説明

導電性塗料

【課題】導電性が高く、組成物に対するPEDOT/PSSのパーコレーションしきい値が小さくなる導電性塗料を提供する。
【解決手段】導電性塗料が(A)ポリ(3,4−エチレンジオキシ)チオフェンと(B)ポリスチレンスルホン酸と(C)酸化グラフェンを含む組成物であって、成分(A)、(B)及び(C)の各成分の合計質量に対する成分(C)の質量の比が0.02≦(C)/((A)+(B)+(C))≦0.45なる関係式を満たすことにより、当該導電性塗料が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性高分子としてはポリチオフェン、ポリアニリン、ポリピロールなどの材料が知られている。導電性高分子はその透明性と導電性の高さから、フィルムの帯電防止用コーティング液や透明電極用のコーティング液の導電材料として使用されている。コーティング液として使用するには導電性高分子が適当な溶媒に分散している必要があるが、導電性高分子は溶媒に不溶であるため、分散させるためには各種工夫が必要である。例えば、溶媒への溶解性が高まるような官能基を導入することで、導電性高分子を適当な溶媒に分散させることが可能である。しかし、官能基を導入することで導電性高分子間の距離が遠くなり、導電性高分子間の電子の移動が悪くなる結果、導電性が低下してしまうという問題を有している。
【0003】
導電性高分子の中でポリチオフェン系の導電性高分子はもっとも導電性が高く、非常に優れた材料である。ポリチオフェン系の導電性高分子で溶媒に分散したものとしてはポリ(3,4−エチレンジオキシ)チオフェン(以下、PEDOTと記すことがある)とポリスチレンスルホン酸(以下、PSSと記すことがある)との混合物の水分散液が知られており、PEDOTとPSSとの混合物(PEDOT/PSSと表記する)の分散液は例えばBaytron PやBaytron P HC V4(エイチ・シー・スタルク社製)などの商品名で販売されている。PEDOT/PSSはPEDOTに水への溶解性が高いPSSを組み合わせることで水へ分散させることに成功している。PEDOT/PSSは導電性の高さからITO代替として透明電極への応用が盛んに検討されているが、ITOと比べて導電性が劣っており、導電性を向上させることが検討されている。例えばBayton Pは標準品として位置づけられていて、その導電率はカタログ値として1(S/cm)と言われている。一方で、Bayton P HC V4は製造法の最適化等で標準品よりも10倍もの高導電率10(S/cm)を達成している。しかし、10倍の高導電率を達成した反面、製造法を複雑にしたためBayton Pとくらべて非常に高価になっている。
【0004】
このように導電性高分子の導電性を高める要求がある。一方で、導電性を高めることは導電性高分子同士を近づけ、結晶性を高めることにつながり、結晶性が高まると溶媒へのなじみが悪くなり、溶媒への分散性は悪化する。このように導電性と分散性はトレードオフの関係にあり、溶媒への分散性を悪化させることなく導電性を向上させることは容易ではない。
【0005】
これを克服する方法として、特許文献1、非特許文献1にはポリアニリンに酸化チタンなどの微粒子を添加してコート後に85℃で2時間加熱することで導電性を向上させる方法が公開されている。しかし、PEDOT/PSSに対して同様な効果はこれまで報告されていない。
【0006】
一方、近年酸化グラフェンが新たなる導電材料として注目されている。酸化グラフェンは酸化黒鉛を層状に剥離することで得られる炭素材料である。酸化黒鉛は黒鉛を特定の方法により酸化することで得られる黒鉛層間化合物の一種である。この酸化黒鉛は2次元的な基本層が積み重なった多層構造体であり、単層レベルまで薄層化することが可能である(例えば、非特許文献2参照)。本発明者らも先に、そのような酸化黒鉛の薄膜状粒子を高収率で製造する方法を見出している(特許文献2参照)。
【0007】
厳密には単層構造の酸化黒鉛を酸化グラフェンと定義すべきであるが、一般には単層レベルまで薄層化された酸化黒鉛を酸化グラフェンと呼ぶことが多い。層数として10層以下(一般に知られている酸化黒鉛の層間距離0.83nmから換算すると平均厚み8.3nm程度)の酸化黒鉛も広義に酸化グラフェンとして扱われている。このようなことから、本発明における酸化グラフェンは厚みが10nm以下の酸化黒鉛を意味するものとする。
【0008】
酸化グラフェンは、加熱還元などの還元処理により導電性を付与できるアスペクト比の高いナノ材料であり、高導電化した酸化グラフェンは透明導電膜など各種コーティング用途や導電インキなどの機能性材料に適用可能な材料として注目されている(例えば、特許文献2参照)。
ここで本発明において、酸化グラフェンとは導電率として10−3(S/cm)以下のものを意味するものとし、導電性を向上させて10−3(S/cm)よりも大きな導電率を有する酸化グラフェンは高導電化酸化グラフェンとして区別する。
【0009】
この高導電化酸化グラフェンをPEDOT/PSSと組み合わせることで高い導電性を得る方法が公開されている。例えば非特許文献3では、酸化グラフェンとSDBS(sodium dodecylbenzene sulfonate)を混合した水溶液に還元剤としてヒドラジンを添加して100℃,24時間加熱することで高導電化酸化グラフェンを作製し、その高導電化酸化グラフェンをPEDOT/PSSに添加することでシート抵抗を1/3程度下げることが報告されている。
また、非特許文献4では、酸化グラフェンの水分散液にブチルアミンを添加することで酸化グラフェンの導電性を3桁向上させ、ブチルアミンを添加した酸化グラフェンの水分散液をPEDOT/PSSに添加することで、PEDOT/PSSよりも導電性が向上することが報告されている。
【0010】
非特許文献5および特許文献3では酸化グラフェンとナフィオンを混合した水溶液に還元剤としてヒドラジンを添加して100℃,24時間加熱することで高導電化酸化グラフェンを作製し、その高導電化酸化グラフェンをPEDOT/PSSに添加することで導電率を30から60倍向上できることが報告されている。
