説明

導電膜、導電性塗料、およびこれらの製造方法

【課題】 スクリーン印刷などで塗膜が可能であり、合成樹脂および導電性粒子の種類や量を自由に調整できる導電膜、導電性塗料、およびこれらの製造方法を提供する。
【解決手段】 基板2の表面2aにスクリーン印刷などで塗膜される導電性塗料60は、有機溶媒40とスメクタイト30を含んだゲル状コロイド分散液であり、このゲル構造内に、導電性粒子20および溶媒に不溶な粒状の合成樹脂材料10aが分散し、ゲル構造の内部に、導電性粒子20が沈降することなく保持されている。塗膜後に、加熱乾燥させて有機溶媒40を揮発させ、さらに加熱すると、合成樹脂材料10aが溶解し且つ固化して、合成樹脂内に導電性粒子20が均一に分散した導電膜が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば基板上にスクリーン印刷などによって形成される導電膜、前記導電膜を形成するための導電性塗料、およびこれらの製造方法に係り、特に種々の合成樹脂に対応でき且つ導電性粒子の含有量を多くすることが可能であり、さらに塗膜性に優れた導電膜、導電性塗料、およびこれらの製造方法に係る。
【背景技術】
【0002】
基板上に導電性塗料をスクリーン印刷などの方法でパターニングし、「焼成」または「焼結」させて導電性の塗膜を形成する技術は、スパッタリングなどの物理蒸着法とフオトレジストとを用いて形成する「薄膜技術」と対比させて、一般に「厚膜技術」と呼んでいる。
【0003】
「厚膜技術」で用いられる塗料は、基板への結合材で二分され、ガラスフリットの加熱冷却に伴う溶融固化を利用する「サーメット型」と、常温固体の有機系高分子を溶媒に溶解したものの加熱乾燥に伴う固化を利用したり、比較的低分子量の有機化合物の重合や硬化に伴う高分子量化や架橋反応を利用する「有機バインダー型」がある。
【0004】
「サーメット型」塗料は、一般に「ビヒクル」と呼ばれる有機溶媒にセルロース系樹脂を溶解させた粘稠状の樹脂溶液を用い、スクリーン印刷時の流動特性を確保する。この「ビヒクル」中に結合材としてのガラスフリットと導電性粒子を混在させ、これを基板表面にパターニングした後に、加熱処理により有機溶媒を蒸発させ且つセルロース系樹脂を燃焼させるとともに、導電性粒子が「焼結」し、ガラスフリットが溶融固化して基板の表面に接着される。この「サーメット型」塗料では、スクリーン印刷時の流動特性を決める有機溶媒とセルロース系樹脂でできた「ビヒクル」が固化した塗膜には残存せず、基板表面での塗膜特性は導電性粒子とガラスフリットの質と量に依存する。この「サーメット型」塗料は、結合材がガラスであり、導電性粒子も「焼結」することから、温度湿度などの雰囲気条件に対して比較的安定な塗膜が得られるという利点があるが、反面、「ビヒクル」の燃焼やガラスフリットの溶融に約1000℃の高温が必要であり、アルミナ基板のような高耐熱のセラミック系基板を用いなければいけないという欠点も有する。
【0005】
一方、「有機バインダー型」塗料は、有機溶媒にバインダー(結合材)となる合成樹脂を溶解させた樹脂溶液中に、銀粉やカーボン粉などの導電性粒子を混合、分散させた構成である。この導電性塗料においても、スクリーン印刷などで、基板の表面にパターンニングされた後の加熱工程において、有機溶媒を蒸発させるとともに、合成樹脂材料を溶融させて固化させることにより、基板表面に固化され接着された導電膜が得られる。この「有機バインダー型」塗料では、溶媒の乾燥や合成樹脂の加熱固化に必要な温度に耐えれば良いので、プラスチックフィルムや紙・フェノール基板などの有機系基板が使用できるという利点をもつ。前記導電性塗料のスクリーン印刷時の流動特性は、主としてバインダー(結合材)となる合成樹脂を有機溶媒に溶解した樹脂溶液に依存する。更に、前記導電性塗料を加熱固化させた塗膜の特性は、溶媒が蒸発した後の固化した樹脂とその樹脂に分散した導電性フィラーの質と量に依存する。
【0006】
熱可塑性基板である飽和ポリエステル樹脂基板の表面に導電膜を形成するための導電性塗料では、一般的にバインダー樹脂としてポリエステル樹脂に対する接着性に優れる汎用溶媒に可溶な飽和ポリエステル樹脂が使用される。このポリエステル樹脂は、常温で固体であるため、エステル系の有機溶媒に溶解させたワニスを形成して、塗料の流動性を確保している。しかし、汎用溶媒に可溶な飽和ポリエステル樹脂の耐熱性は低く、一般にガラス転移点は100℃以下になる。この欠点を補うべく、飽和ポリエステル樹脂溶液に、ブロックイソシアネート等の飽和ポリエステル樹脂の末端水酸基と硬化反応をする架橋剤を加え、溶媒の乾燥とともに架橋させ、形成された導電膜の耐熱性を高めようとする工夫がなされている。
