説明

封着用ガラス組成物

【課題】実質的にアルカリ金属を含まない高膨張性の結晶化ガラス形成用の、900℃以下で焼成することにより金属とセラミックスを封着することができる粉末組成物を提供することを。
【解決手段】実質的にアルカリ金属を含まず、酸化物換算で、
SiO2・・・10〜30質量%、B23・・・20〜30質量%、CaO・・・10〜40質量%、MgO・・・15〜40質量%、BaO+SrO+ZnO・・・0〜10質量%、La230〜5質量%、Al23・・・0〜5質量%、及びRO2・・・0〜3質量%(ここに、Rは、Zr、Ti、又はSnを表す。)を含有するガラス粉末より構成される粉末組成物であって、900±50℃の温度でこれを焼成することにより形成される結晶化ガラスの50〜550℃における熱膨張係数が90〜120×10-7/℃である、封着用結晶化ガラス形成用粉末組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属とセラミックス、金属と金属、セラミックスとセラミックスとの封着に用いられるガラス組成物に関し、より具体的には、固体酸化物型燃料電池(SOFC)のシール部、例えばSOFCのセルとこれを取り付ける燃料マニホールドとの間のシール部にシール材として用いられる封着用ガラス組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物型燃料電池(SOFC)用のシール材として、非晶質ガラス粉末と高膨張セラミックス粉末の混合粉が用いられていた(特許文献1参照)。しかしながら、SOFCは作動温度が700〜1000℃と非常に高く、非晶質ガラスの高温粘度が低下してシール材が変形し易くなり自らを支えることも困難となるため、このシール材では、荷重(自重を含む)をシール材自身が支えなくてもよいような、予め安定に支持された構造部位のみに適用が制限される、という問題があった。
【0003】
また、リチウムジシリケートを主として析出する結晶化ガラス、あるいは、SiO2−Al23−ZnO−K2O−Na2O系の非晶質ガラスが提案されている(それぞれ、特許文献2及び3参照)。しかし、これらのシール材は、原ガラスから析出した結晶相あるいは残存したガラス相にアルカリ金属が多量に含まれているため、絶縁性やシール性の耐久性に問題があり、SOFCが長期に渡って使用された場合、それが作動する高温多湿の条件の影響下で、絶縁やシールが破れ易くなることが予想される。
【0004】
【特許文献1】特開平8−134434号公報
【特許文献2】特開2003−238201号公報
【特許文献3】特開2004−123496号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の背景において、本発明は、実質的にアルカリ金属を含まない高膨張性の結晶化ガラス形成用の、900℃以下で焼成することにより金属とセラミックスを封着することができるガラス組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく研究を重ねた結果、SiO2−B23−CaO−MgO系のガラス組成物が、ある特定の成分範囲のときに、このガラス組成物からなるガラス粉末を900℃付近で焼成することにより金属やセラミックスに適合する熱膨張係数である90〜120×10-7/℃(50〜550℃)を有する結晶化ガラスを形成できることを見出し、この知見に基づき更に検討を重ねて本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、以下を提供するものである。
(1) 実質的にアルカリ金属を含まず、酸化物換算で、
SiO2 ・・・10〜30質量%、
23 ・・・20〜30質量%、
CaO ・・・10〜40質量%、
MgO ・・・15〜40質量%、
BaO+SrO+ZnO ・・・0〜10質量%、
La23 ・・・0〜5質量%、
Al23 ・・・0〜5質量%、及び
RO2 ・・・0〜3質量%(ここに、Rは、Zr、Ti、又はSnを表す。)
を含有するガラス組成物であって、900±50℃の温度でこのガラス組成物からなるガラス粉末を焼成することにより形成される結晶化ガラスの50〜550℃における熱膨張係数が90〜120×10-7/℃である、封着用ガラス組成物。
(2)質量比率で、CaO含有量/MgO含有量が0.4〜2.0である、上記1のガラス組成物。
(3)質量比率で、SiO2含有量/B23含有量が0.33〜1.33である上記1又は2のガラス組成物。
(4)SiO2とB23の含有量の合計が30〜50質量%であり、かつ、CaOとMgOの含有量の合計が44〜65質量%である、上記1ないし3の何れかのガラス組成物。
(5)平均粒径が5〜250μmである、上記1ないし4の何れかのガラス組成物からなるガラス粉末。