【0011】
このように高導電化酸化グラフェンをPEDOT/PSSに添加することにより全体としての導電性を向上させることは報告されているが、高導電化するような処理を行わない酸化グラフェンをPEDOT/PSSに添加することでPEDOT/PSSをより高導電化することはこれまで報告されていなかった。これは高導電化処理を行わない酸化グラフェンは導電性が悪く、導電性が悪い酸化グラフェンをPEDOT/PSSに添加することで導電性を向上させることは困難と考えられていたためである。
一方で、酸化グラフェンは酸化されていることによりグラフェンと比べてπ電子の広がりが小さくなっており、導電性が悪い反面透明性はグラフェンよりも高い。逆に還元などの処理を行った場合、再度π電子が広がることで導電性は向上するが透明性は悪化する。このことから、透明性の観点からは酸化グラフェンは高導電化しない状態で使用することが望ましい。
【0012】
PEDOT/PSSを塗布液として使用する場合、通常バインダーも添加されている。これはPEDOT/PSSだけでは、塗布膜として基板との密着性や耐擦傷性などが悪いことから、これらの物性を改善する目的でバインダーを添加している。バインダーとPEDOT/PSSの混合比に関して、PEDOT/PSSの割合が多くなると塗布膜本来の物性が悪化することから、PEDOT/PSSの割合は少ないほど望ましい。しかし、PEDOT/PSSの割合が少ないと塗布膜に導電性が得られないため、導電性塗布膜とするにはパーコレーションしきい値(導電性が得られる最低の添加量)以上に添加する必要がある。このようなことから、パーコレーションしきい値は小さいほど望ましいが、PEDOT/PSSはアスペクト比が高い材料ではないため、パーコレーションしきい値は通常10質量%以上である。そのために、塗布膜に導電性をだすにはPEDOT/PSSを少なくとも10質量%以上、十分な導電性を出すには20質量%以上添加する必要があり、塗布膜本来の物性を維持することが難しいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平10−251510号公報
【特許文献2】特開2002−53313号公報
【特許文献3】KR2010078444
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】倉本憲幸著,はじめての導電性高分子(工業調査会,2002)
【非特許文献2】N. A. Kotov et al., Ultrathin Graphite Oxide-Polyelectrolyte Composites Prepared by Self-Assembly: Transition Between Conductive and Non-Conductive States, Adv. Mater., 8, 637 (1996)
【非特許文献3】A Transparent, Flexible, Low-Temperature, and Solution-Processible Graphene Composite Electrode,Adv. Funct. Mater. 2010, 20, 2893
【非特許文献4】Preparation of extended alkylated graphene oxide conducting layers and effect study on the electrical properties of PEDOT:PSS polymer composites,Chemical Physics Letters 494 (2010) 264
【非特許文献5】Synthesis of aqueous dispersion of graphenes via reduction of graphite oxide in the solution of conductive polymer,Journal of Physics and Chemistry of Solids71(2010)483
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の課題は、導電性、透明性など有用な特性を発揮するPEDOT/PSSに関して、溶媒への分散性を悪化させることなく、導電性をより向上させた導電性塗料であって、組成物に対するPEDOT/PSSのパーコレーションしきい値が小さい導電性塗料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意検討を重ねた結果、酸化グラフェンとPEDOTとPSSを組み合わせた組成では、PEDOT/PSS成分の溶媒への分散性を悪化させることなく、PEDOT/PSS系単独よりも高い導電率が得られることを発見し発明を完成するに至った。導電性の悪い酸化グラフェンを添加することでPEDOT/PSS系単独よりも導電率が向上するという優れた効果は誠に驚くべきことであるが、そのような効果の発現は、酸化グラフェンの表面にPEDOT/PSS成分が吸着し、吸着したPEDOT/PSS成分が部分的に結晶化することで、導電性が向上したのだと考えている。この効果により、PEDOT/PSS系単独よりも導電性が向上する一方で、酸化グラフェンは溶媒への分散性が高いことから、結晶化が進んだPEDOT/PSS成分が部分的に吸着していても、溶媒への分散性を維持できる。これにより、導電性と分散性というトレードオフの関係を両立し、溶媒への分散性を悪化させることなく導電性を向上させることに成功した。
【0017】
本発明における導電性塗料としては、平滑な基板に塗布したときに表面抵抗率が1012(Ω/□)以下になる塗料を意味するものとする。
【0018】
