説明

導体ペーストおよびそれを用いた積層電子部品

【課題】低温での樹脂の燃焼とそれに伴って脱バインダが不十分になることに起因する特性の低下を生じない内部電極用ニッケル導体ペースト、さらにこの導体ペーストを電極形成に用いて、電気的特性が優れ、信頼性の高い積層セラミック電子部品を提供する。
【解決手段】ニッケルを主成分とする導電性粉末、イオウ粉末および分子構造中に−S−S−結合を有するイオウ化合物から選ばれる少なくとも1種のイオウ成分、樹脂バインダおよび溶剤を含む導体ペースト、更には、該導体ペーストを用いて内部電極を形成した積層セラミック電子部品。前記導体ペーストにおいて、単位重量の導電性粉末に対するイオウ成分の重量比率が、イオウ元素換算で導電性粉末の比表面積1m/gあたり50〜2000ppmであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導体ペースト、特に積層コンデンサ、積層インダクタ、積層アクチュエータ等の積層セラミック電子部品の電極を形成するのに好適なニッケル含有導体ペーストと、これを用いた積層セラミック電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミック電子部品(以下「積層電子部品」ということもある。)は、一般に次のようにして製造される。誘電体、磁性体、圧電体等のセラミック原料粉末を樹脂バインダ中に分散させ、シート化してなるセラミックグリーンシート(以下「セラミックシート」という。)を準備する。このセラミックシート上に、導電性粉末を主成分とし、所望によりセラミック粉末等を含む無機粉末を、樹脂バインダおよび溶剤を含むビヒクルに分散させてなる内部電極用導体ペーストを、所定のパターンで印刷し、乾燥して溶剤を除去し、内部電極乾燥膜を形成する。得られた内部電極乾燥膜を有するセラミックシートを複数枚積み重ね、圧着してセラミックシートと内部電極ペースト層とを交互に積層した未焼成の積層体を得る。この積層体を、所定の形状に切断した後、高温で焼成することにより、セラミック層の焼結と内部電極層の形成を同時に行い、セラミック素体を得る。この後、素体の両端面に端子電極を焼き付けて、積層電子部品を得る。端子電極は、未焼成の積層体と同時に焼成される場合もある。
【0003】
内部電極用導体ペーストの導電性粉末としては、最近ではパラジウム、銀等の貴金属粉末に代わって、ニッケル、銅等の卑金属粉末を用いるのが主流になっており、これに伴い、積層体の焼成も、卑金属が焼成中に酸化されないように、通常酸素分圧の極めて低い非酸化性雰囲気中で行われる。
【0004】
近年、積層電子部品の小型化、高積層化の要求が強く、特に、導電性粉末としてニッケルを用いた積層セラミックコンデンサにおいては、セラミック層、内部電極層ともに薄層化が急速に進んでいる。このためより厚みの薄いセラミックシートが使用されると共に、内部電極用導体ペーストには、極めて微細なニッケル粉末が使用されるようになってきた。例えば、文献1には、平均粉末径が0.5μ以下のニッケル粉末を有機ビヒクル中に分散した導電性ペーストが開示されている。
【特許文献1】特開2001−101926公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、導電性粉末として極めて微細なニッケル粉末を用いる場合、工程におけるビヒクル成分の分解が不完全であることに起因すると思われる、コンデンサ特性の低下、構造欠陥の発生、信頼性の低下が問題となっている。
【0006】
これは、積層体を焼成する際に、ビヒクル成分を燃焼、飛散させる脱バインダ工程において、窒素雰囲気などの非酸化性雰囲気中では、もともと触媒活性の高いニッケル粉末が樹脂バインダの燃焼に対して触媒として作用し、燃焼を促進する傾向があるのであるが、ニッケル粉末の平均粒径がサブミクロンオーダー、特に0.5μm以下になってくると、ニッケル粉末自体の活性がますます高まり、樹脂の一部が通常の樹脂の分解温度より低温で爆発的に燃焼するようになる。特にニッケル粉末の表面に水酸基が付着しているような場合、その分解によって活性の極めて高い微細な酸化ニッケルが生成し、その触媒作用により樹脂は一層激しく燃焼する。