説明

少なくとも一つの非回転対称ミラーを備える3ミラー収差補正システム

【課題】複数の波長帯に対して十分な補正がされ、熱感度を低減した、ビネットのない反射光学システムを提供する。
【解決手段】少なくとも一つの波長帯において物体空間中の物体の第1像平面IPに像を形成する反射対物光学システム10であって、3ミラー収差補正構成で配置され、第1反射面MS1、第2反射面MS2、第3反射面MS3をそれぞれ有し、前記第1反射面、第2反射面、第3反射面の順に前記物体からの光を前記像に反射する第1ミラーM1、第2ミラーM2、第3ミラーM3と、前記第1ミラーと前記第3ミラーとの間に配置され、少なくとも一つの中間像IIMが形成される少なくとも一つの中間像位置とを備え、前記第1反射面、第2反射面、第3反射面の少なくとも一つは、非回転対称である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射光学システムに関し、特に、少なくとも一つの非回転対称ミラーを備える3ミラー収差補正システムに関する。
【背景技術】
【0002】
光学結像システム、とりわけ対物光学システムは、物体空間からの光(放射線)を集光し、この光を像空間、即ち、「実像が形成されると共にその実像が検出器により検知される空間」に搬送することにより、視認される光景に関する情報を提供する。多くの対物光学システムは、所定の波長域(波長帯)で動作するが、複数の波長帯で結像することにより、物体空間に関する情報をさらに提供することができる。複数の光波長帯を感知可能な高性能電子画像センサが登場したことにより、こうした複数波長帯用の対物光学システムが実現される。しかし、対物光学システムは複数の波長帯に対して十分な補正が必要となるため、対物光学システムには、さらなる要求がなされている。
【0003】
光を十分に透過させることができると共に収差、特に色収差を補正することができる屈折材料を入手することが困難であることから、複数の波長帯において結像能力を有する屈折対物光学システムの設計が難しくなっている。その他、温度上昇・下降時に画像の焦点ぼやけ及び収差補正の損失を引き起こす管理システムの熱感度も問題となっている。
【0004】
反射対物光学システムには、ミラーが光の透過に依存せず、色収差がなく、熱感度が低い傾向にあるという利点がある。3つのミラーを採用する種類の反射対物光学システムは、「3ミラー収差補正システム」または「TMA」と呼ばれる。TMAのミラーは、光が反射対物光学システムを4方向に横断することにより、結像した光景を鮮明にする、即ち、ビネット(口径食)のない状態にするように構成されている。
【0005】
これまでに設計されているTMAは、一平面上で互いに偏心且つ傾斜する複数の回転対称ミラーを備えている。しかし、従前のTMAは、コンパクト性に欠け、F値(焦点比)が比較的遅く(大きく)、収差補正が最低限となっている。さらに、特性増幅(signature augmentation)がなく、さらに/または、歪みが小さい等の他の設計要件を満たすためには、開口を十分に緩めて高性能化する必要がある。さらに、より短い波長(例えば、可視波長帯)での動作がTMAに要求される場合、コンパクトな設計では、収差の補正がより難しくなる。ミラーをさらに追加することはできるが、その代わり、より複雑になり、場合によっては、大きく重くなってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第4,265,510号明細書
【特許文献2】米国特許第4,834,517号明細書
【特許文献3】米国特許第6,016,220号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
単一または複数の波長帯での動作において、少なくとも一つの最終像平面で高性能に結像する改良型TMAシステムが開示される。残像収差を最小化するために、少なくとも一つのミラーが非回転対称とされる。コールド絞り位置へのアクセスを提供し、複数像平面において複数の画像センサを実現するビームスプリッタの位置へのアクセスを提供し、特性増幅を制御し、「単体のみで優れた歪み補正」または「取り込まれたデジタル画像の電子後処理によって補正可能な形式の歪み補正」を有するように、TMAシステムを配置してもよい。
【0008】
本発明の一態様は、少なくとも一つの波長帯において物体空間中の物体の第1像平面に像を形成する反射対物光学システムに関する。この反射対物光学システムは、第1、第2、第3ミラーを備える。これらのミラーは、TMA構成で配置され、第1、第2、第3反射面をそれぞれ有し、第1、第2、第3反射面の順に物体からの光を像に反射する。第1ミラーと第3ミラーとの間に少なくとも一つの中間像位置が存在する。中間像位置には、少なくとも一つの中間像が形成される。また、第1、第2、第3反射面の少なくとも一つは、非回転対称である。一例では、少なくとも一つの非回転対称面は、対応する少なくとも一つの電気鋳造ミラーにより実現される。
上述の反射対物光学システムでは、ミラーの少なくとも一つは被電気鋳造ミラーであることが好ましい。また、少なくとも一つの非回転対称反射面は、少なくとも一つの電気鋳造ミラー上に形成されている。
上述の反射対物光学システムは、第1像平面と第3ミラーとの間に開口絞りをさらに備えることが好ましい。
上述の反射対物光学システムでは、軸方向フィールド光線の主光線は、第1像平面に実質的に垂直であることが好ましい。
上述の反射対物光学システムでは、3つの反射面はすべて非回転対称であることが好ましい。
上述の反射対物光学システムは、開口絞りの位置に配置されるコールド絞りをさらに備えることが好ましい。
上述の反射対物光学システムでは、少なくとも一つの反射面はトロイダル形状である。
上述の反射対物光学システムでは、少なくとも一つの波長帯には、450nmから650nmの範囲の可視光線波長帯、700nmから1200nmの範囲の近赤外線波長帯、3ミクロンから5ミクロンの範囲の中赤外線波長帯、8ミクロンから12ミクロンの範囲の遠赤外線波長帯、20nmから400nmの範囲の紫外線波長帯、13.5nmの波長を含む極端紫外光波長帯、13.5nm未満の波長を有するX線波長帯の一つが含まれることが好ましい。
上述の反射対物光学システムでは、少なくとも一つの波長帯には、可視光線波長帯、近赤外線波長帯、中赤外線波長帯、遠赤外線波長帯から選択される2つ以上の波長帯が含まれることが好ましい。
上述の反射対物光学システムは、少なくとも一つの中間像の位置に実質的に配置される視野絞りをさらに備えることが好ましい。
上述の反射対物光学システムは、ビームスプリッタ、第1画像センサ、第2画像センサをさらに備えることが好ましい。ビームスプリッタは、第1像平面と開口絞りとの間、または、開口絞りと第3ミラーとの間に配置される。また、ビームスプリッタは、第2像平面を形成する。第1画像センサおよび第2画像センサは、第1像平面および第2像平面にそれぞれ配置されている。
