説明

導波型ビームパラメータ積制御光回路及び光集積回路

【課題】 変換損失が少なく、光集積回路に適した、新規なメカニズムのビームパラメータ積制御光回路を提供する。
【解決手段】 導波路の光波の伝播方向に対する垂直断面が非矩形状に形成されている導波型ビームパラメータ積制御光回路。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光の損失を伴うことなくビームパラメータ積の変換を行うことができ、光学素子間の高効率な接合を実現する導波型ビームパラメータ積制御光回路、及び、該導波型ビームパラメータ積制御光回路を用いた光集積回路に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信技術では、半導体レーザ光源、レンズ、光分岐結合器、光合分波器、光スイッチ、光減衰器、光変調器、及び光フィルタなどの光学素子が利用される。光学素子は、光入力ポートから入射された入射光の状態に対して何らかの制御を行い、その制御された光を光出力ポートから射出させる素子である。この制御される光の状態としては、位相、光強度、波長、偏波がある。
【0003】
システムの安定化およびコストダウンなどを図るため、各種の光学素子を一体化する研究・開発が進められ、この一体化技術として、導波路型光回路(PLC、planar lightwave circuit)などの光集積回路がある。
【0004】
ところで、光学特性の異なる光学棄子と光学素子を高効率に接続するには、ビームパラメータ積(BPP:Beam Parameter Product)を操作し、接続する必要がある。ビームパラメータ積とは、光ビーム幅と光ビームの発散角の積で表され、ビームの品質を表す物理量である。直交座標系においては、直交するBPPxとBPPy値を損失なく制御することにより、光学素子間の高効率接続を実現する。
【0005】
そこで、ビームパラメータ積(BPP)制御(変換)素子が用いられる。ビームパラメータ積制御素子とは、レンズのように単純に物体と像の大きさを変換するような素子でなく、X−Y直交座標系におけるX軸方向のBPPxとY軸方向のBPPyの間で相互に変換(制御)するような機能を有する素子である。開口形状(あるいは、伝搬方向の断面形状)の異なる光学素子間を、損失なく接続するには、ビームパラメータ積を制御(変換)する光回路(素子)が必須である。
【0006】
図3に、ビームパラメータ積の制御例を示す。図1の制御例の場合、ビームパラメータ制御光回路への入射光はX軸方向のBPPxが大きくY軸方向のBPPyが小さかったものが、ビームパラメータ制御素子中でX軸方向のBPPxは小さくなりY軸方向のBPPyが大きくなることによって、両者のビームパラメータ積が近づく結果、導波路を伝播するレーザ光のビームパラメータをレーザ光の損失を伴うことなく、より等方形に変換することができる。
【0007】
下記非特許文献1には,光波が空間伝搬する微小光学系において、直交するBPPxとBPPyの特性を制御する装置として『ステップミラー』という機構が、Fraunhofer−ILTにより提案されている。
【0008】
【非特許文献1】IEEE J.of QE V.28,pp.1088−1100(1992)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ステップミラーは、バルク光学系(マイクロオプティクス)で構成されたBPP制御技術であり、切削・研磨した銅部品、あるいは、光学ガラスの表面に誘電体多層膜を蒸着した微小部品で、階段状の鏡を構成し、その階段状鏡を組み合わせることで、BPPの制御(x軸方向とy軸方向のBPPを変換)する構成をとっているので、導波路構造を伝播する光波のBPPを制御するためには、一度、導波路構造の外部に光波を取り出す必要があり、光学系を複雑にしたり、不要な変換損失や結合損失を増加させるという問題がある。又、ステップミラーは、主に、半導体レーザバー(アレイ状レーザ光源)のBPPを変換する目的で、提案されており、微小光学部品であるので、平面光回路(光導波路)との整合性は悪く、集積化することは困難であった。
【0010】
そこで、本発明は、ステップミラーに代わって、変換損失が少なく、光集積回路に適した、新規なメカニズムのビームパラメータ積制御光回路(素子)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、ビームパラメータ積を特定の構造を有する光導波路で制御することによって、上記課題が解決されることを見出し、本発明に到達した。
【0012】
