ等の各種電子部品・電気製品の開口部や接合部の封着に用いる封着加工用無鉛ガラス材と、これを用いた封着加工物及び封着加工方法に関する。
一般的に、内部を高真空にして用いる各種電気製品の封止、腐食性ガスや湿気の侵入を防止して作動安定性を保証するための電子部品パッケージの封止には、封着加工用ガラス材が使用される。この封着加工用ガラス材は低融点ガラスの粉末からなり、この粉末を有機バインダー溶液でペースト化して封着対象物品の被封着部に塗着し、電気炉等で焼成することにより、ビークル成分を揮散させてガラス粉末が融着したガラス連続層を形成させるものである。
従来、このような封着加工用ガラス材としては、主としてPbO−B系の鉛ガラスの粉末が広く使用されている。すなわち、鉛ガラスは、PbOの低融点性と高い溶融性により、低い加工温度で且つ広い温度範囲で封着加工を行える上、熱膨張が小さく、接着性、密着性、化学的安定性等にも優れるため、高い封止性、封止強度、耐久性が得られるという利点がある。
しかしながら、鉛は有毒物質であるため、鉛ガラスの製造過程での労働安全衛生面での問題がある上、鉛ガラスを封着に使用した電子部品や電気製品が寿命に至った際、そのまま廃棄すれば酸性雨等で鉛が溶出して土壌汚染や地下水汚染に繋がる懸念があり、近年の厳しい環境規制からも埋め立て等による廃棄はできず、一方、再生利用するにも鉛を含むために用途上の制約が大きく、その処置に困窮している現状である。
そこで、蛍光ランプにおいて、ガラスバルブを封着するステムマウント等にPbが10〜23%といった低鉛ガラスを使用したり(日本特開平8−180837号公報)、プラズマディスプレイパネルにおいて、前面板と背面板に周縁の鉛ガラス封着部よりも内側にエッチング液浸入防止用の溝を設け、寿命に至ったものをエッチング液に浸漬して封着材の鉛ガラスを選択的に除去し、劣化部分を補修して再利用する(日本特開2000−113820号公報)といった対策が提案されている。しかるに、前者のように低鉛ガラスを使用して鉛の量を減らせても、廃棄物に有毒な鉛が含まれることは変わらず、根本的な対策にはならない。また、後者のように鉛ガラス封着部をエッチングで除去する方法では、その除去処理のために手間とコストがかかり、再利用の旨味が薄れる上、製造段階でも上記溝の形成によってコスト的に不利になる。
このような背景から、従来汎用の鉛ガラス系に代替し得る無鉛系の封着加工用ガラス材の開発が強く要望されている。そこで、本発明者らは先に、封着加工用無鉛ガラス材として、B−ZnO−BaO系及びV−ZnO−BaO系のもの(日本特開2001−391252公報)と、V−ZnO−BaO−TeO系のもの(特願2003−041695公報)とを提案している。これらの封着加工用ガラス材は、無鉛系であって、しかも低い加工温度で且つ広い温度範囲で封着加工を行える上、低熱膨張率で、接着性、封止加工性、密着性、化学的安定性、強度等の面でも優れており、原料酸化物を特定の比率範囲に設定したガラス組成では鉛系ガラスに充分に代替し得る実用的性能を具備するものである。
本発明者らの先の提案に係る封着加工用無鉛ガラス材は既述のように優れた実用的性能を具備するものであるが、封着対象とし得る材質選択幅の拡がり、封着加工性、封着品質といった面でより高性能な封着加工材の開発が望まれることは言うまでもない。
【発明の開示】
本発明者らは、更に高性能な封着加工用無鉛ガラス材を得るべく、上記提案の先行技術をベースとして様々な角度から検討を加えつつ長期にわたって綿密な実験研究を重ねた。その結果、V−ZnO−BaO系のガラス組成に対し、更にPを加えた4成分系のガラス組成によれば、熱的安定性が更に向上すると共に熱膨張係数も小さくなり、これら4成分の配合比率を特定範囲に設定すれば、従来汎用の鉛系ガラスを遙かに凌駕する熱的安定性が得られ、非常に広い温度範囲での封着加工が可能となる上、熱膨張係数も鉛系ガラスの1/10以下になるため、被封着部に対応した熱膨張特性の設定幅が広がり、それだけ封着対象の材質幅が拡がると共に封着部の高い信頼性が得られ、また封着材としての製造能率や封着加工性も更に向上することを見出し、本発明をなすに至った。
