説明

導電性及び耐熱性に優れたCu−Fe−P系銅合金板及びその製造方法

【課題】導電性と耐熱性のバランスがとれた半導体装置用リードフレームの素材として好適であり、導電率が90%IACS以上であり、400℃にて1時間加熱後のビッカース硬さが100以上とする。
【解決手段】Fe;0.05〜0.15重量%、P;0.015〜0.050重量%およびZn;0.01〜0.20重量%を各々含有し、残部Cuおよび不可避的不純物からなる組成を有し、EBSD法にて測定した結晶粒内の全ピクセル間の平均方位差の結晶組織内の全結晶粒における平均値が2.5〜5.0°であり、EBSD法にて測定したBrass方位密度が11.0〜14.5%であり、Copper方位密度が13.0〜25.5%であり、導電率が90%IACS以上であり、400℃にて1時間加熱した後のビッカース硬さが100以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性及び耐熱性に優れたCu−Fe−P系銅合金板及びその製造方法に関し、特に詳しくは、半導体装置用リードフレームの素材として好適であり、導電率が90%IACS以上であり、400℃にて1時間加熱後のビッカース硬さが100以上であることを特徴とする電気電子部品用Cu−Fe−P系銅合金板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体リードフレーム用銅合金板としては、銅母相中にFe又はFe−P等の金属間化合物を析出させた強度、導電性、熱伝導性に優れたCu−Fe−P系の銅合金が一般に使用されているが、最近の電子機器に用いられる半導体装置の大容量化、小型化、高機能化に伴い、半導体装置に使用されるリードフレームの小断面積化が進行し、更なる、強度、導電性、耐熱性のアップが要求されている。
また、近年では、発光ダイオードを用いたLEDランプの液晶ディスプレイ、携帯電話や情報端末のバックライトなどへの多方面の展開が飛躍的に進んでいる。LEDランプを種々の用途に適用する場合は、白色発光を得ることが重要となり、更に、高輝度化及び放熱性を目的に、基板(ボード)の上に複数のLEDチップを搭載し、樹脂層により被覆したチップオンボード(COB)タイプのものが開発されており、これらに使用されるリードフレーム用の銅合金基板として、熱伝導性、プレス加工性、導電性、機械的強度とのバランスがとれたCu−Fe−P系銅合金が使用され始めている。
【0003】
特に、導電性は、発光ダイオードの小型化及びジュール熱の低減の観点より、更に優れた特性が求められており、また、耐熱性については、プレス加工などによる残留応力を除去するために、加工後に400〜450℃での熱処理が施されても、銅合金の結晶組織の再結晶化による強度低下が起きないような特性が要求されている。
【0004】
特許文献1では、高強度化と優れた酸化膜密着性とを両立させた、Fe含有量が比較的少なく、FE−SEMによるEBSPを用いた結晶方位解析方法により測定したBrass方位の方位分布密度が25%以上である集合組織を有するとともに、平均結晶粒径を6.0μm以下として、高強度で、かつ、酸化膜密着性を向上させ、半導体パッケージの信頼性を高めたCu−Fe−P系銅合金板を開示する。
【0005】
特許文献2では、引張試験により求められる、引張弾性率を120GPaを超えるものとするとともに、均一伸びと全伸びとの比、均一伸び/全伸びを0.50未満とし、せん断面率を低下させ、高強度で、かつ、スタンピング加工の際のプレス打ち抜き性を向上させたCu−Fe−P系銅合金板が開示される。
【0006】
特許文献3では、フレキシブル基板の導電部材に適した耐屈曲性に優れた銅合金として、圧延面についてのX線回折により求まる積分強度比I{200}/I{111}が1.5以下の銅合金であり、具体的組成として、質量%で、Fe:0.045〜0.095%、P:0.010〜0.030%であり、Fe、P、Cu以外の元素の合計が1%未満、残部がCuからなる組成、および、質量%で、Ni:0.5〜3.0%、Sn:0.5〜2.0%、P:0.03〜0.10%であり、Ni、Sn、P、Cu以外の元素の合計が1%未満、残部がCuからなる組成を有し、導電率が85%IACS以上である銅合金が開示されている。
【0007】
