説明

射出成形基板及び射出成形部品

【課題】高周波アンテナなどにも使用できる電気特性を有し、寸法安定性、量産性にも優れるプリント配線基板、及び、被覆材と基板との間の線膨張係数差が小さく、熱衝撃による割れが発生しにくいアンテナ部品などの電子部品を提供する。
【解決手段】表面粗度(Rz)が2〜15μmの電解銅箔上に、充填材を15〜65体積%含有する熱可塑性樹脂組成物を射出成形してなる射出成形基板、及び、回路パターンを形成した前記射出成形基板に、充填材15〜60体積%を含有する熱可塑性樹脂組成物をさらに被覆した射出成形部品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気特性、寸法安定性、量産性等に優れる射出成形基板、及びアンテナ部品などの射出成形部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、プリント配線用基板としては、絶縁層にエポキシ樹脂、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂と紙、ガラスクロスなどの補強材とを複合して形成したもの等が広く用いられている。かかる絶縁層上には銅箔などからなる金属層が設けられている。この金属層を有する絶縁基板に、必要に応じて孔を穿設したり、表面の金属層にエッチング処理を行って回路パターンを形成し、さらにソルダーレジスト処理やめっき仕上げ処理等を行い、プリント配線基板とする。
例えば、特許文献1には、成形型により形成される平板状キャビティ内に回路導体となる金属箔を配置し、形成された空隙にエポキシ樹脂を注入し硬化させる方法が記載されている。
しかしながら、上記のようなガラスエポキシ基板は、誘電正接が0.02程度と電気特性が良くなかった。また、熱硬化性樹脂を使用しているため硬化時間が長く、成形サイクルが長いという問題があった。
さらに、ガラスエポキシ基板を打ち抜き、またはルーター加工したものを熱可塑性樹脂で覆い、アンテナ部品のような電子部品を作製し、ヒートショック試験を行うとガラスエポキシ基板と熱可塑性樹脂との線膨張係数の違いによって、熱可塑性樹脂に割れが発生する問題があった。
【0003】
また、良好な誘電特性を持つアンテナ基板材料として、例えば特許文献2では合成樹脂マトリックス中に、繊維径3μm以下で比誘電率が50以上、誘電正接が0.1以下である繊維状無機充填材を含有することを特徴とする電子部品用樹脂組成物が開示されている。特許文献2において電極の製造方法としては、金属箔を適当な接着剤にて接着または圧着すると記載されている。しかし、金属箔と樹脂組成物との間に接着剤が介在すると、該接着剤が誘電率に影響を与えたり、誘電損失(誘電正接)が増大したりするため、高周波アンテナなどに使用するのは適当でなかった。
また、例えば特許文献3では、ポリフェニレンサルファイド樹脂とガラス繊維からなる組成物を形成してなることを特徴とする熱可塑性電気絶縁基板が開示されている。電極形成方法としては、樹脂成形品に対して接着剤付き銅箔を145℃で30分間加熱加圧する方法が実施例で記載されているが、同様に銅箔と樹脂との間に接着剤が介在するために該接着剤により誘電率が変化したり誘電損失が大きくなったりするもので、特許文献2と同様に高周波アンテナなどに使用するのは適当でなかった。また、銀ペーストによる回路形成方法が記載されているが、銅箔に比べて導電性が低いことやハンダ付けなどが出来ないことから用途が限定されるものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−21593号公報
【特許文献2】特開平8−41247号公報
【特許文献3】特開平5−98157号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上のように、従来の基板では基板自体の誘電損失が大きく、さらに銅箔に接着剤をつけるため、誘電率の変化や誘電損失が大きくなり、高周波用途に使用するのは適切ではなかった。また、基板に樹脂を被覆して電子部品とした場合に、ヒートショック試験などの長期信頼性試験で、基板と被覆材の線膨張係数の違いから割れが発生するものであった。
