射出成形装置において使用される装置
【課題】 効率的に成形マニホルド及びホットランナーノズルの溶融チャネルを加熱する方法及び手段を提供する。
【解決手段】 多数のキャビテーションが発生する鋳型スプルーブッシュ62、マニホルド64、及びホットランナーノズル66は、それぞれ薄膜ヒータ63、65、及び67を使用して加熱される。各薄膜ヒータは、組み合わされた受動薄膜材料の間に挟まれた薄膜の導電性材料から成る能動膜を含んで構成される。この薄膜ヒータが直接溶融樹脂に接触するように内側に配置される場合、薄膜ヒータ63は、チャネルから順に耐摩耗膜72、電気絶縁膜74、電気抵抗ヒータ膜76、電気絶縁膜78、及び断熱膜79を含み得る。薄膜ヒータ65が外側に配置される場合には、耐摩耗膜は省略されてよい。
【解決手段】 多数のキャビテーションが発生する鋳型スプルーブッシュ62、マニホルド64、及びホットランナーノズル66は、それぞれ薄膜ヒータ63、65、及び67を使用して加熱される。各薄膜ヒータは、組み合わされた受動薄膜材料の間に挟まれた薄膜の導電性材料から成る能動膜を含んで構成される。この薄膜ヒータが直接溶融樹脂に接触するように内側に配置される場合、薄膜ヒータ63は、チャネルから順に耐摩耗膜72、電気絶縁膜74、電気抵抗ヒータ膜76、電気絶縁膜78、及び断熱膜79を含み得る。薄膜ヒータ65が外側に配置される場合には、耐摩耗膜は省略されてよい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形処理のための熱管理及び処理制御における改良に関し、より詳細には、モールドキャビティ空間への溶融樹脂の流路に沿って配置された能動及び/又は受動膜加熱要素及び/又は感知要素の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形処理において、樹脂が射出成形装置のノズルから成形スプルーブッシュ、成形マニホルド(連結管)、及びホットランナーノズルを経て、射出成形品を形成するために樹脂が冷却されるモールドキャビティ空間に流れる際に、樹脂を溶融状態に維持することが重要である。更に、キャビティ空間への適切な充填を確実にするために、樹脂の流れのせん断応力分布をモニターし、管理しなければならない。モールドゲートに近接した領域の温度は、成形品がキャビティから取り除かれるまでに高温状態と低温状態の間を敏速に反復するため、せん断応力分布のモニター及び管理がこの領域では特に重要である。また、温度制御問題も、PET(ポリエチレンテレフタラート)等のある種の感熱材料をマルチキャビティ鋳型で成形する場合、又は単一のホットランナーノズルを介して射出される複数の異なった材料から形成される成形品を成形する場合に非常に重要である。従って、特に成形マニホルド及びホットランナーノズルでの射出成形処理における熱管理及び処理制御の改善に多大な努力が向けられてきた。現在まで、幾つもの方法及び手段が用いられてきたが、その成功の度合いは様々である。一般に使用されている方法及び手段には、ヒートパイプ、高周波誘導ヒータ、マイクロ波ヒータ、セラミックヒータ、赤外線ヒータ、電気ヒータ等が含まれる。このような電気ヒータには、スクリューバレル(screw barrel)の内部、マシンノズル、マニホルド、ホットランナーノズル、及びモールドゲート領域の溶融樹脂を加熱するために使用される複数のコイルから成るヒータ、バンドから成るヒータ、又はカートリッジヒータが含まれる。
【0003】
米国特許第5,645,867号(Crank他,ここで言及することにより本明細書中に開示されたものとする)は、成形マニホルドの加熱に関する現在の技術を示している。Crank他は、マニホルドの外側表面上に赤外線ヒータを配置することによるマニホルドの加熱を教示している。しかし、そのような従来のマニホルド加熱装置においてよく見られるように、ヒータにより生成される熱の相当量が、マニホルドブロックに含まれる溶融チャネルを流れる樹脂を直接加熱するよりも寧ろ、マニホルドブロック全体を加熱するため、無駄になる。
【0004】
米国特許第5,614,233号(Gellert,ここで言及することにより本明細書中に開示したものとする)は、螺旋状の電気ヒータがホットランナーノズルを取り囲む螺旋状の溝に埋設される、ホットランナーノズルためのヒータを開示している。このヒータは、酸化マグネシウム粉等の、耐火性を有する粉状電気絶縁材料に包まれた抵抗ワイヤを含む。ヒータの螺旋状の部分は、螺旋状の溝にはまるようにプレスされ、溝に沿った形状に整えられる。しかし、開示されたヒータは、ホットランナーノズルの本体及びその中に含まれる溶融チャネルの両方を比較的非効率的な加熱機構で加熱する。更に、そうした螺旋状の溝を製造し、その中にヒータを組み込むのは、時間がかかる上にコストがかさむ。
【0005】
前述の従来のヒータに伴う問題点は、コインジェクション及びマルチインジェクション成形マニホルド並びにホットランナーノズルにおいて特に顕著である。例えば、米国特許第4,863,665号(Schad他,ここで言及することにより本明細書中に開示したものとする)は、3つの溶融チャネルを同時に加熱するためにホットランナーノズルの外側表面に取り付けられた単一の電気ヒータの使用を開示している。しかし、Schad他は、幾つかの欠点に直面している。第1に、内側のチャネルへは外側のチャネルに対してよりも少量の熱しか伝達されない。第2に、各チャネルに供給される熱を、各チャネルの大きさ及び各チャネル内を流れる樹脂の粘弾性特性に応じて変更することができない。
【0006】
欧州特許312 029 B1(Hiroyoshi,ここで言及することにより本明細書中に開示したものとする)は、成形装置へ樹脂を導くノズルの外側表面上にフレーム溶射される絶縁セラミック膜から形成されるヒータを開示している。このヒータは、ノズルを完全に覆う連続領域ヒータ、複数の長尺状ストリップ(細長片)から形成されるヒータ、螺旋状のストリップから形成される薄膜ヒータ、又は成形品と接触する部分であるノズルへより多くの(熱)出力を供給する2つの部分から成る独立ヒータであってよい。しかし、Hiroyoshiの特許で開示されているヒータは、成形マニホルド又はホットランナーノズルへそれを適用する上で妨げとなる幾つかの重大な欠点を有する。第1に、Hiroyoshiのヒータは取り外しが不可能であり、従ってヒータの寿命が尽きると構成要素全体の交換を必要とする。第2に、このヒータは溶融樹脂を直接加熱するよりも寧ろ、装置のノズル本体全体を非効率的に加熱する。第3に、このヒータは、溶融樹脂の流れにおけるせん断応力の管理のための重要な特徴である溶融樹脂の流れ全体にわたる温度勾配分布制御を行なうことができない。最後に、開示されたヒータの厚さは0.5乃至2mmであり、これはマシンノズルの外側表面に取り付けられる場合は許容範囲内であるが、成形マニホルド又はホットランナーノズル内の溶融チャネルの内側に取り付けられる場合には許容範囲外である。
【0007】
米国特許第5,007,818号及び第5,705,793号は、モールドキャビティの平坦面に直接設けられるヒータの使用を開示している。米国特許第5,504,304号は、厚みの制御が難しいセラミックペーストから形成される取り外し可能なセラミックヒータを開示している。このようなヒータは、ノズル本体又はノズルの先端部との密接な接触をもたらさず、従って伝熱量を減少させ、熱損失を増加させる。ヒータ技術を開示している以下の米国特許第5,155,340号、第5,488,350号、第4,724,304号、第5,573,692号、第5,569,398号、第4,739,657号、第4,882,203号、第4,999,049号、及び第5,340,702号にも言及する必要があろう(これらの各米国特許は、ここで言及することにより本明細書中に開示したものとする)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第5,645,867号明細書
【特許文献2】米国特許第5,614,233号明細書
【特許文献3】米国特許第4,863,665号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、エネルギー、空間、及び位置に関して効率的に成形マニホルド及びホットランナーノズルの溶融チャネルを加熱する方法及び手段のための技術が必要である。
【0010】
更に、コインジェクション又はマルチインジェクションホットランナーノズル内の各溶融チャネルへ、各溶融チャネルの局部的な大きさ及び形状、並びにそのチャネルの中を流れる樹脂の粘弾性特性に基づいて適切な熱量を提供するための効率的な方法及び手段のための技術が必要である。
【0011】
本発明は、成形マニホルド及びホットランナーノズルの溶融チャネル内の溶融樹脂を効率的に加熱すると共に流れを管理するための方法及び装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様によれば、射出成形装置において使用される装置は、ホットランナーと、前記ホットランナーに配置された少なくとも一つの溶融チャネルと、使用時に前記少なくとも一つの溶融チャネルの一部分を加熱するための少なくとも一つのフィルムヒータと、前記少なくとも一つの溶融チャネルに付随の、少なくとも一つの表面と、を含み、前記少なくとも一つのフィルムヒータが、前記少なくとも一つの表面に設けられた第1の誘電層と、前記第1の誘電層に設けられた加熱要素であって、使用時に前記溶融チャネルを加熱するように構成されると共に接触端子を有し、該接触端子が前記加熱要素への電気的接続を支持するように構成されている加熱要素と、前記加熱要素の上に延びるが前記接触端子を被覆せず、よって使用時に前記加熱要素を電源に接続可能な第2の誘電層とを含む。
【0013】
本発明の他の一態様によれば、射出成形装置において使用される装置は、マニフォルドと、前記マニフォルドに配置された少なくとも一つの溶融チャネルと、使用時に前記少なくとも一つの溶融チャネルの一部分を加熱するための少なくとも一つのフィルムヒータと、前記少なくとも一つの溶融チャネルに付随の、少なくとも一つの表面と、を含み、前記少なくとも一つのフィルムヒータが、前記少なくとも一つの表面に設けられた第1の誘電層と、前記第1の誘電層に設けられた加熱要素であって、使用時に前記少なくとも1つの溶融チャネルを加熱するように構成されると共に接触端子を有し、該接触端子が前記加熱要素への電気的接続を支持するように構成されている加熱要素と、前記加熱要素の上に延びるが前記接触端子を被覆せず、よって使用時に前記加熱要素を電源に接続可能な第2の誘電層とを含む。
【0014】
本発明の更に別の一態様によれば、射出成形装置において使用される装置は、ノズルと、前記ノズルに配置された少なくとも一つの溶融チャネルと、使用時に前記少なくとも一つの溶融チャネルの一部分を加熱するための少なくとも一つのフィルムヒータと、前記少なくとも一つの溶融チャネルに付随の、少なくとも一つの表面と、を含み、前記少なくとも一つのフィルムヒータが、前記少なくとも一つの表面に設けられた第1の誘電層と、前記第1の誘電層に設けられた加熱要素であって、使用時に前記少なくとも1つの溶融チャネルを加熱するように構成されると共に接触端子を有し、該接触端子が前記加熱要素への電気的接続を支持するように構成されている加熱要素と、前記加熱要素の上に延びるが前記接触端子を被覆せず、よって使用時に前記加熱要素を電源に接続可能な第2の誘電層とを含む。
【0015】
これら及び他の目標、特徴、及び利点は、全体を通して同一の参照番号が同一要素を示す添付の図面を参照することによって、よりよく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】(A)は、成形マニホルドの円形の溶融チャネルの軸方向断面図である。(B)は、樹脂が溶融チャネルを通って流れる際の樹脂の速度分布を概略的に描写する、図1の(A)の溶融チャネルの長手方向断面図である。(C)は、樹脂が溶融チャネルを流れる際の樹脂のせん断応力分布を概略的に描写する、図1の(A)の溶融チャネルの長手方向断面図である。(D)は、樹脂がマニホルドを通って流れる際の樹脂のせん断応力分布の変動を概略的に描写する、溶融チャネル網を含むマニホルドの断面図である。
【図2】(A)は、一定のせん断速度における温度と粘性との関係を示すグラフである。(B)は、一定の温度におけるせん断速度と粘性との関係を示すグラフである。(C)は、樹脂が溶融チャネルのコーナを曲がった際の樹脂の流れの粘性を示す溶融チャネルの長手方向断面図である。(D)は、樹脂の流れによってチャネル内に形成される境界層を示す溶融チャネルの長手方向断面図である。
【図3】複数の90度ターン(曲部)を示す成形マニホルドの立面斜視図である。
【図4】(A)は、成形マニホルドの概略図である。(B)は、境界層の不均一な形成及び分布を示す、図4の(A)の成形マニホルドの一連の軸方向断面図である。
【図5】ディップとして知られる現象である複数の層の内の1つの不完全浸透を示す、3材料の5層から成るPETプリホームの長手方向断面図である。
【図6】本発明の一実施の形態に基づく薄膜マニホルド及びホットランナーヒータを含む高キャビテーション鋳型(a high cavitation mold)の概略断面図である。
【図7】(A)は、図6の薄膜ヒータ62内の薄膜要素層を示す概略断面図である。(B)は、図6の薄膜ヒータ65内の薄膜要素層を示す概略断面図である。
【図8】(A)は、本発明の他の実施の形態に基づく改善されたホットランナーノズル構成の断面図である。(B)は、ホットランナーノズルの上部において温度が低下しないことを示すグラフである。
【図9】本発明の更に別の実施の形態に基づく改善されたノズルの先端部及びモールドゲートインサートの断面図である。
【図10】図9に示されるノズルの先端部の概略断面図である。
【図11】図9のノズルの構成要素の断面図である。
【図12】本発明の更に別の実施の形態に基づく薄膜ヒータを含む同時多重射出ノズルの断面図である。
【図13】射出ポットを含むと共に、この射出ポット内に薄膜要素を含む成形装置の断面図である。
