説明

射出制御システムおよび射出制御方法

【課題】成形品の着磁の良否判定を可能とするとともに、射出待機時間を容易に設定可能な射出制御システムおよび射出制御方法を提供する。
【解決手段】所望の着磁が行える電流値である目標電流値ITを設定する。目標電流値ITに達するまでに許容される最長時間である上限設定時間tHを設定する。設定された下限設定時間tLを経過した後の時間となるように射出待機時間tWを設定する。設定された上限設定時間tHと、実時間tRとを比較し、実時間tRが上限設定時間tHよりも短い場合は着磁良好と判定し、実時間tRが上限設定時間tHよりも長い場合は着磁不良と判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型のキャビティ内に充填された溶融樹脂材料を励磁コイルによって着磁して、磁化された成形品を得る射出制御システムおよび射出制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金型に形成されたキャビティ内に磁性体粉末を含有する溶融樹脂材料を射出成形により充填した後、励磁コイルによって磁界を印加してキャビティ内の溶融樹脂材料を磁化して磁石成形品を得る方法が知られている。
【0003】
所望の磁気特性を有する磁石成形品を得るためには励磁コイルによって所望の磁界を発生させる必要があるが、このためには、励磁コイルに供給される電流の制御が重要となる。そこで、従来、励磁コイルに供給される電流を監視する制御方法が種々開示されている。電流値の監視方法としては、例えば、電流ピーク値を監視し、この電流ピーク値が設定した範囲内から外れた場合、異常として判定する方法がある。
【0004】
また、励磁コイルへの電流の供給が開始され、電流が供給され始めた時点での電流値の立ち上がりを監視する方法も用いられている。図7に、当該方法において監視した電流値の立ち上がりについてのグラフを示す。図7に示すグラフは横軸が時間であり、縦軸が励磁コイルに供給される電流値である。図中aは、監視装置に予め設定されている判定時間であり、変更されることのない固定値である。図中cは、励磁電流が供給されてから射出装置が射出を開始するまで待機している時間である。立上判定電流値は、0.1Aに設定されている。目標電流値は、所望の着磁を行うことが可能な電流値である。
【0005】
励磁コイルには電源から励磁電流が供給されるが、この励磁電流は、0Aから目標電流値にまで立ち上がるまである程度の時間を要する。そこで、この電流の立上途中における時間、すわなち、励磁電流が0Aから0.1Aに達するまでに要する時間を測定し、この測定時間が所定の時間a内に収まっているかどうかで、異常か否かを判断する。
【0006】
励磁電流が図中[1]のラインで立ち上がる場合は、判定時間a内に励磁電流の電流値が0.1Aに達しているため、正常と判定される。一方、励磁電流が図中[2]のラインで立ち上がる場合は、判定時間a内に立上判定値である0.1Aに達していないため、異常と判定される。つまり、この方式は、[1]のラインで立ち上がった場合、射出待機時間における電流値は目標電流値に達すると見込まれることから正常と判定する一方、[2]のラインで立ち上がった場合、射出待機時間における電流値は目標電流値に達しないと見込まれることから異常と判定するものである。
【0007】
この他、励磁コイルの焼損を防止するため、励磁コイルの温度を測定し、この測定温度が設定温度の範囲を超えたときは警報信号や、機械動作停止信号等の信号を出力するように制御する制御方法が開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−286860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述した従来の技術では、励磁コイルに供給される電流が適正値となっているか否かの判断は可能であるが、磁石成形品の着磁良否の判定は困難であった。
【0010】
励磁コイルに電流を供給する装置としては定電流装置が一般に用いられるが、このような場合における電流ピーク値の異常の検出が成形品の着磁の良否判定に直結しているとは言い難い。
【0011】
