説明

導電性粒子の製造方法および製造装置

【課題】溶融した導電性材料の流れに加える電磁力の印加間隔を適正化することにより、サイズの揃った導電性粒子を効率よく製造するための方法および製造装置を提供する。
【解決手段】導電性材料の流体を連続した中実の流れとして落下させ、この落下しつつある流れに断続的に電磁力を加えて擾乱を生じさせ、該擾乱を発達させることにより前記流れを分断し、分断した流体をそれ自身の表面張力によって球状化させ、少なくとも球の表面が凝固した粒子を捕集することにより導電性粒子を製造する方法であって、前記擾乱の初期振幅は、前記流れの直径の1/2未満であり、かつ前記電磁力を加える際の電磁力印加周波数は、前記流れが自然に擾乱する不安定周波数を中心として−50%〜+50%の範囲とすることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性粒子の製造方法および製造装置に関し、例えば球状Si太陽電池等に用いられる球状Si粒子を製造するための方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、流体を連続した中実の流れ(以下、「ジェット」と言う。)として落下させると、それ自体が不安定であるが故に、表面エネルギー的に最も安定な状態となるよう擾乱し、ある特定の波長で自然に分裂する。この波長(以下、「不安定波長」と言う。)λcwは、粘性流体において、以下に示される式(1)によって与えられる。ここで、Dは流体が流出するノズル径、ηは粘度、ρは密度、γは表面張力である。
【0003】
【数1】

【0004】
このように分裂した流体は、落下している間にそれ自体の表面張力により球状化する。例えば、流体を溶融金属とした場合には、分裂して球状となった後、冷却されることで表面から凝固が進行し、球状の金属粒子が形成される。上記原理に従って、一定の周期で分裂した流体から得られる球状の粒子は、均一の粒径を有することが期待される。
【0005】
しかしながら、ジェットは外因的な振動等の影響を受けやすいため、この不安定波長以外の部分でも分断されてしまう場合があり、これは、形成される粒子の粒径を不均一にして歩留まりを低下させ、また、球別作業等の余計な工程が必要となるため、均一な粒子を効率よく製造することができないという問題があった。
【0006】
そこで、本発明者らは、特許文献1において、落下している溶融金属の流れに断続的に電磁力を加えることによって、溶融金属の流れをその不安定波長で自然に分裂させるのではなく、一定の周期で強制的に分断することにより、サイズの揃った金属粒子を製造可能である点について開示した。しかしながら、特許文献1では、サイズの揃った金属粒子を実際に製造するために、電磁力を印加する際の具体的な印加条件については示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−193775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、特許文献1の発明を改良したものであって、特に導電性材料の流体の流れに加える電磁力の印加間隔等の印加条件の適正化を図ることにより、サイズの揃った導電性粒子を効率よく製造するための方法および製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の要旨構成は以下の通りである。
(1)導電性材料の流体を連続した中実の流れとして落下させ、この落下しつつある流れに断続的に電磁力を加えて擾乱を生じさせ、該擾乱を発達させることにより前記流れを分断し、分断した流体をそれ自身の表面張力によって球状化させ、少なくとも球の表面が凝固した粒子を捕集することにより導電性粒子を製造する方法であって、前記擾乱の初期振幅は、前記流れの直径の1/2未満であり、かつ前記電磁力を加える際の電磁力印加周波数は、前記流れが自然に擾乱する不安定周波数を中心として−50%〜+50%の範囲とすることを特徴とする導電性粒子の製造方法。
【0010】
(2)前記電磁力印加周波数は、前記不安定周波数と等しい上記(1)に記載の導電性粒子の製造方法。
【0011】
(3)製造された導電性粒子の体積粒度分布において、目標粒径±5%の範囲内にある導電性粒子の存在割合は、全導電性粒子に対し、75%以上である上記(1)または(2)に記載の導電性粒子の製造方法。
