説明

導電性ポリマー製造用の遅延酸化剤

【課題】本発明は、導電性ポリマー製造用先駆物質と混合した場合に、重合工程の間に長い処理時間を示す特定酸化剤を製造する方法に関する。
【解決手段】本発明は、該方法によって得られる酸化剤、この種の特定(遅延)酸化剤を含有する混合物、および固体電解質コンデンサーおよび導電層の製造におけるその使用にも関する。該酸化剤は、有機酸または有機基を有する無機酸の金属塩をイオン交換体で処理することによって製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性ポリマーの製造用の先駆物質との混合物において、重合の間に長い処理時間を示す特定酸化剤の製造法、該製造法によって得られる酸化剤、そのような特定(遅延)酸化剤を含んで成る混合物、ならびに固体電解質コンデンサーおよび導電層の製造におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
一種のπ-共役ポリマーは、ここ数十年にわたり多くの文献の主題となっている。それらは、導電性ポリマーまたは合成金属とも称される。
【0003】
導電性ポリマーは、加工性、重さ、および化学修飾による標的特性設定において、金属より有利であるので、経済的重要性が増している。既知のπ-共役ポリマーの例は、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリフェニレンおよびポリ(p-フェニレン-ビニレン)である。導電性ポリマー層は産業において広く使用されている。L. Groenendaal, F. Jonas, D. Freitag, H. PielartzikおよびJ. R. Reynolds, Adv. Mater. 12(2000)481-494に概説が見出される。
【0004】
導電性ポリマーは、導電性ポリマー製造用の先駆物質、例えば、置換または非置換チオフェン、ピロールおよびアリニンならびにそれらの可能なオリゴマー誘導体から、化学酸化により、または電気化学的に製造される。化学酸化による重合は、技術的に容易に、種々の支持体に適用できるので、特に普及している。この目的のために、導電性ポリマー製造用の先駆物質を、酸化剤によって重合させる。重合は極めて速いので、導電性ポリマー製造用の先駆物質および酸化剤を、一般に1つずつ適用しなければならない。しかし、この逐次適用に伴う問題は、導電性ポリマー製造用の先駆物質と酸化剤との化学量論比を設定するのが極めて難しいことである。その結果、ポリマーを形成する反応が不完全であり、先駆物質が不充分にしか使用されず、導電性ポリマーの量およびその導電性が減少する。
【0005】
さらに、逐次適用は必要とされる工程段階の数を増加させ、それによって、逐次工程は極めて高い工程コストを伴う。従って、導電性ポリマー製造用の先駆物質および酸化剤を、一緒に、正確に規定した混合物として、使用するのが望ましい。
【0006】
酸化剤と導電性ポリマー製造用先駆物質との混合物は、低温においてのみ、工業的に採用できる方法で使用するのに充分に遅い反応速度を有する。従って、例えば、米国特許第5455736号では、重合を充分に遅くするために、ピロールと酸化剤との希釈混合物を低温に冷却している。しかし、低温の使用は、第一に、技術的に極めて困難であり、第二に、低温において酸化剤の溶解性が限定され、溶液の粘度が温度の減少と共にかなり増加する。他の不利な点は、低温によって周囲空気からの水分が冷却溶液に入り、該溶液から製造した導電性ポリマーの品質が不利に変化することである。
【0007】
EP-A 339340は、化学酸化による3,4-二置換チオフェンの重合を開示している。酸化剤を適切に選択した場合、これらのチオフェンを酸化剤の存在下に溶解状態で処理して、導電層を製造することができる。しかし、この場合も、反応はほんの数分後に開始する。
【0008】
EP-A 615256は、酸化剤と導電性ポリマー製造用先駆物質との混合物における重合を、イミダゾールのような非揮発性塩基の添加によって、遅くしうることを開示している。このようにして、数時間にわたって重合を抑制することができる。しかし、添加剤が導電層に残留し、導電層の機能に不利な作用をしうる。
【0009】
米国特許第6001281号では、異なる沸点を有する2つの溶媒を使用することによって重合を遅くしている。より高い揮発性の溶媒を選択して、酸化剤として使用されるFe(III)との弱錯体を形成し、それによって反応を遅くさせる。一方、より高い沸点を有する溶媒は、Fe(III)を錯化しない。重合を行うために、より高い揮発性の溶媒を蒸発させ、次に、反応を加速的に進める。この方法は、反応性溶液を他の溶媒で高度に希釈しなければならないという点で極めて不利である。さらに、使用される溶媒、例えばテトラヒドロフランは、工業的に望ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第5455736号明細書
【特許文献2】欧州特許出願第339340号明細書
【特許文献3】欧州特許出願第615256号明細書
【特許文献4】米国特許第6001281号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】L. Groenendaal、F. Jonas, D. Freitag、H. PielartzikおよびJ. R. Reynolds、Adv. Mater. 12、2000年、第481〜494頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、工業的に容易に管理できる温度で、導電性ポリマー製造用先駆物質と共に使用でき、重合を阻止するために複雑な付加的工程段階を行わなくても、工業的に適用するのに充分に長い時間にわたって重合を抑制できる酸化剤が現在も必要とされている。
【0013】
従って、本発明の目的は、化学酸化によって導電性ポリマー製造用先駆物質を重合させるのに好適な酸化剤を見出し、製造することであり、該酸化剤は、充分に長い時間にわたって重合を抑制し、それによって、例えば固体電解質コンデンサーまたは他の用途用の、導電層を製造することができる。
【0014】
他の目的は、さらに貯蔵安定性もあるそのような好適な酸化剤を見出すことである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
意外にも、有機酸、または有機基を有する無機酸の金属塩を、イオン交換体で処理することによって製造した酸化剤が、これらの必要条件を満たすことが見出された。
【0016】
従って、本発明は、導電性ポリマー製造用の酸化剤を製造する方法であって、有機酸または有機基を有する無機酸の金属塩をイオン交換体で処理することを特徴とする方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】導電性ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)を生成するための、p-トルエンスルホン酸鉄(III)によるEDTの酸化重合の反応式。
【図2】30℃におけるEDT(■四角)、Fe(III)(◆菱形)およびFe(II)(▲三角)についての濃度曲線の実験データと、モデルに基づくシミュレーション(実線)とを比較したグラフ。
【図3】速度定数k0のアレニウスプロット(◆記号:実験データ、実線:シミュレーション)。
【図4】非処理酸化剤のモデルから生じた定数を使用したシミュレーション(実線)と比較した、20℃における本発明混合物中でのEDTの重合について実験的に求めたモマー濃度曲線(◆記号)。
【図5】20℃における、EDT、Fe(III)およびFe(II)(記号)の実験濃度曲線および関連シミュレーション(実線)を示すグラフ。
【図6】モノマーの酸化についてのアレニウスプロット(記号:実験値、実線:シミュレーション)。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明において、一般的にまたは好ましい範囲において以下に示した定義、基の定義、パラメーターおよび説明は、必要に応じて、相互に組み合わすことができ、各範囲ないし好ましい範囲のいずれであってもよい。
【0019】
イオン交換体として、無機または有機イオン交換体を使用しうるが、有機イオン交換体が好ましい。
【0020】
無機陰イオン交換体の例は、ゼオライト、モンモリロナイト、アタパルジャイト、ベントナイトおよび他のアルミノ珪酸塩、ならびに多価金属イオンの酸塩、例えば、燐酸ジルコニウム、タングステン酸チタン、ヘキサシアノ鉄(II)酸ニッケルである。
【0021】
有機陰イオン交換体の例は、重縮合物、例えばフェノールとホルムアルデヒドとの重縮合物、またはポリマー、例えば、スチレン、アクリレートまたはメタクリレートおよびジビニルベンゼンの共重合によって得られ、次に、適切に官能化されたポリマーである。しかし、適切に官能化した他の高分子、例えば天然源の高分子、例えば、セルロース、デキストランおよびアガロースも使用することができる。
【0022】
先に挙げたものは、例示目的であり、限定を意味するものではない。
【0023】
イオン交換体は、当業者に既知の下記のような使用形態で使用することができ、例えば、ビーズ形態、顆粒、粉末樹脂、織布または繊維に組み込んだ粉砕形態、紙、層または他の物体、イオン交換膜形態、液体有機イオン交換体、または必要であれば磁性イオン交換体がある。イオン交換体は、マクロ孔質、微孔質またはゲル形態であってよい。マクロ孔質イオン交換体を用いるのが好ましい。
【0024】
陰イオン交換体をイオン交換体として使用するのが好ましい。陰イオン交換体は、イオン交換体に結合した塩基性官能基、例えば、第一、第二または第三級アミン基または第四級アンモニウム基を有する。官能基の種類および組合せによって、イオン交換体の塩基度は変化しうる。例えば、強塩基性イオン交換体は第四級アンモニウム基を一般に含有し、弱塩基性イオン交換体は、より低い塩基性の第一、第二および/または第三級アミン基を含有する場合が多い。しかし、強塩基性イオン交換体および弱塩基性イオン交換体の任意混合形態も既知である。弱塩基性陰イオン交換体は、本発明の目的に特に有用である。これらは、例えば、第一、第二および/または第三級アミン基を、必要であれば第四級アンモニウム基と共に含有しうる。特に好ましいのは、主にまたは専ら第三級アミン基を官能基として含有する弱塩基性イオン交換体である。
【0025】
イオン交換体およびその製造は、当業者に既知であり、関連技術文献、例えばUllmanns Encyclopaedie der technischen Chemie(Verlag Chemie, Weinheim)、第13巻、第4版、p.281-308に記載されている。しかし、より最近の方法によって製造でき、前記の特性を有する全てのイオン交換体も、本発明の方法の実施に好適である。
【0026】
好適なイオン交換体の例は、例えばLewatit(登録商標)の商品名でBayer AG, Leverkusenから市販されているような、第三級アミンで官能化された、スチレンおよびジビニルベンゼンのマクロ孔質ポリマーである。
【0027】
イオン交換体は、前処理せずに、本発明の方法に使用することができる。しかし、イオン交換体を、例えば使用前に再生するために、硫酸のような酸、または水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムのような塩基で使用前に処理することもできる。本発明に使用されるイオン交換体は、それらの能力が枯渇した際に(即ち、それらが、本発明の方法に使用した結果として、本発明の方法を実施するのに充分な交換能力をもはや有さない程度まで負荷状態になった際に)、そのような再生に付すこともできる。このようにして、イオン交換体を、本発明の方法に使用するためにリサイクルすることができる。
【0028】
