説明

小型姿勢センサ

【課題】カルマンゲインやクォータニオンの算出を容易にして現実的な姿勢センサの実装を可能にし、さらに、小型化及び実時間処理を可能とする小型姿勢センサを提供することを目的とする。
【解決手段】移動物体の独立な3軸上の角速度を計測する角速度センサ101、移動物体の独立な3軸上の加速度を計測する加速度センサ102、移動物体の独立な3軸上の地磁気を計測する地磁気センサ103、角速度センサ101、加速度センサ102、及び地磁気センサ103の計測値を基にクォータニオンの推定値を算出する演算処理部104を備え、クォータニオン推定値をクォータニオンにより表現する三次元姿勢角として出力することを特徴とする小型姿勢センサを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
姿勢制御を要する移動物体に搭載する、汎用性のある小型姿勢センサに関する。
【背景技術】
【0002】
姿勢制御を要する移動物体には、その三次元姿勢角を計測するため姿勢センサを備えている。一般的に姿勢センサは移動物体の独立な3軸上の角速度を計測する角速度センサ、及び角速度センサにより得られる角速度の計測値を時間的に積分することにより、移動物体の三次元姿勢角を取得する処理を行う演算処理部を備えている。三次元姿勢角はロール・ピッチ・ヨー角等を用いてオイラー角により表現されるものがあり、姿勢センサにより計測される三次元姿勢角を基に移動物体の姿勢制御が行われる。
【0003】
しかしながら、オイラー角により三次元姿勢角を表現する場合、オイラー角特有の特異点の問題がある。具体的に説明すると、ピッチ角が±90度の特異姿勢に近づくとロール角及びヨー角の出力値が急激に変動してしまうという問題がある。さらに、角速度センサは、誤差が生じやすいという問題がある。このように、姿勢センサにより計測される三次元姿勢角が高精度に計測されなければ、移動物体の姿勢制御もまた高精度に行うことができないという問題がある。
【0004】
こうした問題を解決するため、3つの虚数と1つの実数からなる4次のベクトル表現を用いたクォータニオンにより三次元姿勢角を表現し、これにより、上記特異姿勢の問題を解消する姿勢センサについて開示した特許文献がある。
【特許文献1】特開平9−5104号公報
【0005】
図10に示すように、特許文献1に開示されている姿勢センサ1000は、移動物体の独立な3軸上の角速度を計測する角速度センサ1001、移動物体の独立な3軸上の加速度を計測する加速度センサ1002、及び角速度センサ1001及び加速度センサ1002の計測値を基にクォータニオンを算出する演算処理部1003を備えている。演算処理部1003では、加速度の計測値を基にして得られる誤差と拡張カルマンフィルタから得られるカルマンゲインとを用いてクォータニオンにより表現する三次元姿勢角の補正値を算出し、補正値を用いて角速度の計測値を補正し、クォータニオンにより表現する三次元姿勢角を算出する処理を行う。これにより、特許文献1に開示されている姿勢センサは、特異姿勢の問題がなく、移動物体の姿勢制御も高精度に行うことができることについて開示している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に示されている「拡張カルマンフィルタ」は非線形システムにおいて用いられるので、現実的な実装には不向きであるという問題がある。すなわち、上記特許文献1に示される姿勢センサは、概念的に説明されてはいるものの、非線形モデル式が大変複雑となることから「カルマンゲイン」や「クォータニオン」の算出も大変複雑となり、現実的な姿勢センサの実装は非常に困難であるという問題がある。なお、仮に実装できたとしても、小型化は実現できず、また、演算処理部で行う補正処理が収束しないおそれもあり、さらに実時間処理に乏しいという問題がある。
【0007】
こうした問題に着目し、本発明は、カルマンゲインやクォータニオンの算出を容易にして現実的な姿勢センサの実装を可能にし、さらに、小型化及び実時間処理を可能とする小型姿勢センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1に記載の小型姿勢センサは、移動物体の独立な3軸上の角速度を計測する角速度センサと、移動物体の独立な3軸上の加速度を計測する加速度センサと、移動物体の独立な3軸上の地磁気を計測する地磁気センサと、前記角速度センサ、前記加速度センサ、及び前記地磁気センサの計測値を基にクォータニオンの推定値を算出する演算処理部とを備え、前記演算処理部は、予め推定されたクォータニオン推定値を用いて座標変換行列を算出し、当該座標変換行列を用いて地上固定座標系成分の地磁気ベクトル及び重力加速度ベクトルを変換し、現ステップのセンサ座標系成分の地磁気ベクトル及び重力加速度ベクトルを推定する座標変換部と、前記地磁気センサ及び前記加速度センサから現ステップのセンサ座標系成分の地磁気ベクトル及び重力加速度ベクトルを取得する地磁気・加速度センサデータ取得部と、前記座標変換部で推定した現ステップのセンサ座標系成分の地磁気ベクトル及び重力加速度ベクトルと、前記地磁気・加速度センサデータ取得部で取得した現ステップのセンサ座標系成分の地磁気ベクトル及び重力加速度ベクトルとの誤差を算出する誤差算出部と、前記誤差算出部で算出した誤差について、ヤコビ行列を用いてクォータニオンレベルの誤差を算出するクォータニオン誤差算出部と、前記角速度センサから現ステップのセンサ座標系成分の角速度ベクトルを取得する角速度センサデータ取得部と、前記クォータニオン誤差算出部が算出した現ステップのクォータニオンレベルの誤差、前記角速度センサデータ取得部から取得した現ステップの角速度ベクトル、ならびに前記予め推定されたクォータニオン推定値を用いて定常カルマンフィルタを構成し、現ステップのクォータニオン補正を行うクォータニオン補正部と、前記クォータニオン補正部で補正を行ったクォータニオンを積分することにより次ステップのクォータニオン推定値を算出するクォータニオン推定部とを有し、前記クォータニオン推定値をクォータニオンにより表現する三次元姿勢角として出力することを特徴とする。
【0009】
本発明の請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の小型姿勢センサについて、前記算出された次ステップのクォータニオン推定値は、前記座標変換部あるいは前記クォータニオン補正部に入力されることを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の小型姿勢センサについて、前記定常カルマンフィルタは、
【数1】