樹脂が非酸化性雰囲気において前記のように比較的低温で燃焼を開始した場合、完全燃焼せず、燃え残りの炭素質残渣が絡み合って、例えばグラファイト様の三次元構造をとり、飛散しにくくなる。このため、脱バインダ後の内部電極層にカーボンが残留し、この残留カーボンが引き続く高温でのセラミックの焼結工程において酸化、ガス化して飛散する際、セラミック層から酸素を引き抜いてセラミック素体の強度を低下させたり、静電容量、絶縁抵抗等の電気特性を悪化させたりする。また、前記残留カーボンによりニッケル粉末が低融化して過焼結を起こし、電極の連続性が損なわれる。このため、電子部品の特性、信頼性が低下する。さらに前記樹脂の爆発的な燃焼により、素体にクラック等の構造欠陥を生ずることもある。
【0007】
脱バインダ時の樹脂の低温での急激な燃焼を抑制するために、バインダとして難燃性樹脂を使用したり、ペーストへ難燃化剤を添加することが考えられるが、このような方法では、当然のことながらバインダの分解性が悪くなるため逆に残留カーボン量の増加を招き、コンデンサ特性に不具合が発生する。
【0008】
本発明は、前述のようなニッケル粉末に起因する問題を解決し、導電性粉末として極めて微細なニッケル粉末を用いた場合でも、低温での樹脂の燃焼とそれに伴って脱バインダが不十分になることに起因する特性の低下を生じない内部電極用導体ペーストを提供すること、さらにこのペーストを用いて、電気的特性が優れ、信頼性の高い積層セラミック電子部品を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)ニッケルを主成分とする導電性粉末、イオウ粉末および分子構造中に−S−S−結合を有するイオウ化合物から選ばれる少なくとも1種のイオウ成分、樹脂バインダおよび溶剤を含む導体ペースト。
【0010】
(2)単位重量の導電性粉末に対するイオウ成分の重量比率が、イオウ元素換算で導電性粉末の比表面積1m/gあたり50〜2000ppmであることを特徴とする、前記(1)に記載の導体ペースト。
【0011】
(3)さらにイオウ成分を活性化させる物質を含むことを特徴とする、前記(1)または(2)に記載の導体ペースト。
【0012】
(4)ニッケルを主成分とする導電性粉末の平均粒径が0.5μm以下であることを特徴とする、前記(1)ないし(3)のいずれかに記載の導体ペースト。
【0013】
(5)前記(1)ないし(4)のいずれかに記載の導体ペーストを用いて内部電極を形成したことを特徴とする積層セラミック電子部品。
【発明の効果】
【0014】
本発明において、ニッケルを主成分とする導電性粉末、樹脂バインダおよび溶剤を含む導体ペーストに、イオウ粉末、分子構造中に−S−S−結合を有するイオウ化合物から選ばれる少なくとも1種のイオウ成分(以下単に「イオウ成分」ということもある。)を含有させることにより、活性の高いニッケル粉末、特に平均粒径が0.5μm以下の極めて微細なニッケル粉末を用いた場合でも、脱バインダ工程後の残留カーボン量を著しく減少させることができる。このため電極膜の連続性が優れ、特性の劣化やクラック発生のない優れた積層セラミック電子部品を得ることができ、セラミック層、内部電極層の厚さが薄い高積層品においても信頼性の高い積層セラミック電子部品を得ることができる。
【0015】
その理由については必ずしも明確ではないが、イオウ粉末や分子構造中に−S−S−結合を有するイオウ化合物がニッケル粉末表面の触媒活性を適度に低下させる作用を有し、非酸化性雰囲気中で脱バインダを行なう際、低温での樹脂の急激な燃焼を抑制するため、クラック等の構造欠陥を発生させず、また脱バインダ工程後の樹脂の燃え残りが少なくなり、残留カーボンに起因する特性劣化、即ち電極の過焼結による不連続化や、高温焼成時の残留カーボンによる誘電体層の還元が生じなくなるものと推定される。
【0016】
特に、単位重量の導電性粉末に対するイオウ成分中のイオウ元素の重量比率が、導電性粉末の比表面積1m/gあたり50〜2000ppmとなるようにペースト中に配合される場合、極めて優れた特性向上効果を奏する。
【0017】