即ち、第1に、本発明は、導波型ビームパラメータ積制御光回路の発明であり、導波路の光波の伝播方向に対する垂直断面が非矩形状に形成されていることを特徴とする。ここで、垂直断面が非矩形状とは、垂直断面が矩形でないすべての形状を含む。例えば、側壁が円形化した形状、楕円化した形状、部分的に曲線化した形状等の導波路の側壁が曲線状に形成され場合や、側壁が直線ではあるが垂直ではなく傾いた台形状や逆台形状の場合が好ましく例示される。垂直断面が矩形状の場合では、ビームパラメータ積の変換はほとんど期待できない。
【0013】
本発明の導波型ビームパラメータ積制御光回路では、導波路が光波の伝播方向に向け断面積が縮小(ダウンテーパ)又は拡大(アップテーパ)していくテーパ形状であることが好ましい。特に、テーパ形状が伝播方向に向け断面積が縮小していくダウンテーパとすることで、入射面と出射面が同型である場合よりも、短い距離でビームパラメータ積の変換量を大きくできる。
【0014】
導波路の材料としては特に制限されず、従来より知られたものが用いられる。具体的には、屈折率を制御するためのイオンを添加した石英を用いるのが最も好ましいが、BK7等の無機光学材料や、PMMAやポリイミド等、光学特性の良い有機高分子材料で構成しても良い。石英に添加されるイオンとしては、タンタル、ニオブ、ジルコニウム、チタン、アルミニウム、ゲルマニウム、リン、ホウ素、フッ素等が好ましく例示される。
【0015】
本発明の導波型ビームパラメータ積制御光回路は、導波路が平面基板の上に形成されていることが好ましい。これにより、他の光学素子と一体化・集積化して製作できる。
【0016】
第2に、本発明は、上記導波型ビームパラメータ積制御光回路の製造方法の発明であり、以下の方法により製造される。
(1)無機光学材料で形成された導波路のコアを熱処理して変形させることにより、該導波路の光波の伝播方向に対する垂直断面を非矩形状に形成する。
(2)導波路を光学材料をエッチングすることによって形成する際に、化学的エッチング量が物理的エッチング量よりも大きくなるようにして、該導波路の光波の伝播方向に対する垂直断面を非矩形状に形成する。
(3)導波路を光学材料をエッチングすることによって形成した後に、ポリマー材料からなるコア材をスピンコートすることによって、該導波路の光波の伝播方向に対する垂直断面を非矩形状に形成する。
【0017】
第3に、本発明は、上記導波型ビームパラメータ積制御光回路によって複数の光学素子が光学的に結合された光集積回路である。
【発明の効果】
【0018】
導波路の光波の伝播方向に対する垂直断面を非矩形状に形成することにより、直交する座標成分間でビームパラメータ積を変換することが可能である。これにより、ビーム品質を維持したままビーム幅を制御でき、光学系を設計する上で、非常に好ましい。本発明の導波型ビームパラメータ積制御光回路は、開口形状又は伝播方向の断面形状の異なる光学素子間を損失なく接続する上で必要である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1に、本発明の導波型ビームパラメータ積制御光回路の一例を挙げる。この例では、直線部分とダウンテーパ部分と直線部分とからなる。これにより、例えば、開口形状が1:16の入射光を、高効率で開口形状4:4に変換すること(開口形状変換)や、ビームパラメータ積が1:16の入射光を、高効率で4:4に変換すること(BPP変換)が可能である。
【0020】
図2に、導波路の光波の伝播方向に対する垂直断面を非矩形状に形成することでビーム品質が等方化する原理をイメージ化して説明する。図1と同様の形状を有し、丸みを帯びた側壁に入射光線Axが反射すると、反射光線はx成分Bxとy成分Byを有する。図3に模式化するように、変換素子中を伝播するにつれ、x成分が多かった入射光は次第にx成分が減少し、次第にBPPxとBPPyは等方化する。BPPxとBPPyが等方化するということは、レーザビームが対象物に集光化して絞って照射できることになり、取り扱い上好ましい。ただし、設計上、BPPxとBPPyを等方化しないでどちらか一方又は双方を分散化することも可能である。
【0021】
図4〜図6に、平面光回路に適した導波型ビームパラメータ積制御光回路を例示する。図4(a)は、伝播方向に対する垂直断面が台形状であり、図4(b)は、側壁が円形化した形状である。図5(a)、(b)は、光波の伝播方向に向け断面積が縮小していくダウンテーパ形状である。図6は、素子の中間部がダウンテーパ形状である場合である。
【0022】
