説明

導電性有機薄膜及びその製造方法

【課題】 密着性、成膜性を低下させずに導電性の高い導電性有機薄膜及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 導電性有機材料を主成分とする塗布液を基板3上に塗布して導電性有機薄膜1を作成し、その後、薄膜1の導電性を高めるための物質である水の蒸気中に基板3上に作成された薄膜1の表面をさらすようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は導電性有機薄膜及びその製造方法に関し、特に成膜後に電気的特性を変化させた層と電気的特性を変化させない層とを有する導電性有機薄膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、導電性有機薄膜は基板上に形成される導電路や電極等として用いられている。
【0003】
導電性有機薄膜は導体と絶縁体との中間的な性質を有しているので、導電性有機薄膜の導電路や電極の導電性は低かった。
【0004】
この問題を解決する導電性有機薄膜の製造方法として、導電性の有機材料(PEDT:poly ethylenedioxythiophene)を水溶液にしたものにアルコール等を混合し、攪拌して混合物を作り、この混合物をスピンコート法等で基板上に塗布して導電性有機薄膜を作成する方法が知られている(下記特許文献1参照)。
【特許文献1】米国特許第2004603277
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の導電性有機薄膜の製造方法によれば、導電性有機薄膜の導電性が改善される。しかし、この導電性有機薄膜の製造方法では、アルコールが有機物水溶液に混合されると、アルコールが有機材料から水和水を奪ってしまうため、有機材料がところどころ凝集することがあった。
【0006】
このため、有機物水溶液の成膜性が悪くなり、有機物水溶液を基板に塗布しづらくなり、塗膜の厚さが不均一になったり、塗り残しが生じたりした。また、乾燥後の導電性有機薄膜の基板に対する密着性が悪く、導電性有機薄膜が基板から剥離する虞があった。
【0007】
この発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、その課題は密着性、成膜性を低下させずに導電性の高い導電性有機薄膜及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述の課題を解決するため請求項1の発明の導電性有機薄膜は、導電性有機材料を主成分とする導電性有機薄膜において、基板上に形成され、電気的特性を変えるための物質を含まない第1の層と、前記第1の層の上に位置し、前記物質を含む第2の層とを有することを特徴とする。
【0009】
上述のように第1の層に電気的特性を変えるための物質が含まれておらず、第2の層に電気的特性を変えるための物質が含まれているので、基板に対する第1の層の密着性及び成膜性が損なわれないとともに、第2の層の電気的特性も改善される。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1記載の導電性有機薄膜において、前記導電性有機材料が、ポリチオフェン誘導体と、ポリアニリン誘導体と、これら2つの誘導体の置換体と、前記2つの誘導体及び前記2つの置換体のうちの少なくとも1つの構造を含む共重合体とのうちの少なくとも1つで構成されていることを特徴とする。
【0011】
請求項3の発明は、請求項1又は2記載の導電性有機薄膜において、前記物質が水であることを特徴とする。
【0012】
請求項4の発明の導電性有機薄膜の製造方法は、導電性有機材料を主成分とする塗布液を基板上に塗布して薄膜を作成する第1工程と、前記薄膜の電気的特性を変えるための物質の蒸気中に前記基板上に作成された薄膜の表面をさらす第2工程とを含むことを特徴とする。
【0013】
上述のように第1工程の段階では導電性有機薄膜の電気的特性を変えるための物質が塗布液に混合されないので、塗布液に凝集が生じず、塗布液の成膜性の低下が起きない。第2工程では導電性有機薄膜の電気的特性を変えるための物質の蒸気中に基板上に作成された薄膜の表面をさらすので、第2工程中に薄膜の電気的特性を変えるための物質が薄膜の表面から浸潤し、薄膜の電気的特性が変わる。この薄膜の電気特性の変化は一様でなく、薄膜の表面に近いほど電気的特性が変化し、薄膜の基板側の面に近づくほど、電気的特性の変化が少ない。したがって、薄膜の表面側の部分は電気的特性が改善され、薄膜の基板側の部分は殆ど電気的特性の変化が無く、密着性が損なわれない。