さらに、上記のイオウ成分に加え、該イオウ成分を活性化させる物質を含有させる場合、イオウ成分の添加効果をさらに高めることができる。
【0018】
さらに、これらの導体ペーストを用いて内部電極を形成した積層セラミック電子部品は、脱バインダ時の樹脂の急激な燃焼に起因する残留カーボンが少なく、また導体ペーストに配合されたイオウ成分の残留も殆どないことから、諸特性が優れ、信頼性が高いものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
(ニッケルを主成分とする導電性粉末)
本発明において用いられる導電性粉末としては、金属ニッケル粉末の他、ニッケルを主成分とする合金粉末や、ニッケル粉末と他の金属粉末の混合粉末を使用してもよい。合金粉末、混合粉末において、ニッケル以外の金属成分としては、例えば銅、コバルト、鉄、銀、パラジウム等が挙げられる。また金属、金属酸化物、ガラス、セラミックなどの無機粉末にニッケルを主成分とする金属を被覆した複合粉末を用いることもできる。
【0020】
また、ニッケル粉末の表面に薄い酸化膜を有するものや、過焼結抑制の目的でガラス質や各種酸化物を表面に被着させたものを用いてもよい。これらの導電性粉末は、2種以上混合して用いてもよい。また必要に応じて、有機金属化合物や界面活性剤、脂肪酸類などで表面処理して用いてもよい。
【0021】
ニッケルを主成分とする導電性粉末(以下単に「ニッケル粉末」ということもある。)の粒径には特に制限はなく、通常内部電極用導体ペーストに用いられるような、平均粒径が3μm以下程度のものが好ましく使用される。特に緻密で平滑性が高く、薄い内部電極層を形成するためには、平均粒径が0.05〜1.0μm程度の分散性が良好な微粉末を用いることが好ましい。特に活性が非常に高い、平均粒径が0.5μm以下、比表面積が1.3m/g以上の極めて微細なニッケル粉末を用いた場合、本発明は顕著な効果を奏する。なお、本発明において、粉末の平均粒径は、特に断らない限りSEM観察により算出された平均粒径を表す。
【0022】
(イオウ成分)
イオウ粉末としては、斜方晶系や単斜晶系等の結晶質の粉末や不定形粉末など、どのようなものを用いてもよい。またその粒径にも制限はなく、例えば市販されている120メッシュから500メッシュのものなど、いずれも使用することができるが、ニッケル粉末との相互分散性を考慮すると、特に200メッシュ以下の微細なものが望ましい。また、1〜3μmの粒径に微細化されたいわゆるコロイドイオウは、より望ましい。
【0023】
本発明においてイオウ成分として使用されるイオウ化合物は、分子構造中に−S−S−結合を有する化合物であれば特に制限はない。代表的には、下記一般式 (1)
【化1】

(R、R’は、メチル基、エチル基、ブチル基、ペンタメチレン基のいずれかであり、nは2〜6である)で表されるチウラム化合物のうち、n>1の化合物、例えばテトラメチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィドや、モルフォリン系化合物、例えば(モルフォリノジチオ)ベンゾチアゾール、ジチオジモルフォリン、またその他の有機ジスルフィド類、例えばジベンゾチアジルジスルフィド、イソプロピルキサントゲンジスルフィドなどの有機イオウ化合物が挙げられる。これら−S−S−結合を有するイオウ化合物は、単独でニッケル粉末の触媒活性を抑制することができるが、イオウ粉末を活性化させる作用も有するので、イオウ粉末を用いる場合はこれらの化合物を共に配合すれば、イオウ粉末の添加効果を高めることができる。
【0024】