イオン交換体での金属塩の処理は、1つの溶媒、または複数の異なる溶媒の存在下に行うのが好ましい。処理は、例えば、混合、撹拌または振とう、および次に分離によって、連続的または回分的に行うことができる。好ましい態様においては、処理を連続的に行う。この目的のために、例えば、イオン交換体を含有するカラムに、金属塩の溶液を通す。しかし、金属塩、溶媒およびイオン交換体を共に容器に入れ、例えば1分〜72時間にわたって容器に保存することもできる。次に、イオン交換体を、例えば、フィルター、膜または遠心分離機によって酸化剤から分離することができる。
【0029】
使用される溶媒、および使用されるイオン交換体の熱安定性に応じて、本発明の方法を、例えば-20℃〜120℃の温度で行うことができる。好ましい温度は、本発明の方法を、工業的規模において簡単かつ低コストで実施しうるようにする温度、例えば10〜40℃、特に好ましくは室温である。
【0030】
添加されるイオン交換体の量は、その能力、および金属塩とイオン交換体との接触時間に依存する。必要であれば、予備試験によってその量を確定することができる。本発明によって得た酸化剤が充分に遅い重合速度を生じるような、イオン交換体の量を選択することが好都合である。イオン交換体の量が少なすぎる場合は、金属塩が充分に処理される前にイオン交換体が枯渇し、一方、短すぎる接触時間は、イオン交換体の充分な能力にもかかわらず、金属塩の不充分な処理を生じる。高すぎる能力および/または長すぎるイオン交換体との接触時間は、適切な工程温度における重合を実質的に完全に禁止する酸化剤を生じうる。添加されるイオン交換体の量は、必要であれば、予備試験によって確定することができる。
【0031】
使用されるイオン交換体は、水を含有してもよく、無水であってもよい。本発明において、「水含有」とは、特に含水率が1wt%またはそれ以上であることを意味する。好ましい態様において、例えば30〜70wt%の含水率を有する工業イオン交換体が使用される。イオン交換体の水分は、必要であれば、例えば金属塩の処理の前に溶媒で濯ぐかまたは乾燥させることによって、減少させることができる。これは、低含水率を有する酸化剤の溶液が必要とされる場合に、特に好都合である。
【0032】
意外にも、低含水率を有する本発明の酸化剤の溶液は、一般的な貯蔵および輸送条件下に、貯蔵安定性であることが見出された。本発明において、一般的な貯蔵および輸送条件は、例えば、輸送および貯蔵の際の周囲圧力および周囲温度である。周囲温度は、特に地理位置および季節に依存によって変化するが、一般に30℃までの温度である。しかし、50℃またはそれ以上の温度まで達する場合もある。
【0033】
従って、本発明のさらに好ましい態様において、イオン交換体での処理後の本発明酸化剤の溶液が、溶液の総重量に基づいて、0〜10wt%、好ましくは0〜5wt%、特に好ましくは0〜2wt%の含水率を有するように、充分に少ない含水率を有するイオン交換体を使用する。この目的のために、高含水率を有するイオン交換体の含水率は、酸化剤の処理の前に、例えば、無水溶媒での段階的または連続的濯ぎによるかまたは熱乾燥または真空乾燥によって、減少させることができる。濯ぎ用の溶媒として、酸化剤を溶解させる溶媒と同じ溶媒を使用するのが好ましい。しかし、他の、例えばより安価な、溶媒を使用することもできる。比較的高含水率のイオン交換体を使用した場合、イオン交換体での処理後の本発明酸化剤の含水率を、例えば乾燥および次の無水溶媒への溶解によるか、または水吸着剤、例えば分子篩の使用によって、後に減少させることもできる。
【0034】
低含水率を有する本発明酸化剤のそのような溶液は、一般的な貯蔵および輸送条件下に貯蔵安定性であり、即ち、数ヶ月間にもわたってどのような沈殿物も形成しない。一方、高含水率を有する本発明酸化剤の溶液は、時間の経過に伴って、即ち、ほんの数時間または数日後に、同じ条件下で沈殿物を形成する。しかし、後者の本発明酸化剤溶液を、10℃またはそれ以下、好ましくは6℃またはそれ以下の温度に冷却して、貯蔵安定性を増すことができる。
【0035】
従って、より多い水分を有する本発明酸化剤の溶液と比較して、低水分を有する本発明酸化剤の溶液の利点は、輸送および/または貯蔵のために別に冷却する必要がないことである。
【0036】
本発明酸化剤の溶液は、好ましくは1〜80wt%、特に好ましくは10〜60wt%、極めて好ましくは15〜50wt%の本発明酸化剤を含有する。
【0037】
金属塩としては、チオフェン、アニリンまたはピロールの酸化重合用の酸化剤として当業者に既知の全ての金属塩を使用することができる。
【0038】
好適な金属塩は、メンデレーエフの元素周期律表の主族または遷移族金属の塩であり、後者は以下に遷移金属塩とも称される。遷移金属塩が好ましい。好適な遷移金属塩は、特に、無機または有機酸、または有機基を有する無機酸と、遷移金属、例えば、鉄(III)、銅(II)、クロム(VI)、セリウム(IV)、マンガン(IV)、マンガン(VII)、ルテニウム(III)および亜鉛(II)との塩である。
【0039】
好ましい遷移金属塩は、鉄(III)塩である。鉄(III)塩は、多くの場合、低価格、入手容易、取扱い容易であり、その例は、無機酸の鉄(III)塩、例えば、ハロゲン化鉄(III)塩、(例えば、FeCl3)、または他の無機酸の鉄(III)塩、例えばFe(ClO43またはFe2(SO43、および有機酸および有機基を有する無機酸の鉄(III)塩である。
【0040】
有機基を有する無機酸の鉄(III)塩の例は、C1〜C20アルカノールの硫酸モノエステルの鉄(III)塩、例えば、硫酸ラウリルの鉄(III)塩である。
【0041】
特に好ましい遷移金属塩は、有機酸の遷移金属塩、特に、有機酸の鉄(III)塩である。
【0042】
有機酸の鉄(III)塩の例は、C1〜C20アルカンスルホン酸、例えば、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、ブタンスルホン酸または高級スルホン酸、例えばドデカンスルホン酸;脂肪族パーフルオロスルホン酸、例えば、トリフルオロメタンスルホン酸、パーフルオロブタンスルホン酸またはパーフルオロオクタンスルホン酸;脂肪族C1〜C20カルボン酸、例えば2-エチルヘキシルカルボン酸;脂肪族パーフルオロカルボン酸、例えばトリフルオロ酢酸またはパーフルオロオクタン酸;および芳香族非置換またはC1〜C20アルキル置換スルホン酸、例えば、ベンゼンスルホン酸、o-トルエンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸またはドデシルベンゼンスルホン酸;およびシクロアルカンスルホン酸、例えば樟脳スルホン酸の鉄(III)塩である。
【0043】
前記の有機酸の鉄(III)塩の任意混合物を使用することもできる。
【0044】
有機酸および有機基を有する無機酸の鉄(III)塩の使用は、それらが腐食性でないという優れた利点を有する。
【0045】
特に好ましい金属塩は、p-トルエンスルホン酸鉄(III)、o-トルエンスルホン酸鉄(III)、またはp-トルエンスルホン酸鉄(III)とo-トルエンスルホン酸鉄(III)との混合物である。
【0046】
他の好適な金属塩は、パーオキソ化合物、例えばパーオキソ二硫酸塩(過硫酸塩)、特にアンモニウムおよびアルカリ金属パーオキソ二硫酸塩、例えばパーオキソ二硫酸ナトリウムおよびカリウム、またはアルカリ金属過硼酸塩、および遷移金属酸化物、例えば酸化マグネシウム(IV)または酸化セリウム(IV)である。
【0047】
溶媒として、特に、反応条件下に不活性の下記有機溶媒が挙げられる:脂肪族アルコール、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノールおよびブタノール;脂肪族ケトン、例えばアセトンおよびメチルエチルケトン;脂肪族カルボン酸エステル、例えば酢酸エチルおよび酢酸ブチル;芳香族炭化水素、例えばトルエンおよびキシレン;脂肪族炭化水素、例えば、ヘキサン、ヘプタンおよびシクロヘキサン;塩素化炭化水素、例えばジクロロメタンおよびジクロロエタン;脂肪族ニトリル、例えばアセトニトリル;脂肪族スルホキシドおよびスルホン、例えばジメチルスルホキシドおよびスルホラン;脂肪族カルボキサミド、例えば、メチルアセトアミド、ジメチルアセトアミドおよびジメチルホルムアミド;脂肪族および芳香脂肪族エーテル、例えばジエチルエーテルおよびアニソール。水、および水と前記有機溶媒との混合物を、溶媒として使用することもできる。本発明の方法に不利に作用するイオン交換体との反応を受ける前記の選択肢からの溶媒は、イオン交換体での処理後に、先の溶媒の事前除去後かまたは該溶媒に付加して、添加される。
【0048】
1つまたはそれ以上のアルコール、水、または1つまたはそれ以上のアルコールと水との混合物を、溶媒として使用するのが好ましい。特に好ましいアルコールは、ブタノール、エタノールおよびメタノールである。
【0049】
本発明によって製造される酸化剤は、イオン交換体での処理後に、溶媒から分離することができ、必要であれば、前記の選択肢からの同じ溶媒または他の溶媒に再溶解させることができる。
【0050】
本発明はさらに、前記の新規方法によって得られる酸化剤または酸化剤溶液も提供する。この場合、本発明の方法に適用される全ての好ましい範囲は、該方法によって得られる酸化剤または酸化剤溶液にも、個々に、および任意に組み合わせて、適用される。本発明によれば、前記の新規方法によって製造された酸化剤または酸化剤溶液が好ましい。
【0051】
イオン交換体で処理されていない酸化剤と比較した場合、同じ濃度および同じ反応温度における本発明酸化剤は、導電性ポリマー製造用先駆物質と本発明酸化剤との反応性混合物における重合を、減速または遅延させる。従って、それらは、以下では、遅延酸化剤とも称する。
【0052】
必要であれば、反応性混合物における反応速度(従って遅延または減速作用)を、希釈および/または冷却によってさらに低下することもできる。
【0053】
さらに、イオン交換体で処理していない酸化剤から製造した層と比較して、より高い導電性を有する層を本発明の酸化剤から製造しうる。
【0054】
本発明酸化剤の抑制(遅延または減速)作用は、例えば、簡単な方法で単に目視的に観察することができる。抑制作用を評価するために、例えば、目に見える第一ポリマー粒子が形成される時間を測定することができる。反応性混合物におけるポリマー粒子の可視形成までの時間は、好ましくは1時間より長く、特に好ましくは10時間より長く、極めて好ましくは20時間より長い。
【0055】
従って、本発明は、本発明の方法によって得られる酸化剤の、導電性ポリマー製造用先駆物質の酸化重合における抑制酸化剤としての使用を提供する。
【0056】
本発明において、「ポリマー」という用語は、2つ以上の反復単位を有するすべての化合物を包含する。
【0057】
本発明に関して、導電性ポリマーは、酸化または還元後に導電性を示すπ共役ポリマーの種類に属するポリマーである。本発明において、導電性ポリマーは、酸化後に導電性であるπ共役ポリマーであるのが好ましい。ここで挙げうる例は、置換または非置換ポリチオフェン、ポリピロールおよびポリアニリンである。本発明の目的に好ましい導電性ポリマーは、置換または非置換ポリチオフェン、特に、置換または非置換ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)である。
【0058】
従って、導電性ポリマー製造用の先駆物質(以下では、単に先駆物質とも称する)は、対応するモノマーまたはその誘導体である。種々の先駆物質の混合物を使用することもできる。好適なモノマー先駆物質は、例えば、置換または非置換チオフェン、ピロールまたはアニリン、好ましくは置換または非置換チオフェン、特に好ましくは置換または非置換3,4-アルキレンジオキシチオフェンである。
【0059】
置換3,4-アルキレンジオキシチオフェンとして、例えば式(I)の化合物が挙げられる。
【化1】