本発明は、高周波アンテナなどにも使用できる電気特性を有し、寸法安定性、量産性にも優れるプリント配線基板、及び、被覆材と基板との間の線膨張係数差が小さく、熱衝撃による割れが発生しにくいアンテナ部品などの電子部品の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、表面粗度を調整した電解銅箔を用い、特定割合の充填材を含有する熱可塑性樹脂組成物を射出成形することで、接着剤を使用しなくとも銅箔と絶縁基板の接着強度を高めることができることを見出し、本発明に至った。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1)表面粗度(Rz)が2〜15μmの電解銅箔上に、充填材を15〜65体積%含有する熱可塑性樹脂組成物を射出成形してなる射出成形基板、
(2)前記電解銅箔と前記熱可塑性樹脂組成物の接着強度が3N/cm以上である(1)に記載の射出成形基板、
(3)前記熱可塑性樹脂組成物の線膨張係数が1.0×10−5〜3.0×10−5/℃である(1)または(2)に記載の射出成形基板、
(4)前記熱可塑性樹脂組成物の熱可塑性樹脂がポリフェニレンサルファイド樹脂またはポリエーテルイミド樹脂であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載の射出成形基板、
(5)前記電解銅箔をエッチング処理し回路パターンを形成したことを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項に記載の射出成形基板、及び
(6)(5)に記載の射出成形基板に、充填材15〜60体積%を含有する熱可塑性樹脂組成物をさらに被覆したことを特徴とする射出成形部品を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の基板は、充填材を15〜65体積%含有する熱可塑性樹脂組成物を用いることにより、線膨張係数を低減できることができる。本発明の基板は成形の後工程のエッチング工程などで熱履歴を受けるが、線膨張整数が小さいため寸法安定性に優れる基板となる。また、射出成形で成形されるため成形サイクルを短くでき、接着剤を使用しないため、接着剤の誘電率や誘電損失を考慮する必要がない。また、低誘電正接材料を充填することによりアンテナ特性を向上することができる。さらに、本発明の基板は、特定形状に打ち抜きやルーター加工した後、別の熱可塑性樹脂で被覆しても、被覆材と基板との間の線膨張係数差が小さく、熱衝撃による割れが発生しにくい。したがって、本発明の射出成形部品は量産性が高く、耐熱性等にも優れる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例で作製した射出成形部品を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の射出成形基板は、電解銅箔を熱可塑性樹脂組成物からなる絶縁基板の片面もしくは両面に有するものである。本発明の射出成形基板は、金型内にはめ込んだ電解銅箔の、表面粗度(Rz)2〜15μmの面上に、熱可塑性樹脂組成物を射出成形したものであることを特徴とする。
【0011】
本発明における熱可塑性樹脂組成物は、少なくとも熱可塑性樹脂と充填材を含有してなる。
熱可塑性樹脂としては、射出成形に用いることができるものを特に制限なく用いることができ、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、シンジオタクチックポリスチレン樹脂、液晶性ポリエステル樹脂などを挙げることができる。好ましくはポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂である。
【0012】
充填材としては、特に限定されないが、シリカ、タルク、雲母、ガラス繊維、アルミナ、窒化アルミ、窒化珪素、窒化ほう素、二酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、ジルコン酸バリウム、ジルコン酸カルシウム、スズ酸バリウム、スズ酸カルシウムなどを挙げることができる。充填材は、球状、破砕状、繊維状など見かけ上粉体であればどのようなものでもよい。
充填材には必要に応じて、表面処理剤によって表面処理をしても差し支えない。表面処理剤としては、ワックス類、ステアリン酸、パルチミン酸などの飽和脂肪酸、ステアリン酸マグネシウムなどの飽和脂肪酸塩、チタネート系カップリング剤、シランカップリング剤などを挙げることができる。
