説明

射出生成物製造方法及び射出生成物

【課題】好適な射出成形が可能な射出生成物製造方法及び射出生成物を提供する。
【解決手段】射出生成物製造方法は、金型の内部に設けられたキャビティ内に原料を注入する際における、基準温度プロファイルS予め設定し、射出生成物の製造時における、温度プロファイルを現状温度プロファイルXとして測定し、現状温度プロファイルXと基準温度プロファイルSとを比較し、両者の傾きが異なる場合に、現状温度プロファイルXの傾きを基準温度プロファイルSの傾きに近づくように金型内に設けられた流路を流れる熱媒体の流量を調整し、両者の温度が異なる場合に、現状温度プロファイルXの温度を基準温度プロファイルSの温度に近づくように流路を流れる熱媒体の温度を調整し、現状温度プロファイルXを基準温度プロファイルSの傾き及び温度に近い一定状態に保つことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出生成物製造方法及び射出生成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、射出成形の金型において、その内部に熱媒体が流れる流路が設けられているものがある。当該金型の数箇所には、温度センサが取り付けられている。そして、温度センサにより測定された温度と設定温度との差に応じて、流路を流れる熱媒体の温度を変化させ、設定温度との差を小さくする方法がある(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−198964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記従来の方法は、センサで測定した部分の温度の高低を制御する方法であり、金型内の伝熱状態を安定させるものではない。このため、長期間の成形における安定性や再現性には、効果的ではない。
【0005】
本発明の課題は、好適な射出成形が可能な射出生成物製造方法及び射出生成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下のような解決手段により前記課題を解決する。なお、理解を容易にするために、本発明の実施形態に対応する符号を付して説明するが、これに限定されるものではない。
【0007】
請求項1に記載に発明は、金型(2,20,21,30,31,32)の内部に設けられたキャビティ(10C)内に射出成形部品の液状原料を注入する際において、基準とする該金型(2,20,21,30,31,32)内部の温度プロファイルを、予め基準温度プロファイルとして決定し、前記射出成形部品の製造時に、前記キャビティ(10C)内に前記液状原料を注入した際の前記金型(2,20,21,30,31,32)内部の温度プロファイルを現状温度プロファイルとして測定し、前記現状温度プロファイルと前記基準温度プロファイルとを比較し、前記現状温度プロファイルと前記基準温度プロファイルとの傾きが異なる場合に、前記現状温度プロファイルの傾きを前記基準温度プロファイルの傾きに近づくように前記金型(2,20,21,30,31,32)内に設けられた流路を流れる熱媒体の流量を調整し、前記現状温度プロファイルと前記基準温度プロファイルとの温度が異なる場合に、前記現状温度プロファイルの温度を前記基準温度プロファイルの温度に近づくように前記流路を流れる前記熱媒体の温度を調整し、前記現状温度プロファイルを前記基準温度プロファイルの傾き及び温度に近い一定状態に保つ、射出生成物製造方法である。
請求項2に記載に発明は、金型(2,20,21,30,31,32)の内部に設けられたキャビティ(10C)内に射出成形部品の液状原料を注入する際において、基準とする該金型(2,20,21,30,31,32)内部の温度プロファイルを、予め基準温度プロファイルとして決定し、前記射出成形部品の製造時に、前記キャビティ(10C)内に前記液状原料を注入した際の前記金型(2,20,21,30,31,32)内部の温度プロファイルを現状温度プロファイルとして測定し、前記現状温度プロファイルと前記基準温度プロファイルとを比較し、前記現状温度プロファイルと前記基準温度プロファイルとの温度が異なる場合に、前記現状温度プロファイルの温度を前記基準温度プロファイルの温度に近づくように前記金型(2,20,21,30,31,32)内に設けられた流路を流れる熱媒体の温度を調整し、前記現状温度プロファイルと前記基準温度プロファイルとの傾きが異なる場合に、前記現状温度プロファイルの傾きを前記基準温度プロファイルの傾きに近づくように前記金型(2,20,21,30,31,32)内に設けられた流路を流れる熱媒体の流量を調整し、前記現状温度プロファイルを前記基準温度プロファイルの傾き及び温度に近い一定状態に保つ、射出生成物製造方法である。