すなわち、本発明の請求項1に係る封着加工用無鉛ガラス材は、V、ZnO、BaO、Pの4種の金属酸化物を必須成分として含むガラス組成を有してなるものである。
また、この請求項1の封着加工用無鉛ガラス材において、請求項2の発明は、20〜60重量%のVと、3〜20重量%のZnOと、10〜50重量%のBaOと、10〜60重量%のPとからなるガラス組成を、請求項3の発明は、35〜60重量%のVと、5〜10重量%のZnOと、15〜30重量%のBaOと、20〜50重量%のPとからなるガラス組成を、請求項4の発明は、40〜50重量%のVと、5〜10重量%のZnOと、20〜25重量%のBaOと、21〜35重量%のPとからなるガラス組成を、それぞれ有する構成としている。
更に、請求項5の発明に係る封着加工用無鉛ガラス材は、請求項1〜4のいずれかに記載のガラス組成を有するガラス粉末に100重量部に対して耐火物フィラーが5〜200重量部配合されてなる構成を採用している。
請求項6の発明に係る封着加工用無鉛ガラス材は、請求項1〜4のいずれかに記載のガラス組成を有するガラス粉末、もしくは請求項5に記載のガラス粉末と耐火物フィラーとの混合粉末に、有機バインダー溶液を加えたペーストからなるものとしている。一方、請求項7の発明に係る封着加工用無鉛ガラス材は、請求項1〜4のいずれかに記載のガラス組成を有するガラス粉末、もしくは請求項5に記載のガラス粉末と耐火物フィラーとの混合粉末の圧縮成形物からなるものとしている。
請求項8の発明に係る封着加工物は、請求項1〜7のいずれかに記載の封着加工用無鉛ガラス材により開口部又は/及び接合部が封着されたガラス、セラミック、金属のいずれかを主体とする構成を採用している。そして、請求項9の発明は、請求項8の封着加工物として、内部を高真空とする真空パッケージを特定している。
また、請求項10の発明に係る封着加工方法は、請求項6記載のペーストからなる封着加工用無鉛ガラス材を封着対象物品の被封着部に塗着し、この物品を前記ペーストに含まれる無鉛ガラスの軟化点付近で仮焼成したのち、当該無鉛ガラスの結晶化開始温度付近で本焼成を行うことを特徴としている。そして、この請求項10の封着加工方法において、請求項11の発明では、仮焼成を前記軟化点−10℃から軟化点+40℃の温度範囲で行うと共に、本焼成を前記結晶化開始温度−20℃から結晶化開始温度+50℃の温度範囲で行うものとしている。
しかして、請求項1の発明によれば、封着加工用ガラス材として、V−ZnO−BaO−Pの4成分系の鉛を含まないガラス組成を有し、低温で且つ広い温度範囲での封着加工を行えると共に、被封着部に対する良好な接着性及び密着性が得られ、封着部での剥離やクラックが発生しににく、また封着ガラス層の化学的安定性及び強度にも優れて封着部の耐久性が良好となり、しかもガラス自体が緑がかった黒色を呈するため、従来汎用の鉛ガラス系封着加工材で行われていた着色が不要になり、それだけ製造工程が簡略化されると共に製造コストを低減できるものが提供される。
請求項2の発明によれば、上記の封着加工用無鉛ガラス材において、各酸化物成分を特定の配合比率に設定することから、より低い温度での封着加工を行えると共に、封着加工性がより向上し、且つ熱膨張係数が低く、被封着部との熱膨張特性を適合させることが容易になる。
請求項3の発明によれば、上記の封着加工用無鉛ガラス材において、各酸化物成分を更に好適な配合比率に設定することから、熱安定性が増し、封着加工性がよりいっそう向上し、且つ熱膨張係数がより低くなり、被封着部が熱膨張性の小さい材質であっても特にフィラーを配合せずに熱膨張特性を適合させることが可能になる。
請求項4の発明によれば、上記の封着加工用無鉛ガラス材において、各酸化物成分を最適な配合比率に設定することから、熱的安定性に極めて優れ、従来汎用の鉛ガラス材を遥かに凌駕する封着加工性が得られる。
請求項5の発明によれば、上記の封着加工用無鉛ガラス材として、耐火物フィラーを含むことから、被封着部の材質に応じて熱膨張特性を容易に適合させることができると共に、封着ガラスが高強度になるものが提供される。
