説明

導体と端子の接続部およびその接続方法

【課題】導体部が露出している部分、及び圧着部全周を酸素透過係数の低い樹脂材で覆うことによって、導体部の酸化を抑制することが可能となり、長期間、外部環境で使用される場合でも、電気特性の劣化を最小限に抑える電線と端子の接続部およびその接続方法を提供する
【解決手段】
導体の絶縁被覆部および導体部を、前記導体部とは異種金属の端子の一部で圧着接続する導体と端子の接続部において、前記端子から露出された前記導体部、および圧着接続された圧着部の全周を覆うように配置された樹脂部を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異種金属からなる導体と端子の接続部およびその接続方法、特にアルミニウム電線導体(導体部にアルミニウムまたはアルミニウム合金を用いた電線)と銅合金端子の接続部およびその接続方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、OA機器、家電製品の分野において、電気伝導性に優れた銅系材料からなる心線を有する銅電線が信号線、電力線として使用されてきた。中でも自動車分野においては、車輌の高性能・高機能化が急速に進められてきていることから、車載される各種電気機器、制御機器等の増加に伴って使用される銅電線も増加する傾向にあるのが現状である。このような状況下で車輌の軽量化により燃費効率を向上させようとする場合、銅電線と比較してより軽量で安価なアルミニウム電線が自動車分野において特に注目されている。
【0003】
しかし、アルミニウム系材料からなる心線を有するアルミニウム電線と銅系材料からなる銅合金端子を圧着接続し、実際の環境温度条件で用いる場合、アルミニウム系材料と銅系材料との線膨張係数の違いと、アルミの易酸化性及びその酸化膜の高い絶縁抵抗から、従来の銅系材料で構成された銅線と銅合金端子の圧着接続と比較して、信頼性が大きく劣ることが一般的に知られている。
【0004】
図6はアルミニウム電線と銅合金端子の圧着部の断面図であり、図7(a)はアルミニウム電線と銅合金端子が接触している部分を拡大したものである。図7(a)に示すようにアルミニウム電線100と銅合金端子101は全部分で完全に密着しているのではなく、それぞれの凹凸面の一部のみが接触している。また、アルミニウム電線100の表面は通常大気中において、強固な酸化膜に覆われているが、圧着時の応力により酸化膜が破壊され、活性面が露出して銅合金端子101側と電気的に接続される。
【0005】
ここで、図7(a)の状態から環境温度が大きく変化した時の、アルミニウム電線100と銅合金端子101の接触部分付近を拡大したものを図7(b)に示す。図7(b)のように、環境温度が大きく変化するとアルミニウム電線100と銅合金端子101の線膨張係数の違いからアルミニウム電線100と銅合金端子101の間に隙間が形成されてしまう。そのため、アルミニウム電線表面は直ちに酸化膜に覆われてしまう。そして、環境温度が元に戻り、再度、アルミニウム電線100と銅合金端子101が接触しても、その接触部分が絶縁抵抗の高い酸化膜との接触となるため抵抗値が増大し、接続信頼性を大きく低下させることになってしまう。
【0006】
特許文献1では、上記問題の解決策として環境変化による接点部の隙間発生を防止するため端子側の材質をバネ性の良いものに変更して使用する端子構造が開示されている。また、特許文献2では、有底面に特殊端子を用いてアルミ電線を差込、底面部分で半田をした後に圧着する方法等が取られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−224120号公報
【特許文献2】特開2006−179369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の端子構造では、高温時の応力緩和によりバネ性が徐々に失われてしまい、その効果を長時間持続させることが困難である。さらに、アルミニウム電線間に形成される隙間に酸素が流れ込み、アルミニウム電線を直ちに酸化させてしまうため、接続信頼性を得ることができないという問題もある。
【0009】
