説明

小麦粉添加用乳化油脂組成物及び乳化組成物

【課題】水に容易く分散し、生地に均等に浸透して、澱粉質の食品の風合いを改善できる小麦粉添加用乳化油脂組成物及び乳化組成物を提供すること、特に、その乳化組成物は、粘性が低く、経時的な粘性も変化しにくく、高濃度に配合してもその機能を十分に発揮できるものを提供することにある。
【解決手段】主たる構成脂肪酸がパルミチン酸である多価アルコール脂肪酸エステルを乳化剤とした小麦粉添加用乳化油脂組成物及び乳化組成物は、風合いなど澱粉質食品の品質改良に適していること、特にその乳化組成物は低性が低く、経時的にも粘性の増加が見られず、高濃度に配合しても小麦粉に配合してゲル化せず、分散し易く滑らかな生地となることを見出し、本発明を完成するに至った。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
食用に供する乳化油脂組成物及び、乳化組成物に関する。パン、ケーキ、麺などに使用する小麦粉に配合し、低粘性で取り扱いやすい新規な組成の乳化油脂組成物及び乳化組成物である。
【背景技術】
【0002】
本発明の乳化油脂組成物及び乳化組成物はケーキ、麺、アイスクリームなどの食品を製造する際に使用する。一般に、小麦粉に添加してボリューム、延展性、風合いなどを上げるために、蔗糖ステアリン酸エステル、ポリグリセリンステアリン酸エステル、グリセリンモノステアリン酸エステル、及びグリセリンモノステアリン酸エステルの琥珀酸、酒石酸などとのエステルである有機酸モノグリ、ステアリン酸ソルビタンエステル、レシチン、及び油脂含む乳化組成物が用いられている。
【0003】
ところが、親水性蔗糖ステアリン酸エステル、ポリグリセリンステアリン酸エステルは水溶性で使用しやすいという利点がある反面、味、風味に劣る。また親油性のグリセリンモノステアリン酸エステル、ポリグリセリンステアリン酸エステル、蔗糖ステアリン酸エステル、ソルビタンステアリン酸エステルなどは水に溶解しないため、単独では使用し難く親水性蔗糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステルなどと組み合わせて、もしくは油脂を配合して水に分散して使用されている。これらの分散物は低粘性で澱粉と混和しやすいものが必要である。しかしこれらの配合物を高濃度にすると、低粘性とすることが難しく種々の工夫がなされている。
【0004】
このような技術課題を解決する組成物として、グリセリンステアリン酸エステルとHLBの低いポリグリセリンステアリン酸エステルを糖類中に分散して使用する方法が公示されている。(特許文献1)
【0005】
しかしこのような目的として、従来多価アルコールパルミチン酸エステルを主たる乳化剤として使用することは記載されていない。
【特許文献1】特開平7−184541号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
小麦粉添加剤としては、多価アルコール脂肪酸エステル、油脂などを用いて、水に容易く分散して、作業性を損なわず、生地に均等に浸透して、澱粉質の食品の風合いを改善することが望まれている。また少量の添加で品質改良の効果を計ることが難しいため、多量に使用してもこのような機能を損なわない組成物が望まれている。又乳化組成物は経時的に粘性が大きくなり、使えなくなるなどという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、一般的に使用されている多価アルコールステアリン酸エステルを多価アルコールパルミチン酸エステルとすることにより、低粘性の乳化組成物が得られることを見出した。そしてこの乳化組成物を小麦粉に多量に使用しても、小麦粉に配合してゲル化せず、分散し易く滑らかな生地となる事が解った。またこれらを乳化剤として使用した乳化組成物は経時的にも粘性の増加が見られないことが解って本発明を完成した。
【発明の効果】
【0008】
原料粉、もしくはこれに加える水に添加して、ゲル化せず分散しやすく、混和し易く、生地が滑らかで、ボリューム感が得られ、風合いなど澱粉質食品の品質を改良することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
主たる構成脂肪酸がパルミチン酸である多価アルコール脂肪酸エステルを構成する多価アルコールとしてはプロピレングリコール、グリセリン、ソルビトール、ポリグリセリン、蔗糖などが使用できる。好ましくはグリセリン、ポリグリセリンである。また本発明ではレシチン、リゾレシチンなどの食品添加物として使用されている乳化剤を併用することも可能である。
【0010】
本発明の主たる構成脂肪酸がパルミチン酸である多価アルコール脂肪酸エステルの小麦粉に配合する量は特に限定されるものではないが、通常小麦粉に対して0.1%から5%配合する。
【0011】
本発明でいう主たる構成脂肪酸がパルミチン酸である多価アルコール脂肪酸エステルは、その構成脂肪酸の低くても60%以上がパルミチン酸であるものを言い、本来は70%以上であることが望ましい。
【0012】
また更に、主たる構成脂肪酸がパルミチン酸であるグリセリン脂肪酸エステルにおいて、その組成がジエステルを多く含むと乳化組成物の粘性が下がることを見出した。そしてこの時ジエステル含量は30%以上、更には30%から55%が好ましい。
【0013】
本発明では乳化剤のHLBを限定するものではない。幅広く適用が可能である。
【0014】
また本乳化油脂組成物を使用した乳化組成物の作成に当たって使用する多価アルコールはグリセリンに限らず、蔗糖、マルトースなどの糖類、及びデキストリンなどが可能である。
【0015】
また食品で使用可能な水溶性高分子などを使用することができる。
【0016】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲がこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0017】
次の処方で乳化剤とオリーブ油との混合することで乳化油脂組成物を作成した。また、この乳化油脂組成物を水分散して乳化組成物を作成した。
【0018】
1. 乳化油脂組成物処方
乳化剤 80(%)
オリーブ油 20
【0019】
乳化剤の種類として、グリセリンモノステアリン酸エステル、デカグリセリンモノステアリン酸エステル、グリセリンモノパルミチン酸エステル、ジグリセリンモノパルミチン酸エステル、デカグリセリンモノパルミチン酸エステルを選び、それぞれを使用した乳化油脂組成物の試料記号を(A)、(B)、(C)、(D)、(E)とした。
【0020】
2. 乳化油脂組成物を使用した乳化組成物処方
乳化油脂組成物 20.0(%)
デカグリンモノパルミチン酸エステル 1.0
マルトース 10.0
精製水 にて100とする。
【0021】
3. 乳化組成物の作成法
精製水、マルトースを80℃に加温、攪拌し、均一溶液とし、これに同温度に加温した乳化油脂組成物を加えて、ホモミキサーにて乳化した。乳化後攪拌を続け室温に放置し、1日後、25℃での粘度を測定した。
【0022】
4. 結果
上記処方で作れた乳化組成物の粘度を表1に示した。
【表1】