請求項6の発明によれば、上記の封着加工用無鉛ガラス材として、ペースト形態で封着対象物品の被封着部に容易に塗着できるものが提供される。
請求項7の発明によれば、上記の封着加工用無鉛ガラス材が固形の一体物からなり、所謂プリフォーム部品として取り扱い容易なものが提供される。
請求項8の発明によれば、封着加工物として、上記の封着加工用無鉛ガラス材にて封着されていることから、封着部の信頼性に優れるものが提供される。
請求項9の発明によれば、蛍光体表示パネル等の真空パッケージとして、封着部の信頼性に優れるものが提供される。
請求項10の発明に係る封着加工方法によれば、上記のペーストからなる封着加工用無鉛ガラス材を封着対象物品の被封着部に塗着し、この物品を該ペーストに含まれる無鉛ガラスの軟化点付近で仮焼成したのち、当該無鉛ガラスの結晶化開始温度付近で本焼成を行うことから、封着ガラス層中に気泡や脱気によるピンホールが生じるのを防止でき、もって封止の信頼性及び封止部の強度を高めることができる。
請求項11の発明によれば、上記の封着加工方法において、仮焼成及び本焼成を特定の温度範囲で行うことから、より良好な封着品質が得られるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明に係る封着加工用無鉛ガラス材は、基本的にはV−ZnO−BaO−Pの4成分系のガラス組成を有する無鉛ガラスであり、溶融によって流動性のよい良好な非晶質のガラス状態となり、低温で且つ広い温度範囲での封着加工を行えると共に、封着対象物品のガラス、セラミック、金属等よりなる被封着部に対する良好な接着性及び密着性が得られる上、熱膨張係数が小さく、被封着部との熱膨張特性を適合させることが容易であるため、広範な熱膨張特性を持つ被封着材を対象として封着部での剥離やクラックを確実に防止することが可能であり、また封着ガラス層の化学的安定性及び強度にも優れて封着部の耐久性が良好となる。
また、このV−ZnO−BaO−P系の封着加工用無鉛ガラス材では、そのガラス自体が緑がかった黒色を呈することから、従来汎用の鉛ガラス系封着加工材で行われていた着色が不要になり、それだけ製造工程が簡略化されると共に製造コストを低減できるという利点がある。すなわち、封着加工材に汎用される鉛系ガラスは無色透明であるため、一般的にカーボンブラック等の着色剤を配合して黒く着色することにより、目視や光学センサーによる封止状態の良否判定を容易にすると共に、封着製品の廃棄処理時に毒物の鉛を含む封着ガラス部分を取り除く際の識別性を付与している。これに対し、本発明の封着加工用無鉛ガラス材は、毒性がないので本来より封着製品の廃棄処理時に除去する必要性はないが、封止状態の良否判定もガラス自体の呈色で支障なく行える。
このようなV−ZnO−BaO−P系の封着加工用無鉛ガラス材では、特にPの含有比率が熱的特性とそれに基づく封着加工性に大きく影響する。しかして、好適な無鉛ガラス材として、Vが20〜60重量%、ZnOが3〜20重量%、BaOが10〜60重量%、Pが10〜60重量%のガラス組成を有するものが推奨される。このガラス組成では、ガラス転移点Tgが約300〜450℃程度と低いため、それだけ低い温度での封着加工を行え、被封着物品に対する熱影響を少なくできると共に、熱エネルギー消費を低減でき、また熱的安定性の指標となる結晶化開始温度Txとガラス転移点Tgの差ΔTが略80℃以上となり、封着加工性がよい上、熱膨張係数が100×10−7/℃未満と小さくなるため、被封着部との熱膨張特性を適合させることが容易である。
そして、より好適な無鉛ガラス材は、35〜60重量%のVと、5〜10重量%のZnOと、15〜30重量%のBaOと、20〜50重量%のPとからなるガラス組成であり、熱的安定性ΔT(=Tx−Tg)が略100℃以上となり、封着加工性がより向上すると共に、熱膨張係数も95×10−7/℃未満と小さくなり、被封着部が熱膨張性の小さい材質であっても特にフィラーを配合せずに熱膨張特性を適合させることが可能になる。
