説明

導電性高分子形成用電解重合液とそれを用いた固体電解コンデンサの製造方法

【課題】熱耐久性に優れた導電性高分子形成用電解重合液を提供すること、該導電性高分子形成用電解重合液を用いた、ESRが低く、高い熱耐久性を有する固体電解コンデンサの製造方法を提供すること。
【解決手段】ナフタレンスルホン酸化合物を含む支持電解質と、デービス法により算出されたHLB値が29〜33の範囲であるスルホン酸化合物を含む支持電解質とを含有する導電性高分子形成用電解重合液とそれを用いて作製した固体電解コンデンサとその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性高分子形成用電解重合液を使用して形成した導電性高分子からなる固体電解質層を形成させてなる固体電解コンデンサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムやタンタル等の弁作用金属表面に誘電体酸化皮膜を形成し、該誘電体酸化皮膜上に固体電解質として電気伝導度の高い導電性高分子を形成させてなる固体電解コンデンサは、静電容量が高く、等価直列抵抗(以下、「ESR」と略記する。)が低い優れた特性を有することが知られている。
【0003】
上記固体電解コンデンサは一般的に、エッチング処理により表面積を拡大した弁作用金属箔、あるいは弁作用金属の粒子を焼結させることにより表面積を拡大した焼結体を、化成処理により該表面に誘電体酸化皮膜を形成させ、次いで、該誘電体酸化皮膜上に固体電解質層を形成し、カーボン及び銀ペーストからなる導電層を順次形成した後、リードフレームなどの外部端子に接続し、トランスファーモールド等による外装を施して製品化される。
【0004】
固体電解コンデンサのESRは、コンデンサを形成する各部材の固有抵抗と、コンデンサを形成する各部材間に発生する接触抵抗からなる、合成抵抗が主要な因子となっており、それらの改善によるESRのより一層の低減が望まれている。
【0005】
固体電解コンデンサの劣化は、偶発的に発生する不具合の他は一般的に、コンデンサを形成する各部材の熱劣化と、コンデンサの外装部を介して浸入する水分等の酸素源に起因する各部材の酸化劣化が主要な因子となっており、これらの劣化要因に対し、コンデンサを形成する各部材、特に固体電解質層の熱耐久性能の向上と、外装部材を中心としたガスバリア性の向上等の対策が行われている。
【0006】
固体電解コンデンサに用いられる一般的な固体電解質としては、ポリピロールとポリエチレンジオキシチオフェンが挙げられ、さらに詳しくは、主に電解酸化重合によって形成されるポリピロールと、化学酸化重合によって形成されるポリエチレンジオキシチオフェンに大別される。
【0007】
電解酸化重合によって形成される固体電解質は、緻密な膜を形成することができるため、導電性が優れる傾向があり、積層型のコンデンサの製造に用いられている。一方、化学酸化重合は、複雑な形状の素子にも対応できるため、巻回型のコンデンサの製造に多く用いられている。
【0008】
固体電解コンデンサを形成する固体電解質の固有の性能については、ポリピロールやポリエチレンジオキシチオフェン等のポリマーの種類のみではなく、固体電解質形成時に使用するドーパントによっても固体電解質の導電性や、熱耐久性等の性能が大きく変化することが知られている。
【0009】
特許文献1、特許文献2に開示されているように、積層型の固体電解コンデンサに用いられるポリピロールからなる固体電解質では、代表的な支持電解質として、パラトルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸が挙げられるが、前記パラトルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸を支持電解質として用いたポリピロールからなる固体電解質では、導電性や熱耐久性が十分ではなく、得られた固体電解コンデンサのESRが高く、高温下での耐久性が低いという欠点があった。
【0010】
特許文献1、特許文献2に開示されているように、積層型の固体電解コンデンサに用いられるポリピロールからなる固体電解質では、代表的な支持電解質として、パラトルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸が挙げられるが、前記パラトルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸を支持電解質として用いたポリピロールからなる固体電解質では、導電性や熱耐久性が十分ではなく、得られた固体電解コンデンサのESRが高く、熱耐久性が低いという欠点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平06−77093号公報