(式中、Aは、置換または非置換C1〜C5アルキレン基、好ましくは置換または非置換C2またはC3アルキレン基であり;
Rは、直鎖または分岐鎖、置換または非置換C1〜C18アルキル基、好ましくは、直鎖または分岐鎖、置換または非置換C1〜C14アルキル基、置換または非置換C5〜C12シクロアルキル基、置換または非置換C6〜C14アリール基、置換または非置換C7〜C18アラルキル基、置換または非置換C1〜C4ヒドロキシアルキル基、好ましくは置換または非置換C1またはC2ヒドロキシアルキル基、またはヒドロキシル基であり;
xは、0〜8、好ましくは0〜6、特に好ましくは0または1の整数であり;
複数のR基がAに結合している場合、それらは同じかまたは異なっていてもよい。)
式(I)において、x個の置換基Rが、アルキレン基Aに結合することができる。
【0060】
極めて好ましいモノマー先駆物質は、置換または非置換3,4-エチレンジオキシチオフェンである。
置換された3,4-エチレンジオキシチオフェンとして、例えば、式(Ia)の化合物が挙げられる。
【化2】

(式中、Rおよびxは、式(I)で定義した通りである。)
【0061】
本発明において、これらのモノマー先駆物質の誘導体は、例えば、これらのモノマー先駆物質の二量体または三量体である。より高い分子量の誘導体、即ち、モノマー先駆物質の四量体、五量体等も、誘導体として可能である。
【0062】
置換された3,4-アルキレンジオキシチオフェンの誘導体として、例えば、式(II)の化合物が挙げられる。
【化3】

(式中、nは、2〜20、好ましくは2〜6、特に好ましくは2または3の整数であり;
A、Rおよびxは、式(I)で定義した通りである。)
【0063】
誘導体は、同じかまたは異なるモノマー単位から構成することができ、純粋形態において、または、相互の混合物および/またはモノマー先駆物質との混合物として、使用することができる。本発明において、これらの先駆物質の酸化または還元形態も、それらの重合が前記先駆の場合と同じ導電性ポリマーを形成する限りは、「先駆物質」という用語に含まれる。
【0064】
先駆物質、特にチオフェン、好ましくは3,4-アルキレンジオキシチオフェンの、可能な置換基は、式(I)のRについて記載した基である。
【0065】
本発明において、C1〜C5アルキレン基Aは、メチレン、エチレン、n-プロピレン、n-ブチレンまたはn-ペンチレンである。本発明において、C1〜C18アルキルは、直鎖または分岐鎖C1〜C18アルキル基、例えば、メチル、エチル、n-プロピルまたはイソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチルまたはtert-ブチル、n-ペンチル、1-メチルブチル、2-メチルブチル、3-メチルブチル、1-エチルプロピル、1,1-ジメチルプロピル、1,2-ジメチルプロピル、2,2-ジメチルプロピル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、2-エチルヘキシル、n-ノニル、n-デシル、n-ウンデシル、n-ドデシル、n-トリデシル、n-テトラデシル、n-ヘキサデシルまたはn-オクタデシルであり、C5〜C12シクロアルキルは、C5〜C12シクロアルキル基、例えば、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロノニルまたはシクロデシルであり、C6〜C14アリールは、C6〜C14アリール基、例えば、フェニル、o-、m-、p-トリル、2,3-、2,4-、2,5-、2,6-、3,4-、3,5-キシリル、メシチルまたはナフチルであり、C7〜C18アラルキルは、C7〜C18アラルキル基、例えばベンジルである。列記したものは、本発明を例示するものであって、網羅したものと見なすべきでない。
【0066】
R基上の可能な置換基としては、多くの有機基、例えば、アルキル、シクロアルキル、アリール、ハロゲン、ヒドロキシル、エーテル、チオエーテル、ジスルフィド、スルホキシド、スルホン酸、スルホネート、アミノ、アルデヒド、ケト、カルボン酸エステル、カーボネート、カルボキシレート、シアノ、アルキルシランおよびアルコキシシラン基ならびにカルボキサミド基が挙げられる。
【0067】
導電性ポリマー製造用のモノマー先駆物質ならびにその誘導体の製造法は、当業者に既知であり、例えば、L. Groenendaal, F. Jonas, D. Freitag, H. Pielartzik & J. R. Reynolds, Adv. Mater. 12(2000)481-494およびそれに引用されている文献に記載されている。
【0068】
工業的に容易に管理できる温度での、酸化剤および導電性ポリマー製造用先駆物質の同時適用の利点は、多くの工程段階をかなり減少させることである。それに加えて、こうすることによって、反応物質間の規定された化学量論比を設定することもできる。これは、例えば、高比率(おそらくは、ほぼ100%まで)の先駆物質をポリマーに変換することを可能にする。
【0069】
さらに、本発明によって得られる酸化剤および先駆物質の溶液または混合物は、多孔質または平滑支持体上に導電層を形成するのに特に好適である。酸化剤および先駆物質が混合物中に均一に分布された結果、均質な(即ち、多孔性をほとんどまたは全く有さないという意味において緻密な)ポリマー層が重合において形成される。これに対して、酸化剤および先駆物質の逐次適用の場合、酸化剤および先駆物質の局部不足または過剰によって、多孔質ポリマー層が形成される。従って、本発明の混合物から得られる導電層は、特に、均質であり、高導電性を有する。
【0070】
さらに、本発明の溶液または混合物は、イオン交換体で処理していない酸化剤を含有する混合物よりかなり長い時間にわたって、加工性を維持する。これによって初めて、これらの混合物または溶液を、連続的工業製造工程で使用することが可能になる。
【0071】
本発明は、導電性ポリマー製造用先駆物質、および1つまたはそれ以上の本発明酸化剤、および必要であれば1つまたはそれ以上の溶媒を含んで成る混合物であって、混合物におけるポリマーの形成が非処理酸化剤と比較して遅延されることを特徴とする混合物も提供する。
【0072】
先駆物質、本発明酸化剤および溶媒に関して先に示した好ましい範囲、定義および例は、ここでも同様に適用される。
【0073】
本発明の混合物は、均質または不均質であってよく、1つまたはそれ以上の相からなってもよい。本発明の混合物は、好ましくは溶液である。
【0074】
酸化剤および導電性ポリマー製造用先駆物質は、固体および/または液体として相互に混合することができる。しかし、1つまたはそれ以上の溶媒を混合物に添加するのが好ましい。好適な溶媒は、特に、先に記載した溶媒である。被覆される面、例えば、金属の酸化物層または支持体表面で、直接的に混合物を形成することもできる。この目的のために、酸化剤および導電性ポリマー製造用先駆物質を、好ましくは溶液形態で、連続的に、被覆される面に適用する。次に、被覆される面における、個々の成分(即ち、酸化剤および先駆物質)の混合によるか、または、おそらくは溶媒の部分または完全蒸発後に、酸化剤と先駆物質との界面における拡散によって、混合物を形成する。
【0075】
本発明の混合物は水を含有することができる。この水は、例えば、本発明の酸化剤またはその溶液を源とすることもでき、そして/または本発明の混合物に後に添加することもできる。水の添加は、本発明の混合物におけるポリマー形成の抑制(即ち、ポットライフ)を増加させることができる。低水分を有する本発明の酸化剤またはその溶液を使用する場合に、追加の水を添加するのが好ましい。本発明酸化剤の重量に基づいて、1〜100wt%、特に好ましくは1〜60wt%、極めて好ましくは1〜40wt%の水を添加するのが好ましい。
【0076】
本発明の酸化剤を使用して製造した導電性ポリマーは、非荷電でも陽イオン性でもよいが、陽イオン性であるのが好ましい。この場合「陽イオン性」という用語は、ポリマー主鎖に存在する電荷のみに関する。これらの陽電荷は、反復単位がスルホネートまたはカルボキシレート基のような陰イオン基で置換されている特定の態様において、ポリマー鎖に共有結合することができる対イオンによって、平衡させるべきである。この場合、ポリマー主鎖の陽電荷は、共有結合陰イオン基によって部分的にまたは全体的に平衡させることができる。存在する陽電荷より多い共有結合陰イオン基が存在する場合、ポリマー上に全体的陰電荷が生じるが、ポリマー主鎖における陽電荷が確定的であるので、これらはやはり、本発明において、陽イオンポリマーと見なされる。陽電荷は、その正確な数および位置を明確に定めることができないので、式に一般に示されない。しかし、陽電荷の数は少なくとも1であり、p以下である(pは、ポリマーに存在する同じかまたは異なる全反復単位の総数である)。
【0077】
陽電荷を平衡させるために((任意に)共有結合したスルホネートまたはカルボキシレートで置換され、それによって陰に荷電した基によって、この平衡が達成されていない場合)、導電性ポリマーは、対イオンとして陰イオンを必要とする。
【0078】
従って、対イオンを混合物に添加することができる。これらは、モノマーまたはポリマー陰イオンであってよく、後者は、以下、ポリアニオンと称する。
【0079】
使用されるポリアニオンは、高分子カルボン酸、例えば、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸またはポリマレイン酸の陰イオン、または高分子スルホン酸、例えば、ポリスチレンスルホン酸およびポリビニルスルホン酸の陰イオンであるのが好ましい。これらのポリカルボン酸およびポリスルホン酸は、ビニルカルボン酸およびビニルスルホン酸と、アクリル酸エステルおよびスチレンのような他の重合性モノマーとのコポリマーであってもよい。
ポリスチレンスルホン酸の陰イオンは、対イオンとして特に好ましい。
【0080】
ポリアニオンを与えるポリ酸の分子量は、好ましくは1,000〜2,000,000、特に好ましくは2,000〜500,000である。ポリ酸またはそのアルカリ金属塩、例えばポリスチレンスルホン酸およびポリアクリル酸は、商業的に入手可能であるか、または既知の方法で製造できる(例えば、Houben Weyl, Methoden der organischen Chemie、第E20巻、Makromolekulare Stoffe, Part 2(1987), p.1141 ff.参照)。
【0081】
使用されるモノマー陰イオンは、例えば、下記化合物のモノマー陰イオンである:C1〜C20アルカンスルホン酸、例えば、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、ブタンスルホン酸または高級スルホン酸、例えばドデカンスルホン酸;脂肪族パーフルオロスルホン酸、例えば、トリフルオロメタンスルホン酸、パーフルオロブタンスルホン酸またはパーフルオロオクタンスルホン酸;脂肪族C1〜C20カルボン酸、例えば2-エチルヘキシルカルボン酸;脂肪族ペルフルオロカルボン酸、例えばトリフルオロ酢酸またはパーフルオロオクタン酸;芳香族非置換またはC1〜C20アルキル置換スルホン酸、例えば、ベンゼンスルホン酸、o-トルエンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸またはドデシルベンゼンスルホン酸;およびシクロアルカンスルホン酸、例えばカンファースルホン酸;またはテトラフルオロ硼酸塩、ヘキサフルオロ燐酸塩、過塩素酸塩、ヘキサフルオロアンチモン酸塩、ヘキサフルオロ砒酸塩またはヘキサクロロアンチモン酸塩がある。
【0082】
p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸またはカンファースルホン酸の陰イオンが好ましい。
【0083】
対イオンは、例えば、アルカリ金属塩の形態において、または遊離酸として、混合物に添加される。
【0084】
使用される酸化剤の陰イオンは、どのような場合にも存在するが、対イオンとして作用するのが好ましく、それによって追加的対イオンの添加が必ずしも必要ではなくなる。
【0085】
さらに、下記のような他の成分も本発明の混合物に添加することができる:有機溶媒に可溶性の1つまたはそれ以上の有機結合剤、例えば、ポリ酢酸ビニル、ポリカーボネート、ポリビニルブチレート、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリビニルクロリド、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリエーテル、ポリエステル、シリコーン、ピロール−アクリル酸エステル、ビニルアセテート−アクリル酸エステルおよびエチレン−ビニルアセテートコポリマー、または水溶性結合剤、例えば、ポリビニルアルコール、架橋剤、例えば、ポリウレタンまたはポリウレタン分散系、ポリアクリレート、ポリオレフィン分散系、エポキシシラン、例えば3-グリシドキシプロピルトリアルコキシシラン、および添加剤、例えば表面活性物質。さらに、アルコキシシラン加水分解物、例えばテトラエトキシシランに基づく加水分解物を添加して、被膜についての耐引っ掻き性を増加させることもできる。
【0086】
導電性ポリマー製造用先駆物質の酸化重合は、理論的に、チオフェン1モルにつき酸化剤2.25当量を必要とする(例えば、J. Polym. Sc. Part A Polymer Chemistry 第26巻、p.1287(1988)参照)。しかし、より少ないまたはより多い当量数の酸化剤も使用できる。
【0087】
混合物は、混合物の総重量に基づいて、1〜30wt%の導電性ポリマー製造用先駆物質、および0〜50wt%の結合剤、架橋剤および/または添加剤を含有するのが好ましい。
【0088】
導電性ポリマー製造用先駆物質および少なくとも1つの酸化剤を含有する混合物における重合速度は、出発物質の濃度だけでなく、重合の反応定数によっても決まる。反応定数kは、下記の式によって示される温度依存性を有する:
【数1】