【図14】(A)は、溶融チャネルの外周に取り外し可能に取り付けられた薄膜ヒータを有する溶融チャネルの軸方向断面図である。(B)は、溶融チャネルの内周に取り外し可能に取り付けられた薄膜ヒータを有する溶融チャネルの軸方向断面図である。
【図15】バルブゲート及び熱ゲートの両方を有する成形装置の概略断面図である。
【図16】(A)は、薄膜ヒータを有するバルブゲート式ノズルの概略断面図である。(B)は、図16の(A)のバルブステムの端部上の熱電対の概略図である。
【図17】図16の(A)の膜ヒータの概略断面図である。
【図18】(A)は、内側及び外側膜ヒータを有するノズルの先端部の概略断面図である。(B)は、図18の(A)のノズルの先端部上の膜ヒータの端面図である。
【図19】(A)は、内側膜ヒータを有するノズルプラグの概略断面図である。(B)は、外側膜ヒータを有するノズルプラグの概略断面図である。
【図20】膜ヒータを有するマニホルド及びノズルの概略断面図である。
【図21】(A)は、膜ヒータを有するモールドゲートインサートの概略断面図である。(B)は、膜ヒータを有するモールドゲートスリーブの概略断面図である。
【図22】異なる幅を有する膜ヒータを有する成形プラグの概略断面図である。
【図23】薄膜ヒータ上の抵抗のパターンの概略図である。
【図24】別の膜ヒータ上の抵抗のパターンの概略図である。
【図25】(A)は、溶融チャネルの内側に配置された膜ヒータを示す図である。(B)は、溶融チャネルの外側に配置された膜ヒータを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は添付の図面と共に説明される。
1.序論
本発明の有利な特徴は、薄膜ヒータ及びセンサ技術を用いたプラスチック射出成形装置に関して説明される。当然ながら、本発明はそのような実施の形態に限定されず、添付の請求項の範囲内であるあらゆる成形技術に適用されてよい。
【0018】
以下で説明されるように、本発明の射出成形システムは、射出装置ノズル内及びモールドキャビティ空間の間の溶融樹脂の流れをより適切に管理し制御するために電気ヒータ及び温度センサを含んでよい。よって、本発明は、移動する溶融樹脂における温度分布を綿密に管理すべく、成形要素の表面上に(例えばマニホルド及び/又はモールドゲート領域隣接位置等に)直接設けてよい能動及び/又は受動膜要素を含むことができる。応用例によっては、これらの膜要素をノズルハウジング及び/又はノズルの先端部上、ランナーレスプローブ上、バルブステム上、又はモールドゲートインサートの表面上に直接設けてよい。他の例の場合、膜要素を、成形システムの予め定められた1つ又は複数の位置に配置される取り外し可能なヒータプラグ上に設けてもよい。能動膜要素が膜ヒータを含み、受動膜要素が熱センサ(例えば、サーミスタ又は熱電対)及び/又は圧力センサを含むことが好ましい。膜要素は単層の要素であってもよいが、電気、熱、及び摩耗特性が異なる複数の膜層のサンドイッチ構造を含んで構成されることが好ましい。単一膜層は通常、高い電気抵抗を有する材料で作成される。溶融樹脂及び成形処理特性の種類に応じ、膜は「薄い」要素及び「厚い」要素の何れかを用いてもよく、これらの要素は、化学的に付着させるか、蒸気で付着させるか、膜噴霧技術で付着させるか、又はこれらと同等の方法を用いて付着されることが好ましい。膜加熱要素及びセンサ要素もまた、射出成形装置内のあらゆる位置で必要に応じてトリム(寸法調整)され設置される、可撓性を有する基板を含んで構成されてよい。
【0019】
このような膜要素を上述の既知のヒータと共に使用することもまた、本発明の範囲内である。(周知のヒータと共に、或いはそれらの代わりに使用される場合)適切な膜加熱要素を慎重に選択することにより、溶融樹脂の温度勾配及び分布を細密に調整し、綿密な熱流制御をもたらすことができる。このような綿密な制御を、溶融樹脂が加熱された空間に入る前に行なうことが可能であり、従って溶融の流れの一定の(又は緻密に管理された)粘性及び速度がもたらされる。
【0020】
膜ヒータが直接付着されると、これにより、ヒータと加熱された表面との間のエアギャップ(風隙)を除去することができ、従って、ヒータと加熱された表面との間の温度伝達(伝熱)を向上させる密着した直接的な接触をもたらし、省エネルギー及びより長いヒータの寿命を達成する。また、膜ヒータを直接付着することにより、より小さく且つよりエネルギー効率が高い成形要素を製作し、成形装置自体の内部で成形要素が占めるスペースをより少なくできるため、成形要素自体の構成及び製造がより単純になる。更に、射出成形装置内の熱流の綿密な管理のために、成形品の品質が顕著に向上する。更に、1度に複数の樹脂層が付着された成形品を成形する場合、膜加熱要素を使用することにより、各層が均一の厚さ及び長さを有することが可能になる。以下で説明される膜ヒータを使用してPETプリホームを成形する場合、アセトアルデヒドのレベルは低下し、マルチキャビティ鋳型のキャビティ全体にわたってより均一に分配される。これは、温度がマニホルド全体にわたってきわめて均一になるように、膜ヒータが溶融チャネルに隣接して配置されると共に、個々に制御及び駆動されてよいためである。
【0021】
また、モールドゲート領域での加熱制御を向上させることにより、成形されたプリホームのスプルーゲート(痕跡部)を、どんな小さな結晶も実質的にプリホーム壁を貫通できないほどに非常に小さくできる。
【0022】
更に、本発明の膜ヒータを用いることにより、同一ノズルを介して2つの異なる色の樹脂を成形する場合に著しい利点がもたらされる。綿密な熱制御により、ある色から別な色への変化がくっきりと明瞭になり、最終的な製品の品質が向上すると共に不良品を減らせる。
【0023】
従って、本発明の膜ヒータは、加熱される面に密着し、より速い加熱応答時間及びより低い温度慣性をもたらすことができ、鋳型の様々な異なる領域に配置できるほどに小さく、また、厳しく制限された温度分布をもたらすことができるので、より速い成形、生産物におけるより高い品質、装置部品の小型化、エネルギー消費量の削減、及びより長い装置寿命が可能となる。
【0024】
本発明の膜センサを使用することによって、処理全体についてのより綿密な温度管理及び制御を達成することができる。このような膜センサは、既知の熱電対よりも多くの位置に配置することができ、また取り付け、保守、及びモニタリングも容易である。従って、処理のフィードバック及び制御も、本発明の膜センサにより向上する。
【0025】
2.本発明の好適な実施の形態
本発明の実施の形態によれば、溶融チャネル内の熱及び流れの管理を向上させるために、コンパクトな能動及び/又は受動膜要素を、例えばスプルーブッシュからモールドキャビティ空間までの溶融チャネルに沿って配置する。薄膜の先端技術を用いて製造され得る能動要素は、コンパクトであり、信頼性が高く、安定しており、且つエネルギー効率がよい。有利なことに、能動要素は溶融樹脂の流れの近く又はそれと直接接触する位置に配置することができる。能動要素は、薄膜ヒータ、サーミスタ、熱電対、抵抗温度検知器、圧力センサ、ガスセンサ、光学誘導漏れセンサ(optical guide leakage sensor)の何れか、又はこれらの組合せ及び同等なものであってよい。同様に薄膜技術を用いて製造され得る受動要素は、能動要素と相互に作用し、電気絶縁性及び断熱性を有する材料及び/又は耐摩耗材料から製作されてよい。受動要素は、溶融樹脂の層流を向上させるために溶融樹脂の流れと直接接触することが好ましい。これらの薄膜要素を用いることにより、射出成形処理の熱管理及び全体の制御を最適化することができる。特に、薄膜要素は、局所的な及び状況に応じた個別の必要性に応じてマニホルド又はホットランナーノズル内の樹脂を直接加熱してよい。更に、薄膜要素の使用は、溶融チャネルの材料選択及び構成要素の大きさに有利な影響を及ぼす。
【0026】
また、本発明の実施の形態は、鋳型に接続又は埋設された革新的な成形コントローラ及び論理演算手段を提供する。成形コントローラ及び論理演算手段は、射出成形装置のコントローラ及びマイクロプロセッサから物理的に独立して、しかしこれと通信可能に構成されている。この点については、本発明の出願人に譲渡された、米国特許第5,320,513号(Schmidt,ここで言及することにより本明細書中に開示したものとする)を参照する。Schmidtは、ホットランナーノズルヒータ及び温度センサをコネクタを介して装置のコントローラに接続する成形集積回路基盤を開示している。本発明の実施の形態では、Schmidtにより開示された成形品のプリント回路基盤が更に、成形コントローラ及び/又は成形マイクロプロセッサにより生成される制御及び論理信号を処理する。従って、処理の最終段階で鋳型を扱うオペレータは、様々な射出成形装置に関連した成形品の処理パラメーターをよりうまく操作することが可能になる。成形装置のインターフェースにより、鋳型又は装置、或いはこの両方を特定の射出成形処理条件のために調整できるようになる。また、このインターフェースにより、射出成形制御の複雑さが軽減される。成形コントローラと装置のコントローラとの間の通信、及び/又は能動薄膜要素と成形コントローラとの間の通信は、有線又は無線の手段で達成され得、後者を用いれば更にそうした線の接続の複雑さが軽減される。
【0027】
成形熱管理及び処理制御は、応用例、使用される樹脂の種類、成形マニホルド及びホットランナーノズルの構成、及びモールドキャビティ数に依存する。本実施の形態は、幾つかの成形処理における熱管理及び処理制御を改善するために適用され得、それらの処理の内の3つは、高キャビテーション鋳型に関し、より詳細には吹込み可能なPETプリホームの射出成形に関する。
【0028】
本発明の第1の適用例は、射出処理中に鋳型において必然的に生成されるアセトアルデヒド(以下「AA」と称す)を削減し、且つより均等に分散させる。本発明の出願人により出願された欧州特許出願293 756 A2(Halar他,ここで言及することにより本明細書中に開示したものとする)は、AAの形成に関する問題点を徹底的に論じている。Halar他によると、PETがマニホルドチャネルを流れる際に、高レベルのAAがPETの不均一な熱劣化により生成される。この現象が、成形マニホルドのチャネル22を通る樹脂の流れの速度分布20及びせん断応力分布24が概略的に示されている図1の(A)、(B)及び(C)において示されている。溶融チャネルの断面構成26のため、せん断応力が最小であるチャネルの中心で樹脂は速く流れ、従って流れの長手方向中心に関して対称である境界層を形成する。温度分布はせん断応力分布と類似し、即ち、樹脂の温度はチャネルの中心で最も低い。しかし、多くの成形の応用例において、樹脂の流れは図1の(B)及び(C)に示されるような直線の通路を辿らず、寧ろ同時に複数のキャビティ空間に注ぎ込む一連の分岐チャネルを介し、少なくとも1回以上角張ったターンを行う(図3参照)。図1の(D)に示されるように、1つのチャネル21を通る樹脂の流れが最初の2つのチャネル27及び29等の幾つかの分岐に90度の角度で分流されると、速度、せん断応力、及び温度分布は樹脂の流れが外側のコーナ25よりも内側のコーナ23の近くで低速になるため非対称になる。この段階で、せん断応力及び温度の値30は、外側のコーナ25の近くでの値28よりも内側のコーナ23の近くで高くなる。この非対称な反応は、流れが再度チャネル31及び33に分流されるとそれぞれ更に助長及び減少される。せん断応力及び温度分布32及び36はそれぞれ非対称であるだけでなく、互いの形状も異なる。
【0029】
Halar他は、高キャビテーション鋳型の異なる溶融チャネルでの異なる非対称分布が、成形されるパリソンにおけるAAの差をもたらすことを教示している。Halar他によると、AAのレベルは成形マニホルドの溶融チャネル内に静止ミキサ(static mixers)を備えることによって最小化され、より均一にされてよい。しかし、残念ながら静止ミキサは圧力低下及びせん断応力の上昇を誘発する。米国特許第5,421,715号(Hofstetter他,ここで言及することにより本明細書中に開示したものとする)は、マニホルドチャネル内でのスポークと呼ばれる静止した金属要素を使用することにより乱流を発生させ、流れ全体にわたって温度分布を均質化してAAのレベルを低下させることを開示している。Hofstetter他のスポークは、Halar他の静止ミキサとほとんど変らず、従って理想的な解決策ではない。要するに、溶融チャネル内に機械的な障害物を備えることは、射出キャビティ内のAAのレベルをより均一に分散させる可能性はあるが、それにより新たな問題を生み出す。
【0030】
本発明の第2の適用例は、流れが突然方向を変える場合に形成されることが多い温度及び粘性の境界層を抑制することにより、高キャビテーション鋳型のより均一な充填を促進する。図2の(A)及び(B)は、溶融樹脂の典型例における温度と粘性及びせん断速度と粘性の関係を表すグラフを示す。図2の(C)及び(D)に示されるように、内側の層40は、真中、及び外側の層よりも高温であり、且つ低速で移動する。図3に示されるように、マニホルドが複数のキャビティに流れを注ぎ込む構造の場合、境界層の形成により、図4の(A)及び(B)に示されるように各キャビティの樹脂の流れに非対称な温度分布、非対称なせん断応力分布、及び非対称な速度分布をもたらす。Halar他によっても言及されているこの問題は、本発明の出願人に譲渡された、同時係属出願である米国特許出願番号第08/570,333号(Deardurff他,ここで言及することにより本明細書中に開示したものとする)で開示されているような「溶融フロー再分配装置(melt flow redistributor)」を使用することによって解決されてよい。「溶融フロー再分配装置」は、溶融チャネル内の90度で屈曲した後流側に配置される。そのように配置されることにより、この装置は、中央の層よりも熱劣化している樹脂の外側の境界層を、幾つかの溶融チャネルにバランスのとれた比率で導く。この装置は静止ミキサとは別に作動するため、圧力低下は誘発されない。しかし、この「溶融フロー再分配装置」は組み立て及び保守管理が比較的難しい。