更に、最も好ましい無鉛ガラス材は、40〜50重量%のVと、5〜10重量%のZnOと、20〜25重量%のBaOと、21〜35重量%のPとからなるガラス組成を有するものであり、ガラス転移点Tgが400℃未満であるのに対し、結晶化開始温度Txが600℃以上となる。従って、このガラス組成では、熱的安定性ΔT(=Tx−Tg)が200℃以上と極めて高く、従来汎用の鉛ガラス材(ΔTが通常130℃程度)を遥かに凌駕する封着加工性が得られ、封着加工用無鉛ガラス材として理想的である。
本発明の封着加工用無鉛ガラス材は、上述のように熱膨張係数の小さいものであるが、被封着部がより熱膨張性の小さい材質である場合に対応するために、耐火物フィラーを配合することができる。この耐火物フィラーは、封着加工時の温度では溶融しない高融点材料の粉末であり、その配合によって封着ガラス部の熱膨張係数を低下させる機能を果たすが、これと共に封着ガラスの強度を向上させる作用も発揮する。しかして、このような耐火物フィラーをガラス材に配合した場合は一般的に溶融状態での流動性が低下するが、本発明の封着加工用無鉛ガラス材は本来的に溶融状態での流動性がよいため、耐火物フィラーの配合によって封着加工性が低下する懸念はない。
このような耐火物フィラーとしては、封着材のガラスよりも高融点のものであればよく、特に種類は制約されないが、例えばコジェライト、リン酸ジルコニル、β・ユークリプタート、β・スポジュメン、ジルコン、アルミナ、ムライト、シリカ、β−石英固溶体、ケイ酸亜鉛、チタン酸アルミニウム等の低膨張セラミックの粉末が好適である。このような耐火物フィラーの配合量は、前記ガラス組成を有するガラス粉末100重量部に対して5〜200重量部の範囲とするのがよく、少な過ぎては実質的な配合効果が得られず、逆に多過ぎてはガラス組成本来の特性が阻害されて封着加工用ガラス材としての性能が低下する。
本発明の封着加工用無鉛ガラス材を製造するには、原料の酸化物の粉末混合物を白金るつぼ等の容器に入れ、これを電気炉等の加熱炉内で所定時間焼成して溶融させてガラス化し、この溶融物をアルミナボート等の適当な型枠に流し込んで冷却し、得られたガラスブロックを粉砕機によって適当な粒度まで粉砕すればよい。しかして、耐火物フィラーは、上記のガラスブロックを粉砕する際に加えるか、粉砕後のガラス粉末に加えて混合すればよい。また、原料の酸化物については、予め全成分を混合した状態で溶融ガラス化する方法以外に、ガラス組成の偏りを防止するために、所謂マスターバッジ方式により、一部の成分を除いた状態で溶融ガラス化し、その粉砕物に残りの成分の粉末を混合し、この混合物を再度焼成して溶融ガラス化し、再粉砕する方法を採用してもよい。なお、ガラス粉末の粒度は0.05〜100μmの範囲が好適であり、上記粉砕による粗粒分は分級して除去すればよい。また、耐火物フィラーの粒度も0.05〜100μmの範囲が好適である。
本発明の封着加工用無鉛ガラス材は既述のガラス組成を有するガラス粉末もしくは該ガラス粉末に耐火物フィラーを配合した粉末混合物からなるが、封着加工材としての製品は、当該粉末形態の他、これら粉末を有機バインダー溶液に高濃度分散させた塗着用のペースト形態や、所謂封着加工用プリフォーム部品として、これら粉末を圧縮成形により一体化した所要形状の成形物形態等、種々設定できる。
上記ペースト形態とするのに用いる有機バインダー溶液としては、特に制約はないが、例えばニトロセルロースやエチルセルロースの如きセルロース類のバインダーをパインオイル、ブチルジグリコールアセテート、芳香族炭化水素系溶剤、シンナーの如き混合溶剤等の溶剤に溶解させたもの、アクリル系樹脂バインダーをケトン類、エステル類、低沸点芳香族等の溶剤に溶解させたものがある。しかして、ペーストの粘度は、被封着部へ塗着する作業性面より、100〜2000dPa・sの範囲とするのがよい。