【0007】
また、固化した導電性の塗膜に半田付けをするには、塗膜中の銀粒子の量を高くすることが必須であり、半田との安定な接合を確保するには、少なくても塗膜中の銀粒子の体積が50%以上は必要である。
【0008】
さらに、固化した導電膜の電気抵抗を低くするためには、量的には導電膜中に多くの導電性粒子を含ませることが適しており、質的には塗膜面方向の導電性が高い鱗片状粒子、粒子間の接触が多く導電性が高くなる樹枝状の粒子、および、これらの粒子間の接触に寄与する1μm以下の比表面積の大きい微小粒子を用いることが適している。しかし、これらの粒子はいずれも球形粒子に比べ比表面積が大きく、粒子の表面に樹脂溶液が吸着されて導電性塗料の流動性が失われてしまう。そのため、バインダー樹脂溶液の流動性をスクリーン印刷可能な領域に保つ範囲で、球形粒子を多量に用いて導電性を得つつ、半田付けが可能なレベルまで銀の割合を高めたり、半田付けはできないが導電性を重視して鱗片状の粒子を用いるなど、塗膜の性能を犠牲にしてスクリーン印刷時の流動性を確保している。
【0009】
以下の特許文献1には、導電性粒子の含有量を多くした導電性ペースト(導電性塗料)が開示されている。この導電性ペーストは、熱可塑性ポリエステル樹脂をバインダー樹脂として使用し、有機溶媒としてメチルエチルケトンなどが使用され、さらに粒径が2〜5μmの導電性フィラーが用いられている。この発明は、熱可塑性ポリエステル樹脂として、200℃における溶融粘度が2900ポイズ以上でガラス転移点が90℃以上のものを使用することにより、一定粘度のバインダー樹脂溶液を作製するのに多量の溶媒が必要なものとなっている。一定粘度の樹脂溶液には一定量の銀粒子が分散可能であるが、バインダー樹脂溶液中の溶媒/樹脂比が大きいと、溶媒は加熱時に蒸発して無くなるので、相対的に固化塗膜中の銀粒子/樹脂比を大きくできる。更に、この発明は、球形粒子を用いることで、一定粘度のバインダー樹脂溶液に分散可能な銀粒子の量を最大にしている。一方、架橋密度が高くなるような、比較的分子量の小さい硬化性樹脂を用いていないため、耐熱性は犠牲にしたものとなっている。
【特許文献1】特許第2965815号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載の発明では、塗膜中の銀粒子の割合を増やし且つ一定粘度の樹脂溶液を作製するのに多量の溶媒を必要とするため、溶融粘度の高いバインダー樹脂を使用することが必要であり、比較的低分子量である熱硬化性樹脂を使うことができずに耐熱性が犠牲になる。また、さらに溶融粘度の高い樹脂は分子間相互作用が強いために、汎用溶媒に溶解しなくなり、耐熱性に限界が生じる。特許文献1に記載の発明は、汎用溶媒に可溶な範囲で、溶融粘度の高い樹脂バインダーを使用することにより、最低限必要な耐熱性を維持しつつ有機溶媒の量を増やして、多くの導電性フィラーを含ませようというものである。
【0011】
つまり、従来の「有機バインダー型」導電性塗料は、印刷特性に必要な流動特性が、バインダー樹脂と溶媒との組み合わせに依存するものであるため、流動特性を良好にし且つ耐熱性を高めたり、あるいは流動特性を良好にし且つ電気抵抗を低下させるなどの、全ての特性を満足するものが存在していないのが現状である。
【0012】
本発明は前記従来の課題を解決するものであり、導電性粒子の種類や含有割合を自由に設定でき、またバインダー樹脂も自由に選択でき、各種用途に適応した導電膜を得ることを目的としている。
【0013】
また本発明は、前記導電膜を形成するのに最適な導電性塗料、さらにはこれらの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
第1の本発明は、基板表面にパターン形成された導電膜において、固化した合成樹脂と、前記合成樹脂内に含まれた導電性粒子およびスメクタイトとを有することを特徴とするものである。
【0015】
この導電膜を形成するための導電塗料は、スメクタイトを含むことにより、スクリーン印刷時に最適な流動性を得ることができる。そのため、導電膜の合成樹脂を耐熱性や可撓性などの要求に合わせて任意に選択できる。また導電性粒子の種類および含有量を自由に選択できるようになる。