【0031】
上記第2の適用例から派生する本発明の第3の適用例は、ディップ(dip)として知られる現象を克服するものである。ディップは同時多重射出(コインジェクト)された層内の不均一な又は未充填の部分である。図5は、典型的な3つの材料(A−B−C)から成る5層(A1−A2−B1−B2−C)のPETプリホーム46で生じるディップ現象を示す。長さLのディップはプリホーム46の頚部Nに現れる。3つの樹脂A−B−Cは、5層の吹込み可能なプリホームを形成するために従来の射出手段を使用して順次、又は同時に多重射出される。頚部の空間の一部が他の樹脂(処女材料(virgin))によって占められることにより、樹脂の1つ(通常はバリヤ材)が頚部の空間を完全に充填しなくなるため、ディップは許されない。ディップはマニホルド内の境界層の形成により引き起こされると考えられる。これらの境界層は溶融樹脂の流れ全体にわたって不均一の温度及び粘性分布をもたらし、これがディップを引き起こす。ディップは溶融チャネル内に静止ミキサを設けることにより改善され得るが、前述のようにそのような静止ミキサは新たな問題を生み出す。
【0032】
本発明は、従来のコイル又はバンドヒータを、溶融チャネルに沿って戦略的に配置されると共に所望の熱分布をもたらすように個々に制御される膜ヒータに取り替えるか、又はそのような膜ヒータを追加することにより、AA、不均一な充填、及びディップといった問題を克服する。例えば、溶融チャネル全体にわたって一定の温度分布をもたらすために、各コーナ23に隣接して配置された薄膜ヒータを、溶融チャネルの隣接領域22に配置された薄膜ヒータより多くの熱を樹脂の流れに供給するように制御することが可能である。このように配置されることにより、薄膜ヒータは、流れる樹脂の速度、温度、及びせん断応力分布を各溶融チャネルの幾何学的形状及び隣接する溶融チャネルどうしの交角に応じて変化させることができる。
【0033】
本発明の第4の適用例は、多くの場合、溶融樹脂がモールドキャビティ空間に入るまでの間に流れに最適温度分布をもたらさない現在の射出成形構成要素に対する、様々な改良に関する。本発明の適用から利益を得るであろうそうした構成要素の例には、同時多重射出(coinjection)ホットランナーノズル、エッジゲートノズル、射出ノズルの先端部、ノズル−マニホルドインターフェース、リムゲートノズル、モールドゲートインサート等が含まれる。
【0034】
ここで、膜加熱要素及び絶縁層を具体化する改良された構成要素を、本発明の出願人に譲渡された、幾つかの米国特許(ここで言及することにより本明細書中に開示したものとする)を参照しながら説明する。
【0035】
図6は、高キャビテーション鋳型スプルーブッシュ62、マニホルド64、及びホットランナーノズル66を示す概略断面図であり、鋳型スプルーブッシュ62、マニホルド64、及びホットランナーノズル66はそれぞれ薄膜ヒータ63、65、及び67を使用して加熱される。各薄膜ヒータは、組み合わされた受動薄膜材料の間に挟まれた薄膜の導電性材料から成る能動膜を含んで構成される。この薄膜ヒータが溶融樹脂に直接接触するように内側に配置される場合、薄膜ヒータ63は、(図7の(A)に示されるように)チャネルから順に、耐摩耗膜72、電気絶縁膜74、電気抵抗ヒータ膜76、もう1層の電気絶縁膜78、及び断熱膜79を含み得る。薄膜ヒータ65が(図7の(B)に示されるように)外側に配置される場合には、耐摩耗膜は省略されてもよい。同様に、応用例によっては断熱膜が省略されてもよい。
【0036】
図8の(A)は、マニホルド80、マニホルドブッシュ82、及びホットランナーノズル84がそれぞれ薄膜電気ヒータ81、83、及び85を使用して個々に加熱される射出鋳型の改良された構成を示す。薄膜ヒータ87をノズル本体の内部に溶融樹脂と接触して配置してよいので、図8の(B)の破線で示されるようにホットランナーノズルの上部Aでは温度降下は生じない。
【0037】
図9は、本発明の実施の形態のホットランナーノズルの先端部の改良された構成を示す。能動及び受動薄膜要素が、ホットランナーノズル本体90の内側に溶融チャネル92に沿って且つモールドゲート領域94に近接して配置される。能動薄膜要素は、樹脂を最適温度に維持するためのヒータ91、93、95、及び97である。コンパクトであること及び省エネルギーであること以外に、薄膜ヒータは他の幾つかの重要な利点をもたらす。例えば、薄膜ヒータは、モールドゲートのごく近接位置等の、コイルヒータには接触不可能な領域に容易に配置される。
【0038】
例示される実施の形態において、薄膜ヒータ95はノズルの先端部の分流チャネルに沿って配置される。また、薄膜ヒータ97は、モールドゲートをより効果的に加熱するためにモールドゲートインサート98の内周に配置されてもよい。モールドゲートインサート内に薄膜ヒータを配置することにより、「色変化」の準備に関して更なる利点が提供される。当該技術で既知のように、同一ではあるが色が異なる部品を成形するために樹脂を変更する場合、ノズルチャネルから第1の樹脂を「流出」させなければならない。薄膜ヒータ97をモールドゲートインサートの内周に配置することにより、ゲートチャネルからの流出を容易にするためにインサートを加熱することができる。また、ヒータは97及び99で示されるような熱電対に連結されてよい。
【0039】
更にモールドゲートインサートは、薄膜圧力センサ96及び/又は薄膜温度センサ(図示せず)を含んでもよい。図10は、ノズルの先端部90'の周囲の圧力センサ96及び熱電対100の配置を示す。図11に示されるように、ホットランナーノズルおよびモールドゲートインサートの各構成要素は、その取り外し、製造及び保守点検が共に容易である。
【0040】
図12は、本発明の更に別の実施の形態の薄膜ヒータを有する同時多重射出ノズルを示す。少なくとも1つの薄膜ヒータを、各樹脂の温度をより適切に制御するために各同時多重射出チャネルのハウジングの周囲又は内部に配置してよい。この実施の形態では、チャネル110が樹脂Aを運び、チャネル112が樹脂Bを運び、そしてチャネル114が樹脂Cを運ぶ3チャネルノズルが示される。バルブゲートステム116はノズルチャネルとキャビティ空間118との間の連通を選択的に遮断する。薄膜ヒータ111、113、及び115はそれぞれチャネルの内側に配置される。しかし、特定の応用例においては、2つのチャネル間の壁が薄い及び/又は熱伝導性である場合、一方のヒータに2つのチャネルを加熱させることによって2つのヒータのみを使用することも可能である。例えば、図12においてヒータ111は樹脂A及びBの双方を加熱するのに十分であり得る。薄膜ヒータは溶融樹脂の流れと直接接触するので、耐摩耗膜を流れの隣接位置に直接設けられてもよい。
【0041】
図13は、ホットランナーノズル122へ供給される樹脂の量を計るための射出ポット120を含む成形装置を示す。射出ポットは通常、同時多重射出成形で一般に必要とされる正確に測定された層等のように厳密な重量要件を満たさなければならない部品に射出する際に使用される。本発明では、薄膜ヒータ121は、マニホルド124上に配置されたヒータ123、125等の他の薄膜マニホルドヒータとは独立して射出ポット領域を加熱するために射出ポット領域に配置される。更に、薄膜温度センサを射出ポット領域に配置してよい。
【0042】
図14の(A)及び14の(B)は、それぞれホットランナーノズルの外側又は内側に薄膜ヒータを取り外し可能に取り付けるための好ましい手段を示す。薄膜ヒータは、ばねのような特性を示してよい可撓性を有する薄い帯状の基板に配置される。このように取り付けられた薄膜ヒータは、故障の発生時に容易に交換できる。図14の(A)では、薄膜ヒータ140がノズル130の外側に配置され、例えば電気絶縁層132、導電層134、及び電気絶縁層136を含み得る。コネクタ138はノズル130のチャネル内に嵌合し、弾性のあるヒータ140の2つの端部を保持する。このような構成により、樹脂及び溶融チャネル139へ局所的に熱を供給することができる。図14の(B)では、ヒータ140がノズル130の内側に配置され、ヒータ140もまた層132、134、及び136を含んで構成されてよい。また、ヒータ140の摩耗に備えるために摩耗層(図示せず)を層132と溶融チャネル139との間に設けてもよい。層134内の加熱要素が、ノズルの円周の一部分にのみ延べてよいこと、この加熱要素がどのような構造(螺旋状、平面状、帯状、山歯状、環状等)であってもよいことはもちろんである。更に、加熱要素のノズルの軸方向に沿った長さも適宜変更してよい。
【0043】
図15は、ホットランナーバルブゲート及びホットランナー熱ゲートの双方を有する射出成形装置を示す。溶融樹脂は装置の射出ノズル(図示せず)からスプルーブッシュ150を介してマニホルド152及び各ノズルの溶融チャネルへ進む。ブッシュ及びマニホルドを通る溶融樹脂の流れは、既知のバンド又はコイル式電気ヒータを使用して最適温度に維持されてよい。溶融樹脂は次に各ノズルを介してそれぞれのモールドキャビティ154及び156に射出される。ホットランナーバルブゲート158は、樹脂がバルブゲート158を通ってキャビティ154に流れる際に溶融樹脂を正確な所望の温度に維持するために、バルブゲート158に連結された薄膜ヒータ159を有する。同様に、ホットランナー熱ゲート157は、樹脂がキャビティ156に流れる際に溶融樹脂の温度を精密に制御すべく、熱ゲート157と連結された薄膜ヒータ155を有する。
【0044】
図16の(A)は、膜ヒータがステムの先端部に直接付着され、熱電対がステムの端部に直接付着されたバルブゲート式ホットランナーノズルの概略断面図である。バルブゲート式ノズル160は、モールドキャビティ空間166を含む成形プレート164'に当接する成形プレート164内に嵌合するノズルの先端部162を有する。移動可能なバルブステム168は、例えば図16の(A)に示されるようなパターンでバルブステム168の外部表面上に付着された膜ヒータ167を有する。熱電対は、図16の(B)に示されるように、バルブゲート自体で正確に温度測定できるように、バルブステム168の端部に付着されることが好ましい。
【0045】
図16の(A)に概略的に示されるように、膜ヒータ167は(複数の)端子163を介して電気接点161に連結されてよい。同様に、電気接点165は(複数の)端子169と接触するように配置される。電気接点は、上述のSchmidtの特許に記載されているような成形制御プロセッサ1000に連結される。
【0046】
図17は、図16の(A)の膜ヒータ167の断面図である。バルブステム168に最も近接しているのは、電気絶縁材料から形成される層171である。次は、加熱要素を形成する電気抵抗材料を含む層173である。その外側は、電気絶縁材料を含んで構成され、また高い伝熱特性を有する層175である。
【0047】
図18の(A)は、ノズルの先端部180の下部外側表面に配置された膜ヒータ181を示す概略断面図である。図18の(B)に示されるように、膜ヒータ181は、溶融チャネル182及び183を囲む抵抗配置パターンを有してよい。膜ヒータ端子184及び184'は電気接点(図示せず)に接続されてよい。
【0048】
また、ノズルの先端部180は、その外側表面に配置された膜ヒータ191を有するヒータプラグ190(以下で説明される)を有してもよい。ヒータプラグ190は、ノズルの先端部180の溶融チャネル186内に配置される。両方の膜温度センサ(図示せず)もまた、溶融チャネル186内の溶融樹脂の温度をモニターするためにノズルの先端部180の表面上(都合のよい場所であればどこでもよい)に配置されてよい。温度センサは、モールドゲートオリフィスに非常に近接した位置で溶融樹脂と直接接触するように配置された膜熱電対であることが好ましい。
【0049】
ノズルの先端部180は、如何なる配線も切断することなく先端部を素早く組み立てたり及び取り外したりできるバイオネット(差込み)機構等の敏速な取り外し可能な機構によってノズル本体に取り付けられた熱電対及びヒータのための電気コネクタを含むことが好ましい。そうした構成の例として、仮に1つが壊れても他方が作動するように、互いに近接する位置に2つの熱電対を設けることが好ましい。
【0050】
図19の(A)は、膜ヒータ及び膜センサを射出成形装置の溶融チャネルに適用するための便利、且つ簡単な方法である膜ヒータプラグ190の概略断面図である。プラグ190は金属プラグ192を有し、金属プラグ192は、その内側表面に溶融チャネル194と隣接して配置された膜ヒータ193を有する。ヒータ193は、内側の耐摩耗層195、電気抵抗層196、電気絶縁層197、及び断熱層198を含んで構成されることが好ましい。このような構成の利点は、プラグ190を小さく形成できると共に、溶融チャネル内のあらゆる地点に交換可能に配置できることである。プラグは、例えば、マニホルド、ホットランナーハウジング、又はノズルの先端部内等の鋳型の溶融チャネルと整合したあらゆる位置で使用されてよい。溶融チャネルは、そのようなヒータプラグが溶融チャネルに沿ったあらゆる都合のよい位置に配置され得るように、補完的な構造で構成されることが可能である。更に、このようなプラグは、溶融チャネルに沿ったあらゆる位置にフィットするように直線状でも、T字型でも、又は曲がっていてもよい。可撓性を有する膜ヒータを小型の交換可能なヒータプラグの内側表面に配置することは非常に容易であるので、これにより(図3に示されるような)長い溶融チャネルマニホルドの内側表面上にこのヒータを配置するためのコストを省くことができる。
【0051】
図19の(B)は、ヒータ193が外側表面192上に配置されるヒータプラグ190の更に別の実施の形態を示す。この例において、内側層195'は高い伝熱特性を有する誘電体を含んで構成され、層196'は電気抵抗性を有する加熱要素であり、そして層197'は断熱材である。応用例によっては、耐摩耗層を層197'の外側に付着してもよい。同様に、耐摩耗層198'を、溶融樹脂の摩耗に対する抵抗性を高めるべくプラグ190の内側に付着してもよい。