ここで、酸化グラフェンが少なすぎると、酸化グラフェンに吸着するPEDOT/PSS成分の量が少ないため、PEDOT/PSSの導電性がほとんど向上しない。そのため、酸化グラフェンの最小量は質量基準で、(酸化グラフェンの固形分質量)÷(PEDOTの固形分質量+PSSの固形分質量+酸化グラフェンの固形分質量)(以下 「(酸化グラフェン)÷(PEDOT/PSS+酸化グラフェン)」)の関係が0.02以上であることが望ましく、より高い導電性を得るためには、0.04以上であるとさらに好ましい。一方で酸化グラフェンを増やしていくと、導電性の悪い酸化グラフェンの割合が多くなり、全体として導電性は向上しなくなるため、酸化グラフェンの最大量は(酸化グラフェン)÷(PEDOT/PSS+酸化グラフェン)が0.45以下であることが望ましく、より高い導電性を得るためには、0.40以下であるとさらに好ましい。例えば、先の非特許文献4では(酸化グラフェン)÷(PEDOT/PSS+酸化グラフェン)が0.5となるように酸化グラフェンとPEDOT/PSSを複合しているが、酸化グラフェンの割合が多いために、酸化グラフェンを添加することでPEDOT/PSS単独よりも導電性が悪化している。さらに非特許文献4ではCheaptubes社の酸化グラフェン(ホームページ記載の粒子の大きさは300〜800nm)を使用して、さらに粒子径を小さくする効果のある超音波処理を行っており、粒子径が小さいことで酸化グラフェンを添加したときの導電性の向上効果が弱いことも導電性がよくない原因の1つと推測される。
【0019】
酸化グラフェンとPEDOT/PSSおよび、バインダーを添加した塗料の場合では、PEDOT/PSSと酸化グラフェンの特殊な相互作用により、組成物に対するPEDOT/PSSのパーコレーションしきい値を小さくすることができる。つまり、組成物中のPEDOT/PSSの配合量が少なくても導電性が確保することができる。これは、アスペクト比が高いことでパーコレーションしきい値を小さくすることができる酸化グラフェンにPEDOT/PSSが吸着することで、PEDOT/PSSのパーコレーションしきい値を小さくすることができるためだと考えられる。
【0020】
即ち本発明は、以下の通りである。
(1) (A)ポリ(3,4−エチレンジオキシ)チオフェンと(B)ポリスチレンスルホン酸と(C)酸化グラフェンを含む組成物からなる導電性塗料であって、成分(A)、(B)及び(C)の各成分の合計質量に対する成分(C)の質量の比が0.02≦(C)/((A)+(B)+(C))≦0.45なる関係式を満たすことを特徴とする導電性塗料。
(2) 成分(C)に占める厚さ5nm以下の粒子の個数の割合が60%以上であることを特徴とする(1)記載の導電性塗料。
(3) 成分(C)の粒子の平均粒子径が1μm以上であることを特徴とする(1)〜(2)のいずれかに記載の導電性塗料。
(4) 組成物が更に(D)バインダーを含むことを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の導電性塗料。
(5) バインダーの質量割合が0.01≦((A)+(B))/((A)+(B)+(D))≦0.3の関係であることを特徴とする(4)記載の導電性塗料。
(6) バインダーがポリエステル樹脂であることを特徴とする(4)または(5)記載の導電性塗料。
(7) 組成物が更に還元剤を含むことを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の導電性塗料。
(8) 還元剤が2つ以上の水酸基を有する化合物であることを特徴とする(7)記載の導電性塗料。
(9) 還元剤がヒドロキノン、ピロガロール、カテコール、レゾルシノールおよび没食子酸からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする(8)記載の導電性塗料。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、PEDOT/PSS成分の溶媒への分散性を悪化させることなく導電性塗料を得ることができ、塗布膜の導電性をより向上させることが可能となり、PEDOT/PSSの幅広い用途展開が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施例1から実施例6および比較例1,2の、(酸化グラフェン)÷(PEDOT/PSS+酸化グラフェン)の値をX軸に、導電率をY軸にプロットしたグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
酸化グラフェンは酸化黒鉛を層状に剥離することで得ることができる。酸化黒鉛は黒鉛を特定の方法で酸化することにより製造されるが、酸化黒鉛を得るための黒鉛の酸化法としては、公知のBrodie法(硝酸、塩素酸カリウムを使用)、Staudenmaier法(硝酸、硫酸、塩素酸カリウムを使用)、Hummers−Offeman法(硫酸、硝酸ナトリウム、過マンガン酸カリウムを使用)などを利用できる。これらのうち、特に酸化が進行するのはHummers−Offeman法(W.S.Hummers et al.,J.Am.Chem.Soc.,80,1339(1958);米国特許No.2798878(1957))であり、この酸化方法が特に推奨される。
【0024】
酸化黒鉛を層状に剥離し酸化グラフェンを得るためには、酸化黒鉛の精製を十分行えばよい。精製操作には、デカンテーション、濾過、遠心分離、透析、イオン交換などの公知の手段を用いればよい。精製時において、多層構造の分離は自発的に生じるが、これに加えて、振とうなどの撹拌操作やせん断力などの物理力を加えると分離がさらに促進されるので望ましい。超音波照射も利用可能であるが、層の分離と共に各層の基本構造が破壊されてアスペクト比が小さくなる傾向がある。
以上の方法により、酸化グラフェンの水分散液を作製することができる。
【0025】
本発明の「酸化グラフェン」においてはPEDOT/PSS成分との相互作用が強くなること、酸化黒鉛の層状剥離が容易になることから、酸化グラフェンは十分に酸化されていることが望ましく、酸化グラフェンのラマンスペクトルにおけるピークの高さの比H/Hとして、1≦H/H≦1.5の範囲にあることが望ましく、1.1≦H/H≦1.4であることがより望ましい。ここで、Hはラマンシフト1650cm−1付近に検出されるG線に由来するピーク(酸化されていない領域由来)の高さを意味し、Hはラマンシフト1350cm−1付近に検出されるD線に由来するピーク(酸化によりグラフェン構造が崩れた領域由来)の高さを意味する。H/Hの値が1.5より大きくなると酸化が不十分なため酸化黒鉛の層状剥離が困難になり、1よりも小さくなるとPEDOT/PSS成分との相互作用が弱くなってしまう。
