説明

導電性シームレスベルト

【課題】カーボンナノチューブと高分子型イオン導電剤とを含むエラストマ組成物を押出成形等してなり、いずれの方向にも良好な引裂強さを有する上、耐屈曲性等にも優れた導電性シームレスベルトを提供する。
【解決手段】ポリエステル系熱可塑性エラストマと、前記ポリエステル系熱可塑性エラストマ100質量部あたり、1質量部以上、5質量部以下のカーボンナノチューブ、10質量部以上、40質量部以下の高分子型イオン導電剤、および0.1質量部以上、10質量部以下の無水マレイン酸系相溶化剤とを含むエラストマ組成物を押出成形して形成した導電性シームレスベルトである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばレーザープリンタ等の電子写真装置に組み込んで、前記電子写真装置の感光体の表面に形成されたトナー像を一旦転写したのち紙(プラスチックフィルム等を含む、以下同様)の表面に再転写する中間転写ベルト等として用いられる導電性シームレスベルトに関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーザープリンタ、静電式複写機、普通紙ファクシミリ装置、あるいはこれらの複合機等の電子写真装置においては、感光体の表面を一様に帯電させた状態で露光して、前記表面に形成画像に対応する静電潜像を形成し(帯電工程→露光工程)、前記静電潜像を、あらかじめ帯電させたトナーを選択的に付着させることでトナー像に現像したのち(現像工程)、前記トナー像を紙の表面に転写し(転写工程)、さらに定着させることにより(定着工程)、前記紙の表面に画像が形成される。
【0003】
また前記転写工程では、感光体の表面に形成したトナー像を紙の表面に直接に転写させる場合だけでなく、中間転写ベルトの表面に一旦転写させたのち紙の表面に再転写させる場合もある(中間転写工程)。
前記各工程のうち現像工程、転写工程、中間転写工程、定着工程等において、また給紙カセット等から1枚ずつ分離して送出された紙を転写工程へ搬送したり、転写工程から定着工程へ搬送したりする搬送手段として、導電性ないし半導電性を有するエラストマ組成物からなるベルト(以下「導電性ベルト」と総称する場合がある)が用いられる。
【0004】
特に前記エラストマ組成物を、例えば環状のダイから筒状に押出成形したのち、前記筒を所定の幅にカットする等して製造される導電性シームレスベルトは、形成画像に影響を及ぼすおそれのある継ぎ目を有しないことから、前記各種の用途に好適に用いられる。
従来の導電性シームレスベルトは、例えばゴム等のエラストマに電子導電性材料の微小粒子、例えばカーボンブラックや金属酸化物粉末等を配合したエラストマ組成物を、前記のように押出成形等して製造されていた。
【0005】
しかしカーボンブラック等に代表される微小粒子状の電子導電性材料はエラストマ中に均一に分散させるのが容易でなく分散状態にばらつきを生じやすい上、前記ばらつきが生じると一つの導電性シームレスベルトの面内や、あるいは複数個の導電性シームレスベルト間での電気抵抗値(体積抵抗率)のばらつきが大きくなるという問題があった。
また、特にエラストマとカーボンブラック等とを混練してエラストマ組成物を調製する際や前記エラストマ組成物を押出成形する際等に、前記カーボンブラック等の凝集塊が発生しやすく、前記凝集塊が発生するとその部分に集中的に電流が流れるためベルトの抵抗値を制御することが困難となったり、ベルト表面に凝集塊による微小な突起が生じたりする結果、前記導電性シームレスベルトを、特にトナー像と直接に接触する中間転写ベルト等として用いた場合に形成画像が乱れるという問題もあった。
【0006】
またカーボンブラック等を配合して、導電性シームレスベルトに、前記中間転写ベルト等に求められる体積抵抗率1.0×1012Ω・cm以下の良好な導電性を付与するためには、前記カーボンブラック等を、例えばエラストマ100質量部あたり10質量部以上という多量に配合しなければならず、その場合には混練物を押出成形できなくなったり、もし押出成形できたとしても製造された導電性シームレスベルトが硬く、かつ脆くなったり、連続使用時の耐久性が低下したりするという問題があった。
【0007】