また、成形物形態の封着加工用無鉛ガラス材は、ガラス粉末やこれに耐火物フィラーを配合した粉末混合物だけで圧縮成形することも可能であるが、成形性及び歩留りの面から、これら粉末に少量の有機バインダー溶液を混合した状態で圧縮成形するのがよい。しかして、圧縮成形物は、充分な機械的強度を付与するために、そのガラス組成での軟化点以上の温度で焼成し、ガラス粉末粒子同士を融着一体化することが推奨される。なお、このような成形物は、リング状、矩形枠状、帯状、偏平小片状等、被封着部の形態や位置に応じた形状とサイズに設定すればよい。
ペースト形態の封着加工用無鉛ガラス材による封着加工は、該ペーストを封着対象物品の被封着部に塗着し、この物品を電気炉等の加熱炉内で焼成することにより、ガラス粉末を溶融一体化して封着ガラス層を形成すればよい。しかして、この焼成は、一回で行うことも可能であるが、封着品質を高める上では仮焼成と本焼成の2段階で行うのがよい。すなわち、2段階焼成では、まず封着加工用無鉛ガラス材のペーストを封着対象物品の被封着部に塗着し、この塗着した物品を該ペーストに含まれる無鉛ガラスの軟化点付近で仮焼成することにより、ペーストのビークル成分(バインダーと溶媒)を揮散・熱分解させてガラス成分のみが残る状態とし、次いで当該無鉛ガラスの結晶化開始温度付近で本焼成を行ってガラス成分が完全に溶融一体化した封着ガラス層を形成する。
このような2段階焼成によれば、仮焼成の段階でビークル成分が揮散除去され、本焼成ではガラス成分同士が融着することになるから、封着ガラス層中に気泡や脱気によるピンホールが生じるのを防止でき、もって封止の信頼性及び封止部の強度を高めることができる。また、封着対象物品が真空パッケージのように複数の部材を封着にて接合したり封着部分に電極やリード線、排気管等を挟んで封着固定するものである場合は、組立前の部材単位で前記仮焼成を行ったのち、加熱炉から取り出した部材を製品形態に組み立て、この組立状態で本焼成を行うようにすればよい。
なお、仮焼成の特に好適な温度範囲は前記軟化点−10℃から軟化点+40℃、本焼成の特に好適な温度範囲はを前記結晶化開始温度−20℃から結晶化開始温度+50℃である。また、仮焼成では、内部に生じた気泡を層中から確実に離脱させるために緩やかな昇温速度とするのがよく、室温からガラス転移点付近までは0.1〜30℃/分程度、ガラス転移点付近から軟化点温度付近までは0.1〜10℃/分程度が好ましい。また、本焼成では、室温から結晶化開始温度付近まで0.1〜50℃/分程度で昇温させ、結晶化開始温度付近で一定に保持するのがよい。
一方、成形物形態の封着加工用無鉛ガラス材による封着加工は、当該成形物を被封着部間に挟み込んで封着対象物品を組み立て、この組立状態で電気炉等の加熱炉内で焼成することにより、当該成形物を溶融させて封着ガラス層を形成すればよい。
本発明の封着加工用無鉛ガラス材による封着加工の適用対象は、特に制約はなく、電子管、蛍光表示パネル、プラズマディスプレイパネル、半導体パッケージ等の各種電子部品及び電気製品の他、電子・電気以外の広汎な分野で用いるガラス、セラミック、金属のいずれかを主体とする様々な被封着物品を包含する。しかして、本発明の封着加工用無鉛ガラス材は、封止の信頼性及び封着強度に優れることから、特に蛍光表示パネルや電子管の如く製造過程あるいは製品形態で内部を10−6Torr以上の高真空とする真空パッケージのような高度な封止性を要する被封着物品への適用性に優れる。
発明の最良の具体的な実施形態
以下に、本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、以下において使用した原料酸化物はいずれも和光純薬社製の特級試薬であり、その他の分析試薬等についても同様に特級試薬を用いた。
【実施例1】
原料酸化物としてV粉末、ZnO粉末、BaO粉末、P粉末を後記表1記載の比率(重量%)で混合し、これら混合物を白金るつぼに収容して電気炉内で約1000℃にて60分間焼成したのち、その溶融物をアルミナポートに流し込んでガラス棒を作製し、大気中で冷却後に当該ガラス棒をスタンプミル(ANS143、日陶科学株式会社)にて粉砕し、分級して粒径100μm以下のものを採取し、封着加工用無鉛ガラス材G1〜G7を製造した。なお、無鉛ガラス材G1は、V−ZnO−BaOの3成分系において最も好結果が得られているガラス組成である。