請求項3に記載に発明は、請求項1又は2に記載の射出生成物製造方法であって、前記基準温度プロファイル及び前記現状温度プロファイルは、前記金型(2,20,21,30,31,32)における、前記キャビティ(10C)からの距離と温度との関係で表されること、を特徴とする射出生成物製造方法である。
請求項4に記載に発明は、金型(2,20,21,30,31,32)の内部に設けられたキャビティ(10C)内に射出成形部品の液状原料を注入する際において、基準とする該金型(2,20,21,30,31,32)内部の温度プロファイルを、予め基準温度プロファイルとして決定し、前記射出成形部品の製造時に、前記キャビティ(10C)内に前記液状原料を注入した際の前記金型(2,20,21,30,31,32)内部の温度プロファイルを現状温度プロファイルとして測定し、前記現状温度プロファイルと前記基準温度プロファイルとを比較し、前記現状温度プロファイルと前記基準温度プロファイルとの傾きが異なる場合に、前記現状温度プロファイルの傾きを前記基準温度プロファイルの傾きに近づくように前記金型(2,20,21,30,31,32)内に設けられた流路を流れる熱媒体の流量を調整し、前記現状温度プロファイルと前記基準温度プロファイルとの温度が異なる場合に、前記現状温度プロファイルの温度を前記基準温度プロファイルの温度に近づくように前記流路を流れる前記熱媒体の温度を調整し、前記現状温度プロファイルを前記基準温度プロファイルの傾き及び温度に近い一定状態で製造された射出生成物である。
なお、符号を付して説明した構成は、適宜改良してもよく、また、少なくとも一部を他の構成物に代替してもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、好適な射出成形が可能な射出生成物製造方法及び射出生成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る射出成形物の製造方法を適用する射出成形装置における金型及びその金型温度分布調整機構を示す概念図である。
【図2】金型によって形成される成形品の斜視図である。
【図3】成形時における金型の熱伝導を説明する図である。
【図4】成形時における金型の温度プロファイルを示す図である。
【図5】金型の温度分布制御の各ステップにおける温度プロファイルを示す図である。
【図6】金型の温度分布制御のフローチャートである。
【図7】成形品の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面等を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明に係る射出成形物の製造方法を適用する射出成形装置における金型10とその金型温度分布調整機構40を示す概念図である。図2は、金型10によって形成される成形品1の斜視図である。図3は、成形時における金型10の熱伝導を説明する図である。図4は、成形時における金型10の温度プロファイルを示す図である。図5は、金型の温度分布制御の各ステップにおける温度プロファイルを示す図である。図6は、金型10の温度分布制御フローチャートである。図7は、成形品の測定結果を示すグラフである。
【0011】
図1に示す金型10は、たとえば、図2に示す成形品1を成形するものである。成形品1は、光学装置等においてレンズを保持する円筒状の部材であって、光学性能を確保するための精度を必要とする部品である。
図1に示す金型10は、コアを備える固定側金型20と、キャビティ10Cを形成する可動側金型30とにより構成されており、既知の射出成形装置に装着されている。
【0012】
固定側金型20は、固定側プレート21を介して射出成形装置の固定側取付板2に装着されている。固定側金型20,固定側プレート21及び固定側取付板2には、溶融樹脂を供給するスプルー10Sが貫通形成されている。