上記の式で演算処理することを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の小型姿勢センサについて、前記演算処理部は、前記角速度センサを用いて前記加速度センサの取り付け位置によって生じる加速度の誤測を補正し、移動物体の速度データを検知するGPSセンサを用いて当該速度データを微分することにより取得する移動物体の並進加速度データを用いて、移動物体に生じる加速度に伴う誤測を補正することを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の小型姿勢センサについて、前記演算処理部は、角速度センサから取得する角速度ベクトルを用いて前記加速度センサから取得するセンサ座標系成分の重力加速度ベクトルの補正を行うセンサ座標系加速度補正部と、
移動物体の速度データを検知するGPSセンサを用いて当該速度データを微分することにより取得する移動物体の並進加速度データを用いて地上固定座標系成分の重力加速度ベクトルの補正を行う地上固定座標系加速度補正部とを有し、移動物体に生じる加速度に伴う誤測を補正することを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項6に記載の発明は、請求項4または5に記載の小型姿勢センサについて、前記角速度センサ及び前記GPSセンサを用いて行う補正は、
【数2】

上記の式で演算処理することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
上記の通り、本発明の小型姿勢センサは、1入力1出力の線形システムにおいて適用し、定常カルマンフィルタを構成することにより、「カルマンゲイン」や「クォータニオン」の算出を容易にすることができ、現実的な実装を可能にし、さらに、小型化及び実時間処理を可能とする。本発明の姿勢センサにより計測される三次元姿勢角は高精度であり、移動物体の姿勢制御もまた高精度に行うことができる。
【0015】
また、本発明の小型姿勢センサは、移動物体に加速度が生じたときでも加速度センサデータの誤差補正を行うことができる。この時の誤差補正は、加速度センサの取り付け位置によって生じる加速度の誤測について角速度センサを用いて補正し、また、移動物体に生じる加速度に伴う誤測について、GPSセンサから取得する速度データを微分することにより取得する並進加速度データを用いて補正することにより、移動物体の任意の運動に対応して正確なクォータニオンの推定値を算出することができる。これにより、移動物体に加速度が生じたときでも、高精度な三次元姿勢角を計測することができ、移動物体の姿勢制御もまた高精度に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【実施例1】
【0017】
以下、本発明の第1実施例について説明する。図1は本実施例の小型姿勢センサに備えられる各構成をブロックで示したものである。小型姿勢センサ100は、移動物体の独立な3軸上の角速度を計測する角速度センサ101、移動物体の独立な3軸上の加速度を計測する加速度センサ102、移動物体の独立な3軸上の地磁気を計測する地磁気センサ103、及び角速度センサ101、加速度センサ102、及び地磁気センサ103の計測値を基にクォータニオンを算出する演算処理部104を備えている。本実施例の小型姿勢センサ100は1入力1出力の線形システムに適用し、定常カルマンフィルタを構成することにより、「カルマンゲイン」や「クォータニオン」の算出を容易にすることができ、現実的な実装を可能にし、さらに、小型化及び実時間処理を可能とする。