そこで近時、炭素原子が六角網目状に配列されたグラファイトシートを筒状に巻いた構造を有する単層の、または前記筒を二層以上重ねた多層の構造を有し、その直径が500nm未満程度という、カーボンブラック等に比べて著しく微小なカーボンナノチューブを、前記カーボンブラック等に代えてエラストマ組成物に配合することが検討されている(特許文献1等参照)。
【0008】
前記カーボンナノチューブは、従来のカーボンブラック等に比べてエラストマに対する分散性に極めて優れており、凝集塊等を生じることなくエラストマ中に均一に分散される上、ごく少量の配合で、導電性シームレスベルトに良好な導電性を付与することが可能である。
またエラストマ組成物に、前記カーボンナノチューブに加えてさらに、ポリエーテルエステルアミド等の高分子型イオン導電剤を含有させることも検討されている(特許文献2等参照)。
【0009】
前記高分子型イオン導電剤を併用することによって導電性シームレスベルトの体積抵抗率を調整するとともに、前記体積抵抗率のばらつきをより一層小さくすることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−44179号公報
【特許文献2】特許第4222731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし発明者の検討によると、前記カーボンナノチューブと高分子型イオン導電剤とを含むエラストマ組成物を、先に説明したように環状のダイから筒状に押出成形したのち、前記筒を所定の幅にカットして製造される導電性シームレスベルトは、前記押出成形時の樹脂の流れ方向と直交方向、すなわちベルトの長さ方向の引裂強さが、その他の方向の引裂強さに比べて著しく低くなる場合があることが明らかとなった。
【0012】
また前記ベルトの長さ方向の引裂強さの低下に伴って、同方向に沿う折り曲げ(導電性シームレスベルトは、例えばローラに掛け渡して回転させる実際の使用時に、前記方向に繰り返し折り曲げられることになる)に対する導電性シームレスベルトの耐性(耐屈曲性)が低下したりする場合があることも明らかとなった。
本発明の目的は、カーボンナノチューブと高分子型イオン導電剤とを含むエラストマ組成物を押出成形等してなり、いずれの方向にも良好な引裂強さを有する上、耐屈曲性等にも優れた導電性シームレスベルトを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するため発明者は種々検討した結果、前記のように特定方向の引裂強さの低下が発生するのは、エラストマに対する高分子型イオン導電剤の相溶性が良好でないため、前記高分子型イオン導電剤が、導電性シームレスベルトの面内で、押出成形時の樹脂の流れ方向と平行な略筋状の塊として偏在しており、前記偏在した高分子型イオン導電剤とエラストマとの界面、もしくは高分子型イオン導電剤の塊の内部で引き裂きが生じやすいのが原因であることを見出した。
【0014】
そこでエラストマに対する高分子型イオン導電剤の相溶性を向上して、前記高分子型イオン導電剤をエラストマ中にできるだけ細かく、しかも均一に分散させるべくさらに検討した。
その結果、エラストマとしては本来的に耐屈曲性に優れたポリエステル系熱可塑性エラストマを用い、前記ポリエステル系熱可塑性エラストマに、前記カーボンナノチューブ、および高分子型イオン導電剤と、前記ポリエステル系熱可塑性エラストマに対する高分子型イオン導電剤の相溶性を向上させる効果に優れた無水マレイン酸系相溶化剤とを配合すれば良いことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
したがって本発明は、ポリエステル系熱可塑性エラストマと、前記ポリエステル系熱可塑性エラストマ100質量部あたり、1質量部以上、5質量部以下のカーボンナノチューブ、10質量部以上、40質量部以下の高分子型イオン導電剤、および0.1質量部以上、10質量部以下の無水マレイン酸系相溶化剤とを含むエラストマ組成物からなることを特徴とする導電性シームレスベルトである。
【0016】
前記本発明において、ポリエステル系熱可塑性エラストマ100質量部あたりのカーボンナノチューブの割合が1質量部以上、5質量部以下の範囲に限定されるのは、下記の理由による。
すなわちカーボンナノチューブの割合が前記範囲未満では、前記カーボンナノチューブを含有させることによる、体積抵抗率を小さくしてシームレスベルトに適度な導電性を付与する効果が得られない。一方、前記範囲を超える場合には導電性シームレスベルトの体積抵抗率が小さくなりすぎて、中間転写ベルト等としての使用に適さなくなってしまう。