充填材の配合割合は、熱可塑性樹脂組成物の15〜65体積%が好ましく、より好ましくは30〜60体積%である。少なすぎると、かかる組成物より成形される絶縁基材は寸法変化が大きく、また、反りも大きくなるため、目的を達し得ないものとなる。また、多すぎると熱可塑性樹脂との混合が困難になるとともに、射出成形も難しくなる。
【0013】
上記熱可塑性樹脂組成物には、滑剤、着色剤、紫外線吸収剤、難燃剤、帯電防止剤などの通常用いられる添加剤を必要に応じて適量加えることができる。
上記の熱可塑性樹脂組成物の線膨張係数が1.0×10−5〜3.0×10−5/℃になることが好ましく、より好ましくは1.0×10−5〜2.5×10−5/℃である。上記の範囲を外れると電解銅箔と熱可塑性樹脂組成物の線膨張係数差が広がるため、プリント配線基板の反りの抑制が困難になりやすく、また、エッチング工程などの熱履歴を受けた際に寸法が変化し、寸法安定性に劣る場合がある。
【0014】
電解銅箔は、熱可塑性樹脂組成物との接触面の表面粗度が、JIS B0601が規定する値 Rzで2〜15μmであり、好ましくは5〜13μmである。Rz値が2μmよりも小さい場合は、この面で接触する熱可塑性樹脂組成物との間のアンカー効果が充分に発揮されず、電解銅箔と熱可塑性樹脂組成物との接合強度が不足して、ハンドリング時にパターン回路が剥離したり、エッチング時に断線したりするなどの問題が起こりやすい。また、Rz値が15μmを超えると接合強度が増すものの粗化面の突起部を完全にエッチング除去するのに時間を要することになり、回路パターンの側壁もエッチングされるため回路パターンの形状が悪くなり、ファインパターンになると断線する可能性がある。
電解銅箔と熱可塑性樹脂組成物の接着強度は3N/cm以上であることが好ましく、より好ましくは5N/cm以上である。接着強度が小さすぎる場合は、上記のように回路の剥離や断線が発生する可能性がある。
【0015】
本発明の射出成形基板は、通常広く用いられている熱可塑性樹脂の成形機である射出成形機、圧縮成形機、射出圧縮成形機を用いて所望の形状に成形される。成形方法における成形条件は特に限定されることはないが、金型温度を160℃以上にすることが好ましい。本発明の射出成形基板の製造は、熱可塑性樹脂を射出成形する際に、金型内に電解銅箔を上記粗面が熱可塑性樹脂に接するように配置して行う。配置する方法は、例えば、金型に銅箔を吸引する機構を設け、銅箔を金型内に入れた際に銅箔を吸引することで銅箔が落ちないようにすることがあげられる。その後、樹脂を金型内に充填することで射出成形基板を得ることができる。このような本発明の射出成形基板は、接着剤を用いる必要がなく、接着剤の硬化に要する時間を必要としないため、量産性が高い。また、接着剤を用いないので、接着剤の誘電率や誘電損失を考慮する必要がない。
このようにして得られる射出成形基板の回路パターン(導体パターン)形成には種々の方法が提案されているが、例えばアディティブ法、セミアディティブ法が例示される。また、電解銅箔を予め所望の回路形状にプレスしておいても良い。回路パターンの形成は、例えば、上記射出成形基板にスルーホール穴あけ、メッキ、エッチングして行える。
【0016】
本発明の射出成形部品は、回路パターンを形成した上記射出成形基板にさらに熱可塑性樹脂組成物を被覆したものである。このとき被覆に用いる熱可塑性樹脂組成物の熱可塑性樹脂、充填材の種類等は、上記射出成形基板に用いるものと同様であるが、充填材を15〜60体積%含み、好ましくは30〜50体積%である。充填材の割合をこのような範囲とすることにより、寸法安定性と成形性がともに優れた射出成形部品とすることができる。本発明の射出成形部品においては、被覆材と基板との間で線膨張係数が小さく、熱衝撃による割れが発生しにくいという特徴を有する。
本発明の射出成形基板及び射出成形部品は例えば、アンテナ、フィルター、大電流基板や、高放熱基板などの電子機器に好適に用いることができる。接着剤による電気特性への影響がないため高周波アンテナなどにも使用することができ、また、導電性、寸法安定性に優れるので、広く種々の用途に用いることが可能である。
【実施例】
【0017】