上述の反射対物光学システムは、第1画像センサ及び処理用電子機器をさらに備えることが好ましい。第1画像センサは、第1像平面に配置される。処理用電子機器は、第1画像センサに電気的に接続されている。
上述の反射対物光学システムは、ビームスプリッタ及び第2画像センサをさらに備えることが好ましい。ビームスプリッタは、第1像平面と第3ミラーとの間に配置されている。また、ビームスプリッタは、第2像平面を形成するように構成されている。第2画像センサは、第2像平面に配置される。また、第2画像センサは、処理用電子機器に電気的に接続されている。
【0009】
本発明の他の態様は、第1、第2、第3反射面をそれぞれ有する第1、第2、第3ミラーを備える反射対物光学システムである。これらのミラーはTMA構成で配置される。そして、第1、第2、第3ミラーの少なくとも二つはトロイダル面を有する。一例では、3つのミラーはすべてトロイダル面である。電気鋳造ミラーを用いることにより二以上のトロイダル面を支持してもよい。
上述の反射対物光学システムでは、少なくとも二つのトロイダル面は電気鋳造シェルのそれぞれによって支持されることが好ましい。
上述の反射対物光学システムは、ビームスプリッタをさらに備えることが好ましい。ビームスプリッタは、異なる波長帯に対応する第1像平面と第2像平面とが反射対物光学システムに含まれるように配置される。
上述の反射対物光学システムは、第1画像センサ、第2画像センサ及び処理用電子機器をさらに備えることが好ましい。ここで、第1画像センサは、第1像平面に配置されている。第2画像センサは、第2像平面に配置されている。処理用電子機器は、第1画像センサ及び第2画像センサに電気的に接続されている。
上述の反射対物光学システムは、視野絞り及びコールド絞りの少なくとも一つをさらに備えることが好ましい。ここで、視野絞りは、実質的に中間像の位置に配置される。コールド絞りは、第3ミラーの下流の開口絞りの位置に配置される。
上述の反射対物光学システムは、可視光線波長帯および少なくとも一つの赤外線波長帯ならびに少なくとも二つの異なる赤外線波長帯の少なくとも一つを結像するように構成されることが好ましい。
上述の反射対物光学システムでは、3つのミラーはすべて電気鋳造ミラーであることが好ましい。
【0010】
本発明のさらなる特徴および利点は、下記の詳細な説明(発明を実施するための形態)に明記されている。また、それらの一部は、詳細な説明の記載内容から当業者にとって直ちに明白となるか、下記の詳細な説明、特許請求の範囲、添付図面を含む、ここに記載された発明を実施することによって認識される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1A】開放絞り値約f/1.3で動作する第1実施形態のTMAシステムの概略YZ平面図である。
【図1B】開放絞り値約f/1.3で動作する第1実施形態のTMAシステムの概略XZ平面図である。
【図1C】図1A、1BのTMAシステムに関する変調伝達関数(MTF)のグラフ図である。このグラフ図では、可視光線波長帯の分解能(即ち、サイクル/mm表示の空間周波数)に対して実視野(FOV)の変調(即ち、%表示のコントラスト)がプロットされている。
【図1D】図1A,1BのTMAシステムに関するMTFのグラフ図である。このグラフ図では、可視光線波長帯の分解能に対してFOVの変調がプロットされている。
【図1E】図1A、1BのTMAシステムに関するMTFのグラフ図である。このグラフ図は、遠赤外線波長帯の実視野に関する。
【図1F】図1A、1BのTMAシステムに関するMTFのグラフ図である。このグラフ図は、遠赤外線波長帯の実視野に関する。
【図1G】図1A、1BのTMAシステムに関するグラフ図である。このグラフ図では、水平および垂直FOVの歪曲収差がプロットされている。
【図1H】図1A、1BのTMAシステムの部分拡大図である。本図には、開口絞りに位置するコールド絞りが示されている。
【図1I】図1A、1BのTMAシステムの部分拡大図である。本図には、開口絞りの下流に位置し、第1、第2画像センサがそれぞれ配置される第1、第2像平面を形成するビームスプリッタが示されている。
【図1J】図1A,1BのTMAシステムの部分拡大図である。本図には、開放絞り値約f/3.4で動作するTMAにおいて、開口絞りと隣接ミラーとの間にビームスプリッタが位置することが示されている。
【図2A】図1A、1BのTMAシステムの一例の概略YZ平面図である。ただし、このTMAシステムは、開放絞り値約f/2で動作する。
【図2B】図1A,1BのTMAシステムの一例の概略XZ平面図である。ただし、このTMAシステムは、開放絞り値約f/2で動作する。
【図2C】図2A、2BのTMAシステムに関するMTFのグラフ図である。このグラフ図は、可視光線波長帯の実視野に関する。
【図2D】図2A、2BのTMAシステムに関するMTFのグラフ図である。このグラフ図は、可視光線波長帯の実視野に関する。
【図2E】図2A、2BのTMAシステムに関するMTFのグラフ図である。このグラフ図は、遠赤外線波長帯の実視野に関する。
【図2F】図2A、2BのTMAシステムに関するMTFのグラフ図である。このグラフ図は、遠赤外線波長帯の実視野に関する。
【図3A】開放絞り値約f/2で動作し、特性増幅のない第2実施形態のTMAシステムの概略YZ平面図である。
【図3B】開放絞り値約f/2で動作し、特性増幅のない第2実施形態のTMAシステムの概略XZ平面図である。
【図3C】図3A、3BのTMAシステムに関するMTFのグラフ図である。このグラフ図は、可視光線波長帯の実視野に関する。
【図3D】図3A,3BのTMAシステムに関するMTFのグラフ図である。このグラフ図は、可視光線波長帯の実視野に関する。
【図3E】図3A,3BのTMAシステムに関するMTFのグラフ図である。このグラフ図は、遠赤外線波長帯の実視野に関する。
【図3F】図3A,3BのTMAシステムに関するMTFのグラフ図である。このグラフ図は、遠赤外線波長帯の実視野に関する。
【図3G】図3A、3BのTMAシステムに関するグラフ図である。このグラフ図では、水平および垂直FOVの歪曲収差がプロットされている。
【図3H】図3A、3BのTMAシステムの部分拡大図である。本図には、画像センサから反射される光が開口絞りを通過しないことが示されている。
【図4A】開放絞り値約f/2.5で動作し、特性増幅がなく、歪曲収差が十分補正された第3実施形態のTMAシステムの概略YZ平面図である。
【図4B】開放絞り値約f/2.5で動作し、特性増幅がなく、歪曲収差が十分補正された第3実施形態のTMAシステムの概略XZ平面図である。
【図4C】図4A、4BのTMAシステムに関するMTFのグラフ図である。このグラフ図は、可視光線波長帯の実視野に関する。