【特許文献2】特開2001−110682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、熱耐久性に優れた固体電解質層を与える導電性高分子形成用電解重合液を提供すること、該導電性高分子形成用電解重合液を用いた、ESRが低く、高い熱耐久性を有する固体電解コンデンサの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、鋭意検討した結果、ナフタレンスルホン酸化合物を含む支持電解質と、デービス法により算出されたHLB値が29〜33の範囲であるスルホン酸化合物を含む支持電解質とを含有する導電性高分子形成用電解重合液とそれを用いて作製した固体電解コンデンサとその製造方法が上記課題を解決することを見出し、完成するに至った。
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
第一の発明は、導電性高分子単量体と支持電解質とが、溶媒に溶解されてなる導電性高分子形成用電解液において、
下記一般式(1)で表されるナフタレンスルホン酸化合物を含む支持電解質(D1)と、
デービス法により算出されたHLB値が29〜33の範囲であるスルホン酸化合物を含む支持電解質(D2)と、
を含有することを特徴とする導電性高分子形成用電解重合液である。
【0016】
【化1】

(式(1)中、Rは同一でも異なっていてもよいハロゲン基又は炭素数1〜9の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基を示す。Xはカチオンを示し、mは1〜4の整数であり、nは1〜3の整数である。)
【0017】
第二の発明は、スルホン酸化合物が下記一般式(2)で表されるベンゼンスルホン酸化合物であることを特徴とする第一の発明に記載の導電性高分子形成用電解重合液である。
【0018】
【化2】

(式(2)中、Rは同一でも異なっていてもよい炭素数1〜15の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基を示す。Xはカチオンを示し、mは1〜4の整数であり、nは1〜3の整数である。)
【0019】
第三の発明は、支持電解質(D1)と支持電解質(D2)のモル比が、9:1〜2:8であることを特徴とする第一又は第二の発明に記載の導電性高分子形成用電解重合液である。
【0020】
第四の発明は、下記一般式(3)〜(5)で示される少なくとも一つの化合物が添加剤として溶解されてなることを特徴とする第一から第三の発明のいずれかに記載の導電性高分子形成用電解重合液である。
【0021】
【化3】

(式(3)〜(5)中、Rはそれぞれ同一でも異なっていてもよい水素原子、炭素数1〜6の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基又はフェニル基を示す。)
【0022】
第五の発明は、前記導電性高分子単量体がピロール及び/又はピロール誘導体であることを特徴とする第一から第四の発明のいずれかに記載の導電性高分子形成用電解重合液である。
【0023】
第六の発明は、誘電体酸化被膜が形成された弁作用金属上に、第一から第五の発明のいずれかに記載の導電性高分子形成用電解重合液中で導電性高分子層を電解重合により形成する工程を少なくとも有する固体電解コンデンサの製造方法である。
である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、従来の固体電解コンデンサと比較して著しく優れたESR特性と熱耐久性を示す固体電解コンデンサが得られる固体電解コンデンサの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
まず、本発明の電解重合用電解液について説明する。
【0026】
導電性高分子単量体と支持電解質とが、溶媒に溶解されてなる導電性高分子形成用電解液において、
下記一般式(1)で表されるナフタレンスルホン酸化合物を含む支持電解質(D1)と、
デービス法により算出されたHLB値が29〜33の範囲であるスルホン酸化合物を含む支持電解質(D2)と、
を含有することを特徴とする導電性高分子形成用電解重合液である。
【0027】
本発明の導電性高分子形成用電解重合液は、ドーパントを放出できる支持電解質と導電性高分子単量体である重合性モノマーが、溶媒中に溶解されたものである。
【0028】
重合性モノマーとしては、ピロール、アニリン、フラン、チオフェンあるいはこれらの誘導体を用いることができる。該誘導体としては、3−アルキルピロール、3−アルキルチオフェン、3,4−アルキレンジオキシピロール、3,4−アルキレンジオキシチオフェン等が挙げられる。前記モノマーは1種もしくは2種以上を同時に含有することができる。これらの中でも、得られる導電性高分子の強靱性、導電性及び耐久性の面から、ピロール及び/又はその誘導体が好ましく挙げられる。