【0018】
図2は演算処理部104で行う処理をブロックで示したものである。演算処理部104は、座標変換部201、地磁気・加速度センサデータ取得部202、誤差算出部203、クォータにオン誤差算出部204、角速度センサデータ取得部205、クォータニオン補正部206、クォータニオン推定値算出部207を備えている。また、図3は演算処理部104で行う処理をフローで示したものである。図4は演算処理部104で処理を行う際に用いる数式やデータの流れを示したものである。以下、図2乃至図4を用いて、演算処理部104で行う処理について説明する。
【0019】
クォータニオンの各要素は、Simple Rotationと呼ばれている姿勢表現方法の(λx,λy,λz,φ)を用いて次の式(1)で定義されている。
【数3】

【0020】
大まかに説明すると、q0は基準座標系からの姿勢変動量の二分の一の余弦値と関係している。他の3つの値q1,q2,q3は、基準座標系からの姿勢変動量の二分の一の正弦値と、XYZ軸の各方向への姿勢変動量の割合を掛けたものである。Simple Rotationは任意軸回りの回転などとも呼ばれ、ある単位軸(λx,λy,λz)まわりに回転角φというように座標を回転させることで姿勢を表現する。ステップ301では、3つの虚数と1つの実数からなる4次のベクトル表現を用いた予め設定されるクォータニオンの初期値(式(2))を用いて座標変換行列を算出する(式(3))。座標変換行列は地上固定座標系からセンサ座標系へ変換する行列である。
【数4】

【数5】

【0021】
ステップ302では、座標変換部201は初期姿勢における地磁気、加速度について、ステップ301で算出した座標変換行列を用いて座標変換を行う。初期姿勢における地磁気は、地磁気ベクトルの地上固定座標系成分であり、一方、初期姿勢における加速度は、重力加速度ベクトルの地上固定座標系成分である。これらを縦に並べたベクトル式は式(4)のようになる。
【数6】

【0022】
そして、これらをステップ301で算出した座標変換行列によりセンサ座標系に座標変換すると式(5)のようになる。
【数7】

【0023】
これにより、ステップ303では、予め設定されるクォータニオンの初期値を基に現ステップのセンサ座標系の地磁気、加速度を推定することができ、これらを誤差算出部203に入力する。
【0024】
ステップ304では、地磁気・加速度センサデータ取得部202は、地磁気センサ103及び加速度センサ102から現ステップの地磁気ベクトル、重力加速度ベクトルを取得する(式(6))。取得する現ステップの地磁気ベクトル、重力加速度ベクトルは、センサ座標系成分のデータであり、これらを誤差算出部203に入力する。
【数8】

【0025】
ステップ305では、誤差算出部203は、ステップ303で座標変換部201が算出した推定される現ステップの地磁気ベクトル及び重力加速度ベクトルと、ステップ304で地磁気・加速度センサデータ取得部202から取得した現ステップの地磁気ベクトル及び重力加速度ベクトルとの誤差を算出する(式(7))。
【数9】

【0026】
つづいてステップ306では、クォータニオン誤差算出部204は、ステップ305で算出した誤差について、ヤコビ行列(式(8))を用いてクォータニオンレベルの誤差を算出し(式(9))、これをクォータニオン補正部205に入力する。
【数10】