【0017】
また、ポリエステル系熱可塑性エラストマ100質量部あたりの高分子型イオン導電剤の割合が10質量部以上、40質量部以下に限定されるのは、下記の理由による。
すなわち高分子型イオン導電剤の割合が前記範囲未満では、前記高分子型イオン導電剤を含有させることによる、導電性シームレスベルトの体積抵抗率を調整するとともに、前記体積抵抗率のばらつきを小さくする効果が得られない。一方、前記範囲を超えてもそれ以上の効果が得られないだけでなく、却って導電性シームレスベルトの引裂強さや耐屈曲性が低下してしまう。
【0018】
さらに、ポリエステル系熱可塑性エラストマ100質量部あたりの無水マレイン酸系相溶化剤の割合が0.1質量部以上、10質量部以下に限定されるのは、下記の理由による。
すなわち無水マレイン酸系相溶化剤の割合が前記範囲未満では、前記無水マレイン酸系相溶化剤を含有させることによる、ポリエステル系熱可塑性エラストマと高分子型イオン導電剤との相溶性を高めて、前記高分子型イオン導電剤をポリエステル系熱可塑性エラストマ中にできるだけ細かく、均一に分散させる効果が得られない。そのため導電性シームレスベルトの引裂強さが低下してしまう。一方、前記範囲を超えてもそれ以上の効果が得られないだけでなく、却って導電性シームレスベルトの耐屈曲性が低下してしまう。
【0019】
前記ポリエステル系熱可塑性エラストマとしては、ハードセグメントとしてポリブチレンテレフタレートを含み、引張弾性率が1000MPa以上であるものを用いるのが好ましい。前記ポリエステル系熱可塑性エラストマは耐屈曲性に特に優れているため、導電性シームレスベルトの耐屈曲性をより一層向上することができる。
カーボンナノチューブとしては、直径が5nm以上、50nm以下、アスペクト比が10以上、1000以下で、かつ圧密体の体積抵抗値が1.0Ω・cm以下であるものを用いるのが好ましい。前記カーボンナノチューブは、少量の配合で導電性シームレスベルトに良好な導電性を付与する効果に優れている。
【0020】
高分子型イオン導電剤としては、ポリエーテルエステルアミドを用いるのが好ましい。前記ポリエーテルエステルアミドは、導電性シームレスベルトに良好な導電性を付与する効果に優れている。
無水マレイン酸系相溶化剤としては、エチレン/アクリル酸/無水マレイン酸共重合体を用いるのが好ましい。前記共重合体は、特にポリエステル系熱可塑性エラストマと、高分子型イオン導電剤としてのポリエーテルエステルアミドとの相溶性を高める効果に優れている。
【0021】
本発明の導電性シームレスベルトを、先に説明した中間転写ベルト等として電子写真装置に組み込んで使用する場合、その体積抵抗率は1.0×10Ω・cm以上、1.0×1012Ω・cm以下で、かつ面内での体積抵抗率の最大値RMAXと最小値RMINとから、式(a):
=log10MAX−log10MIN (a)
によって求められる体積抵抗率のばらつきVは1以下であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、カーボンナノチューブと高分子型イオン導電剤とを含むエラストマ組成物を押出成形等してなり、いずれの方向にも良好な引裂強さを有する上、耐屈曲性等にも優れた導電性シームレスベルトを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の導電性シームレスベルトを中間転写ベルトとして組み込むことができる電子写真装置の一例としてのカラーレーザープリンタの概略断面図である。
【図2】本発明の実施例、比較例で製造した導電性シームレスベルトの引裂強さを測定するため、前記導電性シームレスベルトから作製した試験片の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の導電性シームレスベルトは、ポリエステル系熱可塑性エラストマと、前記ポリエステル系熱可塑性エラストマ100質量部あたり、1質量部以上、5質量部以下のカーボンナノチューブ、10質量部以上、40質量部以下の高分子型イオン導電剤、および0.1質量部以上、10質量部以下の無水マレイン酸系相溶化剤とを含むエラストマ組成物からなることを特徴とするものである。
【0025】