【0029】
電解重合電解液の溶媒は、水、又はテトラヒドロフラン(THF)やジオキサン、ジエチルエーテル等のエーテル類、あるいはアセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、ジメチルホルムアミド(DMF)やアセトニトリル、ベンゾニトリル、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の非プロトン性極性溶媒、酢酸エチルや酢酸ブチル等のエステル類、クロロホルムや塩化メチレン等の非芳香族性の塩素系溶媒、ニトロメタンやニトロエタン、ニトロベンゼン等のニトロ化合物、あるいはメタノールやエタノール、プロパノール等のアルコール類、又はギ酸や酢酸、プロピオン酸等の有機酸又は該有機酸の酸無水物(無水酢酸等)を0〜30%以下の割合で水と混合した混合溶媒を挙げることができる。
これらの中でも、環境負荷、安全性の面から、水を単独で使用したものが好ましい。
【0030】
支持電解質(D1)に用いるナフタレンスルホン酸化合物は下記一般式(1)で表すことができる。
【0031】
【化4】

【0032】
上記一般式(1)中、Rは同一でも異なっていてもよいハロゲン基又は炭素数1〜9の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基を示す。Xはカチオンを示し、mは1〜4の整数であり、nは1〜3の整数である。
【0033】
上記ハロゲン基としては、フッ素、塩素、臭素等が挙げられる。
【0034】
上記炭素数1〜9の直鎖状又は分岐状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、オクチル基、イソプロピル基、イソブチル基等が挙げられる。
【0035】
ナフタレンスルホン酸の具体例としては、例えば、ナフタレンスルホン酸、メチルナフタレンスルホン酸、ジメチルナフタレンスルホン酸、トリメチルナフタレンスルホン酸、テトラメチルナフタレンスルホン酸、プロピルナフタレンスルホン酸、ジプロピルナフタレンスルホン酸、ブチルナフタレンスルホン酸、ジブチルナフタレンスルホン酸、トリブチルナフタレンスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、メチルナフタレンジスルホン酸、ジメチルナフタレンジスルホン酸、トリメチルナフタレンジスルホン酸、プロピルナフタレンジスルホン酸、ジプロピルナフタレンジスルホン酸、ブチルナフタレンジスルホン酸、ジブチルナフタレンジスルホン酸、トリブチルナフタレンジスルホン酸等が挙げられ、重合性モノマーとの混和性の点より、ブチルナフタレンスルホン酸が好ましく挙げられる。ナフタレンスルホン酸化合物は単独若しくは2種類以上の混合物として用いてもよい。
【0036】
上記一般式(1)中のXはカチオンを示し、水素イオン、アンモニウムカチオン、アルカリ金属カチオンが挙げられる。
前記アンモニウムカチオンとしては、NH、NH、NH、NHR、NR等が挙げられる。Rは炭素数1〜6のアルキル基である。
前記アルカリ金属カチオンとしては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン等が挙げられる。
これらのカチオンの中で、ナトリウムイオンが好ましく挙げられる。
これらカチオンは、1種あるいは2種以上を混合して用いることが出来る。
【0037】
従って、上記一般式(1)により表される化合物の具体例としては、例えば、ブチルナフタレンスルホン酸ナトリウムが挙げられる。
上記一般式(1)により表される化合物は、1種類もしくは2種類以上を使用することができる。
【0038】
支持電解質(D2)はデービス法によるHLB値が29〜33であるスルホン酸化合物を含有することを特徴としている。HLB値とは、Hydrophilic−Lipophilic−Balanceの略であり、界面活性剤の親水性と親油性のバランスを表す。値が小さいほど親油性が強く、大きいほど親水性が強いことを示す。HLB値には複数の求め方があるが、界面活性剤を構成する原子団の各構造に基づく基数を積算して求めるデービス法を採用した。基数は、例えば、−CH−であれば−0.475、−SONaであれば38.7である。下記の式(1)によって算出できる。
【0039】
【数1】

【0040】
上記式(1)中の[1]は親水基の基数を表し、[2]は疎水基の基数を表す。
【0041】
HLB値が29〜33の範囲にあるスルホン酸化合物を用いることで、ESRを低下させることができる。