【数11】

【0027】
ステップ307では、角速度センサデータ取得部205は、角速度センサ101から現ステップの角速度を取得する。取得する現ステップの角速度は、センサ座標系成分のデータであり、これをクォータニオン補正部206に入力する。
【0028】
ステップ308では、クォータニオン補正部206は、ステップ306でクォータニオン誤差算出部204が算出した現ステップのクォータニオンレベルの誤差、ステップ307で角速度センサデータ取得部205から取得した現ステップの角速度ベクトル、ならびに予め設定されるクォータニオンの初期値を用いて、式(10)のような定常カルマンフィルタを構成し、現ステップのクォータニオン補正を行う。
【数12】

【0029】
最後に、ステップ309では、上記のように補正を行ったクォータニオンを積分することにより、次ステップのクォータニオン推定値を算出し、これをクォータニオンにより表現する三次元姿勢角とし、姿勢センサ100の出力とする(END)。また、算出された次ステップのクォータニオン推定値は、ステップ301やステップ308に戻って、座標変換部201やクォータニオン補正部206に入力される。すなわち、座標変換部201では、算出された次ステップのクォータニオン推定値を用いて次ステップの座標変換行列を算出し、クォータニオン補正部206では、算出された次ステップのクォータニオン推定値を用いて次ステップのクォータニオン補正に用いる。上記ステップ301乃至ステップ309の処理が、小型姿勢センサの演算処理部104で行う一ステップの処理であり、これを繰り返し行う。
【0030】
本実施例の小型姿勢センサを移動物体に搭載し、クォータニオンにより表現する三次元姿勢角を計測した実験データを図5に示す。このデータは本発明の小型姿勢センサにより計測される三次元姿勢角の有効性を検証するデータとなっている。図5に示すのは本発明の小型姿勢センサを小型無人ヘリコプタに搭載し、小型無人ヘリコプタがホバリング飛行状態にあるときの三次元姿勢角を示しており、ほぼ零を示している。このほか小型無人ヘリコプタがロール方向のアクロバット飛行状態にあるときの三次元姿勢角も計測できる。このように、本発明の小型姿勢センサを小型無人ヘリコプタに搭載し、クォータニオンにより表現する三次元姿勢角を計測することにより、小型無人ヘリコプタの自律飛行制御を実現している。演算処理部で行う補正処理を速やかに行い、高精度な実時間処理を行うことにより、移動物体の姿勢制御もまた高精度に行うことができる。
【0031】
以上、本実施例の小型姿勢センサ100は、1入力1出力の線形システムに適用し、定常カルマンフィルタを構成することにより、「カルマンゲイン」や「クォータニオン」の取得を容易にすることができ、現実的な実装を可能にし、さらに、小型化及び実時間処理を可能とする。
【0032】
なお、本実施例の小型姿勢センサは、推定される次ステップのクォータニオンを出力するものであるが、計測周期を短く設定することにより、システムへの影響は極めて小さいものと考えられる。
【実施例2】
【0033】
以下、本発明の第2実施例について説明する。実施例1で用いられている加速度センサ102は、重力加速度ベクトルのセンサ座標系成分のデータを取得するものである。そのため、加速度センサ102は重力加速度ベクトルのみを取得することが望ましいが、図6に示すような移動物体に加速度aが生じた場合には、加速度センサ102は実際の重力加速度ベクトルgと加速度aを合成した重力加速度ベクトルg’を検知してしまう。このような加速度センサ102の誤測によって生じる誤差は最終的に小型姿勢センサより出力される三次元姿勢角にも少なからず影響を及ぼすので、補正を行う必要がある。
【0034】
図7は小型姿勢センサに備えられる各構成をブロックで示したものである。基本的な構成については実施例1と同様であるが、本実施例では、移動物体に加速度aが生じることによって起こる加速度センサ102の誤測を、GPSセンサ701及び角速度センサ101を用いて補正を行う。
【0035】
図8は演算処理部104で行う処理をブロックで示したものである。演算処理部104は、実施例1で示した構成の他、センサ座標系加速度補正部801及び地上固定座標系加速度補正部802を備えている。センサ座標系加速度補正部801は、加速度センサ102から取得するセンサ座標系成分の重力加速度ベクトルについて、角速度センサ101から取得する角速度ベクトルを用いて補正を行う。また、地上固定座標系加速度補正部802は、初期姿勢における重力加速度ベクトル、すなわち、地上固定座標系成分の重力加速度ベクトルについてGPSセンサ701から取得する重力加速度ベクトルを用いて補正を行う。図9は演算処理部104で処理を行う際に用いる数式やデータの流れを示したものである。以下、図8及び図9を用いて、演算処理部104で行う、加速度センサ102の誤測をGPSセンサ701及び角速度センサ101を用いて補正を行う処理について説明する。
【0036】
はじめに、GPSセンサ701と小型姿勢センサ700の取り付け位置の違いによる誤差を補正する。GPSセンサ701から取得するのは移動物体の並進加速度であるが、小型姿勢センサ700は移動物体の回転中心からある程度ずれた位置に取り付けられているので小型姿勢センサ700内の加速度センサ102は並進加速度にくわえて移動物体の回転運動による向心加速度も取得してしまう。
【0037】
そこで、角速度センサ101から取得する角速度センサデータ(式(12))を基にGPSセンサ701の速度データを微分することにより取得する並進加速度データと加速度センサ102から取得する加速度の差を補正する。そのために、式(11)に示すような位置、速度、加速度レベルそれぞれでのGPS加速度と加速度センサ102の加速度の関係式を考える。
【数13】

