説明

導電性酸化スズ粉末とその製造方法

【課題】アンチモンを含有せずにATO粉末と同等の導電性を有し、環境に対する負荷が少なく、また透明性の高い導電性酸化スズ粉末を提供する。
【解決手段】アンチモンを含まず、スズ1モルに対して、フッ素0.01〜0.2モル、および窒素0.001〜0.01モルを含有することを特徴とする導電性酸化スズ粉末であって、好ましくは、フッ素が湿式処理によって導入され、窒素が窒素雰囲気で加熱処理して導入されたものであり、90%粒子径(D90)が5μm以下であり、結晶格子径が5〜20nmであって、圧粉体積抵抗率が10Ω・cm以下である導電性酸化スズ粉末。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性に優れた酸化スズ粉末に関し、より詳しくは、アンチモンを含有せずにATO粉末と同等の導電性を有し、環境に対する負荷が少なく、また透明性の高い導電性酸化スズ粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、導電性酸化スズ粉末には、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、リンドープ酸化スズ(PTO)、ニオブドープ酸化スズ(NbTO)、タンタルドープ酸化スズ(TaTO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)が知られている。また、その他の導電性金属酸化物粉末として、スズドープ酸化インジウム(ITO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)が知られている。また、ドープ成分を導入する方法としては、金属酸化物前駆体とドーパントを、pH調整した水溶液中で混合し、生成した沈殿物を回収して加熱することによって金属酸化物にドープ成分を導入する方法、ドープ成分を含む二種以上の異なる金属酸化物を混練し、これを加熱することによってドープ成分を導入する方法などが知られている。
【0003】
近年、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイ等のフラットパネルディスプレイの電極や透明導電膜、タッチパネル等にATOやITO、AZO等の導電性粉末が使用されている。しかし、エレクトロニクス分野の発展と環境影響への関心が高まる中、さらに高付加価値の高い、低環境負荷タイプの新材料が求められている。また、環境面ではATOのアンチモンやITOのインジウムが環境や人体に影響を与えることが懸念されており、これら有害成分を含まない安全な材料が求められている。さらにATOについては、アンチモンが光を吸収する性質を有するため、成膜時の透明性に乏しく、一方、ITOは主原料となるインジウムの極端な価格高騰および原料の枯渇が懸念されている。
【0004】
また、上記酸化スズ系粉末については、アンチモン等に代えて、フッ素をドープした酸化スズ(FTO)も知られている。酸化スズにフッ素をドープさせることによって導電性が向上するが、工程が複雑であると共に安定な導電性が得られ難いなどの課題があった。さらに、酸化スズ系粉末に代えて、AZO等の導電性酸化亜鉛粉末が知られているが、AZO等は導電性の安定性に問題がある(特許文献1〜6)。
【特許文献1】特許第2605855号公報
【特許文献2】特許第2724248号公報
【特許文献3】特開2004−359521号公報
【特許文献4】特許第2992572号公報
【特許文献5】特開2003−081633号公報
【特許文献6】特公平07−105166号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、導電性酸化スズ粉末について、従来の上記問題を解決したものであり、アンチモンを含有せずにATO粉末と同等の導電性を有し、環境に対する負荷が少なく、かつ透明性の高い導電性酸化スズ粉末を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の構成を有することによって、上記問題を解決した導電性酸化スズ粉末とその製造方法に関する。
(1)アンチモンを含まず、スズ1モルに対して、フッ素0.01〜0.2モル、および窒素0.001〜0.01モルを含有することを特徴とする導電性酸化スズ粉末。
