説明

導電性ポリマーおよびそれを用いた半導電性組成物、ならびに電子写真機器用半導電性部材

【課題】湿熱環境下での電気抵抗の変動が小さく、導電性に優れた導電性ポリマーを提供する。
【解決手段】下記の(A)成分1および(B)成分2を主成分とし、上記(A)成分1を上記(B)成分2によりドーピングしてなる溶剤可溶な導電性ポリマーであって、上記(B)成分2から誘導される部分がスルホン酸イオンを介して、上記(A)成分1のイオン性部分とイオン結合3していることを特徴とする導電性ポリマー。
(A)π電子共役系ポリマー。
(B)スルホン酸基およびスルホン酸塩基の少なくとも一方のスルホン酸官能基を有するπ電子非共役系ポリマー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性ポリマーおよびそれを用いた半導電性組成物、ならびに電子写真機器用半導電性部材に関するものであり、詳しくは、導電性ポリマーを必須成分とする半導電性組成物を用いた、現像ロール等の電子写真機器用半導電性部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、現像ロール等の電子写真機器部材に用いられる導電性組成物は、好適に使用するためには電気抵抗の制御が必須である。そのため、従来は、樹脂やゴム等のバインダーポリマーに、第四級アンモニウム塩等のイオン導電剤や、カーボンブラック等の電子導電剤を配合することにより、電気抵抗の制御を行っていた。
【0003】
上記導電剤のうち、このイオン導電剤は、バインダーポリマーと複合化した場合、バインダーポリマーに溶解するため、導電性のばらつきが小さく、また電圧を変化させた時の電気抵抗の変動が小さく、電気抵抗の電圧依存性に優れるという利点がある。しかし、イオン導電剤は水分等の影響を受けやすく、高温高湿と低温低湿の条件下では、複合体で電気抵抗が2桁以上変動するため、電気抵抗の環境依存性に劣り、電子写真機器部材としての使用には制約が多い。一方、カーボンブラック等の電子導電剤は、バインダーポリマーと複合化した場合、水分等の影響を受けにくく、高温高湿と低温低湿の条件下での電気抵抗の変動が小さいため、電気抵抗の環境依存性に優れているという利点がある。しかし、電子導電剤は、一般に、凝集性が強いため、バインダーポリマー中での均一分散が困難であり、したがって、電気抵抗のばらつきが大きく、導電性の制御が困難である。また、比較的均一に分散している場合でも、導電性発現のメカニズムがバインダーポリマー中のカーボン間を、電子が高電圧により伝わるトンネル効果もしくはホッピング現象によるものであるため、電圧を変化させた時の電気抵抗の変動が大きく、電気抵抗の電圧依存性に劣る。
【0004】
これらの問題を解決するため、本発明者らは、界面活性剤構造を有する導電性ポリマーと、スルホン酸基等を有するバインダーポリマーとを必須成分とする導電性組成物について、すでに特許出願を行っている(特許文献1)。この導電性組成物によると、高電圧領域での電気抵抗の変動が小さく、しかも電気抵抗の電圧依存性および電気抵抗の環境依存性が良好となる。
【0005】
一方、上記の問題を解決するため、ポリアニリンを分散機で粉砕しながら、高分子ドーパントと反応させる導電性ポリアニリン組成物の製造方法(特許文献2)、水溶性導電性有機重合体組成物の溶液の製造方法(特許文献3)、導電性有機重合体組成物薄膜複合体(特許文献4)、有機重合体溶液組成物(特許文献5)等が提案されている。
【特許文献1】特開2004−184512号公報
【特許文献2】特開2002−265781号公報
【特許文献3】特許第2909544号公報
【特許文献4】特開平9−176311号公報
【特許文献5】特開2002−179911号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の導電性ポリアニリン溶液について、さらに研究を続けた結果、この導電性ポリアニリン溶液は、界面活性剤構造を有する導電性ポリマーをドーパントとして使用しているため、導電性ポリアニリンを湿熱(高湿高温)環境下に放置すると、界面活性剤構造を有する導電性ポリマーが凝集する傾向がみられることを突き止めた。そのため、湿熱環境下での電気抵抗がやや変動し、導電性の要求特性に充分に応えられない。また、上記引用文献2に記載のものは、ポリアニリンと高分子ドーパントとが完全には反応していないため、湿熱環境下での電気抵抗の変動が大きいという難点がある。また、上記引用文献3,4に記載の水溶性の有機重合体は、吸水物性が変動するため、現像ロール等の電子写真機器部材の用途には不向きである。また、上記引用文献5に記載のものは、高分子ドーパントのプロトン酸塩を、脱ドープしたアニリンと混合した後、フィルムを作製し、後からドーピングを行うため、高分子ドーパントの表面のみがドーピングされ、ポリアニリンと高分子ドーパントとが内部まで完全には反応せず、湿熱環境下での電気抵抗の変動が大きいという難点がある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、湿熱環境下での電気抵抗の変動が小さく、導電性に優れた導電性ポリマーおよびそれを用いた半導電性組成物、ならびに電子写真機器用半導電性部材の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明は、下記の(A)成分および(B)成分を主成分とし、上記(A)成分を上記(B)成分によりドーピングしてなる溶剤可溶な導電性ポリマーであって、上記(B)成分から誘導される部分がスルホン酸イオンを介して、上記(A)成分のイオン性部分とイオン結合している導電性ポリマーを第1の要旨とする。また、本発明は、上記導電性ポリマーを主成分とする半導電性組成物を第2の要旨とし、上記半導電性組成物を、半導電性部材の少なくとも一部に用いた電子写真機器用半導電性部材を第3の要旨とする。
(A)π電子共役系ポリマー。
(B)スルホン酸基およびスルホン酸塩基の少なくとも一方のスルホン酸官能基を有するπ電子非共役系ポリマー。
【0009】
すなわち、本発明者らは、湿熱環境下での電気抵抗の変動が小さく、導電性に優れた導電性ポリマーを得るため、鋭意研究を重ねた。その研究の過程で、スルホン酸基およびスルホン酸塩基の少なくとも一方のスルホン酸官能基を有するπ電子非共役系ポリマーをドーパントとして用いるとともに、π電子共役系ポリマーを併用してなる導電性ポリマーにより、好結果が得られるのではないかと想起した。そして、さらに研究を続けた結果、上記導電性ポリマーは、上記π電子非共役系ポリマーから誘導される部分(特定のπ電子非共役系ポリマーにより構成される部分)が、スルホン酸イオンを介して、上記π電子共役系ポリマーのイオン性部分とイオン結合により強固に結合しているため、湿熱環境下でも導電性ポリマーの凝集が殆どみられず、電気抵抗の変動が小さく、導電性に優れていることを見出し、本発明に到達した。
【発明の効果】
【0010】
このように、本発明の導電性ポリマーは、上記特定のπ電子非共役系ポリマー(B成分)から誘導される部分が、スルホン酸イオンを介して、上記π電子共役系ポリマー(A成分)のイオン性部分とイオン結合により強固に結合しているため、湿熱環境下でも導電性ポリマーの凝集が殆どみられず、電気抵抗の変動が小さく、導電性に優れている。
【0011】
そして、上記特定のπ電子非共役系ポリマーが、水には溶解せず、溶剤に溶解するものであると、導電性ポリマーの乾燥、湿潤環境下での物性変化を抑制できるだけでなく、塗工工程での膜厚コントロールが行いやすくなるという効果が得られる。
【0012】
また、上記特定のπ電子非共役系ポリマーが、スルホン酸基およびスルホン酸塩基の少なくとも一方のスルホン酸官能基を有するアクリル系ポリマー,ウレタン系ポリマー,熱可塑性樹脂ポリマー,熱硬化性樹脂ポリマー,ゴム系ポリマー,および熱可塑性エラストマーからなる群から選ばれた少なくとも一つであると、導電性の制御効果に加えて、表面の摩擦を少なくできるため、高強度で耐摩耗性に優れるという効果も得られる。
【0013】
また、上記特定のπ電子非共役系ポリマーが、スルホン酸基およびスルホン酸塩基の少なくとも一方のスルホン酸官能基を有するアクリル系ポリマー,ポリカーボネート系ウレタンエラストマーおよびポリエーテル系ウレタンエラストマーからなる群から選ばれた少なくとも一つであると、加水分解が少ないため、湿熱環境放置で物性(電気抵抗等)の低下が起こり難くなるという効果が得られる。
【0014】
さらに、上記特定のπ電子非共役系ポリマー中のスルホン酸官能基量が、0.2〜0.75mmol/gの範囲であると、イオン結合量と電気抵抗の制御が容易になるとともに溶剤への溶解性も良好になる。
【0015】
また、上記π電子共役系ポリマーが、アニリン、ピロール、チオフェンおよびこれらの誘導体からなる群から選ばれた少なくとも一つのモノマーから誘導されたものであると、エラストマー等のπ電子共役系ポリマーとの親和性が高く、イオン結合しやすいという効果が得られる。
【0016】
さらに、上記モノマーが、炭素数1〜4のアルキル置換基およびアルコキシ置換基の少なくとも一方の置換基を有していると、エラストマー等のπ電子共役系ポリマーとの親和性が高く、均一な反応が可能になり、導電性のばらつきが少なくなるという効果が得られる。
