説明

射出成形機

【課題】安価かつ簡便な構成にして高い充填速度を得ることができ、高品質の薄肉成形品を成形可能な射出成形機を提供する。
【解決手段】射出成形機に、キャビティ33内に溶融樹脂を射出充填することにより、厚みが0.1mm以上0.5mm以下でスプール35及びランナ36を有しない薄肉成形品を排出する金型31,32と、射出用電動サーボモータ10と、射出用電動サーボモータ10の駆動を制御する制御装置40とを備える。射出用電動サーボモータ10として、最大トルクが定格トルクの400%〜500%の1つの複数巻3相モータを用いる。制御装置40とモータドライバ回路41とを、通信速度が100Mbps以上の通信回線42を介して接続する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄肉成形品の射出成形に好適な射出成形機に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば導光板や接続コネクタなどの薄肉成形品は、金型から成形品のみを排出し、スプール及びランナについては金型から排出しない、スプールランナレス金型又はホットランナ金型等と呼ばれる金型を備えた射出成形機を用いて成形される。この種の射出成形機については、充填工程の初期における金型キャビティ内への溶融樹脂の射出速度を高めることが特に要求される。その理由は、充填初期における溶融樹脂の射出速度が遅いと、充填樹脂が金型キャビティ面に接触して冷却されることにより充填樹脂の表面に形成されるスキン層が肥大化し、厚みが0.5mm以上の比較的厚肉の成形品については、その表面にひけやしわなどの不良を生じ、厚みが0.1mm以上0.5mm以下の比較的薄肉の成形品については、金型キャビティ内への溶融樹脂の充填が不能になるという不都合を生じるからである。
【0003】
本願出願人は、先に、金型キャビティ内への溶融樹脂の射出速度を高めることができる射出成形機として、3つの射出用電動サーボモータを備えたものを提案した(例えば、特許文献1参照。)。この射出成形機は、各射出用電動サーボモータの出力を足し合わせた力で射出装置を駆動できるので、高い射出速度が得られると共に、個々の射出用電動サーボモータを小型化できて、モータ回転子の軽量化によるイナーシャの低下を図ることができることから、所望とする高速の射出速度に達するまでの立ち上げ時間を短縮することができる。例えば1000mm/sec程度の非常に高速の射出速度を実現できると共に、射出速度が射出開始(射出速度0)から1000mm/secに達するまでの実測の立ち上げ時間を0.0220secまで短縮することができる。
【0004】
なお、金型キャビティ内への溶融樹脂の射出速度を高めることなく、薄肉成形品の射出成形を行うことができる射出成形機としては、射出完了後に保圧用の油圧シリンダを駆動して、加熱シリンダの先端部に溜まった溶融樹脂をノズル側に加圧して保圧するもの(例えば、特許文献2参照。)や、射出完了後に金型を駆動して充填樹脂にプレスをかけるもの(例えば、特許文献3参照。)が提案されているが、これらの射出成形機によっては、スキン層が肥大化することに起因する不都合を解消することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−83600号公報
【特許文献2】特開2003−266506号公報
【特許文献3】特開2008−302686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の射出成形機は、3つの射出用電動サーボモータを備えるので、部品点数が増加して高コストになるばかりでなく、各射出用電動サーボモータの駆動力を射出スクリューに伝達するためのタイミングベルトやプーリ等の構成が複雑となるので、射出装置の設置スペースも大きくなるという問題がある。また、特許文献1に記載の射出成形機は、射出用電動サーボモータの性能上、金型キャビティ内への溶融樹脂の射出速度を高めることが可能であるが、射出用電動サーボモータの駆動を制御する制御装置と、該制御装置から出力される制御信号に応じた射出用電動サーボモータの駆動信号を生成して出力するモータドライバ回路との間の通信速度に関しては何ら考慮されておらず、この点に改善の余地がある。
【0007】