【0026】
酸化グラフェンの厚みはできるだけ薄いものほど、酸化グラフェンの表面積を大きくすることができるため望ましい。これは、導電性の向上が酸化グラフェンにPEDOT/PSSが吸着することに起因するためであり、酸化グラフェンの導電性は高くないことから、できるだけ少量の酸化グラフェンで多くのPEDOT/PSSを吸着することが望ましいためである。そこで、酸化グラフェンの厚みとしては、5nm以下の厚みの酸化グラフェンを60%以上含有しているものが好ましく、1.5nm以下の厚みの酸化グラフェンを60%以上含有するものであるとさらに好ましい。厚みの評価は原子間力顕微鏡を用いて次のような方法で行うことができる。希釈した酸化グラフェン粒子の水分散液を基板(マイカ)の上に滴下し、原子間力顕微鏡により重なりのない孤立した粒子を見つけ、原子間力顕微鏡で測定される基板と孤立粒子の高さの差が粒子の厚みとなる。粒子にしわが形成されている場合、しわの部分は厚さを反映していないので、しわのない部分と基板との高さの差で厚みを評価するようにする。吸着水の影響もあるため、厚みが1.5nm以下は酸化グラフェンの層数が1層と考えられる。一定厚み以下の酸化グラフェンの含有割合は、30個の粒子について厚みを測定し、30個中の一定厚み以下の酸化グラフェンの割合で算出することとする。
【0027】
本発明で使用される酸化グラフェンの面方向の大きさの平均値としては、0.1〜30μmであることが望ましく、1〜20μmであることがより望ましい。酸化グラフェンの面方向の大きさが30μmより大きくなると、原料に大きな黒鉛を使用する必要があり、酸化に要する時間が長くなるといった問題がある。逆に0.1μmよりも小さくなると酸化グラフェンのアスペクト比が小さいため、PEDOT/PSS成分と複合したときの導電性を向上させる効果が弱くなってしまうという問題がある。酸化グラフェンの面方向の大きさは、例えば原子間力顕微鏡や電子顕微鏡などの酸化グラフェンの形状を確認できる評価装置を用いて、最大径(外側輪郭線上の任意の2点を、その間の長さが最大になるように選んだ時の長さ)で評価することができる。大きさの平均値としてはランダムに選択した粒子30個の平均値により算出することができる。
【0028】
本発明で使用される酸化グラフェンとしては、分散媒に分散した分散液で使用することが望ましい。分散媒としては、水、メタノール、エタノール、NMP(N−メチルピロリドン)、DMF(ジメチルホルムアミド)、DMAc(ジメチルアセトアミド)などの単独の液あるいは混合した液を使用することが可能である。特に環境負荷も少なく、酸化グラフェンが均一に分散することから、水を分散媒として使用することが望ましい。
【0029】
本発明で使用されるPEDOTとPSSとしては、例えばBayton PやBayton P HC V4、CLEVIOS Pなどの商品として販売されているPEDOT/PSSの分散液を使用することが可能である。PEDOT/PSSはドーパントとなるPSS存在下で3,4−エチレンジオキシチオフェン(EDOT)を重合することで製造され、PSSが水への溶解性が高いことから、PSSにPEDOTが吸着して複合した状態(PEDOT/PSSと記す)で水に分散していると考えられている。PEDTO:PSSの比率は一般に質量基準で1:2.0 〜 1:3.0程度であり、分散している粒子の大きさは10〜1000nm程度である。
【0030】
本発明で使用されるバインダーとしては、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ゴム系樹脂、ポリビニルアルコールなど有機物系バインダーやSiOやTiOなどの無機物系バインダーを用いることができる。バインダーは溶媒に分散した分散液あるいは溶解した溶液として用いることが望ましい。溶媒としては水、メタノール、エタノール、アセトン、NMP(N−メチルピロリドン)、DMF(ジメチルホルムアミド)、DMAc(ジメチルアセトアミド)などの単独の液あるいは混合した液を使用することが可能である。特に酸化グラフェンおよびPEDOT/PSSが良好に分散する水を溶媒の主成分とすることが望ましい。
有機物系バインダーの中でもポリエステル樹脂はポリエステル、ポリカーボネート、塩ビなどの透明フィルムとの密着性が高い、耐熱性・耐久性も優れるなどの特性を有することからバインダーとしてより望ましい。
【0031】
バインダーの添加量としては、PEDOT/PSSに対してバインダーが少なすぎると塗布膜の物性(基板との密着性や耐擦傷性など)が悪くなり、逆にバインダーが多すぎると塗布膜の導電性が得られないことから、バインダーの添加量は質量基準で、(PEDOT固形分質量+PSS固形分質量)÷(PEDOT固形分質量+PSS固形分質量+バインダー固形分質量)の関係(以下、(PEDOT/PSS)÷(PEDOT/PSS+バインダー)と記す)が、0.01〜0.3の値であることが望ましく、0.025〜0.2であることがより好ましい。さらに、0.05〜0.1であることが導電性と塗布膜の物性のバランスがよく、もっとも好ましい。
【0032】