【0017】
また、本発明の導電性ポリマーの電気抵抗が、2×106 〜1×1011Ω・cmの範囲であると、高電圧の印加によっても電流量を抑制でき、また低電圧でも通電するため帯電しない(除電できる・電荷を貯めない)という効果が得られる。
【0018】
そして、上記導電性ポリマーと、導電剤とを含有する半導電性組成物は、導電特性を変化させずに、物性(摩耗性、強度)を向上させることができる。
【0019】
また、上記半導電性組成物を、半導電性部材の少なくとも一部に用いた電子写真機器用半導電性部材は、低温・低湿、高温・高湿の環境で、均一かつ耐久性に優れた画像を得ることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
つぎに、本発明の実施の形態について説明する。
【0021】
本発明の導電性ポリマーは、π電子共役系ポリマー(A成分)と、スルホン酸基およびスルホン酸塩基の少なくとも一方のスルホン酸官能基を有するπ電子非共役系ポリマー(B成分)とを主成分とする溶剤可溶な導電性ポリマーである。
【0022】
なお、本発明において、主成分とは、通常、全体の過半を占める成分のことをいい、全体が主成分のみからなる場合も含む意味である。
【0023】
ここで、本発明においては、上記特定のπ電子非共役系ポリマー(B成分)から誘導される部分が、スルホン酸イオン(SO3 - )を介して、上記π電子共役系ポリマー(A成分)のイオン性部分と、イオン結合により強固に結合しているのであって、これが最大の特徴である。
【0024】
本発明の導電性ポリマーでは、例えば、図1に示すように、π電子共役系ポリマー(A成分)1と、スルホン酸基およびスルホン酸塩基の少なくとも一方のスルホン酸官能基を有するπ電子非共役系ポリマー(B成分)2とがイオン結合(図示せず)により結合している。これを、上記π電子共役系ポリマー(A成分)として、ポリアニリンを用いた場合について具体的に説明すると、図2に示すように、特定のπ電子非共役系ポリマー(B成分)2から誘導される部分が、スルホン酸イオン(SO3 - )を介して、上記ポリアニリン(A成分)1のイオン性部分(NH+ )と、イオン結合3により強固に結合している。そのため、湿熱環境下でも導電性ポリマーの凝集が殆どみられず、電気抵抗の変動が小さく、導電性に優れている。
【0025】
ここで、イオン結合の確認は、例えば、導電性ポリマーを、π電子共役系ポリマー(A成分)の貧溶剤で、かつ、スルホン酸官能基を有するπ電子非共役系ポリマー(B成分)の良溶剤に溶解し、遠心分離機で処理した場合の沈殿物の割合が多い(添加量に近い)程、イオン結合していないと考えられる。沈殿物の分析は、FT−IR、UV−VISスペクトル測定機等により行うことができる。
【0026】
なお、上記特定のπ電子非共役系ポリマー(B成分)の貧溶剤とは、π電子非共役系ポリマー(B成分)が0.1%未満しか溶解しない溶剤であって、通常、水,メタノール,イソプロピルアルコール等の溶解性パラメーター(SP値)が12以上の溶剤をいう。また、上記特定のπ電子非共役系ポリマー(B成分)の良溶剤とは、π電子非共役系ポリマー(B成分)を5%以上の溶解度で溶解させることができる溶剤であって、通常、メチルエチルケトン(MEK),トルエン,酢酸エチル等の溶解性パラメーター(SP値)が8〜11の溶剤をいう。なお、ドープ状態では、上記溶剤は全て、上記π電子共役系ポリマー(A成分)の貧溶剤である。
【0027】
上記π電子共役系ポリマー(A成分)とは、π電子が共役できる構造、または単結合と多重結合とが交互に連なった構造をとることが可能なポリマーをいい、例えば、アニリン、ピロール、チオフェンおよびこれらの誘導体等のモノマーを重合してなるポリマーがあげられる。また、上記モノマーは、炭素数1〜4のアルキル置換基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基)およびアルコキシ置換基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基)の少なくとも一方の置換基を有しているものが、溶解性の点から、好ましい。上記π電子共役系ポリマー(A成分)としては、具体的には、ポリアニリン、ポリピロール、ポリ3−メチルピロール、ポリチオフェン、ポリ3−メチルチオフェン、ポリo−トルイジン、ポリo−アニシジン、ポリsec−ブチルアニリン等があげられる。
【0028】
なお、上記π電子共役系ポリマー(A成分)の重合開始剤としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過酸化水素水や過酸化ベンゾイル等の過酸化物、クロラニル等のベンゾキノン、塩化第二鉄等の化学酸化剤を用いることが可能である。
【0029】
つぎに、本発明では、上記π電子共役系ポリマー(A成分)とともに、特定のπ電子非共役系ポリマー(B成分)が用いられる。
【0030】
本発明において、π電子非共役系ポリマー(B成分)とは、上記π電子共役系ポリマー(A成分)のように、単結合と多重結合とが交互に連なったポリマー等以外のポリマーを意味する。
【0031】
なお、上記特定のπ電子非共役系ポリマー(B成分)は、水には溶解せず、メチルエチルケトン(MEK)等のケトン系溶剤,トルエン等の芳香族系溶剤等に溶解するものが、乾燥速度の制御が可能となり、塗工性が良好となるため好ましい。
【0032】
上記特定のπ電子非共役系ポリマー(B成分)中のスルホン酸官能基量は、イオン結合と溶解性の点から、0.2〜0.75mmol/gの範囲内が好ましく、特に好ましくは0.25〜0.5mmol/gの範囲内である。
【0033】
上記スルホン酸官能基量の測定は、例えば、上記特定のπ電子非共役系ポリマー(B成分)をフラスコで燃焼させ、イオンクロマトグラフ法でイオウ元素量を求め、これをスルホン酸官能基量として換算することにより求めることができる。
【0034】
上記特定のπ電子非共役系ポリマー(B成分)としては、スルホン酸基およびスルホン酸塩基の少なくとも一方のスルホン酸官能基を有するものであれば特に限定はない。
【0035】
なお、本発明において、上記スルホン酸官能基とは、スルホン酸基や、スルホン酸塩基(スルホン酸ナトリウム塩基,スルホン酸カリウム塩基等のスルホン酸金属塩基、スルホン酸アンモニウム塩基、スルホン酸ピリジウム塩基等)をいう。
【0036】
上記特定のπ電子非共役系ポリマー(B成分)としては、例えば、上記スルホン酸官能基を有するアクリル系ポリマー,ウレタン系ポリマー,熱可塑性樹脂ポリマー,熱硬化性樹脂ポリマー,ゴム系ポリマー,熱可塑性エラストマー等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これらのなかでも、物性(摩耗性、強度)の点で、スルホン酸官能基を有するアクリル系ポリマー、スルホン酸官能基を有するウレタン系ポリマーが好適に用いられる。
【0037】
上記スルホン酸官能基を有するアクリル系ポリマーとしては、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリエチルアクリレート、ポリブチルアクリレート、ポリヒドロキシメタクリレート、アクリルシリコーン系樹脂、アクリルフッ素系樹脂、公知のアクリルモノマーを共重合したもの等であって、分子構造中に、スルホン酸基およびスルホン酸塩構造の少なくとも一方が導入されているものがあげられる。アクリル系樹脂へのスルホン酸基導入の方法は、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)等のスルホン酸基またはスルホン酸塩基を有するビニルモノマーを、ラジカル,アニオン,カチオン共重合する方法や、スルホン酸基を有するジオールモノマーを、ウレタン反応,エステル交換反応で導入する方法がある。
【0038】
上記スルホン酸官能基を有するウレタン系ポリマーとしては、例えば、分子構造中にウレタン結合を有する樹脂であれば特に限定はなく、例えば、エーテル系,エステル系,アクリル系,脂肪族系等のウレタンや、それにシリコーン系ポリオールまたはフッ素系ポリオールを共重合させたもの等であって、分子構造中に、スルホン酸基およびスルホン酸塩構造の少なくとも一方が導入されているものがあげられる。なお、ウレタン系樹脂は、分子構造中にウレア結合またはイミド結合を有するものであってもよい。
【0039】
上記スルホン酸官能基を有する熱可塑性樹脂ポリマーとしては、例えば、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル(PVC)、酢酸ビニル、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルスルホン、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、フッ化ビニリデン−四フッ化エチレン共重合体、フッ化ビニリデン−四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合体等であって、分子構造中に、スルホン酸基およびスルホン酸塩構造の少なくとも一方が導入されているものがあげられる。