特許文献4では、青色LEDチップのような発光素子と、近似した比重を有する2種類以上の蛍光体と、これらの蛍光体のうちで最も比重が大きい蛍光体の20%以上の比重を有する透明樹脂を含む蛍光体含有樹脂層とを備え、2種類以上の蛍光体は、互いに類似した形状を有し、さらに近似した平均粒径(D50が7〜20μm)を有する、複数のLEDランプ間などでの発光色のばらつきが抑制され、均一で安定した高効率の発光が得られる発光装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−45204号公報
【特許文献2】特開2008−88499号公報
【特許文献3】特開2006−63431号公報
【特許文献4】特開2009−277998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来のCu−Fe−P系銅合金板では、最近の半導体装置に使用されるリードフレームの多様化に伴って要求される導電性及び耐熱性が不足気味であった。
【0010】
本発明は、この様な事情に鑑みてなされたものであり、導電性と耐熱性のバランスがとれた半導体装置用リードフレームの素材として好適であり、導電率が90%IACS以上であり、400℃にて1時間加熱後のビッカース硬さが100以上であることを特徴とする電気電子部品用Cu−Fe−P系銅合金板及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、直径が15nm未満の非常に微細な析出物粒子(Fe−P系化合物)は、500℃といった高温領域においては、粒子の移動を拘束するピン止め効果が小さく再結晶化の抑制効果をあまり期待出来ないが、透過型電子顕微鏡観察において、1μm2あたりの析出物粒子の直径のヒストグラムにおけるピーク値が直径15〜35nmの範囲内でありかつ当該範囲内の直径の析出物粒子が総度数の50%以上の頻度で存在し、その半値幅が25nm以下である析出物粒子(Fe−P系化合物)は、500℃前後の高温領域での再結晶化抑制に非常に効果的であり、更なる耐熱性の向上に大きく寄与することを見出している。
【0012】
本発明者らは更に鋭意検討の結果、Fe;0.05〜0.15重量%、P;0.015〜0.050重量%およびZn;0.01〜0.20重量%を各々含有し、残部Cuおよび不可避的不純物からなる組成を有する銅合金のEBSD法にて測定した結晶粒内の全ピクセル間の平均方位差の結晶組織内の全結晶粒における平均値が2.5〜5.0°であると、銅合金板の導電特性が特に向上することを見出した。
また、EBSD法にて測定したCopper方位密度が13.0〜25.5%であると、銅合金板の耐熱特性が特に向上することを見出した。
更に、EBSD法にて測定したBrass方位密度が11.0〜14.5%であると、銅合金板の引張り強度特性を維持できることを見出した。
【0013】
本発明の電気電子部品用銅合金板は、Fe;0.05〜0.15重量%、P;0.015〜0.050重量%およびZn;0.01〜0.20重量%を各々含有し、残部Cuおよび不可避的不純物からなる組成を有し、EBSD法にて測定した結晶粒内の全ピクセル間の平均方位差の結晶組織内の全結晶粒における平均値が2.5〜5.0°であり、EBSD法にて測定したBrass方位密度が11.0〜14.5%であり、Copper方位密度が13.0〜25.5%であり、導電率が90%IACS以上であり、400℃にて1時間加熱した後のビッカース硬さが100以上であることを特徴とする。
【0014】
EBSD法にて測定した結晶粒内の全ピクセル間の平均方位差の結晶組織内の全結晶粒における平均値が2.5°未満、或いは、5.0°を超えると、導電率が90%IACS以上とならない。
EBSD法にて測定した結晶組織内のCopper方位密度が13.0%未満、或いは、25.5%を超えると、400℃にて1時間加熱した後のビッカース硬さが100以上とならない。
EBSD法にて測定した結晶組織内のBrass方位密度が11.0%未満、或いは、14.5%を超えると、引張り強度が590MPa以上とならない。
【0015】
また、本発明の電気電子部品用銅合金板は、Ni、Coからなる元素のうち少なくとも一種を0.01〜0.20重量%含有することを特徴とする。
これらの元素の添加は、更に耐熱性を向上させる役割を有する。添加量が0.01重量%未満では効果がなく、0.20重量%を超えると導電率を低下させる。
【0016】
本発明の電子機器用銅合金板の製造方法は、溶解鋳造、熱間圧延、粗圧延、焼鈍、冷間圧延、最終焼鈍、仕上げ冷間圧延をこの順で含む工程で銅合金を製造するに際して、前記冷間圧延の圧延率を25〜90%にて実施し、前記最終焼鈍を400〜600℃にて60分間以上実施し、前記仕上げ冷間圧延を銅合金板に負荷するバックテンションを45〜70N/mm2とし、フロントテンションを75〜100N/mm2として実施することを特徴とする。