【0012】
(4)前記電磁力は、前記流れの小さな領域に集中させるよう印加される上記(1)、(2)または(3)に記載の導電性粒子の製造方法。
【0013】
(5)導電性材料の流体を貯える容器と、該容器の底部に設けられ、前記流体を連続した中実の流れとして落下させる流出手段と、前記流れに対して所定の電磁力を断続的に加える電磁力印加手段とを具える導電性粒子の製造装置であって、前記電磁力を加える際の電磁力印加周波数は、前記流れが自然に擾乱する不安定周波数を中心として−50%〜+50%の範囲となるように制御されることを特徴とする導電性粒子の製造装置。
【0014】
(6)前記流出手段および前記電磁力印加手段は、所定のチャンバ内に設けられる上記(5)に記載の導電性粒子の製造方法。
【0015】
(7)電磁力印加時の前記チャンバは、不活性ガス雰囲気下とする上記(6)に記載の導電性粒子の製造装置。
【0016】
(8)前記電磁力印加手段は、前記電磁力を発生させるためのコイルおよび前記電磁力を前記流れの小さな領域に集中させるためのコンセントレータを有する上記(5)、(6)または(7)に記載の導電性粒子の製造装置。
【0017】
(9)前記流出手段は前記容器の底部に複数個設けられる上記(5)〜(8)のいずれか一に記載の導電性粒子の製造装置。
【0018】
(10)導電性粒子の粒径が100μm超えである上記(5)〜(9)のいずれか一に記載の導電性粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、中実の流れとして落下させた導電性材料の流れに加える電磁力の電磁力印加周波数を、不安定周波数に対して適正に選択することにより、サイズの揃った導電性粒子を効率よく製造することができる。ここで、不安定周波数とは、上記式(1)で示された不安定波長λcwの逆数に流体が流出するときの速度を乗じたものをいう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に従う導電性粒子の製造装置の断面構造を示す模式図である。
【図2】本発明に従う製造装置を構成する電磁力印加手段を説明するために一部破断した状態で示した斜視図である。
【図3】コンセントレータを説明するための模式的な平面図である。
【図4】本発明に従う別の製造装置を構成する電磁力印加手段を説明するために一部破断した状態で示した斜視図である。
【図5】電流制御の図式的解釈のグラフである。
【図6】実験例1〜5の粒径と個数割合との関係を示す個数粒度分布のグラフである。
【図7】実験例6〜9の粒径と個数割合との関係を示す個数粒度分布のグラフである。
【図8】実験例1〜5の粒径と体積割合との関係を示す体積粒度分布のグラフである。
【図9】実験例6〜9の粒径と体積割合との関係を示す体積粒度分布のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明の導電性粒子の製造方法および導電性粒子の製造装置の実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、この発明に従う導電性粒子の製造装置の断面構造を模式的に示したものである。
【0022】
図1に示す製造装置1は、導電性材料の流体を貯える容器2と、この容器2の底部に設けられ、流体をジェットとして落下させる流出手段3と、ジェットに対して所定の電磁力を断続的に加える電磁力印加手段4とを具え、電磁力を加える際の電磁力印加周波数は、流れが自然に擾乱する不安定周波数を中心として−50%〜+50%の範囲となるように制御される。
【0023】
流出手段3および電磁力印加手段4は、所定のチャンバ5内に設けられるのが好ましく、また、電磁力印加時のチャンバは、Ar,He,N等の不活性ガス雰囲気下とすることがより好ましい。空気中では、流体の表面に酸化膜が形成されるおそれがあり、これは、不安定波長における流れの分裂を阻害する原因となるためである。
【0024】
また、電磁力印加手段4は、図2に示すように、電磁力を発生させるためのコイル6および電磁力をジェットの小さな領域に集中させるためのコンセントレータ7を有するのが好ましい。電磁力が作用している領域がジェットの分断長さよりも大きくなると、電磁力が作用している領域が重なってしまうため、ジェットを効率的に分断することができないためである。したがって、電磁力は、コンセントレータ7によって「小さな領域」、すなわちおおよそジェットの分断長さよりも短い領域に集中させるのが好ましい。