上記実施例1で製造した無鉛ガラス材G1〜G7について、示差熱分析装置(津島製作所社製DT−40)により、標準サンプルにα−Alを用い、ガラス転移点Tg、軟化点Tf、結晶化開始温度Txを測定すると共に、熱機械分析装置(理学電気社製TMA8310)を用いて熱膨張係数を測定し、また粉末X線装置(理学電気社製ガイガーフレックス 2013型)を用い、走査速度2度/分で構造解析を行い、ガラス組織の構造を調べた。これらの結果を、前記の白金るつぼから溶融物をアルミナポートに流し込む際の流動性、作製したガラズ棒の色合い、ΔT(Tx−Tg)と共に表1に示す。
【表1】

表1で示すように、Vが20〜60重量%、ZnOが3〜20重量%、BaOが10〜60重量%、Pが10〜60重量%のガラス組成範囲にある無鉛ガラス材(G2〜G7)は、ガラス転移点Tgが約300〜450℃程度と低く、熱的安定性ΔTが略80℃以上であり、熱膨張係数は100×10−7/℃以下であってV−ZnO−BaOの3成分系の無鉛ガラス材(G1)よりも小さくなっている。更に、Vが35〜60重量%、ZnOが5〜10重量%、BaOが15〜30重量%、Pが20〜50重量%のガラス組成範囲にある無鉛ガラス材(G3〜G7)では、熱的安定性ΔTが略100℃以上で、熱膨張係数も95×10−7/℃未満になっている。特に、40〜50重量%のVと、5〜10重量%のZnOと、20〜25重量%のBaOと、21〜35重量%のPとからなるガラス組成を有する無鉛ガラス材(G4〜G6)では、がラス転移点Tgが400℃未満であるのに対し、結晶化開始温度Txが600℃以上と高く、これによって熱的安定性ΔTが200℃以上と極めて高くなっており、非常に優れた封着加工性が得られることが明らかである。
【実施例2】
実施例1で得られたNo.G5の無鉛ガラス粉末(平均粒子径8.3μm)と耐火物フィラー(いずれも平均粒子径8.4μm)とを後記表2に記載の比率で混合し、この混合粉末を約1000℃にて60分間焼成して粉砕することにより、耐火物フィラー入り無鉛ガラス材G8〜11を製造した。そして、これら無鉛ガラス材G8〜11の熱膨張係数を前記同様にして測定した。その結果を表2に示す。この表2に示すように、耐火物フィラーの配合比率を高めるほど熱膨張係数が小さくなるから、被封着部が無鉛ガラス単独よりも小さい熱膨張性の材質であっても、当該材質に封着ガラス部の熱膨張性を適合させることができる。
【表2】

【実施例3】
実施例1で得られたNo.G5の無鉛ガラス粉末にエチルセルロースのシンナー溶液を加え、十分に混練して封着加工用無鉛ガラス材ペーストを調製した。
【実施例4】
実施例1で得られたNo.G5の無鉛ガラス粉末20gと、アクリル樹脂を5%濃度でアセトンに溶解したビークル4gとを混練し、これを約1時間自然乾燥させてアセトンを揮散させたのち、乳鉢で擦り潰した上でタブレット用圧縮成形型に充填し、最大加圧力2トンの機械式粉末成形プレスで圧縮成形することにより、内径2.8mm、外径3.8mm、厚さ2mmのリング状に圧縮成形し、この圧縮成形物を電気炉内で最高温度400℃で焼成することにより、封着加工用プリフォーム部品としてのリング状無鉛ガラス材100個を作製した。
〔封着試験〕
蛍光表示パッケージ(縦100mm、横40mm、厚さ8mm)におけるソーダーライムガラス製のケース本体の周端縁に、実施例3で調整した無鉛ガラス材ペーストを塗布する一方、該パッケージのソーダーライムガラス製の蓋板の片面に、周辺を除いて蛍光体を塗着すると共に、その周辺における電極及び排気管の配置位置に上記ペーストを塗布した。そして、これら矩形ケース及び蓋板を電気炉内で約400℃にて仮焼成を行った。そして、電気炉から取り出したケース本体と蓋板とを、両者間に2本の金属電極線と1本の排気管を挟んだ状態でパッケージ形態に組み付ける際、排気管の挟み付け部分に前記実施例4で作製したリング状無鉛ガラス材を嵌装し、この組み付けたパッケージをクリップによって形態を保持させた状態で再び電気炉内に装填し、約600℃で本焼成を行い、ケース本体と蓋板とを金属電極線及び排気管と一体に封着し、蛍光表示パッケージを製作した。