【図4D】図4A、4BのTMAシステムに関するMTFのグラフ図である。このグラフ図は、可視光線波長帯の実視野に関する。
【図4E】図4A、4BのTMAシステムに関するMTFのグラフ図である。このグラフ図は、遠赤外線波長帯の実視野に関する。
【図4F】図4A、4BのTMAシステムに関するMTFのグラフ図である。このグラフ図は、遠赤外線波長帯の実視野に関する。
【図4G】図4A、4BのTMAシステムに関するグラフ図である。このグラフ図では、水平および垂直FOVの歪曲収差がプロットされている。
【図4H】図4A、4BのTMAシステムの部分拡大図である。本図には、画像センサから反射される光が開口絞りを通過しないことが示されている。
【図5A】開放絞り値約f/1.8で動作し、コンパクトに最適化され、中・遠赤外線波長帯で実行する第4実施形態のTMAシステムの概略YZ平面図である。
【図5B】開放絞り値約f/1.8で動作し、コンパクトに最適化され、中・遠赤外線波長帯で実行する第4実施形態のTMAシステムの概略XZ平面図である。
【図5C】図5A、5BのTMAシステムに関するMTFのグラフ図である。このグラフ図は、中赤外線波長帯の実視野に関する。
【図5D】図5A、5BのTMAシステムに関するMTFのグラフ図である。このグラフ図は、中赤外線波長帯の実視野に関する。
【図5E】図5A、5BのTMAシステムに関するMTFのグラフ図である。このグラフ図は、遠赤外線波長帯の実視野に関する。
【図5F】図5A、5BのTMAシステムに関するMTFのグラフ図である。このグラフ図は、遠赤外線波長帯の実視野に関する。
【図5G】図5A、5BのTMAシステムに関するグラフ図である。このグラフ図では、水平および垂直FOVの歪曲収差がプロットされている。
【0012】
図中の様々な構成要素は単に図示されたに過ぎず、必ずしも実際の縮尺通りに図示されている訳ではない。これらの構成要素のうち、ある部分は誇張して図示され、ある部分は最小化して図示されている場合もある。本図面は、当業者によって理解され、適切に実行され得る本発明の実施形態の一例を図示することを意図するものである。図中、同様の部品および要素は、同様の参照番号および符号により特定される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、反射対物光学システムに関し、特に、少なくとも一つの非回転対称ミラーを備えるTMAに関する。
【0014】
一例では、少なくとも一つの非回転対称ミラーは、電気鋳造ミラーである。即ち、反射面は、電気鋳造一体化(モノリシック)構造によって、所定の非回転対称な表面形状を有するように構成された剛体シェル状に支持されている。電気鋳造ミラーの表面形状は、対応する形状のマンドレルによって形成される。このため、電気鋳造ミラーの表面形状は、一旦マンドレルを適切に加工すれば、安価に複製可能である。少なくとも一つの電気鋳造ミラーを形成するために任意の電気鋳造可能材料を使用してもよいが、一例では、被電気鋳造シェルは、ニッケルまたはニッケル合金から形成される。回転対称ミラーは、電気鋳造ミラーでもよいし、従前のガラスミラーでもよい。
【0015】
他の例では、少なくとも一つの非回転対称ミラーは、ダイヤモンド旋盤加工等の従前の手段でも形成可能である。ダイヤモンド旋盤加工により非回転対称ミラーの形成を検討する際、これを制限する要因となり得るのは、適切なダイヤモンド旋盤加工機(例えば、5軸加工機)の入手とその費用である。さらに、適切な表面形状の加工が可能だとしても、従前のガラスミラーでは重量とコンパクト性の要件を満たすことは容易ではない。
【0016】
さらに、従前のダイヤモンド旋盤加工プロセスでは、「マスタ」に依存せずにミラー面が加工される。したがって、加工された各ミラー面は、微視的には固有であり、相当な後処理を実行して表面形状要件を満たす必要がある。したがって、大抵の場合、少なくとも一つの非回転対称ミラーを形成するに当たって電気鋳造技術を利用すれば、費用対効果が高く効率的であると考えられる。
【0017】
本発明の実施形態の例は、表1、2、3及び4に掲載の様々な設計例と、これらの表および以下に含まれるレンズ設計規定データとを利用して記載される。なお、レンズ設計規定データは、オプティカル・リサーチ・アソシエイツ社(米国カリフォルニア州パサデナ)の商業利用可能な光学設計ソフトウェア「CODE V(登録商標)」により生成したデータから抽出したものである。下記表に記載の全ての実施形態の例では、3つの非回転対称ミラーが採用されている。
【0018】
以下に示す全てのデータは、摂氏25度(華氏77度)及び標準気圧(760mmHg)の条件下で得られる。
【0019】
ここに記載の実施形態の例では、複数の短波長帯と相当な波長帯域に及ぶ複数の波長帯とで使用する大口径(fast aperture)において、所望の複数の空間周波数で高コントラストが得られる。
【0020】
ここで言及する様々な波長帯は、以下の近似波長帯域を有することができる。X線波長帯は、13.5nm未満の波長を有する。EUV波長帯は、13.5nmの波長を含む。紫外線波長帯は、約20nmから約400nmの波長を有する。可視波長帯は、約450nmから約650nmの波長を有する。近赤外線波長帯は、約700nmから1200nmの波長を有する。中赤外線波長帯は、約3000nmから約5000nmの波長を有する。遠赤外線波長帯は、約8000nmから約12000nmの波長を有する。一例では、波長帯全域における最短波長に対する最長波長の比は、約27:1(例えば、26.7:1)である。
【0021】
所望の空間波長や、波長帯(中赤外線波長帯、遠赤外線波長帯等)のより長い波長において回折依存によるコントラストの損失を低減するためには、例えば、F値が約4未満の大口径が必要である。ここに開示する反射対物光学システムは、少なくとも一つの非回転対称ミラーを利用することによりコンパクトなシステムでこれを達成する。ここで、少なくとも一つの非回転対称ミラーは、例えば、他のミラーに対して偏心または傾斜する等、軸外しされた状態で配置されてもかまわない。
【0022】
ここに記載する反射対物光学システムは、例えば、米国特許第4,265,510号、第4,834,517号、第6,016,220号に記載の従前のTMAシステムの改良とみなしてもよい。なお、当該米国特許を本発明に援用する。
【0023】
ここに開示するTMAシステムは、コンパクトに形成可能であり、大口径を使用して、少なくとも一つの波長帯の所望の空間波長で高コントラストを提供し、軽量化等の他の有用な特徴を提供する。これは、とりわけ少なくとも一つの電気鋳造ミラーを使用する場合に該当する。
【0024】
ここに記載するTMAの実施形態の例では、軸方向フィールド光線AFBの主光線CRが、像平面IP(ひいては当該平面上に配置された画像センサIS)に直入射(または、非直入射)すると共に、画像センサISの表面が入射光の光学軸に対して傾斜しない(または傾斜する)ように(図1I及び下記の記載を参照)構成される。