【0040】
上記スルホン酸官能基を有する熱硬化性樹脂ポリマーとしては、例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ウレア樹脂、ポリイミド系樹脂等であって、分子構造中に、スルホン酸基およびスルホン酸塩構造の少なくとも一方が導入されているものがあげられる。
【0041】
上記スルホン酸官能基を有するゴム系ポリマーとしては、例えば、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、水素添加NBR(H−NBR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム(IR)、ウレタンゴム、クロロプレンゴム(CR)、塩素化ポリエチレン(Cl−PE)、エピクロロヒドリンゴム(ECO,CO)、ブチルゴム(IIR)、エチレンプロピレンジエンポリマー(EPDM)、フッ素ゴム等であって、分子構造中に、スルホン酸基およびスルホン酸塩構造の少なくとも一方が導入されているものがあげられる。
【0042】
上記スルホン酸官能基を有する熱可塑性エラストマーとしては、例えば、スチレン−ブタジエンブロック共重合体(SBS),スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)等のスチレン系エラストマー、ウレタン系エラストマー(TPU)、オレフィン系エラストマー(TPO)、ポリエステル系エラストマー(TPEE)、ポリアミド系エラストマー、フッ素系エラストマー、塩ビ系エラストマー等であって、分子構造中に、スルホン酸基およびスルホン酸塩構造の少なくとも一方が導入されているものがあげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0043】
上記特定のπ電子非共役系ポリマー(B成分)のなかでも、合成プロセスの簡便さ、溶剤との溶解性、物性(摩耗性、強度)の点で、スルホン酸官能基を有するウレタン系エラストマー、スルホン酸官能基を有するアクリル系ポリマーが好適に用いられる。また、加水分解が少なく、湿熱環境放置で物性(電気抵抗)の低下が起こり難くなるという点から、スルホン酸官能基を有するポリカーボネート系ウレタンエラストマー,ポリエーテル系ウレタンエラストマー、もしくはスルホン酸官能基を有するアクリル系ポリマーが好ましい。
【0044】
上記スルホン酸官能基を有するウレタンエラストマーとしては、ポリエステル系,ポリカーボネート系,ポリエーテル系等の従来公知のウレタン骨格に、スルホン酸官能基を導入したものであれば特に限定はなく、例えば、酸成分とグリコール成分とを反応させて得たポリオール,もしくはポリカーボネートジオールと、有機ジイソシアネートとを反応させることにより得ることができる。
【0045】
上記ウレタンエラストマーは、酸成分とグリコール成分とを反応させて得たポリエステルポリオールと、有機ポリイソシアネートとを反応させることにより得ることができる。
【0046】
上記ポリオールの酸成分としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、ドデシニルコハク酸等の脂肪族二塩基酸や、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、4−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−ビス(4−カルボキシシクロヘキシル)メタン、2,2ビス(4−カルボキシシクロヘキシル)プロパン等の脂環族二塩基酸や、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これらのなかでも、分散性の点で、アジピン酸、セバシン酸、ドデシニルコハク酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸が好適に用いられる。また、全酸成分中の所定の範囲(好ましく、20〜50モル%の範囲)で、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−カリウムスルホイソフタル酸、ナトリウムスルホテレフタル酸等のスルホン酸金属塩含有芳香族ジカルボン酸を共重合させることが好ましい。
【0047】
上記ポリオールのグリコール成分としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、2,3−ブチレングリコール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピル、2′,2′−ジメチル−3−ヒドロキシプロパネート、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール等の脂肪族系グリコールや、1,3−ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(ヒドロキシエチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(ヒドロキシプロピル)シクロヘキサン、1,4−ビス(ヒドロキシメトキシ)シクロヘキサン、1,4−ビス(ヒドロキシエトキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシメトキシシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシエトキシシクロヘキシル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン等の脂環族系グリコール等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これらのなかでも、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピル、2′,2′−ジメチル−3−ヒドロキシプロパネート、1,6−ヘキサンジオールが好ましい。また、全グリコール成分中の所定の範囲で、2−ナトリウムスルホ−1,4ーブタンジオール、2−ナトリウムスルホ−1,6−ヘキサンジオール等のスルホン酸金属塩含有グリコールを共重合させることが好ましい。
【0048】
上記ポリカーボネートジオールとしては、例えば、ジオールと、ジアルキルカーボネート(例えば、ジメチルカーボネート,ジエチルカーボネート等),アルキレンカーボネート(例えば、エチレンカーボネート等),ジアリールカーボネート(例えば、ジフェニルカーボネート等)等のカーボネートとを、脱アルコール反応や脱フェノール反応させたものがあげられる。また、全ポリカーボネートジオール成分の所定の範囲(好ましくは、20〜50モル%の範囲)で、5−ナトリウムスルホイソフタル酸,5−カリウムスルホイソフタル酸,ナトリウムスルホテレフタル酸等のスルホン酸金属塩含有芳香族ジカルボン酸、あるいは2−ナトリウムスルホ−1,4−ブタンジオール,2−ナトリウムスルホ−1,6−ヘキサンジオール等のスルホン酸金属塩含有グリコールを共重合させることが好ましい。上記ポリカーボネートジオールの具体例としては、ポリテトラメチレンカーボネートジオール、ポリペンタメチレンカーボネートジオール、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール、ポリヘプタメチレンカーボネートジオール、ポリオクタメチレンカーボネートジオール、ポリノナメチレンカーボネートジオール等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これらのなかでも、ポリヘキサメチレンカーボネートジオールが好ましい。
【0049】
つぎに、上記有機ポリイソシアネートとしては、例えば、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、3,3’−ジメトキシ−4,4′−ビフェニレンジイソシアネート、2,6−ナフタレンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4′−ビフェニレンジイソシアネート、4,4′−ジフェニレンジイソシアネート、4,4′−ジイソシアネートジフェニルエーテル、1,5−ナフタレンジイソシアネート、m−キシレンジイソシアネート、1,3−ジイソシアネートメチルシクロヘキサン、1,4−ジイソシアネートメチルクシロヘキサン、4,4′−ジイソシアネートシクロヘキサン、4,4′−ジイソシアネートシクロヘキシルメタン、イソホロンジイソシアネート等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これらのなかでも、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネートが好適に用いられる。
【0050】