【0016】
例えば、本発明は、前記合成樹脂と前記導電性粒子および前記スメクタイトの合計体積を100%としたときに、前記スメクタイトが2.8ないし8.9体積%含まれているものが好ましい。
【0017】
スメクタイトが前記範囲で含まれたものは、導電性粒子間の接触性にスメクタイトが影響を与えることがなく、優れた導電性が得られる。
【0018】
本発明は、例えば、前記導電性粒子は銀粒子である。例えば、前記銀粒子が、鱗片状粒子と、この鱗片状粒子よりも粒径の小さい微小不定形粒子を含むものである。
【0019】
また、本発明は、前記銀粒子を、37から78体積%含むものとすることが可能であり、また80体積%以上含ませることも可能である。
【0020】
本発明の導電膜は、銀粒子を多く含ませることが可能であり、その結果、電気抵抗を低下させることができるとともに、この導電膜に直接に半田付けすることも可能になる。ただし、導電性粒子は、銀以外の導電性金属粒子、あるいはカーボン粉などであってもよい。
【0021】
第2の本発明は、スメクタイトを含む有機溶媒中に、合成樹脂粒子および導電性粒子が含まれていることを特徴とする導電性塗料である。
【0022】
この導電性塗料は、スメクタイトを含む有機溶媒が力を加えない状態ではゲル状の性質を有し、力を加えると容易にゾル状となる特性を利用している。すなわち、スクリーン印刷における静止時には塗料はゲル状であり版(印刷マスク)の孔から流れ出ることはなく、印刷機稼動時(スキージの移動時)には容易にゾル状となり所定の孔から押し出され、孔から吐出後はすぐにゲル状になることで版の所定のパターン形状を維持するというスクリーン印刷などによる塗膜性に適した流動性を得られる。合成樹脂の粒子および導電性粒子は、このゲル状のスメクタイト分散溶液中に動きにくい状態で分散、集合した状態となるため沈降しにくい。また印刷時には見掛けの粘性係数(粘度)が溶媒に近い値になるため、合成樹脂と導電性粒子を含んでも印刷特性に大きな影響を与えることがない。このように、印刷特性が、主にゲル状−ゾル状と変化するスメクタイト分散溶液に依存するため、含まれる合成樹脂や導電性粒子の種類や量を適宜選択できるようになる。
【0023】
また、上記の流動特性を得るためには、前記有機溶媒の100重量部に対して、前記スメクタイトが、5.3から17.6重量部含まれていることが好ましい。また、前記導電性粒子は、例えば銀粒子である。
【0024】
スメクタイトが前記範囲内で含まれていると、印刷特性に優れた静止時にゲル状、稼動時にゾル状の導電性塗料を形成でき、合成樹脂と導電性粒子とを均一に分散させることができる。スメクタイトの量が前記範囲未満であると、溶媒の一部だけがゲル状になり導電性塗料が十分な降伏値を得ることができず、合成樹脂や導電性粒子がゲル状内に均一に分散された状態で保持されず、導電性塗料内で、合成樹脂や導電性粒子が沈降しやすくなる。また、スメクタイトの量が前記範囲を超えると、スメクタイトが溶媒内に分散しきれず、導電性塗料内にスメクタイトの塊が存在することとなり、合成樹脂や導電性粒子が均一に分散できなくなり、さらにスクリーン印刷などによる塗膜特性も悪くなる。
また、前記有機溶媒は、極性溶媒であることが好ましい。
【0025】
第3の本発明は、以下の工程を有することを特徴とする導電性塗料の製造方法である。
(a)有機溶媒内に、スメクタイトが分散したスメクタイト分散液を形成する工程と、
(b)前記スメクタイト分散液中に、合成樹脂粒子および導電性粒子を分散させて導電性塗料を形成する工程。
【0026】
上記方法においても、前記有機溶媒の100重量部に対し、前記スメクタイトを5.3から17.6重量部含ませることが好ましく、また、前記導電性粒子は、例えば銀粒子である。
【0027】
第4の本発明は、前記の導電性塗料を、基板上にパターン化して塗布して塗膜を形成する工程と、
加熱処理により、前記塗膜に含まれた合成樹脂を溶融させて固化させる工程と、を有することを特徴とする導電膜の製造方法である。
【0028】
また、本発明は、前記合成樹脂が固化した後の、合成樹脂と前記導電性粒子および前記スメクタイトとの合計体積を100体積%としたときに、前記スメクタイトを2.8から8.9体積%含むものが好ましい。
【発明の効果】
【0029】
