説明

導電性熱可塑性樹脂成形体

【課題】表面抵抗値を安定して発現し得る導電性熱可塑性樹脂成形体を提供する。
【解決手段】少なくとも1個のビニル芳香族炭化水素を主体とする重合体ブロックAと少なくとも1個の共役ジエンを主体とする重合体ブロックBとを含みビニル芳香族炭化水素含有量が40〜99質量%のブロック共重合体(a)を少なくとも1種及び、少なくとも1種の導電性フィラーを含有するスチレン系樹脂組成物得られる成形体であって、導電性フィラーがブロック共重合体(a)に選択的に分散し、表面抵抗値が10〜1010Ω/cmであることを特徴とする導電性熱可塑性樹脂成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体や電子部品用包装材料等の分野に適した導電性スチレン系樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に熱可塑性樹脂で成形されたシートや成形体は、表面固有抵抗値が高く、非常に帯電しやすいため、半導体や電子部品包装材料(例えば、これらの電子材料を搬送するためのエンボスキャリアテープ、トレー、マガジン等の容器やシート)として用いると、電子材料に静電気による障害や破壊が発生する。従って、これらの包装材料は、少なくとも帯電防止レベルまでの表面導電性を付与する必要がある。これらの材料に導電性を付与する方法としては、導電性カーボンブラックを熱可塑性樹脂に練りこむ方法などが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ポリスチレン系樹脂中のポリスチレン成分100重量部に、ミネラルオイル1〜15重量部、ブタジエンゴム1〜10重量部、及びDPB吸油量100ml/100g以上のカーボンブラック10〜20重慮部を配合した導電性樹脂組成物が開示されているが、機械的強度が十分でない。
また、特許文献2には、ポリオレフィン、及びポリオレフィンに対して相溶性に乏しいポリマー(ポリアミド、ポリエステル、ポリスチレン、ポリ(メタ)アクリレート)を混合した樹脂組成物と、カーボンブラックとで構成された熱可塑性樹脂組成物が開示されている。この樹脂組成物においてはポリオレフィンよりなる樹脂相と非相溶性樹脂相とが網目構造を形成し、カーボンブラックがポリオレフィン樹脂相の中に選択的に分散されることにより、カーボンブラックの使用量が少ない場合でも効率よく導電路が形成されている。
そして、特許文献3には、ポリスチレン系樹脂100重量部に、カーボンブラック5〜50重量部、オレフィン系樹脂1〜30重量部、スチレン−共役ジエンブロックコポリマー0.2〜10重量部を配合したIC包装用導電性樹脂組成物が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開平1−230655号公報
【特許文献2】特開昭50−32240号公報
【特許文献3】特開平8−283584号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、表面抵抗値を安定して発現し得る導電性熱可塑性樹脂成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記のように、ポリオレフィンと他の樹脂の非相溶性、ポリオレフィンとカーボンブラックとの親和性を応用したこれらの手法においては、ポリオレフィンの添加による著しい剛性の低下や、外観不良が見られる等の欠点があった。また、電子材料用途においては、電荷減衰時間、ホットスポット電圧、電荷移動速度といった特性に対応できる表面抵抗値として、10〜10Ω/cmが最適な範囲と言われているが、この表面抵抗値は不安定な領域にあり、ポリオレフィンを用いたこれらの手法では、微量のカーボンブラックで表面抵抗値が下がりすぎるため、この範囲の表面抵抗値を安定的に設計するのが難しく、安定した表面抵抗値を発現できる導電性熱可塑性樹脂成形体が求められている。
【0007】
本発明者らは、特定構造のビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物のブロック共重合体と導電性フィラーを含有するスチレン系樹脂組成物からなり、導電性フィラーの分散形態が制御された成形体において、安定した表面抵抗値を発現できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
[1]少なくとも1個のビニル芳香族炭化水素を主体とする重合体ブロックAと少なくとも1個の共役ジエンを主体とする重合体ブロックBとを含みビニル芳香族炭化水素含有量が40〜99質量%のブロック共重合体(a)を少なくとも1種及び、少なくとも1種の導電性フィラーを含有するスチレン系樹脂組成物から得られる成形体であって、導電性フィラーがブロック共重合体(a)に選択的に分散し、表面抵抗値が10〜1010Ω/cmであることを特徴とする導電性熱可塑性樹脂成形体、