ここで、上記ポリカーボネート系ウレタンエラストマーは、公知のエステル交換反応と同様のメカニズムにより作製することができる。そして、このエステル交換反応の際には、触媒を用いることが好ましい。上記触媒としては、例えば、リチウム,ナトリウム,カリウム,ルビジウム,セシウム,マグネシウム,カルシウム,ストロンチウム,バリウム,亜鉛,アルミニウム,チタン,コバルト,ゲルマニウム,スズ,鉛,アンチモン,セリウム等の金属、金属アルコキシド、金属塩、金属酸化物等があげられる。これらのなかでも、アルカリ金属,アルカリ土類金属,亜鉛,チタン,鉛の炭酸塩,カルボン酸塩,ホウ酸塩,ケイ酸塩,酸化物,有機金属化合物が好ましく、特に好ましくは有機チタン化合物である。
【0051】
上記触媒の使用量は、出発原料の総重量の0.0001〜1%の範囲内が好ましく、特に好ましくは0.001〜0.1%の範囲内である。すなわち、触媒の使用量が少なすぎると、反応時間が長くなるため、製造効率が悪くなるおそれがあり、また、得られるポリカーボネートポリオールも着色しやすくなる傾向がみられ、逆に触媒の使用量が多すぎると、得られるポリカーボネートポリオールの耐水性が低下する傾向がみられるからである。
【0052】
上記ポリカーボネートポリオールは、公知のエステル交換反応よりも緩和な条件で反応を進行させることができる。具体的には、反応を進行させる過程において、常圧下(すなわち、減圧を伴わない)で70〜200℃の温度範囲内で反応を進行させることが可能であり、好ましくは75〜195℃の温度範囲内、特に好ましくは80〜190℃の温度範囲内である。すなわち、反応温度が70℃未満であると、所望される反応が進行しにくくなり、逆に反応温度が200℃を超えると、製造条件が厳しくなることによる製造コストの上昇を招き、また、得られるポリカーボネートポリオールにおいても、アリル末端化合物等の不純物が多くなる傾向がみられるからである。
【0053】
反応初期は、ジアルキルカーボネートの沸点近辺、具体的には90〜150℃の温度範囲内で行い、反応が進行すにるつれて、徐々に温度を上げてさらに反応を進行させることが好ましい。
【0054】
上記反応は常圧で行うことができるが、反応後半に減圧下、例えば、0.13kPa(1mmHg)〜26.6kPa(200mmHg)で行い、反応の進行を速めることも可能である。また、公知であるエステル交換反応後の脱アルコール処理の際にも、同様に減圧してこれを促進させることも可能である。
【0055】
生成したポリカーボネートポリオールと、ジアルキルカーボネートとの分離が可能な装置は、通常は蒸留塔付反応器であり、ジアルキルカーボネートを還流させながら反応を行い、反応の進行とともに生成してくる低分子の水酸基含有化合物を留出させる。この時、留出される低分子の水酸基含有化合物とともに、ジアルキルカーボネートが一部共沸して散逸する場合には、原料を計量して仕込む際にこの散逸量を見込むのが好ましい。実際には、ジアルキルカーボネートは、理論モル比に対して1.1〜1.3倍とするのが好ましい。
【0056】
上記ポリカーボネートポリオールの1分子中の平均水酸基数は、原料であるトリオール類のアルキレンオキサイド付加重合物、ジオール類、およびジアルキルカーボネートとの反応モル比を変えることにより調節することができる。
【0057】
上記スルホン酸官能基を有するウレタン系エラストマーとしては、例えば、下記の構造式(1)で表される構造を備えたものが好ましい。
【0058】
【化1】

【0059】
また、前述のスルホン酸官能基を有するアクリル系ポリマーとしては、例えば、下記の構造式(2)で表される構造を備えたものが好ましい。
【0060】
【化2】

【0061】
スルホン酸官能基を導入する方法としては、前述の方法以外に、芳香環や二重結合にアセチル硫酸を反応させることで行うこともでき(US3,870,841,US4,184,988等参照)、また、三酸化硫黄ガスを一定速度で加える方法等、公知の方法を用いることでも可能である。
【0062】
ここで、本発明の導電性ポリマーは、例えば、つぎの同時重合法もしくはイオン交換法により調製することができる。
【0063】
〔同時重合法〕
上記π電子共役系ポリマー(A成分)のモノマー(例えば、アニリン)と、スルホン酸官能基を有するポリエステル系ウレタンエラストマー等の特定のπ電子非共役系ポリマー(B成分)と、塩酸,メチルエチルケトン,メチルイソブチルケトン(MIBK)等の有機溶剤の混合溶媒等とをフラスコ中に所定量入れ、所定温度(例えば、15℃)に制御しながら、過硫酸アンモニウム等の酸化剤を数時間(例えば、1時間)かけて滴下し、数時間(例えば、20時間)酸化重合させて、重合物を得る。つぎに、この重合物を水とメタノールで洗浄し、精製することにより、目的とする導電性ポリマーを調製することができる。
【0064】
〔イオン交換法〕
上記π電子共役系ポリマー(A成分)のモノマー(例えば、アニリン)と、過硫酸アンモニウム等の酸化剤とを所定量混合して、ポリアニリン等のπ電子共役系ポリマー(A成分)を得る。このπ電子共役系ポリマー(A成分)を、アルカリ環境下で、脱ドープ反応を行い、水とメタノールで精製を行う。そして、スルホン酸含有ポリマーを酸性環境下でイオン交換し、スルホン酸とする。そして、この脱ドープしたポリアニリン等のπ電子共役系ポリマー(A成分)と、上記イオン交換したスルホン酸官能基を有するポリエステル系ウレタンエラストマー等の特定のπ電子非共役系ポリマー(B成分)とを、所定量混合することにより、目的とする導電性ポリマーを調製することができる。
【0065】
ここで、上記π電子共役系ポリマー(A成分)のモノマー単位のモル数(a)と、スルホン酸官能基を有するπ電子非共役系ポリマー(B成分)のスルホン酸官能基のモル数(b)とのモル比は、(a)/(b)=1/0.03〜1/3の範囲内が好ましく、特に好ましくは(a)/(b)=1/0.05〜1/2の範囲内である。すなわち、(b)のモル比が低くなると、A成分との相溶性や分散性が低下する傾向がみられ、逆に(b)のモル比が高くなると、反応性が悪化したり、イオン導電性への寄与効果が強くなりすぎ、導電性ポリマーの電子導電性を減らす傾向がみられるからである。
【0066】
このようにして得られる本発明の導電性ポリマーは、トルエン等の芳香族系溶剤、メチルエチルケトン(MEK)等のケトン系溶剤、酢酸エチル等のエステル系溶剤、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル系溶剤等に可溶である。
【0067】
つぎに、本発明の半導電性組成物は、上記本発明の導電性ポリマーを主成分とするものである。なお、本発明において、主成分とは、前述のように、通常、全体の過半を占める成分のことをいい、全体が主成分のみからなる場合も含む意味である。
【0068】
本発明の半導電性組成物は、上記本発明の導電性ポリマーとともに、導電剤を用いることが好ましい。なお、本発明の半導電性組成物は、上記導電性ポリマーとともに、他種のポリマーを添加しても差し支えない。この場合、上記他種のポリマーは、本発明の導電性ポリマーとの相溶性に優れたものを用いることが好ましい。
【0069】
つぎに、本発明の半導電性組成物は、上記本発明の導電性ポリマーと、導電剤とを用いて得ることができる。なお、本発明の半導電性組成物は、上記導電性ポリマーとともに、他種のポリマーを添加しても差し支えない。この場合、上記他種のポリマーは、本発明の導電性ポリマーとの相溶性に優れたものを用いることが好ましい。
【0070】
上記導電剤としては、特に限定はなく、例えば、カーボンブラック,c−ZnO(導電性酸化亜鉛),c−TiO2 (導電性酸化チタン),c−SnO2 (導電性酸化錫),グラファイト等の電子導電剤や、過塩素酸リチウム,第四級アンモニウム塩,ホウ酸塩のようなポリマーに溶解する化合物等のイオン導電剤があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0071】
上記電子導電剤の配合割合は、上記π電子共役系ポリマー(A成分)の原料(モノマー)と、上記特定のスルホン酸官能基を有するπ電子非共役系ポリマー(B成分)との合計100重量部(以下「部」と略す)部に対して、5〜80部の範囲内が好ましく、特に好ましくは8〜20部の範囲内である。
【0072】
また、上記イオン導電剤の配合割合は、上記π電子共役系ポリマー(A成分)の原料(モノマー)と、上記特定のスルホン酸官能基を有するπ電子非共役系ポリマー(B成分)との合計100部に対して、0.01〜5部の範囲内が好ましく、特に好ましくは0.5〜2部の範囲内である。
【0073】
なお、本発明の半導電性組成物には、上記導電性ポリマーおよび導電剤とともに、架橋剤、架橋促進剤、老化防止剤等を必要に応じて配合しても差し支えない。
【0074】
上記架橋剤としては、例えば、硫黄、イソシアネート、ブロックイソシアネート、メラミン等の尿素樹脂、エポキシ硬化剤、ポリアミン硬化剤、ヒドロシリル硬化剤、パーオキサイド等があげられる。なお、上記架橋剤とともに、紫外線や電子線等のエネルギーによってラジカルを発生する光開始剤を併用しても差し支えない。
【0075】
上記架橋剤の配合割合は、物性、粘着、液保管性の点から、上記π電子共役系ポリマー(A成分)の原料(モノマー)と、上記特定のスルホン酸官能基を有するπ電子非共役系ポリマー(B成分)との合計100部に対して、1〜30部の範囲内が好ましく、特に好ましくは3〜10部の範囲内である。
【0076】