〔点灯試験〕
上記の封着試験で製作した蛍光表示パッケージを用い、350℃の加熱下で真空ポンプによって排気管を通して内部を真空度10−6Torr以上に脱気処理したのち、その内部に放電ガスとしてアルゴンを放電ガス圧70Torrになるように導入して排気管をを封止した。この蛍光表示パッケージについて、インバータで入力電力約0.6W下で、封止直後、封止72時間後、同168時間後、同1344時間後にそれぞれ点灯確認を行ったところ、いずれの段階でも良好な点灯状態を示した。従って、本発明の封着加工用無鉛ガラス材により、真空パッケージの確実な封着を行えることが実証された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
、ZnO、BaO、Pの4種の金属酸化物を必須成分として含むガラス組成を有してなる封着加工用無鉛ガラス材。
【請求項2】
20〜60重量%のVと、3〜20重量%のZnOと、10〜50重量%のBaOと、10〜60重量%のPとを含むガラス組成を有する請求項1記載の封着加工用無鉛ガラス材。
【請求項3】
35〜60重量%のVと、5〜10重量%のZnOと、15〜30重量%のBaOと、20〜50重量%のPとを含むガラス組成を有する請求項1記載の封着加工用無鉛ガラス材。
【請求項4】
40〜50重量%のVと、5〜10重量%のZnOと、20〜25重量%のBaOと、21〜35重量%のPとを含むガラス組成を有する請求項1記載の封着加工用無鉛ガラス材。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のガラス組成を有するガラス粉末100重量部に対して耐火物フィラーが5〜200重量部配合されてなる封着加工用無鉛ガラス材。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載のガラス組成を有するガラス粉末、もしくは請求項5に記載のガラス粉末と耐火物フィラーとの混合粉末に、有機バインダー溶液を加えたペーストからなる封着加工用無鉛ガラス材。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかに記載のガラス組成を有するガラス粉末、もしくは請求項5に記載のガラス粉末と耐火物フィラーとの混合粉末の圧縮成形物からなる封着加工用無鉛ガラス材。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の封着加工用無鉛ガラス材により開口部又は/及び接合部が封着されたガラス、セラミック、金属のいずれかを主体とする封着加工物。
【請求項9】
内部を高真空とする真空パッケージである請求項8記載の封着加工物。
【請求項10】
請求項6記載のペーストからなる封着加工用無鉛ガラス材を封着対象物品の被封着部に塗着し、この物品を前記ペーストに含まれる無鉛ガラスの軟化点付近で仮焼成したのち、当該無鉛ガラスの結晶化開始温度付近で本焼成を行うことを特徴とする封着加工方法。
【請求項11】
仮焼成を前記軟化点−10℃から軟化点+40℃の温度範囲で行うと共に、本焼成を前記結晶化開始温度−20℃から結晶化開始温度+50℃の温度範囲で行う請求項10記載の封着加工方法。

【国際公開番号】WO2005/000755
【国際公開日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【発行日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−503221(P2005−503221)
【国際出願番号】PCT/JP2003/008174
【国際出願日】平成15年6月27日(2003.6.27)
【出願人】(000114927)ヤマト電子株式会社 (10)
【出願人】(501493510)
【出願人】(597084696)
【Fターム(参考)】