可動側金型30は、積層された2枚の可動側プレート(可動側第1プレート31,可動側第2プレート32)とスペーサ4とを介して射出成形装置の可動側取付板3に装着されている。スペーサ4の内部には、詳細な説明は省略するが、エジェクタプレート5及びリタンピン6等が設けられており、エジェクタプレート5から図示しないエジェクタピン及びスプルーロックピンが可動側第1プレート31,可動側第2プレート32及び可動側金型30を貫通して設けられている。
【0013】
可動側第1プレート31,可動側第2プレート32,可動側金型30,固定側金型20及び固定側プレート21は、図示しないが、それぞれ内部に熱媒体流路を備えている。これら熱媒体流路は後述する金型温度分布調整機構40における循環路を形成する。
また、固定側取付板2、固定側プレート21、固定側金型20、可動側金型30、可動側第1プレート31及び可動側第2プレート32の内部には、それぞれ温度センサTS1〜TS6がその中心部の温度を計測可能に設けられている。温度センサTS1〜TS6による計測結果は、後述する金型温度分布調整機構40の制御装置41に出力される。
【0014】
そして、金型10は、固定側金型20と可動側金型30とが圧接されて型閉じされ、固定側金型20と可動側金型30との間に形成されるキャビティ10Cに、スプルー10Sからランナ及びゲートを介して溶融樹脂が圧入される。樹脂が冷却固化すると、可動側金型30が型開き移動すると共にエジェクタピンによって成形品がキャビティ10Cから取り出される。
【0015】
金型温度分布調整機構40は、金型10の内部に水や油等の熱媒体を循環させる循環路42と、当該循環路42に熱媒体を循環させる流量調節部43と、循環路42を流れる熱媒体の温度を調節する温度調節部44と、金型10の各部に配設された温度センサTS1〜TS6と、流量調節部43及び温度調節部44を制御する制御装置41と、により構成されている。
【0016】
循環路42は、可動側第1プレート31,可動側第2プレート32,可動側金型30,固定側金型20及び固定側プレート21にそれぞれ形成された図示しない熱媒体流路が、これらを順次巡るように接続管42Jによって接続されて構成されている。
流量調節部43は、熱媒体を循環駆動するポンプ及び流量調節弁等を備えており、循環路42に設けられている。流量調節部43は、制御装置41に制御されて、熱媒体を循環路42内で循環駆動すると共にその流量を調節する。
温度調節部44は、熱媒体の加熱冷却装置を備えており、循環路42に設けられている。温度調節部44は、制御装置41からの指令に基づいて、循環路42を流れる熱媒体の温度を調節する。
【0017】
温度センサTS1〜TS6は、前述したように、固定側取付板2、固定側プレート21、固定側金型20、可動側金型30、可動側第1プレート31及び可動側第2プレート32に設けられており、それぞれ計測した温度情報を制御装置41に出力する。図4及び図5におけるT1〜T6は、温度センサTS1〜TS6がそれぞれ計測した温度情報を示している。
制御装置41は、温度センサTS1〜TS6から入力される金型10の温度情報に基づいて、流量調節部43及び温度調節部44を制御する。
【0018】
つぎに、金型温度分布調整機構40による、金型10の温度分布制御について説明する。
金型温度分布調整機構40における制御装置41は、温度センサTS1〜TS6から入力される温度情報から、図4に示すような、金型10の分割方向における距離に対して温度を採った温度プロファイル(図6では温度PFと略記)を作成し、この温度プロファイルに基づいて流量調節部43及び温度調節部44を制御する。
【0019】
ここで、成形の際には、図3中に矢印で示すように、スプルー10S及びキャビティ10Cから樹脂の熱が金型10に伝導し、樹脂は冷却して固化する。金型10に移動した熱は、金型10の内部を伝導してその表面から外部に放熱される。
熱伝導は、
単位面積当たりの移動する熱量:Q1
金型10の熱伝導率:λ
伝熱する距離:L
温度差:ΔT1
として、フーリエの法則
Q1=λ×ΔT1/L
が成り立つ。
つまり、熱量:Q1は、距離:Lに反比例する。したがって、金型10は、樹脂から熱量を受けるキャビティ10C周辺の温度が最も高く、キャビティ10Cからの距離に応じて温度が低下して温度勾配(温度差ΔT/距離L)ができる。
【0020】