また、上記架橋促進剤としては、例えば、スルフェンアミド系架橋促進剤、白金化合物、アミン触媒、ジチオカルバミン酸塩系架橋促進剤等の公知のものがあげられる。
【0077】
本発明の半導電性組成物は、例えば、つぎのようにして作製することができる。すなわち、まず、前述の方法に従い、導電性ポリマーを作製する。つぎに、この導電性ポリマーに、導電剤を配合するとともに、上記架橋剤,他種のポリマー等を必要に応じて配合する。そして、これらを溶剤に溶かさずにロール、ニーダー、バンバリーミキサー等の混練機を用いて混練することや、溶剤に溶かして溶液化し、ビーズミルや三本ロールを用いて分散することにより、目的とする半導電性組成物を得ることができる。
【0078】
上記溶剤としては、例えば、m−クレゾール、メタノール、メチルエチルケトン(MEK)、トルエン、テトラヒドロフラン(THF)、アセトン、酢酸エチル、ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)等の有機溶剤等があげられる。
【0079】
本発明の半導電性組成物は、上記のように、導電性ポリマー等を溶剤に溶解したコーティング液を、ラングミュアーブロジッド(LB)膜形成法や、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、インクジェット法、ディップ法、遠心成型法等によって、コーティングすることにより成膜化できるが、これに限定するものではなく、押出成形法、インジェクション成形法、インフレーション成形法等により、成膜化することも可能である。
【0080】
つぎに、本発明の半導電性組成物を用いた電子写真機器用半導電性部材について説明する。
【0081】
本発明の電子写真機器用半導電性部材は、上述の半導電性組成物を半導電性部材の少なくとも一部(全部もしくは一部)に用いることにより得ることができる。この電子写真機器用半導電性部材としては、例えば、現像ロール,帯電ロール,転写ロール,トナー供給ロール等の導電性ロール、中間転写ベルト,紙送りベルト等の導電性ベルト等があげられ、これらの構成層の少なくとも一部に用いられる。すなわち、本発明の半導電性組成物を、電子写真機器用半導電性部材の構成層の少なくとも一部に用いると、この半導電性組成物を用いて形成した構成層の電気抵抗の電圧依存性および環境依存性が小さくなり、他の構成層へは、この半導体組成物層を通った電流となるため、電気抵抗の電圧依存性および環境依存性の影響を受けにくくなる。その結果、電子写真機器用半導電性部材全体としての電気抵抗の電圧依存性および環境依存性が小さくなるため、濃度むら等が少なくなり、変動のない良好な画質が得られる等の電子写真機器としての性能の向上を実現することができるようになる。
【実施例】
【0082】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0083】
まず、実施例および比較例に先立ち、下記に示す、スルホン酸官能基を有するπ電子非共役系ポリマー(B成分)を準備した。
【0084】
〔スルホン酸官能基(スルホン酸ナトリウム基)を有するウレタンエラストマーA〕
温度計、攪拌機および部分還流式冷却器を具備した反応器に、5−ナトリウムスルホイソフタル酸178部、1,6−ヘキサンジオール155.8部、およびネオペンチルグリコール321.7部を加え、200℃で5時間エステル交換反応を行った。つづいて、アジピン酸480.8部を加え、200℃で10時間反応させた後、反応系を3時間かけて200mmHgまで減圧し、さらに5〜20mmHg、210℃で2時間重縮合反応を行い、ポリエステルジオール(Mn:2000)を得た。つぎに、このポリエステルジオール100部を、MEKに固形分重量が30重量%となるように溶解し、触媒としてジブチル錫ジラウレートを0.02部加え、80℃に保ち攪拌しながら、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネートを12.5部添加して、スルホン酸官能基を有するポリエステル系ウレタンエラストマー(Mn:20,000、スルホン酸官能基量:0.5mmol/g)を得た。
【0085】
〔スルホン酸官能基(スルホン酸ナトリウム基)を有するウレタンエラストマーB〕
温度計、攪拌機および部分還流式冷却器を具備した反応器に、5−ナトリウムスルホイソフタル酸84.1部、1,6−ヘキサンジオール155.8部、およびネオペンチルグリコール321.7部を加え、200℃で5時間エステル交換反応を行った。つづいて、アジピン酸334.7部およびテレフタル酸224.3部を加え、200℃で10時間反応させた後、反応系を3時間かけて200mmHgまで減圧し、さらに5〜20mmHg、210℃で2時間重縮合反応を行い、ポリエステルジオール(Mn:2000)を得た。つぎに、このポリエステルジオール90部を、MEKに固形分重量が30重量%となるように溶解し、触媒としてジブチル錫ジラウレートを0.02部加え、80℃に保ち攪拌しながら、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネートを12.5部添加した後、1,6−ヘキサンジオール0.59部を添加して、スルホン酸官能基を有するポリエステル系ウレタンエラストマー(Mn:50,000、スルホン酸官能基量:0.2mmol/g)を得た。
【0086】
〔スルホン酸官能基(スルホン酸ナトリウム基)を有するウレタンエラストマーC〕
温度計、攪拌機および部分還流式冷却器を具備した反応器に、5−ナトリウムスルホイソフタル酸258.5部、1,6−ヘキサンジオール155.8部、およびネオペンチルグリコール321.7部を加え、200℃で5時間エステル交換反応を行った。つづいて、アジピン酸437部を加え、200℃で10時間反応させた後、反応系を3時間かけて200mmHgまで減圧し、さらに5〜20mmHg、210℃で2時間重縮合反応を行い、ポリエステルジオール(Mn:2000)を得た。つぎに、このポリエステルジオール100部を、MEKに固形分重量が30重量%となるように溶解し、触媒としてジブチル錫ジラウレートを0.02部加え、80℃に保ち攪拌しながら、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネートを12.5部添加して、スルホン酸官能基を有するポリエステル系ウレタンエラストマー(Mn:20,000、スルホン酸官能基量:0.75mmol/g)を得た。
【0087】
〔スルホン酸官能基(スルホン酸ナトリウム基)を有するウレタンエラストマーD〕
温度計、攪拌機および部分還流式冷却器を具備した反応器に、1,6−ヘキサンジオール52部、および炭酸ジエチル(ジエチルカーボネート)48部を加え、反応触媒としてテトラブチルチタネート0.01部を仕込み、窒素気流下にて反応物を130℃に保ちながら、精製するエチルアルコールを留出させた。200℃で5時間減圧して低沸物を除去し、分子量1000のポリカーボネートジオールを合成した。つぎに、このポリカーボネートジオール70部を、MEKに固形分重量が30重量%となるように溶解し、触媒としてジブチル錫ジラウレートを0.02部加え、80℃に保ち攪拌しながら、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネートを12.5部添加した後、2−ナトリウムスルホ−1,6−ヘキサンジオールを3.3部添加して、スルホン酸官能基を有するポリカーボネート系ウレタンエラストマー(Mn:30,000、スルホン酸官能基量:0.28mmol/g)を得た。
【0088】
〔スルホン酸官能基(スルホン酸ナトリウム基)を有するウレタンエラストマーE〕
ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)〔Mn:1000〕100部に、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)50部を加え、窒素気流下、80℃で4時間攪拌しながら反応を行い、イソシアネート基含量5.6%、粘度1700cps(80℃)のプレポリマー(A)を得た。このプレポリマー(A)150部を100℃に予備加熱し、これをビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン(BEHB)27.84部と、2−ナトリウムスルホ−1,4−ブタンジオール(NSBD)7.68部とを混合し、減圧脱泡しながら110℃で攪拌反応を行った。このようにして、エーテル系ポリウレタンエラストマー(Mn:120000、スルホン酸官能基量:0.21mmol/g)を得た。
【0089】
〔スルホン酸官能基(スルホン酸基)を有するアクリル系エラストマー〕
温度計、攪拌機および部分還流式冷却器を具備した反応器に、メチルメタクリレート(MMA)40部、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)10.4部、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)6.5部、ブチルアクリレート(BA)64.1部、およびメチルイソブチルケトン(MIBK)200部を添加し、攪拌しながら、120℃でアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を2部添加し反応を行い、スルホン酸官能基を有するアクリル系エラストマー(Mn:12,000、スルホン酸官能基量:0.4mmol/g)を得た。