【数14】

【0038】
つづいて、GPSセンサ701の速度データを微分することにより取得する並進加速度データを用いて、重力加速度ベクトルの地上固定座標系成分を式13のように補正することができる。
【数15】

【0039】
この式に、式(11)の3番目の式を代入し、さらにこの式をクォータニオン推定アルゴリズム中で加速度センサが検知する重力ベクトルと重力ベクトルの地上固定座標成分を座標変換したものの差をとる部分に代入すると以下の式のようになる。結局、式(14)で表されるような演算処理を加えることによって加速度センサの誤差を補正することができる。その後、座標変換行列を用いて現ステップの加速度の誤差を取得する。以後のステップについては、上記実施例1と同様である。
【数16】

【0040】
以上、本実施例の小型姿勢センサ700は移動物体に加速度が生じたときでも加速度センサデータの誤差補正を行うことができる。この時の誤差補正は、加速度センサの取り付け位置によって生じる加速度の誤測について角速度センサを用いて補正し、また、移動物体に生じる加速度に伴う誤測についてGPSセンサを用いて補正することにより、移動物体の任意の運動に対応して正確なクォータニオンの推定値を取得することができる。これにより、移動物体に加速度が生じたときでも、高精度な三次元姿勢角を計測することができ、移動物体の姿勢制御もまた高精度に行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の小型姿勢センサは、小型化を実現したことにより、大小を問わない陸海空の様々な移動物体に搭載することができ、汎用性がある。例えば、自律飛行制御を可能とする小型無人ヘリコプタや人工衛星など産業上の利用可能性は高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の一実施例で用いる小型姿勢センサに備えられる各構成をブロックで示した図(実施例1)
【図2】本発明の一実施例で用いる小型姿勢センサの演算処理部で行う処理をブロックで示した図(実施例1)
【図3】本発明の一実施例で用いる小型姿勢センサの演算処理部で行う処理をフローで示した図(実施例1)
【図4】本発明の一実施例で用いる小型姿勢センサの演算処理部で処理を行う際に用いる数式やデータの流れを示した図(実施例1)
【図5】小型姿勢センサを移動物体に搭載し、クォータニオンにより表現する三次元姿勢角を計測した実験データを示した図(実施例1)
【図6】移動物体に加速度が生じた場合、加速度センサが取得する重力加速度ベクトルに誤差が生じることについて説明する図(実施例2)
【図7】本発明の一実施例で用いる小型姿勢センサに備えられる各構成をブロックで示した図(実施例2)
【図8】本発明の一実施例で用いる小型姿勢センサの演算処理部で行う処理をブロックで示した図(実施例2)
【図9】本発明の一実施例で用いる小型姿勢センサの演算処理部で処理を行う際に用いる数式やデータの流れを示した図(実施例2)
【図10】特許文献1に開示されている姿勢センサに備えられる各構成をブロックで示した図(背景技術)
【符号の説明】
【0043】
100,700 小型姿勢センサ
101 角速度センサ
102 加速度センサ
103 地磁気センサ
104 演算処理部
201 座標変換部
202 地磁気・加速度センサデータ取得部
203 誤差取得部
204 クォータニオン誤差取得部
205 角速度センサデータ取得部
206 クォータニオン補正部
207 クォータニオン推定値取得部
701 GPSセンサ
801 センサ座標系加速度補正部
802 地上固定座標系加速度補正部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動物体の独立な3軸上の角速度を計測する角速度センサと、
移動物体の独立な3軸上の加速度を計測する加速度センサと、
移動物体の独立な3軸上の地磁気を計測する地磁気センサと、