[2]ビニル芳香族炭化水素重合体ブロックの割合がブロック共重合体(a)中の全ビニル芳香族炭化水素の50〜95重量%であり、ブロック共重合体(a)のビニル芳香族炭化水素重合体ブロックの数平均分子量Mnが1万以上15万以下であることを特徴とする上記[1]記載の導電性熱可塑性樹脂成形体、
【0009】
[3]ブロック共重合体(a)10〜98質量%、スチレン系樹脂1〜89質量%、導電性フィラー1〜30質量%を含むことを特徴とする上記[1]又は[2]に記載の導電性熱可塑性樹脂成形体、
[4]スチレン系樹脂がポリスチレン系樹脂、ビニル芳香族炭化水素−(メタ)アクリル酸エステル共重合体から選ばれた1種以上であることを特徴とする上記[3]に記載の導電性熱可塑性樹脂成形体、
[5]スチレン系樹脂がゴム粒子の平均粒子径が1.5μm〜5μmである耐衝撃性ポリスチレン樹脂であることを特徴とする上記[3]に記載の導電性熱可塑性樹脂成形体、
[6]成形体が、キャリアテープである上記[1]〜[5]のいずれか1項に記載の導電性熱可塑性樹脂成形体、
である。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、特に10〜10Ω/cmの表面抵抗領域値を安定して発現し得る導電性熱可塑性樹脂成形体を提供することが可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明で用いるブロック共重合体(a)は、少なくとも1個のビニル芳香族炭化水素を主体とする重合体ブロックAと少なくとも1個の共役ジエンを主体とする重合体ブロックBから構成されるブロック共重合体である。
ここでビニル芳香族炭化水素を主体とする重合体ブロックAとはビニル芳香族炭化水素含有量を50質量%以上含有するビニル芳香族炭化水素と共役ジエンとの共重合体ブロック及び/又はビニル芳香族炭化水素単独重合体ブロックであり、共役ジエンを主体とする重合体ブロックBとは共役ジエンを50質量%を越える量で含有する共役ジエンとビニル芳香族炭化水素共重合体ブロック及び/又は共役ジエン単独重合体ブロックをいう。
【0012】
ビニル芳香族炭化水素を主体とする重合体ブロックA或は共役ジエンを主体とする重合体ブロックB中にビニル芳香族炭化水素と共役ジエンのランダム共重合体部分が存在する場合、共重合されているビニル芳香族炭化水素は重合体ブロック中に均一に分布していても、テーパー(漸減)状に分布していてもよい。また、該共重合体部分はビニル芳香族炭化水素が均一に分布している部分及び/又はテーパー状に分布している部分が複数個共存してもよい。
また、ブロック共重合体(a)が少なくとも一つの共役ジエン単独重合体ブロック(B)と少なくとも一つのビニル芳香族炭化水素と共役ジエンとのランダム共重合体ブロック(B)の2種類のブロックを分子内に同時に併せ持つ構造であってもよい。
本発明のブロック共重合体(a)が複数個の重合体ブロックA(またはB)を有する場合、それらは分子量、組成、種類等が異なっていても良い。
【0013】
本発明で用いるブロック共重合体(a)は、基本的には従来公知の手法で製造することができ、例えば特公昭36−19286号公報、特公昭43−17979号公報、特公昭48−2423号公報、特公昭49−36957号公報、特公昭57−49567号公報、特公昭58−11446号公報などに記載された手法が挙げられる。上記の公知の手法はすべて、炭化水素溶剤中で有機リチウム化合物等のアニオン開始剤を用い、共役ジエンとビニル芳香族炭化水素をブロック共重合する手法である。本発明で用いるブロック共重合体のポリマー構造は例えば
A−(B−A)、A−(B−A)−B、B−(A−B)n+1
〔上式において、Aはビニル芳香族炭化水素を主体とする重合体ブロックであり、Bは共役ジエンを主体とする重合体ブロックである。AブロックとBブロックとの境界は必ずしも明瞭に区別される必要はない。nは1以上の整数、一般的には1〜5である。〕で表される線状ブロック共重合体、あるいは
[(A−B)m+2−X、[(A−B)−A]m+2−X、[(B−A)m+2−X、
[(B−A)−B]m+2−X
〔上式において、A、Bは前記と同じであり、k及びmは1以上の整数、一般的には1〜5である。Xは例えば四塩化ケイ素、四塩化スズなどのカップリング剤の残基または多官能有機リチウム化合物等の開始剤の残基を示す。〕で表されるラジアルブロック共重合体である。また、上記のブロック共重合体を2種類以上混合して使用することもできる。
【0014】