前記ポリエステル系熱可塑性エラストマとしては、例えばハードセグメントとして高融点で高結晶性の芳香族ポリエステル(ポリブチレンテレフタレート等)、ソフトセグメントとしてガラス転移温度が−70℃以下程度の非晶性ポリエーテル(ポリテトラメチレンエーテルグリコール等)を含むマルチブロックポリマー等の、種々のポリエステル系熱可塑性エラストマの1種または2種以上が挙げられる。
【0026】
特にポリエステル系熱可塑性エラストマとしては、前記の中でもハードセグメントとしてポリブチレンテレフタレートを含み、引張弾性率が1000MPa以上であるものを用いるのが好ましい。かかるポリエステル系熱可塑性エラストマは耐屈曲性に特に優れているため、導電性シームレスベルトの耐屈曲性をより一層向上することができる。
なお引張弾性率を、本発明では、温度23±1℃、相対湿度55±1%の環境下、日本工業規格JIS K7113−1995「プラスチックの引張試験方法」所載の試験方法に則って測定した値でもって表すこととする。
【0027】
カーボンナノチューブとしては、炭素原子が六角網目状に配列されたグラファイトシートを筒状に巻いた構造を有する単層の、または前記筒を二層以上重ねた多層の構造を有し、その直径が500nm未満程度である種々のカーボンナノチューブの1種または2種以上が挙げられる。
特にカーボンナノチューブとしては、直径が5nm以上、50nm以下、アスペクト比が10以上、1000以下で、かつ圧密体の体積抵抗値が1.0Ω・cm以下であるものを用いるのが好ましい。かかるカーボンナノチューブは、前記範囲内でも少量の配合で、導電性シームレスベルトに良好な導電性を付与できる。
【0028】
なおカーボンナノチューブの圧密体の体積抵抗率を、本発明では、温度23±1℃、相対湿度55±1%の環境下、圧縮法(0.8g/cm時)によって測定した値でもって表すこととする。
本発明において、ポリエステル系熱可塑性エラストマ100質量部あたりのカーボンナノチューブの割合が1質量部以上、5質量部以下の範囲に限定されるのは、下記の理由による。
【0029】
すなわちカーボンナノチューブの割合が前記範囲未満では、前記カーボンナノチューブを含有させることによる、体積抵抗率を小さくしてシームレスベルトに適度な導電性を付与する効果が得られない。一方、前記範囲を超える場合には導電性シームレスベルトの体積抵抗率が小さくなりすぎて、中間転写ベルト等としての使用に適さなくなってしまう。
なお、カーボンナノチューブの割合は、導電性シームレスベルトの用途等に応じて、前記範囲内で適宜調整することができる。
【0030】
高分子型イオン導電剤としては、イオン導電性を有する種々の高分子材料が使用可能である。中でも特にポリエーテルエステルアミドが、導電性シームレスベルトに良好な導電性を付与する効果に優れているため好ましい。
前記ポリエーテルエステルアミドとしては、例えばチバ・ジャパン(株)製のイルガスタット(登録商標)P16、P18、P20、P22、三洋化成工業(株)製のペレスタット(登録商標)NC6321等が挙げられる。
【0031】
本発明において、ポリエステル系熱可塑性エラストマ100質量部あたりの高分子型イオン導電剤の割合が10質量部以上、40質量部以下に限定されるのは、下記の理由による。
すなわち高分子型イオン導電剤の割合が前記範囲未満では、前記高分子型イオン導電剤を含有させることによる、導電性シームレスベルトの体積抵抗率を調整するとともに、前記体積抵抗率のばらつきを小さくする効果が得られない。一方、前記範囲を超えてもそれ以上の効果が得られないだけでなく、却って導電性シームレスベルトの引裂強さや耐屈曲性が低下してしまう。
【0032】
無水マレイン酸系相溶化剤としては、共重合成分として無水マレイン酸を含み、ポリエステル系熱可塑性エラストマと高分子型イオン導電剤との相溶性を高める効果を有する種々の共重合体が挙げられる。
中でも特に、エチレン/アクリル酸/無水マレイン酸共重合体を用いるのが好ましい。前記共重合体は、特にポリエステル系熱可塑性エラストマと、高分子型イオン導電剤としてのポリエーテルエステルアミドとの相溶性を高める効果に優れている。前記エチレン−アクリル酸−無水マレイン酸共重合体としては、例えばアルケマ(株)製のボンダイン(登録商標)AX8390、TX8030等が挙げられる。
【0033】
本発明において、ポリエステル系熱可塑性エラストマ100質量部あたりの無水マレイン酸系相溶化剤の割合が0.1質量部以上、10質量部以下に限定されるのは、下記の理由による。