29未満又は33超の場合では、優れたESRが得られない欠点がある。
【0042】
HLB値が29〜33のスルホン酸化合物としては、ベンゼンスルホン酸化合物、ナフタレンスルホン酸化合物等が挙げられ、好ましくはベンゼンスルホン酸化合物が挙げられる。
【0043】
ベンゼンスルホン酸化合物は下記一般式(2)で表すことができる。
【0044】
【化5】

【0045】
上記一般式(2)中、Rは同一でも異なっていてもよい炭素数1〜15の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基を示す。Xはカチオンを示し、mは1〜4の整数であり、nは1〜3の整数である。
【0046】
炭素数1〜15の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、オクチル基、イソプロピル基、イソブチル基等が挙げられる。
【0047】
一般式(2)で表されるベンゼンスルホン酸化合物は、Rの炭素数の合計が7〜15の場合にHLB値が29〜33の範囲に入る特徴を有する。
【0048】
上記一般式(2)中のベンゼンスルホン酸化合物の具体例としては、オクチルベンゼンスルホン酸、ノニルベンゼンスルホン酸、デシルベンゼンスルホン酸、ウンデシルベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、トリデシルベンゼンスルホン酸、テトラデシルベンゼンスルホン酸等が挙げられる。
【0049】
上記一般式(1)中のXはカチオンを示し、水素イオン、アンモニウムカチオン、アルカリ金属カチオンが挙げられる。
前記アンモニウムカチオンとしては、NH、NH、NH、NHR、NR等が挙げられる。Rは炭素数1〜6のアルキル基である。
前記アルカリ金属カチオンとしては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン等が挙げられる。
これらのカチオンの中で、ナトリウムイオンが好ましく挙げられる。
これらカチオンは、1種あるいは2種以上を混合して用いることが出来る。
【0050】
従って、上記一般式(2)により表される化合物の具体例としては、例えば、オクチルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ノニルベンゼンスルホン酸ナトリウム、デシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ウンデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、トリデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、テトラデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等等が挙げられる。
上記一般式(2)により表される化合物は、1種類若しくは2種類以上を使用することができる。
【0051】
上記一般式(2)で表される化合物は、HLB値が比較的低いことにより、電解重合膜中により効率的に取り込まれ、高導電性の導電性高分子を与え、かつ該ドーパントを有する導電性高分子はドーパントの脱離が生じにくく、更に熱耐久性に優れたものとなる。
【0052】
導電性高分子形成用電解重合液における支持電解質(D1)と支持電解質(D2)のモル比は、D1:D2=2:8〜9:1が好ましく、4:6〜8:2がより好ましく挙げられる。D1:D2=2:8〜9:1の範囲外では、優れたESRと熱耐久性が得られない欠点がある。
【0053】
本発明の電解液中には添加剤を含有することができる。本発明にて使用される添加剤は、主に酸化防止剤、界面活性剤のいずれかの特性を有するものが好ましい。そのような添加剤としてより好ましくは下式(3)〜(5)で示される化合物である。
【0054】
【化6】

【0055】
上記一般式(3)〜(5)中、Rはそれぞれ同一であっても異なっていてもよい、水素原子、炭素数1〜6の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基又はフェニル基を示す。
【0056】
上記一般式(3)で表される化合物の具体例としては、例えば、4−ニトロフェノール、2−メチル−4−ニトロフェノール、3−メチル−4−ニトロフェノール、2−エチル−4−ニトロフェノール、3−エチル−4−ニトロフェノール、2−ヘキシル−4−ニトロフェノール、3−ヘキシル−4−ニトロフェノール等のニトロフェノール類が挙げられる。
上記一般式(4)で表される化合物の具体例としては、例えば、4−ニトロ−1−ナフトール等のニトロナフトール類が挙げられる。
上記一般式(5)で表される化合物の具体例としては、例えば、1−ヒドロキシ−4−ニトロアントラキノン等のニトロアントラキノン類を挙げることができる。
