説明

導電性ペースト

【課題】焼結性が制御され、かつ焼成後の導電性に優れた、積層部品の内部電極用の導電性ペーストを提供する。
【解決手段】導電性粒子、溶剤、バインダ樹脂及び導電性粒子100重量部に対して、SiO換算で0.1〜3重量部のテトラアルコキシシランの部分加水分解縮合物を含む、導電性ペーストである。導電性ペーストに、特定量のテトラアルコキシシランの部分加水分解縮合物を配合することにより、導電性に悪影響を及ぼすことなく、焼結性を制御できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性ペーストに関し、特に積層部品の内部電極用の導電性ペーストに関する。また、本発明は、当該導電性ペーストを用いて形成した積層部品の内部電極、及び当該内部電極を備えた積層部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型軽量化に伴い、それに実装されるチップ部品も小型化が進展しており、積層セラミックコンデンサや積層インダクタといった積層部品が用いられるようになっている
【0003】
例えば、積層インダクタは、通常、磁性体グリーンシートと、内部電極用導電性ペーストからなる層との積層体を焼成した後、外部電極を形成して作製される。内部電極用導電性ペーストとしては、溶剤、バインダ樹脂、導電性粒子を含む導電性ペーストが用いられ、一般的に導電性粒子としては、銀粒子が用いられる。
【0004】
上述の積層体の焼成工程では、内部電極用導電性ペーストからなる層の方が、磁性体グリーンシートよりも大きく収縮する傾向にある。この収縮差によって、焼成後の磁性体層や内部電極にクラック、デラミネーションが発生したり、さらに内部電極が磁性体層の端部よりも内側にへこみ外部電極との接触が不十分となるといった不具合が発生しかねない。そのため、焼成時の焼結による収縮差を調整し、これら不具合を改善する必要がある。
【0005】
内部電極用導電性ペーストの導電性粒子としてパラジウム粒子を併用する方法に加えて、近年では、ペーストにチタンアルコキシド等の金属アルコキシドを配合して、収縮差を改善する方法も提案されているが(特許文献1)、高温での焼成におけるクラックの発生を防ぐことが困難であった。また、ペーストにアルコキシシランを加水分解して得られる化合物を配合して、デラミネーション等を抑制する方法も提案されているが(特許文献2)、これらの手法では、ペーストがゲル化しやすく保存性に劣り、ファインパターンの印刷に適さないという問題がある。
【特許文献1】特開平6−240183号公報
【特許文献2】特開平5−54714号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、積層部品、特に積層インダクタの内部電極を形成するために用いられる導電性ペーストであって、焼結性が制御され、かつ焼成後の導電性に優れた導電性ペーストを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、導電性ペーストに、特定量のテトラアルコキシシランの部分加水分解縮合物を配合することにより、導電性に悪影響を及ぼすことなく、焼結性を制御できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、導電性粒子、バインダ樹脂、溶剤及び導電性粒子100重量部に対して、SiO換算で0.1〜3重量部のテトラアルコキシシランの部分加水分解縮合物を含有することを特徴とする導電性ペーストに関し、該導電性ペーストを用いて形成した積層部品の内部電極、及び該内部電極を備えた積層部品に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明による導電性ペーストは、焼結性が制御されており、形成される焼成膜においてはクラック等の欠陥が抑制され、かつ優れた導電性を保持しているので、焼成膜を、例えば積層インダクタ等の積層部品の内部電極とした場合に、積層部品に良好な特性を与えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の導電性ペーストに使用される導電性粒子は、当該分野において公知のものを使用することができ、好ましくは銀粒子である。導電性粒子の形状は、特に限定されず、球状、フレーク状等が挙げられる。ペーストの塗布性の観点から、球状が好ましい。導電性粒子の平均粒径は、例えば、0.01〜20μmであり、好ましくは0.05〜10μmであり、より好ましくは0.1〜7μmである。導電性粒子は、単独でも、又は2種類以上を併用することもできる。
【0011】