【0017】
冷間圧延の圧延率が25%未満であると、Brass方位密度及びCopper方位密度が発達せず、90%を超えるとBrass方位密度及びCopper方位密度が増加し、引張強度は高くなるが耐熱性が低下する。
【0018】
最終焼鈍の温度が400℃未満、或いは、時間が60分未満であると、結晶粒内の全ピクセル間の平均方位差の全結晶粒における平均値が2.5〜5.0°にならず、温度が600℃を超えると、再結晶が生じて析出物も粗大化し、導電率は高くなるが引張強度が低下する。時間が240分を超えると引張強度が低下する傾向があり、60〜240分とすることが好ましい。
【0019】
仕上げ冷間圧延において素材に作用するテンションのうち、バックテンションが45N/mm2未満、或いは、フロントテンションが75N/mm2未満であると、Copper方位密度が発達せず、バックテンションが70N/mm2、或いは、フロントテンションが100N/mm2を超えるとCopper方位密度を増加させるが、銅合金薄板に亀裂或いは切断が生じる可能性がある。
【0020】
本発明で定義するバックテンションとは、銅条材の圧延機において、ワークロールに挿入される材料に負荷されている張力で、アンコイラーからワークロールの間に負荷されているものであり、フロントテンションとは、条材の圧延機において、ワークロールから引き出される材料に負荷されている張力で、ワークロールからリコイラーの間に負荷されている張力である。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、導電性と耐熱性のバランスがとれた半導体装置用リードフレームの素材として好適であり、導電率が90%IACS以上であり、400℃にて1時間加熱後のビッカース硬さが100以上であることを特徴とする電気電子部品用Cu−Fe−P系銅合金板及びその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明にて使用する仕上げ冷間圧延機に負荷されるバックテンション及びフロントテンションの一実施形態を示す概略図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態である電子機器用銅合金について詳細を説明する。
[銅合金条の成分組成]
本発明では、導電率が90%IACS以上であり、400℃にて1時間加熱後のビッカース硬さが100以上であることを特徴とする電気電子部品用Cu−Fe−P系銅合金板として、Fe;0.05〜0.15重量%、P;0.015〜0.050重量%およびZn;0.01〜0.20重量%を各々含有し、残部Cuおよび不可避的不純物からなる基本組成を有する。この基本組成に対し、後述するNi、Coを更に選択的に含有させても良い。
(Fe)
Feは銅の母相中に分散する析出物粒子を形成して強度、耐熱性及び導電率を向上させる効果があるが、その含有量が、0.05重量%未満では効果がなく、0.15重量%を超えると、強度及び耐熱性は向上するが、導電率は低下する。このため、Feの含有量は0.05〜0.15質量%の範囲内とすることが好ましい。
(P)
PはFeと共に銅の母相中に分散する析出物粒子を形成して強度及び耐熱性を向上させる効果があるが、その含有量が0.015重量%未満では効果がなく、0.050重量%を超えて含有すると、強度及び耐熱性は向上するが、導電率及び熱間加工性が低下する。このため、Pの含有量は0.015〜0.050重量%の範囲内とすることが好ましい。
(Zn)
Znは銅の母相中に固溶して半田耐熱剥離性を向上させる効果を有しており、0.01重量%未満では効果がなく、一方、0.20重量%を超えて含有しても、更なる効果を得ることが出来なくなると共に母層中への固溶量が多くなって導電率の低下をきたす。このため、Znの含有量は0.01〜0.20重量%の範囲内とすることが好ましい。
(Ni、Co)
Ni、Coは母相中に固溶して耐熱性及び導電性を向上させる効果を有しており、0.01重量%未満では効果がなく、0.20重量%を超えて含有すると導電率の低下をきたす。このため、Ni、Coを含有する場合には、これらの合計で0.01〜0.20質量%の範囲内とすることが好ましい。
【0024】
[EBSD法にて測定した結晶粒内の全ピクセル間の平均方位差の結晶組織内の全結晶粒における平均値、Brass方位密度、Copper方位密度]