【0052】
図20は、取り外し可能なヒータプラグ201及び202の射出成形装置内への適用を示す。ヒータプラグ201は、その外側表面に膜ヒータ203を有すると共にマニホルド204内に配置され、マニホルド204は、例えば従来のマニホルドヒータ205によって加熱されてもよい。
【0053】
ヒータプラグ202は、ノズルヘッド206及びノズル本体207内に配置され、溶融チャネル209に隣接してプラグ202の内側表面に配置される耐摩耗層(スリーブ)208を有する。膜ヒータ210は、ノズルの先端部211に隣接してヒータプラグ202の外側表面上に配置される。ノズルハウジング212は、断熱材で作られることが好ましい。ヒータプラグ201及び202は、CuBe(ベリリウム銅)等の熱伝導性の高い材料から作られることが好ましい。ヒータプラグ201及び202はモジュール式に構成され取り外し可能であるので、これらのプラグは修理のため、又は異なる種類の可塑性樹脂の成形のために容易に交換されてよい。
【0054】
図21の(A)は、ノズルの先端部(図示せず)及びモールドゲートオリフィス212に隣接する内側表面に配置された内側膜ヒータ211を有するモールドゲートインサート210の概略断面図である。モールドゲートインサート210は取り外し可能であるので、コネクタ213がモールドゲートインサート210の表面上に配置され、これにより電気接続配線が膜ヒータ211まで延びる。コネクタ213は、モールドゲートインサート210全体が素早く、且つ容易に交換可能なようにノズルハウジング又は成形プレート(図示せず)内の同様のコネクタと嵌合する。
【0055】
図21の(B)は、モールドゲート本体216の1つ又は複数の外側表面に膜ヒータ217が配置されたモールドゲートスリーブ215の概略断面図である。また、モールドゲートスリーブは容易に交換可能であるので、欠陥のあるヒータの交換、又は異なる種類の樹脂に応じたヒータのヒータ容量の変更が容易である。
【0056】
図22は、外側表面に配置された膜ヒータを有するヒータプラグ220の概略断面図である。しかし、膜ヒータ層は、図22の左側の部分に示されるような、工学的に配慮された温度分布をもたらすべく、領域A、B、及びCにおいて厚さが異なる。これは例えば、部分A及びCが、成形処理中に冷却される成形プレートに隣接して位置付けられる成形応用例において使用できる。このようにして、溶融チャネル222内を流れる溶融樹脂は一定温度を維持される。この実施の形態において、耐摩耗性の高いスリーブ223がヒータプラグ220の内側表面に配置されることに注意されたい。
【0057】
図23は、2つの矩形パターンの加熱要素を有する本発明の薄膜ヒータの概略図である。ヒータ231は、長さがLであり、ピッチがP1である要素を有する。ヒータ232は、ヒータ231と同様に長さLであるが、異なるピッチP2である加熱要素を有する。従って、同一の薄膜要素が、溶融チャネルの隣接し合う領域に異なる加熱特性をもたらし得る。接触端子は、ヒータが取り付けられるべき溶融チャネル構造に電気接点を容易に係合させるのに適した長さLt及び幅Tを有する。
【0058】
図24は、各端部に接触端子を有する蛇行した形状の加熱要素235を有するヒータの概略図である。
【0059】
図25の(A)は、溶融チャネルの内側に配置されるように屈曲した膜ヒータを示し、図25の(B)は、溶融チャネルの外側で屈曲した種類のヒータを示す。
【0060】
以下の材料、付着技術、及びパターン形成方法は、成形要素又は膜ヒータプラグ上に直接付着される複合膜ヒータを製造するために使用される様々な層(これらの層の厚さは5ミクロン未満から2〜3ミリメートルまでの範囲で変動してよい)のために推められる材料、技術及び方法である。
【0061】
電気抵抗材料:TiN;タングステン、モリブデン、金、白金、銅、TiC、TiCN、TiAlN、CrN、パラジウム、イリジウム、銀、導電性インク
【0062】
電気絶縁材料:酸化ベリリウム;本明細書に参考文献として組み入れられた米国特許第5,653,932号及び米国特許第5,468,141号で開示されている材料も参照のこと。
【0063】
耐摩耗材料:チタン、チタン合金、クロム、無電解ニッケル、本明細書に参考文献として組み入れられた米国特許第5,112,025号で開示されている材料も参照のこと。
【0064】
付着技法:イオンめっき、スパッタリング、化学的蒸着(CVD)、物理的蒸着(PVD)、フレーム熔射(flame spraying)
【0065】
膜パターン形成手法:マスクを介してのエッチング;レーザー除去;導線マスキング、機械的除去
【0066】
加熱要件の例:ワット密度 240Vで40乃至80W/平方インチ
図13を参照
帯域A:37mm 150W(先端部)
帯域B:75mm 50W(中央部)
帯域C:34mm 100W(ヘッド部)
1つ又は複数のヒータ
【0067】
パターン形成手法:レーザー除去;旋盤;マスクを用いた配線、エッチング
【0068】
付着技法:スパッタリング
【0069】
材料:白金、タングステン、モリブデン
【0070】
成形応用例のための膜センサ
膜温度感知要素は、例えば、米国特許第5,215,597号(Kreider)、米国特許第5,573,335号(Schinazi)、R.Holandaによる1993年2月のNASAレポートE-7574、及びL.C. Martin他による1994年8月のNASAレポートE-9080で開示されており、これらの全てはここで言及することにより本明細書中に開示したものとする。
【0071】
サーミスタ、他の半導体に基づく装置、又は抵抗温度検知器(RTD)等のあらゆる膜温度感知装置は、本発明の範囲内に含まれる。この点に関しては、米国特許第4,968,964号(Nagai他)、及びHeraeusの白金抵抗温度検知器(P−RTD)カタログを参照し、これらについてはここで言及することにより本明細書中に開示したものとする。また、本発明は、膜熱電対の好ましい代替物として更に薄膜RTDを含むが、これは薄膜RTDが付着及びエッチングのより容易な単一の薄膜材料から作られるという利点をもたらすからである。
【0072】
本発明では、膜熱電対の材料として、現在の熱電対標準(ANSI等)に適合し、成形部品の支持基板上に付着可能な材料を選択することが好ましい。従って、膜熱電対の構成上の主要目標は、薄膜ヒータの抵抗材料と同一か、又はそれに近い材料から成る導線のための2つの異種物質を選択することである。インスレーション・シール インコーポレイテッド(Insulation Seal Inc.)及びSRSコーポレーション(SRS Corp.)により発表された以下の商用データは、幾つかの標準的な熱電対のための材料選定及び特性を示し、このデータもまた膜熱電対を製造するための指針として使用されてよい。
【0073】
熱電対の組合せ 熱電対温度 媒体標準誤差
ANSI 材質及び極性 (最大)
タイプ
銅(+) 350℃
T コンスタンタン(−)
鉄(+) 750℃ +/−2.2℃
J コンスタンタン(−)
クロメル(+) 900℃ +/−1.7℃
E コンスタンタン(−)
クロメル(+) 1250℃ +/−2.2℃
K アルメル(−)
白金13%ロジウム(+) 1450℃ +/−1.4℃
R 白金(−)
白金10%ロジウム(+) 1450℃ +/−1.4℃
S 白金(−)
タングステン5%レニウム(+) 2320℃
C タングステン26%レニウム(−)
白金30%ロジウム(+) 1700℃ +/−4.4℃
B 白金6%ロジウム(−)
【0074】
本発明では、膜熱電対が周知のマイクロリソグラフィー技法を使用して作られ、この技法は、寸法における非常な高精度、熱電対の基板への優れた付着力、及び2つの異種材料間の優れた接続性を保証する。マイクロリソグラフィー技法の更に別の利点は、高キャビテーション鋳型に取り付けられることになる複数の温度感知要素に関してこれらに付着される合金の厚さが等しくなることを保証するために、一群の熱電対が同時に製造可能なことである。更に別の利点は、追加コスト無しで、且つ同じスペース内に、「バックアップ」又は参照用熱電対を、使用される熱電対の位置に近接して実際に配置することができることである。このようにして、如何なる理由にせよ、現在の熱電対が応答に失敗すると、成形処理又は鋳型の保守管理を妨げることなくバックアップを起動することができる。
【0075】
好ましい実施の形態において、薄膜(Rクラスの)熱電対は、ロジウム13パーセントの白金ロジウムと白金とから作られ、周知のスパッタリング処理を用いてクラス1000のクリーンルームで製造される。薄膜線のリード線に対する位置に応じ、既知のパラレルギャップ溶接法を用いて接続がなされる。この熱電対は、1000℃を超える温度に耐え得るので、溶融チャネルに沿ったあらゆる位置に配置されることが可能である。
【0076】
従って、上述されたのはユニークな構造及び機能であり、それによって、成形装置における加熱、感知、及び溶融制御の単純化、容易な交換が可能となると共に、成形品をより素早く、より安価に、且つより高品質で提供するためのカスタマイズが可能である。
【0077】
本発明は、現在好ましいと考えられる実施の形態に関して説明されたが、本発明は開示された実施の形態に限定されないことを理解されたい。反対に、本発明は、前述の請求項の精神及び範囲内に含まれる様々な変更並びに同等な装置を含むことを意図する。付随する請求項は、そのような変更並びに同等な構造及び機能の全てを含むように最も広い解釈が与えられるべきである。
【符号の説明】
【0078】
62 スプルーブッシュ
63、65、67 薄膜ヒータ
64 マニホルド
66 ホットランナーノズル
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形処理のための熱管理及び処理制御における改良に関し、より詳細には、モールドキャビティ空間への溶融樹脂の流路に沿って配置された能動及び/又は受動膜加熱要素及び/又は感知要素の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形処理において、樹脂が射出成形装置のノズルから成形スプルーブッシュ、成形マニホルド(連結管)、及びホットランナーノズルを経て、射出成形品を形成するために樹脂が冷却されるモールドキャビティ空間に流れる際に、樹脂を溶融状態に維持することが重要である。更に、キャビティ空間への適切な充填を確実にするために、樹脂の流れのせん断応力分布をモニターし、管理しなければならない。モールドゲートに近接した領域の温度は、成形品がキャビティから取り除かれるまでに高温状態と低温状態の間を敏速に反復するため、せん断応力分布のモニター及び管理がこの領域では特に重要である。また、温度制御問題も、PET(ポリエチレンテレフタラート)等のある種の感熱材料をマルチキャビティ鋳型で成形する場合、又は単一のホットランナーノズルを介して射出される複数の異なった材料から形成される成形品を成形する場合に非常に重要である。従って、特に成形マニホルド及びホットランナーノズルでの射出成形処理における熱管理及び処理制御の改善に多大な努力が向けられてきた。現在まで、幾つもの方法及び手段が用いられてきたが、その成功の度合いは様々である。一般に使用されている方法及び手段には、ヒートパイプ、高周波誘導ヒータ、マイクロ波ヒータ、セラミックヒータ、赤外線ヒータ、電気ヒータ等が含まれる。このような電気ヒータには、スクリューバレル(screw barrel)の内部、マシンノズル、マニホルド、ホットランナーノズル、及びモールドゲート領域の溶融樹脂を加熱するために使用される複数のコイルから成るヒータ、バンドから成るヒータ、又はカートリッジヒータが含まれる。
【0003】
米国特許第5,645,867号(Crank他,ここで言及することにより本明細書中に開示されたものとする)は、成形マニホルドの加熱に関する現在の技術を示している。Crank他は、マニホルドの外側表面上に赤外線ヒータを配置することによるマニホルドの加熱を教示している。しかし、そのような従来のマニホルド加熱装置においてよく見られるように、ヒータにより生成される熱の相当量が、マニホルドブロックに含まれる溶融チャネルを流れる樹脂を直接加熱するよりも寧ろ、マニホルドブロック全体を加熱するため、無駄になる。
【0004】
米国特許第5,614,233号(Gellert,ここで言及することにより本明細書中に開示したものとする)は、螺旋状の電気ヒータがホットランナーノズルを取り囲む螺旋状の溝に埋設される、ホットランナーノズルためのヒータを開示している。このヒータは、酸化マグネシウム粉等の、耐火性を有する粉状電気絶縁材料に包まれた抵抗ワイヤを含む。ヒータの螺旋状の部分は、螺旋状の溝にはまるようにプレスされ、溝に沿った形状に整えられる。しかし、開示されたヒータは、ホットランナーノズルの本体及びその中に含まれる溶融チャネルの両方を比較的非効率的な加熱機構で加熱する。更に、そうした螺旋状の溝を製造し、その中にヒータを組み込むのは、時間がかかる上にコストがかさむ。
【0005】
前述の従来のヒータに伴う問題点は、コインジェクション及びマルチインジェクション成形マニホルド並びにホットランナーノズルにおいて特に顕著である。例えば、米国特許第4,863,665号(Schad他,ここで言及することにより本明細書中に開示したものとする)は、3つの溶融チャネルを同時に加熱するためにホットランナーノズルの外側表面に取り付けられた単一の電気ヒータの使用を開示している。しかし、Schad他は、幾つかの欠点に直面している。第1に、内側のチャネルへは外側のチャネルに対してよりも少量の熱しか伝達されない。第2に、各チャネルに供給される熱を、各チャネルの大きさ及び各チャネル内を流れる樹脂の粘弾性特性に応じて変更することができない。
【0006】