前記角速度センサ、前記加速度センサ、及び前記地磁気センサの計測値を基にクォータニオンの推定値を算出する演算処理部とを備え、
前記演算処理部は、予め推定されたクォータニオン推定値を用いて座標変換行列を算出し、当該座標変換行列を用いて地上固定座標系成分の地磁気ベクトル及び重力加速度ベクトルを変換し、現ステップのセンサ座標系成分の地磁気ベクトル及び重力加速度ベクトルを推定する座標変換部と、
前記地磁気センサ及び前記加速度センサから現ステップのセンサ座標系成分の地磁気ベクトル及び重力加速度ベクトルを取得する地磁気・加速度センサデータ取得部と、
前記座標変換部で推定した現ステップのセンサ座標系成分の地磁気ベクトル及び重力加速度ベクトルと、前記地磁気・加速度センサデータ取得部で取得した現ステップのセンサ座標系成分の地磁気ベクトル及び重力加速度ベクトルとの誤差を算出する誤差算出部と、
前記誤差算出部で算出した誤差について、ヤコビ行列を用いてクォータニオンレベルの誤差を算出するクォータニオン誤差算出部と、
前記角速度センサから現ステップのセンサ座標系成分の角速度ベクトルを取得する角速度センサデータ取得部と、
前記クォータニオン誤差算出部が算出した現ステップのクォータニオンレベルの誤差、前記角速度センサデータ取得部から取得した現ステップの角速度ベクトル、ならびに前記予め推定されたクォータニオン推定値を用いて定常カルマンフィルタを構成し、現ステップのクォータニオン補正を行うクォータニオン補正部と、
前記クォータニオン補正部で補正を行ったクォータニオンを積分することにより次ステップのクォータニオン推定値を算出するクォータニオン推定部とを有し、
前記クォータニオン推定値を、クォータニオンにより表現する三次元姿勢角として出力することを特徴とする小型姿勢センサ。
【請求項2】
前記算出された次ステップのクォータニオン推定値は、前記座標変換部あるいは前記クォータニオン補正部に入力されることを特徴とする請求項1に記載の小型姿勢センサ。
【請求項3】
前記定常カルマンフィルタは、
【数1】

上記の式で演算処理することを特徴とする請求項1に記載の小型姿勢センサ。
【請求項4】
前記演算処理部は、前記角速度センサを用いて前記加速度センサの取り付け位置によって生じる加速度の誤測を補正し、移動物体の速度データを検知するGPSセンサを用いて当該速度データを微分することにより取得する移動物体の並進加速度データを用いて、移動物体に生じる加速度に伴う誤測を補正することを特徴とする請求項1に記載の小型姿勢センサ。
【請求項5】
前記演算処理部は、角速度センサから取得する角速度ベクトルを用いて前記加速度センサから取得するセンサ座標系成分の重力加速度ベクトルの補正を行うセンサ座標系加速度補正部と、移動物体の速度データを検知するGPSセンサを用いて当該速度データを微分することにより取得する移動物体の並進加速度データを用いて地上固定座標系成分の重力加速度ベクトルの補正を行う地上固定座標系加速度補正部とを有し、移動物体に生じる加速度に伴う誤測を補正することを特徴とする請求項1に記載の小型姿勢センサ。
【請求項6】
前記角速度センサ及び前記GPSセンサを用いて行う補正は、
【数2】

上記の式で演算処理することを特徴とする請求項4または5に記載の小型姿勢センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−183138(P2007−183138A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−850(P2006−850)
【出願日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【出願人】(599176735)
【出願人】(503077280)
【出願人】(506007105)
【出願人】(506006843)
【出願人】(506006865)
【出願人】(592079398)ヒロボー株式会社 (13)
【Fターム(参考)】