また、特許文献2では、高温環境下での接続信頼性のみで、ヒートショックやヒートサイクルの過度な高低の温度変化がある環境下では接続信頼性の特性評価はできてない。また、アルミニウム電線は半田がつきにくいため十分な接続信頼性を得ることが難しい。
【0010】
従って、本発明の目的は、従来の問題点を解決して、環境温度が大きく変化した場合でも、アルミニウム電線と銅合金端子のような異種金属からなる導体と端子を、低コストで安定した電気的特性を維持して接続させることができる導体と端子の接続部およびその接続方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の導体と端子の接続部の態様は、導体の絶縁被覆部および導体部を、前記導体部とは異種金属の端子の一部で圧着接続する導体と端子の接続部において、前記端子から露出された前記導体部、および圧着接続された圧着部の全周を覆うように配置された樹脂部を備えていることを特徴とする。
【0012】
本発明の導体と端子の接続部の他の態様は、前記樹脂部の酸素透過係数が50cc(STP)・mm/cm/sec/cmHg×1010以下であることを特徴とする。
【0013】
本発明の導体と端子の接続部の他の態様は、前記樹脂部はハロゲン元素を含んでいないことを特徴とする。
【0014】
本発明の導体と端子の接続部の他の態様は、前記樹脂部は、その伸び率が0.4%以上であることを特徴とする。
【0015】
本発明の導体と端子の接続方法の態様は、導体の絶縁被覆部および導体部を、前記導体部とは異種金属の端子の一部で圧着接続する導体と端子の接続方法において、前記導体と前記端子とを圧着接続し、前記端子から露出された前記導体部、および圧着接続された圧着部の全周を樹脂材で覆い、前記樹脂材をUV光で、酸素透過係数が50cc(STP)・mm/cm/sec/cmHg×1010以下となるように硬化させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、導体部が露出している部分、及び圧着部全周を酸素透過係数の低い樹脂材で覆うことによって、環境温度の変化で導体と端子との間に隙間が形成された場合においても、樹脂材を透過する酸素の量を抑制することができ、導体部の酸化を抑制することが可能となる。これにより長期間、外部環境で使用される場合でも、電気特性の劣化を最小限に抑えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る導体と端子の接続方法の実施形態を示す図である。
【図2】本発明に係る導体と端子の接続部を示す実施形態の側面図である。
【図3】本発明に係る導体と端子の接続部を示す実施形態の平面図である。
【図4】本発明に係る導体と端子の接続部を示す実施形態の断面図である。
【図5】本発明に係る導体と端子の接続部の、ヒートショック試験前後における接触抵抗値の変動量を示すグラフである。
【図6】アルミニウム電線と銅合金端子の圧着部の断面図である。
【図7】アルミニウム電線と銅合金端子の接触部分付近の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態に係る導体と端子の接続部およびその接続方法を、図1〜図4を用いて以下に説明する。なお、同一機能を有する各構成部については、図示及び説明簡略化のため、同一符号を付して示す。
【0019】
図1は、導体と端子の接続方法を説明する図である。図1(a)は、導体2と端子3を圧着接続する前の段階を示している。導体2は、導体部5を絶縁被覆部4で被覆したものであり、端子3に圧着接続するため、導体2の先端部分の絶縁被覆部4が剥ぎ取られ、導体部5が露出されている。端子3は、一端に図示しない別のコネクタと電気的に接続される端子本体8が形成され、他端に導体2の絶縁被覆部4と圧着接続される第1圧着部6が形成されている。また、端子本体8と第1圧着部6との間には、導体部5と圧着接続される第2圧着部7が形成されている。なお、端子3の材質としては、銅もしくは黄銅などが考えられ、導体部5の材質としては、アルミニウムやアルミニウム合金などが考えられる。他にも異種金属であれば様々な組合わせが考えられる。
【0020】