【0090】
〔スルホン酸官能基(スルホン酸ナトリウム基)を有するイソプレン系エラストマー〕
2−メチル−1,3−ブタジエン−1−スルホン酸ナトリウム(MBSN)36.5部と、イソプレン664部とを水中で攪拌しながら、過硫酸カリウムを添加して70℃で5時間重合を行い、スルホン酸官能基を有するイソプレン系エラストマー(Mn:50,000、スルホン酸官能基量:0.35mmol/g)を得た。
【0091】
〔スルホン酸官能基(スルホン酸ナトリウム基)を有するウレタンウレアエラストマー〕
温度計、攪拌機および部分還流式冷却器を具備した反応器に、5−ナトリウムスルホイソフタル酸151.2部、1,6−ヘキサンジオール155.8部、およびネオペンチルグリコール321.7部を加え、200℃で5時間エステル交換反応を行った。つづいて、アジピン酸495.5部を加え、200℃で10時間反応させた後、反応系を3時間かけて200mmHgまで減圧し、さらに5〜20mmHg、210℃で2時間重縮合反応を行い、ポリエステルジオール(Mn:2000)を得た。つぎに、このポリエステルジオール90部を、MEKに固形分重量が30重量%となるように溶解し、触媒としてジブチル錫ジラウレートを0.02部加え、80℃に保ち攪拌しながら、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネートを12.5部添加した後、4,4′−ジアミノ−3,3′−ジクロロジフェニルメタン(MOCA)1.34部を添加して、スルホン酸官能基を有するウレタンウレアエラストマー(Mn:45,000、スルホン酸官能基量:0.45mmol/g)を得た。
【0092】
〔実施例1〕
アニリン〔π電子共役系ポリマー(A成分)のモノマー〕1モル(93g)と、上記スルホン酸官能基(スルホン酸ナトリウム基)を有するウレタンエラストマーA(B成分)のスルホン酸官能基のモル数0.2モル(30%MEK溶剤で1333g)と、メチルエチルケトン(MEK)6000ml、およびIN塩酸6000mlとをフラスコ中に入れ、15℃に制御し攪拌しながら、IN塩酸1000mlに溶解した過硫酸アンモニウム(酸化剤)1モル(228.2g)を1時間かけて滴下し、20時間酸化重合させて、重合物を得た。つぎに、この重合物を水とメタノールで洗浄し、乾燥して導電性ポリマーを得た。
【0093】
〔実施例2〜4,7,9〜13〕
π電子共役系ポリマー(A成分)のモノマー、特定のπ電子非共役系ポリマー(B成分)、もしくは酸化剤の種類および配合割合等を、後記の表1および表2に示す材料もしくは配合割合等に変更する以外は、実施例1と同様にして、目的とする導電性ポリマーを得た。
【0094】
〔実施例5〕
ピロール〔π電子共役系ポリマー(A成分)のモノマー〕1モル(67.09g)と、上記スルホン酸官能基(スルホン酸ナトリウム基)を有するウレタンエラストマーA(B成分)のスルホン酸官能基のモル数0.2モル(30%MEK溶剤で1333g)と、クロロホルム7000mlとをフラスコ中に入れ、15℃に制御し攪拌しながら、クロロホルム1000mlに溶解した塩化第二鉄(酸化剤)1モル(162.2g)を1時間かけて滴下し、20時間酸化重合させて、重合物を得た。つぎに、この重合物を水とメタノールで洗浄し、乾燥して導電性ポリマーを得た。
【0095】
〔実施例6〕
ピロール〔π電子共役系ポリマー(A成分)のモノマー〕1モル(67.09g)に代えて、チオフェン〔π電子共役系ポリマー(A成分)のモノマー〕1モル(84.14g)を用いる以外は、実施例5と同様にして、導電性ポリマーを得た。
【0096】
〔実施例8〕
o−トルイジン〔π電子共役系ポリマー(A成分)のモノマー〕1モル(107g)を1000mlの1N塩酸に添加し、500mlの1N塩酸に溶解した過硫酸アンモニウム(酸化剤)1モル(228.21g)を10時間、15℃で継続的に攪拌して重合し、ポリo−トルイジン〔π電子共役系ポリマー(A成分)〕を得た。これをメタノールと水で洗浄した後、0.1N水酸化ナトリウム溶液に添加し、脱ドープ反応を行った。これを再度、水とメタノールで洗浄し、THFに溶解した。一方、スルホン酸ナトリウム基を有するウレタンエラストマーC(B成分)をTHFで希釈し、アンバーリスト15DRYを用いて、プロトン酸を持つスルホン酸基にイオン交換を行った。そして、このポリo−トルイジンと、上記スルホン酸官能基(スルホン酸ナトリウム基)を有するウレタンエラストマーC(B成分)のスルホン酸官能基0.3モル相当とを、1N塩酸中で混合して(イオン交換法)、目的とする導電性ポリマーを得た。
【0097】
〔比較例1〕
アニリン1モル(93g)と、ペンタデシルベンゼンスルホン酸(ドーパント)1モル(368g)と、メチルエチルケトン(MEK)6000ml、およびIN塩酸6000mlとをフラスコ中に入れ、15℃に制御し攪拌しながら、1N塩酸1000mlに溶解した過硫酸アンモニウム(酸化剤)1モル(228.2g)を1時間かけて滴下し、20時間重合させて、重合物を得た。つぎに、この重合物を水とメタノールで洗浄し、乾燥して導電性ポリマーを得た。これをTHFに溶解し、遠心分離器(200000ppm×0.5時間)で沈殿物を除去した上澄を、THFに溶解したウレタンエラストマー(日本ミラクトラン社製、E980)に25%(固形分換算)となるように加え、目的とする導電性ポリマーを得た。
【0098】
【表1】

【0099】
【表2】

【0100】
〔比較例2〕
特開2002−179911号公報の実施例4に準じて、導電性ポリマー(導電性ポリアニリン)を得た。
【0101】
(アニリンの酸化重合によるドープ状態のキノンジイミン・フェニレンジアミン型導電性ポリアニリンの調製)
攪拌装置、温度計および直管アダプターを備えた10リットル容量セパラブル・フラスコに、蒸留水6000g、36%塩酸360mlおよびアニリン400g(4.295モル)をこの順序にて仕込み、アニリンを溶解させた。別に、氷水にて冷却しながら、ビーカー中の蒸留水1493gに97%濃硫酸434g(4.295モル)を加え、混合して、硫酸水溶液を調製した。この硫酸水溶液を上記セパラブル・フラスコに加え、フラスコ全体を低温恒温槽にて−4℃まで冷却した。つぎに、ビーカー中にて蒸留水2293gにペルオキソ二硫酸アンモニウム980g(4.295モル)を加え、溶解させて、酸化剤水溶液を調製した。フラスコ全体を低温恒温槽で冷却して、反応混合物の温度を−3℃以下に保持しつつ、攪拌下にアニリン塩の酸性水溶液に、チュービングポンプを用いて、直管アダプターから上記ペルオキソ二硫酸アンモニウム水溶液を1ml/分以下の割合にて徐々に滴下し、重合体粉末を得た。この重合体粉末を濾別し、水洗、アセトン洗浄し、室温で真空乾燥して、黒緑色のキノンジイミン・フェニレンジアミン型導電性ポリアニリン粉末430gを得た。
【0102】
(導電性有機重合体の脱ドーピングによるキノンジイミン・フェニレンジアミン型溶剤可溶性ポリアニリンの調製)
上記ドープされている導電性ポリアニリン粉末350gを、2Nアンモニア水4リットル中に加え、オートホモミキサーを用いて回転数5000rpmにて5時間攪拌した。ブフナー漏斗にて粉末を濾別し、ビーカー中にて攪拌しながら、蒸留水にて濾液が中性になるまで繰り返して洗浄し、続いて、濾液が無色になるまでアセトンにて洗浄した。この後、粉末を室温にて10時間真空乾燥して、黒褐色の脱ドーピングした溶剤可溶性キノンジイミン・フェニレンジアミン型ポリアニリン粉末280gを得た。つぎに、1N−メチル−2−ピロリドン90gに、フェニルヒドラジン1.49gを溶解させ、ついで、上記溶剤可溶性キノンジイミン・フェニレンジアミン型ポリアニリン10gを攪拌下に溶解させた。この溶液をG2フィルターにて減圧濾過して、ポリアニリン溶液を得た。つぎに、ポリスチレンスルホン酸(5.5mmol/g)0.76gと、トリエチルアミン0.42gとを、N−メチル−2−ピロリドン3.68gに溶解させて溶液を得た。この溶液4.86gと、上記にて得られた10重量%のポリアニリン溶液5.0gとを混合し、得られた混合物を脱泡処理し、導電性ポリマー溶液とした。
【0103】
このようにして得られた実施例および比較例の導電性ポリマーを用いて、下記のようにして各特性の評価を行った。これらの結果を、後記の表3および表4に併せて示した。
【0104】
〔溶解度〕
各導電性ポリマーを各種溶剤(THFもしくはMEK)に混合し、攪拌して各種溶剤に対する溶解度を測定した。なお、比較例1,2については、溶剤を揮発、乾燥させたものに対する溶解度を測定した。
【0105】
〔電気抵抗の電圧依存性〕
各導電性ポリマーをTHFに混合し、超音波処理した後、遠心分離(20000rpm)して上澄みを取り出した。この上澄みをアプリケータを用いてSUS板上にキャスティングし、乾燥(150℃×30分)して塗膜(厚み20μm)を形成した。そして、この塗膜の電気抵抗を、25℃×50%RHの環境下、10Vの電圧を印加した時の電気抵抗(Rv=10V)と、100Vの電圧を印加した時の電気抵抗(Rv=100V)を、SRIS 2304に準じてそれぞれ測定した。そして、Log(Rv=10V/Rv=100V)により、電気抵抗の電圧依存性を変動桁数で表示した。なお、比較例1については、トルエン溶液の状態でキャスティングを行った。また、比較例2については、THFへの溶解性が極端に低いため、またはNMPは150℃では揮発が充分できないため、水に溶解し、キャスティングを行った。