すなわち無水マレイン酸系相溶化剤の割合が前記範囲未満では、前記無水マレイン酸系相溶化剤を含有させることによる、ポリエステル系熱可塑性エラストマと高分子型イオン導電剤との相溶性を高めて、前記高分子型イオン導電剤をポリエステル系熱可塑性エラストマ中にできるだけ細かく、均一に分散させる効果が得られない。そのため導電性シームレスベルトの引裂強さが低下してしまう。一方、前記範囲を超えてもそれ以上の効果が得られないだけでなく、却って導電性シームレスベルトの耐屈曲性が低下してしまう。
【0034】
なおエラストマ組成物には、前記各成分による効果を阻害しない範囲で、種々の他の添加剤を含有させることができる。前記他の添加剤としては、例えばカーボンナノチューブと高分子型イオン導電剤による導電性をさらに補助して導電性シームレスベルトの体積抵抗率のばらつきをより一層小さくするための導電性フィラーや、エラストマ組成物の混練、および押出成形を補助するための加工助剤(軟化剤、可塑剤等)、あるいは押出成形を補助するための滑剤等が挙げられる。
【0035】
前記各成分を、例えば2軸押出機等を用いて混練してエラストマ組成物を調製し、前記エラストマ組成物を押出成形機に供給して加熱下で混練しながら、前記押出成形機に接続された環状のダイを通して所定の厚みと内径とを有する筒状に押出成形したのち、前記筒を所定の幅にカットすることで、本発明の導電性シームレスベルトが製造される。
前記本発明の導電性シームレスベルトは、本来的に耐屈曲性に優れたポリエステル系熱可塑性エラストマに、カーボンナノチューブと、高分子型イオン導電剤と、前記高分子型イオン導電剤のポリエステル系熱可塑性エラストマに対する相溶性を向上する効果に優れた無水マレイン酸系相溶化剤とを所定の割合で含有させたエラストマ組成物を押出成形等して製造され、いずれの方向にも良好な引裂強さを有する上、耐屈曲性等にも優れている。
【0036】
しかも本発明によれば、カーボンナノチューブと高分子型イオン導電剤の含有割合を前記所定の範囲内で調整することにより、一つの導電性シームレスベルトの面内や、あるいは複数個の導電性シームレスベルト間での電気抵抗値(体積抵抗率)のばらつきが小さく均一で、しかも用途に適した良好な導電性を、導電性シームレスベルトに付与することができる。
【0037】
例えば本発明の導電性シームレスベルトを、先に説明した中間転写ベルト等として電子写真装置に組み込んで使用する場合、その体積抵抗率は1.0×10Ω・cm以上、1.0×1012Ω・cm以下とすることができ、しかもその際に、面内での体積抵抗率の最大値RMAXと最小値RMINとから、式(a):
=log10MAX−log10MIN (a)
によって求められる体積抵抗率のばらつきVを1以下とすることが可能である。
【0038】
図1は、本発明の導電性シームレスベルトを中間転写ベルトとして組み込むことができる電子写真装置の一例としてのカラーレーザープリンタの概略断面図である。
図1を参照して、この例のカラーレーザープリンタ1は、図中に実線の矢印で示す方向に回転する回転式の感光体2を備えている。
また感光体2の周囲には、前記回転方向に沿って順に、前記感光体2の表面を一様に帯電させるための帯電ローラ3、帯電させた感光体2の表面を露光して、前記表面に、形成画像に対応する静電潜像を形成するための露光手段4、前記静電潜像を、トナーを選択的に付着させることでトナー像に現像するための現像手段5を備えている。
【0039】
前記露光手段4は、カラー画像を形成する場合、前記カラー画像をシアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、およびブラック(K)の4色に色分解した画像データごとに感光体2の表面に露光して、それぞれの色に対応した静電潜像を順次、感光体の表面に形成する。また文書等のモノクロ画像を形成する場合、露光手段4は、色分解しない画像データを感光体2の表面に露光する。
【0040】
現像手段5は、前記露光手段4によって露光されて感光体2の表面に形成された静電潜像に対応して、前記静電潜像を、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、およびブラック(K)の4色のトナーのうち、その静電潜像に対応するいずれか1色のトナーで現像するための4つの現像部6〜9を備えている。