本発明のペーストにおいて添加された上記のイオウ成分は、少ない添加量でも添加効果が高いことに加え、電極ペーストの脱バインダの段階で一部が飛散し、更にその後の高温下での焼成においてその殆どが飛散することから、電極膜中に残存する量が極めて少ない。すなわち、添加されたイオウ成分は、脱バインダ後の残留炭素成分を低減する効果を発揮しつつ、導体ペーストの焼成で得られた電極膜中での残留量が少ないことから、残留イオウにより積層セラミック部品等に悪影響を及ぼす心配がないという利点がある。特開平5−242725号公報には、有機イオウ化合物を添加した導体ペーストが開示されているが、該ペーストでの有機イオウ化合物は、導電性粉末とキレート錯体を形成することにより導電性粉末と有機バインダとの反応を阻止し、導体ペーストの経時変化を低減化することを目的として添加されたものである。本発明の導体ペーストに添加されるイオウ成分は、活性の高いニッケル粉末、特に平均粒径が0.5μm以下の極めて微細なニッケル粉末を用いた際の脱バインダー工程での問題を解消し、残留カーボン量の低減化を意図して添加されるもであり、そのためイオウ成分としてイオウ化合物を添加する場合には、脱バインダー特性を改善し、残留カーボンを低減化する効果を奏する−S−S−結合を有するイオウ化合物が添加される。
【0025】
上記のイオウ成分は、ニッケルの触媒活性を抑制する作用を有すると考えられるので、その最適な配合量は、導電性粉末の表面積によって決まり、単位重量の導電性粉末に対して、イオウ成分の重量比率が、導電性粉末の比表面積1m/gあたり50〜2000ppmであることが望ましい。即ち、導電性粉末の比表面積をam/gとすると、導電性粉末の重量に対してイオウ成分はa×(50〜2000)ppm(導電性粉末の表面積1mに対して50〜2000×10−6g)で配合されることが望ましい。導電性粉末の比表面積1m/gあたり50ppmより少ないと効果が不十分になる恐れがある。また2000ppmを超えると、再び脱バインダ性が低下してくる傾向があり、また焼成後にイオウが残留し、電子部品の電気特性に悪影響を与える恐れがある。このように、添加したイオウ成分は、焼成後の積層セラミック電子部品中に残留しないことが望ましい。このためには、ペースト中のイオウ元素換算の総量(後述のイオウ成分を活性化させる物質を添加する場合には、そのイオウ元素換算量も含める)が、導電性粉末に対して1重量%以下であることが望ましい。
【0026】
(樹脂バインダ)
樹脂バインダとしては特に制限はなく、導体ペーストに通常使用されているもの、例えばエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどのセルロース系樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ブチラール樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ロジンなどが使用される。樹脂バインダの配合量は、特に限定されないが、通常導電性粉末100重量部に対して 1〜15重量部程度である。
【0027】
(溶剤)
溶剤としては、前記バインダ樹脂を溶解するものであれば特に限定はなく、通常内部電極用ペーストに使用されているものを適宜選択して配合する。例えばアルコール系、エーテル系、エステル系、炭化水素系等の有機溶剤や水、またはこれらの混合溶剤が挙げられる。溶剤の量は、通常使用される量であれば制限はなく、導電性粉末の性状や樹脂の種類、塗布法等に応じて適宜配合される。通常は導電性粉末100重量部に対して40〜150重量部程度である。
【0028】
(イオウ成分を活性化させる物質)
イオウ粉末は、通常S環状構造をとっているため活性があまり高くない。このためイオウ粉末を活性化させる物質を添加することにより、イオウ粉末の添加効果を高めることができる。
【0029】
このような物質としては、例えば通常ゴム工業においてゴムの加硫促進剤として用いられている化合物が好ましく使用される。例を挙げると、ヘキサメチレンテトラミン、ブチルアルデヒドアニリン等のアルデヒド・アンモニアおよびアルデヒド・アミン系、トリメチルチオウレア、N,N−ジエチルチオウレア、エチレンチオウレア等のチオウレア系、N,N−ジフェニルグアニジン、N,N−ジ(o−トリル)グアニジン等のグアニジン系、2−メルカプトベンゾチアゾール等のチアゾール系、N−シクロヘキシル2−ベンゾチアゾイルスルファミン、N−t−ブチル−2−ベンゾチアゾイルスルフェンアミド等のスルフェンアミド系、テトラメチルチウラムモノスルフィド等のチウラム系、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛等のジチオカルバミン酸塩系、ブチルキサントゲン酸亜鉛等のキサントゲン酸塩系、またそれらの混合物が好ましく使用される。これらの化合物に、さらに加硫促進助剤として知られている化合物、例えば酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化鉛、炭酸亜鉛、水酸化カルシウム、脂肪酸やその誘導体、アミン類等を併用してもよい。