(6)上記1ないし4の何れかのガラス組成物からなるガラス粉末100質量部と、ジルコニア粉末0.01〜20質量部とを含んでなる、ガラス・セラミックス粉末。
(7)上記1ないし4の何れかのガラス組成物からなるガラス粉末とマグネシア、フォルステライト、ステアタイト、ワラストナイト及びその前駆体からなる群より選ばれる1種又は2種以上のセラミックス粉末とを含んでなるガラス・セラミックス粉末であって、該ガラス粉末100質量部に対しマグネシア、フォルステライト、ステアタイト、ワラストナイト及びその前駆体からなる群より選ばれる1種又は2種以上のセラミックス粉末0.01〜5質量部を含有するものである、ガラス・セラミックス粉末。
(8)該ガラス粉末の平均粒径が5〜250μmである、上記6又は7のガラス・セラミックス粉末。
【発明の効果】
【0008】
上記各構成になる本発明によれば、焼成すると結晶化して高い熱膨張係数の結晶化ガラスを与えるガラス組成物の粉末を、アルカリ金属を実質的に含まない形で提供することができる。従って、高温で使用される金属とセラミックス、金属と金属、セラミックスとセラミックスとを封着する必要のある部位(例えば、固体酸化物型燃料電池や排気ガスセンサーのシール部)に、封着材として使用することができる。固体酸化物型燃料電池等で700〜1000℃という高温且つ多湿な条件に長期間曝されても絶縁性が損なわれるおそれがなく、また、そのような高温での粘性低下のおそれもないため、固体酸化物型燃料電池等のシール部に封着材として用いれば、シール部の絶縁性やシール性の耐久性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の封着用ガラス組成物は、例えば、そのガラス粉末をペーストの形にして、燃料マニホールドとセルとから構成されるSOFCのシールすべき部位に充填し焼成することにより、燃料マニホールド及びセルを構成するセラミックス及び金属の表面と結合して結晶化ガラスとなり、それらを封着する。焼成は900℃以下(例えば900℃)で行えばよい。
【0010】
本発明の封着用ガラス組成物からなるガラス粉末は、原料である金属酸化物を調合、混合し溶融(例えば、1400〜1500℃で)した後冷却して得られるガラス原体(結晶化していない)を粉砕して製造すればよい。
【0011】
本発明において、「実質的にアルカリ金属を含有せず」とは、アルカリ金属を主成分とする原料を一切使用しないことをいい、ガラスを構成する各成分の原料および無機フィラーの不純物に由来する微量のアルカリ金属が混入したものの使用を排除するものではない。本発明の封着用ガラス組成物のアルカリ金属含量は、好ましくは100ppm以下、より好ましくは30ppm以下、特に好ましくは10ppm以下である。
【0012】
また環境保護上の観点から、本発明の封着用ガラス組成物は無鉛(鉛が1000 ppm未満)であることが好ましいから、鉛を含有する材料を添加することは避けるべきである。
【0013】
本発明の封着用ガラス組成物において、SiO2は、ガラスの網目を形成する成分であり、ガラス粉末の製造のためのガラス原体の製造時にガラスの安定性を向上させて結晶化を防ぐために、及び、粉末化後の焼成においてCaO−MgO−SiO2系(ディオプサイド等)、MgO−SiO2系(フォルテライト等)の高膨張結晶を生成させる上で、必須の成分である。主としてCaO−MgO−SiO2系(ディオプサイド等)の結晶を析出するガラス組成は、焼成温度による結晶相の変態が少なく、結晶化後のバルク体の強度が安定化する傾向がある。
一方、ガラス原体中に結晶が析出していると、これを粉砕して得たガラス粉末は、封着焼成時において結晶化開始が早まり、そのため焼成開始から早期に組成物の流れ性が低下して流動が阻害され、焼成後の封着対象物との間に隙間ができるという問題を生じ易くなり好ましくない。SiO2の含有量は、10質量%未満では、ガラス原体の製造時における安定性が低下するため、好ましくない。またSiO2の含有量が30質量%を超えるのも好ましくない。これは、30質量%を超えると、焼成して得られる結晶化ガラスの熱膨張曲線の直線性が低下し、変曲点が現れるが、変曲点に対応する温度領域において、シール部位の封着対象物と結晶化ガラスとの境界面に強い剪断応力と歪みを生じ、ひびや剥離の原因ともなるためである。従ってSiO2の含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは12質量%以上、更に好ましくは14質量%以上であり、且つ、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、更に好ましくは20質量%以下、特に好ましくは18質量%以下である。従ってSiO2の含有量は、例えば、10〜30質量%、12〜25質量%、又は14〜20質量%等とすることができる。