欧州特許312 029 B1(Hiroyoshi,ここで言及することにより本明細書中に開示したものとする)は、成形装置へ樹脂を導くノズルの外側表面上にフレーム溶射される絶縁セラミック膜から形成されるヒータを開示している。このヒータは、ノズルを完全に覆う連続領域ヒータ、複数の長尺状ストリップ(細長片)から形成されるヒータ、螺旋状のストリップから形成される薄膜ヒータ、又は成形品と接触する部分であるノズルへより多くの(熱)出力を供給する2つの部分から成る独立ヒータであってよい。しかし、Hiroyoshiの特許で開示されているヒータは、成形マニホルド又はホットランナーノズルへそれを適用する上で妨げとなる幾つかの重大な欠点を有する。第1に、Hiroyoshiのヒータは取り外しが不可能であり、従ってヒータの寿命が尽きると構成要素全体の交換を必要とする。第2に、このヒータは溶融樹脂を直接加熱するよりも寧ろ、装置のノズル本体全体を非効率的に加熱する。第3に、このヒータは、溶融樹脂の流れにおけるせん断応力の管理のための重要な特徴である溶融樹脂の流れ全体にわたる温度勾配分布制御を行なうことができない。最後に、開示されたヒータの厚さは0.5乃至2mmであり、これはマシンノズルの外側表面に取り付けられる場合は許容範囲内であるが、成形マニホルド又はホットランナーノズル内の溶融チャネルの内側に取り付けられる場合には許容範囲外である。
【0007】
米国特許第5,007,818号及び第5,705,793号は、モールドキャビティの平坦面に直接設けられるヒータの使用を開示している。米国特許第5,504,304号は、厚みの制御が難しいセラミックペーストから形成される取り外し可能なセラミックヒータを開示している。このようなヒータは、ノズル本体又はノズルの先端部との密接な接触をもたらさず、従って伝熱量を減少させ、熱損失を増加させる。ヒータ技術を開示している以下の米国特許第5,155,340号、第5,488,350号、第4,724,304号、第5,573,692号、第5,569,398号、第4,739,657号、第4,882,203号、第4,999,049号、及び第5,340,702号にも言及する必要があろう(これらの各米国特許は、ここで言及することにより本明細書中に開示したものとする)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第5,645,867号明細書
【特許文献2】米国特許第5,614,233号明細書
【特許文献3】米国特許第4,863,665号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、エネルギー、空間、及び位置に関して効率的に成形マニホルド及びホットランナーノズルの溶融チャネルを加熱する方法及び手段のための技術が必要である。
【0010】
更に、コインジェクション又はマルチインジェクションホットランナーノズル内の各溶融チャネルへ、各溶融チャネルの局部的な大きさ及び形状、並びにそのチャネルの中を流れる樹脂の粘弾性特性に基づいて適切な熱量を提供するための効率的な方法及び手段のための技術が必要である。
【0011】
本発明は、成形マニホルド及びホットランナーノズルの溶融チャネル内の溶融樹脂を効率的に加熱すると共に流れを管理するための方法及び装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様によれば、射出成形装置において使用される装置は、ホットランナーと、前記ホットランナーに配置された少なくとも一つの溶融チャネルと、使用時に前記少なくとも一つの溶融チャネルの一部分を加熱するための少なくとも一つのフィルムヒータと、前記少なくとも一つの溶融チャネルに付随の、少なくとも一つの表面と、を含み、前記少なくとも一つのフィルムヒータが、前記少なくとも一つの表面に設けられた第1の誘電層と、前記第1の誘電層に設けられた加熱要素であって、使用時に前記溶融チャネルを加熱するように構成されると共に接触端子を有し、該接触端子が前記加熱要素への電気的接続を支持するように構成されている加熱要素と、前記加熱要素の上に延びるが前記接触端子を被覆せず、よって使用時に前記加熱要素を電源に接続可能な第2の誘電層とを含む。
【0013】
本発明の他の一態様によれば、射出成形装置において使用される装置は、マニフォルドと、前記マニフォルドに配置された少なくとも一つの溶融チャネルと、使用時に前記少なくとも一つの溶融チャネルの一部分を加熱するための少なくとも一つのフィルムヒータと、前記少なくとも一つの溶融チャネルに付随の、少なくとも一つの表面と、を含み、前記少なくとも一つのフィルムヒータが、前記少なくとも一つの表面に設けられた第1の誘電層と、前記第1の誘電層に設けられた加熱要素であって、使用時に前記少なくとも1つの溶融チャネルを加熱するように構成されると共に接触端子を有し、該接触端子が前記加熱要素への電気的接続を支持するように構成されている加熱要素と、前記加熱要素の上に延びるが前記接触端子を被覆せず、よって使用時に前記加熱要素を電源に接続可能な第2の誘電層とを含む。
【0014】
本発明の更に別の一態様によれば、射出成形装置において使用される装置は、ノズルと、前記ノズルに配置された少なくとも一つの溶融チャネルと、使用時に前記少なくとも一つの溶融チャネルの一部分を加熱するための少なくとも一つのフィルムヒータと、前記少なくとも一つの溶融チャネルに付随の、少なくとも一つの表面と、を含み、前記少なくとも一つのフィルムヒータが、前記少なくとも一つの表面に設けられた第1の誘電層と、前記第1の誘電層に設けられた加熱要素であって、使用時に前記少なくとも1つの溶融チャネルを加熱するように構成されると共に接触端子を有し、該接触端子が前記加熱要素への電気的接続を支持するように構成されている加熱要素と、前記加熱要素の上に延びるが前記接触端子を被覆せず、よって使用時に前記加熱要素を電源に接続可能な第2の誘電層とを含む。
【0015】
これら及び他の目標、特徴、及び利点は、全体を通して同一の参照番号が同一要素を示す添付の図面を参照することによって、よりよく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】(A)は、成形マニホルドの円形の溶融チャネルの軸方向断面図である。(B)は、樹脂が溶融チャネルを通って流れる際の樹脂の速度分布を概略的に描写する、図1の(A)の溶融チャネルの長手方向断面図である。(C)は、樹脂が溶融チャネルを流れる際の樹脂のせん断応力分布を概略的に描写する、図1の(A)の溶融チャネルの長手方向断面図である。(D)は、樹脂がマニホルドを通って流れる際の樹脂のせん断応力分布の変動を概略的に描写する、溶融チャネル網を含むマニホルドの断面図である。
【図2】(A)は、一定のせん断速度における温度と粘性との関係を示すグラフである。(B)は、一定の温度におけるせん断速度と粘性との関係を示すグラフである。(C)は、樹脂が溶融チャネルのコーナを曲がった際の樹脂の流れの粘性を示す溶融チャネルの長手方向断面図である。(D)は、樹脂の流れによってチャネル内に形成される境界層を示す溶融チャネルの長手方向断面図である。
【図3】複数の90度ターン(曲部)を示す成形マニホルドの立面斜視図である。
【図4】(A)は、成形マニホルドの概略図である。(B)は、境界層の不均一な形成及び分布を示す、図4の(A)の成形マニホルドの一連の軸方向断面図である。
【図5】ディップとして知られる現象である複数の層の内の1つの不完全浸透を示す、3材料の5層から成るPETプリホームの長手方向断面図である。
【図6】本発明の一実施の形態に基づく薄膜マニホルド及びホットランナーヒータを含む高キャビテーション鋳型(a high cavitation mold)の概略断面図である。
【図7】(A)は、図6の薄膜ヒータ62内の薄膜要素層を示す概略断面図である。(B)は、図6の薄膜ヒータ65内の薄膜要素層を示す概略断面図である。
【図8】(A)は、本発明の他の実施の形態に基づく改善されたホットランナーノズル構成の断面図である。(B)は、ホットランナーノズルの上部において温度が低下しないことを示すグラフである。
【図9】本発明の更に別の実施の形態に基づく改善されたノズルの先端部及びモールドゲートインサートの断面図である。
【図10】図9に示されるノズルの先端部の概略断面図である。
【図11】図9のノズルの構成要素の断面図である。
【図12】本発明の更に別の実施の形態に基づく薄膜ヒータを含む同時多重射出ノズルの断面図である。
【図13】射出ポットを含むと共に、この射出ポット内に薄膜要素を含む成形装置の断面図である。
【図14】(A)は、溶融チャネルの外周に取り外し可能に取り付けられた薄膜ヒータを有する溶融チャネルの軸方向断面図である。(B)は、溶融チャネルの内周に取り外し可能に取り付けられた薄膜ヒータを有する溶融チャネルの軸方向断面図である。
【図15】バルブゲート及び熱ゲートの両方を有する成形装置の概略断面図である。
【図16】(A)は、薄膜ヒータを有するバルブゲート式ノズルの概略断面図である。(B)は、図16の(A)のバルブステムの端部上の熱電対の概略図である。
【図17】図16の(A)の膜ヒータの概略断面図である。
【図18】(A)は、内側及び外側膜ヒータを有するノズルの先端部の概略断面図である。(B)は、図18の(A)のノズルの先端部上の膜ヒータの端面図である。
【図19】(A)は、内側膜ヒータを有するノズルプラグの概略断面図である。(B)は、外側膜ヒータを有するノズルプラグの概略断面図である。
【図20】膜ヒータを有するマニホルド及びノズルの概略断面図である。
【図21】(A)は、膜ヒータを有するモールドゲートインサートの概略断面図である。(B)は、膜ヒータを有するモールドゲートスリーブの概略断面図である。
【図22】異なる幅を有する膜ヒータを有する成形プラグの概略断面図である。
【図23】薄膜ヒータ上の抵抗のパターンの概略図である。
【図24】別の膜ヒータ上の抵抗のパターンの概略図である。
【図25】(A)は、溶融チャネルの内側に配置された膜ヒータを示す図である。(B)は、溶融チャネルの外側に配置された膜ヒータを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は添付の図面と共に説明される。
1.序論
本発明の有利な特徴は、薄膜ヒータ及びセンサ技術を用いたプラスチック射出成形装置に関して説明される。当然ながら、本発明はそのような実施の形態に限定されず、添付の請求項の範囲内であるあらゆる成形技術に適用されてよい。
【0018】
以下で説明されるように、本発明の射出成形システムは、射出装置ノズル内及びモールドキャビティ空間の間の溶融樹脂の流れをより適切に管理し制御するために電気ヒータ及び温度センサを含んでよい。よって、本発明は、移動する溶融樹脂における温度分布を綿密に管理すべく、成形要素の表面上に(例えばマニホルド及び/又はモールドゲート領域隣接位置等に)直接設けてよい能動及び/又は受動膜要素を含むことができる。応用例によっては、これらの膜要素をノズルハウジング及び/又はノズルの先端部上、ランナーレスプローブ上、バルブステム上、又はモールドゲートインサートの表面上に直接設けてよい。他の例の場合、膜要素を、成形システムの予め定められた1つ又は複数の位置に配置される取り外し可能なヒータプラグ上に設けてもよい。能動膜要素が膜ヒータを含み、受動膜要素が熱センサ(例えば、サーミスタ又は熱電対)及び/又は圧力センサを含むことが好ましい。膜要素は単層の要素であってもよいが、電気、熱、及び摩耗特性が異なる複数の膜層のサンドイッチ構造を含んで構成されることが好ましい。単一膜層は通常、高い電気抵抗を有する材料で作成される。溶融樹脂及び成形処理特性の種類に応じ、膜は「薄い」要素及び「厚い」要素の何れかを用いてもよく、これらの要素は、化学的に付着させるか、蒸気で付着させるか、膜噴霧技術で付着させるか、又はこれらと同等の方法を用いて付着されることが好ましい。膜加熱要素及びセンサ要素もまた、射出成形装置内のあらゆる位置で必要に応じてトリム(寸法調整)され設置される、可撓性を有する基板を含んで構成されてよい。
【0019】
このような膜要素を上述の既知のヒータと共に使用することもまた、本発明の範囲内である。(周知のヒータと共に、或いはそれらの代わりに使用される場合)適切な膜加熱要素を慎重に選択することにより、溶融樹脂の温度勾配及び分布を細密に調整し、綿密な熱流制御をもたらすことができる。このような綿密な制御を、溶融樹脂が加熱された空間に入る前に行なうことが可能であり、従って溶融の流れの一定の(又は緻密に管理された)粘性及び速度がもたらされる。
【0020】
膜ヒータが直接付着されると、これにより、ヒータと加熱された表面との間のエアギャップ(風隙)を除去することができ、従って、ヒータと加熱された表面との間の温度伝達(伝熱)を向上させる密着した直接的な接触をもたらし、省エネルギー及びより長いヒータの寿命を達成する。また、膜ヒータを直接付着することにより、より小さく且つよりエネルギー効率が高い成形要素を製作し、成形装置自体の内部で成形要素が占めるスペースをより少なくできるため、成形要素自体の構成及び製造がより単純になる。更に、射出成形装置内の熱流の綿密な管理のために、成形品の品質が顕著に向上する。更に、1度に複数の樹脂層が付着された成形品を成形する場合、膜加熱要素を使用することにより、各層が均一の厚さ及び長さを有することが可能になる。以下で説明される膜ヒータを使用してPETプリホームを成形する場合、アセトアルデヒドのレベルは低下し、マルチキャビティ鋳型のキャビティ全体にわたってより均一に分配される。これは、温度がマニホルド全体にわたってきわめて均一になるように、膜ヒータが溶融チャネルに隣接して配置されると共に、個々に制御及び駆動されてよいためである。
【0021】
また、モールドゲート領域での加熱制御を向上させることにより、成形されたプリホームのスプルーゲート(痕跡部)を、どんな小さな結晶も実質的にプリホーム壁を貫通できないほどに非常に小さくできる。
【0022】
更に、本発明の膜ヒータを用いることにより、同一ノズルを介して2つの異なる色の樹脂を成形する場合に著しい利点がもたらされる。綿密な熱制御により、ある色から別な色への変化がくっきりと明瞭になり、最終的な製品の品質が向上すると共に不良品を減らせる。