本発明は、かかる従来技術の実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、安価かつ簡便な構成にして、金型キャビティ内への溶融樹脂の射出速度を高精度に制御することができ、高品質の薄肉成形品を成形可能な射出成形機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記課題を解決するため、第1に、キャビティ内に溶融樹脂を射出充填することにより、厚みが0.1mm以上0.5mm以下でスプール及びランナを有しない薄肉成形品を排出する金型と、該金型に対して前後進可能に配置され、前進時に前記キャビティ内に溶融樹脂を射出するスクリューと、該スクリューを前後進駆動する射出用電動サーボモータと、該射出用電動サーボモータの駆動を制御し、射出充填工程を含む一連の成形サイクルを繰り返し実行する制御装置と、該制御装置から出力される制御信号に応じた前記射出用電動サーボモータの駆動信号を生成して出力するモータドライバ回路とを備えた射出成形機において、前記射出用電動サーボモータとして、1つの複数巻3相モータを用いると共に、前記制御装置から前記モータドライバ回路に前記制御信号を送信する通信回線として、100Mbps以上の通信速度を有するものを用いるという構成にした。
【0009】
複数巻3相モータは、互いに120度の位相角をもつU相、V相及びW相の各巻線を複数重ね巻きしたもので、重ね巻きされた各巻線ごとに備えられたモータドライバ回路により駆動できるので、小型にして大きな出力トルクが得られる。この複数巻3相モータの出力トルクは、モータドライバ回路から供給されるモータ駆動電流によって変化し、複数巻3相モータに定格電流以上のモータ駆動電流を供給した場合には定格トルク以上のトルクを出力させることができ、複数巻3相モータに定格電流以下のモータ駆動電流を供給した場合には定格トルク以下のトルクを出力させることができる。但し、複数巻3相モータを定格トルク以上の出力トルクで駆動する場合には、発熱による悪影響が発生するため、駆動時間が短時間に制限される。一般に、複数巻3相モータは、最大トルクで0.3秒間〜0.5秒間の駆動が可能であるので、比較的定格トルクが低い複数巻3相モータを1つ用いるだけで、高速かつ短時間の射出充填工程を実行することができる。また、射出充填工程の終了後、複数巻3相モータの出力トルクを低下すると、その低下分に応じて複数巻3相モータの駆動時間を延ばすことができるので、比較的定格トルクが低い複数巻3相モータを1つ用いるだけで、高圧かつ長時間の保圧工程を実行することができる。よって、1つの複数巻3相モータを射出用電動サーボモータとして用いた射出成形機は、モータ数及びそれに付随するメカニズム数の減少による射出成形機の小型化及び低コスト化と、モータ特性の有効利用による射出成形機の高性能化とを図ることができる。
【0010】
また、制御装置からモータドライバ回路に制御信号を送信する通信回線として、100Mbps以上の通信速度を有するものを用いると、制御信号のメッセージ構成を8ビットとした場合、0.08μsec(1/125×10sec)単位の制御が可能となるので、射出開始から所定の射出速度に達するまでの立ち上げ時間が0.0220secと短かい場合にも、射出用サーボモータの駆動制御を十分に高精度に行うことができて、スキン層の肥大化に起因する成形不良を防止することができる。よって、厚みが0.1mm以上0.5mm以下の薄肉成形品を高精度に成形することができる。
【0011】
本発明は、第2に、前記射出用電動サーボモータとして、最大トルクが定格トルクの400%以上500%以下の複数巻3相モータを用いるという構成にした。
【0012】
このように、最大トルクが定格トルクの400%以上500%以下の複数巻3相モータを用いると、比較的定格トルクが低い小型の複数巻3相モータを用いて、よりランクの高い射出成形機並みの射出充填工程と保圧工程とを実行することができるので、射出成形機のより一層の低コスト化と小型化とを図ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の射出成形機は、射出用電動サーボモータとして1つの複数巻3相モータのみを用いるので、小型化かつ低コスト化にして高い射出速度を得ることができる。また、制御装置からモータドライバ回路に制御信号を送信する通信回線として、100Mbps以上の通信速度を有するものを用いるので、射出開始から所定の射出速度に達するまでの立ち上げ時間内における射出用サーボモータの駆動制御を高精度に行うことができる。よって、スキン層の肥大化に起因する成形不良を防止できて、厚みが0.1mm以上0.5mm以下の薄肉成形品を高精度に成形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施形態に係る射出成形機の要部構成図である。
【図2】実施形態に係る射出成形機に備えられる射出用電動サーボモータの出力特性図である。