【0057】
上記一般式(3)〜(5)により表される化合物は、1種もしくは2種以上を使用することができる。上記一般式(3)〜(5)により表される化合物は、得られる導電性高分子の熱耐久性の面から、4−ニトロフェノール、4−ニトロ−1−ナフトール、1−ヒドロキシ−4−ニトロアントラキノンであることが好ましい。
【0058】
さらに、支持電解質塩及び添加剤を含有せしめる導電性高分子形成用電解重合液を用いて電解重合を実施することで、熱耐久性に著しく優れた導電性高分子が得られる。
【0059】
本発明の導電性高分子形成用電解重合液を用いた固体電解コンデンサを製造する方法について説明する。弁作用金属表面の誘電体酸化皮膜上にプレコート層として導電性高分子層を予め形成しておき、次に前記プレコート層上に新たな導電性高分子層を本発明の電解重合液を用いて電解重合により形成することで固体電解質層を形成した後、該固体電解質層にカーボンペースト、銀ペースト等の導電ペーストを塗布乾燥することによって陰極層を形成する。
プレコート層の導電性高分子の形成方法としては(1)化学重合による導電性高分子層を形成する方法、(2)導電性高分子溶液を塗布乾燥して導電性高分子層を形成する方法が挙げられる。
次に弁作用金属から陽極リード端子、陰極層から陰極リード端子を接続して電極を取り出して素子を形成し、この素子全体をエポキシ樹脂等の絶縁性樹脂、あるいはセラミック製や金属製の外装ケース等により封止することで固体電解コンデンサを得ることができる。
【0060】
前記導電性高分子形成用電解重合液を用いることによって、導電性に優れ、かつ、高温に暴露された際に特定の安定構造をとる導電性高分子が得られ、さらに前記導電性高分子を固体電解質とすることにより、従来よりも格段に優れたESR特性、熱耐久性を有する固体電解コンデンサを得ることができる。
【0061】
本発明に用いられる陽極弁作用金属としては、アルミニウム、タンタル、ニオブ、チタンからなる群から選ばれる1種が挙げられ、焼結体又は箔の形状で用いられる。
【0062】
本発明の固体電解コンデンサの製造方法では、用いられる陽極弁作用金属の種類、形状により、チップ型または巻回型のいずれとすることができる。
【実施例】
【0063】
以下、本発明について実施例を挙げより詳細に説明する。なお、本発明は、以下の製造方法により、なんら限定されない。
【0064】
<固体電解コンデンサの評価>
(実施例1)
表面に誘電体酸化皮膜が形成された3mm×5mmサイズのエッチドアルミニウム箔を、85℃の150g/lアジピン酸アンモニウム水溶液中10Vで化成した後、純水で洗い、105℃乾燥機中で10分間乾燥させた。これを、18℃サーモプレート上に10分間静置した。次に18℃に冷却したモノマー液(ピロール:3(g)+エタノール:5(g)+HO:18.4(g)の混合液):4μlを箔上に滴下し、1分間静置した。さらに、酸化剤液(p−トルエンスルホン酸テトラエチルアンモニウム(PTS−TEA):5.6(mmol)+ペルオキソ二硫酸アンモニウム:1.56(g)+HO:10.63(g)の混合液):12μlを箔上に滴下し、10分間静置することで化学酸化重合しプレコート層を形成した。これを純水にて洗浄し、105℃乾燥機中で10分間乾燥させた。
【0065】
次に、電解重合液(ブチルナフタレンスルホン酸ナトリウム(東京化成工業株式会社製):1.96(mmol)+オクチルベンゼンスルホン酸ナトリウム(東京化成工業株式会社製、特級):0.84(mmol)+ピロール:0.6(g)+HO:45.8(g)の混合液)を用意した。
【0066】
プレコート層形成済みエッチドアルミニウム化成箔を電解重合液中に浸漬し、プレコート層に接触させた外部電極を陽極として、電流値を0.4mAに固定して電解重合を行い、導電性高分子層(固体電解質層)を形成した。
【0067】
次に、上記アルミニウム箔の導電性高分子層を形成した部分にカーボンペーストと銀ペーストを順に塗布し、乾燥させて、合計20個のコンデンサ素子を完成させた。
【0068】
これら20個のコンデンサ素子について、初期特性として100Hzにおける等価直列抵抗(ESR)及び150℃8時間の熱処理後の100Hzにおける等価直列抵抗(ESR)を測定した。
【0069】
(実施例2)
導電性高分子の製造方法を以下の方法に代えたこと、以外は実施例1と同様にして、20個のコンデンサ素子を得た。すなわち、電解重合液にブチルナフタレンスルホン酸ナトリウム(東京化成工業株式会社製):0.28(mmol)+ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(ソフト型、混合物、東京化成工業株式会社製):2.52(mmol)+ピロール:0.6(g)+HO:45.8(g)の混合溶液を用いて電解重合を行い、導電性高分子層を形成した。コンデンサ素子の特性評価を実施例1と同様に行った。