【0023】
従って、本発明の膜ヒータは、加熱される面に密着し、より速い加熱応答時間及びより低い温度慣性をもたらすことができ、鋳型の様々な異なる領域に配置できるほどに小さく、また、厳しく制限された温度分布をもたらすことができるので、より速い成形、生産物におけるより高い品質、装置部品の小型化、エネルギー消費量の削減、及びより長い装置寿命が可能となる。
【0024】
本発明の膜センサを使用することによって、処理全体についてのより綿密な温度管理及び制御を達成することができる。このような膜センサは、既知の熱電対よりも多くの位置に配置することができ、また取り付け、保守、及びモニタリングも容易である。従って、処理のフィードバック及び制御も、本発明の膜センサにより向上する。
【0025】
2.本発明の好適な実施の形態
本発明の実施の形態によれば、溶融チャネル内の熱及び流れの管理を向上させるために、コンパクトな能動及び/又は受動膜要素を、例えばスプルーブッシュからモールドキャビティ空間までの溶融チャネルに沿って配置する。薄膜の先端技術を用いて製造され得る能動要素は、コンパクトであり、信頼性が高く、安定しており、且つエネルギー効率がよい。有利なことに、能動要素は溶融樹脂の流れの近く又はそれと直接接触する位置に配置することができる。能動要素は、薄膜ヒータ、サーミスタ、熱電対、抵抗温度検知器、圧力センサ、ガスセンサ、光学誘導漏れセンサ(optical guide leakage sensor)の何れか、又はこれらの組合せ及び同等なものであってよい。同様に薄膜技術を用いて製造され得る受動要素は、能動要素と相互に作用し、電気絶縁性及び断熱性を有する材料及び/又は耐摩耗材料から製作されてよい。受動要素は、溶融樹脂の層流を向上させるために溶融樹脂の流れと直接接触することが好ましい。これらの薄膜要素を用いることにより、射出成形処理の熱管理及び全体の制御を最適化することができる。特に、薄膜要素は、局所的な及び状況に応じた個別の必要性に応じてマニホルド又はホットランナーノズル内の樹脂を直接加熱してよい。更に、薄膜要素の使用は、溶融チャネルの材料選択及び構成要素の大きさに有利な影響を及ぼす。
【0026】
また、本発明の実施の形態は、鋳型に接続又は埋設された革新的な成形コントローラ及び論理演算手段を提供する。成形コントローラ及び論理演算手段は、射出成形装置のコントローラ及びマイクロプロセッサから物理的に独立して、しかしこれと通信可能に構成されている。この点については、本発明の出願人に譲渡された、米国特許第5,320,513号(Schmidt,ここで言及することにより本明細書中に開示したものとする)を参照する。Schmidtは、ホットランナーノズルヒータ及び温度センサをコネクタを介して装置のコントローラに接続する成形集積回路基盤を開示している。本発明の実施の形態では、Schmidtにより開示された成形品のプリント回路基盤が更に、成形コントローラ及び/又は成形マイクロプロセッサにより生成される制御及び論理信号を処理する。従って、処理の最終段階で鋳型を扱うオペレータは、様々な射出成形装置に関連した成形品の処理パラメーターをよりうまく操作することが可能になる。成形装置のインターフェースにより、鋳型又は装置、或いはこの両方を特定の射出成形処理条件のために調整できるようになる。また、このインターフェースにより、射出成形制御の複雑さが軽減される。成形コントローラと装置のコントローラとの間の通信、及び/又は能動薄膜要素と成形コントローラとの間の通信は、有線又は無線の手段で達成され得、後者を用いれば更にそうした線の接続の複雑さが軽減される。
【0027】
成形熱管理及び処理制御は、応用例、使用される樹脂の種類、成形マニホルド及びホットランナーノズルの構成、及びモールドキャビティ数に依存する。本実施の形態は、幾つかの成形処理における熱管理及び処理制御を改善するために適用され得、それらの処理の内の3つは、高キャビテーション鋳型に関し、より詳細には吹込み可能なPETプリホームの射出成形に関する。
【0028】
本発明の第1の適用例は、射出処理中に鋳型において必然的に生成されるアセトアルデヒド(以下「AA」と称す)を削減し、且つより均等に分散させる。本発明の出願人により出願された欧州特許出願293 756 A2(Halar他,ここで言及することにより本明細書中に開示したものとする)は、AAの形成に関する問題点を徹底的に論じている。Halar他によると、PETがマニホルドチャネルを流れる際に、高レベルのAAがPETの不均一な熱劣化により生成される。この現象が、成形マニホルドのチャネル22を通る樹脂の流れの速度分布20及びせん断応力分布24が概略的に示されている図1の(A)、(B)及び(C)において示されている。溶融チャネルの断面構成26のため、せん断応力が最小であるチャネルの中心で樹脂は速く流れ、従って流れの長手方向中心に関して対称である境界層を形成する。温度分布はせん断応力分布と類似し、即ち、樹脂の温度はチャネルの中心で最も低い。しかし、多くの成形の応用例において、樹脂の流れは図1の(B)及び(C)に示されるような直線の通路を辿らず、寧ろ同時に複数のキャビティ空間に注ぎ込む一連の分岐チャネルを介し、少なくとも1回以上角張ったターンを行う(図3参照)。図1の(D)に示されるように、1つのチャネル21を通る樹脂の流れが最初の2つのチャネル27及び29等の幾つかの分岐に90度の角度で分流されると、速度、せん断応力、及び温度分布は樹脂の流れが外側のコーナ25よりも内側のコーナ23の近くで低速になるため非対称になる。この段階で、せん断応力及び温度の値30は、外側のコーナ25の近くでの値28よりも内側のコーナ23の近くで高くなる。この非対称な反応は、流れが再度チャネル31及び33に分流されるとそれぞれ更に助長及び減少される。せん断応力及び温度分布32及び36はそれぞれ非対称であるだけでなく、互いの形状も異なる。
【0029】
Halar他は、高キャビテーション鋳型の異なる溶融チャネルでの異なる非対称分布が、成形されるパリソンにおけるAAの差をもたらすことを教示している。Halar他によると、AAのレベルは成形マニホルドの溶融チャネル内に静止ミキサ(static mixers)を備えることによって最小化され、より均一にされてよい。しかし、残念ながら静止ミキサは圧力低下及びせん断応力の上昇を誘発する。米国特許第5,421,715号(Hofstetter他,ここで言及することにより本明細書中に開示したものとする)は、マニホルドチャネル内でのスポークと呼ばれる静止した金属要素を使用することにより乱流を発生させ、流れ全体にわたって温度分布を均質化してAAのレベルを低下させることを開示している。Hofstetter他のスポークは、Halar他の静止ミキサとほとんど変らず、従って理想的な解決策ではない。要するに、溶融チャネル内に機械的な障害物を備えることは、射出キャビティ内のAAのレベルをより均一に分散させる可能性はあるが、それにより新たな問題を生み出す。
【0030】
本発明の第2の適用例は、流れが突然方向を変える場合に形成されることが多い温度及び粘性の境界層を抑制することにより、高キャビテーション鋳型のより均一な充填を促進する。図2の(A)及び(B)は、溶融樹脂の典型例における温度と粘性及びせん断速度と粘性の関係を表すグラフを示す。図2の(C)及び(D)に示されるように、内側の層40は、真中、及び外側の層よりも高温であり、且つ低速で移動する。図3に示されるように、マニホルドが複数のキャビティに流れを注ぎ込む構造の場合、境界層の形成により、図4の(A)及び(B)に示されるように各キャビティの樹脂の流れに非対称な温度分布、非対称なせん断応力分布、及び非対称な速度分布をもたらす。Halar他によっても言及されているこの問題は、本発明の出願人に譲渡された、同時係属出願である米国特許出願番号第08/570,333号(Deardurff他,ここで言及することにより本明細書中に開示したものとする)で開示されているような「溶融フロー再分配装置(melt flow redistributor)」を使用することによって解決されてよい。「溶融フロー再分配装置」は、溶融チャネル内の90度で屈曲した後流側に配置される。そのように配置されることにより、この装置は、中央の層よりも熱劣化している樹脂の外側の境界層を、幾つかの溶融チャネルにバランスのとれた比率で導く。この装置は静止ミキサとは別に作動するため、圧力低下は誘発されない。しかし、この「溶融フロー再分配装置」は組み立て及び保守管理が比較的難しい。
【0031】
上記第2の適用例から派生する本発明の第3の適用例は、ディップ(dip)として知られる現象を克服するものである。ディップは同時多重射出(コインジェクト)された層内の不均一な又は未充填の部分である。図5は、典型的な3つの材料(A−B−C)から成る5層(A1−A2−B1−B2−C)のPETプリホーム46で生じるディップ現象を示す。長さLのディップはプリホーム46の頚部Nに現れる。3つの樹脂A−B−Cは、5層の吹込み可能なプリホームを形成するために従来の射出手段を使用して順次、又は同時に多重射出される。頚部の空間の一部が他の樹脂(処女材料(virgin))によって占められることにより、樹脂の1つ(通常はバリヤ材)が頚部の空間を完全に充填しなくなるため、ディップは許されない。ディップはマニホルド内の境界層の形成により引き起こされると考えられる。これらの境界層は溶融樹脂の流れ全体にわたって不均一の温度及び粘性分布をもたらし、これがディップを引き起こす。ディップは溶融チャネル内に静止ミキサを設けることにより改善され得るが、前述のようにそのような静止ミキサは新たな問題を生み出す。
【0032】
本発明は、従来のコイル又はバンドヒータを、溶融チャネルに沿って戦略的に配置されると共に所望の熱分布をもたらすように個々に制御される膜ヒータに取り替えるか、又はそのような膜ヒータを追加することにより、AA、不均一な充填、及びディップといった問題を克服する。例えば、溶融チャネル全体にわたって一定の温度分布をもたらすために、各コーナ23に隣接して配置された薄膜ヒータを、溶融チャネルの隣接領域22に配置された薄膜ヒータより多くの熱を樹脂の流れに供給するように制御することが可能である。このように配置されることにより、薄膜ヒータは、流れる樹脂の速度、温度、及びせん断応力分布を各溶融チャネルの幾何学的形状及び隣接する溶融チャネルどうしの交角に応じて変化させることができる。
【0033】
本発明の第4の適用例は、多くの場合、溶融樹脂がモールドキャビティ空間に入るまでの間に流れに最適温度分布をもたらさない現在の射出成形構成要素に対する、様々な改良に関する。本発明の適用から利益を得るであろうそうした構成要素の例には、同時多重射出(coinjection)ホットランナーノズル、エッジゲートノズル、射出ノズルの先端部、ノズル−マニホルドインターフェース、リムゲートノズル、モールドゲートインサート等が含まれる。
【0034】
ここで、膜加熱要素及び絶縁層を具体化する改良された構成要素を、本発明の出願人に譲渡された、幾つかの米国特許(ここで言及することにより本明細書中に開示したものとする)を参照しながら説明する。
【0035】
図6は、高キャビテーション鋳型スプルーブッシュ62、マニホルド64、及びホットランナーノズル66を示す概略断面図であり、鋳型スプルーブッシュ62、マニホルド64、及びホットランナーノズル66はそれぞれ薄膜ヒータ63、65、及び67を使用して加熱される。各薄膜ヒータは、組み合わされた受動薄膜材料の間に挟まれた薄膜の導電性材料から成る能動膜を含んで構成される。この薄膜ヒータが溶融樹脂に直接接触するように内側に配置される場合、薄膜ヒータ63は、(図7の(A)に示されるように)チャネルから順に、耐摩耗膜72、電気絶縁膜74、電気抵抗ヒータ膜76、もう1層の電気絶縁膜78、及び断熱膜79を含み得る。薄膜ヒータ65が(図7の(B)に示されるように)外側に配置される場合には、耐摩耗膜は省略されてもよい。同様に、応用例によっては断熱膜が省略されてもよい。
【0036】
図8の(A)は、マニホルド80、マニホルドブッシュ82、及びホットランナーノズル84がそれぞれ薄膜電気ヒータ81、83、及び85を使用して個々に加熱される射出鋳型の改良された構成を示す。薄膜ヒータ87をノズル本体の内部に溶融樹脂と接触して配置してよいので、図8の(B)の破線で示されるようにホットランナーノズルの上部Aでは温度降下は生じない。
【0037】
図9は、本発明の実施の形態のホットランナーノズルの先端部の改良された構成を示す。能動及び受動薄膜要素が、ホットランナーノズル本体90の内側に溶融チャネル92に沿って且つモールドゲート領域94に近接して配置される。能動薄膜要素は、樹脂を最適温度に維持するためのヒータ91、93、95、及び97である。コンパクトであること及び省エネルギーであること以外に、薄膜ヒータは他の幾つかの重要な利点をもたらす。例えば、薄膜ヒータは、モールドゲートのごく近接位置等の、コイルヒータには接触不可能な領域に容易に配置される。
【0038】
例示される実施の形態において、薄膜ヒータ95はノズルの先端部の分流チャネルに沿って配置される。また、薄膜ヒータ97は、モールドゲートをより効果的に加熱するためにモールドゲートインサート98の内周に配置されてもよい。モールドゲートインサート内に薄膜ヒータを配置することにより、「色変化」の準備に関して更なる利点が提供される。当該技術で既知のように、同一ではあるが色が異なる部品を成形するために樹脂を変更する場合、ノズルチャネルから第1の樹脂を「流出」させなければならない。薄膜ヒータ97をモールドゲートインサートの内周に配置することにより、ゲートチャネルからの流出を容易にするためにインサートを加熱することができる。また、ヒータは97及び99で示されるような熱電対に連結されてよい。
【0039】
更にモールドゲートインサートは、薄膜圧力センサ96及び/又は薄膜温度センサ(図示せず)を含んでもよい。図10は、ノズルの先端部90'の周囲の圧力センサ96及び熱電対100の配置を示す。図11に示されるように、ホットランナーノズルおよびモールドゲートインサートの各構成要素は、その取り外し、製造及び保守点検が共に容易である。