【0025】
以下、「下流」および「上流」との用語は、入射光LRの方向について言及するものである。即ち、入射光LRは、上流から下流に向かって「流れる」。したがって、第2光学要素が第1光学要素の下流に位置する場合、第1光学要素は、第2光学要素に先立って入射光LRを受光する。つまり、物体空間は像空間の上流に位置する。
【0026】
(実施形態1)
図1Aは、開放絞り値約f/1.3で動作する第1実施形態に係るTMAシステム10のYZ平面(図1A)の概略図である。また、図1Bは、開放絞り値約f/1.3で動作する第1実施形態に係るTMAシステム10のXZ平面の概略図である。TMAシステム10は、反射面MS1を有する第1(一次)ミラーM1、反射面MS2を有する第2(二次)ミラーM2、および、反射面MS3を有する第3(三次)ミラーM3を備えている。ミラーM1、M2、M3は、YZ平面上で軸外しされて偏心するTMA構成で配置されている。
【0027】
図中、光線LRは、左から右に物体空間OBSPから進行し、先ず一次ミラーM1に入射することが示されている。一次ミラーM1は光線LRを二次ミラーM2に反射し、二次ミラーM2は光線LRを三次ミラーM3に反射する。三次ミラーM3は、光線LRを像空間IMSPの像平面IPに案内し、像平面IP上に像IMを形成する。開口絞りASは、三次ミラーM3と像平面IPとの間に位置する。
【0028】
図示される通り、入射瞳は、一次ミラーM1の上流に位置する物体空間OBSPで軸方向の光線が交差する入射瞳位置EPLに配置されている。しかし、これは近軸位置であり、瞳の収差(主に歪曲)によって、入射瞳が入射瞳位置EPLにおける平面に完璧に位置することはない。とは言うものの、入射瞳の収差がTMAシステム10の結像性能に対して実質的に影響を与えることはない。
【0029】
中間像IIMは、ミラーM1及びM2の間に形成される(図1A参照)。中間像IIMを設けることは有益である。中間像IIMを設けることにより、物体空間OBSPにおける光源(図示せず)を起源とし(または起源とせず)、疑似経路に沿って像平面IP、ひいては平面IP上の画像センサISに到達する不要な光を遮蔽することができるからである。なお、ミラーM1〜M3の間またはその周辺に開口または複数のバッフルを導入するか、あるいは、中間像IIMに視野絞りを配置することにより、疑似光を完全に(または部分的に)遮蔽してもよい。光バッフルの効果は、中間像IIMのアクセスのし易さに依存する。場合によっては(例えば、実施形態1、4)、中間像IIMの底部まで延在するバッフルによって光路がぼやけ、中間像IIMの上部にしか位置することができないので、部分的な効果のみ得られることになる。また、場合によっては(例えば、実施形態2、3)、こうした光路のぼやけが発生せず、バッフルを完全に利用することができる。
【0030】
詳細については後述するが(例えば、図1Hを参照)、一例では、像IMを検出するために、画像センサISが像平面IP上に配置される。比較的長い波長を有する少なくとも一つの波長帯(中赤外線波長帯、遠赤外線波長帯など)で結像する場合、ここに記載するTMAシステム10は、光がTMAシステム10に入射して通過し、少なくとも一つの画像センサISに到達する際に、光のぼやけまたはビネットを発生させないように構成することができる点で有利である。なお、この点は、より長い波長において、TMAシステム10の熱感度および熱分解能を高めるのに有用である。
【0031】
より長い波長帯(例えば、「3μmから5μmの中赤外線波長帯」および「8μmから12μmの遠赤外線波長帯」の一方または両方の波長帯)で光を検出する画像センサISの感度を高めるために、画像センサISの画素サイズは、約25μm等、比較的大きいサイズであってもよい。また、より短い波長帯(例えば、「450nmから650nmの可視光線波長帯」および「700nmから1200nmの近赤外線波長帯」の一方または両方の波長帯)で光を検出する画像センサISの場合、画像センサISの画素サイズは、検出感度に重大な影響を与えない小さなサイズ(約10ミクロン等)であってもよい。
【0032】
したがって、一例では、約10.1mm(縦)×15.2mm(横)のサイズを有する像IMの場合、長い波長帯の画像センサISの画素サイズは約600ピクセルであってもよく、短い波長帯の画素センサISの画素サイズは約1500ピクセルであってもよい。10ミクロンのピクセルサイズには、約25サイクル/mmの空間周波数で、比較的高いコントラスト(変調)が必要となる。また、25ミクロンのピクセルサイズには、10サイクル/mmのより緩和された空間周波数で、比較的高いコントラストが必要となる。
【0033】
TMAシステム10では、一次ミラーM1、二次ミラーM2、三次ミラーM3の少なくとも一つが非回転対称である。実施形態の一例では、例えば、米国特許出願公報第2009/0314646号に記載の電気鋳造プロセスにより、少なくとも一つの非回転対称ミラーが形成される。なお、当該特許出願公報は本出願に援用される。
【0034】
以下の表において、SRFは「表面」の短縮表記であり、ASは「開口絞り」の短縮表記である。また、以下で使用する表記「E−n」は「10−n」の短縮表記である。
【0035】
以下の表1では、第1実施形態に係るTMAシステム10のレンズ設計規定の一例が説明される。
【0036】
【表1】

【0037】
非回転対称ミラーM1、M2、M3の表面プロファイルは、下記の従前の等式により規定される。
【0038】
Z=α/β+γ+δ
このとき、
α=(CX)X+(CY)Y
β=1+(1−(1+KX)(CX)−(1+KY)(CY)1/2
γ=AR((1−AP)X+(1+AP)Y+BR((1−BR)X+(1+BP)Y
δ=CR((1−CP)X+(1+CP)Y+DR((1−DP)X+(1+DP)Y
【0039】
ここで、RX及びRYは、それぞれX軸およびY軸周りの所与の表面の曲率半径である。また、CX=1/RXであり、CY=1/RYであり、KX、KY、AR、AP、BR、BP、CR、CP、DR及びDPは、多項係数である。また、Zは、所与のX及びY値に対する表面プロファイルの位置であり、表面の極(即ち、軸方向頂点)からの光学軸に沿って測定される。表面位置は参照表面に対して与えられ、このとき、XP、YP及びZPはそれぞれX方向、Y方向およびZ方向における位置距離である。また、XR、YR及びZRは、それぞれX軸、Y軸、Z軸周りの回転角である。
【0040】
以下、一次ミラーM1に関する係数を示す。
CY=−0.00495814
KY=−0.674485
CX=−0.00450293
KX=−0.636631
AR=−5.45874E−11
BR=−7.94786E−17
CR=−5.84955E−23
DR= 1.25914E−21
AP= 8.27399E−02