酸化グラフェンは還元により高導電化できるが、溶媒への分散性と透明性の観点からは、酸化グラフェンとしては、高導電化しない方が望ましいが、例えば高い透明性が必要とされない場合など目的に応じて、還元により酸化グラフェンを高導電化してもよい。ただし、本発明の効果は高導電化酸化グラフェンではなく、酸化グラフェンで発揮されることから、酸化グラフェンを還元する場合には塗布膜を形成後に還元することが望ましい。これは、塗布膜形成後に還元するならば、分散性を考慮する必要はなく、さらに酸化グラフェンの構造変化によるPEDOT/PSSの導電性向上効果への悪影響が防げるためである。酸化グラフェンを還元する方法としては、酸化グラフェンとPEDOT/PSSを含む塗布膜を形成した後に200℃以上に加熱する方法がある。塗布膜を形成した基板の耐熱性が低い場合、塗料に還元剤を添加することで還元のための加熱温度を下げることが可能である。還元剤としては、塗料中の酸化グラフェンが塗布膜形成までは高導電化酸化グラフェンに還元されず、塗布膜形成後の加熱により還元が起きるものであることが必要であり、このような還元剤としては、例えば、ヒドロキノン、ピロガロール、カテコール、レゾルシノール、没食子酸、L−システイン、ヨウ化水素酸、ヒドラジン、ホスフィン酸、クエン酸、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸アンモニウム、次亜リン酸ナトリウム、L(+)アスコルビン酸などが挙げられ(特許4591666)、中でも2つ以上の水酸基を有する還元剤(例えばヒドロキノン、ピロガロール、カテコール、レゾルシノール、没食子酸)は、PEDOT/PSSの導電性を向上させる効果もあることから(特開2010−80237)、より望ましい。
【0033】
酸化グラフェンとPEDOTとPSSおよびバインダーの混合方法としては、それぞれが溶媒に分散あるいは溶解した分散液(溶液)の状態で混合することが望ましい。PEDOTとPSSは混合された状態で製造され、混合物として溶媒に分散しているので、PEDOT/PSSとして溶媒に分散した分散液を使用することが望ましい。還元剤を用いる場合は、分散液に還元剤を溶解させることで混合することができる。混合後には撹拌やホモジナイザー等の方法により均一になるまで混合することで導電性塗料を作製することができる。
【0034】
塗布の方法は、基材上への塗布が可能であれば特に限定されるものではなく、例えばスピンコータ法、バーコータ法、ロールコータ法、スプレーコート法などの方法を用いることができる。塗布膜の乾燥も特に限定されるものではなく、加熱乾燥などの一般的な方法で行うことが可能である。乾燥温度は基材の耐熱性や溶媒の沸点に依存するが、溶媒として水を使っている場合は、60〜100℃が望ましい。酸化グラフェンを還元する場合には、乾燥処理とは別に、あるいは乾燥処理を兼ねて加熱処理を行えばよい。加熱処理の温度は200℃以上が望ましい。塗料に還元剤を添加した場合には加熱処理の温度を低くすることが可能で、還元剤の種類にも依存するが、100℃〜170℃で加熱処理を行うことが望ましい。
【実施例】
【0035】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0036】
(酸化グラフェンの合成例)
天然黒鉛SNO−3(純度99.97質量%以上)10gを、硝酸ナトリウム(純度99%)7.5g、硫酸(純度96%)621g、過マンガン酸カリウム(純度99%)45gからなる混合液中に入れ、約20℃で5日間、緩やかに撹拌しながら放置した。得られた高粘度の液を、5質量%硫酸水溶液1000cmに約1時間で撹拌しながら加えて、さらに2時間撹拌した。得られた液に過酸化水素(30質量%水溶液)30gを加えて、2時間撹拌した。
【0037】
この液を、水により十分精製することで、平板状の酸化グラフェンの水分散液を得た。液の一部を40℃で真空乾燥させ、乾燥前後の質量変化を測定した結果から、液中の酸化グラフェンの固形分濃度は1.3質量%と算出された。また、40℃で真空乾燥させた酸化グラフェンの元素分析で、酸素は42質量%、水素は2質量%であった。ラマンスペクトルを測定した結果、G線に由来するピークの高さHとD線に由来するピークの高さHの比H/Hは1.29であった。液の一部を水で希釈してからマイカの上で乾燥させ、原子間力顕微鏡を使って酸化グラフェンの厚みを評価したところ、30個の粒子で確認された厚みは1.1nm,2.2nm,0.8nm,0.9nm,1.7nm,1.5nm,1.1nm,1.8nm,0.9nm,1.0nm,1.6nm,2.2nm,1.1nm,1.0nm,1.3nm,0.9nm,0.9nm,1.2nm,1.9nm,1.4nm,1.7nm,1.8nm,1.0nm,1.3nm,1.1nm,0.8nm,2.0nm,1.4nm,1.8nm,1.3nmであり、1.5nm以下の厚みの酸化グラフェン粒子が20個で67%、5nm以下の厚みの酸化グラフェンは30個で100%と、いずれも全体の60%以上含有していた。30個の粒子で確認された粒子径は、2.0μm,4.3μm,5.4μm,2.5μm,1.0μm,6.8μm,10.5μm,2.3μm,4.4μm,1.4μm,4.1μm,1.6μm,1.5μm,2.1μm,1.2μm,1.6μm,1.1μm,1.0μm,1.4μm,1.7μm,2.9μm,4.4μm,2.9μm,1.9μm,1.2μm,1.8μm,2.6μm,6.8μm,1.8μm,6.0μmであり、平均の粒子径は3μmであった。上記の1.3質量%酸化グラフェン水分散液を1.0質量%に濃度調整した分散液を以下、「分散液A」と呼ぶ。
【0038】
(導電率の測定)
2端子法で塗布膜の抵抗を測定し、得られた抵抗値から導電率(S/cm)を算出した。導電率の計算の際に塗布膜の厚みは、使用したコート液の組成と比重をPEDOT/PSS=1g/cm、酸化グラフェン=1g/cmとして計算した。抵抗の測定は室温(20〜25℃)、湿度40〜50%で行った。なお、同様の塗布膜を3枚作製し、それぞれの塗布膜に対して1回導電率を測定し、3回分の導電率の平均値を算出した。
【0039】
(表面抵抗率の測定)
ダイヤインスツルメント社製低抵抗計ロレスタGPを用いて、塗布膜(厚み10μm程度)の表面抵抗(Ω/□)を測定した。測定は室温(20〜25℃)、湿度40〜50%で行った。
【0040】
(実施例1)