成形は所定のサイクルで連続して行われ、金型温度分布調整機構40における循環路42に所定温度の熱媒体が所定の流量で循環される。これにより、成形中の金型10は、キャビティ10Cの近傍では樹脂から伝導した熱量が熱媒体に奪われると共に、キャビティ10Cから遠い部分では逆に熱媒体から熱量を受けて加熱される。この金型10の伝熱状態が安定すると、精度の安定した成形が可能となる。すなわち、精度にバラツキの少ない成形品が得られる。図4は、このような金型10の伝熱状態が安定した状態における温度プロファイルの一例である。図4における横軸には、可動側第2プレート32における温度センサTS6の位置を基準(0)とした距離が採ってある。
【0021】
本構成では、まず、この金型10において所定精度の成形品が得られる金型10の温度プロファイルを、基準温度プロファイルとして設定する。この基準プロファイルは、金型10を用いて成形品を試作したときの温度プロファイル等を用いることができる。そして、成形中における金型10の温度プロファイル(温度勾配及び温度)を、この基準温度プロファイルに一致させるように制御する。
【0022】
金型10の温度プロファイルを基準温度プロファイルに一致させる制御は、温度勾配の一致と、温度の一致と、の2段階で行う。
金型10の温度勾配は、熱媒体の流量によって制御する。
ここで、金型10と熱媒体との伝熱形態は対流伝熱であり、
単位面積当たりの移動する熱量:Q2
温度差:ΔT2
熱媒体の流量:V
熱伝違係数:h(V)
として、伝熱方程式
Q2=ΔT2×h(V)
が成り立つ。
【0023】
熱伝違係数:h(V)は、流量:Vの関数であり、流量:Vが大きければ大きな値となる。したがって、熱媒体の流量:Vが大きいと熱媒体と金型10との間の伝熱量が大きくなる。逆に、流量:Vが小さいと伝熱量が小さくなる。
【0024】
前述したように、成形中の金型10は、キャビティ10C近傍では熱媒体に熱量を奪われ、キャビティ10Cから遠い部分では熱媒体から熱量を受けて加熱されて、伝熱状態は安定する。このため、熱媒体の流量:Vの増減によって、金型10の温度勾配を変化させることができる。
【0025】
すなわち、熱媒体の流量:Vが小さくなると、キャビティ10Cから遠い部分では熱媒体から金型10への伝熱量が減って温度が下がり、キャビティ10C近傍では樹脂から熱媒体が奪う熱量が減って温度は上昇する。
一方、熱媒体の流量:Vが大きくなると、キャビティ10Cから遠い部分では熱媒体から金型10への伝熱量が増えて温度が上がり、キャビティ10C近傍では樹脂から熱媒体が奪う熱量が増えて温度は低下する。
【0026】
したがって、熱媒体の流量:Vを減少させることで温度プロファイルにおける温度勾配(金型10全体における温度差)を大きくすることができ、逆に、熱媒体の流量:Vを増加させることで温度プロファイルにおける温度勾配を小さくすることができる。
【0027】
金型10の温度は、熱媒体の温度によって制御する。
すなわち、熱媒体の温度を上昇させることで金型10の温度を上昇させ、熱媒体の温度を低下させることで金型10の温度を低下させる。その際、熱媒体の流量:Vを維持することで、温度勾配を変化させることなく金型10の温度を昇降させることができる。
【0028】
そして、金型温度分布調整機構40における金型10の温度分布制御は、図5(a)〜(c)に温度プロファイルを示すように、まず、流量調節部43によって熱媒体の流量を変化させて、図中黒丸で示す温度プロファイルXの温度勾配を、図中白丸で示す基準温度プロファイルSに一致させる。その後、温度調節部44によって温度を一致させる。
【0029】
すなわち、図5(a)は、成形中の金型10の温度プロファイルXが、基準温度プロファイルSに対して、温度勾配が大きく(θs1<θx1,θs2<θx2)、温度は全体に低い(Tx=Ts−y)。
このような場合には、まず、流量調節部43によって熱媒体の流量を増加させて温度勾配を小さくし、図5(b)に示すように温度勾配を一致させる。
ついで、熱媒体の流量を変化させることなく、温度調節部44によって熱媒体の温度のみを上げ、温度勾配を保った状態で金型10の温度プロファイルXを全体的に上昇させて、図5(b)に示すように基準温度プロファイルSに一致させる。
【0030】
上記のように、金型10の伝熱状態が安定して所定精度の成形品が得られる金型10の基準温度プロファイルSを設定し、成形中における金型10の温度プロファイルXをこの基準温度プロファイルSに一致させるように制御することで、長期間の成形において寸法精度が安定した成形品を得ることができる。また、成形休止後の再開時等においても再現性に優れる。