【0014】
23は、ガラスの網目を形成する成分であり、ガラス原体の製造時におけるガラスの安定性を向上させて結晶化を防ぐため、及び、粉末化後の焼成においてMgO・B23、CaO・B23系の高膨張結晶を生成させるのに必須の成分である。B23の含有量は、20質量%未満では、ガラス原体の製造時における安定性が低下して結晶が析出し易くなるため好ましくない。ガラス原体の製造時に結晶が析出していると好ましくないことは、SiO2含量との関係で上に述べたとおりである。また、B23の含有量が30質量%を超えると、熱膨張曲線の直線性が低下する(変曲点が現れる)ため、好ましくない。従ってB23の含有量は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは22質量%以上、更に好ましくは24質量%以上であり、且つ、好ましくは30質量%以下、より好ましくは28質量%以下、更に好ましくは26質量%以下である。従ってB23の含有量は、例えば、20〜30質量%、22〜30質量%、又は24〜28質量%等とすることができる。
【0015】
SiO2含有量/B23含有量の質量比率が0.33未満では、ガラス原体の製造時における安定性が低下するため好ましくない。また、SiO2含有量/B23含有量の質量比率が、1.33以上では、封着焼成後の結晶化度が高まらず、結晶相に対するガラス相の残存割合が大きくなるため、熱膨張曲線に変曲点(ガラス転移点)が現れるようになり、シール部位に歪が生じるため好ましくない。従ってSiO2含有量/B23含有量の質量比率は、好ましくは0.33以上、より好ましくは0.45以上、更に好ましくは0.5以上であり、且つ、好ましくは1.33以下、より好ましくは1.3以下、更に好ましくは1.25以下である。なお、この比率を変化させることで、熱膨張係数を微調整することができる(すなわち、この比率を高めると熱膨張係数が小さくなる)ことから、SOFCのセルに使用されるセラミックスと金属の熱膨張係数が異なる場合、この比率を変化させた材料を数種類積層することでマッチングを取ることが可能となる。
【0016】
CaOは、CaO−B23系、CaO−MgO−B23系、CaO−MgO−SiO2系の高膨張結晶の生成に必須の成分である。CaOの含有量が10質量%未満であるか或いは40質量%を超えると、ガラス原体の製造時における安定性が低下し、粉末焼成時の組成物の流れ性が低下して流動が阻害されるため好ましくない。従ってCaOの含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、更に好ましくは20質量%以上であり、且つ、好ましくは40質量%以下、より好ましくは36質量%以下、更に好ましくは31質量%以下である。
【0017】
MgOは、MgO−SiO2系、MgO−B23系、CaO−MgO−B23系、CaO−MgO−SiO2系の高膨張性結晶の生成に必須の成分である。MgOの含有量が15質量%未満では、封着焼成後の結晶化度が高まらず、結晶相に対するガラス相の残存割合が大きくなるため、耐熱性が低下し、好ましくない。また、MgOの含有量が40質量%を超えると、ガラス原体の製造時における安定性が低下し、粉末焼成時の組成物の流れ性が低下し流動が阻害されるため好ましくない。従ってMgOの含有量は、好ましくは15質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは22質量%以上であり、且つ、好ましくは40質量%以下、より好ましくは35質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である。
【0018】
CaO含有量/MgO含有量の質量比率が0.4未満、あるいは2.0を超えると、ガラス原体の製造時における安定性が低下し、粉末焼成時の組成物の流れ性が低下し流動が阻害されるため好ましくない。またCaO含有量/MgO含有量の質量比率が小さいガラス組成ほど、焼成温度による結晶層の変態が少なく、結晶化後のバルク体の強度が安定化する傾向がある。これらの兼ね合いから、従ってCaO含有量/MgO含有量の質量比率は、好ましくは0.4以上、より好ましくは0.45以上、更に好ましくは0.66以上、特に好ましくは1.1以上であり、且つ、好ましくは2以下、より好ましくは1.6以下、更に好ましくは1.4以下である。従って、CaO含有量/MgO含有量の質量比率は、例えば、0.45〜1.4、0.66〜1.25等、1.1〜1.25等とすることができる。なお、この比率を変化させることで、封着焼成時の組成物の流れ性と結晶化度の微調整をすることが可能となる(すなわち、この比率を高めると熱膨張係数が小さくなる)。
【0019】
