説明

導電性樹脂組成物及びその製造方法

【課題】 気相法炭素繊維を含む導電性樹脂組成物において、気相法炭素繊維の配合量が従来と同等でも、従来のものより優れた導電性を示す樹脂組成物、あるいは気相法炭素繊維の配合量が従来より少なくても、従来のものと同等もしくはそれ以上の導電性を示す樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】 繊維径が5〜500nm、かさ密度が0.04〜0.1g/cm3である気相法炭素繊維を溶融マトリックス樹脂に溶融混合してなる導電性樹脂組成物。気相法炭素繊維は、繊維径が5〜500nmの気相法炭素繊維生成物を圧縮成形し、不活性ガス雰囲気下、1000℃以上の温度で熱処理した後、かさ密度が0.04〜0.1g/cm3となるように解砕してなるものを用いることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性フィラーとして気相法炭素繊維を含む導電性樹脂組成物及びその製造方法に関する。さらに詳しく言えば、気相法炭素繊維の配合量が従来と同等でも、従来のものより優れた導電性を示す樹脂組成物、あるいは気相法炭素繊維の配合量が従来より少なくても、従来のものと同等もしくはそれ以上の導電性を示す樹脂組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気絶縁性である熱可塑性樹脂に導電性フィラーを混合し、導電性や帯電防止性などの特性を付与することは古くから行われており、そのために各種導電性フィラーが用いられている。
【0003】
一般に使用される導電性フィラーとしては、カーボンブラック、黒鉛、気相法炭素繊維、炭素繊維等のグラファイト構造を有する炭素材料、金属繊維、金属粉末、金属箔等の金属材料、および金属酸化物、金属をコーティングした無機フィラーなどが挙げられる。特に、少量の導電性フィラーの混合で高い導電性を得るためには、導電性フィラーの微細化、アスペクト比の増加、比表面積の増加などが有効であることが明らかになってきており、繊維状フィラーの繊維径を小さく、比表面積を大きくしたり(特許文献1等)、比表面積の非常に大きなカーボンブラックや中空炭素フィブリル(カーボンナノチューブ)を使用することが行われている。
【0004】
しかしながら、それらの樹脂組成物は、高い導電性を得るために、導電性フィラーの配合量を増やすと溶融流動性が低下し成形加工が困難となり、ショートショットになりやすい。また成形出来ても表面外観が悪い、ショット毎の質量のばらつき等満足な成形品が得られず、衝撃強度等の機械的性質の劣った成形品しか得られない場合がある。
また、フィラー自体の導電性を高める目的で、導電性フィラーの高導電化が図られている(特許文献2)。
【0005】
また、導電性フィラーが導電ネットワークを形成し、急激に導電性が良好および安定になる導電性フィラー含有量(パーコレ−ションしきい値)を下げるために、主として3つの方法が検討されている。
【0006】
i)導電性フィラー自身の形状効果の検討
導電性フィラーの微細化、アスペクト比の増加、表面積の増加により、しきい値を下げることができることが明らかになっている。
【0007】
ii)ポリマーブレンド手法の検討
ブレンド樹脂の海島構造または相互連続構造をとるミクロ形態において、カーボンブラックと親和性を有する海相(マトリックス相、連続相)の樹脂中に、高濃度、高密度で且つ均一にカーボンブラックを複合化する方法が提案されている(特許文献3)。また、気相法炭素繊維と親和性を有する海相(マトリックス相、連続相)の樹脂中に、高濃度、高密度で、かつ均一に気相法炭素繊維を複合化する方法が提案されている(特許文献4)。
【0008】
iii)界面エネルギーを上げる方法
各種樹脂とカーボンブラックの複合組成物において、ナイロン/カーボンブラック界面エネルギーに比べ、ポリプロピレン/カーボンブラックのように界面エネルギーが大きいもの程、パーコレーションしきい値は小さくなることが明らかにされている(非特許文献1)。また、カーボンブラックでは酸化処理して、カーボンブラックの表面エネルギーを上げ、樹脂との界面エネルギーを上げることが試みられている。
【0009】