また、電流が供給され始めた時点での電流値の立ち上がりを監視する方法は、装置の不具合を検出するためのものであって、成形品の着磁の良否判定には不適と考えられる。例えば、図7において、励磁電流が[3]のラインのように立ち上がった場合、励磁電流は、判定時間a内に0.1Aに達するものの、射出待機時間における電流値は目標電流値に達しないこととなる。この方法は、電流が供給され始めた初期段階で正常か否かを判断するため、本来、異常と判定されるべき状況を正常と判定してしまう可能性が高い。このように、この方法は、判定時間a内に0.1Aに達しない場合は、装置自体に異常があるために明らかに異常な立ち上がりとなっていないかどうかを判断するものである。よって、この方法によって立ち上がりのわずかな差異に基づいて成形品の着磁の良否判定まで行うのは極めて困難といえる。
【0012】
また、特許文献1に開示された方法は、コイルの焼損を防止するための方法であって、成形品の着磁の良否判別への適用はなされていない。
【0013】
また、従来、射出待機時間を最適な値に設定することは煩雑な作業であった。
【0014】
射出待機時間は、電流供給開始時から射出装置による射出が開始されるまでの時間であるが、この射出待機時間を短くしすぎると、励磁電流の電流値は未だ目標電流値に達していないにも拘わらず、射出が開始されることとなり、所望の励磁電流が励磁コイルに供給されず、成形品の着磁が不十分となってしまう。そこで、励磁電流の電流値が確実に目標電流値に達してから射出を開始すべく射出待機時間を十分に長くとると、今度はムダ時間を生じてしまう場合がある。つまり、射出待機時間を長くしすぎると励磁電流の電流値はすでに目標電流値に達しているにも拘わらず、射出待機時間が経過していないために、射出を開始せず待機するムダ時間が発生してしまうこととなる。そこで、ムダ時間を短くすべく、射出待機時間をある程度短めに再設定することとなる。しかし、ムダ時間を極力短くしようとすると何度も射出待機時間を再設定する必要があり、また、仮に極めて短いムダ時間となる射出待機時間が設定できたとしても、成形サイクル中に射出待機時間において目標電流値に達することなく射出がなされる場合が出てくる。このため、ムダ時間を短くしつつ、目標電流値に達することなく射出がなされるのを防止できる程度のマージンを確保するような射出待機時間の設定が必要となる。このため、射出待機時間の設定にはかなりの試行錯誤が必要となり、煩雑な作業となっていた。
【0015】
そこで本発明は、成形品の着磁の良否判定を可能とするとともに、射出待機時間を容易に設定可能な射出制御システムおよび射出制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するため本発明の射出制御システムは、磁界を印加する励磁コイルを備え、金型を型締めする型締装置と、金型のキャビティ内へ磁性体粉末を含有する溶融樹脂材料を射出する射出装置と、キャビティ内に充填された溶融樹脂材料を着磁するために励磁コイルへ電流を供給する電源と、を有する射出制御システムにおける射出制御方法において、所望の着磁が行える電流値である目標電流値を設定するステップと、励磁コイルに電流が供給される電流供給開始時から電流値が目標電流値に達する時までの時間より短くなるように下限設定時間を設定するステップと、設定された下限設定時間を経過した後の時間となるように、目標電流値に達するまでに許容される最長時間である上限設定時間を設定するステップと、電流供給開始時から射出装置による射出が開始されるまでの時間である射出待機時間を、設定された下限設定時間を経過した後の時間となるように設定するステップと、電源から供給された電流の電流値が目標電流値に達するまでの実時間を測定するステップと、設定された上限設定時間と、実時間とを比較し、実時間が上限設定時間よりも短い場合は着磁良好と判定し、実時間が上限設定時間よりも長い場合は着磁不良と判定するステップとを含むことを特徴とする。
【0017】
本発明は、目標電流値に達するまでに許容される最長時間である上限設定時間と、実際に目標電流値に達するまでに要した時間である実時間とを比較する。そして、比較の結果、実時間が上限設定時間よりも短い場合には、射出待機時間には目標電流値に達し、所望の着磁が行える、として着磁良好と判定する。一方、実時間が上限設定時間よりも長い場合には、射出待機時間において目標電流値に達せず、所望の着磁が行えない、として着磁不良と判定する。