【0014】
請求項5の発明は、請求項4記載の導電性有機薄膜の製造方法において、前記導電性有機材料が、ポリチオフェン誘導体と、ポリアニリン誘導体と、これら2つの誘導体の置換体と、前記2つの誘導体及び前記2つの置換体のうちの少なくとも1つの構造を含む共重合体とのうちの少なくとも1つで構成されていることを特徴とする。
【0015】
請求項6の発明は、請求項4又は5記載の導電性有機薄膜の製造方法において、前記物質が、水であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したようにこの発明によれば、密着性、成膜性を低下させずに導電性の高い導電性有機薄膜を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0018】
図1はこの発明の一実施形態に係る導電性有機薄膜の製造方法の塗布工程を説明するための概念図、図2は基板上に導電性有機薄膜が形成された状態を示す概念図、図3は塗布工程後に行われる曝露工程を説明するための概念図、図4は導電性有機薄膜の拡大断面図である。
【0019】
図1に示すように、回転テーブル5上のPET(polyethylene terephthalate)基板3の上面の中心部に、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸(PEDOT/PSS)コロイド分散型水溶液(Baytron P)からなる塗布液10を滴下する。
【0020】
次に、回転テーブル5を回転させて基板3の上面全体に塗布液10を広げ(図2参照)、それを乾燥させ、基板3上に導電性有機薄膜1を形成する(第1工程)。
【0021】
最後に、図3に示すように、導電性有機薄膜1の導電性を高めるための物質(導電性有機薄膜1の電気的特性を変えるための物質)の蒸気中に導電性有機薄膜1を曝露する(第2工程)。この実施形態では、導電性有機薄膜1の導電性を高めるための物質として水を用い、導電性有機薄膜1を60℃、湿度90%の水蒸気に所定時間曝露させる。
【0022】
以上の工程により、図4に示すように、電気的特性を変えるための物質を含む層1bと電気的特性を変えるための物質を含まない層1aとを有する導電性有機薄膜1が形成される。
【0023】
図5はこの実施形態に係る導電性有機薄膜の製造方法により得られる導電性有機薄膜の体積抵抗率と水蒸気曝露時間との関係を示すグラフである。
【0024】
導電性有機薄膜1のサンプルを4つ用意した。導電性有機薄膜1の第1のサンプルは蒸気にさらさなかった。
【0025】
60℃、湿度90%の水蒸気中に、導電性有機薄膜1の第2のサンプルを25時間曝露した。導電性有機薄膜1の第3のサンプルを75時間曝露した。更に、導電性有機薄膜1の第4のサンプルを175時間曝露した。これらのサンプルの体積抵抗率(Ω・cm)を測定した。
【0026】
図5に示すように、曝露時間が長くなるほど、導電性有機薄膜1の体積抵抗率が低下するのが分かる。
【0027】
この実施形態の製造方法によれば、密着性、成膜性を低下させずに導電性の高い導電性有機薄膜1を製造することができる。すなわち、基板3上に導電性有機薄膜1を形成した後に、導電性有機薄膜1を水蒸気に曝露したので、塗布液10を基板3に塗布するときの塗布液10の成膜性は低下せず、塗布液10を基板3の上面全体に均一に塗布することができる。また、導電性有機薄膜1の反基板側1bの部分に水分が浸潤し、この水分によって導電性が改善される。一方、導電性有機薄膜1の基板側1aの部分には水分が浸潤しないため、導電性有機薄膜1の基板3に対する密着性は低下しない。
【0028】
なお、この実施形態では導電性有機薄膜1の導電性を高めるための物質として水を用いたが、導電性有機薄膜1の導電性を高めるための物質は水に限られず、例えば、極性基を有する分子、オリゴマ、高分子又は共重合体であってもよい。極性基を有する分子、オリゴマ、高分子又は共重合体の具体例としては、例えば、アルコール、エステル、ケトン、ニトリル、アミン、アミド、スルホキシドが挙げられる(ここに挙げられているアルコール等は、分子である。また、これらの2つ以上を混合して用いてもよい。