図7及び図8に、ファイバ型(立体型)の導波型ビームパラメータ積制御光回路を例示する。図7(a)は、出射部が円形であり、図7(b)は、入射部が円形であって、光ファイバとの接合を効率化することができる。図7(c)は、入射部と出射部でBPPxとBPPyの成分比を逆転させることができる。図8(a)、(b)は、光ファイバを用い、断面が円形の光ファイバの端部又は一部を変形させたものである。
【0023】
図9は、本発明の導波型ビームパラメータ積制御光回路を光導波型集光系へ応用した例を示す。12個のレーザ発光器にそれぞれ導波型ビームパラメータ積制御素子を結合した結果、BPPxが1mm.mradでBPPyが16mm.mradの発振光がBPPxが4mm.mradでBPPyが4mm.mradにBPP変換され、集光はBPPxが4mm.mradでBPPyが48mm.mradとなる。もし、導波型ビームパラメータ積制御光回路を結合しなかった場合には、BPPxが1mm.mradでBPPyが192mm.mradとなる。本発明の導波型ビームパラメータ積制御光回路を用いることにより、ビーム品質が4倍以上に向上したことになる。
【産業上の利用可能性】
【0024】
導波型素子でビームパラメータ積(BPP)制御を実現するので、平面光回路中への集積化が可能となり、従来のステップミラーに代わって、平面光回路の発展に貢献する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の導波型ビームパラメータ積制御光回路の一例を示す。
【図2】本発明によりビーム品質が等方化する原理を説明する図を示す。
【図3】ビームパラメータ積の制御例を示す。
【図4】平面光回路に適した本発明の導波型ビームパラメータ積制御光回路の例を示す。
【図5】平面光回路に適した本発明の導波型ビームパラメータ積制御光回路の例を示す。
【図6】平面光回路に適した本発明の導波型ビームパラメータ積制御光回路の例を示す。
【図7】ファイバ型(立体型)の導波型ビームパラメータ積制御光回路の例を示す。
【図8】ファイバ型(立体型)の導波型ビームパラメータ積制御光回路の例を示す。
【図9】本発明の導波型ビームパラメータ積制御光回路を光導波型集光系へ応用した例を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導波路の光波の伝播方向に対する垂直断面が非矩形状に形成された導波型ビームパラメータ積制御光回路。
【請求項2】
前記導波路の側壁が曲線状に形成されたことを特徴とする請求項1に記載の導波型ビームパラメータ積制御光回路。
【請求項3】
前記導波路の断面が台形状に形成されたことを特徴とする請求項1に記載の導波型ビームパラメータ積制御光回路。
【請求項4】
前記導波路が光波の伝播方向に向け断面積が縮小又は拡大していくテーパ形状であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の導波型ビームパラメータ積制御光回路。
【請求項5】
前記テーパ形状が光波の伝播方向に向け断面積が縮小していくダウンテーパであることを特徴とする請求項4に記載の導波型ビームパラメータ積制御光回路。
【請求項6】
前記導波路が平面基板の上に形成されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の導波型ビームパラメータ積制御光回路。
【請求項7】
無機光学材料で形成された導波路のコアを熱処理することにより、該導波路の光波の伝播方向に対する垂直断面を非矩形状に形成することを特徴とする導波型ビームパラメータ積制御光回路の製造方法。
【請求項8】
導波路を光学材料をエッチングすることによって形成する際に、化学的エッチング量が物理的エッチング量よりも大きくなるようにして、該導波路の光波の伝播方向に対する垂直断面を非矩形状に形成することを特徴とする導波型ビームパラメータ積制御光回路の製造方法。
【請求項9】
導波路を光学材料をエッチングすることによって形成した後に、コア材をスピンコートすることによって、該導波路の光波の伝播方向に対する垂直断面を非矩形状に形成することを特徴とする導波型ビームパラメータ積制御光回路の製造方法。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれかに記載の導波型ビームパラメータ積制御光回路によって複数の光学素子が光学的に結合された光集積回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−51828(P2008−51828A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−320865(P2004−320865)
【出願日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】