SiO2含有量とB23含有量の合計が30質量%未満では、ガラス原体の製造時における安定性が低下するため、好ましくなく、また、50質量%を超えると熱膨張係数が低下するため、好ましくない。従ってSiO2含有量とB23含有量の合計は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは33質量%以上、更に好ましくは35質量%以上、特に好ましくは40質量%以上であり、且つ、好ましくは50質量%以下、より好ましくは48質量%以下、更に好ましくは45質量%以下、特に好ましくは43質量%以下である。従って、SiO2含有量とB23含有量の合計は、例えば、35〜50質量%、40〜48質量%等とすることができる。
【0020】
CaO含有量とMgO含有量の合計が44質量%未満では、封着焼成後の結晶化度が高まらず、結晶相に対するガラス相の残存割合が高くなるため、好ましくない。CaO含有量とMgO含有量の合計が65質量%を超えると、ガラス原体の製造時における安定性が低下するため、好ましくない。従ってCaO含有量とMgO含有量の合計は、好ましくは44質量%、より好ましくは48質量%、更に好ましくは50質量%であり、且つ、好ましくは65質量%以下、より好ましくは63質量%以下、更に好ましくは61質量%以下である。
【0021】
BaO、SrO、ZnOは、結晶化度の調整及び金属との接着力を保つために役立つ成分である。BaO、SrO、ZnOの合計含有量が10質量%を超えると封着焼成後の結晶化度が高まらず、結晶相に対するガラス相の残存割合が高くなるため耐熱性が低下し、また金属表面との反応による腐食も進行するため、好ましくない。従ってBaO、SrO、ZnOの合計含有量は、10質量%以下であることが好ましく、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは1質量%以下である。
【0022】
La23は、結晶化度の調整及び金属との接着力を保つために役立つ成分である。La23の含有量が5質量%を超えると、ガラス原体の製造時においてガラスが不安定となるため、好ましくない。従ってLa23の含有量は、5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.1〜3質量%である。
【0023】
Al23は、ガラス原体の製造時における安定性を向上させ、結晶化開始温度の調整および金属との接着力を保つために役立つ成分である。Al23の含有量が5質量%を超えると熱膨張係数が低下するため、好ましくない。従ってAl23の含有量は5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.5〜3質量%である。
【0024】
RO2(ここに、RはZr又はTi又はSnを表す。)は、結晶化度を向上させるために役立つ成分である。RO2の含有量が3質量%を超えると、ガラス原体の製造時においてガラスが不安定となるため、好ましくない。従ってRO2の含有量は、3質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.1〜1質量%である。
【0025】
上記成分に加えて、ガラス製造時の安定性の向上、金属との反応抑制、金属とガラスシール材の接着性の改善、析出する結晶の種類や比率を調整する目的で、CaO、MgO、BaO、SrO、ZnOの一部を、Fe23、CuO、CoO、NiO、Ln23(ランタノイド)、Bi23で、合計3質量%以下で加えることができる。
【0026】
本発明のガラス組成物からなるガラス粉末は、焼成時に一旦収縮し、軟化流動しながら金属、セラミックスの表面を濡らすことが必要なため、焼成時の流動性が高いものである必要がある。このためには、乾式粉砕の条件により粒径を調整し、平均粒径を5〜250μm、最大粒径を500μm以下とすることが好ましい。
【0027】
ここで、粒子径が余り小さい微粉では結晶化開始が早くなり、封着焼成時における組成物の流れ性が低下して流動が阻害されるため、封止材の塗布・焼成回数を増加させる必要が生じて製造コストの増加につながり、好ましくない。一方、粒子径が余り大きい粗粉は、粉末をペースト化する際、あるいは塗布、乾燥の際に、粉末粒子が沈降し分離するという問題がある。上述の微粉、粗粉を分級等の操作により取り除くことによって粒径を調整することができる。平均粒径は、好ましくは5μm以上、より好ましくは15μm以上であり、且つ、好ましくは50μm以下、より好ましくは30μm以下である。また最大粒径は、好ましくは150μm以下、より好ましくは100μm以下である。従って、例えば、平均粒径5〜50μm、最大粒径150μm以下、又は、平均粒径5〜30μm、最大粒径100μm等とすることができる。
【0028】