[式中、
νは、頻度因子であり;
Eaは、活性化エネルギー(J/mol)であり;
Rは、気体定数=8.3145JK−1mol−1であり;
Tは、温度(ケルビン)である]。
【0089】
活性化エネルギーは、反応速度に影響を及ぼす温度-および濃度-依存性パラメーターである。高活性化エネルギーは、比較的遅い反応を生じ、従って、比較的長い混合物ポットライフを与える。
【0090】
本発明は、導電性ポリマー製造用先駆物質および少なくとも1つの酸化剤を含んで成る混合物であって、先駆物質の重合が75kJ/molまたはそれ以上、好ましくは85kJ/molまたはそれ以上、特に好ましくは95kJ/molまたはそれ以上の活性化エネルギーを有することを特徴とする混合物も提供する。過度に高い活性化エネルギーは、極めて高い温度でしか重合が開始されないという欠点を有する場合があり、これは導電性ポリマーの製造に不利である。このような理由から、活性化エネルギーは、好ましくは200kJ/mol未満、特に好ましくは150kJ/mol未満、極めて好ましくは130kJ/mol未満である。
【0091】
活性化エネルギーを決定するために、出発物質(先駆物質、酸化剤)および生成物の濃度プロフィールを実験的に決定する必要がある。個々の反応副工程の反応速度を表すモデルを、種々の反応温度における濃度プロフィールに適合させた場合に、種々の温度についての反応定数が得られる。次に、反応の活性化エネルギーを、前記の式を使用して、反応定数kの温度依存性から求めることができる。
【0092】
活性化エネルギーの決定、およびこの目的のために反応速度測定を行う方法は、当業者に既知であり、例えば、F.G. Helfferichによる「Kinetics of homogeneous multistep reactions」、R.G. ComptonおよびG. Hancock編、第38巻、「Comprehensive Chemical Kinetices」シリーズ(Elsevier, Amsterdam 2001)に記載されている。例えば、実施例11は、先駆物質として3,4-エチレンジオキシチオフェンおよび酸化剤としてp-トルエンスルホン酸鉄(III)を含有する混合物における重合の活性化エネルギーを求める方法を記載している。
【0093】
本発明の混合物は、溶媒、対イオン、結合剤および/または架橋剤をさらに含有しうる。
前記の、先駆物質、対イオン、結合剤、架橋剤および溶媒についての好ましい範囲、定義および例が、ここでも同様に適用される。
【0094】
酸化剤として、有機酸または有機基を有する無機酸の金属塩が好ましい。
そのような金属塩として、チオフェン、アニリンまたはピロールの酸化重合用の酸化剤として当業者に既知の全ての金属塩を使用することができる。
【0095】
好適な金属塩は、メンデレーエフの元素周期律表の主族または遷移族金属の塩であり、後者は以下で遷移金属塩とも称する。遷移金属塩が好ましい。好適な遷移金属塩は、特に、無機または有機酸、または有機基を有する無機酸と、遷移金属、例えば、鉄(III)、銅(II)、クロム(VI)、セリウム(IV)、マンガン(IV)、マンガン(VII)、ルテニウム(III)および亜鉛(II)との塩である。
【0096】
好ましい遷移金属塩は、鉄(III)の塩である。鉄(III)の塩は、多くの場合、安価、入手容易、取扱い容易であり、その例は、無機酸の鉄(III)塩、例えば、ハロゲン化鉄(III)(例えば、FeCl3)、または他の無機酸の鉄(III)塩、例えばFe(ClO43またはFe2(SO43、および有機酸および有機基を有する無機酸の鉄(III)塩である。
【0097】
有機基を有する無機酸の鉄(III)塩の例は、C1〜C20アルカノールの硫酸モノエステルの鉄(III)塩、例えば、硫酸ラウリルの鉄(III)塩である。
【0098】
特に好ましい遷移金属塩は、有機酸の遷移金属塩、特に、有機酸の鉄(III)塩である。
【0099】
有機酸の鉄(III)塩の例は、下記の酸の鉄(III)塩である:C1〜C20アルカンスルホン酸、例えば、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、ブタンスルホン酸または高級スルホン酸、例えばドデカンスルホン酸;脂肪族パーフルオロスルホン酸、例えば、トリフルオロメタンスルホン酸、パーフルオロブタンスルホン酸またはパーフルオロオクタンスルホン酸;脂肪族C1〜C20カルボン酸、例えば2-エチルヘキシルカルボン酸;脂肪族パーフルオロカルボン酸、例えばトリフルオロ酢酸またはパーフルオロオクタン酸;および芳香族非置換またはC1〜C20アルキル置換スルホン酸、例えば、ベンゼンスルホン酸、o-トルエンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸またはドデシルベンゼンスルホン酸;およびシクロアルカンスルホン酸、例えば樟脳スルホン酸。
【0100】
前記の有機酸の鉄(III)塩の任意混合物を使用することもできる。
有機酸および有機基を有する無機酸の鉄(III)塩の使用は、それらが腐食性でないという優れた利点を有する。
【0101】
特に好ましい金属塩は、p-トルエンスルホン酸鉄(III)、o-トルエンスルホン酸鉄(III)、またはp-トルエンスルホン酸鉄(III)とo-トルエンスルホン酸鉄(III)の混合物である。
【0102】
他の好適な金属塩は、パーオキソ化合物、例えばパーオキソ二硫酸塩(過硫酸塩)、特にアンモニウムおよびアルカリ金属パーオキソ二硫酸塩、例えばパーオキソ二硫酸ナトリウムおよびカリウム、またはアルカリ金属過硼酸塩、および遷移金属酸化物、例えば酸化マグネシウム(IV)または酸化セリウム(IV)である。
【0103】
好ましい態様において、本発明の混合物は、前記の新規方法によって得られる酸化剤を含有する。
【0104】
他の好ましい態様において、本発明の混合物は、置換または非置換チオフェン、ピロール、アニリンまたはそれらの誘導体を、導電性ポリマー製造用先駆物質として含有する。特に好ましいのは、置換または非置換3,4-エチレンジオキシチオフェンまたはその誘導体であり、極めて好ましくは3,4-エチレンジオキシチオフェンである。
【0105】
他の好ましい態様において、本発明の混合物は、鉄(III)塩、好ましくはp-トルエンスルホン酸鉄(III)、o-トルエンスルホン酸鉄(III)、またはp-トルエンスルホン酸鉄(III)とo-トルエンスルホン酸鉄(III)との混合物を、酸化剤として含有する。
【0106】
他の好ましい態様において、次に、水を、酸化剤の重量に基づいて好ましくは1〜100wt%、特に好ましくは1〜60wt%、極めて好ましくは1〜40wt%の量で、本発明の混合物に添加する。
【0107】
本発明の混合物は、例えば、酸化剤(適切であれば溶液形態)および先駆物質(適切であれば溶液形態)への逐次浸漬によって、現場で、表面に形成することもでき、適切であれば各浸漬工程後に乾燥を行うことができる。次に、例えば、表面における種々の液相の界面拡散または混合によって、混合物を形成することができる。これらの混合物も、本発明の混合物と見なされる。
【0108】
本発明の混合物は、電解コンデンサーの製造に使用することができる。原理的に、電解コンデンサーは、酸化的手段、例えば電気化学的酸化によって、誘電体、即ち酸化物層で、被酸化性金属を先ず被覆することによって製造される。次に、前記の混合物の1つを使用して本発明によって、固体電解質を形成する導電性ポリマーを、酸化重合によって誘電体の表面に化学的に析出させる。さらに、黒鉛および銀のような高度に導電性の層が、電流を通す作用をする。最後に、コンデンサー本体に端子(contacts)を与え、カプセル封入(encapsulate)する。
【0109】
本発明の方法において、「被酸化性金属」は、例えば、多孔質焼結体または粗面箔の形態の、大きい表面積を有する陽極体を形成するのが好ましい。これは、以下、略して陽極体とも称する。
【0110】
導電性ポリマーを含んで成る固体電解質は、本発明によって、酸化物層で被覆された陽極体上に製造され、この製造は、前記の混合物の酸化重合によって、これらの混合物(好ましくは溶液形態)を陽極体の酸化物層に適用し、適切であれば、使用される酸化剤の活性に依存して被膜を加熱して、酸化重合を終了させることによって行われる。
【0111】
従って、本発明は、本発明の混合物(適切であれば溶液形態)を金属の酸化物層に適用し、-10℃〜250℃の温度での化学酸化によって重合させて、対応するポリマーを形成することを特徴とする電解コンデンサーの製造法も提供する。
【0112】
本発明は、さらに、導電性ポリマー製造用先駆物質および本発明によって得られる酸化剤を、適切であれば溶液形態で、金属の酸化物層に逐次的に適用し、-10℃〜250℃の温度での化学酸化によって重合させて、対応するポリマーを形成することを特徴とする電解コンデンサーの製造法も提供する。
【0113】
陽極体の酸化物層の適用は、直接的か、またはカップリング剤、例えばシラン、および/または他の機能層を使用して、行うことができる。
【0114】
導電性ポリマー製造用先駆物質の酸化的化学重合は、使用される酸化剤および所望の反応時間に依存して、一般に-10℃〜250℃、好ましくは0℃〜200℃の温度で行われる。
【0115】
本発明の混合物と同様に、付加的対イオンを溶液に添加することもできる。好適な対イオンは、本発明の混合物に関して先に記載した対イオンである。
【0116】
本発明の電解コンデンサーにおける使用に関して、特に好ましいのは、モノマーアルカンスルホン酸またはシクロアルカンスルホン酸または芳香族スルホン酸の陰イオンであり、なぜなら、これらを含有する溶液は、多孔質陽極材料によりよく浸透することができ、それによって該材料と固体電解質とのより大きい接触面積を与えるからである。
【0117】
さらに、本発明の電解コンデンサーにおける使用に関して、存在しうる、使用される酸化剤の陰イオンが、対イオンとして作用するのが好ましく、それによって付加的対イオンの添加が必ずしも必要ではなくなる。
【0118】
本発明の混合物と同様に、該溶液は、1つまたはそれ以上の結合剤、架橋剤および/または添加剤もさらに含有しうる。好適な結合剤、架橋剤および/または添加剤は、本発明の混合物に関して先に記載したものである。
【0119】
導電性ポリマーの製造に好適な先駆物質は、前記の先駆物質である。
【0120】
本発明の混合物は、既知の方法、例えば、浸漬、注入、滴下、吹付、ドクターブレードコーティング、ペインティングまたはプリンティングによって、陽極体の酸化物層に適用される。
【0121】
混合物の適用後に、使用した溶媒の除去を、室温での単純蒸発によって行うことができる。しかし、より速い工程速度を得るために、高温、例えば、20℃〜300℃、好ましくは40℃〜250℃の温度で、溶媒を除去することがより好都合である。熱による後処理は、溶媒の除去と一緒に直ちに、または被膜の製造後に時間をあけて、行うことができる。
【0122】
熱処理の時間は、被膜に使用したポリマーのタイプに依存して5秒〜数時間である。種々の温度および滞留時間を伴う温度プロフィールを、熱処理に使用することもできる。
【0123】
熱処理は、例えば、選択した温度での所望対流時間が得られる速度で、所望温度に維持した熱室に被覆陽極体を通すか、または所望温度に維持したホットプレートに被覆陽極体を所望滞留時間にわたって接触させることによって、行うことができる。さらに、熱処理は、例えば、1つの炉、またはそれぞれ種々の温度の複数の炉において、行うこともできる。
【0124】
溶媒の除去(乾燥)後、および、適切であれば熱での後処理後に、過剰の酸化剤および残留塩を、好適な溶媒、好ましくは水またはアルコールによって、被膜から洗い流すことが好都合な場合がある。残留塩は、この場合、酸化剤の還元形態の塩、および存在するあらゆる付加的塩でもある。
【0125】
陽極体のタイプに依存して、陽極体を、好ましくは洗浄後に、さらに何回か含浸して、より厚いポリマー層を得ることが好都合な場合がある。
【0126】
重合後、好ましくは洗浄の間または後に、電気化学的方法によって酸化皮膜を改質して、酸化皮膜の何らかの欠陥を修復し、それによって完成コンデンサーの漏れ電流を減少させること(改質)が好都合な場合がある。
【0127】
さらに、好ましい方法は、被酸化性金属がバルブ(valve)金属、または匹敵する特性を有する化合物であることを特徴とする。
【0128】
本発明の目的のために、バルブ金属は、その酸化物層が電流を両方向に等しく流れないようにする金属である:陽極に供給された電圧の場合、バルブ金属の酸化物層が電流の流れを遮断し、陰極に供給された電圧は、酸化物層を破壊しうる大きい電流を生じる。バルブ金属は、Be、Mg、Al、Ge、Si、Sn、Sb、Bi、Ti、Zr、Hf、V、Nb、TaおよびW、ならびにこれらの金属の少なくとも1つと他の元素との合金または化合物を包含する。最もよく知られているバルブ金属の代表例は、Al、TaおよびNbである。比較しうる特性を有する化合物は、金属様導電性を有し、被酸化性であり、その酸化物層が前記の特性を有する化合物である。例えば、NbOは、金属様導電性を有するが、バルブ金属とは一般に見なされない。しかし、酸化したNbOの層は、バルブ金属酸化物層に典型的な特性を示し、従って、NbO、およびNbOと他の元素との合金または化合物は、比較しうる特性を有するこのタイプの化合物の典型例である。
【0129】
従って、「被酸化性金属」という用語は、金属だけでなく、金属様導電性を有し被酸化性である限り、金属と他の元素との合金または化合物をも包含する。
【0130】
従って、本発明の特に好ましい方法は、バルブ金属または比較しうる特性を有する化合物が、タンタル、ニオブ、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、これらの金属の少なくとも1つと他の元素との合金または化合物、NbO、またはNbOと他の元素との合金または化合物であることを特徴とする方法である。
【0131】
本発明の方法において、「被酸化性金属」は、例えば、多孔質焼結体または粗面箔の形態の、大きい表面積を有する陽極体を形成するのが好ましい。
【0132】
しかし、本発明の方法は、電解コンデンサーを製造するのに好適であるだけでなく、他の適用のための導電層を製造するのにも好適である。
【0133】
本発明によれば、本発明混合物の酸化重合によって導電層を形成する方法によって、層が製造される。
【0134】
従って、本発明は、本発明の混合物を、好ましくは溶液形態で、支持体に適用し、この支持体上で、-10℃〜250℃の温度、好ましくは0℃〜200℃の温度で、化学的に重合させて導電性ポリマーを形成することを特徴とする電気的導電層の製造法も提供する。
【0135】
本発明は、さらに、導電性ポリマー製造用先駆物質、および本発明によって得られる酸化剤を、適切であれば溶液形態で、支持体に逐次的に適用し、この支持体上で-10℃〜250℃の温度で化学酸化によって重合させて、対応する導電性ポリマーを形成することを特徴とする導電層の製造法も提供する。
【0136】
例示的かつ好ましい反応条件、モル比、重量パーセント、溶媒、酸化剤、導電性ポリマー製造用先駆物質、および酸化重合の実施のためにこれらに関して記載される別形または詳細は、電解コンデンサーの製造に関して先に記載したものに対応する。
【0137】
平面支持体の場合、コンデンサーに関して記載した適用法だけでなく、特に、スピンコーティングによる混合物または溶液の適用も使用することができる。
【0138】
本発明の混合物と同様に、溶液も、1つまたはそれ以上の結合剤、架橋剤および/または添加剤をさらに含有することができる。好適な結合剤、架橋剤および/または添加剤は、本発明混合物に関して先に記載したものである。
【0139】
本発明混合物の場合と同様に、付加的対イオンも溶液に添加することができる。好適な対イオンは、本発明混合物に関して先に記載した対イオンであり、ポリアニオンは、ポリマー皮膜の形成において向上した皮膜形成能を与えることができ、従って好ましい。
【0140】
本発明によって製造した導電層は、電解コンデンサーの場合と同様に、重合後に、そして、適切であれば乾燥後に、好適な溶媒で洗浄して、過剰の酸化剤および残留塩を除去することができる。
【0141】
支持体は、例えば、ガラス、可とう性ガラスまたはプラスチックであってよい。
【0142】
特に好適なプラスチックは、下記のプラスチックである:ポリカーボネート、ポリエステル、例えばPETおよびPEN(それぞれ、ポリエチレンテレフタレートおよびポリエチレンナフテネート)、コポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレンまたは環状ポリオレフィンまたは環状オレフィンコポリマー(COC)、水素化スチレンポリマーまたは水素化スチレンコポリマー。
【0143】
好適なポリマー支持体は、例えばフィルム、例えば、ポリエステルフィルム、SumitomoからのPESフィルム、またはBayer AGからのポリカーボネートフィルム(Makrofol(登録商標))である。
【0144】
本発明によって製造した導電層は、支持体に残すこともでき、あるいは、支持体から剥離することもできる。
【0145】
用途に応じて、ポリチオフェン層は、1nm〜100μm、好ましくは10nm〜10μm、特に好ましくは50nm〜1μmの厚さを有する。
【0146】
本発明によって製造される層は、帯電防止被膜、透明加熱、透明または不透明電極、有機発光ダイオードにおける正孔注入または正孔伝導層、印刷回路板におけるメッキスルーホールの製造、または電解コンデンサーにおける固体電解質に使用するのに極めて好適である。有利なことに、それらは透明にすることができる。
【0147】
帯電防止被膜として、それらは、例えば、電子部品の皮膜、パッケージ、ポリマー皮膜の帯電防止仕上、およびVDU被覆に使用することができる。さらに、それらは、コンデンサーにおける陰極材料、例えば表示装置における透明電極、例えばインジウム錫酸化物電極の代替物、またはポリマー電子機器における導電体にも使用することができる。他の可能な用途は、センサー、電池、太陽電池、エレクトロクロミックウィンドウ(スマートウィンドウ)および表示装置ならびに防食における使用である。
【0148】
本発明はさらに、本発明の、または本発明の方法によって製造される、酸化剤および本発明混合物の、導電層および電解コンデンサーの製造における使用も提供する。
【0149】
下記の実施例は、限定するものと見なすべきでない。
【実施例1】
【0150】
a) 本発明酸化剤の溶液の調製
エタノール中のp-トルエンスルホン酸鉄(III)の40%濃度溶液2容量部、および弱塩基性マクロ孔質陰イオン交換体Lewatit(登録商標)MP 62(Bayer AG)1容量部を、容量計測器を使用して別々に計量した。該固体陰イオン交換体は、単純注入によって計量した(下記実施例における固体陰イオン交換体の容量部も同様に計量した)。次に、p-トルエンスルホン酸鉄(III)のエタノール溶液および陰イオン交換体の測定容量を、密閉容器中で24時間にわたってシェーカーによって混合した。次に、陰イオン交換体を濾過によって除去した。
【0151】
b) 酸化剤および先駆物質の本発明混合物の調製
3,4-エチレンジオキシチオフェン(BAYTRON(登録商標)M、H.C. Starck GmbH)1重量部、およびa)に記載のように調製した本発明酸化剤の溶液20重量部を、撹拌しながら混合し、得られた混合物を約6℃で冷蔵庫に保存した。定間隔で、本発明混合物の溶液薄膜にランプを照らし、薄膜の固体粒子を目視検査した。混合物が形成された時点と最初に粒子が見られた時点との時間間隔を、ポットライフと定義した。
ポットライフは24時間であった。
【実施例2】
【0152】
実施例1と同様の手順を使用して、種々の量の陰イオン交換体を、エタノール中のp-トルエンスルホン酸鉄(III)の40%濃度溶液に添加し、次に、3,4-エチレンジオキシチオフェンとの混合物のポットライフを測定した。
【0153】
a) 本発明酸化剤の溶液の調製
この目的のために、p-トルエンスルホン酸鉄(III)の40wt%濃度エタノール溶液と、弱塩基性マクロ孔質陰イオン交換体Lewatit(登録商標)MP 62(Bayer AG)とを、容量比9:1、3:1および2:1で、シェーカーを使用して7時間にわたってそれぞれ混合し、次に、陰イオン交換体を濾過によって除去した。
【0154】
b) 酸化剤および先駆物質の本発明混合物の調製
3,4-エチレンジオキシチオフェン(BAYTRON(登録商標)M、H.C. Starck GmbH)1重量部と、a)に記載のように調製した本発明酸化剤の溶液20重量部との混合物を製造し、各混合物を約6℃で冷蔵庫に保存した。実施例1に記載のようにポットライフを測定した。
【0155】
c) イオン交換体で処理していない酸化剤と先駆物質との、本発明によらない比較混合物の調製
比較のために、3,4-エチレンジオキシチオフェン(BAYTRON(登録商標)M、H.C. Starck GmbH)1重量部と、イオン交換体で処理していないp-トルエンスルホン酸鉄(III)の40wt%濃度エタノール溶液20重量部との混合物を調製し、これを約6℃で保存し、前記の方法によって同様に検査した(対照)。
【0156】
下記の測定値を得た:
【表1】