【0025】
コイル6は、ジェットの周囲に螺旋状に巻かれ、このコイル6に高周波電流を流すことにより電磁力を発生させることができる。しかしながら、コイル6により発生した電磁力をジェットに直接作用させた場合、コイル6の高さと同じ程度の範囲にわたって電磁力が作用してしまい、電磁力の作用する範囲が広くなりすぎるという問題がある。そのため、コイル6とジェットとの間にドーナツ状に配置された、電磁力をジェットの小さな領域に集中させるためのコンセントレータ7を有するのが好ましい。
【0026】
このコンセントレータ7は、縦に分割されている必要があり、合わせ目は電気的に絶縁される。図3は、このようなコンセントレータ7の模式的な平面図であり、コイル6による誘導電流が矢印で示されている。図面に示されるように、コンセントレータ7のドーナツ状の外周部分に沿って流れる誘導電流は、分割部分で内側へ流れ込み、結果としてドーナツ状の穴部分に沿って流れるようになる。また、コンセントレータ7は、熱伝導の良い銅からなるのが好ましい。さらに、コンセントレータには大電流が流れるため、冷却する必要があり、例えばコンセントレータ7内部に空洞を設け、冷却水を循環させて水冷するのが好ましい。
【0027】
また、コンセントレータ7の電磁力集中部の形状は、図4に示すような三角形状とするのがさらに好ましい。コンセントレータ7内に誘起された電流は、導体内の端部を最短経路で流れる性質を有するが、電磁力集中部の形状を三角形状とすることで、コンセントレータ7における電流ロスが少なくなり、多くの電流が電磁力集中部へ流れ込み、コンセントレータ7の効率を向上させることができるためである。
【0028】
流出手段3として、例えばヒーター8等で加熱されたノズルを用い、流体をその自重により流出させてもよいし、流体を中実の流れの状態で加速して落下させてもよい。不安定波長は、流体の流速には依存しないため、導電性粒子を効率よく製造できるように適宜選択することができる。また、製造されるべき導電性粒子の粒径dは、以下に示される式(2)によって与えられる。ここで、Dは流体が流出する流出手段3の径、ηは粘度、ρは密度、γは表面張力である。
【0029】
【数2】

【0030】
流出手段3は、容器2の底部に複数個設けてもよい。これによって、一度に大量の導電性粒子を製造することができる。この場合にも、各流出手段3を周回するように電流が流れればよいので、コンセントレータ7の分割方法および各流出手段3の配置は、目的に応じて適宜選択すればよい。また、容器2の下方に捕集容器を設け、水や油等の液体を貯留することによって、導電性粒子が落下の衝撃で破損するのを防ぐことができる。
【0031】
次に、本発明に従って、このような導電性粒子の製造装置1を用いる導電性粒子の製造方法を以下で説明する。
【0032】
図1に示すように、本発明は、導電性材料の流体をジェットとして落下させ、この落下しつつあるジェットに断続的に電磁力を加えて擾乱を生じさせ、この擾乱を発達させることによりジェットを分断し、分断した流体をそれ自身の表面張力によって球状化させ、少なくとも球の表面が凝固した粒子を捕集することにより、サイズの揃った導電性粒子を効率よく製造することができるものである。
【0033】
ジェットに加える電磁力は、コイル等の環状導体をその環の軸心線方向が鉛直方向となるように配置し、この環状導体の中心に流体のジェットを通過させることによって印加するのが好ましい。環状導体に電流が流れると、環状導体の中心部には上向きまたは下向きの磁束が生じ、ジェット中に誘導渦電流が発生する。この誘導渦電流と環状導体からの磁束とにより、ジェットに対して内側へ向かうピンチ力が作用し、この力によってジェットに生じた小さな擾乱が下方で発達することにより、ジェットが分断される。
【0034】
この擾乱の初期振幅は、ジェットの直径の1/2未満とする。初期振幅がジェットの直径の1/2に近づく程、ジェットは電磁力を加えた場所の近くで分断されることになるが、このような初期振幅を大きくするには、非常に大きな電磁力が要求されることとなる。本発明は、このような大きな電磁力を要求することなく、ジェットに生じた擾乱を発達させることによってジェットを分断しようとするものであって、サイズの揃った導電性粒子を、低コスト・小規模設備で製造することができるという利点も有する。