ポリ(3,4−エチレンジオキシ)チオフェンとポリスチレンスルホン酸の混合物(PEDOT/PSS)の水分散液(PEDOT:0.5質量%,PSS:0.8質量%。Aldrich社製,conductive grade)を「導電性高分子液A」と呼ぶ。導電性高分子液Aを水で希釈して濃度を1質量%とした。得られた液を以下、「導電性高分子液B」と呼ぶ。9.76gの導電性高分子液Bと0.24gの分散液Aを十分混合し、導電性塗料を作製した。得られた導電性組成物をガラス基板上に塗布し、70℃で30分以上乾燥して導電性塗料の塗布膜を作製した。得られた塗布膜の導電率を測定した。結果を表1に示す。
【0041】
(実施例2)
実施例1の導電性高分子液Bと分散液Aの添加量をそれぞれ9.52gと0.48gに変更した以外は実施例1と同様にして導電性塗料の塗布膜を作製し、導電率を測定した。結果を表1に示す。
【0042】
(実施例3)
実施例1の導電性高分子液Bと分散液Aの添加量をそれぞれ9.09gと0.91gに変更した以外は実施例1と同様にして導電性塗料の塗布膜を作製し、導電率を測定した。結果を表1に示す。
【0043】
(実施例4)
実施例1の導電性高分子液Bと分散液Aの添加量をそれぞれ8.33gと1.67gに変更した以外は実施例1と同様にして導電性塗料の塗布膜を作製し、導電率を測定した。結果を表1に示す。
【0044】
(実施例5)
実施例1の導電性高分子液Bと分散液Aの添加量をそれぞれ7.14gと2.86gに変更した以外は実施例1と同様にして導電性塗料の塗布膜を作製し、導電率を測定した。結果を表1に示す。
【0045】
(実施例6)
実施例1の導電性高分子液Bと分散液Aの添加量をそれぞれ5.56gと4.44gに変更した以外は実施例1と同様にして導電性塗料の塗布膜を作製し、導電率を測定した。結果を表1に示す。
【0046】
(比較例1)
実施例1の導電性高分子液Bと分散液Aの添加量をそれぞれ4.44gと5.56gに変更した以外は実施例1と同様にして導電性塗料の塗布膜を作製し、導電率を測定した。結果を表1に示す。
【0047】
(比較例2)
実施例1の導電性組成物として導電性高分子液Bを使用した以外は実施例1と同様にして導電性塗料の塗布膜を作製し、導電率を測定した。結果を表1に示す。
【0048】
(比較例3)
実施例1の導電性組成物として分散液Aを使用した以外は実施例1と同様にして導電性塗料の塗布膜を作製し、導電率を測定した。結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

実施例1から実施例6および比較例1,2の酸化グラフェン/(「PEDOT/PSS」+酸化グラフェン)をX軸に導電率をY軸にプロットしたグラフを図1に示す。この結果から、酸化グラフェン/(「PEDOT/PSS」+酸化グラフェン)が0.02以上0.45以下の範囲ではPEDOT/PSS単独よりも導電率が向上していることがわかる。さらに、0.04以上0.40以下の範囲では導電率の向上が大きいことがわかる。
【0050】
(実施例7)
3.85gの導電性高分子液Aと1.00gの分散液Aと2.94gのポリエステル系高分子バインダー MD1200(34質量%。東洋紡績製)を十分混合し、導電性塗料を作製した。得られた導電性塗料をガラス基板上に塗布し、70℃で60分乾燥して導電性塗料の塗布膜を作製した。得られた塗布膜の表面抵抗率を測定した。結果を表2に示す。
【0051】
(実施例8)
実施例7の導電性高分子液Aと分散液AとMD1200の添加量をそれぞれ3.85gと1.00gと1.76gに変更した以外は実施例7と同様にして導電性塗料の塗布膜を作製し、表面抵抗率を測定した。結果を表2に示す。
【0052】
(実施例9)
実施例7の導電性高分子液Aと分散液AとMD1200の添加量をそれぞれ3.85gと1.00gと0.88gに変更した以外は実施例7と同様にして導電性塗料の塗布膜を作製し、表面抵抗率を測定した。結果を表2に示す。
【0053】
(実施例10)
実施例7の導電性高分子液Aと分散液AとMD1200の添加量をそれぞれ3.85gと2.00gと2.94gに変更した以外は実施例7と同様にして導電性塗料の塗布膜を作製し、表面抵抗率を測定した。結果を表2に示す。
【0054】
(実施例11)
実施例7の導電性高分子液Aと分散液AとMD1200の添加量をそれぞれ3.85gと2.00gと1.76gに変更した以外は実施例7と同様にして導電性塗料の塗布膜を作製し、表面抵抗率を測定した。結果を表2に示す。
【0055】
(実施例12)
実施例7の導電性高分子液Aと分散液AとMD1200の添加量をそれぞれ3.85gと2.00gと0.88gに変更した以外は実施例7と同様にして導電性塗料の塗布膜を作製し、表面抵抗率を測定した。結果を表2に示す。
【0056】
(実施例13)
実施例7の導電性高分子液Aと分散液AとMD1200の添加量をそれぞれ3.85gと4.00gと2.94gに変更した以外は実施例7と同様にして導電性塗料の塗布膜を作製し、表面抵抗率を測定した。結果を表2に示す。
【0057】
(実施例14)
実施例7の導電性高分子液Aと分散液AとMD1200の添加量をそれぞれ3.85gと4.00gと1.76gに変更した以外は実施例7と同様にして導電性塗料の塗布膜を作製し、表面抵抗率を測定した。結果を表2に示す。
【0058】
(実施例15)
実施例7の導電性高分子液Aと分散液AとMD1200の添加量をそれぞれ3.85gと4.00gと0.88gに変更した以外は実施例7と同様にして導電性塗料の塗布膜を作製し、表面抵抗率を測定した。結果を表2に示す。
【0059】
(比較例4)
実施例7の導電性高分子液Aと分散液AとMD1200の添加量をそれぞれ1.92gと10.00gと1.47gに変更した以外は実施例7と同様にして導電性塗料の塗布膜を作製し、表面抵抗率を測定した。結果を表2に示す。
【0060】
(比較例5)
実施例7の導電性高分子液Aと分散液AとMD1200の添加量をそれぞれ1.92gと10.00gと0.88gに変更した以外は実施例7と同様にして導電性塗料の塗布膜を作製し、表面抵抗率を測定した。結果を表2に示す。
【0061】
(比較例6)
実施例7の導電性高分子液Aと分散液AとMD1200の添加量をそれぞれ1.92gと10.00gと0.44gに変更した以外は実施例7と同様にして導電性塗料の塗布膜を作製し、表面抵抗率を測定した。結果を表2に示す。