【0018】
また、本発明は、射出待機時間の設定をランダムに行うのでなく、設定された下限設定時間に基づいて、すなわち下限設定時間を経過した後の時間となるように設定する。下限設定時間は、電流値が目標電流値に達していない時点に設定されるため、射出待機時間が目標電流値に達していない時点に設定されてしまうのを防止する目安時間となる。その結果、射出待機時間の設定に要する作業時間を短縮化することができる。
【0019】
また、本発明の射出制御方法は、上限設定時間として射出待機時間を経過する前の時間を設定するものであってもよい。
【0020】
また、本発明の射出制御方法は、上限設定時間として射出待機時間を経過した後の時間を設定するものであってもよい。
【0021】
本発明の射出制御システムは、磁界を印加する励磁コイルを備え、金型を型締めする型締装置と、金型のキャビティ内へ磁性体粉末を含有する溶融樹脂材料を射出する射出装置と、キャビティ内に充填された溶融樹脂材料を着磁するために励磁コイルへ電流を供給する電源と、成型品の良否を判別するための監視装置と、を有する射出制御システムにおいて、
監視装置は、
所望の着磁が行える電流値である目標電流値、励磁コイルに電流が供給される電流供給開始時と電流値が目標電流値に達する時までの時間より短い時間である下限設定時間、下限設定時間を経過した後の時間であって目標電流値に達するまでに許容される最長時間である上限設定時間、および電流供給開始時から射出装置による射出が開始されるまでの時間となるように、設定された下限設定時間を経過した後の時間である射出待機時間が設定されている入力設定部と、
電源から供給された電流の電流値が目標電流値に達するまでの実時間を測定する測定部と、
入力設定部で設定された上限設定時間と、測定部で測定された実時間とを比較し、実時間が上限設定時間よりも短い場合は着磁良好と判定し、実時間が上限設定時間よりも長い場合は着磁不良と判定する比較判定部と、を有することを特徴とする。
【0022】
また、本発明の射出制御システムは、上限設定時間として射出待機時間を経過する前の時間が設定されているものであってもよい。
【0023】
また、本発明の射出制御システムは、上限設定時間として射出待機時間を経過した後の時間が設定されているものであってもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、成形品の着磁の良否判定が可能となるとともに、射出待機時間を容易に設定可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施形態に係る射出成形システムの構成図である。
【図2】本発明の射出成形システムにおける監視装置の構成を示すブロック図である。
【図3】励磁コイルへの励磁電流の供給開始から射出待機時間までの間における励磁電流の変化および各設定値の関係を示すグラフである。
【図4】電流値を設定する設定画面を示す図である。
【図5】時間を設定する設定画面を示す図である。
【図6】入力設定部に設定される電流値および時間の設定手順を説明するためのフローチャートである。
【図7】励磁電流が供給され始めた時点での電流値の立ち上がりを監視する方法における、電流値の立ち上がりを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
次に、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0027】
図1は本実施形態の射出成形システムの構成図である。また、図2は、監視装置の構成を示すブロック図である。図3は、励磁コイルへの励磁電流の供給開始から射出待機時間までの間における励磁電流の変化および各設定値の関係を示すグラフである。
【0028】
本実施形態の射出成形システムは、型締装置1と、射出装置2と、電源3と、監視装置4と、を有する。
【0029】
型締装置1は、ベッド10、型締ハウジング11、固定盤5、可動盤6、タイバー12、トグル機構14および励磁コイル7を有する。ベッド10には、型締ハウジング11および固定盤5が固定されている。可動盤6は4本のタイバー12によって固定盤5に連結されており、タイバー12の軸方向に往復移動自在に設けられている。また、固定盤5および可動盤6には、それぞれキャビティ8aが形成された金型8が取り付けられている。トグル機構14は、可動盤6を往復移動させるためのものであり、流体圧シリンダ13等により駆動される。励磁コイル7は固定盤5および可動盤6の側面に配設されている。