【0040】
図12は、本発明の更に別の実施の形態の薄膜ヒータを有する同時多重射出ノズルを示す。少なくとも1つの薄膜ヒータを、各樹脂の温度をより適切に制御するために各同時多重射出チャネルのハウジングの周囲又は内部に配置してよい。この実施の形態では、チャネル110が樹脂Aを運び、チャネル112が樹脂Bを運び、そしてチャネル114が樹脂Cを運ぶ3チャネルノズルが示される。バルブゲートステム116はノズルチャネルとキャビティ空間118との間の連通を選択的に遮断する。薄膜ヒータ111、113、及び115はそれぞれチャネルの内側に配置される。しかし、特定の応用例においては、2つのチャネル間の壁が薄い及び/又は熱伝導性である場合、一方のヒータに2つのチャネルを加熱させることによって2つのヒータのみを使用することも可能である。例えば、図12においてヒータ111は樹脂A及びBの双方を加熱するのに十分であり得る。薄膜ヒータは溶融樹脂の流れと直接接触するので、耐摩耗膜を流れの隣接位置に直接設けられてもよい。
【0041】
図13は、ホットランナーノズル122へ供給される樹脂の量を計るための射出ポット120を含む成形装置を示す。射出ポットは通常、同時多重射出成形で一般に必要とされる正確に測定された層等のように厳密な重量要件を満たさなければならない部品に射出する際に使用される。本発明では、薄膜ヒータ121は、マニホルド124上に配置されたヒータ123、125等の他の薄膜マニホルドヒータとは独立して射出ポット領域を加熱するために射出ポット領域に配置される。更に、薄膜温度センサを射出ポット領域に配置してよい。
【0042】
図14の(A)及び14の(B)は、それぞれホットランナーノズルの外側又は内側に薄膜ヒータを取り外し可能に取り付けるための好ましい手段を示す。薄膜ヒータは、ばねのような特性を示してよい可撓性を有する薄い帯状の基板に配置される。このように取り付けられた薄膜ヒータは、故障の発生時に容易に交換できる。図14の(A)では、薄膜ヒータ140がノズル130の外側に配置され、例えば電気絶縁層132、導電層134、及び電気絶縁層136を含み得る。コネクタ138はノズル130のチャネル内に嵌合し、弾性のあるヒータ140の2つの端部を保持する。このような構成により、樹脂及び溶融チャネル139へ局所的に熱を供給することができる。図14の(B)では、ヒータ140がノズル130の内側に配置され、ヒータ140もまた層132、134、及び136を含んで構成されてよい。また、ヒータ140の摩耗に備えるために摩耗層(図示せず)を層132と溶融チャネル139との間に設けてもよい。層134内の加熱要素が、ノズルの円周の一部分にのみ延べてよいこと、この加熱要素がどのような構造(螺旋状、平面状、帯状、山歯状、環状等)であってもよいことはもちろんである。更に、加熱要素のノズルの軸方向に沿った長さも適宜変更してよい。
【0043】
図15は、ホットランナーバルブゲート及びホットランナー熱ゲートの双方を有する射出成形装置を示す。溶融樹脂は装置の射出ノズル(図示せず)からスプルーブッシュ150を介してマニホルド152及び各ノズルの溶融チャネルへ進む。ブッシュ及びマニホルドを通る溶融樹脂の流れは、既知のバンド又はコイル式電気ヒータを使用して最適温度に維持されてよい。溶融樹脂は次に各ノズルを介してそれぞれのモールドキャビティ154及び156に射出される。ホットランナーバルブゲート158は、樹脂がバルブゲート158を通ってキャビティ154に流れる際に溶融樹脂を正確な所望の温度に維持するために、バルブゲート158に連結された薄膜ヒータ159を有する。同様に、ホットランナー熱ゲート157は、樹脂がキャビティ156に流れる際に溶融樹脂の温度を精密に制御すべく、熱ゲート157と連結された薄膜ヒータ155を有する。
【0044】
図16の(A)は、膜ヒータがステムの先端部に直接付着され、熱電対がステムの端部に直接付着されたバルブゲート式ホットランナーノズルの概略断面図である。バルブゲート式ノズル160は、モールドキャビティ空間166を含む成形プレート164'に当接する成形プレート164内に嵌合するノズルの先端部162を有する。移動可能なバルブステム168は、例えば図16の(A)に示されるようなパターンでバルブステム168の外部表面上に付着された膜ヒータ167を有する。熱電対は、図16の(B)に示されるように、バルブゲート自体で正確に温度測定できるように、バルブステム168の端部に付着されることが好ましい。
【0045】
図16の(A)に概略的に示されるように、膜ヒータ167は(複数の)端子163を介して電気接点161に連結されてよい。同様に、電気接点165は(複数の)端子169と接触するように配置される。電気接点は、上述のSchmidtの特許に記載されているような成形制御プロセッサ1000に連結される。
【0046】
図17は、図16の(A)の膜ヒータ167の断面図である。バルブステム168に最も近接しているのは、電気絶縁材料から形成される層171である。次は、加熱要素を形成する電気抵抗材料を含む層173である。その外側は、電気絶縁材料を含んで構成され、また高い伝熱特性を有する層175である。
【0047】
図18の(A)は、ノズルの先端部180の下部外側表面に配置された膜ヒータ181を示す概略断面図である。図18の(B)に示されるように、膜ヒータ181は、溶融チャネル182及び183を囲む抵抗配置パターンを有してよい。膜ヒータ端子184及び184'は電気接点(図示せず)に接続されてよい。
【0048】
また、ノズルの先端部180は、その外側表面に配置された膜ヒータ191を有するヒータプラグ190(以下で説明される)を有してもよい。ヒータプラグ190は、ノズルの先端部180の溶融チャネル186内に配置される。両方の膜温度センサ(図示せず)もまた、溶融チャネル186内の溶融樹脂の温度をモニターするためにノズルの先端部180の表面上(都合のよい場所であればどこでもよい)に配置されてよい。温度センサは、モールドゲートオリフィスに非常に近接した位置で溶融樹脂と直接接触するように配置された膜熱電対であることが好ましい。
【0049】
ノズルの先端部180は、如何なる配線も切断することなく先端部を素早く組み立てたり及び取り外したりできるバイオネット(差込み)機構等の敏速な取り外し可能な機構によってノズル本体に取り付けられた熱電対及びヒータのための電気コネクタを含むことが好ましい。そうした構成の例として、仮に1つが壊れても他方が作動するように、互いに近接する位置に2つの熱電対を設けることが好ましい。
【0050】
図19の(A)は、膜ヒータ及び膜センサを射出成形装置の溶融チャネルに適用するための便利、且つ簡単な方法である膜ヒータプラグ190の概略断面図である。プラグ190は金属プラグ192を有し、金属プラグ192は、その内側表面に溶融チャネル194と隣接して配置された膜ヒータ193を有する。ヒータ193は、内側の耐摩耗層195、電気抵抗層196、電気絶縁層197、及び断熱層198を含んで構成されることが好ましい。このような構成の利点は、プラグ190を小さく形成できると共に、溶融チャネル内のあらゆる地点に交換可能に配置できることである。プラグは、例えば、マニホルド、ホットランナーハウジング、又はノズルの先端部内等の鋳型の溶融チャネルと整合したあらゆる位置で使用されてよい。溶融チャネルは、そのようなヒータプラグが溶融チャネルに沿ったあらゆる都合のよい位置に配置され得るように、補完的な構造で構成されることが可能である。更に、このようなプラグは、溶融チャネルに沿ったあらゆる位置にフィットするように直線状でも、T字型でも、又は曲がっていてもよい。可撓性を有する膜ヒータを小型の交換可能なヒータプラグの内側表面に配置することは非常に容易であるので、これにより(図3に示されるような)長い溶融チャネルマニホルドの内側表面上にこのヒータを配置するためのコストを省くことができる。
【0051】
図19の(B)は、ヒータ193が外側表面192上に配置されるヒータプラグ190の更に別の実施の形態を示す。この例において、内側層195'は高い伝熱特性を有する誘電体を含んで構成され、層196'は電気抵抗性を有する加熱要素であり、そして層197'は断熱材である。応用例によっては、耐摩耗層を層197'の外側に付着してもよい。同様に、耐摩耗層198'を、溶融樹脂の摩耗に対する抵抗性を高めるべくプラグ190の内側に付着してもよい。
【0052】
図20は、取り外し可能なヒータプラグ201及び202の射出成形装置内への適用を示す。ヒータプラグ201は、その外側表面に膜ヒータ203を有すると共にマニホルド204内に配置され、マニホルド204は、例えば従来のマニホルドヒータ205によって加熱されてもよい。
【0053】
ヒータプラグ202は、ノズルヘッド206及びノズル本体207内に配置され、溶融チャネル209に隣接してプラグ202の内側表面に配置される耐摩耗層(スリーブ)208を有する。膜ヒータ210は、ノズルの先端部211に隣接してヒータプラグ202の外側表面上に配置される。ノズルハウジング212は、断熱材で作られることが好ましい。ヒータプラグ201及び202は、CuBe(ベリリウム銅)等の熱伝導性の高い材料から作られることが好ましい。ヒータプラグ201及び202はモジュール式に構成され取り外し可能であるので、これらのプラグは修理のため、又は異なる種類の可塑性樹脂の成形のために容易に交換されてよい。
【0054】
図21の(A)は、ノズルの先端部(図示せず)及びモールドゲートオリフィス212に隣接する内側表面に配置された内側膜ヒータ211を有するモールドゲートインサート210の概略断面図である。モールドゲートインサート210は取り外し可能であるので、コネクタ213がモールドゲートインサート210の表面上に配置され、これにより電気接続配線が膜ヒータ211まで延びる。コネクタ213は、モールドゲートインサート210全体が素早く、且つ容易に交換可能なようにノズルハウジング又は成形プレート(図示せず)内の同様のコネクタと嵌合する。
【0055】
図21の(B)は、モールドゲート本体216の1つ又は複数の外側表面に膜ヒータ217が配置されたモールドゲートスリーブ215の概略断面図である。また、モールドゲートスリーブは容易に交換可能であるので、欠陥のあるヒータの交換、又は異なる種類の樹脂に応じたヒータのヒータ容量の変更が容易である。
【0056】
図22は、外側表面に配置された膜ヒータを有するヒータプラグ220の概略断面図である。しかし、膜ヒータ層は、図22の左側の部分に示されるような、工学的に配慮された温度分布をもたらすべく、領域A、B、及びCにおいて厚さが異なる。これは例えば、部分A及びCが、成形処理中に冷却される成形プレートに隣接して位置付けられる成形応用例において使用できる。このようにして、溶融チャネル222内を流れる溶融樹脂は一定温度を維持される。この実施の形態において、耐摩耗性の高いスリーブ223がヒータプラグ220の内側表面に配置されることに注意されたい。
【0057】
図23は、2つの矩形パターンの加熱要素を有する本発明の薄膜ヒータの概略図である。ヒータ231は、長さがLであり、ピッチがP1である要素を有する。ヒータ232は、ヒータ231と同様に長さLであるが、異なるピッチP2である加熱要素を有する。従って、同一の薄膜要素が、溶融チャネルの隣接し合う領域に異なる加熱特性をもたらし得る。接触端子は、ヒータが取り付けられるべき溶融チャネル構造に電気接点を容易に係合させるのに適した長さLt及び幅Tを有する。
【0058】
図24は、各端部に接触端子を有する蛇行した形状の加熱要素235を有するヒータの概略図である。
【0059】
図25の(A)は、溶融チャネルの内側に配置されるように屈曲した膜ヒータを示し、図25の(B)は、溶融チャネルの外側で屈曲した種類のヒータを示す。
【0060】
以下の材料、付着技術、及びパターン形成方法は、成形要素又は膜ヒータプラグ上に直接付着される複合膜ヒータを製造するために使用される様々な層(これらの層の厚さは5ミクロン未満から2〜3ミリメートルまでの範囲で変動してよい)のために推められる材料、技術及び方法である。
【0061】
電気抵抗材料:TiN;タングステン、モリブデン、金、白金、銅、TiC、TiCN、TiAlN、CrN、パラジウム、イリジウム、銀、導電性インク
【0062】
電気絶縁材料:酸化ベリリウム;本明細書に参考文献として組み入れられた米国特許第5,653,932号及び米国特許第5,468,141号で開示されている材料も参照のこと。
【0063】
耐摩耗材料:チタン、チタン合金、クロム、無電解ニッケル、本明細書に参考文献として組み入れられた米国特許第5,112,025号で開示されている材料も参照のこと。
【0064】
付着技法:イオンめっき、スパッタリング、化学的蒸着(CVD)、物理的蒸着(PVD)、フレーム熔射(flame spraying)
【0065】
膜パターン形成手法:マスクを介してのエッチング;レーザー除去;導線マスキング、機械的除去
【0066】
加熱要件の例:ワット密度 240Vで40乃至80W/平方インチ
図13を参照
帯域A:37mm 150W(先端部)
帯域B:75mm 50W(中央部)
帯域C:34mm 100W(ヘッド部)
1つ又は複数のヒータ
【0067】
パターン形成手法:レーザー除去;旋盤;マスクを用いた配線、エッチング
【0068】
付着技法:スパッタリング
【0069】
材料:白金、タングステン、モリブデン
【0070】
成形応用例のための膜センサ
膜温度感知要素は、例えば、米国特許第5,215,597号(Kreider)、米国特許第5,573,335号(Schinazi)、R.Holandaによる1993年2月のNASAレポートE-7574、及びL.C. Martin他による1994年8月のNASAレポートE-9080で開示されており、これらの全てはここで言及することにより本明細書中に開示したものとする。
【0071】