BP=−4.71383E+00
CP=−7.91052E+00
DP=−1.11559E+00
【0041】
以下、二次ミラーM2に関する係数を示す。
CY=−0.00684433
KY= 0.000000
CX=−0.00791903
KX= 0.000000
AR= 9.49190E−08
BR=−3.92032E−10
CR= 9.25871E−13
DR= 1.90290E−16
AP= 0.00000E+00
BP=−2.88837E−01
CP=−1.20843E+00
DP=−4.69767E−01
【0042】
以下、三次ミラーM3に関する係数を示す。
CY=−0.00711533
KY=−0.014222
CX=−0.00733507
KX=−0.035238
AR= 2.25156E−13
BR=−7.16155E−14
CR= 7.62816E−28
DR= 0.00000E+00
AP= 1.10431E+01
BP= 2.28262E−01
CP= 2.44883E+02
DP= 0.00000E+00
【0043】
ミラーM1〜M3の非回転対称面形状の一例は、「ねじれ非球面」または「アナモルフィック非球面」と称してもよい。実施形態の例では、少なくとも一つの非回転対称面は、表面の非回転対称的性の要因となる少なくとも一つの交差項を有する一般的な多項式により表される。
【0044】
物体空間OBSPの物体面の実視野(FOV)は、水平方向(X軸方向)が7.6度であり、垂直方向(Y軸方向)が4.8度である。開放絞り値は約f/1.3であり、有効焦点距離は約98mmである。
【0045】
図1C及び1Dは、図1A及び1BのTMAシステム10に関する変調伝達関数(MTF)のグラフ図である。このグラフ図では、可視光線波長帯の分解能(即ち、サイクル/mm表示の空間周波数)に対してFOVに対する変調(即ち、%表示のコントラスト)がプロットされている。また、図1E及び1Fは、図1A及び1BのTMAシステム10に関するMTFのグラフ図である。このグラフ図では、遠赤外線波長帯の実視野がプロットされている。
【0046】
上述の通り、画像センサの画素サイズが10ミクロンである場合、約25サイクル/mmの空間周波数で比較的高いコントラスト(変調)が必要となり、画素サイズが25ミクロンである場合、10サイクル/mmの空間周波数で比較的高いコントラストが必要となる。なお、図1C及び1DのMTFのグラフ図には、最大25サイクル/mmの空間周波数で変調が良好(50%以上)であることが示されており、図1E及び1Fでは、最大10サイクル/mmで変調が良好(70%以上)であることが示されている。
【0047】
TMAシステム10は、光学歪曲収差を低減するように構成されてもよく、少なくとも電子後処理で補正可能な形態(特性)の歪曲収差を有するように構成されてもよい。光学歪曲収差は、画像センサISにより光が検出された後に、画像センサISの出力信号を電子的に変化させることによって補正されてもよい。かかる場合、光学歪曲収差が低減されれば、複雑なTMAシステム10全体を簡素化(例えば、軽量化)することができる。
【0048】
図1Gは、図1A及び1BのTMAシステムに関して、水平および垂直FOVの歪曲収差をプロットした図である。図1Gでは、両FOVに対して歪曲収差が適度に補正されており、歪曲収差が電子後処理によって直ちに補正可能となる簡素な形状特性を有することが示されている。
【0049】
ここに記載するTMAシステム10は、ビネットなく直ちにコールド絞りCSを開口絞りASの位置に挿入可能であることに利点がある。コールド絞りCSは、画像センサISに到達する不要な光を低減する。これにより、TMAシステム10の熱感度、延いては、中・遠赤外線波長帯などのより長い波長での熱分解能を向上させることができる。
【0050】
図1Hは、図1A及び1BのTMAシステム10の部分拡大図である。本図には、開口絞りASに位置するコールド絞りCSが示されている。また、図1Hには、像平面IPに配置される画像センサISが示されている。一例では、画像センサISは、複数の波長帯で放射線(光)を検出可能なマルチバンド電子画像センサである。実施形態の一例では、TMAシステム10は、処理用電子機器PEを備える。処理用電子機器PEは、画像センサISに電気的に接続されており、像平面IP上の光の検出に従って、画像センサISからの情報(即ち、画像センサISから送信される電子信号SIによって具現化される情報)を処理するように構成されている。
【0051】
実施形態の一例では、処理用電子機器PEは、取込み画像IMの画像処理を実行するように構成されている。例えば、処理用電子機器PEは、画像の歪曲収差を補正するように構成することができる。したがって、実施形態の一例では、歪曲収差の形状が電子補正可能な程度に十分簡素である限り、歪曲収差の大きさを高度に(例えば、約10%まで)補正する必要はない。
【0052】
TMAシステム10で複数の画像センサISを採用する場合、これらの画像センサISを少なくとも一つの処理用電子機器PEに電気的に接続してもよい。一例として、図1Hには、一つの処理用電子機器PEと一つの画像センサISとが示されている。
【0053】
TMAシステム10は、ビームスプリッタBSを備えることができる。ビームスプリッタBSは、画像形成光を分離し、この光を少なくとも二つの異なる画像センサISに案内することができる。画像センサISは、一つか二つの波長帯のみを同時に検出可能であってもよい。したがって、ビームスプリッタBSを設けることにより、二つの画像センサISに、異なる波長帯を含む光を検出させることができる。例えば、可視光線波長帯から遠赤外線波長帯の光を検出するに当たり、中・遠赤外線波長帯の光を第1画像センサIS1に検出させ、可視光線波長帯および近赤外線波長帯の光を第2画像センサIS2に検出させるようにしてもよい(以下の記載および図11を参照)。
【0054】
検出能力の向上に加え、開口絞りASと隣接ミラーとの間に位置するビームスプリッタBSにより、コールド絞りCSをより長い波長帯チャネルに配置することができると共に、絞りまたは虹彩をより短い波長帯チャネルに配置することができる(図1Jを参照)。F値、即ち画像センサISでの強度を制御するために、絞りまたは虹彩の開口が可変であってもよい。このようにすれば、画像品質が最適化される。
【0055】
図1Iは、ビームスプリッタBSを備えるように構成された図1AのTMAシステム10の拡大図である。ビームスプリッタBSにより、2つの像平面IP1及びIP2が形成される。なお、2つの像平面IP1及びIP2が形成される位置は、各像IM1及びIM2が形成される位置であると共に、各画像センサIS1及びIS2が配置される位置である。実施形態の一例では、ビームスプリッタBSは、波長を選択可能である。このため、異なる波長(波長帯)の光が画像センサIS1及びIS2にそれぞれ搬送されて反射される。この例では、画像センサIS1、IS2は、入射する特定の波長帯を感知することができるように構成されていてもよい。また、波長の選択性向上に使用される光路上に、少なくとも一つの波長選択フィルタ(図示せず)を配置してもよい。また、図1Iには、主光線CRを有する軸方向フィールド光線AFBが図示されている。
