説明

射出スクリュ

【課題】 紙繊維が主成分の成形材料用の射出スクリュとして、圧縮比やスクリュ長さなどの仕様を、流動や混練に水分を要する成形材料に適応した仕様にし、材料計量の安定化と成形工程のハイサイクル化を図る。
【解決手段】 スクリュの有効長さLの後端から先端までを順に供給部f、圧縮部c、計量部mに区画し、その各部にわたりスクリュフライトを連続形成した紙繊維を主成分とする成形材料の射出成形に用いる射出スクリュである。スクリュ有効長さLと外径Dの比L/Dを10〜16、外径Dに対する圧縮部の長さLc/Dを3〜4.5、圧縮比1.1〜1.5、供給部fの溝深さhf/Dを0.1〜0.15に設定する。計量部mの長さLm/Dを2〜3.5、 供給部の長さLf/Dを5〜8に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、紙繊維を主成分とする成形材料の射出成形に用いる射出スクリュに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、石油高によるプラスチック材料の度重なる価格上昇、及び環境負荷低減技術対応への関心の高まりから紙繊維を主成分とした生分解性を有する成形材料が開発されている。この成形材料は紙繊維と澱粉系結合剤を成分としているので燃えるごみとして廃棄でき、また土中で分解するなどのことから、その材料により製造された成形品の使用は環境負荷の低減ともなるとされている。そこで本発明者らは、紙繊維を主成分とした成形材料について、樹脂の射出成形技術を採用して成形品の成形が行える材料調整方法の発明を先になした。
【特許文献1】特開2007−268750号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記材料調整方法により粒状化された成形材料は、攪拌による造粒工程後のペレット化工程によって、造粒工程のみによる場合よりも粒径や混練度及び水分率が均一なことから、成形に使用される射出スクリュが樹脂を対象とした圧縮比の大きい仕様のものであっても、それなりの目的は達成されるが、造粒工程のみによる成形材料あるいは粒径や混練度及び水分率が不均一な粒子を含む成形材料では課題を有する。
【0004】
紙繊維が主成分の成形材料では、澱粉系結合剤により結合された紙繊維の解繊と澱粉系結合の溶解に多量の水分を要し、その水分により流動性や混練の容易性を確保している。均質な粒子による成形材料では解繊した紙繊維の分布も均一となるが、不均質な粒子を含む成形材料では、解繊後の紙繊維の分布が不均一となって密度にむらが生ずる傾向にあり、それが成形の困難さの原因と推察される。
【0005】
この発明は、上記課題を解決するために考えられたものであって、その目的は、射出スクリュの圧縮比やスクリュ長さなどの仕様を、流動や混練に水分を要する成形材料に適応した仕様とすることにより、紙繊維が主成分の成形材料の解繊・混練に際す昇温を抑制して、さらなる計量の安定化と、成形工程のハイサイクル化を図ることができる新たな射出スクリュを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的によるこの発明は、スクリュの有効長さLの後端から先端までを順に供給部f、圧縮部c、計量部mに区画し、その各部にわたりスクリュフライトを連続形成した、紙繊維を主成分とする成形材料の射出成形に用いる射出スクリュであって、 上記スクリュ有効長さLと外径Dの比L/Dを10〜16、外径Dに対する圧縮部の長さLc/Dを3〜4.5、圧縮比1.1〜1.5、供給部fの溝深さhf/Dを0.1〜0.15に設定してなるというものであり、上記計量部の長さLm/Dを2〜3.5に設定し、供給部の長さLfを上記スクリュ有効長さLの残部長さとしてなる、というものである。
【発明の効果】
【0007】
上記構成では、スクリュのスクリュ径Dに対する圧縮部の長さLc/Dを3〜4.5、圧縮比1.1〜1.5、供給部fの溝深さhf/Dを0.1〜0.15に設定し、主成分が紙繊維の成形材料を低圧縮により適度な剪断応力を付加しながら混練を行うので安定した可塑化・計量が可能となる。
【0008】
また射出成形において成形サイクルを短縮することは製造コスト低減のための重要な要件であり、スクリュ回転速度と剪断発熱は比例関係にあるが、スクリュにより高速度に計量しても過乗な剪断は抑えられるため、従来よりも成形サイクルの短縮が可能となる。
【0009】
またスクリュ有効長さL/Dを10〜16とすることにより、紙繊維を主成分とした成形材料に対し熱容量の最適化と必要充分な混練ができる。同時に加熱筒の熱容量の低減化、部材量の低減、装置の小型化などより環境に配慮した成形機の提供が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図中1は加熱筒で、先端にノズル部材1aが取り付けてあり、後部上には材料供給口1bが穿設してある。また外周囲に複数のバンドヒータによる加熱手段1cが取り付けてある。
【0011】
2は加熱筒内の射出スクリュで、加熱筒後端からノズル部材内まで進退かつ回転自在に挿入してある。この射出スクリュ2の軸部2aの先端から上記材料供給口1bの後部に臨む部位までの軸周囲には、その部位をスクリュ後端としてスクリュフライト2bが連続形成してあり、そのスクリュフライト2bの回転により成形材料の可塑化と混練が行えるようにしてある。
【0012】
射出スクリュ2では、図2に示すようにスクリュ後端から軸先端までの長さをスクリュ有効長さLとして、スクリュ後端側から順に供給部f、圧縮部c、計量部mに区画し、その各部にわたり上記スクリュフライト2bが連続形成してある。供給部fでは材料の取り入れと前方移送及び外部加熱と剪断作用とによる材料溶融を、圧縮部cでは背圧の発生と、外部加熱と剪断作用とによる更なる材料溶融及び混練を、計量部mでは溶融材料の完全混練による均一化とスクリュ先端からの流量調整を行う仕様の設定がなされている。
【0013】
そこで、スクリュ仕様について研究を重ねた結果、低圧縮・短スクリュの仕様が、不均質な粒子を含む紙繊維材料においても極めて有効であることを見い出したのである。
紙繊維材料用としては、上記スクリュの有効長さLと外径Dの比L/Dを10〜16、計量部mの長さLm/Dを2〜3.5、圧縮部cの長さLc/Dを3〜4.5、供給部fの長さLf/Dを5〜8.5、圧縮比(供給部溝深さhf/計量部溝深さhm)1.1〜1.5、さらに好ましくは1.25〜1.35に、供給部の溝深さhf/Dを0.1〜0.15に設定することがよく、この仕様の範囲内であれば紙繊維材料の状態に左右されずに安定計量が行え、またスクリュ回転の高速化によるハイサイクルでの成形が可能となる。
【0014】
以下に、射出スクリュ2の各部の仕様が上記設定値内の下記実施例1,2と、上記設定値外の比較例との対比による結果について説明する。
【0015】
各スクリュにおいてスクリュ回転数を120rpm、180rpmに変化させて材料温度を計測した結果、図3に示すように、圧縮比2.33と大きい比較例が最も高く、圧縮比1.35の実施例1、圧縮比1.25の実施例2になるに従って材料温度が低下している。このような温度低下は圧縮比が小さいほど、圧縮部Lcでの材料・金属壁面間と紙繊維間の摩擦発熱が抑制されることに起因し、これにより紙繊維材料については低圧縮での混練が有効であり、また低圧縮であればスクリュ回転の高速化によりハイサイクル化も可能となることを示唆している。
【0016】
またスクリュ回転数については、比較例ではいずれの回転数でも温度はほぼ等しく、実施例1、2では回転数が低いほど温度も低いという現象が生じている。これは比較例ではリサーバ内材料の水分が、背圧負荷による高圧化で飽和状態に近づき、スクリュ回転数によって温度が変化しなくなったものと考えられる。それに対して、圧縮比が最も小さい実施例2では、比較例に比べて温度が20℃以上も低下している。これはスクリュ回転数による差が顕著に現れたものと推察され、圧縮比が大きい状態での回転数の増加は加熱筒内での発熱を促進させ、水分の急激な蒸発に伴う発泡現象と、それによる外観不良や計量不安定を引き起こすため、効果的ではないことを示唆するものと思われる。
【0017】
実施例1,2での連続ショットにおける温度変化を図4に示す。ここでの温度は圧縮部に設置されている熱電対の温度で、加熱筒温度設定は90℃としている。図4から実施例1ではショット数の増加に伴って温度が上昇する傾向が認められるが、実施例2ではほぼ一定値を示している。
【0018】
また圧縮比が大きい比較例では、計量が断続的に行われる計量不安定が認められたが、圧縮比を小さくした実施例1では計量不安定が解消され、さらに圧縮比がスクリュ有効長さが短い実施例2による計量でも、計量過程では加熱筒内圧がほぼ一定に推移し、計量不安定が発生することなく計量できることが確認された。
【0019】
以上の比較例との対比から結果から、紙繊維材料用の射出スクリュとしては、圧縮比を小さく設定するとともに、スクリュ有効長さを短かく設定して、紙繊維間の摩擦による発熱と、スクリュでの摩擦による発熱を抑制することが有効であり、またスクリュ短縮による弊害の発生もないことなどから、よりハイサイクルでの連続成形が、小型化された成形機により可能となることが明らかとなった。
【0020】
[実施例1]