【0030】
射出装置2は、ノズル21と、加熱シリンダ22と、スクリュ駆動装置23とを有する。
【0031】
加熱シリンダ22の内部には、螺旋状の溝を有するスクリュ(不図示)が回転かつ移動可能に挿入され、外周には加熱ヒータ(不図示)が装着されている。また、加熱シリンダ22の先端にはノズル21が取り付けられており、加熱シリンダ22の後部には磁性体粉末を含有する溶融樹脂材料を加熱シリンダ22内に供給するためのホッパー(不図示)が装着されている。
【0032】
スクリュ駆動装置23は、加熱シリンダ22内のスクリュを回転駆動するとともに軸方向へ移動させるための、射出サーボモータ(不図示)およびボールネジ(不図示)等を有する。
【0033】
電源3は、各励磁コイル7に電気的に接続されており、各励磁コイル7に励磁電流を供給する。
【0034】
監視装置4は、入力設定部4aと、測定部4bと、比較判定部4cとを有する。
【0035】
入力設定部4aには、成形品の良否を判別するために用いられる各種数値が設定入力される。すわなち、入力設定部4aには、設定電流値としては目標電流値ITが設定入力され、設定時間としては下限設定時間tL、上限設定時間tHおよび射出待機時間tWが設定入力される。これら各値は入力設定部4aに記憶保持される。図4および図5に入力設定部4aの設定画面の一例を示す。図4に示す設定画面において、目標電流値ITの設定がなされる。また、図5の画面において、下限設定時間tL、上限設定時間tHおよび射出待機時間tWが設定入力されるとともに、ロギングデータが表示される。
【0036】
目標電流値ITは、励磁コイル7がキャビティ8a内の溶融樹脂材料に対して所望の着磁を行うために必要な電流値である。
【0037】
下限設定時間tLは、励磁電流が目標電流値ITに達するまでに許容される最短時間であり、射出待機時間tWの最適値を求めるために用いられる。下限設定時間tLは、電流供給開始時から電流値が目標電流値ITに達する時までの時間より短くなるように設定される。上限設定時間tHは、励磁電流が目標電流値ITに達するまでに許容される最長時間であり、成形品の良否判別の基準として用いられる。上限設定時間tHは、下限設定時間tLを経過した後の時間、すわなち、下限設定時間tLよりも長い時間が設定される。射出待機時間tWは、電流供給開始時から射出装置による射出が開始されるまでの時間である。射出装置2からの溶融樹脂材料の射出は、この射出待機時間tWが経過した後になされる。
【0038】
測定部4bでは、電源3から供給された励磁電流の電流値が目標電流値ITに達するまでの実時間tRが測定される。
【0039】
比較判定部4cでは、入力設定部4aで入力設定された上限設定時間tHと、測定部4bで測定された実時間tRとの比較がなされる。また、比較判定部4cでは、比較の結果、実時間tRが上限設定時間tHよりも長い場合、着磁不良と判定する。
【0040】
次に、本実施形態の射出成形システムにおける、目標電流値IT、下限設定時間tL、射出待機時間tW、および上限設定時間tHの設定方法について、図6に示すフローチャートを用いて説明する。
【0041】
まず、成形品の仕様に基づき、目標電流値ITを設定する(ステップS1)。
【0042】
次に、電源3から励磁コイル7へと励磁電流を供給させ、このときの電流値を波形モニタにより観測する(ステップS2)。そして、この観測結果から、励磁電流の電流値が目標電流値ITに達する直前の時間に下限設定時間tLを設定する(ステップS3)。次に、設定された下限設定時間tLを経過した後の時間に射出待機時間tWを設定する(ステップS4)。例えば、下限設定時間tLを0.1秒と設定した場合、射出待機時間tWはこの0.1秒を経過した、すわなち、0.1秒よりも長い0.15秒とする。
【0043】