本発明の導電性ペーストに使用される溶剤は、当該分野において公知のものを使用することができ、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、アミルベンゼン、p−シメン、テトラリン及び石油系芳香族炭化水素混合物等の芳香族炭化水素系溶剤;テルピネオール、リナロール、ゲラニオール、シトロネロール等のテルペンアルコール;エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−tert−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコ−ルモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等のエーテルアルコール系溶剤;メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤;並びにエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のエステル系溶剤、水等が挙げられる。溶剤は、単独でも、又は2種類以上を併用することもできる。
【0012】
本発明の導電性ペーストに使用されるバインダ樹脂は、当該分野において公知のものを使用することができ、例えば、エチルセルロース、ニトロセルロース等のセルロース系樹脂、アクリル樹脂、アルキド樹脂、飽和ポリエステル樹脂、ブチラール樹脂、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。バインダ樹脂は、単独でも、又は2種類以上を併用することもできる。
【0013】
本発明の導電性ペーストにおいて、導電性粒子、溶剤、バインダの量は適宜、選択することができる。通常、導電性粒子は、導電性ペースト中、70〜95重量%である。
【0014】
本発明の導電性ペーストは、導電性粒子100重量部に対して、SiO換算で0.1〜3重量部、好ましくは0.2〜2重量部のテトラアルコキシシランの部分加水分解縮合物を含むことを特徴とする。
【0015】
テトラアルコキシシランの部分加水分解縮合物としては、式(1):
Si(OR (1)
(式中、Rは、それぞれ独立して、炭素数1〜3のアルキル基である)で示されるテトラアルコキシシランの部分加水分解縮合物が挙げられる。Rとしては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基等が挙げられ、中でもエチル基、メチル基が好ましい。式(1)中の4つのRは、同一であることが好ましい。
【0016】
具体的には、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン又はテトライソプロポキシシランの部分加水分解縮合物が好ましく、特に、取り扱いの容易性、入手の容易性、SiO含有率の高さの点から、テトラメトキシシラン又はテトラエトキシシランの部分加水分解縮合物が好ましい。
【0017】
テトラアルコキシシランの部分加水分解縮合物は、安定性や作業性の点から、テトラアルコキシシランを平均にして2〜20量体化したものであることが好ましく、より好ましくは5〜10量体化したものである。
【0018】
テトラアルコキシシランの部分加水分解縮合物は、アルコール類等適当な溶剤に溶解又は分散させて使用することもできる。
【0019】
本発明の導電性ペーストには、本発明の効果を妨げない範囲で他の成分を配合することもできる。これらの成分としては、パラジウムのような導電性粒子、フェライトやセラミックのような非導電性粒子、シリコン、チタン、ジルコニウム、マグネシウム等の金属のアルコキシド、これらの金属とアセチルアセトン、アセト酢酸エチル等とのキレート化合物、これらの金属と2−エチルヘキサン酸、ナフテン酸等の脂肪酸との塩が挙げられる。
【0020】
本発明の導電性ペーストには、さらに、ガラスフリット、分散剤、レオロジー調整剤、顔料等の慣用の添加剤を、本発明の効果を損なわない範囲で配合することができる。また、ジエチルフタレート等の可塑剤を添加することもできる。
【0021】
本発明の導電性ペーストは、各成分を、例えば、ライカイ機、ポットミル、三本ロールミル、回転式混合機、二軸ミキサー等を用いて、混合し、均一に分散させることにより製造することができる。
【0022】
本発明の導電性ペーストを、磁性体グリーンシート(例えばフェライトグリーンシート)上に、スクリーン印刷等の適当な方法で塗布し、積層した後、焼成を行って、内部電極を形成することができる。焼成温度は、通常、850〜950℃であり、焼成時間は1〜8時間であるが、適宜、変更することができる。その後、外部電極を形成し、積層インダクタとすることができる。積層セラミックコンデンサ等の他の積層部品についても、同様の方法で、あるいは他の公知の方法で内部電極を形成することができる。
【実施例1】
【0023】