【0056】
図1Jは、図1A及び1BのTMAシステム10の部分拡大図である。本図には、開放絞り値f/3.4で動作するTMAシステムにおいて、開口絞りASと三次ミラーM3との間にビームスプリッタBSが配置されていることが示されている。この構成により、像平面IP1及び開口絞りAS1に対応する光路OP1と、像平面IP2及び開口絞りAS2に対応する光路OP2が形成される。図中、二つの画像センサIS1及びIS2は、像平面IP1及びIP2にそれぞれ配置されており、像IM1及びIM2をそれぞれ電子的に取り込む。実施形態の一例では、ビームスプリッタBSは波長を選択可能である。したがって、画像センサIS1、IS2にそれぞれ異なる波長(波長帯)が搬送されて反射される。図中、虹彩または絞り等の開口制限部ALEは、開口絞りAS2に位置している。
【0057】
図2A、2Bは、開放絞り値約f/2で動作する図1A及び1BのTMAシステム10の一例の概略YZ、XZ平面図である。
【0058】
図2C及び2Dは、図2A及び2BのTMAシステム10に関するMTFのグラフ図である。このグラフ図では、可視光線波長帯の実視野がプロットされている。また、図2E及び2Fは、図2A及び2BのTMAシステム10に関するMTFのグラフ図である。このグラフ図では、遠赤外線波長帯の実視野がプロットされている。図2C及び2DのMTFのグラフ図では、25サイクル/mmまでに70%を超えるコントラストが現れている。また、図2E及び2FのMTFのグラフ図では、10サイクル/mmまでに60%を超えるコントラストが現れている。
【0059】
(第2実施形態)
図3A及び3Bは、図1A及び1Bと同様であるが、開放絞り値約f/2で動作し、特性増幅のない第2実施形態のTMAシステム10の概略YZ、XZ平面図である。
【0060】
【表2】

【0061】
以下、一次ミラーM1に関する係数を示す。
CY=−0.00487556
KY=−0.686247
CX=−0.00448828
KX=−0.654082
AR=−1.90716E−10
BR=−6.75685E−18
CR= 1.08161E−23
DR= 1.16122E−20
AP= 4.30883E−01
BP=−2.90298E+00
CP=−9.15213E+00
DP=−1.02112E+00
【0062】
以下、二次ミラーM2に関する係数を示す。
CY=−0.00884818
KY= 0.000000
CX=−0.00768631
KX= 0.000000
AR= 4.43614E−07
BR=−5.31215E−10
CR= 6.67267E−14
DR= 4.02670E−16
AP= 0.00000E+00
BP=−2.17908E−01
CP=−1.43119E+00
DP=−4.47257E−01
【0063】
以下、三次ミラーM3に関する係数を示す。
CY=−0.00712887
KY= 0.009322
CX=−0.00732067
KX=−0.027355
AR= 1.33879E−09
BR=−4.52802E−14
CR= 2.40938E−28
DR= 0.00000E+00
AP= 1.61201E−01
BP= 1.84636E−01
CP= 2.45172E+02
DP= 0.00000E+00
【0064】
物体空間OBSPにおける物体面のFOVは、水平方向(X軸方向)が7.6度であり、垂直方向(Y軸方向)が4.8度である。開放絞り値は約f/2であり、有効焦点距離は約93mmである。
【0065】
図3C及び3Dは、図3A及び3BのTMAシステム10に関するMTFのグラフ図である。このグラフ図では、可視光線波長帯の実視野がプロットされている。また、図3E及び3Fは、図3A及び3BのTMAシステム10に関するMTFのグラフ図である。このグラフ図では、遠赤外線波長帯の実視野がプロットされている。図3C及び3DのMTFのグラフ図では、25サイクル/mmまでに約70%を超えるコントラストが現れている。また、図3E及び3FのMTFのグラフ図では、10サイクル/mmまでに60%を超えるコントラストが現れている。
【0066】
図3Gは、図3A及び3BのTMAシステム10に関して、水平および垂直FOVの歪曲収差をプロットした図である。本図には、両FOVに対して歪曲収差が適度に補正されており、歪曲収差が電子後処理によって直ちに補正可能となる簡素な形状特性を有することが示されている。
【0067】
ここに記載するTMAシステム10は、物体空間OBSPに配置される光源(図示せず)からの光LRが画像センサISに反射して物体空間OBSPに戻る(反射光が光源に入射する場合もある)ことを阻止するように構成することができることに利点がある。この効果を「特性増幅」と称する。特性増幅を低減または除去するには、TMAシステム10に対して同時にすべての要件、特に、サイズ及びF値を満足させることが要求される。ここに記載するTMAシステム10は、ミラーM1〜M3の少なくとも一つが非回転対称ミラー面形状を呈することにより、こうした厳しい要件を満たすことができる。
【0068】
図3Hは、図3A及び3BのTMAシステム10の部分拡大図である。本図には、画像センサISから反射される光RISが開口絞りASを通過しない場合に特性増幅が低減されることが示されている。
【0069】
(第3実施形態)
図4A及び4Bは、図1A及び1Bと同様であるが、開放絞り値約f/2.5で動作し、特性増幅がなく、歪曲収差が十分に補正された第3実施形態のTMAシステム10の概略YZ、XZ平面図である。
【0070】
【表3】

【0071】
以下、一次ミラーM1に関する係数を示す。
CY=−0.00394220
KY=−0.607722
CX=−0.00362140
KX=−0.718760
AR=−1.28028E−09
BR=−6.59389E−17
CR=−9.64461E−23
DR=−6.95582E−26
AP= 1.19682E−02
BP=−6.71175E+00
CP=−9.25230E+00
DP=−3.07606E+00
【0072】
以下、二次ミラーM2に関する係数を示す。
CY=−0.00253899
KY= 0.000000
CX=−0.00874012
KX= 0.000000
AR= 2.65913E−08
BR=−2.41052E−10
CR= 4.59117E−17
DR=−5.37080E−18
AP= 0.00000E+00
BP=−8.24633E−01
CP=−3.08135E+00
DP=−3.83555E−01
【0073】