射出待機時間tWが、短かすぎると、励磁電流の電流値は未だ目標電流値ITに達していないにも拘わらず射出が開始されることとなり、所望の励磁電流が励磁コイル7に供給されず、成形品の着磁が不十分となってしまう。一方、励磁電流の電流値が確実に目標電流値ITに達してから射出を開始すべく射出待機時間tWを十分に長くとると、すでに目標電流値ITに達しているにも拘わらず、射出待機時間tWが経過していないために、射出を開始せず待機するムダ時間が発生してしまうこととなる。そこで、ムダ時間を短くしつつ、目標電流値ITに達することなく射出がなされるのを防止できる程度のマージンを確保するような射出待機時間tWの設定が必要となる。しかし、このような射出待機時間tWの設定は、何も基準値がないところからトライアンドエラーで設定することとなるため、かなり煩雑な作業となっていた。
【0044】
これに対して本実施形態の場合、下限設定時間tLを基準に射出待機時間tWの設定がなされる。つまり、射出待機時間tWを、励磁電流の電流値が目標電流値ITに達する直前の時間に設定された下限設定時間tLよりも長い時間とすることで、射出待機時間tWにおいて励磁電流の電流値が目標電流値ITを下回るのを防止できる。また、下限設定時間tLを基準に射出待機時間tWを設定することができるため、ムダ時間を短くした射出待機時間tWの設定に要する作業時間を短縮することができる。
【0045】
次に、上限設定時間tHを、設定された下限設定時間tLを経過した後の時間に設定する(ステップS5)。上述した例の場合、下限設定時間tLは0.1秒に設定されているので、上限設定時間tHは、0.1秒よりも長い時間に設定される。なお、上限設定時間tHは、射出待機時間tWよりも長い時間であってもよいし、あるいは短い時間であってもよい。上述した例のように射出待機時間tWが0.15秒に設定された場合、上限設定時間tHは、例えば、0.15秒よりも長い0.18秒に設定されるものであってもよいし、あるいは0.13秒に設定されるものであってもよい。なお、上限設定時間tHを射出待機時間tWよりも長い時間に設定する場合、実時間tRが上限設定時間tH内に収まるのであれば、実時間tRが射出待機時間tWを超えても正常な着磁が行えることを確認しておく。同様に、上限設定時間tHを射出待機時間tWよりも短い時間に設定する場合、実時間tRが上限設定時間tH内に収まるのであれば、実時間tRが上限設定時間tHよりも短い時間であっても正常な着磁が行えることを確認しておく。
【0046】
次に、本実施形態の射出成形システムによる着磁良好と着磁不良との判別方法について説明する。ここでは、上限設定時間tHが射出待機時間tWよりも長い時間に設定されている場合について図3を参照しながら説明する。
【0047】
図3中、[1]および[2]のラインで示すように、実時間tR1、tR2が上限設定時間tHよりも短い場合、着磁良好と判定する。[1]のラインの場合、実時間tR1と射出待機時間tWとが同じになっており、射出待機時間tWにおいて目標電流値ITに達しているため、着磁良好と判定される。[2]のラインの場合、実時間tR2が射出を開始する射出待機時間tWを超えてはいるものの、正常に着磁可能な上限設定時間tH内に目標電流値ITに達しているため、着磁良好と判定される。
【0048】
一方、[3]のラインで示すように、実時間tR3が上限設定時間tHよりも長い場合は、着磁不良と判定する。これは、射出を開始する射出待機時間tWになっても励磁電流が目標電流値ITに達しておらず、十分な着磁が行えないためである。
【0049】
以上、本発明によれば、下限設定時間tLを目安時間としてまず設定しておき、この設定された下限設定時間tLに基づいて射出待機時間tWを設定するため、ムダ時間を短くしつつ、目標電流値ITに達することなく射出がなされるのを防止できる程度のマージンが確保されることとなる。
【0050】
また、本発明によれば、励磁電流の電流値が目標電流値ITに達するまでの実時間tRと上限設定時間tHとを比較する。そして、比較の結果、実時間tRが上限設定時間tHよりも短い場合は、射出待機時間tWには目標電流値ITに達し、所望の着磁が行える、として着磁良好と判定する。一方、実時間tRが上限設定時間tHよりも長い場合は、上限設定時間tHにおいても射出を開始しても目標電流値ITに未だ達していないため、射出待機時間tWにおいて目標電流値ITに達せず、所望の着磁が行えないとして着磁不良と判定する。このように、本発明によれば、上限設定時間tHを用いて、良好な着磁が行える目標電流値ITに達するか否かをみることで着磁の良否判定を行うことができる。
