説明

導電性又は磁性薄膜を有するシート状被加熱物のマイクロ波による加熱方法及び装置

【課題】、導電性薄膜あるいは磁性薄膜を含むシート状被加熱物を高効率でかつ均一に加熱する新しい手段を提供すること。
【解決手段】 TM110モードの電磁界を発生する空胴共振器4内に、導電性薄膜あるいは磁性薄膜を含むシート状被加熱物1を挿入し、導電性薄膜あるいは磁性薄膜内に発生する電界と電流を利用して、これを直接又は間接的に加熱する。薄膜の表面抵抗の大きさに応じて空胴共振器4内への挿入位置を変更できるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、マイクロ波を照射することにより、シート状の被加熱物を加熱する方法と装置に係り、特に、基板上に導電性薄膜あるいは磁性薄膜を重ねた複合多層膜シートをマイクロ波により高効率で、均一に加熱できる加熱方法とその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ波は、電子レンジを始め、産業用加熱炉の熱源として広く利用されている。マイクロ波は、物質に含まれる水を加熱するだけでなく、極性を持った誘電物質に作用してこれを直接、かつ選択的に加熱できるので、従来の加熱手段のように外部から試料を加熱する装置に比較して、短時間で効率よく加熱できる特徴を持っている。
近年、シート状被加熱物に対しマイクロ波を用いて選択的かつ均一に加熱したいという要求が、太陽電池、光触媒、シート状医薬品、印刷、電子デバイス等の分野で高まりつつある。その要求は、単なる乾燥から、熱処理、活性化など、多岐に及んでいる。このような要求の流れの中で、マイクロ波は単なる誘電体加熱の域を越え、導電性薄膜、磁性薄膜をも含めた要求に応える必要に迫られている。
通常、マイクロ波は金属表面で反射し、金属内には進入できないとされている。しかしながら、金属の厚さがnmやサブミクロンオーダになると電磁波が透過するので、特に薄膜の世界で、従来対象外とされたマイクロ波の利用が開かれようとしている。
マイクロ波によるシート状物の加熱装置として、かつて導波管を何度も折り曲げて構成した折り曲げ線路型の装置が開発され、さらに、電界を強くする目的でリング共振器内にこの折れ曲げ線路を取り込む案などが考案されたが、電界が弱いこと、効率が低いことなどの問題があって、限られた範囲でしか利用されなかった。
直方体共振器を用いTM110モードの共振をとると、導波管型に比較してきわめて強い均一な電磁界を発生できる。この装置を用いて薬剤乾燥、印刷物乾燥等が検討され、今日に至っているが、先述のように、シート加熱は単なる誘電体加熱の範囲を超え、導電性薄膜などの加熱に応え得る見通しがあって、加熱試験が進められる状況にある。
米国では粉末冶金に関連して、純磁界、純電界によるマイクロ波処理が提案されている(特許文献3)。これは標準導波管の両端を短絡した系にマイクロ波を結合させTE103を共振させて、この共振器内に両端を除いて電界がゼロで磁界が最大になる点2ヶ所と、電界が最大で磁界がゼロになる点1ヶ所を、それぞれ等間隔で作り、電界が最大になる点と磁界が最大になる点に被加熱物を挿入して特徴のある加熱成果を得ようとするものである。しかしながら、マイクロ波加熱は純電界、純磁界による加熱に限らず、電界と磁界が適当な割合で存在する空間で行われるのが普通で、特許文献3のような提案は学問上、興味のある比較ではあるが、実際的な利用とは言えない。また、この文献で説明されているTE103モード以外にもいろいろな共振があり、その共振で純電界、純磁界を生じる位置があるのはごく一般的に知られた事象である。マイクロ波加熱したい対象に対し最適なモードを適切に利用することは、現状、十分に開拓されていない。したがって、そのような観点に立って、対象物に合う加熱装置を開発し、また加熱方法を考察することは、均一加熱、高効率加熱上、必要でかつ急務である。
【特許文献1】米国特許第6,365,885号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この発明は、上記のような背景と要求のもとになされたものであり、マイクロ波によってシート状被加熱物、特に導電性又は磁性の薄膜を含むシートを高効率で均一に加熱する新しい手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
請求項1に記載された発明においては、上記課題を解決するため、直方体状の空胴共振器内にTM110モードの電界を発生させ、導電性薄膜又は磁性薄膜を含むシート状被加熱物を、この空胴共振器内に通過させ、高効率でほぼ均一な加熱を行う方法を提供する。
【0005】
請求2,3,4に記載された発明は、請求項1に記載のシート状被加熱物の加熱方法を実施するためのマイクロ波加熱装置を提供する。請求項3,4に記載の発明は、特にシートの挿入口を任意に選択できるマイクロ波加熱装置を提供する。
【発明の効果】
【0006】
この発明においては、導電性又は磁性薄膜を有するシート状被加熱物を高効率で均一に加熱できるようにした。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