前記現像部6〜9は、感光体2と平行に配列された回転式の保持体10によって保持されており、現像手段5は、前記保持体10を回転させて現像部6〜9のいずれかを感光体2の表面に対峙させた状態で保持して、前記表面に形成された静電潜像を、対峙させたいずれかの現像部6〜9によって所定の色のトナー像に現像する。
【0041】
感光体2の周囲の、前記現像手段5より回転方向の下流側には、前記感光体2の回転と同期して図中に実線の矢印で示す方向に送られる、本発明の導電性シームレスベルトである無端状の中間転写ベルト11と、感光体2との間に前記中間転写ベルト11を挟んだ状態で配設された一次転写ローラ12とを備えた転写手段13が配けられている。感光体2の表面に形成されたトナー像は、前記感光体2と一次転写ローラ12との間に所定の転写電圧を印加することで、前記感光体2の表面から中間転写ベルト11の表面に転写される。
【0042】
カラー画像を形成する場合、露光手段4での露光によって感光体2の表面にまず1色目の画像データに対応する静電潜像が形成され、前記静電潜像が、現像手段5において対応する1色目のトナー像に現像され、転写手段13において中間転写ベルト11の表面に転写される。この操作を2色目〜4色目の画像データについても繰り返して、前記中間転写ベルト11の表面に、4色のトナーを順に重ねるように転写させると、前記中間転写ベルト11の表面に所定のカラー画像が形成される。
【0043】
またモノクロ画像を形成する場合は、露光手段4での露光によって感光体2の表面に所定の画像データに対応する静電潜像が形成され、前記静電潜像が、現像手段5において所定の1色(通常はブラック)のトナー像に現像され、転写手段13において中間転写ベルト11の表面に転写される。
前記転写手段13は1組の二次転写ローラ14、15を備えており、中間転写ベルト11は、前記二次転写ローラ14、15間を挿通されている。
【0044】
中間転写ベルト11の表面に形成されたトナー像(カラー画像またはモノクロ画像)は、前記中間転写ベルト11と紙16とを重ねた状態で二次転写ローラ14、15間を通過させながら、前記二次転写ローラ14、15間に所定の転写電圧を印加することで、前記中間転写ベルト11の表面から紙16の表面に転写される。
トナー像が転写された紙16は、図中に実線の矢印で示すように、例えば所定の温度に加熱されている1組の定着ローラ17、18間を挿通される。これにより前記トナー像が紙16の表面に定着される。
【0045】
なお各色のトナー像を重ねてカラー画像を形成する際に、前記二次転写ローラ14、15は、互いに離間されるか、もしくは転写電圧と逆電圧が印加された状態とされる。これにより、トナー像が二次転写ローラ14の表面に部分的に転写される等して画像不良が生じるのが防止される。
感光体2の周囲の、転写手段13より回転方向の下流側で、かつ帯電ローラ3の上流側には、前記転写手段13においてトナー像を転写後の感光体2の表面に残留したトナーを除去するためのクリーニング手段19が設けられている。
【0046】
前記各部を備えたカラーレーザープリンタに、中間転写ベルト11として本発明の導電性シームレスベルトを組み込んだ場合には、前記のように本発明の導電性シームレスベルトが均一でかつ良好な導電性を有する上、押出成形等によって製造した表面が微小な突起や凹みを有さず滑らかで、しかも耐屈曲性等にも優れているため、乱れのない良好な画像を長期化に亘って形成し続けることが可能となる。
【実施例】
【0047】
以下の実施例、比較例の導電性シームレスベルトの製造、特性の測定、および試験を、特記した以外は温度23±1℃、相対湿度55±1%の環境下で実施した。
〈実施例1〉
ポリエステル系熱可塑性エラストマ〔東レ・デュポン(株)製のハイトレル(登録商標)2781、引張弾性率:1320MPa〕100質量部、多層構造を有するカーボンナノチューブ〔直径:20nm、アスペクト比:20、圧密体の体積抵抗値:0.04Ω・cm、N−BET比表面積:200cm/g〕2.0質量部、高分子型イオン導電剤〔ポリエーテルエステルアミド、前出のチバ・ジャパン(株)製のイルガスタットP22〕25.5質量部、および無水マレイン酸系相溶化剤〔エチレン−アクリル酸−無水マレイン酸共重合体、前出のアルケマ(株)製のボンダインAX8390〕3.8質量部を配合し、2軸押出機を用いて混練してエラストマ組成物を調製した。
【0048】