本発明のブロック共重合体(a)に用いられるビニル芳香族炭化水素としては、スチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、1,3−ジメチルスチレン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、1,1−ジフェニルエチレンなどが挙げられるが、代表的なビニル芳香族炭化水素としてはスチレン、p−メチルスチレンが挙げられる。これらは1種のみならず2種以上混合して使用してもよい。共役ジエンとしては、1対の共役二重結合を有するジオレフィンであり、例えば1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン(イソプレン)、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエンなどが挙げられる。代表的な共役ジエンとしては、1,3−ブタジエン、イソプレンなどが挙げられる。これらは1種のみならず2種以上混合して使用してもよい。
1,3−ブタジエンとイソプレンを併用する場合、1,3−ブタジエンは10質量%以上であることが好ましく、25質量%以上であることが更に好ましく、40質量%以上であることが特に好ましい。1,3−ブタジエンが10質量%以上であると、成形時等に熱分解を起こさず分子量が低下しないため好ましく用いることができる。
【0015】
炭化水素溶媒としては、ブタン、ペンタン、ヘキサン、イソペンタン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素、或はベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素等が使用できる。これらは1種のみならず2種以上混合使用してもよい。
有機リチウム化合物としては、分子中に一個以上のリチウム原子を結合した有機モノリチウム化合物、有機ジリチウム化合物、有機ポリリチウム化合物等が挙げられる。これらの具体例としては、エチルリチウム、n−プロピルリチウム、イソプロピルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウム、ヘキサメチレ
ンジリチウム、ブタジエニルジリチウム、イソプレニルジリチウム等が挙げられる。これらは1種のみならず2種以上混合使用してもよい。
【0016】
本発明においては、重合速度の調整、重合した共役ジエン部のミクロ構造(シス、トランス、ビニルの比率)の変更、共役ジエンとビニル芳香族炭化水素の反応比の調整などの目的で極性化合物やランダム化剤を使用することができる。極性化合物やランダム化剤としては、テトラヒドロフラン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル等のエーテル類、トリエチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン等のアミン類、チオエーテル類、ホスフィン類、ホスホルアミド類、アルキルベンゼンスルホン酸塩、カリウムやナトリウムのアルコキシド等が挙げられる。
【0017】
本発明の方法においてブロック共重合体(a)を製造する際の重合温度は、一般的には−10℃〜150℃、好ましくは40℃〜120℃の範囲である。重合に要する時間は、条件によって異なるが、通常は48時間以内であり、特に好適には1〜10時間の範囲である。また、重合系の雰囲気は窒素ガスなどの不活性ガスなどをもって置換するのが望ましい。重合圧力は上記重合温度範囲でモノマー及び溶媒を液層に維持するに充分な圧力の範囲で行えばよく、特に制限されるものではない。更に重合系内には触媒及びリビングポリマーを不活性化させるような不純物、例えば水、酸素、炭酸ガス等が混入しないよう留意する必要がある。
本発明で用いるブロック共重合体(a)のビニル芳香族炭化水素含有量の範囲は40〜99質量%であり、好ましくは65〜95質量%の範囲、より好ましくは70〜90質量%の範囲である。ブロック共重合体のビニル芳香族炭化水素含有量が40質量%以上では安定した表面抵抗値が得られる。
【0018】
本発明においてブロック共重合体(a)中に組み込まれているビニル芳香族炭化水素重合体ブロックのブロック率の範囲は40〜100質量%であり、好ましくは50〜95質量%である。ブロック率が40質量%以上の場合は、成形体の剛性に優れるために好ましく、50質量%以上の場合は、剛性と耐折り曲げ性のバランスに優れるため好ましく、95質量%以下の場合は、より少ない導電性フィラー量で安定した表面抵抗値を発現するため好ましい。ビニル芳香族炭化水素ブロックのブロック率は、ブロック共重合体の製造時において少なくとも一部のビニル芳香族炭化水素と共役ジエンが共重合する工程におけるビニル芳香族炭化水素と共役ジエンの重量比、重合反応性比等を変えることによりコントロールすることができる。具体的な方法としては;(イ)ビニル芳香族炭化水素と共役ジエンとの混合物を連続的に重合系に供給して重合する、及び/又は、(ロ)極性化合物或はランダム化剤を使用してビニル芳香族炭化水素と共役ジエンを共重合する、等の方法が採用できる。