以下、実施例及び比較例によって、本発明を更に詳細に説明する。部、%は、他に断りのない限り、重量部、重量%を表す。本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。
【0024】
実施例1〜3、比較例1〜7
表1に示す組成で、各成分を三本ロールミルにて均一に混練、分散して各実施例及び比較例のペーストを得た。
【0025】
フェライトグリーンシート上へ実施例1〜3、比較例1、2及び4のペーストをステンレス325メッシュ、乳剤厚25μmのマスクを用いて印刷し、900℃にて、4時間、焼成して焼成膜を形成させた。焼成膜について、20倍の顕微鏡を用いて断面を観察してクラックの有無を確認した。○:クラックなし。×:クラックあり。また、焼成膜の体積抵抗率を、焼成後の膜厚、およびパターンの幅・長さより算出した。
【0026】
実施例1〜3及び比較例1では、焼成膜にクラックはみられず、体積抵抗率も良好であった。比較例2では、焼成膜にクラックがみられた。また、チタンアルコキシドを使用した比較例4では、焼成膜のクラックの程度は小さかったが、体積抵抗率の点で劣っていた。
【0027】
フェライトグリーンシート上へ上記と同じマスクを用いて実施例1、比較例2〜7のペーストを印刷し、930℃にて、4時間、焼成して焼成膜を形成させた。上記と同様にして、焼成膜のクラックの有無、焼成膜の体積抵抗率を求めた。
【0028】
焼成温度が930℃になっても、実施例1では、焼成膜にクラックはみられず、焼結による収縮応力が抑えられていることがわかる。同時に、実施例1の焼成膜は、体積抵抗率も良好であった。比較例2及びチタンアルコキシドを使用した比較例3、4では、焼成膜にクラックがみられた。また、パラジウム粒子を使用した比較例5、6では、焼成膜にクラックはみられなかったものの、体積抵抗率の点で劣っていた。さらに、テトラアルコキシシランの部分加水分解物のSiO換算量が本発明の範囲外である比較例7でも、焼成膜にクラックはみられなかったものの、体積抵抗率の点で劣っていた。
【0029】
フェライトグリーンシート上へ実施例1、比較例1及び2のペーストをステンレス325メッシュ、乳剤厚10μm、線幅200μmのマスクを用いて連続印刷し、50回目の印刷を150℃にて10分間乾燥した。乾燥膜について100倍の顕微鏡で線幅を測定し、印刷性を評価した。
【0030】
実施例1は線幅が細くなることはなく良好であった。比較例2では僅かに線幅が減少した。一方、部分加水分解縮合物ではなく、テトラメトキシシランとジメチルメトキシシランの加水分解物を使用した比較例1は50%程度まで細くなり、印刷性が劣っていた。
【0031】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明による積層インダクタ内部電極用導電性ペーストは、焼結性が制御されており、形成される焼成膜においてはクラック等の欠陥が抑制され、かつ優れた導電性を保持しているので、焼成膜を積層インダクタの内部電極とした場合に、積層インダクタに良好な特性を与えることができ、産業上の有用性が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性粒子、溶剤、バインダ樹脂及び導電性粒子100重量部に対して、SiO換算で0.1〜3重量部のテトラアルコキシシランの部分加水分解縮合物を含む、導電性ペースト。
【請求項2】
テトラアルコキシシランの部分加水分解縮合物が、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン及びテトライソプロポキシシランからなる群より選択される1種以上のテトラアルコキシシランの部分加水分解縮合物である、請求項1記載の導電性ペースト。
【請求項3】
テトラアルコキシシランの部分加水分解縮合物が、テトラエトキシシランの部分加水分解縮合物である、請求項2記載の導電性ペースト。
【請求項4】
導電性粒子が、銀粒子である、請求項1〜3のいずれか1項記載の導電性ペースト。
【請求項5】
積層部品の内部電極用の請求項1〜4のいずれか1項記載の導電性ペースト。
【請求項6】
請求項5記載の導電性ペーストを用いて形成した積層部品の内部電極。
【請求項7】
請求項6記載の内部電極を備えた積層部品。
【請求項8】
積層インダクタである、請求項7記載の積層部品。

【公開番号】特開2008−135203(P2008−135203A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−318294(P2006−318294)
【出願日】平成18年11月27日(2006.11.27)
【出願人】(591252862)ナミックス株式会社 (133)
【Fターム(参考)】