以下に本発明を実施例及び比較例に基づきさらに詳細に説明する。なお本発明は、以下に示す実施例に限定されるものではない。
表中のPEIはポリエーテルイミド樹脂、PPSはポリフェニレンサルファイド樹脂を表す。
【0018】
<実施例1>
熱可塑性樹脂組成物はポリフェニレンサルファイド樹脂(DIC社製、商品名:LR100G)に対してガラス繊維(日東紡社製、商品名:CS3PE−256)34体積%をドライブレンド後、押出機(日本製鋼所社製、商品名:TEX30 二軸押出機)にて溶融混合し、該組成物のペレットを作製した。
銅箔は厚さが35μmで表面粗度(Rz)が9μmの電解銅箔(古河電気工業社製、商品名:GTS−MP 35μm)を使用した。
射出成形は日本製鋼所社製110ton射出成形機を用い、電解銅箔を金型内にはめ込んで縦150mm×横150mm×厚さ2mmの基板を作製した。
【0019】
<実施例2>
熱可塑性樹脂組成物はポリフェニレンサルファイド樹脂(DIC社製、商品名:LR100G)に対してシリカ(龍森社製、商品名:ヒューズレックスRD−8)60体積%をドライブレンド後、押出機(日本製鋼所社製、商品名:TEX30 二軸押出機)にて溶融混合し、該組成物のペレットを作製した。
銅箔は厚さが35μmで表面粗度(Rz)が9μmの電解銅箔(古河電気工業社製、商品名:GTS−MP 35μm)を使用した。
射出成形は日本製鋼所社製110ton射出成形機を用い、電解銅箔を金型内にはめ込んで縦150mm×横150mm×厚さ2mmの基板を作製した。
【0020】
<実施例3>
熱可塑性樹脂組成物はポリフェニレンサルファイド樹脂(DIC社製、商品名:LR100G)に対してチタン酸バリウム(富士チタン工業製 BT−100M)46体積%をドライブレンド後、押出機(日本製鋼所社製、商品名:TEX30 二軸押出機)にて溶融混合し、該組成物のペレットを作製した。
銅箔は厚さが35μmで表面粗度(Rz)が9μmの電解銅箔(古河電気工業社製、商品名:GTS−MP 35μm)を使用した。
射出成形は日本製鋼所社製110ton射出成形機を用い、電解銅箔を金型内にはめ込んで縦150mm×横150mm×厚さ2mmの基板を作製した。
【0021】
<実施例4>
熱可塑性樹脂組成物はポリエーテルイミド樹脂(SABIC社製、商品名:ULTEM1010)に対してガラス繊維(日東紡社製、商品名:CS3PE−256)17体積%をドライブレンド後、押出機(日本製鋼所社製、商品名:TEX30 二軸押出機)にて溶融混合し、該組成物のペレットを作製した。
銅箔は厚さが35μmで表面粗度(Rz)が9μmの電解銅箔(古河電気工業社製、商品名:GTS−MP 35μm)を使用した。
射出成形は日本製鋼所社製110ton射出成形機を用い、電解銅箔を金型内にはめ込んで縦150mm×横150mm×厚さ2mmの基板を作製した。
【0022】
<実施例5>
熱可塑性樹脂組成物はポリエーテルイミド樹脂(SABIC社製、商品名:ULTEM1010)に対してチタン酸バリウム(富士チタン工業社製、商品名:BT−100M)46体積%をドライブレンド後、押出機(日本製鋼所社製、商品名:TEX30 二軸押出機)にて溶融混合し、該組成物のペレットを作製した。
銅箔は厚さが35μmで表面粗度(Rz)が9μmの電解銅箔(古河電気工業社製、商品名:GTS−MP 35μm)を使用した。
射出成形は日本製鋼所社製110ton射出成形機を用い、電解銅箔を金型内にはめ込んで縦150mm×横150mm×厚さ2mmの基板を作製した。
【0023】
<実施例6>
熱可塑性樹脂組成物はポリフェニレンサルファイド樹脂(DIC社製、商品名:LR100G)に対してガラス繊維(日東紡社製、商品名:CS3PE−256)34体積%をドライブレンド後、押出機(日本製鋼所社製、商品名:TEX30 二軸押出機)にて溶融混合し、該組成物のペレットを作製した。
銅箔は厚さが70μmで表面粗度(Rz)が12μmの電解銅箔(古河電気工業社製、商品名:GTS−MP 70μm)を使用した。
射出成形は日本製鋼所社製110ton射出成形機を用い、電解銅箔を金型内にはめ込んで縦150mm×横150mm×厚さ2mmの基板を作製した。
【0024】
<実施例7>
熱可塑性樹脂組成物はポリフェニレンサルファイド樹脂(DIC社製、商品名:LR100G)に対してガラス繊維(日東紡社製、商品名:CS3PE−256)62体積%をドライブレンド後、押出機(日本製鋼所社製、商品名:TEX30 二軸押出機)にて溶融混合し、該組成物のペレットを作製した。