次いで、前記エラストマ組成物を押出成形機に供給して加熱下で混練しながら、前記押出成形機に接続された環状のダイを通して筒状に押出成形したのち前記筒をカットして、厚み100μm、内径200mm、幅400mmの導電性シームレスベルトを製造した。押出成形の温度は230〜280℃とした。
〈実施例2〉
カーボンナノチューブの量を3.8質量部、高分子型イオン導電剤〔前出のチバ・ジャパン(株)製のイルガスタットP22〕の量を21.3質量部としたこと以外は実施例1と同様にして、同形状、同寸法の導電性シームレスベルトを製造した。
【0049】
〈実施例3〜5〉
カーボンナノチューブの量を2.3質量部、高分子型イオン導電剤〔前出のチバ・ジャパン(株)製のイルガスタットP22〕の量を21.0質量部、無水マレイン酸系相溶化剤〔前出のアルケマ(株)製のボンダインAX8390〕の量を1.2質量部(実施例3)、3.7質量部(実施例4)、6.2質量部(実施例5)としたこと以外は実施例1と同様にして、同形状、同寸法の導電性シームレスベルトを製造した。
【0050】
〈比較例1〉
無水マレイン酸系相溶化剤を配合しなかったこと以外は実施例1と同様にして、同形状、同寸法の導電性シームレスベルトを製造した。
〈実施例6、7、比較例2、3〉
無水マレイン酸系相溶化剤〔前出のアルケマ(株)製のボンダインAX8390〕の量を0.05質量部(比較例2)、0.1質量部(実施例6)、10.0質量部(実施例7)、12.0質量部(比較例3)としたこと以外は実施例1と同様にして、同形状、同寸法の導電性シームレスベルトを製造した。
【0051】
〈実施例8、9、比較例4、5〉
高分子型イオン導電剤〔前出のチバ・ジャパン(株)製のイルガスタットP22〕の量を5.0質量部(比較例4)、10.0質量部(実施例8)、40.0質量部(実施例9)、50.0質量部(比較例5)としたこと以外は実施例1と同様にして、同形状、同寸法の導電性シームレスベルトを製造した。
【0052】
〈実施例10、比較例6〜8〉
カーボンナノチューブの量を0.5質量部(比較例6)、5.0質量部(実施例10)、6.0質量部(比較例7)、8.0質量部(比較例8)としたこと以外は実施例1と同様にして、同形状、同寸法の導電性シームレスベルトを製造した。
〈引裂強さ測定〉
実施例、比較例で製造した導電性シームレスベルトを打ち抜いて、日本工業規格JIS K6252:2007「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−引裂強さの求め方」において規定された切込みなしアングル形試験片を作製した。
【0053】
詳しくは図2を参照して、前記切込みなしアングル形試験片20は、その短辺方向が押出成形時の樹脂の流れ方向X、長辺方向が前記流れ方向Xと直交するベルトの長さ方向Yと一致するように打ち抜いて作製した。
次いで前記アングル型試験片20を用いて、前記JIS K6252:2007所載の測定方法に則って、試験速度200mm/minで引裂強さを測定した。測定は、各実施例、比較例で製造した導電性シームレスベルト上の任意の3個所から打ち抜いた3つの試験片について行い、3回の測定結果が全て75N/mm以上であったものを引裂強さ良好(○)、1回でも75N/mmを下回ったものを引裂強さ不良(×)として評価した。
【0054】
〈耐屈曲性試験〉
実施例、比較例で製造した導電性シームレスベルトから、長さ100mm×幅15mmの短冊状のサンプルを、その短辺方向が押出成形時の樹脂の流れ方向X、長辺方向が前記流れ方向Xと直交するベルトの長さ方向Yと一致するように切り出し、(株)安田精機製作所製のMIT形耐折度試験機を用いて前記サンプルに規定の荷重をかけながら往復折り曲げを繰り返すことで屈曲疲労を与えて、前記サンプルが破断するまでに要した往復折り曲げ回数を記録した。
【0055】
測定条件は、錘:226.8g、チャック間隔:55mm、屈曲角度(左右とも):135°、屈曲速度:173cpmとした。また測定は、1つの導電性シームレスベルト上の3箇所から切り出したサンプルについて行い、3回の測定結果が全て50000回を超えたものを耐屈曲性良好(○)、1回でも50000回を下回ったものを耐屈曲性不良(×)として評価した。
【0056】
〈体積抵抗率の測定〉