【0157】
本発明の混合物は、イオン交換体で処理していないp-トルエンスルホン酸鉄(III)との混合物より有意に長いポットライフを有する。
【実施例3】
【0158】
本発明混合物から製造したポリマー皮膜の導電性を測定するために、皮膜を、スピンコーティングによって混合物から形成し、次に、重合させた。
【0159】
a) 本発明酸化剤の溶液の調製
この目的のために、p-トルエンスルホン酸鉄(III)の40wt%濃度ブタノール溶液と、弱塩基性マクロ孔質陰イオン交換体Lewatit(登録商標)MP 62(Bayer AG)とを、容量比2:1で、実施例1と同様の手順を使用して混合し、混合物を64時間静置した。次に、陰イオン交換体を濾過によって除去した。
【0160】
b) 酸化剤と先駆物質との本発明混合物ならびに導電性被膜の調製
3,4-エチレンジオキシチオフェン(BAYTRON(登録商標)M、H.C. Starck GmbH)1重量部と、a)に記載のように製造した本発明酸化剤の溶液20重量部との混合物を調製し、この混合物の一部を、スピンコーター(Chemat Technology KW-4A)によって2000rpmで5秒間で顕微鏡スライドグラス(26mm×26mm×1mm)に適用した。試料を20℃で60分間乾燥し、次に、ガラス皿においてメタノールで15分間洗浄した。次に、試料を50℃で15分間乾燥し、次に、Keithley 199 Multimeterを使用して四点計測によって表面抵抗を測定した。Tencor Alpha Step 500 Surface Profilerを使用して層の厚さを測定した。比導電率を、表面抵抗および層の厚さから求めた。混合物の残りを約6℃で冷蔵庫に保存し、これのポットライフを実施例1に記載のように測定した。
【0161】
c) イオン交換体で処理していない酸化剤および先駆物質からの、本発明によらない比較混合物の調製
比較のために、3,4-エチレンジオキシチオフェン(BAYTRON(登録商標)M、H.C. Starck GmbH)1重量部と、イオン交換体で処理していないp-トルエンスルホン酸鉄(III)の40wt%濃度ブタノール溶液20重量部との混合物を調製し、これを約6℃で保存し、前記の方法によって同様に検査した(対照)。
【0162】
下記の測定値を得た:
【表2】