【0019】
極性化合物やランダム化剤としては、テトラヒドロフラン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル等のエーテル類、トリエチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン等のアミン類、チオエーテル類、ホスフィン類、ホスホルアミド類、アルキルベンゼンスルホン酸塩、カリウムやナトリウムのアルコキシド等が挙げられる。
尚、本発明においてブロック共重合体中に組み込まれているビニル芳香族炭化水素重合体ブロックのブロック率とは、四酸化オスミウムを触媒としてジ・ターシャリーブチルハイドロパーオキサイドによりブロック共重合体を酸化分解する方法〔I.M.KOLTHOFF,etal.,J.Polym.Sci.1,429(1946)に記載の方法〕により得たビニル芳香族炭化水素重合体ブロック成分(但し平均重合度が約30以下のビニル芳香族炭化水素重合体成分は除かれている)を定量し、下記の式から求めた値を云う。
【0020】
【数1】

【0021】
本発明のブロック共重合体(a)は、2種類以上の混合物であっても構わない。
特にブロック率が80質量%以上のブロック共重合体と80質量%以下のブロック共重合体を併用することにより、長期保管時あるいは船の倉庫内のような高温下での輸送後でも耐折り曲げ性を損なわないためにより好ましい。
本発明のブロック共重合体(a)の数平均分子量Mnは、40,000〜500,000が好ましく、80,000〜300,000が剛性、耐折性と加工性のバランスに優れるため特に好ましい。
本発明のブロック共重合体(a)のビニル芳香族炭化水素重合体ブロックの数平均分子量Mnは1万以上が強度に優れるため好ましく、15万以下が少量の導電性フィラーで安定した表面抵抗値を発現するため好ましい。
本発明のブロック共重合体(a)の好ましい配合量は20〜70質量%、好ましくは20〜60質量%、更に好ましくは20〜45質量%、最も好ましくは30〜40質量%である。20〜70質量%では剛性、耐折り曲げ性、透明性のバランスに優れるので好ましい。20〜45質量%では耐折り曲げ性を損なわずに高剛性となるので好ましい。30〜40質量%の範囲にあっては、更に耐折り曲げ性と剛性のバランスが優れるので好ましい。
【0022】
本発明のスチレン系樹脂は、スチレンもしくはこれと共重合可能なモノマーを重合して得られるものである。スチレンと共重合可能なモノマーとしては、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、1,3−ジメチルスチレン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、1,1−ジフェニルエチレン、アクリロニトリル、無水マレイン酸、(メタ)アクリル酸エステル等があげられる。
(メタ)アクリル酸エステルは、メタクリル酸のメチルエステル、エチルエステル、n−ブチルエステル、i−ブチルエステル、t−ブチルエステル、2−エチルヘキシルエステル、アクリル酸のメチルエステル、エチルエステル、n−ブチルエステル、2−エチルヘキシルエステルなど、(メタ)アクリル酸と炭素数1〜8のアルコールとのエステルである。特に好ましいスチレン系樹脂としてはポリスチレン、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリル酸ブチル共重合体を挙げることができる。スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリル酸ブチル共重合体においてメタクリル酸メチルあるいはアクリル酸ブチルの共重合組成比は、最終組成物の表面抵抗値の安定的発現のため、好ましくは10〜30重量%、より好ましくは12〜25重量%であるが、0.1〜2%の他の単量体を含んでいてもよい。
上記スチレン系樹脂の重量平均分子量Mwは、180,000〜500,000が好ましく200,000〜400,000が透明性、耐折性と加工性のバランスに優れるため特に好ましい。
【0023】
更に、耐衝撃性ポリスチレン樹脂も本発明のスチレン系樹脂に含まれる。耐衝撃性ポリスチレン樹脂は、ブタジエ系ゴム状重合体をスチレンに溶解後、スチレンの重合を開始し、ゴム状重合体にスチレンがグラフト重合する条件下で重合を行ったものであり、グラフトされたゴム状重合体が形成するゴム粒子の平均粒子径が好ましくは1.5μm〜5μm