図1(b)は、導体2と端子3を圧着接続した後の段階を示している。圧着接続は、導体2を端子3の所定の場所に位置合わせし、図示しない圧着工具を使用することで、絶縁被覆部4と第1圧着部6が圧着されると同時に、導体部5と第2圧着部7が圧着される。圧着接続後、端子本体8と第2圧着部7の間には切り欠き部11が形成され、また第1圧着部6と第2圧着部7の間には切り欠き部12が形成される。
【0021】
図1(c)は、圧着接続した導体と端子の接続部1に感光性の樹脂材9を塗布したものである。樹脂材9を切り欠き部11、12から露出している導体部5(図示なし)、および第1圧着部6、第2圧着部7の圧着部全周を覆うように塗布している。なお、樹脂材9は、UV光を照射することで硬化する特性を有するものである。
【0022】
図1(d)は、樹脂材9を導体と端子の接続部1に塗布した後、UV光を照射することで、樹脂材9を硬化させたものである。樹脂材9にUV光を当てることで、樹脂材9を樹脂材10に硬化させ、異種金属の導体と端子の信頼性の高い接続を実現することが可能となる。また、樹脂材10は、酸素透過係数が50cc(STP)・mm/cm/sec/cmHg×1010以下で、その伸び率が0.4%以上となるように硬化させることが特に望ましい。樹脂材を、酸素透過係数が50cc(STP)・mm/cm/sec/cmHg×1010以下になるように硬化させることによって、樹脂材10を透過する酸素の量を抑制することができ、導体部5の酸化を抑制することが可能となる。これにより長期間、外部環境で使用される場合でも、電気特性の劣化を最小限に抑えることが可能となる。なお、樹脂材の酸素透過係数の測定方法は、JISK7126を参照することで測定することが可能である。また、樹脂材の伸び率を0.4%以上とすることで、環境温度が大きく変化した際の導体部や端子の膨張時においても、樹脂材が割れることを抑制することが可能となる。
【0023】
次に、図2〜4を用いて、以上説明した接続方法により接続された導体2と端子3の接続部1について説明する。図2、3は、導体2と端子3の接続部1の実施形態の側面図及び平面図であり、図4は、導体2と端子3の接続部1の実施形態の断面図である。図2のA−A断面、B−B断面、C-C断面を図4(a)、図4(b)、図4(c)にそれぞれ示したものである。
【0024】
図2〜4に示すように、圧着接続後にできた切り欠き部11、12から露出している導体部5(a)、5(b)が樹脂材10で覆われていると共に、第1圧着部6、及び第2圧着部7の圧着部全周が樹脂材10で覆われている。樹脂材10は、酸素透過係数が50cc(STP)・mm/cm/sec/cmHg×1010以下となるようにUV光により硬化させたもので、ハロゲン元素が含まれていない樹脂材を使用している。なお、樹脂材10としては、シリコン系、アクリル系、ウレタン系、ポリアミド系、またはエポキシ系樹脂や、これらの組み合わせを用いることが可能である。
【0025】
さらに、樹脂部10は伸び率が0.4%以上となるようにUV光により硬化させたものが好ましい。樹脂材10の伸び率の許容量は、使用する導体部の線膨張係数αと使用環境温度ΔTの積である導体部の変化率X(最大温度変化時)よりも大きい値であれば良い。例えば、自動車など車載に実装される導体部の材質がアルミニウム材のハーネスの場合においては、アルミニウムの線膨張係数α:23×10^−6[1/℃]と、使用環境温度の最大変化ΔT:160℃(一般的に想定される環境温度は−40℃〜120℃の範囲)から、樹脂材の伸び率の許容量を算出することが可能である。この場合、導体部の変化率Xは、αとΔTの積で計算され、0.368[%]と求めることができる。したがって、この場合、樹脂材の伸び率としては、少なくとも0.368[%]以上が要求されることとなる。
【0026】
上述したように、露出している導体部5や圧着部6.7全周を酸素透過係数の低い樹脂材10で覆うことにより、圧着部6,7の隙間等からの導体部5への酸素の流入を抑制すると共に、環境温度の変化で導体と端子との間に隙間が形成された場合においても、樹脂材10を透過する酸素の量を抑制することができ、導体部5の酸化を抑制することが可能となる。また、樹脂材10にハロゲン元素を含んでいない電気陰性度が弱い硬化性樹脂を用いることで、樹脂自体より揮発するガスが少なく、樹脂材10の酸化反応を抑制することができる。
【0027】