本発明の封着用ガラス組成物はガラス粉末の形で、或いはこれをセラミックス粉末と混合した形で、セラミックスと金属の封着に使用することができる。封着においては、印刷により又はディスペンサーによって対象物に塗布した後、900℃以下で焼成することが可能である。一般に、安価に入手できるステンレス鋼(例えば、SUS430)の耐熱温度は約900℃であることから、焼成温度が900℃以下であることは意義がある。
【0029】
また、熱膨張の微調整及びガラスの結晶化を促進させ強度を向上させる目的で、該ガラス粉末にジルコニア粉末、好ましくは部分安定化ジルコニア粉末を、封着焼成時の組成物の流れ性を低下させない程度の量添加することができる。ジルコニア粉末又は部分安定化ジルコニアの添加量は、ガラス粉末の量に対し0.01質量%未満では効果がなく、20質量%を超えると封着焼成時に組成物の流れ性を低下させて流動を阻害するため、好ましくない。従って部分安定化ジルコニアの添加量は、ガラス粉末の量に対し0.01〜20質量%とするのが好ましく、0.01〜5質量%とすることがより好ましく、0.01〜1質量%以下とすることが更に好ましい。
【0030】
また、ジルコニア粉末と同様の目的で、ガラス粉末にマグネシア、フォルステライト、ステアタイト、ワラストナイト及びその前駆体(すなわち焼成するとワラストナイトを生成するもの)の粉末を封着焼成時の組成物の流れ性を低下させない程度の量添加することができる。それらの添加量は、ガラス粉末の量に対し合計で0.01質量%未満では効果がなく、5質量%を超えると封着焼成時の組成物の流れ性を低下させるため、好ましくない。従ってマグネシア、フォルステライト、ステアタイト、ワラストナイト及びその前駆体の添加量は、ガラス粉末の量に対し合計で0.01〜5質量%とするのが好ましく、より好ましくは0.01〜1質量%以下、更に好ましくは0.01〜0.5質量%である。
【実施例】
【0031】
以下、典型的な実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明がこれらの実施例により限定されることは意図しない。
【0032】
〔ガラス原体及びガラス粉末の製造〕
実施例1〜13及び比較例1〜7:
表1、2及び4に示すガラス組成となるように原料を調合、混合し、調合原料を白金るつぼに入れて1400〜1500℃で2時間溶融後、ガラス原体であるガラスフレークを得た。ポットミルにこのガラスフレークを入れ、平均粒径が30〜40μmになるまで乾式粉砕を行い、その後、目開きが106μmの篩にて粗粒を除去し、実施例及び比較例のガラス粉末とした。
【0033】
実施例14〜17:
表3に示すガラス組成となるように原料を調合、混合し、調合原料を白金るつぼに入れて1400〜1500℃で2時間溶融後、ガラス原体であるガラスフレークを得た。ポットミルにこのガラスフレークを入れ、平均粒径が5〜25μmになるまで乾式粉砕を行い、その後、目開きが106μmの篩にて粗粒を除去し、実施例のガラス粉末とした。
〔試験方法〕
実施例及び比較例のガラス粉末について、下記の方法によりガラス粉末の平均粒径を測定し、焼成して、焼成によるフロー径(流動後の径)、焼結体の熱膨張係数、軟化点を測定し評価した。
(1)ガラス粉末の平均粒径
レーザー散乱式粒度分布計を用いて、体積分布モードのD50の値を求めた。
【0034】
(2)フロー径
粉砕して得られたガラス粉末5gをφ20mmに乾式プレス成形し、SUS430基板上で900℃で焼成した。得られた焼結体の最大の外径を求めた。なお、フロー径が20mm以上のものを◎(特に良好)、19mm以上20mm未満のものを○(適合)、19mm未満のものを×(不適合)とした。
【0035】
(3)熱膨張係数
上記(2)で得られた焼結体を約5×5×15mmに切り出し、試験体を作製した。試験体につき、TMA測定装置を用いて、室温から10℃/分で昇温したときに得られる熱膨張曲線から、50℃と550℃の2点に基づく熱膨張係数(α1)、及び50と700℃の2点に基づく熱膨張係数(α2)を、それぞれ求めた。
また、熱膨張曲線の変曲点が600℃付近に現れるため、上記α2とα1の差(△α=α2−α1)を算出した。
なお、熱膨張係数が90×10-7/℃に未満のものは、金属、セルとのマッチング性に問題があるため、測定値の横に×(不適合)を併記した。
【0036】
(4)軟化点
上記(3)で得られた熱膨張曲線において、膨張から収縮に転じる(曲線が極大値をとる)温度を求め、軟化点とした。
SOFCのセルと金属を封止する焼成工程において、焼成が繰り返し行われる場合があり、シールガラス部が900℃以下で軟化することは構造材料として好ましくない。
なお、軟化点が900℃以上のものは○(適合)を、900℃未満のものは、測定値の横に×(不適合)を併記した。
【0037】
(5)腐食性
上記(2)で得られた焼結体の縁に近接した部位のSUS表面の外観を観察した。