【0030】
またイオウ成分を活性化させる物質(以下「活性化成分」ということもある。)としては、上記化合物のほか、2−メルカプトベンゾイミダゾール、(2−ベンゾチアジルチオ)酢酸、3−(2−ベンゾチアジルチオ)プロピオン酸なども好ましく使用される。
【0031】
なおこれらの化合物を選択する際は、電子部品の特性に悪影響を与えるような元素を含まないように配慮することが必要である。
【0032】
これらの活性化成分は、特にイオウ粉末と併用する場合に効果的であるが、分子構造中に−S−S−結合を有するイオウ化合物と併用しても差し支えない。また補助的な添加剤であるため、その添加量は適宜調整すればよく、特に限定されるものではないが、イオウ成分の重量に対して10〜200%程度とするのが適切である。
【0033】
なお、活性化成分に含まれるイオウ元素は、焼成後の積層セラミック電子部品中にほとんど残留しない。しかしあまり添加量が多いと残留することがあるので、この電子部品の特性を損なわないためには、ペースト中でのイオウ元素換算の総量が、導電性粉末に対して1重量%以下となるように添加することが望ましい。
【0034】
(その他の添加成分)
本発明の導体ペーストには、前記成分の他に、通常配合されることのある成分、即ち、セラミックシートに含有されるセラミックと同一または組成が近似した成分を含むセラミックや、ガラス、アルミナ、シリカ、酸化銅、酸化マンガン、酸化チタン等の金属酸化物、モンモリロナイトなどの無機粉末や、金属有機化合物、可塑剤、分散剤、界面活性剤等を、目的に応じて適宜配合することができる。
【0035】
(導体ペーストの製造)
本発明の導体ペーストは、常法に従って、導電性粉末とイオウ成分とを、他の添加成分と共に、バインダ樹脂および溶剤を含むビヒクル中に均一に分散させることにより製造される。この後さらに室温〜120℃程度の温度で数時間〜数日程度エージング処理を行なうと、本発明の効果をいっそう高めることができるので好ましい。
【0036】
本発明の導体ペーストは、特に、積層コンデンサ、積層インダクタ、積層アクチュエータ等の積層セラミック電子部品の内部電極を形成するのに適しているが、その他にセラミック電子部品の端子電極や厚膜導体回路の形成に使用することもできる。
【0037】
(積層セラミック電子部品の製造)
積層セラミック電子部品は、内部導体形成に本発明の導体ペーストを用いて製造される。一例として積層セラミックコンデンサの製造方法を述べる。
【0038】
まず、誘電体セラミック原料粉末を樹脂バインダ中に分散させ、ドクターブレード法等でシート成形し、セラミックシートを作製する。誘電体層を形成するための誘電体セラミック原料粉末としては、通常チタン酸バリウム系、ジルコン酸ストロンチウム系、ジルコン酸カルシウムストロンチウム系などのペロブスカイト型酸化物、または、これらを構成する金属元素の一部を他の金属元素で置換したものを主成分とする粉末が使用される。必要に応じて、これらの原料粉末に、コンデンサ特性を調整するための各種添加剤が配合される。
【0039】
得られたセラミックシート上に、本発明の導体ペーストを、スクリーン印刷等の通常の方法で塗布し、乾燥して溶剤を除去し、所定のパターンの内部電極ペースト乾燥膜を形成する。内部電極ペースト乾燥膜が形成されたセラミックシートを所定の枚数だけ積み重ね、加圧積層して、未焼成の積層体を作製する。この積層体を所定の形状に切断した後、不活性ガス雰囲気中または若干の酸素を含む不活性ガス雰囲気中で250〜350℃程度の温度で脱バインダを行ってビヒクル成分を分解、飛散させた後、非酸化性雰囲気中1100〜1350℃程度の高温で焼成し、誘電体層と電極層を同時に焼結し、必要によりさらに再酸化処理を行って、積層セラミックコンデンサ素体を得る。この後、素体の両端面に端子電極が焼付け形成される。なお、端子電極は、前記未焼成の積層体を切断したチップの両端面に端子電極用導体ペーストを塗布し、その後、積層体と同時に焼成することによって形成してもよい。