【0070】
(実施例3)
導電性高分子の製造方法を以下の方法に代えたこと以外は実施例1と同様にして、20個のコンデンサ素子を得た。すなわち、電解重合液にブチルナフタレンスルホン酸ナトリウム(東京化成工業株式会社製):0.56(mmol)+ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(ソフト型、混合物、東京化成工業株式会社製):2.24(mmol)+ピロール:0.6(g)+HO:45.8(g)の混合溶液を用いて電解重合を行い、導電性高分子層を形成した。コンデンサ素子の特性評価を実施例1と同様に行った。
【0071】
(実施例4)
導電性高分子の製造方法を以下の方法に代えたこと以外は実施例1と同様にして、20個のコンデンサ素子を得た。すなわち、電解重合液にブチルナフタレンスルホン酸ナトリウム(東京化成工業株式会社製):1.12(mmol)+ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(ソフト型、混合物、東京化成工業株式会社製):1.68(mmol)+ピロール:0.6(g)+HO:45.8(g)の混合溶液を用いて電解重合を行い、導電性高分子層を形成した。コンデンサ素子の特性評価を実施例1と同様に行った。
【0072】
(実施例5)
導電性高分子の製造方法を以下の方法に代えたこと以外は実施例1と同様にして、20個のコンデンサ素子を得た。すなわち、電解重合液にブチルナフタレンスルホン酸ナトリウム(東京化成工業株式会社製):1.68(mmol)+ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(ソフト型、混合物、東京化成工業株式会社製):1.12(mmol)+ピロール:0.6(g)+HO:45.8(g)の混合溶液を用いて電解重合を行い、導電性高分子層を形成した。コンデンサ素子の特性評価を実施例1と同様に行った。
【0073】
(実施例6)
導電性高分子の製造方法を以下の方法に代えたこと以外は実施例1と同様にして、20個のコンデンサ素子を得た。すなわち、電解重合液にブチルナフタレンスルホン酸ナトリウム(東京化成工業株式会社製):1.96(mmol)+ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(ソフト型、混合物、東京化成工業株式会社製):0.84(mmol)+ピロール:0.6(g)+HO:45.8(g)の混合溶液を用いて電解重合を行い、導電性高分子層を形成した。コンデンサ素子の特性評価を実施例1と同様に行った。
【0074】
(実施例7)
導電性高分子の製造方法を以下の方法に代えたこと以外は実施例1と同様にして、20個のコンデンサ素子を得た。すなわち、電解重合液にブチルナフタレンスルホン酸ナトリウム(東京化成工業株式会社製):2.24(mmol)+ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(ソフト型、混合物、東京化成工業株式会社製):0.56(mmol)+ピロール:0.6(g)+HO:45.8(g)の混合溶液を用いて電解重合を行い、導電性高分子層を形成した。コンデンサ素子の特性評価を実施例1と同様に行った。
(実施例8)
導電性高分子の製造方法を以下の方法に代えたこと以外は実施例1と同様にして、20個のコンデンサ素子を得た。すなわち、電解重合液にブチルナフタレンスルホン酸ナトリウム(東京化成工業株式会社製):2.52(mmol)+ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(ソフト型、混合物、東京化成工業株式会社製):0.28(mmol)+ピロール:0.6(g)+HO:45.8(g)の混合溶液を用いて電解重合を行い、導電性高分子層を形成した。コンデンサ素子の特性評価を実施例1と同様に行った。
(実施例9)
導電性高分子の製造方法を以下の方法に代えたこと以外は実施例1と同様にして、20個のコンデンサ素子を得た。すなわち、電解重合液にブチルナフタレンスルホン酸ナトリウム(東京化成工業株式会社製):1.96(mmol)+ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(ソフト型、混合物、東京化成工業株式会社製):0.84(mmol)+ピロール:0.6(g)+4−ニトロフェノール:0.229(mmol)+HO:45.8(g)の混合溶液を用いて電解重合を行い、導電性高分子層を形成した。コンデンサ素子の特性評価を実施例1と同様に行った。
【0075】
(実施例10)