本発明は、有機溶媒にスメクタイトが含まれたスメクタイト分散液に、合成樹脂(例えば合成樹脂の粒子)および導電性粒子が分散した導電性塗料で導電膜が形成される。この導電膜中に、好ましくはスメクタイトを2.8〜8.9体積%含むことにより、すなわち、前記有機溶媒100重量部に対して、前記スメクタイトが、5.3から17.6重量部含むことにより、前記スメクタイト分散液は適度な降伏値を持ち、静置時には流動性を示さないゲル状を呈するようになる。さらにゲル状のスメクタイト分散液内に、合成樹脂や導電性粒子が均一に分散して保持された状態となる。スクリーン印刷などの成膜工程では、その流動特性が、スメクタイト分散液のゲル状態での降伏値と、ゾル状態での見掛けの粘性係数(粘度)に依存するため、内部に含まれる合成樹脂および導電性粒子の種類および量、導電性粒子/合成樹脂比にかかわらず、常に適切な流動特性を得ることができる。
【0030】
そのため、合成樹脂として耐熱性および耐薬品性などの点で優れたものを使用することも可能であり、さらには、導電性粒子として、従来は樹脂溶液を吸着するために多量に使用できなかった比表面積の大きな鱗片状の銀粒子や微小不定形粒子を使用することも可能であり、またこの鱗片状の銀粒子と、最大直径が1μm以下の微小不定形の銀粒子とを混在して使用することも可能である。このように、任意の導電性粒子を使用しても、スクリーン印刷時の流動特性が大きく低下することがないため、低抵抗の導電膜を得ることも可能であり、さらには直接に半田付けできる導電膜の形成も可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
図1は本発明の実施の形態の導電膜が形成された回路基板を示す部分斜視図、図2は、本発明の導電膜の製造方法の工程の一部であり、基板表面に導電塗料が塗布された状態を模式的に示す断面図(図1のII−II線断面部に相当する断面図)、図3は加熱工程後の導電膜の構造を模式的に示す図2と同様の断面部を示す断面図、図4は、導電性塗料および導電膜の製造工程を示す工程説明図、図5はスメクタイト分散液の流動特性を示す線図、図6はスメクタイトの質量(重量)の変化状態を示す線図である。
【0032】
図1に示す回路基板1は、基板2の表面2aに、回路パターン3が形成されている。前記回路パターン3は、複数の導電膜3aにより構成されている。図1に示す実施の形態では、前記導電膜3aが長手方向(図示Y1−Y2方向)に向って一定の幅寸法で帯状に延びている。そして、2つの前記導電膜3aは、幅方向(図示X1−X2方向)に所定間隔を空けて互いに平行に形成されている。本発明の導電膜は、前記のように平行に延びるパターンで形成されるものに限定されず、曲線パターンや、部品を半田付けするランド形状であってもよいし、さらには所定面積を有する円形パターンなどであってもよい。
【0033】
前記基板2は、例えばポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリイミド樹脂、紙−フェノール樹脂、紙−エポキシ樹脂、ガラス−エポキシ樹脂、ガラス−シリコーン樹脂などで形成されている。なお、前記基板2は可撓性のシートであってもよいし、可撓性を有しないものであってもよい。
【0034】
図3に示すように、前記回路パターン3を構成する前記導電膜3aは、固化している合成樹脂10と、前記合成樹脂10内に分散しあるいは分散し且つ部分的に集合した導電性粒子20で形成されている。また、合成樹脂10内にはスメクタイト30が含まれている(図3では図示を省略)。ここで、スメクタイトとは、粘土の中に含まれる粘土鉱物であり、モンモリロナイトとも呼ばれるものであり、通常は細かい粒状である。その特性は、水分を吸収したときに大きな膨潤性を示す。
【0035】
この導電膜3aは、有機溶媒にスメクタイトを分散させたスメクタイト分散液中に、バインダー(結合剤)となる合成樹脂と導電性粒子を混在させた導電性塗料を、基板2の表面にスクリーン印刷し、その後の熱処理することで形成されるものである。この導電性塗料には、どのような種類の合成樹脂であっても、またどのような導電性粒子であっても含ませることが可能であり、また合成樹脂の量および導電性粒子の量、両者の比も任意に選択できる。
【0036】