なお、焼結体の縁に近接した部位のSUS表面とそれ以外の領域のSUS表面との差が実質的にないものを○(適合)、焼結体の縁に接するSUS表面が茶色に変色したものを×(不適合)とした。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
・ワラストナイト前駆体は、ゾノハイジ(宇部マテリアル製)を使用した。
・ジルコニア粉末は、325メッシュアンダーの部分安定化電融ジルコニア(8%Y23含有)を使用した。
・マグネシア粉末は、200メッシュアンダーの電融マグネシアを使用した。
【0041】
【表3】

【0042】
【表4】

【0043】
表1〜4、に結果を示す。これらの表に見られるとおり、比較例のガラス組成物が封着用ガラスに求められる性能の何れかを欠いていたのに対し、実施例1〜17のガラス組成物は、焼成時のフロー径、焼結体(結晶ガラス)の熱膨張係数、軟化点のいずれの点においても、封着用ガラスに求められる性能を全て備えていた。また、例として挙げた図1〜図4に示すように、実施例(3及び10)の焼結体の熱膨張曲線(それぞれ、図1及び2)と比較例(2及び3)の焼結体の熱膨張曲線(それぞれ、図3及び4)において、比較例の焼結体の熱膨張曲線には変曲点が見られ、変曲点を挟んで温度変化に伴う熱膨張率の急激な変動があるのに対し、実施例の焼結体の熱膨張曲線には変曲点が見られず、温度変化に伴う熱膨張率の急激な変動はない。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明のガラス組成物は、金属とセラミックに接触させて900℃以下で焼成することにより金属とセラミックス、金属と金属、セラミックスとセラミックスを封着するための、アルカリ金属を含まない、固体酸化物型燃料電池(SOFC)のシール部に好適な封着材として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】実施例3の焼結体の熱膨張曲線
【図2】実施例10の焼結体の熱膨張曲線
【図3】比較例2の焼結体の熱膨張曲線
【図4】比較例3の焼結体の熱膨張曲線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的にアルカリ金属を含まず、酸化物換算で、
SiO2 ・・・10〜30質量%、
23 ・・・20〜30質量%、
CaO ・・・10〜40質量%、
MgO ・・・15〜40質量%、
BaO+SrO+ZnO ・・・0〜10質量%、
La23 ・・・0〜5質量%、
Al23 ・・・0〜5質量%、及び
RO2 ・・・0〜3質量%(ここに、Rは、Zr、Ti、又はSnを表す。)
を含有するガラス組成物であって、900±50℃の温度でこのガラス組成物からなるガラス粉末を焼成することにより形成される結晶化ガラスの50〜550℃における熱膨張係数が90〜120×10-7/℃である、封着用ガラス組成物。
【請求項2】
質量比率で、CaO含有量/MgO含有量が0.4〜2.0である、請求項1のガラス組成物。
【請求項3】
質量比率で、SiO2含有量/B23含有量が0.33〜1.33である請求項1又は2のガラス組成物。
【請求項4】
SiO2とB23の含有量の合計が30〜50質量%であり、かつ、CaOとMgOの含有量の合計が44〜65質量%である、請求項1ないし3の何れかのガラス組成物。
【請求項5】
平均粒径が5〜250μmである、請求項1ないし4の何れかのガラス組成物からなるガラス粉末。
【請求項6】
請求項1ないし4の何れかのガラス組成物からなるガラス粉末100質量部と、ジルコニア粉末0.01〜20質量部とを含んでなる、ガラス・セラミックス粉末。
【請求項7】
請求項1ないし4の何れかのガラス組成物からなるガラス粉末とマグネシア、フォルステライト、ステアタイト、ワラストナイト及びその前駆体からなる群より選ばれる1種又は2種以上のセラミックス粉末とを含んでなるガラス・セラミックス粉末であって、該ガラス粉末100質量部に対しマグネシア、フォルステライト、ステアタイト、ワラストナイト及びその前駆体からなる群より選ばれる1種又は2種以上のセラミックス粉末0.01〜5質量部を含有するものである、ガラス・セラミックス粉末。
【請求項8】
該ガラス粉末の平均粒径が5〜250μmである、請求項6又は7のガラス・セラミックス粉末。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2007−161569(P2007−161569A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−305992(P2006−305992)
【出願日】平成18年11月10日(2006.11.10)
【出願人】(000178826)日本山村硝子株式会社 (140)
【Fターム(参考)】