の範囲である。より好ましくは、2.0μm〜4μmの範囲である。1.5μm〜5μmの範囲では、透明性を維持しつつ剛性と耐折り曲げ性を発現できるために好ましい。ゴム粒子径は、コールターカウンターにより測定できる。
上記耐衝撃性ポリスチレン樹脂の200℃、5kg荷重におけるMFRは、0.5〜35g/10分が好ましく、特に好ましくは1.0〜25g/10分が表面外観と成形性に優れるため好ましい。
【0024】
本発明における導電性フィラーとしては、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ガスブラック、アセチレンブラック、アークブラック、カーボンンナノチューブ等が例示できる。これらの導電性カーボンのうち、DBP(ジブチルフタレート)吸油量が100ml/100g以上、好ましくは110〜200ml/100gのカーボンブラックが好ましく、たとえば導電性に優れたファーネスブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラックが好ましい。さらにこれらの導電性フィラーを組み合わせた導電性複合フィラーでも良い。導電性フィラーの被表面積としては、20〜300m/g程度が好ましい。
【0025】
本発明において、ブロック共重合体(a)の好ましい配合量は10〜98質量%であり、より好ましくは20〜95質量%である。上記の範囲で、良好な表面抵抗値が得られる。スチレン系樹脂の好ましい配合量は1〜89質量%であり好ましくは3〜79質量%である。上記の範囲で、剛性と耐折性のバランスに優れる。導電性フィラーの好ましい配合量は1〜30質量%、より好ましくは、2〜10質量%さらに好ましくは、2〜7質量%である。1〜30質量%では、表面抵抗値を十分低下させることが出来、2〜10質量%では表面抵抗値を、電荷減衰時間、ホットスポット電圧、電荷移動速度といった特性に対応できる10〜10Ω/cmの範囲に安定して設計することができ、2〜7質量%では、耐折性を十分高い値に設計することができる。
【0026】
本発明の効果を著しく損なわない範囲内で、各種目的に応じて任意の添加剤を配合することができる。添加剤の種類は,樹脂やゴム状重合体の配合に一般的に用いられるものであれば特に制限はない。無機充填剤,酸化鉄等の顔料,ステアリン酸,ベヘニン酸,ステアリン酸亜鉛,ステアリン酸カルシウム,ステアリン酸マグネシウム,エチレンビスステアロアミド等の滑剤,離型剤,パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル、パラフィン、有機ポリシロキサン,ミネラルオイル等の軟化剤・可塑剤,ヒンダードフェノール系酸化防止剤、りん系熱安定剤等の酸化防止剤,ヒンダードアミン系光安定剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤,難燃剤,帯電防止剤,有機繊維,ガラス繊維,炭素繊維,金属ウィスカ等の補強剤,着色剤、その他添加剤或いはこれらの混合物等が挙げられる。また、スチレン量が40質量%以下のスチレン−ブタジエンブロック共重合体に代表されるスチレン系熱可塑性エラストマーを初めとする各種熱可塑性エラストマーを適宜用いることができる。
【0027】
本発明において、導電性フィラーはブロック共重合体(a)に選択的に分散することが必須である。分散形態は例えば、オスミウム酸染色法による透過型電子顕微鏡によって観察することができ、この場合、ブロック共重合体(a)の共役ジエンを含む相、及び、耐衝撃性ポリスチレンのゴム粒子が黒色に染色されるが、両者は明確に区別可能である。本発明において、導電性フィラーがブロック共重合体(a)に分散するという意味は、導電性フィラーがブロック共重合体(a)の共役ジエンを含む黒色に染色された相に接触している場合をいい、導電性フィラーのいずれの位置も黒色に染色された相に接触せず孤立している場合は、ブロック共重合体(a)に分散しているとは言わない。また、導電性フィラーは、一次粒子が集合し、数10から100nm程度のクラスター構造をとることがあるが、この場合、クラスターのいずれの部分も共役ジエンを含む黒色に染色された相に接触してない場合は、ブロック共重合体(a)に分散しているとは言わない。本発明にいう選択的とは、分散している導電性フィラーのうち60%以上がブロック共重合体(a)に
