説明

射出装置のスクリュー

【課題】 長繊維を含んだ樹脂を射出する過程で該樹脂がスクリューの長手方向に沿ってフライトにより移送される時に、長繊維によって負荷がかかることなく滑らかに射出作業を行うことができる射出装置のスクリューを提供することを目的とする。
【解決手段】 射出装置のスクリューに関し、樹脂が投入されるバレル10の内部に回転自在に配設され、投入された樹脂を移送させるように長手方向に沿って複数の螺旋状フライト23を有する射出装置1のスクリュー20であって、上記フライト23の周りに沿って間隔を置いて複数の溝30が形成される。かかる構成のスクリュー20では、長繊維を含んだ合成樹脂の射出時に負荷がかかることなく滑らかに樹脂が移送されることで滞留による樹脂の炭化現象が防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出装置のスクリューに係り、より詳しくは、スクリューフライトの周りに沿って複数の溝を形成して、長繊維(ガラス繊維)を含んだ樹脂の移送及び射出動作が滑らかに行なわれるようにした射出装置のスクリューに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、射出装置は、成形したい製品の形状に合わせて製作された金型内に樹脂を注入させるための装置である。上記射出装置は、固体状態の粒子状の樹脂をバレル内に配設されたスクリューの回転による機械的なエネルギーとバレルの外部に装着されたヒーターによる熱エネルギーによって溶融させ、成形したい製品の形状に合わせて製作された金型内へ溶融樹脂を注入し、固化させて所望の形状の製品を得るものである。
【0003】
このとき、バレル内に配設されたスクリューは、固体状態の粒子状の樹脂の移送及び溶融のためのスクリュー部分と、金型内に溶融樹脂を注入する時に生じようとする樹脂の逆流を防止するためのスクリューヘッド部とで構成される。
【0004】
これにより、ホッパーから供給された粒子状の樹脂をヒーターが装着されたバレルに投入し、バレル内では、油圧モーターまたは電気モーターに連結されたスクリューが回転しながら該スクリューの回転により発生するせん断熱とヒーターの熱により、樹脂が溶融される。その後、溶融された樹脂は、スクリューヘッドを通ってヘッドの前段部に積もるようになる。
【0005】
このとき、スクリューは、その溶融樹脂の押し込み時に後進しながらホッパーから供給された樹脂をスクリューヘッドに向けて移送させ、連続して樹脂がスクリューヘッドの前段部に積もってゆくようにする。溶融樹脂が連続してスクリューヘッドの前段部に予め決められた量まで積もっていき、計量が完了すると、スクリューは回転を止め、成形条件に適合した圧力と速度にて軸方向に前進させて、バレルの排出口から溶融樹脂を金型内へと押し込むようになる。
【0006】
このような従来の射出装置を概略的に示した図1を参照してより具体的に説明すれば、次のとおりである。
【0007】
図1に示すように、従来の射出装置(1)は、基本的に、バレル(10)と、該バレル(10)の内部に回転自在に配設されるスクリュー(20)とからなる。
【0008】
上記バレル(10)の一方側には固体の樹脂粒子をバレル(10)の内部に投入できるようにするホッパー(11)が備えられる。
【0009】
上記スクリュー(20)は、前方側に位置するスクリューヘッド(21)と、該スクリューヘッド(21)と結合される胴体部(22)、及び該胴体部(22)の長手方向に沿って間隔を置いて複数形成された螺旋状のフライト(23)とからなる。
【0010】
また、上記胴体部(22)の前方、すなわち、スクリューヘッド(21)側には、移動自在な逆流防止部材としてのチェックリング(24)が結合されている。
【0011】
また、上記胴体部(22)は、図2に示されるように、樹脂が移送されてくる所から順に、直径が比較的小さい固体状の樹脂を受けて移送させる供給部(L1)と、該供給部(L1)を通って樹脂を押し込む方向に向けて上向き傾斜しており、直径が大きくなる圧縮部(L2)、及び該圧縮部(L2)の末端と同じ直径を有するように形成される計量部(L3)の3区域に区画されている。
【0012】
また、上記フライト(23)とバレル(10)の内面との間隔(間隙)が略1mm程度に設定され、固体状態の粒子状の樹脂はホッパー(11)からバレル(10)内部に投入され、スクリュー(20)の胴体部(22)の供給部(L1)、圧縮部(L2)、及び計量部(L3)を順に通ってゆく過程において、胴体部(22)の螺旋状フライト(23)とバレル(10)の内面との間隙により形成される通路を通って移送される。しかし、投入される樹脂が、例えば長繊維を含んだ合成樹脂である場合、長繊維の性質、すなわち、溶けない性質と柔らかくなく硬いという性質から、スクリュー(20)とバレル(10)の内面との間隙に詰まったりして、スクリュー(20)の回転時に高いトルクを発生させ、これが故障の原因になっていた。
【0013】
このような故障は、長繊維の含有量が多いほどその量に比例して発生頻度が高くなる。
【0014】
ここで、上記長繊維は、ガラス繊維を意味し、通常、直径が0.005mm〜0.015mmで、長さが10mm以上の繊維を長繊維という。
【0015】
このような長繊維は、途中で切れることなく生産する技術が進んでおり、繊維素材の長さがますます長くなりつつあり、このような長繊維は、成形後にも合成樹脂内に網のように残存して、合成樹脂自体の物性を大きく向上させるという長所がある。
【0016】