導電性高分子の製造方法を以下の方法に代えたこと以外は実施例1と同様にして、20個のコンデンサ素子を得た。すなわち、電解重合液にブチルナフタレンスルホン酸ナトリウム(東京化成工業株式会社製):1.96(mmol)+ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(ソフト型、混合物、東京化成工業株式会社製):0.84(mmol)+ピロール:0.6(g)+4−ニトロ−1−ナフトール:0.229(mmol)の混合溶液を用いて電解重合を行い、導電性高分子層を形成した。コンデンサ素子の特性評価を実施例1と同様に行った。
【0076】
(実施例11)
導電性高分子の製造方法を以下の方法に代えたこと以外は実施例1と同様にして、20個のコンデンサ素子を得た。すなわち、電解重合液にブチルナフタレンスルホン酸ナトリウム(東京化成工業株式会社製):1.96(mmol)+ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(ソフト型、混合物、東京化成工業株式会社製):0.84(mmol)+ピロール:0.6(g)+1−ヒドロキシ−4−ニトロアントラキノン:0.229(mmol)の混合溶液を用いて電解重合を行い、導電性高分子層を形成した。コンデンサ素子の特性評価を実施例1と同様に行った。
【0077】
(比較例1)
導電性高分子の製造方法を以下の方法に代えたこと以外は実施例1と同様にして20個のコンデンサ素子を得た。すなわち、電解重合液にブチルナフタレンスルホン酸ナトリウム(東京化成工業株式会社製):2.8(mmol)+ピロール:0.6(g)+HO:45.8(g)の混合溶液を用いて電解重合を行い、導電性高分子層を形成した。コンデンサ素子の特性評価を実施例1と同様に行った。
【0078】
(比較例2)
導電性高分子の製造方法を以下の方法に代えたこと以外は実施例1と同様にして20個のコンデンサ素子を得た。すなわち、電解重合液にドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(ソフト型、混合物、東京化成工業株式会社製):2.8(mmol)+ピロール:0.6(g)+HO:45.8(g)の混合溶液を用いて電解重合を行い、導電性高分子層を形成した。コンデンサ素子の特性評価を実施例1と同様に行った。
【0079】
(比較例3)
導電性高分子の製造方法を以下の方法に代えたこと以外は実施例1と同様にして20個のコンデンサ素子を得た。すなわち、電解重合液にブチルナフタレンスルホン酸ナトリウム(東京化成工業株式会社製):1.96(mmol)+p−トルエンスルホン酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製):0.84(mmol)+ピロール:0.6(g)+HO:45.8(g)の混合溶液を用いて電解重合を行い、導電性高分子層を形成した。コンデンサ素子の特性評価を実施例1と同様に行った。
【0080】
(比較例4)
導電性高分子の製造方法を以下の方法に代えたこと以外は実施例1と同様にして20個のコンデンサ素子を得た。すなわち、電解重合液にブチルナフタレンスルホン酸ナトリウム(東京化成工業株式会社製):1.96(mmol)+ヘキサデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム:0.84(mmol)+ピロール:0.6(g)+HO:45.8(g)の混合溶液を用いて電解重合を行い、導電性高分子層を形成した。コンデンサ素子の特性評価を実施例1と同様に行った。
ヘキサデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムは、以下の方法で合成した。すなわち、ヘキサデシルベンゼン(和光純薬工業製)20(g)と20%発煙硫酸24(g)を25℃で10時間反応させた後、水12(g)を加えて38℃で20時間放置後、20質量%水酸化ナトリウム水溶液で中和することで、ヘキサデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを得た。
【0081】
(比較例5)
導電性高分子の製造方法を以下の方法に代えたこと以外は実施例1と同様にして20個のコンデンサ素子を得た。すなわち、電解重合液にドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(東京化成工業株式会社製):1.00(mmol)+p−トルエンスルホン酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製):1.00(mmol)+ピロール:0.6(g)+HO:45.8(g)の混合溶液を用いて電解重合を行い、導電性高分子層を形成した。コンデンサ素子の特性評価を実施例1と同様に行った。