以下、三次ミラーM3に関する係数を示す。
CY=−0.00519313
KY=−0.013938
CX=−0.00539444
KX=−0.005189
AR= 2.39618E−17
BR= 6.22804E−23
CR=−3.86554E−34
DR= 0.00000E+00
AP=−1.88804E+0
BP= 6.29043E+02
CP= 7.57298E+03
DP= 0.00000E+00
【0074】
物体空間OBSPにおける物体面のFOVは、水平方向(X軸方向)が7.6度であり、垂直方向(Y軸方向)が4.8度である。開放絞り値は約f/2.5であり、有効焦点距離は約112mmである。
【0075】
図4C及び4Dは、図4A及び4BのTMAシステム10に関するMTFのグラフ図である。このグラフ図では、可視光線波長帯の実視野がプロットされている。また、図4E及び4Fは、図4A及び4BのTMAシステム10に関するMTFのグラフ図である。このグラフ図では、遠赤外線波長帯の実視野がプロットされている。図4C及び4DのMTFのグラフ図では、25サイクル/mmまでに約60%を超えるコントラストが現れている。また、図3E及び3FのMTFのグラフ図では、10サイクル/mmまでに50%を超えるコントラストが現れている。
【0076】
図4Gは、図4A及び4BのTMAシステム10に関して、水平および垂直FOVの歪曲収差をプロットした図である。歪曲収差は極めて良好に補正されており、歪曲収差は僅かに存在するが、電子後処理で直ちに補正可能な特性(signature)を有する。
【0077】
図4Hは、図4A、4BのTMAシステム10の部分拡大図である。本図には、画像センサISから反射される光RISが開口絞りASを通過しない場合に特性増幅が低減されることが示されている。
【0078】
(第4実施形態)
図5A及び5Bは、図1A及び1Bと同様であるが、開放絞り値約f/1.8で動作し、コンパクトに最適化され、中・遠赤外線波長帯で機能する第4実施形態のTMAシステム10の概略YZ、XZ平面図である。
【0079】
【表4】

【0080】
以下、一次ミラーM1に関する係数を示す。
CY=−0.00583461
KY=−0.640524
CX=−0.00510179
KX=−0.582811
AR=−2.79227E−10
BR=−2.59858E−16
CR=−1.39980E−22
DR= 7.51245E−23
AP= 7.36788E−01
BP=−6.36398E+00
CP=−1.12932E+01
DP=−2.15721E−01
【0081】
以下、二次ミラーM2に関する係数を示す。
CY=−0.00873369
KY= 0.000000
CX=−0.00746860
KX= 0.000000
AR= 5.91443E−08
BR= 4.46178E−10
CR=−9.72805E−14
DR= 9.84442E−17
AP= 0.00000E+00
BP=−8.76109E−01
CP=−1.52681E−01
DP=−2.06224E−01
【0082】
以下、三次ミラーM3に関する係数を示す。
CY=−0.00809282
KY=−0.032330
CX=−0.00844333
KX=−0.070714
AR=−2.83017E−14
BR=−3.27997E−13
CR= 3.61307E−30
DR= 0.00000E+00
AP=−7.60177E+01
BP= 1.24651E−01
CP= 1.37617E+03
DP= 0.00000E+00
【0083】
物体空間OBSPにおける物体面のFOVは、水平方向(X軸方向)が7.6度であり、垂直方向(Y軸方向)が4.8度である。開放絞り値は約f/1.8であり、有効焦点距離は約86mmである。
【0084】
図5C及び5Dは、図5A及び5BのTMAシステム10に関するMTFのグラフ図である。このグラフ図では、中赤外線波長帯の実視野がプロットされている。また、図5E及び5Fは、図5A及び5BのTMAシステム10に関するMTFのグラフ図である。このグラフ図では、遠赤外線波長帯の実視野がプロットされている。図5C及び5DのMTFのグラフ図では、10サイクル/mmまでに約80%を超えるコントラストが現れている。また、図5E及び5FのMTFのグラフ図では、10サイクル/mmまでに60%を超えるコントラストが現れている。
【0085】
図5Gは、図5A及び5BのTMAシステム10に関して、水平および垂直FOVの歪曲収差をプロットした図である。本図には、両FOVに対して歪曲収差が適度に補正されており、歪曲収差が電子後処理によって直ちに補正可能な簡素な形状特性を有することが示されている。
【0086】
上述の実施形態には4つの光学設計が含まれる。本発明の範囲内に含まれる、他の開放絞り、他のFOV、他の焦点距離、異なる数の非回転対称ミラー、異なる画素サイズを有する他の画像センサのサイズ、他の少なくとも一つの波長帯を備えるTMAシステム10は、ここに記載する設計原理を利用し、性能基準を満たす設計を得るために従前の光学設計最適化を適用することにより実現可能であることを理解すべきである。このようにして、特定の実施形態例に関連する上述のすべての利点を有する広義のTMAシステム10を実現することができる。
【0087】
当業者には明白であるが、本発明の精神および範囲を逸脱することなく、本発明に対して様々な修正及び変更を加えることができる。したがって、本発明は、添付の特許請求の範囲およびその均等範囲内において本発明の修正および変更を包含する。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つの波長帯において物体空間中の物体の第1像平面に像を形成する反射対物光学システムであって、
3ミラー収差補正構成で配置され、第1、第2、第3反射面をそれぞれ有し、前記第1、第2、第3反射面の順に前記物体からの光を前記像に反射する第1、第2、第3ミラーと、
前記第1ミラーと前記第3ミラーとの間に配置され、少なくとも一つの中間像が形成される少なくとも一つの中間像位置と
を備え、
前記第1、第2、第3反射面の少なくとも一つは、非回転対称である
反射対物光学システム。
【請求項2】
前記ミラーの少なくとも一つは、電気鋳造ミラーであり、
前記少なくとも一つの非回転対称反射面は、前記少なくとも一つの電気鋳造ミラー上に形成されている
請求項1に記載の反射対物光学システム。
【請求項3】
前記第1像平面と前記第3ミラーとの間に開口絞りをさらに備える
請求項1または2に記載の反射対物光学システム。
【請求項4】
軸方向フィールド光線の主光線は、前記第1像平面に実質的に垂直である
請求項1から3のいずれかに記載の反射対物光学システム。
【請求項5】
前記3つの反射面は、すべて非回転対称である
請求項1から4のいずれかに記載の反射対物光学システム。
【請求項6】