以上のような検討が活発になされ、導電性フィラーの高導電化およびポリマーブレンド法等で着実に改良がなされてきているが、ポリマーブレンドによって、もとの材料の性質が変化するのを許容出来ない場合は、ポリマーブレンド法は適用できない。導電性フィラーの形状を微細化、高アスペクト比化、高表面積化すると、成形加工時の流動性が逆に悪化する。界面エネルギーを上げる方法はあまり効果が認められない。このように、単一樹脂系で高導電性を得るためには、物性低下、成形時の流動性低下、成形品の外観問題等が残されているのが現状である。
【0010】
具体的には、OA機器や電子機器では小型軽量化や高集積化、高精度化が進み、これに伴い、電気電子部品への塵や埃の付着を極力低減させるという、導電性樹脂に対する市場からの要求は年々多く、かつ厳しくなってきている。
【0011】
例えば、半導体に使われるICチップや、ウェハー、コンピューターに使われるハードディスクの内部部品などは、その要求が一層厳しく、帯電防止性を付与し、塵や埃の付着を完全に防止することが必要である。この様な用途には、ポリカーボネート樹脂を主成分としたアロイ(ポリカーボネート樹脂とABS樹脂とのブレンド物)やポリフェニレンエーテル系樹脂を主成分としたアロイ(ポリフェニレンエーテル樹脂とポリスチレン樹脂とのブレンド物)にカーボンブラック等の導電性フィラーが配合された導電性樹脂が使用されている。しかしながら、優れた導電性を付与するためには、多量のカーボンブラックを配合する必要があるため、導電性樹脂の機械的強度や流動性が低下するという問題点がある。
【0012】
また、自動車外装部品に関しては、導電性を付与した樹脂成形品に電気を流し、それと反対の電荷を付加した塗料を吹き付ける「静電塗装」が行われている。これは、成形品表面と塗料とに反対の電荷を持たせることによって互いに引き合う性質を利用し、塗料の成形品表面への付着率を向上させたものである。自動車の外装、外板部品には、ポリカーボネート樹脂とポリエステル樹脂とのブレンド物、ポリフェニレンエーテル樹脂とポリアミド樹脂とのブレンド物が多く使用されている。しかしながら、これら成形樹脂材料も導電性付与のために導電性フィラーを混入させることによる機械的強度や流動性が低下するという問題点がある。
【0013】
また、高い導電性を得るための、アスペクト比や比表面積の大きな気相法炭素繊維は、一般に嵩比重(かさ密度)が小さく(0.04g/cm3未満)、その質量に対しての体積が膨大になるなため、そのままフィラーとして押出機に供給すると、押出機への食い込みが悪く均一に樹脂中に分散することができないという問題も生じていた。
そのため、かさ密度を上げる方法として、圧縮法(特許文献5)、造粒助剤を使用する方法(特許文献6)等が開示されている。これらの方法により、押出工程での問題は軽減されるものの、樹脂組成物の導電性向上は満足いくものではなかった。
【0014】
【特許文献1】特許第2641712号明細書
【特許文献2】特開2001−200096号公報
【特許文献3】特開平2−201811号公報
【特許文献4】特開平1−263156号公報
【特許文献5】特開平2−248440号公報
【特許文献6】特開平4−24259号公報
【非特許文献1】住田雅夫、日本接着協会誌、1987年、第23巻、p103
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、導電性フィラーの極少量の添加で安定した導電性ネットワークを形成すること、詳しくは、導電性フィラーをポリマー中に分散させた導電性プラスチックにおいて、従来と同一の配合量でより導電性に優れたプラスチックを得ること、少ない配合量で同等もしくはそれ以上の導電性を有する導電性プラスチックを得ること、及び各成形法で物性低下が少なく、安定した導電性を示す組成物を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、気相法炭素繊維の少量添加で安定した導電性ネットワークを形成するために、気相法炭素繊維のかさ密度に比重をおいて鋭意検討した結果、気相法炭素繊維を特定のかさ密度に調整することにより、特に特定の方法によりかさ密度を調整することにより、優れた結果が得られることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下に示す導電性樹脂組成物、その製造方法及びその用途を提供するものである。
【0017】
[1]繊維径が5〜500nm、かさ密度が0.04〜0.1g/cm3である気相法炭素繊維を溶融マトリックス樹脂に溶融混合してなることを特徴とする導電性樹脂組成物。