【0082】
実施例1〜11、比較例1〜5のコンデンサ素子の測定結果を表1に示す。
【0083】
【表1】

【0084】
表中の略称を以下に示す。
BNS−Na:ブチルナフタレンスルホン酸ナトリウム
OBS−Na:オクチルベンゼンスルホン酸ナトリウム
DBS−Na:ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム
PTS−Na:パラトルエンスルホン酸ナトリウム
HBS−Na:ヘキサデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム
NP:4−ニトロフェノール
NNP:4−ニトロ−1−ナフトール−4−ニトロフェノール
HNA:1−ヒドロキシ−4−ニトロアントラキノン
【0085】
実施例1〜11と比較例1〜5を比較すると実施例1〜11の方がコンデンサのESRの低減と熱耐久性の向上が見られた。特に添加剤を加えた実施例9〜11では大幅に熱耐久性が向上することが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の導電性高分子形成用電解重合液により得られる導電性高分子は、固体電解コンデンサはもとより、有機ELディスプレイ、有機トランジスタ、ポリマー電池、太陽電池、各種センサー材料、電磁波シールド材料、帯電防止材料、エレクトロクロミック材料、人工筋肉などに好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性高分子単量体と支持電解質とが、溶媒に溶解されてなる導電性高分子形成用電解液において、
下記一般式(1)で表されるナフタレンスルホン酸化合物を含む支持電解質(D1)と、
デービス法により算出されたHLB値が29〜33の範囲であるスルホン酸化合物を含む支持電解質(D2)と、
を含有することを特徴とする導電性高分子形成用電解重合液。
【化1】

(式(1)中、Rは同一でも異なっていてもよいハロゲン基又は炭素数1〜9の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基を示す。Xはカチオンを示し、mは1〜4の整数であり、nは1〜3の整数である。)
【請求項2】
スルホン酸化合物が下記一般式(2)で表されるベンゼンスルホン酸化合物であることを特徴とする請求項1に記載の導電性高分子形成用電解重合液。
【化2】

(式(2)中、Rは同一でも異なっていてもよい炭素数1〜15の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基を示す。Xはカチオンを示し、mは1〜4の整数であり、nは1〜3の整数である。)
【請求項3】
支持電解質(D1)と支持電解質(D2)のモル比が、9:1〜2:8であることを特徴とする請求項1又は2に記載の導電性高分子形成用電解重合液。
【請求項4】
下記一般式(3)〜(5)で示される少なくとも一つの化合物が添加剤として溶解されてなることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の導電性高分子形成用電解重合液。
【化3】

(式(3)〜(5)中、Rはそれぞれ同一でも異なっていてもよい水素原子、炭素数1〜6の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基又はフェニル基を示す。)
【請求項5】
前記導電性高分子単量体がピロール及び/又はピロール誘導体であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の導電性高分子形成用電解重合液。
【請求項6】
誘電体酸化皮膜が形成された弁作用金属上に、請求項1から5のいずれかに記載の導電性高分子形成用電解重合液中で導電性高分子層を電解重合により形成する工程を少なくとも有する固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項7】
誘電体酸化皮膜が形成された弁作用金属上に、導電性高分子層(A)を形成する工程と、前記導電性高分子層(A)上に請求項1から5のいずれかに記載の電解重合液中で導電性高分子層(B)を電解重合により形成する工程とを有する固体電解コンデンサの製造方法。

【公開番号】特開2011−210918(P2011−210918A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−76656(P2010−76656)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000228349)日本カーリット株式会社 (269)
【Fターム(参考)】