【0062】
(比較例7)
実施例7の導電性高分子液AとMD1200の添加量をそれぞれ3.85gと2.94gに変更し、分散液Aを添加しない以外は実施例7と同様にして導電性塗料の塗布膜を作製し、表面抵抗率を測定した。結果を表2に示す。
【0063】
(比較例8)
実施例7の導電性高分子液AとMD1200の添加量をそれぞれ3.85gと1.76gに変更し、分散液Aを添加しない以外は実施例7と同様にして導電性塗料の塗布膜を作製し、表面抵抗率を測定した。結果を表2に示す。
【0064】
(比較例9)
実施例7の導電性高分子液AとMD1200の添加量をそれぞれ3.85gと0.88gに変更し、分散液Aを添加しない以外は実施例7と同様にして導電性塗料の塗布膜を作製し、表面抵抗率を測定した。結果を表2に示す。
【0065】
【表2】

表2をみると、(酸化グラフェン)÷(PEDOT/PSS+酸化グラフェン)が0.80(比較例4〜6)と0.00(比較例7〜9)の場合には、(PEDOT/PSS)÷(PEDOT/PSS+MD1200)が0.077でも表面抵抗が高いことから、パーコレーションしきい値は0.077よりも大きいことがわかる。一方、(酸化グラフェン)÷(PEDOT/PSS+酸化グラフェン)が0.17(実施例7〜9)と0.29(実施例10〜12)、0.44(実施例13〜15)では、(PEDOT/PSS)÷(PEDOT/PSS+MD1200)が0.077のときに表面抵抗が低くなっており、パーコレーションしきい値は0.077よりも小さいことがわかる。このように、酸化グラフェンを所定量添加することでPEDOT/PSSの組成物に対するパーコレーションしきい値が小さくなっていることがわかる。
【0066】
(実施例16)
3.85gの導電性高分子液Aと1.00gの分散液Aと5.88gのポリエステル系高分子バインダー MD1200(34%。東洋紡績製)および0.005gのピロガロール(還元剤)を十分混合し、導電性塗料を作製した。導電性塗料はピロガロール無添加時と同じ茶褐色のままであり、酸化グラフェンの凝集も認められておらず、酸化グラフェンは還元されていなかった。得られた導電性塗料をガラス基板上に塗布し、70℃で60分乾燥した後に170℃で60分加熱処理を行い導電性塗料の塗布膜を作製した。加熱処理後には色が黒色に変化しており、酸化グラフェンの還元が起こっていた。得られた塗布膜の表面抵抗率を測定した。結果を表3に示す。
【0067】
(実施例17)
実施例16の導電性高分子液Aと分散液AとMD1200およびピロガロール(還元剤)の添加量をそれぞれ3.85gと1.00gと2.94gおよび0.005gに変更した以外は実施例16と同様にして導電性塗料の塗布膜を作製し、表面抵抗率を測定した。なお、導電性塗料はピロガロール無添加時と同じ茶褐色のままであり、酸化グラフェンの凝集も認められておらず、酸化グラフェンは還元されていなかった。さらに、加熱処理後には色が黒色に変化しており、酸化グラフェンの還元が起こっていた。結果を表3に示す。
【0068】
(実施例18)
実施例16の導電性高分子液Aと分散液AとMD1200およびピロガロール(還元剤)の添加量をそれぞれ3.85gと1.00gと1.76gおよび0.005gに変更した以外は実施例16と同様にして導電性塗料の塗布膜を作製し、表面抵抗率を測定した。なお、導電性塗料はピロガロール無添加時と同じ茶褐色のままであり、酸化グラフェンの凝集も認められておらず、酸化グラフェンは還元されていなかった。さらに、加熱処理後には色が黒色に変化しており、酸化グラフェンの還元が起こっていた。結果を表3に示す。
【0069】
(実施例19)
実施例16の導電性高分子液Aと分散液AとMD1200およびピロガロール(還元剤)の添加量をそれぞれ3.85gと1.00gと0.88gおよび0.005gに変更した以外は実施例16と同様にして導電性塗料の塗布膜を作製し、表面抵抗率を測定した。なお、導電性塗料はピロガロール無添加時と同じ茶褐色のままであり、酸化グラフェンの凝集も認められておらず、酸化グラフェンは還元されていなかった。さらに、加熱処理後には色が黒色に変化しており、酸化グラフェンの還元が起こっていた。結果を表3に示す。
【0070】
(実施例20)
実施例16の導電性高分子液Aと分散液AとMD1200およびピロガロール(還元剤)の添加量をそれぞれ3.85gと2.00gと5.88gおよび0.01gに変更した以外は実施例16と同様にして導電性塗料の塗布膜を作製し、表面抵抗率を測定した。なお、導電性塗料はピロガロール無添加時と同じ茶褐色のままであり、酸化グラフェンの凝集も認められておらず、酸化グラフェンは還元されていなかった。さらに、加熱処理後には色が黒色に変化しており、酸化グラフェンの還元が起こっていた。結果を表3に示す。
【0071】
(実施例21)
実施例16の導電性高分子液Aと分散液AとMD1200およびピロガロール(還元剤)の添加量をそれぞれ3.85gと2.00gと2.94gおよび0.01gに変更した以外は実施例16と同様にして導電性塗料の塗布膜を作製し、表面抵抗率を測定した。なお、導電性塗料はピロガロール無添加時と同じ茶褐色のままであり、酸化グラフェンの凝集も認められておらず、酸化グラフェンは還元されていなかった。さらに、加熱処理後には色が黒色に変化しており、酸化グラフェンの還元が起こっていた。結果を表3に示す。
【0072】
(実施例22)
実施例16の導電性高分子液Aと分散液AとMD1200およびピロガロール(還元剤)の添加量をそれぞれ3.85gと2.00gと1.76gおよび0.01gに変更した以外は実施例16と同様にして導電性塗料の塗布膜を作製し、表面抵抗率を測定した。なお、導電性塗料はピロガロール無添加時と同じ茶褐色のままであり、酸化グラフェンの凝集も認められておらず、酸化グラフェンは還元されていなかった。さらに、加熱処理後には色が黒色に変化しており、酸化グラフェンの還元が起こっていた。結果を表3に示す。
【0073】
(実施例23)