[2]気相法炭素繊維が、繊維径が5〜500nmの気相法炭素繊維生成物を圧縮成形し、不活性ガス雰囲気下、1000℃以上の温度で熱処理した後、かさ密度が0.04〜0.1g/cm3となるように解砕してなるものである前記1に記載の導電性樹脂組成物。
[3]気相法炭素繊維のアスペクト比が50〜1000である前記1または2に記載の導電性樹脂組成物。
[4]気相法炭素繊維の含有量が3〜70質量%である前記1〜3のいずれかに記載の導電性樹脂組成物。
[5]気相法炭素繊維の平均繊維径が10〜200nmである前記1〜4のいずれかに記載の導電性樹脂組成物。
[6]マトリックス樹脂が、熱可塑性合成樹脂及び熱硬化性合成樹脂の少なくとも1種である前記1〜5のいずれかに記載の導電性樹脂組成物。
[7]溶融混合による気相法炭素繊維の破断が20%以下である前記1〜6のいずれかに記載の導電性樹脂組成物。
[8]気相法炭素繊維の含有量が5質量%以下であって、体積固有抵抗値が1×107Ωcm以下である前記1〜7のいずれかに記載の導電性樹脂組成物。
[9]マトリックス樹脂に気相法炭素繊維を溶融混合する前記1〜8のいずれかに記載の導電性樹脂組成物の製造方法であって、溶融混合時における前記気相法炭素繊維の破断を20%以下に抑えることを特徴とする導電性樹脂組成物の製造方法。
[10]溶融混合が、同方向2軸押出機または加圧ニーダーにより行われる前記9に記載の導電性樹脂組成物の製造方法。
[11]前記1〜8のいずれかに記載の導電性樹脂組成物を用いた合成樹脂成形体。
[12]前記1〜8のいずれかに記載の導電性樹脂組成物を用いた電気・電子部品用容器。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、気相法炭素繊維として特定の熱処理および嵩比重を調整したものを使用し、できるだけ少量の添加量で、マトリックス樹脂中に均一に分散させ、安定した導電性ネットワークを達成したものであり、産業の利用価値は極めて高い。
【0019】
また、本発明に係る導電性樹脂組成物は、樹脂本来が有する機械的強度や流動性を損なうことなく、この組成物から得られる成形品、塗膜等は導電性、帯電防止性などの電気的特性に優れる。
【0020】
また、この導電性組成物から得られる成形品は機械的強度、塗装性、熱安定性、衝撃強度に優れ、かつ導電性、帯電防止性に優れているので、電気電子部品の搬送、包装用部品、電気電子分野やOA機器用部品、静電塗装用の自動車部品など、多くの分野に有利に適用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明で用いる気相法炭素繊維は、繊維径が5〜500nm、好ましくは3〜200nmであり、かさ密度が0.04〜0.1g/cm3、好ましくは0.04〜0.08g/cm3の範囲に調整されたものである。かさ密度が0.04g/cm3未満だと、樹脂複合材としたときの導電性が十分に向上せず、0.1g/cm3を超えると凝集塊を粉砕するために高せん断力が必要となり、その結果、繊維を破断してしまい、むしろ導電性が低下する。
【0022】
本発明においては、かさ密度の調整方法も重要であり、気相法炭素繊維間に適度の接着があり、接着のための不純物を含まない方法とすることが適切である。具体的には、繊維径が5〜500nmの気相法炭素繊維の反応生成物(as grown:アズグロウン)を圧縮成形し、不活性ガス雰囲気下、1000℃以上の温度で熱処理した後、かさ密度を0.04〜0.1g/cm3となるように解砕する方法が好ましい。このような方法を用いてかさ密度を調整することにより、樹脂複合材としたときの導電性をより向上させることができる。熱処理としては、1000〜1500℃での焼成処理、2000〜3000℃での黒鉛化処理または焼成及び黒鉛化処理の両方を行うことができる。
【0023】
気相法炭素繊維生成物を、単に圧縮成形してかさ密度を調整した場合には、かさ密度が上記の範囲内にあっても樹脂複合材としたときの導電性が十分に向上しないことがある。また、気相法炭素繊維生成物をステアリン酸等のバインダー化合物を用いて造粒し、かさ密度を調整した場合も、かさ密度が上記の範囲内にあっても樹脂複合材としたときの導電性が悪化することがある。
【0024】
また、本発明で使用する気相法炭素繊維において、アスペクト比は、50〜1000が好ましく、65〜500がより好ましく、特に80〜200が好ましい。比表面積は、2〜1000m2/gが好ましく、5〜500m2/gがより好ましく、平均繊維径は10〜200nmが好ましく、15〜170nmがより好ましく、特に70〜140nmが好ましい。