【0106】
〔電気抵抗の環境依存性〕
各導電性ポリマーを用いて、上記と同様にして、導電性塗膜を作製し、この導電性塗膜について、印加電圧10Vの条件下、低温低湿(15℃×10%RH)時の電気抵抗(Rv=15℃×10%RH)と、高温高湿(35℃×85%RH)時の電気抵抗(Rv=35℃×85%RH)を、SRIS 2304に準じてそれぞれ測定した。そして、Log(Rv=15℃×10%RH/Rv=35℃×85%RH)により、電気抵抗の環境依存性を変動桁数で表示した。なお、比較例2については、別に、5重量%のp−ベンゾキノンのエタノール溶液と、20重量%の1,5−ナフタレンジスルホン酸四水和物の水溶液を調製し、これらの溶液を等重量比にて混合して、ドープ液を調製した。このドープ液を、上記でキャストしたフィルムに40℃で20分間浸漬した後、エタノールにて洗浄し、さらに60℃で20分間乾燥させて、導電性ポリアニリンフィルムを得た。この導電性ポリアニリンフィルムについて、上記と同様にして、電気抵抗の環境依存性の評価を行った。
【0107】
〔オゾン後の変動桁数〕
上記塗膜を50℃×80pphmのオゾン環境下に6ヶ月放置し、その後の電気抵抗を上記と同様にして測定した。そして、電気抵抗の変動桁数を求めた。
【0108】
〔湿熱後の変動桁数〕
上記塗膜を50℃×95%RHの湿熱環境下に6ヶ月放置し、その後の電気抵抗を上記と同様にして測定した。そして、電気抵抗の変動桁数を求めた。
【0109】
〔高電圧領域での電気抵抗変動(チャージアップ)〕
各導電性ポリマーを用いて、上記と同様にして、導電性塗膜を作製し、この導電性塗膜について、25℃×50%RHの環境下、100Vの電圧を印加した時の電気抵抗(Rv=0秒)と、25℃×50%RHの環境下、100Vの電圧を10分間印加した時の電気抵抗(Rv=600秒)とを、SRIS 2304に準じてそれぞれ測定した。そして、Log(Rv=600秒/Rv=0秒)により、高電圧領域での電気抵抗変動を変動桁数で表示した。
【0110】
〔イオン結合の有無〕
各導電性ポリマーを、通常、π電子共役系ポリマーの溶解しない溶剤(MEK)に10%で溶解し、遠心分離機を用いて処理(20000rpm×0.5時間)し、沈殿物の有無を確認した。そして、UV−VISスペクトル測定機(JASCO社製、UV/VISスペクトロメーターV−550)を用いて、分析を行った。評価は、沈殿物の割合が50%未満で、上澄液のスペクトルが750〜950の間に吸光度のピークがあるものをイオン結合しているとして○、沈殿物の割合が50%以上で、上澄液のスペクトルが750〜950の間に吸光度のピークがあり、かつ、500〜650の間にも吸光度のピークがあるものを部分的にイオン結合しているとして△、沈殿物の割合が50%以上で、上澄液のスペクトルが750〜950の間に吸光度のピークがなく、500〜650の間に吸光度のピークがあるものをイオン結合していないとして×とした。
【0111】
〔物性の低下〕
各導電性ポリマーを50℃×95%RHの湿熱環境下に6ヶ月放置した後の、物性の低下をJIS K 7113に準じて評価した。評価は、引張り弾性率の変化が20%未満のものを◎、20%以上で50%未満のものを○、50%以上のものを×とした。
【0112】
【表3】

【0113】
【表4】

【0114】
上記結果から、実施例品は、溶解性に優れ、湿熱環境下での電気抵抗の変動が小さく、導電性に優れていた。特に実施例4,9,12,13品は、物性の低下が小さかった。これに対して、比較例1品は、溶剤への溶解性が劣るとともに、オゾン環境下および湿熱環境下での電気抵抗の変動が大きく、物性の低下も大きかった。また、比較例2品は、表面の電気抵抗が低く、リークが発生し、10V、100Vの測定ができなかった。また、それ以下の印加電圧では測定できたが、ポリスチレンスルホン酸(PSS)のイオン導電性が発現していた。これは脱ドープした後に、後からドーピングを行っているため、ポリアニリンと高分子ドーパントとが、特に内部で完全には反応していなかったことによるものと思われる。また、溶剤がNMPであるため、乾燥が非常に遅く、部分的にはじきを発生した。また、湿熱環境下で、塗膜の密着性が低下した。
【0115】
つぎに、上記導電性ポリマーを用いて帯電ロールを作製した。
【0116】
〔実施例14〕
(ベース層用材料の調製)
カーボンブラックを分散させたシリコーンゴム(信越化学工業社製、KE1350AB)を準備した。なお、このシリコーンゴムを用いて、上記と同様にして導電性塗膜を作製し、この導電性塗膜について上記と同様にして電気抵抗等を測定した結果、電気抵抗(10V) は4.5×104 Ω・cm、電気抵抗(100V) は3.8×103 Ω・cm、電気抵抗の電圧依存性は1.07桁、電気抵抗の環境依存性は0.03桁、高電圧領域での電気抵抗変動(チャージアップ)は0.13桁であった。
【0117】
(中間層用材料の調製)
ウレタンエラストマー(日本ミラクトラン社製、E980)93部を、THF300部とMEK150部とトルエン100部に溶解させた後、アセチレンブラック(電気化学工業社製、デンカブラックHS100)7部を加え、3本ロールを用いて混練して、導電性組成物(コーティング液)を調製した。なお、この導電性組成物を用いて、上記と同様にして導電性塗膜を作製し、この導電性塗膜について上記と同様にして電気抵抗等を測定した結果、電気抵抗(10V) は6.0×106 Ω・cm、電気抵抗(100V) は9.0×104 Ω・cm、電気抵抗の電圧依存性は1.82桁、電気抵抗の環境依存は0.05桁、高電圧領域での電気抵抗変動(チャージアップ)は0.09桁であった。
【0118】
(表層用材料の調製)
実施例2と同様にして、導電性ポリマーを作製した。
【0119】
(帯電ロールの作製)
軸体である芯金(直径10mm、SUS304製)をセットした射出成形用金型内に、上記ベース層用材料を注型し、150℃×45分の条件で加熱した後、脱型して、軸体の外周面に沿ってベース層を形成した。つぎに、このベース層の外周面に、上記中間層材料を塗布して、中間層を形成した。ついで、上記中間層の外周面に、上記表層用材料を塗布して、表層を形成することにより、軸体の外周面にベース層(厚み3mm)が形成され、その外周面に中間層(厚み10μm)が形成され、さらにその外周面に表層(厚み40μm)が形成されてなる、3層構造の帯電ロールを作製した。
【0120】
〔比較例3〕
(表層用材料の調製)
比較例1と同様にして、導電性ポリマーを作製した。
【0121】
(帯電ロールの作製)
上記表層用材料を用いる以外は、実施例14と同様にして、軸体の外周面にベース層(厚み3mm)が形成され、その外周面に中間層(厚み10μm)が形成され、さらにその外周面に表層(厚み40μm)が形成されてなる、3層構造の帯電ロールを作製した。
【0122】
〔比較例4〕
(表層用材料の調製)
比較例2と同様にして、導電性ポリマーを作製した。
【0123】
(帯電ロールの作製)
上記表層用材料を用いる以外は、実施例14と同様にして、軸体の外周面にベース層(厚み5mm)が形成され、その外周面に中間層(厚み10μm)が形成され、さらにその外周面に表層(厚み40μm)が形成されてなる、3層構造の帯電ロールを作製した。その後、帯電ロールの表面を、前述と同様の方法でドープ液にて処理を行った。
【0124】
このようにして得られた実施例および比較例の帯電ロールを用いて、下記の基準に従い、各特性の評価を行った。これらの結果を、後記の表5に併せて示した。
【0125】
〔電気抵抗、電気抵抗の電圧依存性〕
帯電ロールの表面をSUS板に押し当てた状態で、帯電ロールの両端に各1kgの荷重をかけ、帯電ロールの芯金と、SUS板に押し当てた帯電ロール表面との間の電気抵抗を、SRIS 2304に準じて測定した。なお、電気抵抗は、25℃×50%RHの環境下、10Vの電圧を印加した時の電気抵抗(Rv=10V)と、100Vの電圧を印加した時の電気抵抗(Rv=100V)をそれぞれ測定した。そして、Log(Rv=10V/Rv=100V)により、電気抵抗の電圧依存性を変動桁数で表示した。
【0126】
〔電気抵抗の環境依存性〕
上記電気抵抗の評価に準じて、印加電圧10Vの条件下、低温低湿(15℃×10%RH)の時の電気抵抗(Rv=15℃×10%RH)と、高温高湿(35℃×85%RH)の時の電気抵抗(Rv=35℃×85%RH)を、SRIS 2304に準じてそれぞれ測定した。そして、Log(Rv=15℃×10%RH/Rv=35℃×85%RH)により、電気抵抗の環境依存性を変動桁数で表示した。
【0127】
〔硬度(JIS A)〕
各帯電ロールの最表面の硬度を、JIS K 6253に準じて測定した。
【0128】
〔圧縮永久歪み〕
各帯電ロールの圧縮永久歪みを、温度70℃、試験時間22時間、圧縮率25%の条件下、JIS K 6262に準じて測定した。