【0035】
また、本発明者らは、様々なモデル実験を行うことにより、電磁力を加える際の電磁力印加周波数が、ジェットが自然に擾乱する不安定周波数を中心として−50%〜+50%の範囲となるよう制御し、これによって、外因的な振動等によって不安定周波数のみでは等間隔に分裂しきれなかった流れに対して、表面エネルギー的にもっとも安定な状態に向かう不安定周波数に対して適正化された電磁力印加周波数を重畳させることで、ジェットに確実な擾乱を与えることができるものである。
【0036】
電磁力印加周波数が、不安定周波数から−50%を超えてずれた場合、すなわち不安定波長よりも非常に長い間隔で電磁力を印加した場合、電磁力による擾乱以前に、外因的な影響によりジェットが分断されるおそれがあり、小さな粒子が生成される割合が高くなる。一方、電磁力印加周波数が、不安定周波数から+50%を超えてずれた場合、すなわち不安定波長よりも非常に短い間隔で電磁力を印加した場合、ジェットの分断間隔が狭くなるため、空気抵抗を受けにくい後方の液滴が前の液滴に追い着いて衝突してしまい、大きな粒子が生成される割合が高くなる。また、この範囲は導電性材料の種類等によって変化し、導電率が小さい材料を用いる場合には、不安定周波数に対して±15%程度とするのがより好ましい。また、例えばCu、Alなどの電気伝導率の高い材料に対しては±20%程度、Fe、Siなどの電気伝導率の低い材料に対しては±10%程度、本発明の実施例で一例として用いるGaの場合には±15%程度とするのがより好ましい。
【0037】
また、電磁力印加周波数は、不安定周波数と等しいのが好ましい。より均一度の高い導電性粒子を確実に効率よく製造するためである。
【0038】
製造された導電性粒子の体積粒度分布において、目標粒径±5%の範囲内にある導電性粒子の存在割合は、全導電性粒子に対し、90%以上であるのが好ましく、より高精度な粒径が求められる場合には、99.8%以上とするのがより好ましい。
【0039】
上述したとおり、電磁力は、ジェットの小さな領域に集中させるよう印加されるのが好ましい。これは、例えば三角形状の電磁力集中部を有するコンセントレータをコイル等とジェットとの間に配置することにより達成することができる。
【0040】
また、例えば太陽電池用の球状Siには、100μmを超える粒径が要求されるが、本発明の導電性粒子の製造方法および製造装置によれば、電磁力印加周波数を不安定周波数に対して適正に選択することにより、従来よりも大きな、粒径が100μm超えの比較的大きなサイズの導電性粒子を効率よく製造することができる。
【0041】
上述したところは、この発明の実施形態の一例を示したにすぎず、特許請求の範囲において種々の変更を加えることができる。
【実施例】
【0042】
図1に示すように、コイル6(巻き数N=15)およびコンセントレータ7を有する本発明に従う導電性粒子の製造装置1を用いて、溶融Gaを、底部にノズル(全長150mm)3を有するビーカー2から、ヒーター8で加熱されたノズル3を通じて自重により流出(ジェット流速1.47m/sまたは1.68m/s)させ、このジェットに対して、所定の電磁力印加周波数で電磁力を等間隔に印加した。本実験において、チャンバ5内は、高電圧使用による解離が起こりにくいNガス雰囲気に維持した。また、本実験例では、融点が29.78℃と低く、室温でも容易に溶融状態を保つことができるという理由から、Gaを用いたが、Fe,Cu,AlおよびSi等、導電性材料であれば本発明の効果を得ることができる。
【0043】
また、図5に示すように、電磁力印加周期中の電磁力印加時間の割合デューティー比τEMFfは50%に設定し、また、電磁場によって液体金属の流動特性が変化する臨界値は流れの半径rと表皮厚δの比r/δ≒2.3で与えられ、r/δが2.3を超える場合、電磁場の流れに与える影響が大きくなることが知られている。ここで、表皮厚δとは、電磁力が有効に作用する距離のことをいい、以下に示す式(3)によって与えられる。
【0044】
【数3】