【0023】
本発明で言うグリセリンモノパルミチン酸エステル、ジグリセリンモノパルミチン酸エステル、デカグリセリンモノパルミチン酸エステルを乳化剤として用いた乳化組成物は何れも流れるような粘性を示し、お湯に分散しやすく、小麦粉に配合しやすいものであった。
【実施例2】
【0024】
実施例1で作成した乳化組成物を配合してパンを作成した。
【0025】
1. パンの生地の処方
小麦粉 70.0部
イースト菌 2.0
フード菌 0.1
乳化組成物 1.0
精製水 40.0
【0026】
2. パン生地への配合試験
パン生地への配合結果を下表に示す。構成脂肪酸がパルミチン酸である多価アルコール脂肪酸エステルに優れた配合効果が認められた。
【表2】

【実施例3】
【0027】
次のような高濃度に乳化剤を含有する乳化組成物を実施例1と同様な方法で作成した。この粘度を実施例1と同様にして測定した。
【0028】
本発明でいう構成脂肪酸がパルミチン酸である多価アルコール脂肪酸エステルが従来使用されている試料と比較して、低粘度の乳化組成物となること、経時的にも変化し難い事が解った。

【実施例4】
【0029】
下記のような処方で乳化組成物を作りこれを用いて麺を作成した。
【0030】
1. 乳化組成物の処方と粘度

【0031】
2. 本乳化組成物を次のような処方で小麦粉に配合して麺を作成した。
処方:小麦 100部、水 32部、食塩 2部、本乳化組成物 4部
【0032】
3. 結果
本発明品である構成脂肪酸がパルミチン酸である多価アルコール脂肪酸エステルを用いることで、混和性に優れ、弾力があり、表面の滑らかな生地が得られ、これを茹でると歯ざわりが良く、腰のある麺が得られた。
【実施例5】
【0033】
油脂を20%配合した乳化組成物を下記の処方で作成した。構成脂肪酸がパルミチン酸である多価アルコール脂肪酸エステルを用いた乳化組成物は粘性が低かった。またグリセリンジパルミチン酸エステルを配合することで優れた低粘性の乳化組成物となることが解った。また、構成脂肪酸がパルミチン酸である多価アルコール脂肪酸エステルを用いた乳化組成物は全て安定であった。

親水性乳化剤:デカグリセリンモノパルミチン酸エステル
MGP:グリセリンモノパルミチン酸エステル
MGS:グリセリンモノステアリン酸エステル
DGP:グリセリンジパルミチン酸エステル(グリセリンジパルミチン酸エステルの含量45%、グリセリンモノパルミチン酸エステル35%、グリセリントリパルミチン酸エステル20%)
【実施例6】
【0034】
水溶性高分子とパルミチン酸モノグリセリドを使用して、低粘性の乳化組成物を作成した。この乳化組成物は2ヶ月常温放置によっても、外観的な変化無く、小麦粉に本品を10%配合して、ゲル化せず、滑らかな麺生地が得られた。

調製方法:カゼインナトリウム、もしくはアルギン酸ナトリウムとデキストリンを水に溶解し、これを70℃に加温し、ホモミキサー攪拌をしながら、同温度に加温した大豆油、パルミチン酸モノグリセリド溶液を加えて乳化した。乳化後は攪拌しながら冷却した。
MGP:グリセリンモノパルミチン酸エステル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳化剤として主たる構成脂肪酸がパルミチン酸である多価アルコール脂肪酸エステルを含有することを特徴とする小麦粉添加用乳化油脂組成物。
【請求項2】
多価アルコール脂肪酸エステルの構成脂肪酸の60%以上がパルミチン酸であることを特徴とする請求項1に記載の小麦粉添加用乳化油脂組成物。
【請求項3】
多価アルコール脂肪酸エステルを構成する多価アルコールがグリセリン及び/又はポリグリセリンからなることを特徴とする請求項1又は2記載の小麦粉添加用乳化油脂組成物。
【請求項4】
グリセリンジパルミチン酸エステルを主たる乳化剤とすることを特徴とする小麦粉添加用乳化油脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の乳化剤と、水と、必要に応じて食用油脂とを用いた小麦粉添加用の乳化組成物。

【公開番号】特開2009−136204(P2009−136204A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−315537(P2007−315537)
【出願日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【出願人】(000226437)日光ケミカルズ株式会社 (60)
【出願人】(301068114)株式会社コスモステクニカルセンター (57)
【Fターム(参考)】