さらに、温度プロファイルの温度勾配を基準温度プロファイルに一致させた後、温度調節部44によって温度を一致させることで、温度勾配の調整に起因する温度変化の後に温度調節を行うことができるため、合理的で高精度の温度分布制御が可能となる。
【0031】
つぎに、この金型温度分布調整機構40における金型10の温度分布制御を、図6に示すフローチャートに沿って説明する。なお、以下の説明及び図中において、「ステップ」は「S」とも略記する。
はじめに、所定の寸法精度の成形品が得られる基準温度プロファイルを設定する(S101)。
【0032】
成形中、温度センサTS1〜TS6から温度情報を読み込んで(S102)、温度プロファイルを作成する(S103)。
つづくステップ104では、ステップ103において作成した温度プロファイルと、基準温度プロファイルとの温度勾配を比較する。
ステップ104において温度勾配が異なると判断された場合(No)には、温度勾配制御を行う。
【0033】
温度勾配制御は、まず、温度プロファイルの温度勾配が基準温度プロファイルより大きいか否かを判断する(S105)。
ステップ105において温度プロファイルの温度勾配が基準温度プロファイルより大きいと判断された場合(Yes)には、流量調節部43によって流量を増加させ(S106)る。
一方、ステップ105において温度プロファイルの温度勾配が基準温度プロファイルより温度勾配が小さいと判断された場合(No)には、流量調節部43によって流量を減少させる(S107)。
【0034】
上記ステップ102からステップ107までを、ステップ104において温度勾配が一致と判断される(Yes)まで繰り返す。
そして、ステップ104において温度勾配が一致と判断される(Yes)と、温度調節部44によって、熱媒体の温度を変化させることで温度プロファイルの温度を昇降させて基準温度プロファイルに一致させる温度制御を行う(S108)。
以下、成形中、ステップ102〜108を繰り返して、温度プロファイルを基準温度プロファイルに一致させ続ける。
【0035】
図7に、実際に成形を行って、成形品を測定した結果を示す。成形品は、図2に示す円筒状の成形品1であって、その外径(半径)を測定した。図7(a)は、本実施形態に係る金型の温度分布制御を行ったもの、(b)は、従来の熱媒体の流量制御による。
【0036】
図7(b)に示す従来の熱媒体の流量制御によるものでは、ショット数が増えるに従って寸法が大きく変化し、バラツキも大きくなる。
これに対して、図7(a)に示す本実施形態における温度分布制御を行ったものでは、ショット数が増加しても寸法は安定して一定の精度を保っている。これにより、本温度分布制御の有効性を確認することができた。
【0037】
以上、本実施形態によると、以下の効果を有する。
(1)金型温度分布調整機構40による金型10の温度分布制御では、金型10の伝熱状態が安定して所定精度の成形品が得られる金型10の温度プロファイルを基準温度プロファイルとして設定し、成形中における金型10の温度プロファイルを、この基準温度プロファイルに合致させるように制御する。これにより、長期間の成形において寸法精度が安定した成形品を得ることができる。また、成形休止後の再開時等においても再現性に優れる。
【0038】
(2)金型温度分布調整機構40による金型10の温度分布制御では、金型10の温度プロファイルを基準温度プロファイルに合致させる際、温度勾配を一致させた後、温度を一致させることで、温度勾配の調整に起因する温度変化の後に温度調節を行うことができ、合理的で高精度の温度分布制御が可能となる。
【0039】
(変形形態)
以上、説明した実施形態に限定されることなく、以下に示すような種々の変形や変更が可能であり、それらも本発明の範囲内である。
(1)本実施形態では、金型温度分布調整機構40における循環路42が、固定側金型20と可動側金型30とを連通しており、これに流量調節部43と温度調節部44とを備えている。しかし、固定側金型20と可動側金型30の循環路を独立させてそれぞれ独立して制御するように構成してもよい。これにより、より一層精度の高い温度分布制御が可能となって射出成型物の精度も安定する。
【0040】
(2)また、金型10の温度を計測する温度センサの配設位置や数は、適宜設定可能である。