銅箔は厚さが35μmで表面粗度(Rz)が9μmの電解銅箔(古河電気工業社製、商品名:GTS−MP 35μm)を使用した。
射出成形は日本製鋼所社製110ton射出成形機を用い、電解銅箔を金型内にはめ込んで縦150mm×横150mm×厚さ2mmの基板を作製した。
【0025】
<実施例8>
熱可塑性樹脂組成物はポリフェニレンサルファイド樹脂(DIC社製、商品名:LR100G)に対してシリカ(龍森社製、商品名:ヒューズレックスRD−8)37体積%をドライブレンド後、押出機(日本製鋼所社製、商品名:TEX30 二軸押出機)にて溶融混合し、該組成物のペレットを作製した。
銅箔は厚さが35μmで表面粗度(Rz)が9μmの電解銅箔(古河電気工業社製、商品名:GTS−MP 35μm)を使用した。
射出成形は日本製鋼所社製110ton射出成形機を用い、電解銅箔を金型内にはめ込んで縦150mm×横150mm×厚さ2mmの基板を作製した。
【0026】
<実施例9>
熱可塑性樹脂組成物はポリフェニレンサルファイド樹脂(DIC社製、商品名:LR100G)に対してガラス繊維(日東紡社製、商品名:CS3PE−256)62体積%をドライブレンド後、押出機(日本製鋼所社製、商品名:TEX30 二軸押出機)にて溶融混合し、該組成物のペレットを作製した。
銅箔は厚さが18μmで表面粗度(Rz)が5μmの電解銅箔(三井金属鉱業社製、商品名:3EC−HTE 18μm)を使用した。
射出成形は日本製鋼所社製110ton射出成形機を用い、電解銅箔を金型内にはめ込んで縦150mm×横150mm×厚さ2mmの基板を作製した。
【0027】
<比較例1>
熱可塑性樹脂組成物はポリフェニレンサルファイド樹脂(DIC社製、商品名:LR100G)に対してガラス繊維(日東紡社製、商品名:CS3PE−256)34体積%をドライブレンド後、押出機(日本製鋼所社製、商品名:TEX30 二軸押出機)にて溶融混合し、該組成物のペレットを作製した。
銅箔は18μm厚さで表面粗度(Rz)が1.5μmの電解銅箔(古河電気工業社製、商品名:F0−WS18μm)を使用した。
射出成形は日本製鋼所社製110ton射出成形機を用い、電解銅箔を金型内にはめ込んで縦150mm×横150mm×厚さ2mmの基板を作製した。
【0028】
上記実施例1〜9、比較例1で作製した基板について、以下のようにして成形性、線膨張係数、銅箔接着強度、誘電正接を測定、評価した。結果を表1に示す。
(成形性)
銅箔を150mm×150mm×2mmの金型にはめ込み、熱可塑性樹脂を射出成形したときの状態を観察して成形性を判断した。形状を成さず成形できない場合は成形不可、成形条件の限界付近で成形できて成形品に未充填などの不具合がないものを成形可とし、通常の成形条件で成形した際に、成形品に未充填などの不具合がないものを良好とした。
(線膨張係数)
JIS K7197に準拠して測定を行った。測定方法は熱機械分析装置(TMA装置)を用い、測定条件は昇温時間を5℃/分で測定した。なお、ガラス転移温度以上で傾きが変化するものに対してはガラス転移温度以下の値を表1に示した。
(銅箔接着強度)
JIS C6471に準拠して測定を行った。サンプルの銅箔幅は10mmとし、50mm/分で90度の角度で引き剥がした結果を表1に示した。
(誘電正接)
ASTM D150に準拠して測定を行った。測定周波数は1MHzとし、その時の結果を表1に示した。
【0029】
【表1】

【0030】
比較例1の基板は成形性が良好で線膨張係数が小さく寸法安定性に優れるものの、表面粗度(Rz)が小さいため、アンカー効果が不十分で銅箔接着強度が低かった。そのため、回路の剥離や断線が発生する可能性がある。これに対し、実施例1〜9の基板は成形性も問題なく、線膨張係数が小さく寸法安定性に優れ、かつ、銅箔接着強度が良いのでエッチング工程などでの回路剥がれ不良の発生が抑制される。したがって実施例1〜9の基板は量産性に優れるものであり、アンテナ部品などに好適に用いることのできる特性を有していることがわかる。
【0031】
<実施例10>
熱可塑性樹脂組成物はポリフェニレンサルファイド樹脂(DIC社製、商品名:LR100G)に対してガラス繊維(日東紡社製、商品名:CS3PE−256)34体積%をドライブレンド後、押出機(日本製鋼所社製、商品名:TEX30 二軸押出機)にて溶融混合し、該組成物のペレットを作製した。