【0129】
〔帯電ロール特性〕
(画像むら)
各帯電ロールを市販のカラープリンターに組み込み、20℃×50%RHの環境下において画像出しを行った。評価は、ハーフトーン画像での濃度むらがなく、細線のとぎれや色むらがなかったものを○、濃度むらが生じたものを×とした。
【0130】
(環境による画質の変動)
各帯電ロールを市販のカラープリンターに組み込み、15℃×10%RHの環境下において画像出しを行った時と、35℃×85%RHの環境下において画像出しを行った時の、環境による画質の変動の評価を行った。評価は、べた黒画像を印刷し、マクベス濃度計で変化が0.1以下の時を○、0.1を超える時を×とした。
【0131】
〔チャージアップによる濃度変動〕
各帯電ロールを市販のカラープリンターに組み込み、25℃×50%RHの環境下、1万枚画像出しを行った。評価は、ハーフトーン画像での濃度差がなかったもの(マクベス濃度計で0.1未満)を○、濃度差が生じたもの(マクベス濃度計で0.1以上)を×とした。
【0132】
〔環境による電気抵抗変動桁数〕
50℃×95%RHの環境下で6ヶ月間放置し、前後の電気抵抗を、25℃×50%RHの環境下で10V印加し、SRIS 2304に準じてそれぞれ測定した。そして、電気抵抗の変動桁数を求めた。
【0133】
〔環境による硬度の変化〕
50℃×95%RHの環境下で6ヶ月間放置し、前後のロールの最表面の硬度を、JIS K 6253に準じて測定した。評価は、変化が3度未満のものを◎、3度以上5度未満のものを○、5度以上のものを×とした。
【0134】
【表5】

【0135】
上記結果から、実施例14品は、全ての特性が良好で、帯電ロール特性に優れていた。
【0136】
これに対して、比較例3品は、環境による電気抵抗変動および環境による硬度変化が大きかった。また、比較例4品は、硬度が高く、圧縮永久歪み特性が劣り、電圧印加でリークが発生するとともに、環境による画質の変動および環境による硬度変化が大きかった。
【0137】
つぎに、上記導電性ポリマーを用いて現像ロールを作製した。
【0138】
〔実施例15〕
(ベース層用材料の調製)
実施例14のベース層用材料と同様の、カーボンブラックを分散させたシリコーンゴム(信越化学工業社製、KE1350AB)を準備した。
【0139】
(中間層用材料の調製)
実施例7と同様にして、導電性ポリマーを作製した。
【0140】
(表層用材料の調製)
実施例14の中間層用材料と同様にして、導電性組成物(コーティング液)を調製した。
【0141】
(現像ロールの作製)
軸体である芯金(直径10mm、SUS304製)をセットした射出成形用金型内に、上記ベース層用材料を注型し、150℃×45分の条件で加熱した後、脱型して、軸体の外周面に沿ってベース層を形成した。つぎに、このベース層の外周面に、上記中間層材料を塗布して、中間層を形成した。ついで、上記中間層の外周面に、上記表層用材料を塗布して、表層を形成することにより、軸体の外周面にベース層(厚み4mm)が形成され、その外周面に中間層(厚み45μm)が形成され、さらにその外周面に表層(厚み5μm)が形成されてなる、3層構造の現像ロールを作製した。
【0142】
〔実施例16〕
(表層用材料の調製)
実施例8と同様にして、導電性ポリマーを作製した。
【0143】
(帯電ロールの作製)
上記表層用材料を用いる以外は、実施例15と同様にして、軸体の外周面にベース層(厚み4mm)が形成され、その外周面に中間層(厚み40μm)が形成され、さらにその外周面に表層(厚み10μm)が形成されてなる、3層構造の現像ロールを作製した。
【0144】
〔比較例5〕
(中間層用材料の調製)
比較例2と同様にして、導電性ポリマーを作製した。
【0145】
(表層用材料の調製)
ウレタンエラストマー(日本ミラクトラン社製、E980)98部を、THF300部とMEK150部とトルエン100部に溶解させた後、第四級アンモニウム塩(ライオン社製、テトラブチルアンモニウム臭素塩TBAB)2部をTHF溶液(5%)にして加え、3本ロールを用いて混練して、導電性組成物(コーティング液)を調製した。なお、この導電性組成物を用いて、上記と同様にして導電性塗膜を作製し、この導電性塗膜について上記と同様にして電気抵抗等を測定した結果、電気抵抗(10V) は5.0×108 Ω・cm、電気抵抗(100V) は7.0×108 Ω・cm、電気抵抗の電圧依存性は−0.15桁、電気抵抗の環境依存は2.6桁、高電圧領域での電気抵抗変動(チャージアップ)は2.9桁であった。
【0146】
(現像ロールの作製)
上記中間層用材料および表層用材料を用いる以外は、実施例15と同様にして、軸体の外周面にベース層(厚み4mm)が形成され、その外周面に中間層(厚み10μm)が形成され、さらにその外周面に表層(厚み40μm)が形成されてなる、3層構造の現像ロールを作製した。
【0147】
このようにして得られた実施例および比較例の現像ロールを用いて、前記帯電ロールの評価に準じて各特性の評価を行った。これらの結果を、後記の表6に併せて示した。
【0148】
【表6】

【0149】
上記結果から、実施例15,16品は、全ての特性が良好で、現像ロール特性に優れていた。特に実施例16品は、環境による硬度変化が小さかった。
【0150】
これに対して、比較例5品は、硬度が高く、圧縮永久歪み特性が劣るとともに、環境による画質の変動および環境による硬度変化が大きく、チャージアップによる濃度変動も大きかった。
【産業上の利用可能性】
【0151】
本発明の導電性ポリマーおよびそれを用いた半導電性組成物、ならびに電子写真機器用半導電性部材は、帯電ロール等の電子写真機器部材に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0152】
【図1】本発明の導電性ポリマーを示す模式図である。
【図2】本発明の導電性ポリマーの要部を拡大した模式図である。
【符号の説明】
【0153】
1 A成分
2 B成分
3 イオン結合

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)成分および(B)成分を主成分とし、上記(A)成分を上記(B)成分によりドーピングしてなる溶剤可溶な導電性ポリマーであって、上記(B)成分から誘導される部分がスルホン酸イオンを介して、上記(A)成分のイオン性部分とイオン結合していることを特徴とする導電性ポリマー。
(A)π電子共役系ポリマー。
(B)スルホン酸基およびスルホン酸塩基の少なくとも一方のスルホン酸官能基を有するπ電子非共役系ポリマー。
【請求項2】
上記(B)成分のπ電子非共役系ポリマーが、水には溶解せず、溶剤に溶解するものである請求項1記載の導電性ポリマー。
【請求項3】
上記(B)成分のπ電子非共役系ポリマーが、スルホン酸基およびスルホン酸塩基の少なくとも一方のスルホン酸官能基を有するアクリル系ポリマー,ウレタン系ポリマー,熱可塑性樹脂ポリマー,熱硬化性樹脂ポリマー,ゴム系ポリマー,および熱可塑性エラストマーからなる群から選ばれた少なくとも一つである請求項1または2記載の導電性ポリマー。
【請求項4】
上記(B)成分のπ電子非共役系ポリマーが、スルホン酸基およびスルホン酸塩基の少なくとも一方のスルホン酸官能基を有するアクリル系ポリマー,ポリカーボネート系ウレタンエラストマーおよびポリエーテル系ウレタンエラストマーからなる群から選ばれた少なくとも一つである請求項1または2記載の導電性ポリマー。
【請求項5】
上記(B)成分中のスルホン酸官能基量が、0.2〜0.75mmol/gの範囲である請求項1〜4のいずれか一項に記載の導電性ポリマー。
【請求項6】
上記(A)成分のπ電子共役系ポリマーが、アニリン、ピロール、チオフェンおよびこれらの誘導体からなる群から選ばれた少なくとも一つのモノマーから誘導されたものである請求項1〜5のいずれか一項に記載の導電性ポリマー。
【請求項7】
上記モノマーが、炭素数1〜4のアルキル置換基およびアルコキシ置換基の少なくとも一方の置換基を有している請求項6記載の導電性ポリマー。
【請求項8】
電気抵抗が2×106 〜1×1011Ω・cmの範囲である請求項1〜7のいずれか一項に記載の導電性ポリマー。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の導電性ポリマーを主成分とすることを特徴とする半導電性組成物。
【請求項10】
上記半導電性組成物が、導電剤を含有するものである請求項9記載の半導電性組成物。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の半導電性組成物を、半導電性部材の少なくとも一部に用いたことを特徴とする電子写真機器用半導電性部材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2006−176752(P2006−176752A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−238774(P2005−238774)
【出願日】平成17年8月19日(2005.8.19)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】