例えば、合成樹脂10を形成する樹脂材料は、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂などである。また、耐熱性と耐薬品性に優れ、さらに基板2との接合性に優れた合成樹脂であって、従来の「有機バインダー型」塗料においては汎用溶媒に溶解しないために使用し得なかったポリフェニレンサルファイド樹脂やポリエーテルエーテルケトン樹脂なども使用することができる。ポリフェニレンサルファイド樹脂やポリエーテルエーテルケトン樹脂は、有機溶媒に溶けないため、この樹脂を含んだ導電性塗料では、図2に示すように、塗料内に、ポリフェニレンサルファイド樹脂やポリエーテルエーテルケトン樹脂が溶けることなく粉末または粒子の状態で存在し、その後の過熱処理によって、ポリフェニレンサルファイド樹脂やポリエーテルエーテルケトン樹脂が溶融し、冷却時に固化することにより図3に示す合成樹脂10が得られる。
【0037】
前記導電性塗料に含まれる導電性粒子20はどのようなものであってもよく、また導電性塗料に含まれる導電性粒子20の量も任意に選択することが可能である。例えば、導電性粒子20は、球状、鱗片状(フレーク状)、樹枝状、繊維状や不定形の金属微粒子であり、例えば銀、銅、ニッケル、パラジウム、錫などの金属やこれらの金属の合金を使用できる。あるいは、前記いずれかの金属やガラス、プラスチックの表面に、さらに前記いずれかの金属を被覆したものであってもよい。また、導電性粒子20がカーボンブラック、グラファイト(黒鉛)、カーボンファイバー、カーボンビーズなどであってもよい。
【0038】
導電膜3aを形成する製造方法の工程は、図4に示される通りである。
導電膜3aは、基板2の表面2aに導電性塗料60をスクリーン印刷し、加熱処理を行うことで形成される。図2には、基板2の表面2aに、導電性塗料60がパターン形成された状態を模式的な断面図で示している。
【0039】
図4に示すように、導電性塗料60は、スメクタイト分散液50に、合成樹脂材料(合成樹脂粒子)10aおよび導電性粒子20を混入することで形成される。
【0040】
スメクタイト分散液50は、有機溶媒(有機溶剤)40とスメクタイト30とで構成される。有機溶媒40は、ジプロピレングリコール、N−メチル−2−ピロリドンなどの極性溶媒であることが好ましい。これら極性溶媒は、沸点が高く、スメクタイト30と混合したときに、スメクタイト30が凝集することなく均一コロイド状に分散しやすくなる。有機溶媒40として極性の低いものを使用すると、スメクタイトの分散粒子が大きくなり、分散液は白濁しやすくなる。また、スメクタイト30は、疎水性(親油性)のものが使用される。
【0041】
図4に示すように、スメクタイト30を有機溶媒40中に混ぜて、加熱、膨潤させると、薄い層状の結晶構造を持つスメクタイト30の結晶間に有機溶媒40が取り込まれ、スメクタイト30が膨潤する。さらに、スメクタイト30と前記有機溶媒40を擂潰機、ボールミル、ロールミル、ジェットミルなどを用いて破砕・分散し、スメクタイト分散液50を形成する。
【0042】
スメクタイト30を高濃度に含むスメクタイト分散液50では、一度分散したスメクタイト30が再凝集して三次元の格子状に内部構造を形成し、その間隙に有機溶媒40が取り込まれ、有機溶媒40の流動が抑制されてゲル状となる。
【0043】
有機溶媒40として、ジプロピレングリコールや、N−メチル−2−ピロリドンなどの高沸点の極性溶媒を使用することにより、有機溶剤40とスメクタイト30とを混合するときの加熱温度を高くでき、スメクタイト30が十分に膨潤したゲル構造を得ることができる。なお、前記有機溶媒40をジプロピレングリコールや、N−メチル−2−ピロリドンを使用した場合、前記加熱温度は例えば100℃である。
【0044】
図5は、スメクタイト分散液50の流動特性を示すグラフであり、流動曲線(フローカーブ)と呼ばれる。このスメクタイト分散液50は、有機溶媒であるジプロピレングリコールの100重量部に対して、スメクタイト30を11.1重量部含んだものである。図5では、比較のために、有機溶媒40すなわちジプロピレングリコールの流動特性を併記している。
【0045】
図5の横軸は、「ずり速度」を示し、縦軸が「ずり応力」を示している。図5のスメクタイト分散液50において、ずり速度0(流動していない状態)におけるずり応力が降伏値である。言い換えると、この降伏値は、ゲル状のスメクタイト分散液50に徐々に力を加えていったときの、液が流動を開始する最小の力である。また、溶媒40のように、流動曲線が原点を通る直線関係にあるとき、ずり速度とずり応力の係数(図の直線の傾き)が粘性係数(粘度)である。スメクタイト分散液50のように、流動曲線が直線関係であっても降伏値を持つ場合は、係数(直線の傾き)は「見掛けの粘度」と呼ばれる。