銅箔は厚さが35μmで表面粗度(Rz)が9μmの電解銅箔(古河電気工業社製、商品名:GTS−MP 35μm)を使用した。
射出成形は日本製鋼所社製110ton射出成形機を用い、電解銅箔を金型内にはめ込んで縦150mm×横150mm×厚さ2mmの基板を作製した。
次にこの基板にスルーホール穴あけ、メッキ、エッチングして回路パターンを形成し、縦15mm×横10mm×厚さ2mmの形状にルーターにて切断した。
ポリフェニレンサルファイド樹脂(DIC社製、商品名:LR100G)に対してガラス繊維(日東紡社製、商品名:CS3PE−256)34体積%をドライブレンド後、押出機(日本製鋼所社製、商品名:TEX30 二軸押出機)にて溶融混合し作製した熱可塑性樹脂組成物のペレットを用いてファナック製50ton射出成形機で、上記の回路パターンを形成して切断した基板に厚さ1mmの被覆を施し、図1に示すような射出成形部品(アンテナ部品)とした。図1は射出成形部品10の平面図であり、樹脂部1上に回路部2が形成された射出成形基板20に、さらに樹脂組成物で被覆した被覆部3を有する。
【0032】
<比較例2>
厚さ1mmのガラスエポキシ基板(FR4基板)にスルーホール穴あけ、メッキ、エッチングして回路パターンを形成し、縦15mm×横10mm×厚さ2mmの形状にルーターにて切断した。
この部品を、ポリフェニレンサルファイド樹脂(DIC社製、商品名:LR100G)に対してガラス繊維(日東紡社製、商品名:CS3PE−256)34体積%をドライブレンド後、押出機(日本製鋼所社製、商品名:TEX30 二軸押出機)にて溶融混合し作製した熱可塑性樹脂組成物のペレットを用いてファナック製50ton射出成形機で厚さ1mmの被覆を施し、アンテナ部品とした。
【0033】
実施例10及び比較例2で作製したアンテナ部品に対し85〜−30℃のヒートショック試験を30回繰り返した後の外観を評価した。結果を表2に示す。
比較例2のアンテナ部品ではヒートショック試験後、被覆にヒビ割れが生じたのに対し、実施例10のアンテナ部品は外観に特に変化がなく、良好な結果であった。
【0034】
【表2】

【符号の説明】
【0035】
1 樹脂部
2 回路部
3 被覆部
10 射出成形部品
20 射出成形基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面粗度(Rz)が2〜15μmの電解銅箔上に、充填材を15〜65体積%含有する熱可塑性樹脂組成物を射出成形してなる射出成形基板。
【請求項2】
前記電解銅箔と前記熱可塑性樹脂組成物の接着強度が3N/cm以上である請求項1に記載の射出成形基板。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂組成物の線膨張係数が1.0×10−5〜3.0×10−5/℃である請求項1または2に記載の射出成形基板。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂組成物の熱可塑性樹脂がポリフェニレンサルファイド樹脂またはポリエーテルイミド樹脂であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の射出成形基板。
【請求項5】
前記電解銅箔をエッチング処理し回路パターンを形成したことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の射出成形基板。
【請求項6】
請求項5に記載の射出成形基板に、充填材15〜60体積%を含有する熱可塑性樹脂組成物をさらに被覆したことを特徴とする射出成形部品。

【図1】
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【公開番号】特開2011−119611(P2011−119611A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−277864(P2009−277864)
【出願日】平成21年12月7日(2009.12.7)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】