【図3】実施形態に係る射出成形機の射出開始から所定の射出速度に達するまでの立ち上げ時間内における射出用サーボモータの駆動制御を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る射出成形機の実施形態を、図1乃至図3を用いて説明する。本例の射出成形機は、図1に示すように、図示しないベース盤上に所定距離を隔てて対向に配設されたヘッドストック1及びモータ取付板2と、これらヘッドストック1とモータ取付板2との間を前後進する直動ブロック3と、モータ取付板2に軸受4を介して回転可能に保持されたネジ軸5及びこれに螺合されたナット体6からなるボールネジ機構7と、ヘッドストック1に取り付けられた加熱シリンダ8と、加熱シリンダ8内に回転可能かつ前後進可能に収納され、一端が直動ブロック3に取り付けられたスクリュー9と、モータ取付板2の外面に取り付けられ、ネジ軸5を回転駆動する射出用電動サーボモータ10と、直動ブロック3に取り付けられ、スクリュー9を回転駆動する計量用電動サーボモータ20とを備えている。また、本例の射出成形機は、加熱シリンダ8の先端部に設けられたノズル8aから射出される溶融樹脂を成形する固定側金型31及び可動側金型32と、射出成形機の駆動全体を制御し、型閉、射出充填、保圧、型開及び製品押出からなる一連の成形サイクルを実行する制御装置40と、制御装置40から出力される制御信号に応じた射出用電動サーボモータ10及び計量用電動サーボモータ20の駆動信号を出力するモータドライバ回路41とを備えている。制御装置40とモータドライバ回路41とは、100Mbps以上の通信速度を有する通信回線42を介して接続される。この種の通信回線42としては、イーサネット(Ethernet:登録商標)やイーサキャット(EtherCAT:登録商標)を例示することができる。
【0016】
固定側金型31と可動側金型32との界面には所定形状のキャビティ33が形成され、固定側金型31には、ノズル当接部34と、ノズル当接部34からキャビティ33側に延びるスプール35と、スプール35の先端部とキャビティ33とを連通するランナ36とが形成される。本実施形態に係る金型装置としては、金型からキャビティ33によって成形された成形品のみを排出し、スプール35及びランナ36については金型から排出しない、スプールランナレス金型又はホットランナ金型等と呼ばれる金型装置が用いられる。その詳細については、公知に属する事項であり、かつ本発明の要旨でもないので説明を省略する。なお、キャビティ33は、任意の形状及びサイズに形成可能であるが、本発明は、例えば導光板や接続コネクタ類などのように、厚みが0.1mm以上0.5mm以下の薄肉の成形品を成形する場合に特に効果を発揮する。
【0017】
射出用電動サーボモータ10は、ケーシング11と、ケーシング11の内面に固定された円筒形のモータ固定子13と、モータ固定子13の外周に巻回されたモータコイル14と、モータ固定子13内に配置された円筒形のモータ回転子15と、モータ回転子15の外面に取り付けられたモータ磁石16と、モータ回転子15及びモータ磁石16をケーシング11に回転自在に支持する軸受17とから構成されており、モータ回転子15の内周にネジ軸5を嵌合することにより、モータ回転子15の回転をネジ軸5に伝達するようになっている。この射出用電動サーボモータ10は、図示しないボルトにより、モータ取付板2の背面側に締結される。
【0018】
射出用電動サーボモータ10としては、図2に示すように、出力可能な最大トルクが定格トルクの400%〜500%で、最大トルクで駆動可能な駆動時間が0.3〜0.5秒間である複数巻3相モータが用いられる。なお、複数巻3相モータとは、互いに120度の位相角をもつU相、V相及びW相の各巻線を複数重ね巻きしたもので、重ね巻きされた各巻線ごとに備えられたモータドライバ回路41により駆動できるので、小型にして大きな出力トルクが得られる。
【0019】
計量用電動サーボモータ20は、ケーシング21と、ケーシング21の内面に固定された円筒形のモータ固定子22と、モータ固定子22の外周に巻回されたモータコイル23と、モータ固定子22内に配置された有底筒形のモータ回転子24と、モータ回転子24の外面に取り付けられたモータ磁石25と、モータ回転子24及びモータ磁石25をケーシング21に回転自在に支持する軸受26とから構成されている。モータ回転子24の底部には、スプライン孔24aが形成されており、このスプライン孔24a内にスクリュー9の先端部に形成されたスプライン9aを嵌入することにより、モータ回転子24の回転をスクリュー9に伝達するようになっている。また、このモータ回転子24の他端側には、ボールネジ機構7のナット体6が強嵌合されており、ナット体6の前後進に伴って、直動ブロック3と計量用サーボモータ20とスクリュー9とが案内レール30に案内されて一体的に前後進する。