【0163】
本発明の混合物は、イオン交換体で処理していない酸化剤との混合物より有意に長いポットライフを有する。それと同時に、対照混合物から製造した試料と比較して、層の導電率は有意に高く、表面抵抗は有意に低い。
【実施例4】
【0164】
本発明混合物のポットライフを、塩基を添加したイオン交換体で処理していない金属塩の混合物と比較して測定した。
【0165】
a) 本発明酸化剤の溶液の調製
この目的のために、p-トルエンスルホン酸鉄(III)の40wt%濃度ブタノール溶液と、弱塩基性マクロ孔質陰イオン交換体Lewatit(登録商標)MP 62(Bayer AG)とを、容量比2:1で、実施例1と同様の手順を使用して混合し、混合物を64時間静置した。次に、陰イオン交換体を濾過によって除去した。
【0166】
b) 酸化剤と先駆物質との本発明混合物の調製
3,4-エチレンジオキシチオフェン(BAYTRON(登録商標)M、H.C. Starck GmbH)1重量部と、a)に記載のように製造した本発明酸化剤の溶液20重量部との混合物を調製した。混合物を約6℃で冷蔵庫に保存し、これのポットライフを実施例1に記載のように測定した。
【0167】
c) イオン交換体で処理していない酸化剤および先駆物質からの、本発明によらない比較混合物の調製
比較のために、3,4-エチレンジオキシチオフェン(BAYTRON(登録商標)M、H.C. Starck GmbH)1重量部、およびp-トルエンスルホン酸鉄(III)の40wt%濃度ブタノール溶液20重量部、およびイミダゾール0.75重量部の、イオン交換体で処理していない混合物を調製し、これを約6℃で保存し、前記の方法によって同様に検査した(対照)。
【0168】
下記のポットライフを得た:
【表3】

【0169】
混合物をガラス板に適用し、60℃で乾燥することによって、前記2つの混合物からポリマー皮膜を形成することができた。しかし、イミダゾールをより多く添加した対照混合物の場合、ポリマー皮膜が150℃の温度でも形成されなかった。
【0170】
本発明の混合物は、イオン交換体で処理せず、塩基イミダゾールを添加した酸化剤との混合物と比較して、有意に長いポットライフを有する。
【実施例5】
【0171】
異なる方法で調製した本発明の2つの酸化剤を含有する本発明混合物のポットライフを測定した。
【0172】
a) 本発明酸化剤の2つの溶液の調製
この目的のために、p-トルエンスルホン酸鉄(III)の40wt%濃度エタノール溶液と、弱塩基性マクロ孔質陰イオン交換体Lewatit(登録商標)MP 62(Bayer AG)とを、容量比1:1で、実施例1と同様の手順を使用してシェーカーによって7時間混合し、次に、陰イオン交換体を濾過によって除去した(溶液1)。
【0173】
p-トルエンスルホン酸鉄(III)の40wt%濃度エタノール溶液と、弱塩基性マクロ孔質陰イオン交換体Lewatit(登録商標)MP 62(Bayer AG)とを、容量比2:1で、シェーカーによって7時間混合し、次に、陰イオン交換体を濾過によって除去することによって、第二溶液を同様に調製した(溶液2)。
【0174】
b) 酸化剤と先駆物質との本発明混合物の調製
3,4-エチレンジオキシチオフェン(BAYTRON(登録商標)M、H.C. Starck GmbH)1重量部、および溶液1(10重量部)、および溶液2(10重量部)の本発明混合物を調製し、混合物を約6℃で冷蔵庫に保存した。ポットライフを実施例1に記載したのと同様の方法で測定した。
【0175】
ポットライフは96時間であった:
【表4】

【0176】
この実施例が示すように、異なる方法で製造した本発明酸化剤を混合することによって、ポットライフを調節することもできる。
【実施例6】
【0177】
低温で保存した場合の本発明混合物のポットライフを測定した。
【0178】
a) 本発明酸化剤の溶液の調製
この目的のために、p-トルエンスルホン酸鉄(III)の40wt%濃度エタノール溶液と、弱塩基性マクロ孔質陰イオン交換体Lewatit(登録商標)MP 62(Bayer AG)とを、容量比2:1で、実施例1と同様の手順を使用してシェーカーによって7時間混合し、次に、陰イオン交換体を濾過によって除去した。
【0179】
b) 酸化剤と先駆物質との本発明混合物の調製
3,4-エチレンジオキシチオフェン(BAYTRON(登録商標)M、H.C. Starck GmbH)1重量部と、a)に記載のように調製した本発明酸化剤の溶液20重量部との混合物を調製し、混合物を約-15℃で冷凍庫に保存した。混合物はこの温度で液体のままであった。ポットライフを実施例1に記載のように測定した。
【0180】
c) イオン交換体で処理していない酸化剤および先駆物質からの、本発明によらない比較混合物の調製
比較のために、3,4-エチレンジオキシチオフェン(BAYTRON(登録商標)M、H.C. Starck GmbH)1重量部と、イオン交換体で処理していないp-トルエンスルホン酸鉄(III)の40wt%濃度エタノール溶液20重量部との混合物を調製し、これを-15℃で保存し、前記の方法によって同様に検査した(対照)。
【0181】
下記の測定値を得た(比較のために、実施例2の6℃での保存についての対応するポットライフも示す):
【表5】