【0025】
本発明で用いる気相法炭素繊維生成物は、不活性ガス、かつ高温雰囲気下に、触媒となる鉄と共にガス化された有機化合物を吹き込むことにより製造することができる(特開平7−150419号公報等)。
【0026】
本発明において用いられるマトリックス樹脂としては、熱硬化性樹脂および熱可塑性樹脂のどちらも使用することができ、特に制限はない。好ましいマトリックス樹脂としては、成形加工時の粘度が低い樹脂であり、具体的には、エンジニアリングプラスチック、スーパーエンジニアリングプラスチック、低分子量プラスチック、熱硬化性樹脂等である。また、高分子量プラスチックの場合でも、成形加工温度を上昇させることが可能な場合は、粘度を下げることができ、好適に使用できる。
【0027】
熱可塑性樹脂としては、成形分野で使用される樹脂であれば特に制限はなく、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、液晶ポリエステル(LCP)等のポリエステルや、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリブテンー1(PB−1)、ポリブチレン等のポリオレフィンや、スチレン系樹脂の他、ポリオキシメチレン(POM)、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC),ポリメチレメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリスルフォン(PSU)、ポリエーテルスルフォン、ポリケトン(PK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルニトリル(PEN)、フェノール(ノボラック型など)フェノキシ樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素系樹脂、更にポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、ポリイソプレン系、フッ素系等の熱可塑性エラストマー等やこれらの共重合体、変性体、および2種類以上ブレンドした樹脂でもよい。
【0028】
また、耐衝撃性を更に向上させるために、上記熱可塑性樹脂にその他のエラストマーもしくはゴム成分を添加してもよい。エラストマーとしては、EPRやEPDMのようなオレフィン系エラストマー、スチレンとブタジエンの共重合体から成るSBR等のスチレン系エラストマー、シリコン系エラストマー、ニトリル系エラストマー、ブタジエン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ナイロン系エラストマー、エステル系エラストマー、フッ素系エラストマー、天然ゴムおよびそれらのエラストマーに反応部位(二重結合、無水カルボキシル基等)を導入した変性物のようなものが挙げられる。
【0029】
熱硬化性樹脂としては、成形分野で使用される樹脂であれば特に制限はなく、例えば、不飽和ポリエステル、ビニルエステル、エポキシ、フェノール(レゾール型)、ユリア・メラミン、ポリイミド等や、これらの共重合体、変性体、及び2種類以上ブレンドした樹脂などを使用することができる。また、耐衝撃性を更に向上させるために、上記熱硬化性樹脂にエラストマーもしくはゴム成分を添加してもよい。
【0030】
気相法炭素繊維の含有量は、導電性樹脂組成物中の3〜70質量%、好ましくは3〜60質量%、より好ましくは3〜50質量%、特に好ましくは3〜20質量%である。
【0031】
本発明に係る導電性樹脂組成物には、本発明の目的、効果を損なわない範囲で、他の各種樹脂添加剤を配合することができる。樹脂添加剤としては、例えば、着色剤、可塑剤、滑剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、充填剤、発泡剤、難燃剤、防錆剤などが挙げられる。これらの各種樹脂添加剤は、本発明に係る導電性樹脂組成物を調製する際の最終工程で配合するのが好ましい。
【0032】
導電性樹脂組成物を構成する各成分を混合・混練する際には、気相法炭素繊維の破断を極力抑えるように行うことが好ましい。具体的には、気相法炭素繊維の破断率を20%以下に抑えることが好ましく、15%以下が更に好ましく、10%以下が特に好ましい。破断率は、混合・混練の前後での炭素繊維のアスペクト比(例えば電子顕微鏡SEM観察により測定)を比較することにより評価する。