実施例16の導電性高分子液Aと分散液AとMD1200およびピロガロール(還元剤)の添加量をそれぞれ3.85gと2.00gと0.88gおよび0.01gに変更した以外は実施例16と同様にして導電性塗料の塗布膜を作製し、表面抵抗率を測定した。なお、導電性塗料はピロガロール無添加時と同じ茶褐色のままであり、酸化グラフェンの凝集も認められておらず、酸化グラフェンは還元されていなかった。さらに、加熱処理後には色が黒色に変化しており、酸化グラフェンの還元が起こっていた。結果を表3に示す。
【0074】
(実施例24)
実施例16の導電性高分子液Aと分散液AとMD1200およびピロガロール(還元剤)の添加量をそれぞれ1.92gと2.00gと2.94gおよび0.0125gに変更した以外は実施例16と同様にして導電性塗料の塗布膜を作製し、表面抵抗率を測定した。なお、導電性塗料はピロガロール無添加時と同じ茶褐色のままであり、酸化グラフェンの凝集も認められておらず、酸化グラフェンは還元されていなかった。さらに、加熱処理後には色が黒色に変化しており、酸化グラフェンの還元が起こっていた。結果を表3に示す。
【0075】
(実施例25)
実施例16の導電性高分子液Aと分散液AとMD1200およびピロガロール(還元剤)の添加量をそれぞれ1.92gと2.00gと1.47gおよび0.0125gに変更した以外は実施例16と同様にして導電性塗料の塗布膜を作製し、表面抵抗率を測定した。なお、導電性塗料はピロガロール無添加時と同じ茶褐色のままであり、酸化グラフェンの凝集も認められておらず、酸化グラフェンは還元されていなかった。さらに、加熱処理後には色が黒色に変化しており、酸化グラフェンの還元が起こっていた。結果を表3に示す。
【0076】
(実施例26)
実施例16の導電性高分子液Aと分散液AとMD1200およびピロガロール(還元剤)の添加量をそれぞれ1.92gと2.00gと0.88gおよび0.0125gに変更した以外は実施例16と同様にして導電性塗料の塗布膜を作製し、表面抵抗率を測定した。なお、導電性塗料はピロガロール無添加時と同じ茶褐色のままであり、酸化グラフェンの凝集も認められておらず、酸化グラフェンは還元されていなかった。さらに、加熱処理後には色が黒色に変化しており、酸化グラフェンの還元が起こっていた。結果を表3に示す。
【0077】
(実施例27)
実施例16の導電性高分子液Aと分散液AとMD1200およびピロガロール(還元剤)の添加量をそれぞれ1.92gと2.00gと0.44gおよび0.0125gに変更した以外は実施例16と同様にして導電性塗料の塗布膜を作製し、表面抵抗率を測定した。なお、導電性塗料はピロガロール無添加時と同じ茶褐色のままであり、酸化グラフェンの凝集も認められておらず、酸化グラフェンは還元されていなかった。さらに、加熱処理後には色が黒色に変化しており、酸化グラフェンの還元が起こっていた。結果を表3に示す。
【0078】
【表3】

表3をみると、(PEDOT/PSS)÷(PEDOT/PSS+MD1200)が0.048の場合でも表面抵抗が低く、還元剤を添加した場合でも、パーコレーションしきい値は0.048よりも小さいことがわかる。このように、酸化グラフェンを所定量添加することで、還元剤を添加した場合でも、PEDOT/PSSの組成物に対するパーコレーションしきい値が小さくなっていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明によって得られる導電性塗料は、高い導電性が得られ、組成物に対するPEDOT/PSSのパーコレーションしきい値も小さくすることができることから、透明導電膜など各種コーティング用途や導電インキなどの機能性材料への応用が期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリ(3,4−エチレンジオキシ)チオフェン、(B)ポリスチレンスルホン酸及び(C)酸化グラフェンを含む組成物からなる導電性塗料であって、成分(A)、(B)及び(C)の各成分の合計質量に対する成分(C)の質量の比が0.02≦(C)/((A)+(B)+(C))≦0.45なる関係式を満たすことを特徴とする導電性塗料。
【請求項2】
成分(C)に占める厚さ5nm以下の粒子の個数の割合が60%以上であることを特徴とする請求項1記載の導電性塗料。
【請求項3】
成分(C)の粒子の平均粒子径が1μm以上であることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載の導電性塗料。
【請求項4】
組成物が更に(D)バインダーを含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の導電性塗料。
【請求項5】
(D)バインダーの質量割合が0.01≦((A)+(B))/((A)+(B)+(D))≦0.3の関係であることを特徴とする請求項4記載の導電性塗料。
【請求項6】
(D)バインダーがポリエステル樹脂であることを特徴とする請求項4または請求項5記載の導電性塗料。
【請求項7】
組成物が更に還元剤を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の導電性塗料。
【請求項8】
還元剤が2つ以上の水酸基を有することを特徴とする請求項7記載の導電性塗料。
【請求項9】
還元剤がヒドロキノン、ピロガロール、カテコール、レゾルシノール及び没食子酸からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項8記載の導電性塗料。

【図1】
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【公開番号】特開2013−35966(P2013−35966A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−174205(P2011−174205)
【出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】