(2)90%粒子径(D90)が5μm以下であり、結晶格子径が5〜20nmである請求項1に記載する導電性酸化スズ粉末。
(3)圧粉体積抵抗率が10Ω・cm以下であることを特徴とした、請求項1または2に記載する導電性酸化スズ粉末。
(4)フッ素が湿式処理によって導入され、窒素が窒素雰囲気で加熱処理して導入されたものである請求項1〜請求項3の何れかに記載する導電性酸化スズ粉末。
(5)請求項1〜請求項4の何れかに記載する導電性酸化スズ粉末を分散させた分散体。
(6)請求項1〜請求項4の何れかに記載する導電性酸化スズ粉末を含有する膜組成物。
(7)酸化スズ含有量20%以上および膜厚1μm以上の薄膜において、該薄膜の表面抵抗が1×1010Ω/□以下である請求項6に記載する膜組成物。
(8)40℃常圧下で500時間保持したときの、表面抵抗の比が2未満である請求項6または請求項7に記載する膜組成物。
(9)第二酸化スズもしくは第二水酸化スズと、フッ素またはフッ素化合物を水中で接触させ、脱水後、窒素雰囲気下で加熱処理することによって、フッ素および窒素を含有する酸化スズ粉末を製造する導電性酸化スズ粉末の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の導電性酸化スズ粉末は、所定量のフッ素および窒素を含有し、好ましくは、フッ素は湿式処理によって導入され、窒素は窒素雰囲気で加熱処理することによって導入されるので、フッ素および窒素が均一に含有されており、アンチモンを含有せずに高い導電性を有する。具体的には、本発明の導電性酸化スズ粉末は、例えば、圧粉体積抵抗率が10Ω・cm以下の低抵抗粉末である。従って、本発明の導電性酸化スズ粉末を用いることによって、酸化スズ含有量20%以上および膜厚1μm以上の薄膜において、該薄膜の表面抵抗が1×1010Ω/□以下の膜組成物を得ることができる。この膜組成物の導電性は安定であり、例えば、40℃常圧下で500時間保持したときの、表面抵抗の比が2未満である。
【0008】
さらに、本発明の導電性酸化スズ粉末は、好ましくは結晶格子径が5〜20nmであって可視光線波長よりも非常に小さく、90%粒子径(D90)が5μm以下であるため、可視光透過率が高く、透明性に優れた粉末である。具体的には、例えば、酸化スズ含有量20%以上および膜厚1μm以上の薄膜において、可視光透過率が87%以上であり、従来のフッ素含有酸化スズ粉末(FTO)を含む同様の薄膜の可視光透過率が83〜86%であるのに対して透明性の高い導電膜を形成することができる。
【0009】
また、本発明の製造方法は、スズ源とフッ素源を水溶液中で混合するので、所定量のフッ素を均一に導入することができ、さらに加熱処理を窒素雰囲気下で行うことによって、微少量の窒素を均一に導入することができる。また、これらのドープ量はフッ素源の添加量、加熱温度および加熱時間などを調整して制御することができるので、粉体抵抗率等が所望の範囲に制御された高品質の導電性酸化スズ粉末を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。
〔導電性酸化スズ粉末〕
本発明の導電性酸化スズ粉末は、アンチモンを含まず、スズ1モルに対して、フッ素0.01〜0.2モル、および窒素0.001〜0.01モルを含有することを特徴とする導電性酸化スズ粉末であり、好ましくは、湿式処理によってフッ素が導入され、窒素が窒素雰囲気で加熱処理することによって導入されたものである。なお、アンチモンを含まないとは、原料および工程中でアンチモン源を使用せず、従って、検出限界500ppmの標準的な測定装置によってアンチモンが検出されないことを云う。
【0011】
本発明の導電性酸化スズ粉末は、スズ1モルに対して0.01〜0.2モルのフッ素を含有し、かつ0.001〜0.01モルの窒素を含有する。上記所定量のフッ素および窒素を含有することによって粉体抵抗が低下する。これはフッ素および窒素が酸化スズの酸素欠陥に関与するなどの作用によることが考えられる。
【0012】
上記フッ素量が0.01モル未満では粉体抵抗を低下させる効果が不十分であり、良好な導電性が得られない。また、フッ素量が0.2モルを上回る量のフッ素源を原料に加えると、酸化スズにドープされなかった遊離のフッ素源が残留し、これが通電パスを妨げるので、導電性が低下する。
【0013】
上記窒素量が0.001未満では粉体抵抗を低下させる効果が不十分であり、良好な導電性が得られない。また、窒素量が0.01モルを上回ると、フッ素の酸化スズへのドープが妨げられ、良好な導電性が得られない。