【0020】
このように構成された本例の射出成形機は、制御装置40からモータドライバ回路41を介して計量用電動サーボモータ20を所定方向に回転駆動すると、モータ回転子24の回転がスプライン孔24a及びスプライン9aを介してスクリュー9に伝達され、スクリュー9が所定の回転速度で回転する。これにより、図示しないホッパからの成形材料の供給と、加熱シリンダ8内における成形材料の可塑化、混練及び計量が行われる。また、制御装置40からモータドライバ回路41を介して射出用電動サーボモータ10を所定方向に回転駆動すると、その回転運動がボールネジ機構7のネジ軸5に伝達され、ネジ軸5の回転運動がナット体6の前進運動に変換されて、直動ブロック3、計量用サーボモータ20及びスクリュー9が一体となって前進する。これにより、ノズル8aから金型キャビティ33内への溶融樹脂の射出が行われる。
【0021】
射出用サーボモータ10を所定方向に回転駆動することにより行われる射出工程では、厚みが0.1mm以上0.5mm以下の薄肉の成形品を成形する場合、スキン層の肥大化に起因する成形不良の発生を防止するため、図3に示すように、1000mm/sec程度の非常に高速の射出速度が要求されると共に、射出開始(射出速度0)から射出速度が目標射出速度である1000mm/secに達するまでの立ち上げ時間を0.0220sec程度とすることが要求される。上述のように、射出用電動サーボモータ10として、出力可能な最大トルクが定格トルクの400%〜500%で、最大トルクで駆動可能な駆動時間が0.3〜0.5秒間である複数巻3相モータを用いると、小型にして大きな出力トルクが得られるので、1000mm/sec程度の射出速度を達成できると共に、射出開始から射出速度が目標射出速度に達するまでの立ち上げ時間を0.0220sec程度とすることができる。そして、この場合において、制御装置40とモータドライバ回路41とを、100Mbps以上の通信速度を有する通信回線42を介して接続すると、制御装置40から出力される制御信号のメッセージ構成を8ビットとした場合、0.08μsec単位で射出用電動サーボモータ10の駆動制御が可能となるので、射出開始から所定の射出速度に達するまでの立ち上げ時間が0.0220secと短かい場合にも、射出用電動サーボモータ10の駆動制御を十分に高精度に行うことができて、スキン層の肥大化に起因する成形不良を防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明は、薄肉成形品の射出成形に使用される射出成形機に利用できる。
【符号の説明】
【0023】
1 ヘッドストック
2 モータ取付板
3 直動ブロック
7 ボールネジ機構
8 加熱シリンダ
8a ノズル
9 スクリュー
10 射出用電動サーボモータ
20 計量用電動サーボモータ
31 固定側金型
32 可動側金型
33 キャビティ
35 スプール
36 ランナ
40 制御装置
41 モータドライバ回路
42 通信回線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャビティ内に溶融樹脂を射出充填することにより、厚みが0.1mm以上0.5mm以下でスプール及びランナを有しない薄肉成形品を排出する金型と、該金型に対して前後進可能に配置され、前進時に前記キャビティ内に溶融樹脂を射出するスクリューと、該スクリューを前後進駆動する射出用電動サーボモータと、該射出用電動サーボモータの駆動を制御し、射出充填工程を含む一連の成形サイクルを繰り返し実行する制御装置と、該制御装置から出力される制御信号に応じた前記射出用電動サーボモータの駆動信号を生成して出力するモータドライバ回路とを備えた射出成形機において、
前記射出用電動サーボモータとして、1つの複数巻3相モータを用いると共に、前記制御装置から前記モータドライバ回路に前記制御信号を送信する通信回線として、100Mbps以上の通信速度を有するものを用いることを特徴とする射出成形機。
【請求項2】
前記射出用電動サーボモータとして、最大トルクが定格トルクの400%以上500%以下の複数巻3相モータを用いたことを特徴とする請求項1に記載の成形機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−240882(P2010−240882A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−89293(P2009−89293)
【出願日】平成21年4月1日(2009.4.1)
【出願人】(000222587)東洋機械金属株式会社 (299)
【Fターム(参考)】