図面を参照してこの発明の一実施形態を説明する。図1はこの発明における加熱対象であるシート、即ち、基板上に導電性又は磁性薄膜を形成したシートの基本構造を示す簡略化した部分断面図、図2は加熱対象であるシートを空胴共振器に通過させる状態を示したマイクロ波加熱装置の斜視図、図3は加熱対象であるシートを装置に挿入、通過させる位置を任意に選択するための開口を備えたマイクロ波加熱装置の斜視図である。
【0008】
シート1は、誘電体基板2の上に1層又は複数層の薄膜が形成され、うち少なくとも1層が導電性又は磁性の薄膜3であるような形態をとる。図1には、代表的に、シート1が、誘電体基板2と、その上に形成された1層の導電性薄膜3からなるもっとも単純な例を示す。導電性薄膜3は、マイクロ波加熱によって溶融することにより導電性薄膜の形態となる層状のものを含むほか、紫外線等の照射によって導電性を持つ薄膜を含む。例えば、誘電体基板2としてのガラスや樹脂シートの上に、導電性薄膜をスパッタリングや蒸着等の手段でコーティングしたもの、あるいは、導電性物質(通常微粉末)を溶剤等の補助材で溶いて塗工したものである。この薄膜3が空胴共振器4内でマイクロ波の照射を受けて加熱される。なお、以上の説明で基板を誘電体としたが、極端な場合として基板自身が導電性を持つ場合がある。
空胴共振器4は、直方体空胴からなり、直交するx,y,z軸方向にそれぞれ互いに平行に対向する3対6つの導電体側壁4a・4b,4c・4d,4e,4fを持つ。側壁4cの中央にマイクロ波発振器(図示せず)につながる導波管5が結合され、空胴共振器4内にマイクロ波が導入される。側壁4a,4bの対向位置に、側壁4cと平行に伸びる細長い開口6が設けられる。シート1は、開口6を通して空胴共振器4内を通過する。
シート1の導電性薄膜3の表面抵抗が大きいとき、例えば数百Ω/□ないしkΩ/□のときは、空胴内の比較的電界の強いところに挿入され、小さいとき、すなわち数Ω/□ないし数10Ω/□のときは比較的電界の弱いところに挿入される。TM110の電界はシート1の幅方向(z方向)に向かっていて、これと直角な方向(x,y方向)に対し正弦波状に強さが変化し、側壁4a,4b,4c,4dの壁面でゼロ、壁面間の中心で最大になる。磁界はこの電界を取り巻くような形で発生していてシートの幅方向(z方向)の成分はなく、側壁4a,4b,4c,4dの壁面で強さが最大、空胴共振器の中心でゼロとなる。したがって、シートに作用させる電界、あるいは磁界の強さは、空胴共振器4にシートを挿入する位置を選ぶことによって任意に決めることができる。薄膜3の表面抵抗が大きい場合は、主として空胴内のマイクロ波電界の作用を受けて誘電加熱され、小さい場合は主として磁界の作用を受け、新たな電界が薄膜3内とその近傍に発生する結果、薄膜3内の電界あるいは起電力によって流れる電流により加熱される。挿入位置を偏らせる極端な例では、シート1をごく側壁4dに近い位置に挿入する。実際上、側壁4dの存在によって物理的に純磁界の位置におくことはできず、側壁4dからある適切な距離をとっておくことになる。また、誘電体基板2のマイクロ波吸収が大きく、しかもなるべくこれを加熱したくないときは、基板2を側壁4dになるべく近い位置に挿入する。
【0009】
薄膜3が磁性薄膜の場合は通常、共振器の側壁4dの近くに挿入される。ただし、この場合でも、磁性薄膜の表面抵抗や、その導磁率と厚さにより、適切な挿入位置を選択することが必要で、通常、実験的に最適な位置を決めることになる。
【0010】
導電性薄膜、磁性薄膜を電界が強い位置に挿入したときは、通常の誘電体加熱と同様、膜内で電界の向きは同じであるが、これを磁界の強い位置に置いた場合、磁性薄膜が導電性を持たないときは膜内で電界の向きが逆転し、導電性薄膜、導電性を持つ磁性薄膜のとき、電流は表皮電流の形で流れ、向きが裏表で逆転している。表皮電流であるため、導電性がかなり高い場合でもかなり効率のよい加熱が可能である。
【0011】
図2で被加熱物であるシート1は、空胴共振器4内を矢印で示すx方向に通過する。マイクロ波は導波管5を介して空胴に励振され、TM110モードの電磁界を発生している。このモードの電界の強さはシート1の幅方向(z方向)で変化せず移動方向(x方向)に対して正弦波状に変化しているが、シート1をx方向へ移動させることにより、均一に加熱することができる。
【0012】
図3では、側壁4a,4bの一部が複数の短冊状の開口開閉部材7a,7b,7c,7d・・・で構成されている。開閉部材7は、空胴共振器4に対して着脱自在である。対向する1対の開閉部材7を外せば、それがシート1の挿入、移動のための開口6となる。必要に応じ、取り外す開閉部材7を複数にしても、それが互いに離れた位置にある限り、特に開口の幅が広くならないので問題は生じない。また、開口の両端部のみ小さい金属片を付加して両端部が庇状に塞がれた開口とすることも電波漏洩の見地からよい結果を与える場合がある。
【0013】