前記開口絞りの位置に配置されるコールド絞りをさらに備える
請求項3に記載の反射対物光学システム。
【請求項7】
前記少なくとも一つの反射面は、トロイダル形状である
請求項1から6のいずれかに記載の反射対物光学システム。
【請求項8】
前記少なくとも一つの波長帯には、
450nmから650nmの範囲の可視光線波長帯、
700nmから1200nmの範囲の近赤外線波長帯、
3ミクロンから5ミクロンの範囲の中赤外線波長帯、
8ミクロンから12ミクロンの範囲の遠赤外線波長帯、
20nmから400nmの範囲の紫外線波長帯、
13.5nmの波長を含む極端紫外光波長帯、および
13.5nm未満の波長を有するX線波長帯
の一つが含まれる
請求項1から7のいずれかに記載の反射対物光学システム。
【請求項9】
前記少なくとも一つの波長帯には、可視光線波長帯、近赤外線波長帯、中赤外線波長帯、遠赤外線波長帯から選択される2つ以上の波長帯が含まれる
請求項1から7のいずれかに記載の反射対物光学システム。
【請求項10】
前記少なくとも一つの中間像の位置に実質的に配置される視野絞りをさらに備える
請求項1から9のいずれかに記載の反射対物光学システム。
【請求項11】
前記第1像平面と前記開口絞りとの間、または、前記開口絞りと前記第3ミラーとの間に配置され、第2像平面を形成するビームスプリッタと、
前記第1像平面および第2像平面にそれぞれ配置される第1画像センサおよび第2画像センサと
をさらに備える
請求項3に記載の反射対物光学システム。
【請求項12】
前記第1像平面に配置される第1画像センサと、
前記第1画像センサに電気的に接続される処理用電子機器と
をさらに備える
請求項1から10のいずれかに記載の反射対物光学システム。
【請求項13】
前記第1像平面と前記第3ミラーとの間に配置され、第2像平面を形成するように構成されるビームスプリッタと、
前記第2像平面に配置されると共に前記処理用電子機器に電気的に接続される第2画像センサと
をさらに備える
請求項12に記載の反射対物光学システム。
【請求項14】
第1、第2、第3反射面をそれぞれ有し、3ミラー収差補正構成で配置される第1、第2、第3ミラーを備え、
前記第1、第2、第3ミラーの少なくとも二つは、トロイダル面を有する
反射対物光学システム。
【請求項15】
前記少なくとも二つのトロイダル面は、電気鋳造シェルのそれぞれによって支持される
請求項14に記載の反射対物光学システム。
【請求項16】
前記反射対物光学システムに、異なる波長帯に対応する第1像平面と第2像平面とが含まれるように配置されるビームスプリッタをさらに備える
請求項15に記載の反射対物光学システム。
【請求項17】
前記第1像平面に配置される第1画像センサと、
前記第2像平面に配置される第2画像センサと、
前記第1画像センサ及び前記第2画像センサに電気的に接続される処理用電子機器と
をさらに備える
請求項16に記載の反射対物光学システム。
【請求項18】
実質的に中間像の位置に配置される視野絞りと、
前記第3ミラーの下流の開口絞りの位置に配置されるコールド絞りと
の少なくとも一つをさらに備える
請求項14から17のいずれかに記載の反射対物光学システム。
【請求項19】
可視光線波長帯および少なくとも一つの赤外線波長帯、ならびに
少なくとも二つの異なる赤外線波長帯
の少なくとも一つを結像するように構成される
請求項14から18のいずれかに記載の反射対物光学システム。
【請求項20】
前記3つのミラーは、すべて電気鋳造ミラーである
請求項14から19のいずれかに記載の反射対物光学システム。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図1E】
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【図1F】
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【図1G】
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【図1H】
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【図1I】
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【図1J】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図2E】
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【図2F】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図3E】
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【図3F】
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【図3G】
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【図3H】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図4E】
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【図4F】
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【図4G】
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【図4H】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図5E】
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【図5F】
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【図5G】
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【公開番号】特開2012−42949(P2012−42949A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−170569(P2011−170569)
【出願日】平成23年8月3日(2011.8.3)
【出願人】(509105237)メディア ラリオ ソシエタ ア レスポンサビリタ リミタータ (18)
【氏名又は名称原語表記】MEDIA LARIO S.R.L.
【住所又は居所原語表記】Localita Pascolo,I−23842 Bosisio Parini,Lecco,Repubblica Italiana
【Fターム(参考)】