なお、実施形態及び変形形態は、適宜組み合わせて用いることもできるが、詳細な説明は省略する。また、本発明は以上説明した実施形態によって限定されることはない。
【符号の説明】
【0041】
1:成形品10:金型、20:固定側金型、30:可動側金型、40:金型温度分布調整機構、41:制御装置、42:循環路、43:流量調節部、44:温度調節部、TS1〜TS6:温度センサ、S:基準温度プロファイル、X:温度プロファイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型の内部に設けられたキャビティ内に射出成形部品の液状原料を注入する際において、基準とする該金型内部の温度プロファイルを、予め基準温度プロファイルとして決定し、
前記射出成形部品の製造時に、前記キャビティ内に前記液状原料を注入した際の前記金型内部の温度プロファイルを現状温度プロファイルとして測定し、
前記現状温度プロファイルと前記基準温度プロファイルとを比較し、
前記現状温度プロファイルと前記基準温度プロファイルとの傾きが異なる場合に、前記現状温度プロファイルの傾きを前記基準温度プロファイルの傾きに近づくように前記金型内に設けられた流路を流れる熱媒体の流量を調整し、
前記現状温度プロファイルと前記基準温度プロファイルとの温度が異なる場合に、前記現状温度プロファイルの温度を前記基準温度プロファイルの温度に近づくように前記流路を流れる前記熱媒体の温度を調整し、
前記現状温度プロファイルを前記基準温度プロファイルの傾き及び温度に近い一定状態に保つ、射出生成物製造方法。
【請求項2】
金型の内部に設けられたキャビティ内に射出成形部品の液状原料を注入する際において、基準とする該金型内部の温度プロファイルを、予め基準温度プロファイルとして決定し、
前記射出成形部品の製造時に、前記キャビティ内に前記液状原料を注入した際の前記金型内部の温度プロファイルを現状温度プロファイルとして測定し、
前記現状温度プロファイルと前記基準温度プロファイルとを比較し、
前記現状温度プロファイルと前記基準温度プロファイルとの温度が異なる場合に、前記現状温度プロファイルの温度を前記基準温度プロファイルの温度に近づくように前記金型内に設けられた流路を流れる熱媒体の温度を調整し、
前記現状温度プロファイルと前記基準温度プロファイルとの傾きが異なる場合に、前記現状温度プロファイルの傾きを前記基準温度プロファイルの傾きに近づくように前記流路を流れる前記熱媒体の流量を調整し、
前記現状温度プロファイルを前記基準温度プロファイルの傾き及び温度に近い一定状態に保つ、射出生成物製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の射出生成物製造方法であって、
前記基準温度プロファイル及び前記現状温度プロファイルは、前記金型における、前記キャビティからの距離と温度との関係で表されること、を特徴とする射出生成物製造方法。
【請求項4】
金型の内部に設けられたキャビティ内に射出成形部品の液状原料を注入する際において、基準とする該金型内部の温度プロファイルを、予め基準温度プロファイルとして決定し、
前記射出成形部品の製造時に、前記キャビティ内に前記液状原料を注入した際の前記金型内部の温度プロファイルを現状温度プロファイルとして測定し、
前記現状温度プロファイルと前記基準温度プロファイルとを比較し、
前記現状温度プロファイルと前記基準温度プロファイルとの傾きが異なる場合に、前記現状温度プロファイルの傾きを前記基準温度プロファイルの傾きに近づくように前記金型内に設けられた流路を流れる熱媒体の流量を調整し、
前記現状温度プロファイルと前記基準温度プロファイルとの温度が異なる場合に、前記現状温度プロファイルの温度を前記基準温度プロファイルの温度に近づくように前記流路を流れる前記熱媒体の温度を調整し、
前記現状温度プロファイルを前記基準温度プロファイルの傾き及び温度に近い一定状態で製造された射出生成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−143901(P2012−143901A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−2229(P2011−2229)
【出願日】平成23年1月7日(2011.1.7)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】