ここで、feは誘導コイル電流の基本周波数、μは導体の透磁率、σは導電率である。ジェットに電磁力を有効に作用させる場合には、表皮厚さをジェットの径よりも十分に小さくする必要があり、そのため、基本周波数は3.06MHzと高く設定した。また、流れの様子は高速度カメラで撮影し観察した。
【0045】
撮影された液滴は、液滴同士の衝突による衝撃や液滴自身の固有振動によって必ずしも真球であるとは限らない。そこで、本実施例においては、液滴の投影面積が真球の投影面積と等しいと仮定し、液滴粒径dを、投影円相当径として、液滴の投影面積Sを用いて下記式(4)により計算した。
【0046】
【数4】

【0047】
液滴のサンプリングは全画像データを0.5s間隔で抜き出した画像から行い、それらの液滴から粒度分布を求めた。
【0048】
表1に、2種類のノズルを用いて、電磁力印加周波数をそれぞれ変化させた実験例1〜9について、それぞれの実験条件を示す。実験例1〜5はノズル径Dを1.0mm、ジェット流速Vを1.48m/sとした例、実験例6〜9はノズル径Dを1.2mm、ジェット流速Vを1.68m/sとした例である。
【0049】
【表1】

【0050】
表1において、不安定周波数は、前記式(1)で示された不安定波長λcwの逆数に流体が流出するときの速度、すなわちジェット流速Vを乗じて計算されたものであり、このとき、η=2.04×10−3(Pa・s),ρ=6090(kg・m-3),γ=0.718(N・m-1)とした。
【0051】
図6(a)〜図6(e)は、実験例1〜5の個数粒度分布をそれぞれ示したものである。図中、実線の矢印は、ジェットが不安定波長で分裂した場合の液滴粒径を示し、破線はジェットが電磁力印加周期で分断された場合の液滴粒径を示している。実験例1は、電磁力を印加しない場合であり、溶融Gaの流れは主に不安定波長で分裂しているが、十分に均一な液滴は得られていないことがわかる。これは、流れが外因的な振動に対して敏感であるため、不安定波長のみで分裂することができなかったためであると考えられる。
【0052】
実験例2では、不安定波長ではなく電磁力印加間隔に等しい間隔で分断されていることがわかる。しかし、d=1.0〜1.5mm付近にサテライト滴と呼ばれる小さな液滴が生成していることが確認できる。このようなサテライト滴は、ジェットのくびれ部分で生成することが知られており、電磁力印加周波数が低くジェットの分裂間隔が長いために生成してしまったと考えられる。
【0053】
実験例3では、分布は最も鋭く立ち上がり、高精度で粒径約1.9mmの均一な液滴を得ることができた。また、サテライト滴は実験例2の場合と比較して粒径も小さく、頻度も少ないことがわかる。このことから、液ジェット自体が持つ不安定波長に電磁力印加間隔を同調させることで、効果的にジェットを分断することができることがわかる。
【0054】
また、実験例4および実験例5のように、電磁力印加間隔が不安定波長よりも小さいほうへずれると、粒径が大きいほうへ分布が広がってしまうことが確認できる。これは、電磁力印加間隔が不安定波長からずれたことや、周波数が高くなることでジェットの分裂間隔が狭くなり、空気抵抗を受けにくい後方の液滴が前の液滴に追いつき衝突してしまったことが原因であると考えられる。
【0055】
このように、不安定波長より長い間隔で電磁力を印加する場合にはサテライト滴の生成が生じ、不安定波長より短い間隔では液滴同士の衝突が問題となり、均一粒径の粒子を得ることが難しい。また、後者の液滴同士が衝突して大きな粒径の粒子が生成してしまう場合には、材料のロスが大きく、高い歩留まりを得ることができない。これに関しては、例えば、液滴を螺旋状に滴下したり、帯電した液滴を電界によって加速したりすることにより解決することができる。
【0056】
図7(a)〜図7(d)は、実験例6〜9の個数粒度分布をそれぞれ示したものである。実施例2〜5と同様に、不安定波長より長い間隔で電磁力を印加した場合、ジェットは等間隔で分裂したが、サテライト滴が生成した。不安定波長と等しい間隔で電磁力を印加した場合には、ジェットは等間隔で分断し、均一粒径の液滴を得ることができた。また、不安定波長より短い間隔で電磁力を印加した場合、液滴同士の衝突による大きい液滴の分布が確認された。
【0057】