上記長繊維含有樹脂を用いて成形された合成樹脂製品の強度は金属の強度を超える場合もある。
【0017】
しかしながら、長繊維を利用した合成樹脂の成形は、上記したように、スクリュー(20)とバレル(10)の寿命を短縮させ、また、成形時における溶融樹脂の流動性を悪くして大きな負荷を発生させるという問題点がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
そこで、本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、長繊維を含んだ樹脂を射出する過程において、該樹脂がスクリューの長手方向に沿ってフライトによって移送される時、長繊維によって負荷がかかることなく滑らかに射出作業を行うことができる射出装置のスクリューを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記のような目的を達成するための本発明にかかる射出装置のスクリューは、樹脂が投入されるバレルの内部に回転自在に配設され、投入された樹脂を移送させるように長手方向に沿って複数の螺旋状フライトを有する射出装置のスクリューであって、上記フライトの周りに沿って間隔を置いて複数の溝が形成されている。
【0020】
また、上記溝は、水平状溝と傾斜状溝の少なくともいずれか一方であればよい。
【0021】
また、上記水平状溝と傾斜状溝は、四角形、半円形、三角形から選ばれた少なくとも一つの断面形状を有すればよい。
【0022】
また、上記溝は、水平状溝と傾斜状溝が交互に形成されてなる。
【0023】
また、上記溝の長さは、フライトの幅の1〜5倍の範囲であればよい。
【0024】
また、上記スクリューの胴体部から上記フライトの上端までの高さに対して、上記溝の高さは、0.3〜0.7倍の範囲であればよい。
【0025】
また、上記スクリューの胴体部から上記フライトの上端までの高さに対して、上記溝の長さは、0.5〜4倍の範囲であればよい。
【発明の効果】
【0026】
このように、本発明では、射出装置を構成するスクリューのフライトの周りに複数の溝を形成して、長繊維を含んだ樹脂の射出時に負荷がかかることなく滑らかに樹脂が移送されることによって滞留による樹脂の炭化現象を防止する効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施例にかかる射出装置のスクリューについて図面を参考しながら詳細に説明する。
【0028】
この実施例では、上記従来技術と同じ構成要素に対しては同じ符号を用いて構成を説明することによって、その詳細な構成の説明は省略し、新しい構成要素に対しては別途新しい符号を付してその構成を説明する。
【0029】
図3は、本発明の実施例にかかるスクリューの胴体部に螺旋状に形成されたフライトの一例を示した斜視図である。
【0030】
図に示されるように、本発明の実施例による射出装置は、基本的には図1に示す従来の射出装置(1)と同様に、投入された樹脂を移送するバレル(10)と、該バレル(10)の内部に回転自在に配設され、投入された樹脂を移送させるスクリュー(20)とを有する。
【0031】
上記スクリュー(20)は、スクリューヘッド(21)と、該スクリューヘッド(21)に結合され樹脂を移送させる胴体部(22)、及び該胴体部(22)の長手方向に沿って螺旋状に形成されるフライト(23)とで構成されている。
【0032】
ここで、本発明の実施例にかかるフライト(23)は、図3に示すように、その周りに沿って周方向に間隔を置いて複数の溝(30)が形成された構造を有する。
【0033】
上記溝(30)としては、胴体部(22)の軸方向に沿って平行な水平状溝(31、図3参照)と胴体部(22)の軸方向に対して傾斜した傾斜状溝(32、図5参照)のいずれか一方の溝であればよい。図3では、フライト(23)に形成された溝(30)がいずれも水平状溝(31)である形態のものが示されている。
【0034】
一方、上記水平状溝(31)と傾斜状溝(32)の断面形状は、多様に変更することが可能であって、本発明の実施例による水平状溝(31)は、図4、図6(a)及び(b)に示すように、四角形溝(31a)、半円形溝(31b)、三角形溝(31c)(ここで三角形とは、図面上の形状より好ましくは扇形をなす溝である)の断面形状を有するものであればよい。
【0035】
しかし、上記溝の断面形状は、それらに限定されるものではなく、多様な形状に変形することができる。
【0036】
また、本発明の実施例にかかる溝(30)の配列状態も多様に変形することができる。すなわち、他の形態の溝を交互に形成することができる。例えば、図5に示すように、四角形溝(31a)と傾斜状溝(32)を交互に形成することもできる。
【0037】
また、上記溝(30)は、図2に示すように、胴体部(22)の圧縮部(L2)に形成されたフライト(23)及び計量部(L3)に形成されたフライト(23)の一部まで形成すればよい。
【0038】
また、図7に示すように、上記溝(30)の長さ(d1)(d2)は、フライト(23)の幅(W)に対し1〜5倍の範囲の長さを有すればよい。
【0039】
より具体的に説明すれば、図7に示されたように、水平状溝(31)の場合には、この水平状溝(31)の長さ(d1)とフライト(23)の幅(W)とが同一になるように1倍になり、傾斜状溝(32)は、フライト(23)の幅(W)に対し5倍までの長さ(d2)を有し、該傾斜状溝が長く傾斜するように形成することができる。
【0040】