【0046】
図5に示すように、有機溶媒40とスメクタイト30とで形成されたスメクタイト分散液50は、重力より大きい降伏値を持つゲル状であり、重力しか作用しない場合(静置時)には流動を示さず、スクリーン印刷の版上にとどまり、孔から液がポタポタと垂れるということがない。しかしながら、降伏値より大きい力をスキージにより加えられたときにはスメクタイト分散液50はゾル化し、流動性を示し版の孔を通過する。さらに孔から出た直後に、スキージによる力がかからなくなるので再度ゲル化し、基板2の表面2aで流れたり拡散せずに、版のパターン形状を維持する。
【0047】
スクリーン印刷に適した粘度のスメクタイト分散液50を得るためには、有機溶媒40の100重量部に対し、スメクタイト30が5.3重量部から17.6重量部を含むことが好ましい。
【0048】
スメクタイト30が前記範囲内で含まれていると、十分大きな降伏値をもつゲル状のスメクタイト分散液50を形成でき、合成樹脂と導電性粒子とを均一に含ませることができる。スメクタイト30の量が前記範囲未満であると、ゲル状のスメクタイト分散液の降伏値が、重力に対して十分な大きさにならず、合成樹脂や導電性粒子がスメクタイト分散液内に均一に分散された状態で保持されにくく、導電性塗料内で、合成樹脂や導電性粒子が沈降しやすくなる。また、スメクタイトの量が前記範囲を超えると、スメクタイトが溶媒内に分散しきれず、導電性塗料内にスメクタイトの塊が存在しやすくなり、合成樹脂や導電性粒子が均一に分散できなくなり、さらにスクリーン印刷などによる塗膜特性も悪くなる。
【0049】
また、スメクタイト30を前記範囲で含ませたスメクタイト分散液50では、スメクタイト30が肉眼で観察されず、スメクタイト分散液50は透明である。
【0050】
図4に示すように、スメクタイト分散液50に、合成樹脂材料10aと導電性粒子20を配合して混練し、スメクタイト分散液50内に合成樹脂材料10aと導電性粒子20を均一に分散させることで導電性塗料60が得られる。合成樹脂材料10aは粉末または粒状の状態でスメクタイト分散液50内に混合する。合成樹脂材料10aが、汎用溶媒に不溶であるポリエーテルエーテルケトン樹脂などである場合には、図2に示すように、スメクタイト分散液50内に粉末または粒状の合成樹脂材料10aが溶解することなく分散した状態となる。また、溶媒で溶ける合成樹脂が使用されると、その合成樹脂材料の少なくとも一部は、スメクタイト分散液50内に溶け込んだものとなる。
【0051】
図2に模式的に示されるように、導電性塗料60では、前記有機溶媒40中に分散させた前記疎水性スメクタイトが高濃度であるため凝集し、三次元網目構造(内部構造)を形成し、前記有機溶媒40の流動を抑えゲル状になっている。さらに、その中に分散させた前記導電性粒子20と前記合成樹脂材料10aは、ゲルに囲まれた状態で保持されている。よって、前記導電性粒子20と前記合成樹脂材料10aは導電性塗料60内で沈降することはなく、均一に分散できる。または導電性粒子20はその一部が集合した状態で且つ分散したものとなる。また、ポリエーテルエーテルケトン樹脂のように、有機溶媒40に不溶の合成樹脂材料10aを使用したときには、合成樹脂材料10aが粉末または粒状の合成樹脂粒子の状態で、前記ゲル状構造の内部に均一に分散して保持される。
【0052】
前記導電性塗料60を、基板2の表面2aにスクリーン印刷により所定のパターン形状に塗布する。導電性塗料60は、ゲル状構造の内部に導電性粒子20および合成樹脂材料10aが均一に分散したものであり、重力より大きな降伏値を有しているため、スクリーン印刷の版上で、ポタポタと垂れることがなく、スキージの押圧力によって初めて流動性を示し、版(印刷マスク)の細孔内を通過して基板2の表面2aに付着する。また、基板2の表面2aにおいては再び内部構造を形成し、流動性を失うので、周囲に広がることもない。そのため、基板2の表面2aに微細なパターンで且つ間隔の狭いパターンを形成することも可能である。
【0053】
図2に示すように、基板2の表面2aに導電性塗料60の膜を形成した後に、例えば150℃で10分程度の加熱処理を行って、有機溶媒40を揮発させる。さらに、340℃で10分間程度の加熱処理を行って、合成樹脂材料10aを溶融させた後冷却し固化させる。合成樹脂材料10aが熱硬化性の場合には、加熱処理により溶融し且つ硬化し、熱可塑性樹脂の場合には加熱処理により溶融し、その後の冷却により固化する。