【0014】
本発明の導電性酸化スズ粉末は、圧粉体積抵抗率が10Ω・cm以下の導電性を有することができる。なお、圧粉体積抵抗率は圧力100kgf/cm2で圧縮した粉体の体積抵抗率である。一方、従来のフッ素含有酸化スズ粉末の圧粉体積抵抗率は概ね100Ω・cm以上であり、本発明の導電性酸化スズ粉末の圧粉体積抵抗率は従来の1/10以下である。
【0015】
本発明の導電性酸化スズ粉末は、水などの溶媒に分散させた分散体(液)の形態で利用することができ、また樹脂成分に混合して導電性の薄膜を形成することができる。本発明の導電性酸化スズ粉末を用いることによって、酸化スズ含有量20%以上および膜厚1μm以上の薄膜において、該薄膜の表面抵抗が1×1010Ω/□以下の導電性薄膜を形成することができる。
【0016】
本発明の導電性酸化スズ粉末を用いた上記膜組成物は導電性が安定であり、例えば、40℃常圧下で500時間保持したときの表面抵抗率Rsと、試験前の表面抵抗率Roの比(Rs/Ro)が2未満である。
【0017】
〔製造方法〕
本発明の導電性酸化スズ粉末は、第二酸化スズもしくは第二水酸化スズと、フッ素またはフッ素化合物を水中で接触させ、脱水後、窒素雰囲気下で加熱処理することによって製造することができる。
【0018】
フッ素源としてはフッ化アンモニウム、ケイフッ化アンモニウム、フッ化水素酸アンモニウム、フッ化スズ、フッ化スズ酸、フッ化水素、フッ化水素酸、フッ化ホウ素、フッ化臭素などを用いることができる。
【0019】
具体的には、例えば、第二酸化スズ粉末または第二水酸化スズ粉末もしくはそれらの混合物を水に分散させ、この分散水溶液にフッ素源を添加し、上記スズ源とフッ素源を水溶液中で混合し接触させることによって、上記スズ源粉末の表面にフッ素が均一に付着させることができる。
【0020】
この粉末を回収して乾燥し、窒素雰囲気で加熱処理する。窒素雰囲気下で加熱処理を行うことによって微少量の窒素を均一に導入することができる。これらのドープ量はフッ素源の添加量、加熱温度および加熱時間などを調整して制御することができるので、圧粉体積抵抗率を所望の範囲に低下させた導電性酸化スズ粉末を製造することができる。
【0021】
上記加熱処理において、加熱温度は400℃〜700℃が好ましい。加熱温度がこれより低いと、フッ素および窒素のドープ効果が不十分になり、導電性が得難くなる。また、加熱温度がこれより高いと、酸化スズの酸素欠陥が多く発生するので、得られる粉末の色の黒味が強くなり、また粉末が焼結して粗粒になるので、薄膜を形成したときに透明性が大幅に低下する。
【0022】
さらに、上記粉末の加熱処理は、窒素雰囲気中の酸素をできるだけ排除して加熱するのが好ましい。従来、基板表面にフッ素含有酸化スズ膜を形成する方法において、一定濃度の酸素を導入した窒素雰囲気下で加熱処理する方法が知られているが、酸素が存在すると良好な低抵抗の粉末を得るのが難しい。
【0023】
上記製造方法によって、アンチモンを含まず、スズ1モルに対して、フッ素0.01〜0.2モル、および窒素0.001〜0.01モルを含有し、圧粉体積抵抗率が10Ω・cm以下の導電性酸化スズ粉末を得ることができる。
【0024】
また、上記製造方法によって、90%粒子径(D90)が5μm以下であり、結晶格子径が5〜20nmである導電性酸化スズ粉末を得ることができる。この粉末の結晶格子径は可視光線波長よりも非常に小さく、また90%粒子径(D90)も小さいので、可視光透過率が高く、透明性に優れた粉末である。
【0025】
従って、本発明の導電性酸化スズ粉末を用いることによって、例えば、酸化スズ含有量20%以上および膜厚1μm以上の薄膜において、可視光透過率が87%以上の透明性の高い導電膜を形成することができる。
【0026】
〔用途〕
本発明の導電性酸化スズ粉末は、環境に影響を及ぼす懸念のあるアンチモンおよびインジウムを含まない安全性に優れた粉末であり、また簡便な工程と安価な原料で製造される導電性および透明性に優れた、環境に対する負荷が小さい粉末である。従って、幅広い分野に用いることができる。具体的には、例えば、(a)毒性が問題視される食品包装材・梱包材分野、(b)液晶ディスプレイやプラズマディスプレイなどのフラットパネルディスプレイの分野、(c)帯電制御特性が要求されるタッチパネルの分野、(d)光ディスク等の磁気記録媒体の分野、(e)薄膜塗料の分野、(f)太陽電池や各種機器の内部電極、電極改質剤の分野、(g)静電記録材料として荷電制御が要求されるプリンタ、複写機関連の帯電ローラー、感光ドラム、トナー、静電ブラシ等の分野、(h)ガスセンサー用焼結体原料粉末などの分野、(i)埃付着防止が要求されるFPD、CRT、ブラウン管等の分野、