一般の環境下で使用され、導体部の材質がアルミニウム材のものを使用する場合、樹脂材10の伸び率を0.4%以上となるように硬化させることで、環境温度が変化しても、樹脂材10が割れることを抑制することが可能となり、信頼性の高い導体と端子の接続部を実現することが可能となる。
【0028】
次に、本発明の導体と端子の接続部を実施例によって更に詳細に説明する。銅合金材の端子にアルミニウム材の導体部を圧着接続し、露出している導体部と圧着部全周を、ウレタンアクリル系UV硬化樹脂材で覆った後、酸素透過係数が50cc(STP)・mm/cm/sec/cmHg×1010、伸び率が30%以上となるように樹脂を硬化させた。このようにして作製した導体と端子の接続部(コーティングサンプル)について、信頼性試験を行なった。なお、比較のため、樹脂材を用いない場合の接続部(通常サンプル)についても同じように信頼性試験を行なった。
【0029】
信頼性試験は、環境温度−40℃の環境下で30分放置し、その後、環境温度120℃の環境下で30分放置するのを1サイクルとし、サイクル数を順次増やすヒートショック試験にて信頼性の評価を行なった。そして、サイクル毎の接触抵抗値を測定し、接触抵抗の変化量を測定した。結果を図5に示す。
【0030】
図5から、樹脂材を用いない場合の接続部(通常サンプル)はヒートショック試験によりサイクル数を増加させていくと、接続抵抗値も増加することが確認できるが、本発明の導体と端子の接続部(コーティングサンプル)は、サイクル数を増加させても、接続抵抗値は増加していないことが確認できる。なお、本実施例では、50cc(STP)・mm/cm/sec/cmHg×1010の酸素透過係数を持つウレタンアクリル系UV硬化樹脂材を使ったが、50cc(STP)・mm/cm/sec/cmHg×1010以下の酸素透過係数持つ樹脂材を用いれば、本実施例以上の効果が得られることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0031】
1 電線と端子の接続部2 導体3 端子4 絶縁被覆部5 導体部6 第1圧着部7 第2圧着部8 端子本体10 樹脂材11、12 切り欠き部100 アルミニウム電線101 銅合金端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体の絶縁被覆部および導体部を、前記導体部とは異種金属の端子の一部で圧着接続する導体と端子の接続部において、
前記端子から露出された前記導体部、および圧着接続された圧着部の全周を覆うように配置された樹脂部を備えていることを特徴とする導体と端子の接続部。
【請求項2】
前記樹脂部の酸素透過係数が50cc(STP)・mm/cm/sec/cmHg×1010以下であることを特徴とする請求項1に記載の導体と端子の接続部。
【請求項3】
前記樹脂部はハロゲン元素を含んでいないことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の導体と端子の接続部。
【請求項4】
前記樹脂部は、その伸び率が0.4%以上であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の導体と端子の接続部。
【請求項5】
導体の絶縁被覆部および導体部を、前記導体部とは異種金属の端子の一部で圧着接続する導体と端子の接続方法において、
前記導体と前記端子とを圧着接続し、
前記端子から露出された前記導体部、および圧着接続された圧着部の全周を樹脂材で覆い、
前記樹脂材をUV光で、酸素透過係数が50cc(STP)・mm/cm/sec/cmHg×1010以下となるように硬化させることを特徴とする導体と端子の接続方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−216192(P2011−216192A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−80244(P2010−80244)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(391045897)古河AS株式会社 (571)
【Fターム(参考)】