【0054】
図6は、温度曲線とスメクタイトの重量(質量)曲線を示すグラフである。図6において、左側に示す縦軸は温度曲線における温度を示し、右側の縦軸はスメクタイトの重量曲線における重量(質量)を示している。なお、横軸は時間軸である。図6では、スメクタイトの温度を、450℃程度まで、温度曲線に沿って上昇させたときの、スメクタイトの質量変化を重量曲線として示している。測定に使用したスメクタイトは、商品名「ルーセンタイトSPN」(コープケミカル株式会社製)であり、温度は10℃/minの速度で上昇させた。測定前のスメクタイトの質量は14.85mgであり、測定後の質量は6.41mgであった。図6に示すように、スメクタイトは300℃以上となると、その質量が43%程度となる。
【0055】
導電性塗料60にスメクタイト30が5.3〜17.6重量部含まれ、加熱処理で合成樹脂が固化して図3の導電膜3aとなったときのスメクタイト30は、質量が43%に減少するため、このときのスメクタイト30を体積割合に換算すると、前記合成樹脂10と前記導電性粒子20と前記スメクタイト30との合計体積を100%としたときに、前記スメクタイトが2.8から8.9体積%含まれた状態となる。
【0056】
スメクタイトが前記範囲で含まれることにより、導電性塗料60は降伏値を持つスクリーン印刷に適したゲル状となり、しかも加熱されて固化した後の導電膜3aでは、スメクタイトが43%の質量に減少し、体積割合が10体積%以下であるため、このスメクタイト30の存在によって、導電膜3a内の導電性粒子の接触点を低下させる確率が低くなり、比抵抗を小さくすることが可能である。
【0057】
また導電膜3a内の前記導電性粒子20の体積割合が、前記合成樹脂10と前記導電性粒子20と前記スメクタイト30との合計体積を100%としたときに、55から78体積%であると、半田付けの際の濡れ性を良好にすることができ、前記導電膜3aに、電子部品などの半田付けを行うことも可能となる。また、導電膜3aの比抵抗を0.78から2.0μΩ・mの範囲内とすることも可能である。
【0058】
前記導電性塗料60で形成された導電膜3aに使用する合成樹脂はどのようなものであっても選択可能であるが、合成樹脂をポリエーテルエーテルケトン樹脂とすると、前記導電膜3aの耐熱性を向上させることができる。よって、導電性粒子20として鱗片状の銀粒子や粒径1μm以下の微小銀粉を用いても、電子部品などを半田付けしたときに、半田の熱で導電膜3aを破壊するいわゆる半田喰われが起きにくい。さらに、前記導電膜3aの耐対薬品性を向上させることができ、低摩擦係数、低吸水率とすることができる。
【0059】
前記導電性粒子20として銀粒子を使用し、さらに、鱗片状の銀粒子や粒径1μm以下の微小銀粉を用いると、導電性粒子20間の接触点を増やし、比抵抗を低下させることが可能である。また、導電性塗料60では、加熱後にほぼ蒸発してしまうゲル状構造の内部に導電性粒子20と合成樹脂材料10aを混錬するため、導電性粒子20と合成樹脂材料10aの比率を任意にでき、導電性粒子の比率を大きくしても、スクリーン印刷による塗膜特性が大幅に劣化することがない。よって、導電性粒子を90体積%以上含ませることも可能である。
【実施例】
【0060】
以下の表1は、本発明の実施例1ないし実施例18を示している。なお、実施例1ないし実施例15は本発明の最も好ましい範囲として提示するものである。
【0061】
各実施例では、スメクタイトは、商品名「ルーセンタイトSPN」(コープケミカル株式会社製)を使用し、有機溶媒としてジプロピレングリコールを使用している。また合成樹脂は、ポリエーテルエーテルケトン樹脂:商品名「PEEK 150UF」(英国ビクトレックス社製で、PEEKは同社の登録商標)を使用している。
【0062】
表1内の各実施例は、上段が導電性塗料60の組成比であり、ジプロピレングリコールの100重量部に対する各素材の量を重量部で示している。下段は、完成後の導電膜3aを示しており、導電膜3a内の各素材の割合を体積%で示している。よって、下段では、加熱処理によりジプロピレングリコールが揮発して体積が0となっている。
【0063】