【0029】
これら以外に、導電性有機薄膜1の導電性を高めるための物質としては塩がある。塩も蒸気にして、基板3上に形成された導電性有機薄膜1にドープ又は吸着させる。塩の具体例としては、過塩素酸リチウム(LiClO)、ヘキサフロロリン酸リチウム(LiPF)、ホウフッ化リチウム(LiBF)等がある。また、これらの塩をアルコール、エステル、ケトン、ニトリル、アミン、アミド、スルホキシド等と混合して用いてもよい。
【0030】
また、この実施形態では、導電性有機材料としてポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)を用いたが、導電性有機材料としてはこれに限られず、例えば、ポリチオフェン誘導体、ポリアニリン誘導体、これらの誘導体の置換体並びにこれらの誘導体及び置換体の構造を1つ以上含む共重合体を用いることができる。
【0031】
なお、この実施形態では、スピンコート法で塗布液10を基板3に塗布したが、この塗装方法はスピンコート法に限られず、スクリーン印刷、インクジェット、ディスペンサ等の従来の印刷法を用いることができる。
【0032】
また、この実施形態では、導電性有機薄膜1の電気的特性を変えるための物質は、導電性有機薄膜1の導電性を高めるための物質であるが、電気的特性を変えるための物質はこれに限られず、例えば、導電性有機薄膜1を半導体として用いる場合、ホール移動度の調整をする必要があるが、この場合、電気的特性を変えるための物質はホール移動度の調整をする物質である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1はこの発明の一実施形態に係る導電性有機薄膜の製造方法の塗布工程を説明するための概念図である。
【図2】図2は基板上に導電性有機薄膜が形成された状態を示す概念図である。
【図3】図3は塗布工程後に行われる曝露工程を説明するための概念図である。
【図4】図4は導電性有機薄膜の拡大断面図である。
【図5】図5はこの実施形態に係る導電性有機薄膜の製造方法により得られる導電性有機薄膜の体積抵抗率と水蒸気曝露時間との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0034】
1 導電性有機薄膜
10 塗布液
3 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性有機材料を主成分とする導電性有機薄膜において、基板上に形成され、電気的特性を変えるための物質を含まない第1の層と、前記第1の層の上に位置し、前記物質を含む第2の層とを有することを特徴とする導電性有機薄膜。
【請求項2】
前記導電性有機材料が、ポリチオフェン誘導体と、ポリアニリン誘導体と、これら2つの誘導体の置換体と、前記2つの誘導体及び前記2つの置換体のうちの少なくとも1つの構造を含む共重合体とのうちの少なくとも1つで構成されていることを特徴とする請求項1記載の導電性有機薄膜。
【請求項3】
前記物質が水であることを特徴とする請求項1又は2記載の導電性有機薄膜。
【請求項4】
導電性有機材料を主成分とする塗布液を基板上に塗布して薄膜を作成する第1工程と、
前記薄膜の電気的特性を変えるための物質の蒸気中に前記基板上に作成された薄膜の表面をさらす第2工程と
を含むことを特徴とする導電性有機薄膜の製造方法。
【請求項5】
前記導電性有機材料が、ポリチオフェン誘導体と、ポリアニリン誘導体と、これら2つの誘導体の置換体と、前記2つの誘導体及び前記2つの置換体のうちの少なくとも1つの構造を含む共重合体とのうちの少なくとも1つで構成されていることを特徴とする請求項4記載の導電性有機薄膜の製造方法。
【請求項6】
前記物質が、水であることを特徴とする請求項4又は5記載の導電性有機薄膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−281600(P2006−281600A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−104479(P2005−104479)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000231073)日本航空電子工業株式会社 (1,081)
【Fターム(参考)】