本発明では、EBSD法にて測定した結晶粒内の全ピクセル間の平均方位差の結晶組織内の全結晶粒における平均値が2.5〜5.0°であり、Brass方位密度が11.0〜14.5%であり、Copper方位密度が13.0〜25.5%であることにより、導電率が90%IACS以上で、400℃にて1時間加熱した後のビッカース硬さが100以上となる。
【0025】
EBSD法による結晶粒内の全ピクセル間の平均方位差の全結晶粒における平均値の測定は、試料の測定領域を通常、六角形等の領域に区切り、区切られた各領域について、試料表面に入射させた電子線の反射電子から菊地パターンを得て、電子線を試料表面に2次元で走査させ、ステップサイズ1.0μmにて、測定面積範囲内の全ピクセルの方位を測定し、隣接するピクセル間の方位差が15°以上である境界を結晶粒界とみなし、結晶粒界で囲まれた個々の結晶粒の全てにについて、結晶粒内の全ピクセル間の方位差の平均値である平均方位差(GOS:Grain Orientation Spread)を次の(1)式にて計算し、当該測定領域内の全ての結晶粒における値の平均値を全結晶粒における平均方位差の平均値とした。なお、2ピクセル以上が連結しているものを結晶粒とした
【数1】

上式において、i、jは結晶粒内のピクセルの番号を示す。
nは結晶粒内のピクセル数を示す。
αijはピクセルiとjの方位差を示す。
結晶粒内の全ピクセル間の平均方位差の全結晶粒における平均値が2.5°未満、或いは、5.0°を超えると、導電率が90%IACS以上とならない。
【0026】
EBSD法によるBrass方位密度の測定は、試料の測定領域を通常、六角形等の領域に区切り、区切られた各領域について、試料表面に入射させた電子線の反射電子から菊地パターンを得て、電子線を試料表面に2次元で走査させ、ステップサイズ1.0μmにて、測定面積範囲内の全ピクセルの方位を測定し、隣接するピクセル間の方位差が15°以上である境界を結晶粒界とみなして、試料表面の結晶粒の分布を求めた。そして、各結晶粒が、対象とするBrass方位(理想方位から15°以内)か否かを判定し、測定領域におけるBrass方位密度(結晶方位の面積率)を求めた。
Brass方位密度が11.0%未満、或いは、14.5%を超えると、引張り強度が590MPa以上とならない。
【0027】
EBSD法によるCopper方位密度の測定は、試料の測定領域を通常、六角形等の領域に区切り、区切られた各領域について、試料表面に入射させた電子線の反射電子から菊地パターンを得て、電子線を試料表面に2次元で走査させ、ステップサイズ1.0μmにて、測定面積範囲内の全ピクセルの方位を測定し、隣接するピクセル間の方位差が15°以上である境界を結晶粒界とみなして、試料表面の結晶粒の分布を求めた。そして、各結晶粒が、対象とするCopper方位(理想方位から15°以内)か否かを判定し、測定領域におけるCopper方位密度(結晶方位の面積率)を求めた。
Copper方位密度が13.0未満、或いは、25.5%を超えると、400℃にて1時間加熱した後のビッカース硬さが100以上とならない。
【0028】
[製造条件]
次に、本発明の析出物粒子(Fe−P系化合物)を有するCu−Fe−P系銅合金の製造条件について以下に説明する。EBSD法にて測定した結晶粒内の全ピクセル間の平均方位差の全結晶粒における平均値が2.5〜5.0°であり、EBSD法にて測定したBrass方位密度が11.0〜14.5%であり、Copper方位密度が13.0〜25.5%とする為の冷間圧延、最終焼鈍、仕上げ冷間圧延の各条件を除き、通常の製造工程自体を大きく変えることは不要である。
【0029】
先ず、上記の好ましい成分範囲に調整された銅合金を溶解鋳造し、鋳塊を面削後、圧延率を60%以上にて熱間圧延を施した後に、冷間圧延を施し、次に、例えば、750〜1000℃にて2〜4時間の焼鈍(溶体化処理)を行う。
【0030】
(冷間圧延)
焼鈍後の銅合金板に圧延率25〜90%で(中間)冷間圧延を施す。(中間)冷間圧延の圧延率が25%未満であると、Brass方位密度及びCopper方位密度が発達せず、90%を超えるとBrass方位密度及びCopper方位密度が増加し、引張強度は高くなるが耐熱性が低下する。
【0031】
(最終焼鈍)
冷間圧延が施された銅合金板に400〜600℃にて60分以上での最終焼鈍を施す。
最終焼鈍の温度が400℃未満、或いは、時間が60分未満であると、結晶粒内の全ピクセル間の平均方位差の全結晶粒における平均値が2.5〜5.0°にならず、温度が600℃を超えると、再結晶が生じて析出物も粗大化し、導電率は高くなるが引張強度が低下する。時間が240分を超えると引張強度が低下する傾向があり、60〜240分とすることが好ましい。