【0182】
異なる保存温度でのポットライフの比較が示しているように、本発明および対照の混合物の両方において、低温に冷却することによってポットライフを有意に増加させることができる。しかし、本発明の混合物は、低温においても、イオン交換体で処理していないp-トルエンスルホン酸鉄(III)を含有する混合物よりかなり長いポットライフを有する。
【実施例7】
【0183】
異なる陰イオン交換体を使用して調製した本発明酸化剤を含有する本発明混合物のポットライフを測定した。
a) 本発明酸化剤の溶液の調製
【0184】
この目的のために、p-トルエンスルホン酸鉄(III)の40wt%濃度ブタノール溶液と、弱塩基性マクロ孔質陰イオン交換体Lewatit(登録商標)MP 62(Bayer AG)とを、容量比2:1で、実施例1と同様の手順を使用して混合し、混合物を24時間静置した。次に、陰イオン交換体を濾過によって除去した。p-トルエンスルホン酸鉄(III)の溶液を、中度塩基性マクロ孔質陰イオン交換体Lewatit(登録商標)MP 64(Bayer AG)、または強塩基性マクロ孔質陰イオン交換体Lewatit(登録商標)MP 600 WS(Bayer AG)で処理することによって、本発明酸化剤を同様に調製した。
【0185】
b) 酸化剤と先駆物質との本発明混合物の調製
3,4-エチレンジオキシチオフェン(BAYTRON(登録商標)M、H.C. Starck GmbH)1重量部と、本発明酸化剤の溶液20重量部との混合物を、a)に記載のように調製し、6℃で冷蔵庫に保存した。実施例1に記載したのと同様の方法でポットライフを測定した。
【0186】
同様の手順によって、中度塩基性マクロ孔質陰イオン交換体Lewatit(登録商標)MP 64(Bayer AG)、または強塩基性マクロ孔質陰イオン交換体Lewatit(登録商標)MP 600 WS(Bayer AG)を使用して、a)に記載したのと同様に処理することによって製造した溶液との混合物を調製し、6℃で保存し、試料を同様に検査した。
【0187】
c) イオン交換体で処理していない酸化剤および先駆物質からの、本発明によらない比較混合物の調製
比較のために、3,4-エチレンジオキシチオフェン(BAYTRON(登録商標)M、H.C. Starck GmbH)1重量部と、イオン交換体で処理していないp-トルエンスルホン酸鉄(III)の40wt%濃度ブタノール溶液20重量部との混合物を調製し、6℃で保存し、前記の方法によって同様に検査した(対照)。
【0188】
下記の測定値を得た:
【表6】

【実施例8】
【0189】
低水分および高貯蔵安定性を有する本発明酸化剤の溶液を調製した。
【0190】
a) 低水分を有する本発明酸化剤の溶液の調製
この目的のために、弱塩基性マクロ孔質陰イオン交換体Lewatit(登録商標)MP 62(Bayer AG)1Lを、無水エタノール2Lと混合し、6時間撹拌した。次に、イオン交換樹脂を篩によって分離し、さらに3回、前記のように状態調節した。
【0191】
次に、p-トルエンスルホン酸鉄(III)の40wt%濃度エタノール溶液と、弱塩基性マクロ孔質陰イオン交換体Lewatit(登録商標)MP 62(Bayer AG)とを、容量比2:1(エタノールで処理する前のイオン交換体の容量に基づく)で、実施例1と同様の手順を使用してシェーカーによって7時間混合し、次に、陰イオン交換体を濾過によって除去した。
【0192】
b) イオン交換体の前処理を行わない本発明酸化剤の溶液の調製
p-トルエンスルホン酸鉄(III)の40wt%濃度エタノール溶液と、弱塩基性マクロ孔質陰イオン交換体Lewatit(登録商標)MP 62(Bayer AG)とを、容量比2:1で、実施例1と同様の手順を使用してシェーカーによって7時間混合し、次に、陰イオン交換体を濾過によって除去した。
【0193】
a)に記載のように製造した本発明酸化剤の溶液は、溶液の総重量に基づいて1.1wt%の水分を有し、溶液は、室温(20℃)で3ヶ月間保存した後に沈殿物を形成しなかった。
【0194】
b)に記載のように製造した本発明酸化剤の溶液は、溶液の総重量に基づいて12.8wt%の水分を有していた。溶液は、室温で1週間保存した後に沈殿物を形成したが、溶液を約6℃で冷蔵庫に保存した場合は、2ヶ月後に沈殿物を形成した。
【実施例9】
【0195】
低水分を有する本発明酸化剤を含有する本発明混合物のポットライフを測定した。
【0196】
a) 酸化剤と先駆物質との本発明混合物の調製
3,4-エチレンジオキシチオフェン(BAYTRON(登録商標)M、H.C. Starck GmbH)1重量部と、実施例8a)に記載のように製造した本発明酸化剤の溶液20重量部との混合物を調製した。混合物を約6℃で冷蔵庫に保存し、実施例1に記載のように該混合物のポットライフを測定した。
【0197】
b) 水を添加した、酸化剤と先駆物質との本発明混合物の調製
3,4-エチレンジオキシチオフェン(BAYTRON(登録商標)M、H.C. Starck GmbH)1重量部、および実施例8a)に記載のように調製した本発明酸化剤の溶液20重量部、および水2重量部の混合物を調製した。混合物を約6℃で冷蔵庫に保存し、実施例1に記載のように該混合物のポットライフを測定した。
【0198】
a)の本発明混合物のポットライフは2.5時間であり、b)の本発明混合物のポットライフは30時間であった。
【実施例10】
【0199】
本発明酸化剤を使用したコンデンサーの調製
比キャパシタンス50,000μFV/gを有するタンタル粉末を圧縮してペレットを形成し、焼結して、直径2.5mmおよび高さ1.9mmの多孔質円筒体を得た。ペレット(陽極)を燐酸電解質において30Vで陽極化した。
【0200】
p-トルエンスルホン酸鉄(III)の40wt%濃度エタノール溶液と、弱塩基性マクロ孔質陰イオン交換体Lewatit(登録商標)MP 62(Bayer AG)とを、容量比2:1で、実施例1と同様の手順を使用してシェーカーによって7時間混合し、次に、陰イオン交換体を濾過によって除去した。
【0201】
3,4-エチレンジオキシチオフェン(BAYTRON(登録商標)M、H.C. Starck GmbH)1重量部と、a)に記載のように製造した本発明酸化剤の溶液20重量部との混合物を調製した。
【0202】
本発明の混合物を、陽極ペレットの含浸に使用した。陽極ペレットをこの混合物に浸し、次に、室温で15分間、50℃で15分間、および150℃で15分間乾燥した。熱処理後、ペレット中の混合物が重合していた。次に、ペレットをメタノール中で30分間洗浄した。前記の浸漬および洗浄をさらに2回行った。最後に、ペレットを黒鉛層および銀層で被覆した。
【0203】
混合物を24時間老化させた(この間、6℃で保存した)後に、同じ本発明混合物を使用して、新しいペレットについて同じ手順を再度実施した。
【0204】
本発明混合物を72時間老化させた(この間、6℃で保存した)後に、混合物を濾過し、新しいペレットについて該手順を実施した。
【0205】
コンデンサーは下記の電気特性を有していた:
【表7】

【0206】
キャパシタンスは120Hzで測定し、等価直列抵抗はLCR計測器(Agilent 4284A)によって100kHzで測定した。電気的性質における有意な差異は見出されない。
【実施例11】
【0207】
本発明による混合物および本発明によらない混合物の、活性化エネルギーの測定
3,4-エチレンジオキシチオフェン(先駆物質)、およびp-トルエンスルホン酸鉄(III)(酸化剤)を含有する混合物における重合の活性化エネルギー測定法を、以下に記載する。非処理p-トルエンスルホン酸鉄(III)を含有する混合物と、本発明によってイオン交換体で処理したp-トルエンスルホン酸鉄(III)を含有する混合物との比較を行った。
【0208】
p-トルエンスルホン酸鉄(III)を使用した3,4-エチレンジオキシチオフェンの重合の反応速度モデル
3,4-エチレンジオキシチオフェン(EDT)とp-トルエンスルホン酸鉄(III)との反応を、反応性混合物溶液中のEDT、Fe(III)およびFe(II)の濃度によって追跡した。生成物ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)は不溶性であり、溶液から沈殿するので、その濃度を直接的に監視することができない。
【0209】
時間の経過に伴う濃度変化を測定するために、EDTと、p-トルエンスルホン酸Fe(III)のアルコール溶液との反応性混合物を形成し、混合物を、撹拌され温度調節される密閉容器に保存した。試料を一定の間隔で採取し、EDT、Fe(III)およびFe(II)の含有量を該試料ついて測定した。EDT濃度は、HPLC(高性能液体クロマトグラフィー)によって測定した。鉄(II)および鉄(III)の濃度は、測光法によって測定した。
【0210】
導電性ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)を生成するための、p-トルエンスルホン酸鉄(III)によるEDTの酸化重合の反応式を、図1に示す。
【0211】
図1: 導電性ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)を生成するための、p-トルエンスルホン酸鉄(III)によるEDTの酸化重合の反応式。
【0212】
この反応は、下記の副工程によって示すことができる:
・モノマーの酸化
【数2】

【化4】

k01は、酸化において遊離された酸によって生じる反応の加速を表す。
・末端基の酸化
【数3】

【化5】

k11は、酸化において遊離された酸によって生じる反応の加速を示す。
・遊離基(陽イオン)連結および脱プロトンによる連鎖生長反応
【数4】

【化6】

・ポリマーの酸化
【数5】

【数6】

【化7】

【0213】
30℃において酸化ポリ-3,4-エチレンジオキシチオフェンを形成するための、p-トルエンスルホン酸鉄(III)によるEDTの酸化重合について、実験的に求めた反応定数を下記の表に示す。
【表8】