直方体空胴のTM110モードの壁面電流は電界と平行な方向に流れていて、シート挿入ための開口6に対し平行である。このため、開口6の幅と側壁4a,4bの壁厚を適切に決めれば殆ど電波漏れを生じない。以上、述べた方法により、容易に開口6の位置を変えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0014】
この発明は、例えば、太陽電池、光触媒、シート状医薬品、印刷、電子デバイス等の分野で、シート状被加熱物に対しマイクロ波を用いて選択的かつ均一に加熱したいという要求に応じることができる。誘電体加熱の域を越え、導電性薄膜、磁性薄膜をも含めたマイクロ波加熱の要求に応えることができる。加熱の目的は、単なる乾燥から、熱処理、活性化など、多岐に及ぶ。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明の方法により加熱するシートの基本構造を示す断面図である。
【図2】この発明の実施形態に係るマイクロ波によるシートの加熱装置の斜視図である。
【図3】この発明の他の実施形態に係るマイクロ波によるシートの加熱装置の斜視図である。
【符号の説明】
【0016】
1 複合多層膜シート
2 基板
3 薄膜
4 空胴共振器
4a・・・4f 側壁
5 導波管
6 開口
7a・・・開口開閉部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄い基板2上に1層または複数層の薄膜3が形成され、この薄膜3のうちの少なくとも1層が導電性又は磁性の薄膜であるシート状被加熱物1の加熱方法であって、
第1ないし第6の6つの側壁4a・・・4fを有する直方体状空胴共振器4の互いに対向する第5,第6の2側壁4e,4fにほぼ垂直で、残りの4側壁4a,4b,4c,4dにほぼ平行なマイクロ波電界を発生させる工程と、
前記空胴共振器4内における前記マイクロ波電界にほぼ平行な第3,第4の側壁4c,4dから任意の距離だけ離れた位置において、当該側壁4c,4dに対して平行に、空胴共振器4内に前記シート状被加熱物1を通過させる工程と、
前記空胴共振器4内に発生する電磁界で前記シート状被加熱物1を加熱する工程と、を含むことを特徴とするマイクロ波によるシート状被加熱物の加熱方法。
【請求項2】
薄い基板2上に1層または複数層の薄膜3が形成され、この薄膜3のうちの少なくとも1層が導電性又は磁性薄膜であるシート状被加熱物1に、マイクロ波を照射してこれを加熱するための装置であって、
第1ないし第6の6つの側壁4a・・・4fを有し、互いに対向する第5,第6の2側壁4e,4fにほぼ垂直で、残りの4側壁4a,4b,4c,4dにほぼ平行なマイクロ波電界を内部に発生させる直方体状空胴共振器4を具備し、
この空胴共振器4における前記マイクロ波電界にほぼ平行な相対向する第1,第2の両側壁4a,4bには、前記マイクロ波電界にほぼ平行に伸びる細長の挿入用開口6が対向位置に設けられ、
前記挿入用開口を通して前記空胴共振器内に前記シート状被加熱物1を通過させ、空胴共振器内に発生する電磁界で加熱することを特徴とするマイクロ波によるシート状被加熱物の加熱装置。
【請求項3】
薄い基板2上に1層または複数層の薄膜3が形成され、この薄膜3のうちの少なくとも1層が導電性又は磁性薄膜であるシート状被加熱物1に、マイクロ波を照射してこれを加熱するための装置であって、
第1ないし第6の6つの側壁4a・・・4fを有し、互いに対向する第5,第6の2側壁4e,4fにほぼ垂直で、残りの4側壁4a,4b,4c,4dにほぼ平行なマイクロ波電界を内部に発生させる直方体状空胴共振器4を具備し、
この空胴共振器4における前記マイクロ波電界にほぼ平行な相対向する第1,第2の両側壁4a,4bには、前記マイクロ波電界にほぼ平行に伸びる細長の挿入用開口6が、マイクロ波電界にほぼ平行な他の対向一対の第3,第4の側壁4c、4dからの距離を段階的に異ならせて複数設けられ、
前記複数の挿入用開口6は、選択的に開閉可能に構成され、
選択的に開放された対向一対の前記挿入用開口6を通して前記空胴共振器4内に前記シート状被加熱物1を通過させ、空胴共振器4内に発生する電磁界で加熱することを特徴とするマイクロ波によるシート状被加熱物の加熱装置。
【請求項4】
前記空胴共振器4の前記マイクロ波電界にほぼ平行な相対向する第1,第2の両側壁4a,4bの一部が複数の短冊状の開口開閉部材7a,7b,・・・で構成され、これら各開口開閉部材7a,7b,・・・は、空胴共振器4に対して着脱自在であることを特徴とする請求3に記載のマイクロ波によるシート状被加熱物の加熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−221958(P2006−221958A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−34165(P2005−34165)
【出願日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(505004640)株式会社IDX (11)
【Fターム(参考)】