実施例、比較例で製造した導電性シームレスベルトの体積抵抗率(Ω・cm)を、アドバンテストコーポレーション製の超高抵抗微小電流計R−8340Aを用いて、日本工業規格JIS K6911:1995「熱硬化性プラスチック一般試験方法」所載の測定方法に則って、印加電圧:500Vの条件で測定した。
【0057】
〈体積抵抗率のばらつき評価〉
実施例、比較例で製造した導電性シームレスベルトの周方向の16箇所の体積抵抗率(Ω・cm)を、(株)ダイアインスツルメンツ製の抵抗率計ハイレスタUP MCP−HT450型と、付属のリング状プローブ(URS)とを用いて、前出のJIS K6911:1995所載の測定方法に則って測定し、測定結果のうち最大値RMAXと最小値RMINとから、式(a):
=log10MAX−log10MIN (a)
によって体積抵抗率のばらつきVを求めた。測定の条件は、1箇所の測定時間:10秒、印加電圧:500Vとした。
【0058】
以上の結果を表1〜表4に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
【表3】

【0062】
【表4】

【0063】
前記各表の実施例1〜10、比較例1〜3の結果より、無水マレイン酸系相溶化剤の割合を、ポリエステル系熱可塑性エラストマ100質量部あたり0.1質量部以上、10質量部以下の範囲としたとき、いずれの方向にも良好な引裂強さを有する上、耐屈曲性等にも優れた導電性シームレスベルトが得られることが判った。
また実施例1〜10、比較例4〜8の結果より、カーボンナノチューブの割合を、ポリエステル系熱可塑性エラストマ100質量部あたり1質量部以上、5質量部以下の範囲とし、かつ高分子型イオン導電剤の割合を、前記ポリエステル系熱可塑性エラストマ100質量部あたり10質量部以上、40質量部以下の範囲としたとき、前記導電性シームレスベルトに、中間転写ベルト等として適した良好な導電性を付与できることが判った。
【符号の説明】
【0064】
1 カラーレーザープリンタ(電子写真装置)
2 感光体
3 帯電ローラ
4 露光手段
5 現像手段
6〜9 現像部
10 保持体
11 中間転写ベルト
12 一次転写ローラ
13 転写手段
14、15 二次転写ローラ
16 紙
17、18 定着ローラ
19 クリーニング手段
20 切込みなしアングル形試験片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル系熱可塑性エラストマと、前記ポリエステル系熱可塑性エラストマ100質量部あたり、1質量部以上、5質量部以下のカーボンナノチューブ、10質量部以上、40質量部以下の高分子型イオン導電剤、および0.1質量部以上、10質量部以下の無水マレイン酸系相溶化剤とを含むエラストマ組成物からなることを特徴とする導電性シームレスベルト。
【請求項2】
前記ポリエステル系熱可塑性エラストマは、ハードセグメントとしてポリブチレンテレフタレートを含み、引張弾性率が1000MPa以上である請求項1に記載の導電性シームレスベルト。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブは、直径が5nm以上、50nm以下、アスペクト比が10以上、1000以下で、かつ圧密体の体積抵抗値が1.0Ω・cm以下である請求項1または2に記載の導電性シームレスベルト。
【請求項4】
前記高分子型イオン導電剤は、ポリエーテルエステルアミドである請求項1ないし3のいずれか1項に記載の導電性シームレスベルト。
【請求項5】
前記無水マレイン酸系相溶化剤は、エチレン−アクリル酸−無水マレイン酸共重合体である請求項1ないし4のいずれか1項に記載の導電性シームレスベルト。
【請求項6】
体積抵抗率が1.0×10Ω・cm以上、1.0×1012Ω・cm以下で、かつ面内での体積抵抗率の最大値RMAXと最小値RMINとから、式(a):
=log10MAX−log10MIN (a)
によって求められる体積抵抗率のばらつきVが1以下である請求項1ないし5のいずれか1項に記載の導電性シームレスベルト。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−95481(P2011−95481A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−248992(P2009−248992)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】