気相法炭素繊維の破断を極力抑えて混合・混練するには、例えば、以下のような手法を用いることができる。
【0033】
一般に、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂に無機フィラーを溶融混練する場合、凝集した無機フィラーに高せん断を加え、無機フィラーを破壊し、微細化して、溶融樹脂中へ無機フィラーを均一に分散させる。高せん断力を発生させる混練機としては、石臼機構を利用したものや、同方向2軸押出機でスクリューエレメント中に高せん断のかかるニーディングディスクを導入したものが数多く使用されている。しかし、このような混練機を使用すると、混練工程中において気相法炭素繊維を破断してしまう。また、せん断力の弱い単軸押出機の場合は、繊維の破断は抑えられるが、繊維の分散が均一にならない。したがって、繊維の破断を抑えながら、均一な分散をはかるためには、ニーディングディスクを使用しない同方向2軸押出機でせん断を低減したり、加圧ニーダーのような、高せん断がかからなくて、時間を掛けて分散が達成できるものや、単軸押出機において特殊なミキシングエレメントを使用することが望ましい。
【0034】
また、無機フィラーを樹脂中に充填するためには、溶融樹脂と無機フィラーの濡れが大切であり、無機フィラーを溶融樹脂中に導入する場合、溶融樹脂と無機フィラーの界面に相当する面積を増すことが不可欠である。濡れ性を向上させる方法として、例えば、気相法炭素繊維の表面を酸化処理する方法がある。
【0035】
本発明で使用する気相法炭素繊維のかさ密度は0.04〜0.1g/cm3のふわふわした状態のものであり、空気を巻き込みやすいため、通常の単軸押出機や同方向2軸押出機では脱気が難しく、充填には困難を伴う。そのため、充填性が良好で、繊維の破断を極力抑える混練機として、バッチ式の加圧ニーダーが好ましい。バッチ式加圧ニーダーで混練したものは、固化するまえに単軸押出機に投入して、ペレット化することができる。その他、空気を多く含んだ気相法炭素繊維を脱気でき、高充填可能な押出機として、例えば往復動単軸スクリュー押出機(コペリオン・ブス社製コ・ニーダー)が使用できる。
【0036】
本発明の導電性樹脂組成物の体積固有抵抗は、1012〜10-3Ω・cm、好ましくは109〜10-3Ω・cmとすることができる。
【0037】
本発明に係る導電性樹脂組成物は、耐衝撃性とともに導電性や帯電防止性が要求される製品、例えばOA機器、電子機器、導電性包装用部品、帯電防止性包装用部品、静電塗装が適用される自動車部品などの製造用の成形材料として好適に使用できる。これら製品を製造する際には、従来から知られている導電性樹脂組成物の成形法によることが出来る。成形法としては、例えば、射出成形法、中空成形法、押出成形法、シート成形法、熱成形法、回転成形法、積層成形法、トランスファー成形法などが挙げられる。
【実施例】
【0038】
以下に本発明を実施例によって、詳しく説明するが、本発明はこれらの範囲に限定されるものではない。
【0039】
実施例1〜11、比較例1〜7
実施例および比較例の配合を表1及び表2に示す。配合表にしたがって、樹脂および導電性フィラーを溶融混練し、その混練物を射出成形してアイゾット衝撃強度用試験片および体積固有抵抗測定用の平板を作成した。それらを用いてノッチ付アイゾット衝撃強度用試験片を切削加工した。
使用した樹脂、導電性フィラー、導電性フィラーのかさ密度の調整方法、混練条件、成形条件、評価方法の詳細を以下に示す。各実施例および比較例の体積固有抵抗およびノッチ付アイゾット(Izod)衝撃値を表1及び表2に併せて示す。
【0040】
[混練方法]
イ)熱可塑性樹脂
池貝製同方向2軸押出機(PCM30)を使用し、混練温度を280℃で行った。
ロ)熱硬化性樹脂
トーシン(株)製加圧ニーダー(混練容量10リットル)を使用し、温度は60℃に設定した。
【0041】
[成形方法]
イ)熱可塑性樹脂
住友重機(株)製サイキャップ型締力75トン射出成形機を使用して、成形温度280℃、金型温度130℃にて、ASTM D256に準拠したアイゾット試験片および平板(100×100×2mm厚)を成形した。ノッチ付アイゾット試験片は切削加工を行った。
ロ)熱硬化性樹脂
名機製作所(株)製射出成形機M−70C−TSを使用して、成形温度120℃、金型温度150℃にて、ASTM D256に準拠したアイゾット試験片および平板(100×100×2mm厚)を成形した。ノッチ付アイゾット試験片は切削加工を行った。