【0032】
(仕上げ冷間圧延)
最終焼鈍が施された銅合金板にバックテンションを45〜70N/mm2とし、フロントテンションを75〜100N/mm2として仕上げ冷間圧延を施す。圧延率は、15〜30%であることが好ましく、15%未満であるとBrass方位密度及びCopper方位密度が発達せず、30%を超えるとBrass方位密度及びCopper方位密度が増加し、引張強度は高くなるが耐熱性が低下する傾向がある。
仕上げ冷間圧延のテンションのうち、バックテンションが45N/mm2未満、或いは、フロントテンションが75N/mm2未満であると、Copper方位密度が発達せず、バックテンションが70N/mm2、或いは、フロントテンションが100N/mm2を超えるとCopper方位密度を増加させるが、銅合金薄板に亀裂或いは切断が生じる可能性がある。
【0033】
バックテンションとは、銅条材の圧延機において、ワークロールに挿入される材料に負荷されている張力で、アンコイラーからワークロールの間に負荷されているものであり、フロントテンションとは、条材の圧延機において、ワークロールから引き出される材料に負荷されている張力で、ワークロールからリコイラーの間に負荷されているものである。
【0034】
図1に示すように、最終焼鈍が施されアンコイラー3に巻かれた銅合金板1は、圧延機のワークロール4に挟まれて仕上げ圧延され銅合金板2となりリコイラー5に巻き取られる。この際、バックテンションBがワークロール4に挿入される銅合金板1に負荷されている張力であり、フロントテンションFがワークロール3から引き出される銅合金板2に負荷されている張力である。
【0035】
前述の様な構成とされた本実施形態の電子機器用銅合金は、導電性と耐熱性のバランスがとれた半導体装置用リードフレームの素材として好適であり、導電率が90%IACS以上であり、400℃にて1時間加熱後のビッカース硬さが100以上であることを特徴とする電気電子部品用Cu−Fe−P系銅合金板となる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明の実施例について比較例と比較してその特性を説明する。
表1に示す組成の銅合金(添加元素以外の成分はCu及び不可避不純物)を、電気炉により還元性雰囲気下で溶解し、厚さが20mm、幅が120mm、長さが200mmの鋳塊を作製した。これらの鋳塊を950℃にて1時間加熱した後、圧延率60%にて熱間圧延を行って厚さ8mmに仕上げ、その表面をフライスで板厚7mmになるまで面削した。次に粗冷間圧延を行った後、750℃で10秒間の焼鈍を行って、厚さ1.0mmの板材に仕上げた。次にこれらの銅合金板を表1に示す条件で(中間)冷間圧延と最終焼鈍を行い、更に、表1に示すテンションと圧延率を負荷しながら仕上げ冷間圧延を行って、厚さ0.076〜0.68mmの銅合金薄板を作製した。
【0037】
【表1】

【0038】
次に、表1の各実施例及び各比較例の試料につき、EBSD法にて、結晶粒内の全ピクセル間の平均方位差の結晶組織内の全結晶粒における平均値、Brass方位密度、Copper方位密度を測定した。
EBSD法による結晶粒内の全ピクセル間の平均方位差の全結晶粒における平均値の測定は、試料の測定領域を通常、六角形等の領域に区切り、区切られた各領域について、試料表面に入射させた電子線の反射電子から菊地パターンを得て、電子線を試料表面に2次元で走査させ、ステップサイズ1.0μmにて、測定面積範囲内の全ピクセルの方位を測定し、隣接するピクセル間の方位差が15°以上である境界を結晶粒界とみなし、結晶粒界で囲まれた個々の結晶粒の全てにについて、結晶粒内の全ピクセル間の方位差の平均値である平均方位差(GOS:Grain Orientation Spread)を(1)式にて計算し、当該測定領域内の全ての結晶粒における値の平均値を全結晶粒における平均方位差の平均値とした。なお、2ピクセル以上が連結しているものを結晶粒とした
【数2】

上式において、i、jは結晶粒内のピクセルの番号を示す。
nは結晶粒内のピクセル数を示す。
αijはピクセルiとjの方位差を示す。
【0039】