分散している場合をいい、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上である。60%以上では少ない導電性フィラー量で表面抵抗値をさげることが出来、80%以上では、表面抵抗値を、電荷減衰時間、ホットスポット電圧、電荷移動速度といった特性に対応できる10〜10Ω/cmの範囲に少量の導電性フィラーで設計することができ、90%以上では更に安定した抵抗値を発現することができる。
【0028】
本発明における前記の選択分散は、ビニル芳香族炭化水素含有量が40〜99質量%のブロック共重合体(a)を用いて形成することが重要である。ビニル芳香族炭化水素含量が40重量%未満のブロック共重合体を用いた場合においても導電性フィラーは該ブロック共重合体に選択分散することが可能であるが、この場合十分な表面抵抗値を発現するためには、表面抵抗値と剛性が著しく低下し、剛性を確保する量のブロック共重合体の配合では、電子部品包材用途に適した表面抵抗値が確保できない。
【0029】
本発明の成形体の成形方法は特に制限はなく、シート、フィルム、シートからの真空成形、プレス成形、延伸、射出成形、ブロー成形等公知の成形法が可能であり、これらの成形法で得られた成形体を含む。本発明の分散形態を得るための方法は特に制限はないが、例えば、リボンブレンダー、ヘンシェルミキサー等の混合機等で調製した樹脂組成物を、単軸、二軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサー、ロール等の混練機に供給し、加熱溶融混練りして得ることができる。また、組成物は、一括混練しても良いし、あらかじめ樹脂のみを混練りし、導電性フィラーを後から混練りする方法、あらかじめ導電性フィラーといずれかの樹脂を予備混練し、後から残りの樹脂を混練する方法のいずれでも構わない。
【0030】
また、分割して混練する場合には、一旦ペレット等を作成してから残りの材料をドライブレンドした後再度溶融混練する手法、押出機等で溶融状態にサイドフィード等の手法で今練する手法などが取られる。
本発明の導電性熱可塑性系樹脂成形体は、半導体や電子部品搬送用成形品、特に電子部品を収容するための凹部を有し、カバーテープで密封して電子部品を収納するキャリアテープ(エンボスキャリアテープ)等に有用である。キャリアテープでは、電子部品を収納した後にカバーテープにより蓋をしたものを含む。また、本発明の樹脂成形体を他の樹脂と多層化して使用することも可能である。
【実施例】
【0031】
次に実施例によって本発明を説明する。
本願発明および実施例で用いた評価法をまず説明する。
(A)評価
(1)ブロック率
四酸化オスミウムを触媒としてジ・ターシャリーブチルハイドロパーオキサイドによりブロック共重合体を酸化分解する方法〔I.M.KOLTHOFF,etal.,J.Polym.Sci.1,429(1946)に記載の方法〕により得たビニル芳香族炭化水素重合体ブロック成分を定量し、下記の式から求めた。
【0032】
【数2】

【0033】
(2)引張り弾性率
ASTM D638に準拠し、ミネベア株式会社製TG−5KN型試験機を用い、試験速度5mm/minでMDについて測定した。
(3)表面抵抗値
表面抵抗値が10Ω/cm以下の試験片は、ロレスターGP(MCP−T610)(三菱化学株式会社製)、10Ω/cm以上の試験片は、絶縁計(SM8220)(東亜電波工業株式会社製)を用いて測定した。
【0034】
(B)使用した原材料
(1)ブロック共重合体(a−1)
攪拌機付きオートクレーブを用い、窒素ガス雰囲気下で
i)スチレン25質量部を含むシクロヘキサン溶液にn−ブチルリチウムを0.080質量部を添加し、80℃で20分間重合した。
次にii)スチレン15質量部と1,3−ブタジエン24質量部を含むシクロヘキサン溶液を60分間連続的に添加して80℃で重合した。
【0035】
次にiii)スチレン36質量部を含むシクロヘキサン溶液を25分間連続的に添加して80℃で重合した後、80℃で10分間保持した。その後、重合器にメタノールをn−ブチルリチウムに対して0.9倍モル添加して重合を停止し、安定剤として2−〔1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ペンチルフェニル)エチル〕−4,6−ジ−t−ペンチルフェニルアクリレートをブロック共重合体100質量部に対して0.5質量部を加えた後、脱溶媒してブロック共重合体(a−1)を得た。ブロック共重合体a−1は、スチレン/1,3−ブタジエン=100/0質量比である重合体ブロックA、スチレン/1,3−ブタジエン=38.5/61.5質量比である重合体ブロックB、スチレン/1,3−ブタジエン=100/0質量比である重合体ブロックAよりなるA−B−A型ブロック重合体である。また、得られたブロック共重合体a−1は、数平均分子量85000、スチレン含有量は77.5質量%、ブロック率は79質量%、また、メルトフローレートは7g/10分(ASTM D1238に準拠、200℃、荷重5kg)、スチレンブロックの数平均分子量Mn=2万であった。