また本発明の導電性酸化スズ粉末は、その利用の際に、塗料、インク、エマルジョン、繊維その他のポリマー中に容易に分散混練することができ、塗料に添加して薄膜として被覆された場合に高透明性であり、かつ導電性に優れた導電性粉末の分散体および膜組成物を得ることできる。
【実施例】
【0027】
本発明の実施例を比較例と共に以下に示す。製造条件、フッ素および窒素のドープ量、粉末の粒子径、体積抵抗率、薄膜の表面抵抗を表1に示した。なお、測定方法は以下のとおりである。
〔フッ素量・窒素量〕フッ素および窒素の含有量はICP発光分析装置の組成分析によって測定した。
〔圧粉体積抵抗率〕圧粉体積抵抗率は、試料粉末を圧力容器に入れて100kgf/cm2で圧縮し、この圧粉をデジタルマルチメーター(横河電機製品:型式7561-02)によって測定した。
〔粒子径〕D90は試料粉末を水に分散させ、レーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所製品:型式SALD-1100)を使用して測定した。
〔薄膜の形成〕試料粉末を含む薄膜の形成は、試料粉末を市販のアクリル樹脂(製品名アクリディックA−168、樹脂分50%)とともに、キシレン・トルエン混合溶液に添加し、ペイントシェーカーでビーズ分散し、試料粉末含有量20%の分散体を作成し、この分散体をPETフィルムに塗布し1時間風乾して、膜厚1μmの薄膜を形成し、この薄膜の表面抵抗値を測定した。
〔表面抵抗〕表面抵抗は表面抵抗計(ハイレスタ:三菱油化製品:型式HT-210、供給電圧100V)を用い、試料粉末を含有する膜厚2μmの薄膜について測定した。
【0028】
〔実施例1〕
第二酸化スズとフッ化アンモニウムを、F/Snモル比10となるように、水中に添加し、これらが均一に接触するよう攪拌した後に回収して脱水し、550℃の窒素雰囲気下で2時間加熱した後に冷却して、灰褐色の粉末を得た。該粉末の体積抵抗率は2.4Ω・cmであった。また、スズ1モルに対するフッ素量は0.03モル、窒素量は0.008モルであった。また、90%粒子径(D90)は4.7μmであった。さらに、この粉末を含む薄膜を形成し、その表面抵抗値を測定したところ、6.6×108Ω/□であった。また、40℃常圧下で500時間保持したときの表面抵抗値を測定し、先の表面抵抗値との比を求めた。この比を表1に示した。
【0029】
〔実施例2〕
第二酸化スズとフッ化アンモニウムを、F/Snモル比10となるように水中に添加した以外は実施例1と同様にして粉体を製造した。この粉体の圧粉体積抵抗率は0.8Ω・cm、Sn1モルに対するフッ素量は0.05モル、窒素量は0.005モル、D90は4.8μmであった。この粉末を含む薄膜の表面抵抗は2.5×108Ω/□であった。また、40℃常圧下で500時間保持したときの表面抵抗値を測定し、先の表面抵抗値との比を求めた。この比を表1に示した。
【0030】
〔実施例3〕
第二酸化スズとフッ化スズを、F/Snモル比50となるように水中に添加した以外は実施例1と同様にして粉体を製造した。この粉体の圧粉体積抵抗率は0.8Ω・cm、Sn1モルに対するフッ素量は0.12モル、窒素量は0.003モル、D90は4.5μmであった。この粉末を含む薄膜の表面抵抗は2.0×108Ω/□であった。また、40℃常圧下で500時間保持したときの表面抵抗値を測定し、先の表面抵抗値との比を求めた。この比を表1に示した。
【0031】
〔実施例4〕
第二水酸化スズとフッ化アンモニウムを、F/Snモル比20となるように水中に添加し、加熱温度を650℃とした以外は実施例1と同様にしたところ、この粉体の圧粉体積抵抗率は0.4Ω・cm、Sn1モルに対するフッ素量は0.06モル、窒素量は0.005モル、D90は4.7μmであった。この粉末を含む薄膜の表面抵抗は1.3×108Ω/□であった。また、40℃常圧下で500時間保持したときの表面抵抗値を測定し、先の表面抵抗値との比を求めた。この比を表1に示した。
【0032】
〔実施例5〕