【符号の説明】
【0051】
1 型締装置
2 射出装置
3 電源
4 監視装置
4a 入力設定部
4b 測定部
4c 比較判定部
5 固定盤
6 可動盤
7 励磁コイル
8 金型
8a キャビティ
10 ベッド
11 型締ハウジング
12 タイバー
13 流体圧シリンダ
14 トグル機構
21 ノズル
22 加熱シリンダ
23 スクリュ駆動装置
T 目標電流値
H 上限設定時間
L 下限設定時間
R 実時間
W 射出待機時間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁界を印加する励磁コイルを備え、金型を型締めする型締装置と、前記金型のキャビティ内へ磁性体粉末を含有する溶融樹脂材料を射出する射出装置と、前記キャビティ内に充填された前記溶融樹脂材料を着磁するために前記励磁コイルへ電流を供給する電源と、を有する射出制御システムにおける射出制御方法において、
所望の着磁が行える電流値である目標電流値を設定するステップと、
前記励磁コイルに電流が供給される電流供給開始時から電流値が前記目標電流値に達する時までの時間より短くなるように下限設定時間を設定するステップと、
設定された前記下限設定時間を経過した後の時間となるように、前記目標電流値に達するまでに許容される最長時間である上限設定時間を設定するステップと、
前記電流供給開始時から前記射出装置による射出が開始されるまでの時間である射出待機時間を、設定された前記下限設定時間を経過した後の時間となるように設定するステップと、
前記電源から供給された電流の電流値が前記目標電流値に達するまでの実時間を測定するステップと、
設定された前記上限設定時間と、前記実時間とを比較し、前記実時間が前記上限設定時間よりも短い場合は着磁良好と判定し、前記実時間が前記上限設定時間よりも長い場合は着磁不良と判定するステップと、を含むことを特徴とする射出制御方法。
【請求項2】
前記上限設定時間として前記射出待機時間を経過する前の時間を設定する、請求項1に記載の射出制御方法。
【請求項3】
前記上限設定時間として前記射出待機時間を経過した後の時間を設定する、請求項1に記載の射出制御方法。
【請求項4】
磁界を印加する励磁コイルを備え、金型を型締めする型締装置と、前記金型のキャビティ内へ磁性体粉末を含有する溶融樹脂材料を射出する射出装置と、前記キャビティ内に充填された前記溶融樹脂材料を着磁するために前記励磁コイルへ電流を供給する電源と、成型品の良否を判別するための監視装置と、を有する射出制御システムにおいて、
前記監視装置は、
所望の着磁が行える電流値である目標電流値、前記励磁コイルに電流が供給される電流供給開始時から電流値が前記目標電流値に達する時までの時間より短い時間である下限設定時間、前記下限設定時間を経過した後の時間であって前記目標電流値に達するまでに許容される最長時間である上限設定時間、および前記電流供給開始時から前記射出装置による射出が開始されるまでの時間であって設定された前記下限設定時間を経過した後の時間である射出待機時間の設定がなされる入力設定部と、
前記電源から供給された電流の電流値が前記目標電流値に達するまでの実時間を測定する測定部と、
前記入力設定部で設定された前記上限設定時間と、前記測定部で測定された前記実時間とを比較し、前記実時間が前記上限設定時間よりも短い場合は着磁良好と判定し、前記実時間が前記上限設定時間よりも長い場合は着磁不良と判定する比較判定部と、を有することを特徴とする射出制御システム。
【請求項5】
前記上限設定時間として前記射出待機時間を経過する前の時間が設定されている、請求項4に記載の射出制御システム。
【請求項6】
前記上限設定時間として前記射出待機時間を経過した後の時間が設定されている、請求項4に記載の射出制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−110795(P2011−110795A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−268833(P2009−268833)
【出願日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【出願人】(000004215)株式会社日本製鋼所 (840)
【Fターム(参考)】