EBSD法によるBrass方位密度の測定は、試料の測定領域を通常、六角形等の領域に区切り、区切られた各領域について、試料表面に入射させた電子線の反射電子から菊地パターンを得て、電子線を試料表面に2次元で走査させ、ステップサイズ1.0μmにて、測定面積範囲内の全ピクセルの方位を測定し、隣接するピクセル間の方位差が15°以上である境界を結晶粒界とみなして、試料表面の結晶粒の分布を求めた。そして、各結晶粒が、対象とするBrass方位(理想方位から15°以内)か否かを判定し、測定領域におけるBrass方位密度(結晶方位の面積率)を求めた。
EBSD法によるCopper方位密度の測定は、試料の測定領域を通常、六角形等の領域に区切り、区切られた各領域について、試料表面に入射させた電子線の反射電子から菊地パターンを得て、電子線を試料表面に2次元で走査させ、ステップサイズ1.0μmにて、測定面積範囲内の全ピクセルの方位を測定し、隣接するピクセル間の方位差が15°以上である境界を結晶粒界とみなして、試料表面の結晶粒の分布を求めた。そして、各結晶粒が、対象とするCopper方位(理想方位から15°以内)か否かを判定し、測定領域におけるCopper方位密度(結晶方位の面積率)を求めた。
【0040】
また、表1の各実施例、各比較例につき、導電率、400℃にて1時間加熱した後のビッカース硬さを測定した。
導電率は、ミーリングにより、幅10mm×長さ300mmの短冊状の試験片を加工し、ダブルブリッジ式抵抗測定装置により電気抵抗を測定して、平均断面積法により算出した。
ビッカース硬さは、得られた各試料から10×10mmの試験片を切出し、加熱炉にて400℃で1時間保持後に、松沢精機社製のマイクロビッカース硬度計(商品名「微小硬度計」)を用いて0.5kgの荷重を加えて4箇所硬さ測定を行い、硬さはそれらの平均値とした。
これらの得られた結果を表2に示す。
【0041】
【表2】

【0042】
表2から明らかなように、本発明の電気電子部品用Cu−Fe−P系銅合金板は、導電率が90%IACS以上であり、400℃にて1時間加熱後のビッカース硬さが100以上であり、導電性と耐熱性のバランスが良くとれており、半導体装置用リードフレームの素材として好適であることがわかる。
【0043】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこの記載に限定されることはなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0044】
1 銅合金板
2 銅合金板
3 アンコイラー
4 ワークロール
5 リコイラー
B バックテンション
F フロントテンション

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe;0.05〜0.15重量%、P;0.015〜0.050重量%およびZn;0.01〜0.20重量%を各々含有し、残部Cuおよび不可避的不純物からなる組成を有し、EBSD法にて測定した結晶粒内の全ピクセル間の平均方位差の結晶組織内の全結晶粒における平均値が2.5〜5.0°であり、EBSD法にて測定したBrass方位密度が11.0〜14.5%であり、Copper方位密度が13.0〜25.5%であり、導電率が90%IACS以上であり、400℃にて1時間加熱した後のビッカース硬さが100以上であることを特徴とする電気電子部品用銅合金板。
【請求項2】
Ni、Coからなる元素のうち少なくとも一種を0.01〜0.20重量%含有することを特徴とする請求項1に記載の電気電子部品用銅合金板。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の銅合金板の製造方法であって、溶解鋳造、熱間圧延、粗圧延、焼鈍、冷間圧延、最終焼鈍、仕上げ冷間圧延をこの順で含む工程で銅合金を製造するに際して、前記冷間圧延の圧延率を25〜90%にて実施し、前記最終焼鈍を400〜600℃にて60分間以上実施し、前記仕上げ冷間圧延を銅合金板に負荷するバックテンションを45〜70N/mm2とし、フロントテンションを75〜100N/mm2として実施することを特徴とする電子機器用銅合金板の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−246772(P2011−246772A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−121906(P2010−121906)
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(000176822)三菱伸銅株式会社 (116)
【Fターム(参考)】