第二水酸化スズとフッ化スズを、F/Snモル比20となるように水中に添加し、加熱温度を450℃とした以外は実施例1と同様にして粉体を製造した。この粉体の圧粉体積抵抗率は8.9Ω・cm、Sn1モルに対するフッ素量は0.01モル、窒素量は0.006モル、D90は4.5μmであった。この粉末を含む薄膜の表面抵抗は7.1×108Ω/□であった。また、40℃常圧下で500時間保持したときの表面抵抗値を測定し、先の表面抵抗値との比を求めた。この比を表1に示した。
【0033】
〔実施例6〕
加熱時間を5時間とした以外は実施例1と同様にして粉体を製造した。この粉体の圧粉体積抵抗率は0.7Ω・cm、Sn1モルに対するフッ素量は0.16モル、窒素量は0.009モル、D90は4.8μmであった。この粉末を含む薄膜の表面抵抗は3.1×108Ω/□であった。また、40℃常圧下で500時間保持したときの表面抵抗値を測定し、先の表面抵抗値との比を求めた。この比を表1に示した。
【0034】
〔実施例7〕
第二酸化スズとフッ化アンモニウムを、F/Snモル比150となるように水中に添加した以外は実施例1と同様にして粉体を製造した。この粉体の圧粉体積抵抗率は0.3Ω・cm、Sn1モルに対するフッ素量は0.20モル、窒素量は0.001モル、D90は4.5μmであった。この粉末を含む薄膜の表面抵抗は1.7×108Ω/□であった。また、40℃常圧下で500時間保持したときの表面抵抗値を測定し、先の表面抵抗値との比を求めた。この比を表1に示した。
【0035】
〔比較例1〕
フッ素源を添加しなかったこと以外は実施例1と同様にして粉体を製造した。この粉体の圧粉体積抵抗率は1.2×10Ω・cm、Sn1モルに対するフッ素量は0モル、窒素量は0.11モル、D90は4.8μmであった。この粉末を含む薄膜の表面抵抗は5.9×1012Ω/□であった。また、40℃常圧下で500時間保持したときの表面抵抗値を測定し、先の表面抵抗値との比を求めた。この比を表1に示した。
【0036】
〔比較例2〕
大気雰囲気下で加熱した以外は実施例1と同様にして粉体を製造した。この粉体の圧粉体積抵抗率は6.3×105Ω・cm、Sn1モルに対するフッ素量は0.002モル、窒素量は0.01モル、D90は5.1μmであった。この粉末を含む薄膜の表面抵抗は4.4×1013Ω/□であった。また、40℃常圧下で500時間保持したときの表面抵抗値を測定し、先の表面抵抗値との比を求めた。この比を表1に示した。
【0037】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンチモンを含まず、スズ1モルに対して、フッ素0.01〜0.2モル、および窒素0.001〜0.01モルを含有することを特徴とする導電性酸化スズ粉末。
【請求項2】
90%粒子径(D90)が5μm以下であり、結晶格子径が5〜20nmである請求項1に記載する導電性酸化スズ粉末。
【請求項3】
圧粉体積抵抗率が10Ω・cm以下であることを特徴とした、請求項1または2に記載する導電性酸化スズ粉末。
【請求項4】
フッ素が湿式処理によって導入され、窒素が窒素雰囲気で加熱処理して導入されたものである請求項1〜請求項3の何れかに記載する導電性酸化スズ粉末。
【請求項5】
請求項1〜請求項4の何れかに記載する導電性酸化スズ粉末を分散させた分散体。
【請求項6】
請求項1〜請求項4の何れかに記載する導電性酸化スズ粉末を含有する膜組成物。
【請求項7】
酸化スズ含有量20%以上および膜厚1μm以上の薄膜において、該薄膜の表面抵抗が1×1010Ω/□以下である請求項6に記載する膜組成物。
【請求項8】
40℃常圧下で500時間保持したときの、表面抵抗の比が2未満である請求項6または請求項7に記載する膜組成物。
【請求項9】
第二酸化スズもしくは第二水酸化スズと、フッ素またはフッ素化合物を水中で接触させ、脱水後、窒素雰囲気下で加熱処理することによって、フッ素および窒素を含有する酸化スズ粉末を製造する導電性酸化スズ粉末の製造方法。

【公開番号】特開2008−166178(P2008−166178A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−356033(P2006−356033)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(597065282)株式会社ジェムコ (151)
【Fターム(参考)】