【0214】
律速反応段階はモノマーの酸化(k0)である。
【0215】
種々の出発濃度に関する、時間の経過に伴うEDT、Fe(III)およびFe(II)の濃度変化は、前記表の定数によって極めてよく示すことができる。図2は、実験曲線とモデルに基づくシミュレーションとの比較を例として示す。
【0216】
図2: 30℃におけるEDT(■四角)、Fe(III)(◆菱形)およびFe(II)(▲三角)についての濃度曲線の実験データと、モデルに基づくシミュレーション(実線)との比較。
非処理p-トルエンスルホン酸鉄(III)を使用した、3,4-エチレンジオキシチオフェンの重合についての、活性化エネルギーの測定
【0217】
活性化エネルギーを測定するために、時間の経過に伴う濃度変化を種々の温度(10℃、20℃、30℃、40℃、50℃)で測定し、律速反応定数k0を、各場合にデータに適合させた。アレニウスプロット(図3参照)から、活性化エネルギーは67kJ/molであり、頻度因子は5.2×1010l3mol−3h−1であった。
【0218】
図3: 速度定数k0のアレニウスプロット(◆記号:実験データ、実線:シミュレーション)。
本発明混合物における、3,4-エチレンジオキシチオフェンの重合についての、活性化エネルギーの測定
【0219】
3,4-エチレンジオキシチオフェン(BAYTRON(登録商標)M、H.C. Starck GmbH)6.3重量部、実施例8a)に記載のように製造した本発明酸化剤の溶液85.2重量部、および水8.5重量部の本発明混合物を調製した。
【0220】
本発明酸化剤による重合の反応速度は、非処理酸化剤を使用した対応する反応より有意に遅い。図4は、非処理酸化剤の反応定数を使用したシミュレーションと比較した、本発明混合物におけるEDTの濃度曲線を示す。
【0221】
図4: 非処理酸化剤のモデルから生じた定数を使用したシミュレーション(実線)と比較した、20℃における本発明混合物中でのEDTの重合について実験的に求めたモマー濃度曲線(◆記号)。
【0222】
該モデルを実験データに適合させるために、酸化工程の速度パラメーターk0、k01、k1、k11を、同じファクター(factor)で基準化(scaled)した。このようにして、計算を酸化工程のより低い反応速度で行った。他の全てのパラメーターは変えなかった。図5は、このようにして実験濃度曲線をモデルによって極めてよく表しうることを示す。
【0223】
図5: 20℃における、EDT、Fe(III)およびFe(II)(記号)の実験濃度曲線および関連シミュレーション(実線)。
【0224】
活性化エネルギーを求めるために、濃度曲線を種々の温度(20℃、30℃、45℃)で求め、律速反応定数k0を各場合に適合させた。アレニウスプロットを図6に示す。これは、活性エネルギー100kJ/molを示す。頻度因子は2.4・1014l1mol−1h−1である。
【0225】
図6: モノマーの酸化についてのアレニウスプロット(記号:実験値、実線:シミュレーション)。
【0226】
より高い活性エネルギーにより、重合は、本発明混合物において、非処理酸化剤を含有する混合物におけるより有意に低い。
本件出願は特願平2006−504776をもとの出願とする分割出願であって、当該もとの出願に係る発明は、少なくとも以下の好ましい態様を包含する。
〔1〕 導電性ポリマー製造用の酸化剤を製造する方法であって、有機酸、または有機基を有する無機酸の金属塩をイオン交換体で処理することを特徴とする方法。
〔2〕 使用されるイオン交換体が陰イオン交換体であることを特徴とする上記〔1〕に記載の酸化剤製造法。
〔3〕 使用されるイオン交換体が弱塩基性陰イオン交換体であることを特徴とする上記〔1〕または〔2〕に記載の酸化剤製造法。
〔4〕 金属塩が遷移金属塩であることを特徴とする上記〔1〕〜〔3〕のいずれか1つに記載の酸化剤製造法。
〔5〕 遷移金属塩が鉄(III)塩であることを特徴とする上記〔4〕に記載の酸化剤製造法。
〔6〕 有機酸の基がスルホン酸の基であることを特徴とする上記〔1〕〜〔5〕のいずれか1つに記載の酸化剤製造法。
〔7〕 遷移金属塩が、p-トルエンスルホン酸Fe(III)、o-トルエンスルホン酸Fe(III)、またはp-トルエンスルホン酸Fe(III)とo-トルエンスルホン酸Fe(III)との混合物であることを特徴とする上記〔1〕〜〔6〕のいずれか1つに記載の酸化剤製造法。
〔8〕 方法を1つまたはそれ以上の溶媒の存在下に行うことを特徴とする上記〔1〕〜〔7〕のいずれか1つに記載の酸化剤製造法。
〔9〕 使用される溶媒が、1つまたはそれ以上のアルコール、水、または1つまたはそれ以上のアルコールと水との混合物であることを特徴とする上記〔1〕〜〔8〕のいずれか1つに記載の酸化剤製造法。
〔10〕 アルコールがブタノール、エタノールまたはメタノールであることを特徴とする上記〔1〕〜〔9〕のいずれか1つに記載の酸化剤製造法。
〔11〕 イオン交換体での処理後に酸化剤を溶媒から分離し、所望により、同じ溶媒または別の溶媒に再溶解することを特徴とする上記〔1〕〜〔10〕のいずれか1つに記載の酸化剤製造法。
〔12〕 上記〔1〕〜〔11〕のいずれか1つに記載の方法によって得られる酸化剤。
〔13〕 溶液状態で存在し、該溶液は、溶液の総重量に基づいて0〜10wt%の水分を有することを特徴とする上記〔12〕に記載の酸化剤。
〔14〕 導電性ポリマー製造用先駆物質の酸化重合における遅延酸化剤としての、上記〔12〕または〔13〕に記載の酸化剤の使用。
〔15〕 導電性ポリマー製造用先駆物質と、上記〔12〕または〔13〕に記載の1つまたはそれ以上の酸化剤と、所望により、1つまたはそれ以上の溶媒とを含んで成る混合物であって、該混合物中における前記ポリマーの形成が遅延されることを特徴とする混合物。
〔16〕 置換または非置換3,4-エチレンジオキシチオフェンまたはその誘導体を、導電性ポリマー製造用先駆物質として使用することを特徴とする上記〔15〕に記載の混合物。
〔17〕 水を含有することを特徴とする上記〔15〕または〔16〕に記載の混合物。
〔18〕 対イオンを含有することを特徴とする上記〔15〕〜〔17〕のいずれか1つに記載の混合物。
〔19〕 1つまたはそれ以上の結合剤、架橋剤および/または添加剤を含有することを特徴とする上記〔15〕〜〔18〕のいずれか1つに記載の混合物。
〔20〕 導電性ポリマー製造用先駆物質と、少なくとも1つの酸化剤とを含んで成る混合物であって、該先駆物質の重合が75kJ/molまたはそれ以上の活性化エネルギーを有することを特徴とする混合物。
〔21〕 置換または非置換3,4-エチレンジオキシチオフェンまたはその誘導体を、導電性ポリマー製造用先駆物質として含有することを特徴とする上記〔20〕に記載の混合物。
〔22〕 遷移金属塩、好ましくは鉄(III)塩を酸化剤として含有することを特徴とする上記〔20〕または〔21〕に記載の混合物。
〔23〕 電解コンデンサーの製造法であって、上記〔15〕〜〔22〕のいずれか1つに記載の混合物を、適切であれば溶液形態で、金属の酸化物層に適用し、-10℃〜250℃の温度で化学酸化によって重合させて、対応するポリマーを形成することを特徴とする方法。
〔24〕 電解コンデンサーの製造法であって、導電性ポリマー製造用先駆物質と、上記〔12〕または〔13〕に記載の酸化剤とを、適切であれば溶液形態で、金属の酸化物層に逐次的に適用し、-10℃〜250℃の温度で化学酸化によって重合させて、対応するポリマーを形成することを特徴とする方法。
〔25〕 被酸化性金属が、バルブ金属または匹敵する特性を有する化合物であることを特徴とする上記〔23〕または〔24〕に記載の方法。
〔26〕 バルブ金属または匹敵する特性を有する化合物が、タンタル、ニオブ、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、これらの金属の少なくとも1つと他の元素との合金または化合物、NbO、またはNbOと他の元素との合金または化合物であることを特徴とする上記〔23〕〜〔25〕のいずれか1つに記載の方法。
〔27〕 導電層の製造法であって、上記〔15〕〜〔22〕のいずれか1つに記載の混合物を、適切であれば溶液形態で、支持体に適用し、-10℃〜250℃の温度で化学酸化によってこの支持体上で重合させて、対応する導電性ポリマーを形成することを特徴とする方法。
〔28〕 導電層の製造法であって、導電性ポリマー製造用先駆物質と、上記〔12〕または〔13〕に記載の酸化剤とを、適切であれば溶液形態で、支持体に逐次的に適用し、-10℃〜250℃の温度で化学酸化によってこの支持体上で重合させて、対応する導電性ポリマーを形成することを特徴とする方法。
〔29〕 対イオンを溶液に添加することを特徴とする上記〔23〕または〔28〕に記載の方法。
〔30〕 置換または非置換チオフェン、ピロール、アニリンまたはそれらの誘導体を、導電性ポリマー製造用先駆物質として使用することを特徴とする上記〔23〕〜〔29〕のいずれか1つに記載の方法。
〔31〕 使用される置換または非置換チオフェンまたはその誘導体が、置換または非置換アルキレン3,4-ジオキシチオフェンまたはその誘導体であることを特徴とする上記〔30〕に記載の方法。
〔32〕 使用される置換または非置換アルキレン-3,4-ジオキシチオフェンが、3,4-エチレンジオキシチオフェンである上記〔31〕に記載の方法。
〔33〕 溶液が、1つまたはそれ以上の結合剤、架橋剤および/または添加剤をさらに含有することを特徴とする上記〔23〕〜〔32〕のいずれか1つに記載の方法。
〔34〕 対イオンが、モノマーあるいはポリマーアルカンスルホン酸、シクロアルカンスルホン酸、または芳香族スルホン酸の陰イオンであることを特徴とする上記〔23〕〜〔33〕のいずれか1つに記載の方法。
〔35〕 重合の後、および適切であれば乾燥した後に、ポリマーを含んで成る層(電解質層)を、好適な溶媒で洗浄して過剰の酸化剤および残留塩を除去することを特徴とする上記〔23〕〜〔34〕のいずれか1つに記載の方法。
〔36〕 導電層または電解コンデンサーの製造における、上記〔12〕または〔13〕に記載の酸化剤の使用。
〔37〕 導電層または電解コンデンサーの製造における、上記〔15〕〜〔22〕のいずれか1つに記載の混合物の使用。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性化エネルギーが75kJ/mol以上である導電性ポリマー製造用先駆物質と、少なくとも1つの酸化剤とを含んでなる混合物。
【請求項2】
前記先駆物質は、置換または非置換3,4-エチレンジオキシチオフェンまたはその誘導体を含んでなる、請求項1に記載の混合物。
【請求項3】
酸化剤として遷移金属塩をさらに含んでなる、請求項1に記載の混合物。
【請求項4】
電解コンデンサーの製造法であって、請求項1に記載の混合物を、必要に応じて溶液形態で、金属の酸化物層に適用し、-10℃〜250℃の温度で化学酸化によって重合させて、対応するポリマーを形成する、前記方法。
【請求項5】
被酸化性金属は、バルブ金属または匹敵する特性を有する化合物である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
バルブ金属または匹敵する特性を有する化合物は、タンタル、ニオブ、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、これらの金属の少なくとも1つと他の元素との合金または化合物、およびNbO、またはNbOと他の元素との合金または化合物からなる群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
導電層の製造法であって、請求項1に記載の混合物を、必要に応じて溶液形態で、支持体に適用し、-10℃〜250℃の温度で化学酸化によって該支持体上で重合させて、対応する導電性ポリマーを形成することを特徴とする方法。
【請求項8】
対イオンを溶液に添加する、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
前記先駆物質は、置換または非置換チオフェン、ピロール、アニリンおよびこれらの誘導体からなる群から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項10】
用いる置換または非置換チオフェンまたはその誘導体は、置換または非置換アルキレン3,4-ジオキシチオフェンまたはその誘導体である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
置換または非置換アルキレン-3,4-ジオキシチオフェンは、3,4-エチレンジオキシチオフェンである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
溶液は、1以上の結合剤、架橋剤および/または添加剤をさらに含有する、請求項4に記載の方法。
【請求項13】
対イオンは、モノマーあるいはポリマーアルカンスルホン酸、シクロアルカンスルホン酸、または芳香族スルホン酸の陰イオンである、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
重合後、および必要に応じて乾燥後に、ポリマーを含んで成る層(電解質層)を、適当な溶媒で洗浄して過剰の酸化剤および残留塩を除去する、請求項4に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−209342(P2010−209342A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−102359(P2010−102359)
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【分割の表示】特願2006−504776(P2006−504776)の分割
【原出願日】平成16年3月20日(2004.3.20)
【出願人】(307046626)ハー・ツェー・シュタルク・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (6)
【氏名又は名称原語表記】H.C. Starck GmbH
【Fターム(参考)】