【実施例】
【0040】
次に、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
実施例1
平均粒径0.2μm、比表面積3.5m/gのニッケル粉末100重量部、イオウ粉末0.1重量部、樹脂バインダとしてエチルセルロース5重量部、溶剤としてジヒドロターピネオール95重量部を配合し、3本ロールミルを使って混練した後、容器に密閉して80℃の恒温槽に15時間保存して導体ペーストを作製した。
【0042】
得られた導体ペーストをチタン酸バリウム系セラミックグリーンシート上に所定の形状に印刷し、乾燥して内部電極となる導体ペースト乾燥膜を形成し、この導体ペースト乾燥膜を有するグリーンシートを、誘電体有効層が30層になるように積み重ね、圧着、成形した後、所定の形状に切断し、未焼成の積層コンデンサチップを得た。この未焼成のチップを、窒素ガス雰囲気中温度300℃、12時間の条件で脱バインダを行った後、引き続き弱還元性(水素を含む窒素ガス)雰囲気中ピーク温度1250℃で2時間本焼成を行い、次いで弱酸化性雰囲気中1000℃で1時間再酸化処理を行い、積層セラミックコンデンサ素体を作製した。次いでこの素体に端子電極を焼き付けて、積層セラミックコンデンサを得た。
【0043】
得られた積層セラミックコンデンサ100個について、容量と絶縁抵抗を測定し、その平均値を表1に示した。また任意に選んだコンデンサ5個について、内部電極に直交する面で切断し、断面を観察して電極の連続性を調べ、表1に示した。ここで電極の連続性は、コンデンサの断面写真を元に、それぞれから選んだ10層の電極に中心線を引いて、その全長に対し途切れた部分を差し引いた長さの割合を百分率で算出したものであり、数字が大きいほど連続性が良好であることを表す。
【0044】
次に、導体ペーストの脱バインダ特性の評価を以下のようにして行なった。前記導体ペーストを、PETフィルム上に膜厚が250μmとなるように塗布し、150℃で乾燥して溶剤成分を除去した。この乾燥体を窒素ガス雰囲気中で毎分20℃の昇温速度で500℃まで昇温し、熱重量測定を行って樹脂の分解開始温度を調べた。また、前記乾燥体を窒素ガス雰囲気中において300℃で3時間熱処理したサンプルについて、残留炭素量と残留イオウ量を測定した。結果をそれぞれ表1に示した。表1中、イオウ成分の量(ppm)は、ニッケル粉末の単位重量に対するイオウの元素換算でのイオウ成分の重量比率を、ニッケル粉末の比表面積1m/gに対して示したものである。以下の表2のイオウ成分の量も同様である。
【0045】
実施例2、3
イオウ粉末の量を表1に示すとおりとする以外は実施例1と同様にして、導体ペーストを作製した。同様に積層セラミックコンデンサを製造し、コンデンサ特性と脱バインダ特性を調べた。結果を表1に併せて示す。
【0046】
実施例4〜7
イオウ粉末に代えて、分子構造中に−S−S−結合を持つ各種イオウ化合物を表1に示す量だけ添加する以外は実施例1と同様にして、導体ペーストを作製した。実施例1と同様の方法で積層セラミックコンデンサを製造し、コンデンサ特性と脱バインダ特性を評価し、結果を表1に併せて示した。
【0047】
実施例8〜12
イオウ粉末0.1重量部に加えて、分子構造中に−S−S−結合を持つ各種イオウ化合物を表1に示す量だけ添加する以外は、実施例1と同様にして導体ペーストを作製した。実施例1と同様の方法で積層セラミックコンデンサを製造し、コンデンサ特性と脱バインダ特性を評価し、結果を表1に併せて示した。
【0048】
比較例1
イオウ粉末を添加しない以外は実施例1と同様にして、導体ペーストを作製した。実施例1と同様の方法で積層セラミックコンデンサを製造し、コンデンサ特性と脱バインダ特性を調べ、結果を表1に示した。
【0049】
比較例2〜4