また、図8(a)〜図8(e)および図9(a)〜図9(d)は、実験例1〜9の体積粒度分布であり、表1からわかるように、これら実施例1〜9において、目標粒径±5%の範囲内にある導電性粒子の存在割合は、発明例3において78.6%以上、発明例7において98.5%以上となり、非常に均一な粒子が得られていることがわかる。
【0058】
実験例1〜9の結果から、ノズル径を変化させても、不安定波長と電磁力印加間隔を同調させることで、等間隔にジェットを分断し、均一粒径の液滴を作成できることがわかる。また、不安定波長よりも短い間隔で電磁力を印加した場合であっても、例えば液滴を螺旋状に滴下する等の適切な処理を施すことによって、均一粒径の液滴を作成できる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明によれば、導電性材料のジェットに加える電磁力の電磁力印加周波数を、不安定周波数に対して適正に選択することにより、サイズの揃った導電性粒子を効率よく製造するための方法および製造装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 導電性粒子の製造装置
2 容器
3 流出手段
4 電磁力印加手段
5 チャンバ
6 コイル
7 コンセントレータ
8 ヒーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性材料の流体を連続した中実の流れとして落下させ、この落下しつつある流れに断続的に電磁力を加えて擾乱を生じさせ、該擾乱を発達させることにより前記流れを分断し、分断した流体をそれ自身の表面張力によって球状化させ、少なくとも球の表面が凝固した粒子を捕集することにより導電性粒子を製造する方法であって、
前記擾乱の初期振幅は、前記流れの直径の1/2未満であり、かつ
前記電磁力を加える際の電磁力印加周波数は、前記流れが自然に擾乱する不安定周波数を中心として−50%〜+50%の範囲とすることを特徴とする導電性粒子の製造方法。
【請求項2】
前記電磁力印加周波数は、前記不安定周波数と等しい請求項1に記載の導電性粒子の製造方法。
【請求項3】
製造された導電性粒子の体積粒度分布において、目標粒径±5%の範囲内にある導電性粒子の存在割合は、全導電性粒子に対し、75%以上である請求項1または2に記載の導電性粒子の製造方法。
【請求項4】
前記電磁力は、前記流れの小さな領域に集中させるよう印加される請求項1、2または3に記載の導電性粒子の製造方法。
【請求項5】
導電性材料の流体を貯える容器と、
該容器の底部に設けられ、前記流体を連続した中実の流れとして落下させる流出手段と、
前記流れに対して所定の電磁力を断続的に加える電磁力印加手段と
を具える導電性粒子の製造装置であって、
前記電磁力を加える際の電磁力印加周波数は、前記流れが自然に擾乱する不安定周波数を中心として−50%〜+50%の範囲となるように制御されることを特徴とする導電性粒子の製造装置。
【請求項6】
前記流出手段および前記電磁力印加手段は、所定のチャンバ内に設けられる請求項5に記載の導電性粒子の製造方法。
【請求項7】
電磁力印加時の前記チャンバは、不活性ガス雰囲気下とする請求項6に記載の導電性粒子の製造装置。
【請求項8】
前記電磁力印加手段は、前記電磁力を発生させるためのコイルおよび前記電磁力を前記流れの小さな領域に集中させるためのコンセントレータを有する請求項5、6または7に記載の導電性粒子の製造装置。
【請求項9】
前記流出手段は前記容器の底部に複数個設けられる請求項5〜8のいずれか一項に記載の導電性粒子の製造装置。
【請求項10】
導電性粒子の粒径が100μm超えである請求項5〜9のいずれか一項に記載の導電性粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−236059(P2010−236059A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−87767(P2009−87767)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年3月1日公開 社団法人 日本鉄鋼協会発行の材料とプロセス Vol.22(2009)No.1の76ページ〜78ページおよびCD−ROMのラベル部分
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】