【0042】
[気相法炭素繊維]
イ)VGCF(登録商標):昭和電工製気相法炭素繊維(平均繊維径:150nm、平均繊維長:10μm)を使用した。
ロ)VGCF−S:昭和電工製気相法炭素繊維(平均繊維径:100nm、平均繊維長:11μm)を使用した。
ハ)VGNF(登録商標):昭和電工製気相法炭素繊維(平均繊維径:80nm、平均繊維長:10μm)を使用した。
ニ)VGNT(登録商標):昭和電工製気相法炭素繊維(平均繊維径:20nm、平均繊維長:10μm)を使用した。
【0043】
[導電性フィラーのかさ密度調整方法]
イ)アズグロウン繊維を圧縮成形し、2800℃で黒鉛化処理したものを、解砕し、かさ密度を調整した。
ロ)圧縮成形のみでかさ密度を調整した。
ハ)ステアリン酸を使用して、100℃のヘンシェルミキサーで造粒し、かさ密度を調整した。
【0044】
[使用した合成樹脂]
イ)熱可塑性樹脂
ポリカーボネート樹脂(PC):帝人化成(株)製パンライトL−1225L。
ロ)熱硬化性樹脂
アリルエステル樹脂:昭和電工(株)製AA101(粘度630000cps(30℃))。有機過酸化物として、ジクミルパーオキサイド(日本油脂製:パークミルD)を使用した。
【0045】
[評価物性の測定方法]
イ)ノッチ付アイゾット衝撃値:ASTM D256に準拠して測定した。
ロ)体積固有抵抗:JIS K7194に準拠し、四探針法により測定した。
ハ)かさ密度:100cm3のメスシリンダーに導電性フィラー1gを導入し、1分間振動させ、次にかき混ぜた後、30秒再度振動させた。そのときの体積を測定し、かさ密度を算出した。
ハ)炭素繊維の破断率(%):以下の式により求めた。
炭素繊維の破断率(%)={1−(組成物成形品の炭素繊維のアスペクト比/混合・混
練する前の炭素繊維のアスペクト比)}×100
ここで、アスペクト比は、電子顕微鏡(SEM)写真像に基づいて測定、算出した。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維径が5〜500nm、かさ密度が0.04〜0.1g/cm3である気相法炭素繊維を溶融マトリックス樹脂に溶融混合してなることを特徴とする導電性樹脂組成物。
【請求項2】
気相法炭素繊維が、繊維径が5〜500nmの気相法炭素繊維生成物を圧縮成形し、不活性ガス雰囲気下、1000℃以上の温度で熱処理した後、かさ密度が0.04〜0.1g/cm3となるように解砕してなるものである請求項1に記載の導電性樹脂組成物。
【請求項3】
気相法炭素繊維のアスペクト比が50〜1000である請求項1または2に記載の導電性樹脂組成物。
【請求項4】
気相法炭素繊維の含有量が3〜70質量%である請求項1〜3のいずれかに記載の導電性樹脂組成物。
【請求項5】
気相法炭素繊維の平均繊維径が10〜200nmである請求項1〜4のいずれかに記載の導電性樹脂組成物。
【請求項6】
マトリックス樹脂が、熱可塑性合成樹脂及び熱硬化性合成樹脂の少なくとも1種である請求項1〜5のいずれかに記載の導電性樹脂組成物。
【請求項7】
溶融混合による気相法炭素繊維の破断が20%以下である請求項1〜6のいずれかに記載の導電性樹脂組成物。
【請求項8】
気相法炭素繊維の含有量が5質量%以下であって、体積固有抵抗値が1×107Ωcm以下である請求項1〜7のいずれかに記載の導電性樹脂組成物。
【請求項9】
マトリックス樹脂に気相法炭素繊維を溶融混合する請求項1〜8のいずれかに記載の導電性樹脂組成物の製造方法であって、溶融混合時における前記気相法炭素繊維の破断を20%以下に抑えることを特徴とする導電性樹脂組成物の製造方法。
【請求項10】
溶融混合が、同方向2軸押出機または加圧ニーダーにより行われる請求項9に記載の導電性樹脂組成物の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれかに記載の導電性樹脂組成物を用いた合成樹脂成形体。
【請求項12】
請求項1〜8のいずれかに記載の導電性樹脂組成物を用いた電気・電子部品用容器。

【公開番号】特開2006−97005(P2006−97005A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−249810(P2005−249810)
【出願日】平成17年8月30日(2005.8.30)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】