イオウ粉末に代えて、分子構造中に−S−S−結合を持たない各種イオウ化合物を表1に示す量だけ添加する以外は実施例1と同様にして、導体ペーストを作製した。実施例1と同様の方法で積層セラミックコンデンサを製造し、コンデンサ特性と脱バインダ特性を評価し、結果を表1に併せて示した。
【0050】
比較例5
ニッケル粉末の比表面積を3.5m/g、イオウ粉末に代えて分子構造中に−S−S−結合を持たない2−メルカプトベンゾチアゾールを表1に示す量だけ添加する以外は実施例1と同様にして、導体ペーストを作製した。実施例1と同様の方法で積層セラミックコンデンサを製造し、コンデンサ特性と脱バインダ特性を評価し、結果を表1に併せて示した。
【0051】
【表1】

【0052】
表1の結果より明らかなように、イオウ粉末や、分子構造中に−S−S−結合を有するイオウ化合物の添加により、静電容量、電極の連続性、絶縁抵抗などの諸特性がいずれも向上していることがわかる。また脱バインダ特性のデータからは、低温で樹脂が分解を始めるのが抑制されており、また、残留カーボン量が著しく低減する。比較例2〜5の結果からは、−S−S−結合を有しないイオウ化合物を用いても、本発明の効果は得られないことがわかる。
【0053】
実施例13〜21
表2に示す量のイオウ粉末に加えて、活性化成分として2−メルカプトベンゾチアゾールを表2に示す量で添加する以外は、実施例1と同様にして導体ペーストを作製した。なお2−メルカプトベンゾチアゾールの添加量(重量部)は、ニッケル粉末100重量部に対する量である。実施例1と同様の方法で積層セラミックコンデンサを製造し、コンデンサ特性と脱バインダ特性を調べ、結果を表2に併せて示した。
【0054】
実施例22〜24
ニッケル粉末として比表面積2.2m/g、1.4m/g、0.8m/g (平均粒径はそれぞれ0.3μm、0.5μm、0.8μm)の3種類の粉末を用い、またイオウ粉末、2−メルカプトベンゾチアゾールの添加量を表2に示すとおりとする以外は、実施例13と同様にして導体ペーストを作製した。同様に積層セラミックコンデンサを製造し、コンデンサ特性と脱バインダ特性を調べ、結果を表2に併せて示した。
【0055】
実施例25〜28
イオウ粉末を0.1重量部とし、2−メルカプトベンゾチアゾールに代えて表2に示す各種活性化成分を所定量添加する以外は、実施例13と同様にして導体ペーストを作製した。同様に積層セラミックコンデンサを製造し、コンデンサ特性と脱バインダ特性を調べ、結果を表2に併せて示した。
【0056】
【表2】

【0057】
表2の結果より、イオウ粉末と、活性化成分を併用することによって、イオウ粉末単独の場合に比べてさらに優れた効果を得ることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケルを主成分とする導電性粉末、イオウ粉末および分子構造中に−S−S−結合を有するイオウ化合物から選ばれる少なくとも1種のイオウ成分、樹脂バインダおよび溶剤を含む導体ペースト。
【請求項2】
単位重量の導電性粉末に対するイオウ成分の重量比率が、イオウ元素換算で導電性粉末の比表面積1m/gあたり50〜2000ppmであることを特徴とする、請求項1に記載の導体ペースト。
【請求項3】
さらにイオウ成分を活性化させる物質を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の導体ペースト。
【請求項4】
ニッケルを主成分とする導電性粉末の平均粒径が0.5μm以下であることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれかに記載の導体ペースト。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の導体ペーストを用いて内部電極を形成したことを特徴とする積層セラミック電子部品。

【公開番号】特開2006−99965(P2006−99965A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−280785(P2004−280785)
【出願日】平成16年9月28日(2004.9.28)
【出願人】(000186762)昭栄化学工業株式会社 (55)
【Fターム(参考)】