【0036】
(2)ブロック共重合体(a−2〜a−7)
ブロック共重合体(a−1)と同様の手法を用い、(a−1)のi)、ii)、iii)にて添加するスチレン、1,3−ブタジエンの添加量及び、n−ブチルリチウムの添加量を適宜コントロールすることで、ブロック共重合体(a−2〜a−7)を作成した。
尚、n−ブチルリチウムの添加量を少なくすると分子量は大きくなる。i)、iii)で添加するスチレン量に対し、ii)で添加するスチレン量を増やすとスチレンブロック率は低下する。
得られたブロック共重合体(a−1)〜(a−7)の性状を表1に示した。
【0037】
(3)スチレン系樹脂
(i)市販のポリスチレンのうち、重量平均分子量約34万のポリスチレンを(b−1)、重量平均分子量約22万のポリスチレンを(b−2)として用いた。
(ii)スチレン−メチルメタクリレート共重合体
新日鉄化学株式会社製 エスチレン MS−200を(b−3)として用いた。
(iii)スチレン−ブチルアクリレート共重合体
PSジャパン株式会社製 ポリスチレン SC004を(b−4)として用いた。
(iv)ハイインパクトポリスチレン(HIPS)
市販のHIPSのうち、平均ゴム粒子径2.3μm、ゴム分6.6%のHIPSを(b−5)として用いた。
【0038】
(4)ポリエチレン
旭化成ケミカルズ株式会社製 LDPE M2270を(c−1)用いた。
(5)スチレン系熱可塑性エラストマー
旭化成ケミカルズ株式会社製 タフプレン126を(d−1)として用いた。
(6)導電性フィラー
ライオン株式会社製 ケッチェンブラックEC600JDを(e−1)として用いた。
【0039】
[実施例1〜11および比較例1〜4]
ユニオンプラスチックス株式会社製Tダイ装着押し出し機(USV型/バレル径40mmφ、L/D=28、幅400mmTダイ装着)のホッパーに表2に示す配合にて各原料ペレットを投入した。押し出し機のシリンダー内樹脂温度とTダイの温度を調整し、厚さ約0.3mmのシートを押し出し成形した。
得られたシートについて、(評価)の項目で記載した手法に基いて、耐折性、引張り弾性率、ヘイズ、耐折性の経時変化を測定した。
結果を表2に示した。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の導電性熱可塑性樹脂成形体は、特に10〜10Ω/cmの表面抵抗領域において、安定した抵抗値を発現し、キャリアテープをはじめ、電子部品用包装材料用途に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1個のビニル芳香族炭化水素を主体とする重合体ブロックAと少なくとも1個の共役ジエンを主体とする重合体ブロックBとを含みビニル芳香族炭化水素含有量が40〜99質量%のブロック共重合体(a)を少なくとも1種及び、少なくとも1種の導電性フィラーを含有するスチレン系樹脂組成物から得られる成形体であって、導電性フィラーがブロック共重合体(a)に選択的に分散し、表面抵抗値が10〜1010Ω/cmであることを特徴とする導電性熱可塑性樹脂成形体。
【請求項2】
ビニル芳香族炭化水素重合体ブロックの割合がブロック共重合体(a)中の全ビニル芳香族炭化水素の50〜95重量%であり、ブロック共重合体(a)のビニル芳香族炭化水素重合体ブロックの数平均分子量Mnが1万以上15万以下であることを特徴とする請求項1記載の導電性熱可塑性樹脂成形体。
【請求項3】
ブロック共重合体(a)10〜98質量%、スチレン系樹脂1〜89質量%、導電性フィラー1〜30質量%を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の導電性熱可塑性樹脂成形体
【請求項4】
スチレン系樹脂がポリスチレン系樹脂、ビニル芳香族炭化水素−(メタ)アクリル酸エステル共重合体から選ばれた1種以上であることを特徴とする請求項3に記載の導電性熱可塑性樹脂成形体。
【請求項5】
スチレン系樹脂がゴム粒子の平均粒子径が1.5μm〜5μmである耐衝撃性ポリスチレン樹脂であることを特徴とする請求項3に記載の導電性熱可塑性樹脂成形体。
【請求項6】
成形体が、キャリアテープである請求項1〜5のいずれか1項に記載の導電性熱可塑性樹脂成形体。

【公開番号】特開2008−248056(P2008−248056A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−90344(P2007−90344)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】