導電性塗料60および導電膜3aの製造工程は、図4に示す通りであり、有機溶媒40とスメクタイト30とを混合したときの加熱温度を、100℃とし、導電性塗料60を基板2の表面2aにスクリーン印刷した後の、加熱乾燥工程は150℃で10分、合成樹脂を溶融固化させる際の熱処理を340℃で10分とした。
【0064】
以下の表1から、解るように、導電膜3a内に銀粒子を80体積%程度まで(実施例10では、77.7体積%)含ませることができる。また、比抵抗を0.78μΩ・m程度まで低下させることが可能である。
【0065】
しかも、各実施例に示すように、合成樹脂の量および導電性粒子の量を広い範囲で選択でき、いずれであっても、スクリーン印刷で塗膜することが可能になる。
【0066】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の実施の形態の導電膜が形成された回路基板を示す部分斜視図、
【図2】基板表面に導電性塗料が塗膜された状態を模式的に示すものであり、図1に示すII−II線での断面に相当する断面図、
【図3】導電性塗料の塗膜を加熱して、合成樹脂を固化させた導電膜を模式的に示すものであり、図2と同じ部分の断面図、
【図4】導電性塗料および導電膜の製造方法を説明する工程図、
【図5】スメクタイト分散液の流動特性を示す線図(グラフ)、
【図6】スメクタイトの質量変化の温度特性を示す線図(グラフ)、
【符号の説明】
【0068】
1 回路基板
2 基板
2a 表面
3 回路パターン
3a 導電膜
10 合成樹脂
10a 合成樹脂材料(合成樹脂粒子)
20 導電性粒子
30 スメクタイト
40 有機溶媒
50 スメクタイト分散液
60 導電性塗料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板表面にパターン形成された導電膜において、固化した合成樹脂と、前記合成樹脂内に含まれた導電性粒子およびスメクタイトとを有することを特徴とする導電膜。
【請求項2】
前記合成樹脂と前記導電性粒子および前記スメクタイトの合計体積を100%としたときに、前記スメクタイトが2.8ないし8.9体積%含まれている請求項1記載の導電膜。
【請求項3】
前記導電性粒子は銀粒子である請求項1または2記載の導電膜。
【請求項4】
前記銀粒子が、鱗片状粒子と、この鱗片状粒子よりも粒径の小さい微小不定形粒子を含む請求項3記載の導電膜。
【請求項5】
前記銀粒子を、37から78体積%含む請求項3または4記載の導電膜。
【請求項6】
スメクタイトを含む有機溶媒中に、合成樹脂粒子および導電性粒子が含まれていることを特徴とする導電性塗料。
【請求項7】
前記有機溶媒の100重量部に対して、前記スメクタイトが、5.3から17.6重量部含まれている請求項6記載の導電性塗料。
【請求項8】
前記導電性粒子が銀粒子である請求項6または7記載の導電性塗料。
【請求項9】
前記有機溶媒が、極性溶媒である請求項6ないし8のいずれかに記載の導電性塗料。
【請求項10】
以下の工程を有することを特徴とする導電性塗料の製造方法。
(a)有機溶媒内に、スメクタイトが分散したスメクタイト分散液を形成する工程と、
(b)前記スメクタイト分散液中に、合成樹脂粒子および導電性粒子を分散させて導電性塗料を形成する工程。
【請求項11】
前記有機溶媒の100重量部に対し、前記スメクタイトを5.3から17.6重量部含ませる請求項10記載の導電性塗料の製造方法。
【請求項12】
前記導電性粒子が銀粒子である請求項10または11記載の導電性塗料の製造方法。
【請求項13】
請求項10ないし請求項12のいずれかに記載の導電性塗料を、基板上にパターン化して塗布して塗膜を形成する工程と、
加熱処理により、前記塗膜に含まれた合成樹脂を溶融させて固化させる工程と、を有することを特徴とする導電膜の製造方法。
【請求項14】
前記合成樹脂が固化した後の、合成樹脂と前記導電性粒子および前記スメクタイトとの合計体積を100体積%としたときに、前記スメクタイトを2.8から8.9体積%含む請求項13記載の導電膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−134195(P2007−134195A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−326882(P2005−326882)
【出願日】平成17年11月11日(2005.11.11)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】