【0021】
[実施例2]

【0022】
[比較例]

【0023】
[成形条件]
・成形材料(主原料:紙繊維;60wt%、澱粉;30wt%、ポリビニールアルコール;10wt%)に水分を加えて35wt%の水分率となるように調合して使用。
・射出成形機:NEX220−50EPI(日精樹脂工業株式会社製)を使用。
・スクリュ回転数:120rpm、180rpm、 背圧:2.4MPa、
・材料温度計:熱電対式温とセンサー、 設置位置:ノズル口、
加熱筒設定温度:90℃
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】インラインスクリュ式射出装置の説明図である。
【図2】この発明に係わる射出スクリュの仕様を示す説明図である。
【図3】この発明による実施例と比較例のスクリュ回転速度による温度の相関関係を示す図である。
【図4】この発明による実施例と比較例の連続ショットにおける温度変化を示す図である。
【符号の説明】
【0025】
1 加熱筒
1b 材料供給口
2 射出スクリュ
2b スクリュフライト
L スクリュ有効長さ
D スクリュの外径
f 供給部
c 圧縮部
m 計量部
Lf 供給部の長さ
Lc 圧縮部の長さ
Lm 計量部の長さ
hf 供給部の溝深さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクリュの有効長さLの後端から先端までを順に供給部f、圧縮部c、計量部mに区画し、その各部にわたりスクリュフライトを連続形成した、紙繊維を主成分とする成形材料の射出成形に用いる射出スクリュであって、
上記スクリュ有効長さLとスクリュの外径Dの比L/Dを10〜16、外径Dに対する圧縮部の長さLc/Dを3〜4.5、圧縮比1.1〜1.5、供給部fの溝深さhf/Dを0.1〜0.15に設定してなることを特徴とする射出スクリュ。
【請求項2】
上記計量部の長さLm/Dを2〜3.5に設定し、供給部の長さLfを上記スクリュ有効長さLの残部長さとしてなることを特徴とする請求項1記載の射出スクリュ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−279875(P2009−279875A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−135787(P2008−135787)
【出願日】平成20年5月23日(2008.5.23)
【出願人】(000227054)日精樹脂工業株式会社 (293)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(000207757)大宝工業株式会社 (14)
【Fターム(参考)】