サーミスタ、他の半導体に基づく装置、又は抵抗温度検知器(RTD)等のあらゆる膜温度感知装置は、本発明の範囲内に含まれる。この点に関しては、米国特許第4,968,964号(Nagai他)、及びHeraeusの白金抵抗温度検知器(P−RTD)カタログを参照し、これらについてはここで言及することにより本明細書中に開示したものとする。また、本発明は、膜熱電対の好ましい代替物として更に薄膜RTDを含むが、これは薄膜RTDが付着及びエッチングのより容易な単一の薄膜材料から作られるという利点をもたらすからである。
【0072】
本発明では、膜熱電対の材料として、現在の熱電対標準(ANSI等)に適合し、成形部品の支持基板上に付着可能な材料を選択することが好ましい。従って、膜熱電対の構成上の主要目標は、薄膜ヒータの抵抗材料と同一か、又はそれに近い材料から成る導線のための2つの異種物質を選択することである。インスレーション・シール インコーポレイテッド(Insulation Seal Inc.)及びSRSコーポレーション(SRS Corp.)により発表された以下の商用データは、幾つかの標準的な熱電対のための材料選定及び特性を示し、このデータもまた膜熱電対を製造するための指針として使用されてよい。
【0073】
熱電対の組合せ 熱電対温度 媒体標準誤差
ANSI 材質及び極性 (最大)
タイプ
銅(+) 350℃
T コンスタンタン(−)
鉄(+) 750℃ +/−2.2℃
J コンスタンタン(−)
クロメル(+) 900℃ +/−1.7℃
E コンスタンタン(−)
クロメル(+) 1250℃ +/−2.2℃
K アルメル(−)
白金13%ロジウム(+) 1450℃ +/−1.4℃
R 白金(−)
白金10%ロジウム(+) 1450℃ +/−1.4℃
S 白金(−)
タングステン5%レニウム(+) 2320℃
C タングステン26%レニウム(−)
白金30%ロジウム(+) 1700℃ +/−4.4℃
B 白金6%ロジウム(−)
【0074】
本発明では、膜熱電対が周知のマイクロリソグラフィー技法を使用して作られ、この技法は、寸法における非常な高精度、熱電対の基板への優れた付着力、及び2つの異種材料間の優れた接続性を保証する。マイクロリソグラフィー技法の更に別の利点は、高キャビテーション鋳型に取り付けられることになる複数の温度感知要素に関してこれらに付着される合金の厚さが等しくなることを保証するために、一群の熱電対が同時に製造可能なことである。更に別の利点は、追加コスト無しで、且つ同じスペース内に、「バックアップ」又は参照用熱電対を、使用される熱電対の位置に近接して実際に配置することができることである。このようにして、如何なる理由にせよ、現在の熱電対が応答に失敗すると、成形処理又は鋳型の保守管理を妨げることなくバックアップを起動することができる。
【0075】
好ましい実施の形態において、薄膜(Rクラスの)熱電対は、ロジウム13パーセントの白金ロジウムと白金とから作られ、周知のスパッタリング処理を用いてクラス1000のクリーンルームで製造される。薄膜線のリード線に対する位置に応じ、既知のパラレルギャップ溶接法を用いて接続がなされる。この熱電対は、1000℃を超える温度に耐え得るので、溶融チャネルに沿ったあらゆる位置に配置されることが可能である。
【0076】
従って、上述されたのはユニークな構造及び機能であり、それによって、成形装置における加熱、感知、及び溶融制御の単純化、容易な交換が可能となると共に、成形品をより素早く、より安価に、且つより高品質で提供するためのカスタマイズが可能である。
【0077】
本発明は、現在好ましいと考えられる実施の形態に関して説明されたが、本発明は開示された実施の形態に限定されないことを理解されたい。反対に、本発明は、前述の請求項の精神及び範囲内に含まれる様々な変更並びに同等な装置を含むことを意図する。付随する請求項は、そのような変更並びに同等な構造及び機能の全てを含むように最も広い解釈が与えられるべきである。
【符号の説明】
【0078】
62 スプルーブッシュ
63、65、67 薄膜ヒータ
64 マニホルド
66 ホットランナーノズル
【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出成形装置において使用される装置であって、
ホットランナーと、
前記ホットランナーに配置された少なくとも一つの溶融チャネルと、
使用時に前記少なくとも一つの溶融チャネルの一部分を加熱するための少なくとも一つのフィルムヒータと、
前記少なくとも一つの溶融チャネルに付随の、少なくとも一つの表面と、を含み、
前記少なくとも一つのフィルムヒータが、
前記少なくとも一つの表面に設けられた第1の誘電層と、
前記第1の誘電層に設けられた加熱要素であって、使用時に前記溶融チャネルを加熱するように構成されると共に接触端子を有し、該接触端子が前記加熱要素への電気的接続を支持するように構成されている加熱要素と、
前記加熱要素の上に延びるが前記接触端子を被覆せず、よって使用時に前記加熱要素を電源に接続可能な第2の誘電層とを含むことを特徴とする装置。
【請求項2】
射出成形装置において使用される装置であって、
マニフォルドと、
前記マニフォルドに配置された少なくとも一つの溶融チャネルと、
使用時に前記少なくとも一つの溶融チャネルの一部分を加熱するための少なくとも一つのフィルムヒータと、
前記少なくとも一つの溶融チャネルに付随の、少なくとも一つの表面と、を含み、
前記少なくとも一つのフィルムヒータが、
前記少なくとも一つの表面に設けられた第1の誘電層と、
前記第1の誘電層に設けられた加熱要素であって、使用時に前記少なくとも1つの溶融チャネルを加熱するように構成されると共に接触端子を有し、該接触端子が前記加熱要素への電気的接続を支持するように構成されている加熱要素と、
前記加熱要素の上に延びるが前記接触端子を被覆せず、よって使用時に前記加熱要素を電源に接続可能な第2の誘電層とを含むことを特徴とする装置。
【請求項3】
射出成形装置において使用される装置であって、
ノズルと、
前記ノズルに配置された少なくとも一つの溶融チャネルと、
使用時に前記少なくとも一つの溶融チャネルの一部分を加熱するための少なくとも一つのフィルムヒータと、
前記少なくとも一つの溶融チャネルに付随の、少なくとも一つの表面と、を含み、
前記少なくとも一つのフィルムヒータが、
前記少なくとも一つの表面に設けられた第1の誘電層と、
前記第1の誘電層に設けられた加熱要素であって、使用時に前記少なくとも1つの溶融チャネルを加熱するように構成されると共に接触端子を有し、該接触端子が前記加熱要素への電気的接続を支持するように構成されている加熱要素と、
前記加熱要素の上に延びるが前記接触端子を被覆せず、よって使用時に前記加熱要素を電源に接続可能な第2の誘電層とを含むことを特徴とする装置。
【請求項4】
センサ要素を更に含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の装置。
【請求項5】
前記センサ要素が、圧力センサ、温度センサ、ガスセンサおよび漏出センサから成る群から選択される請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記表面が、前記少なくとも1つの溶融チャネルの回りに配置可能な着脱自在のプラグの表面である請求項1〜3のいずれか1項に記載の装置。
【請求項7】
前記表面が、前記少なくとも1つの溶融チャネルの内面である請求項1〜3のいずれか1項に記載の装置。
【請求項8】
前記表面が、前記溶融チャネルの外面である請求項1〜3のいずれか1項に記載の装置。
【請求項9】
前記表面が、前記溶融チャネルの周囲の表面である請求項1に記載の装置。
【請求項10】
前記表面が、前記少なくとも1つの溶融チャネルの表面である請求項1に記載の装置。
【請求項11】
前記表面が、前記マニホールドの表面である請求項2に記載の装置。
【請求項12】
前記表面が、前記少なくとも一つの溶融チャネルの周囲の表面である請求項2に記載の装置。
【請求項13】
前記表面が、前記少なくとも一つの溶融チャネルの表面である請求項2に記載の装置。
【請求項14】
前記表面が、前記ノズルの表面である請求項3に記載の装置。
【請求項15】
前記表面が、前記少なくとも一つの溶融チャネルの周囲の表面である請求項3に記載の装置。
【請求項16】
前記表面が、前記少なくとも一つの溶融チャネルの表面である請求項3に記載の装置。
【請求項1】
射出成形装置において使用される装置であって、
ホットランナーと、
前記ホットランナーに配置された少なくとも一つの溶融チャネルと、
使用時に前記少なくとも一つの溶融チャネルの一部分を加熱するための少なくとも一つのフィルムヒータと、
前記少なくとも一つの溶融チャネルに付随の、少なくとも一つの表面と、を含み、
前記少なくとも一つのフィルムヒータが、
前記少なくとも一つの表面に設けられた第1の誘電層と、
前記第1の誘電層に設けられた加熱要素であって、使用時に前記溶融チャネルを加熱するように構成されると共に接触端子を有し、該接触端子が前記加熱要素への電気的接続を支持するように構成されている加熱要素と、
前記加熱要素の上に延びるが前記接触端子を被覆せず、よって使用時に前記加熱要素を電源に接続可能な第2の誘電層とを含むことを特徴とする装置。
【請求項2】
射出成形装置において使用される装置であって、
マニフォルドと、
前記マニフォルドに配置された少なくとも一つの溶融チャネルと、
使用時に前記少なくとも一つの溶融チャネルの一部分を加熱するための少なくとも一つのフィルムヒータと、
前記少なくとも一つの溶融チャネルに付随の、少なくとも一つの表面と、を含み、
前記少なくとも一つのフィルムヒータが、
前記少なくとも一つの表面に設けられた第1の誘電層と、
前記第1の誘電層に設けられた加熱要素であって、使用時に前記少なくとも1つの溶融チャネルを加熱するように構成されると共に接触端子を有し、該接触端子が前記加熱要素への電気的接続を支持するように構成されている加熱要素と、
前記加熱要素の上に延びるが前記接触端子を被覆せず、よって使用時に前記加熱要素を電源に接続可能な第2の誘電層とを含むことを特徴とする装置。
【請求項3】
射出成形装置において使用される装置であって、
ノズルと、
前記ノズルに配置された少なくとも一つの溶融チャネルと、
使用時に前記少なくとも一つの溶融チャネルの一部分を加熱するための少なくとも一つのフィルムヒータと、
前記少なくとも一つの溶融チャネルに付随の、少なくとも一つの表面と、を含み、
前記少なくとも一つのフィルムヒータが、
前記少なくとも一つの表面に設けられた第1の誘電層と、
前記第1の誘電層に設けられた加熱要素であって、使用時に前記少なくとも1つの溶融チャネルを加熱するように構成されると共に接触端子を有し、該接触端子が前記加熱要素への電気的接続を支持するように構成されている加熱要素と、
前記加熱要素の上に延びるが前記接触端子を被覆せず、よって使用時に前記加熱要素を電源に接続可能な第2の誘電層とを含むことを特徴とする装置。
【請求項4】
センサ要素を更に含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の装置。
【請求項5】
前記センサ要素が、圧力センサ、温度センサ、ガスセンサおよび漏出センサから成る群から選択される請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記表面が、前記少なくとも1つの溶融チャネルの回りに配置可能な着脱自在のプラグの表面である請求項1〜3のいずれか1項に記載の装置。
【請求項7】
前記表面が、前記少なくとも1つの溶融チャネルの内面である請求項1〜3のいずれか1項に記載の装置。
【請求項8】
前記表面が、前記溶融チャネルの外面である請求項1〜3のいずれか1項に記載の装置。
【請求項9】
前記表面が、前記溶融チャネルの周囲の表面である請求項1に記載の装置。
【請求項10】
前記表面が、前記少なくとも1つの溶融チャネルの表面である請求項1に記載の装置。
【請求項11】
前記表面が、前記マニホールドの表面である請求項2に記載の装置。
【請求項12】
前記表面が、前記少なくとも一つの溶融チャネルの周囲の表面である請求項2に記載の装置。
【請求項13】
前記表面が、前記少なくとも一つの溶融チャネルの表面である請求項2に記載の装置。
【請求項14】
前記表面が、前記ノズルの表面である請求項3に記載の装置。
【請求項15】
前記表面が、前記少なくとも一つの溶融チャネルの周囲の表面である請求項3に記載の装置。
【請求項16】
前記表面が、前記少なくとも一つの溶融チャネルの表面である請求項3に記載の装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【公開番号】特開2010−12797(P2010−12797A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−237858(P2009−237858)
【出願日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【分割の表示】特願平11−167457の分割
【原出願日】平成11年6月14日(1999.6.14)
【出願人】(595155303)ハスキー インジェクション モールディング システムズ リミテッド (88)
【氏名又は名称原語表記】HUSKY INJECTION MOLDING SYSTEMS LIMITED
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【分割の表示】特願平11−167457の分割
【原出願日】平成11年6月14日(1999.6.14)
【出願人】(595155303)ハスキー インジェクション モールディング システムズ リミテッド (88)
【氏名又は名称原語表記】HUSKY INJECTION MOLDING SYSTEMS LIMITED
【Fターム(参考)】
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