また、図4に示されるように、スクリューの胴体部(22)からフライト(23)の上端までの高さ(または、深さとも言いうる)(H)に対して、上記溝(30)の深さ(H1)は、0.3倍〜0.7倍の範囲を有すればよい。
【0041】
また、スクリュー胴体部(22)からフライト(23)の上端までの高さ(H)に対して、上記溝(30)の幅としての長さ(d1)(d2)は、0.5倍〜4倍の範囲を有すればよい。
【0042】
また、溝(30)の個数は、フライト(23)の1ピッチ当たりに4個〜24個の範囲であることが好ましい。
【0043】
また、添付された例示図の図6(a)に示されるように、半円形溝(31b)が形成された場合にも、上記図4に示されたように、四角形溝(31a)と同様に、スクリュー胴体部(22)からフライト(23)の上端までの高さ(H)に対する溝(30)の高さ(または、深さとも言いうる)(H1)は、0.3倍〜0.7倍の範囲を有すればよい。
【0044】
また、半円形溝(31b)の幅としての長さも、四角形溝(31a)である時の長さと同様に、上記フライト(23)の上端までの高さ(H)に対して0.5倍〜4倍の範囲であることが好ましい。
【0045】
上記四角形溝(31a)と半円形溝(31b)に対する条件(高さ(H)(H1)の間の相対的な規格)は、図6(b)に示されたような三角形溝(31c)に対しても同様に適用される。
【0046】
このような構成を有する本発明によれば、スクリューフライト(23)に複数の溝(30)が形成されているため、長繊維がかたまることなく滑らかに移送される。
【0047】
なお、溝(30)の高さ(H1)が大きすぎると、樹脂が逆流したり、ガスなどを発生させたりすることがあるため、上記のような条件下で形成することが望ましい。
【0048】
このように本発明は、スクリューフライト(23)に形成された溝(30)により、長繊維によるスクリュー(20)及びバレル(10)の損傷(つまり、長繊維による摩耗、過負荷、コーティング面の損傷など)を防止することができ、射出装置に無理な負荷がかかることを防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明にかかる射出装置のスクリューは、樹脂成形等の射出装置等に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】従来の射出装置を示す断面図である。
【図2】従来の射出装置のスクリューの構成を示す図である。
【図3】本発明の一実施例によるフライトの構造を図2にAとして示す部分の拡大斜視図である。
【図4】本発明の一実施例にかかるフライトの構造を示す縦断面図である。
【図5】本発明の他の実施例にかかるスクリューフライトの構造を示す拡大斜視図である。
【図6】(a),(b)は本発明の実施例にかかるスクリューフライトの溝の他の構造を示す縦断面図である。
【図7】本発明の実施例にかかるスクリューフライトの溝の長さとフライトの幅との関係を説明するための図であって、図5に示したフライトを正面からみた図である。
【符号の説明】
【0051】
d1、d2:長さ
H、H1:高さ
W:幅
1:射出装置
10:バレル
20:スクリュー
21:スクリューヘッド
22:胴体部
23:フライト
30:溝
31:水平状溝
32:傾斜状溝
31a:四角形溝
31b:半円形溝
31c:三角形溝



【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂が投入されるバレルの内部に回転自在に配設され、投入された樹脂を移送するように長手方向に沿って複数の螺旋状フライトを有する射出装置のスクリューであって、
上記フライトの周りに沿って間隔を置いて複数の溝が形成されていることを特徴とする射出装置のスクリュー。
【請求項2】
上記溝は、水平状溝と傾斜状溝の少なくとも一方の溝であることを特徴とする請求項1に記載の射出装置のスクリュー。
【請求項3】
上記水平状溝と傾斜状溝は、四角形、半円形、三角形から選ばれた少なくとも一つの断面形状を有することを特徴とする請求項2に記載の射出装置のスクリュー。
【請求項4】
上記溝は、水平状溝と傾斜状溝が交互に形成されてなることを特徴とする請求項2または3に記載の射出装置のスクリュー。
【請求項5】
上記溝の長さは、フライトの幅の1〜5倍の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の射出装置のスクリュー。
【請求項6】
上記スクリューの胴体部から上記フライトの上端までの高さに対して、上記溝の高さは、0.3〜0.7倍の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の射出装置のスクリュー。
【請求項7】
上記スクリューの胴体部から上記フライトの上端までの高さに対して、上記溝の長さは、0.5〜4倍の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の射出装置のスクリュー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−173012(P2009−173012A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−320052(P2008−320052)
【出願日】平成20年12月16日(2008.12.16)
【出願人】(508303139)エルエス エムトロン リミテッド (16)
【Fターム(参考)】