説明

少なくとも1種の担体と、少なくとも1種の第VIII族元素と、少なくとも1種の第VIB族元素とを含む触媒の存在下に硫黄およびオレフィンを含有するガソリン留分を水素化脱硫する方法

【課題】ガソリンの水素化脱硫方法において用いられ得、ガソリンの大きな損失がなく、オクタン価の低減を最少にする触媒を提供する。
【解決手段】本発明は、担体と、ニッケルおよびコバルトから選択される第VIII族元素と、モリブデンおよびタングステンから選択される第VIB族元素と、リンとを含む、ガソリン留分の水素化脱硫触媒であって、担体の単位表面積当たりの第VIB族元素の密度は第VIB族元素の酸化物2×10−4〜18×10−4グラム/mであり、第VIB族元素に対するリンのモル比は0.35〜1.40であり、第VIB族元素の量は第VIB族元素の酸化物の重量で1〜20%であり、触媒中の第VIII族元素の量は第VIII族元素酸化物の重量で0.1〜20%であり、リン含有量はPの重量で0.1〜10%であり、担体の比表面積は135m/g未満である、ものに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1種の担体と、少なくとも1種の第VIII族元素と、少なくとも1種の第VIB族元素と、リンとを含み、担体の単位表面積当たりの第VIB族元素の密度が、担体の面積(m)当たり第VIB族元素の酸化物2×10−4〜18×10−4グラム(上限および下限値を含む)であり、第VIB族元素に対するリンのモル比が0.25以上であり、第VIB族元素の量が第VIB族元素の酸化物の重量で1〜20%(上限および下限値を含む)である触媒に関する。本発明はまた、炭化水素仕込み原料、好ましくは接触分解ガソリンタイプを水素化脱硫する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガソリン留分、より特定的には、FCCからのガソリンは、約20〜40%のオレフィン化合物、30〜60%の芳香族および20〜50%の飽和パラフィンまたはナフテンタイプの化合物を含有する。オレフィン化合物のうちで、分枝オレフィンは、線状および環状オレフィンと比べて多数を占めている。このようなガソリンはまた、ガム状物を形成することにより触媒を不活性化させ得るジオレフィンタイプの高度に不飽和の化合物の痕跡量を含有する。それ故に、特許文献1には、選択的に、すなわち、オレフィンを変換させることなくジオレフィンを水素化し、その後に、硫黄を除去するように水素化処理を行うことが提案されている。前記ガソリン中の硫黄含有化合物の量は、ガソリンのタイプ(水蒸気分解、接触分解、コーキング等)、または、接触分解の場合には方法の苛酷さ(severity)に応じて大きく変動可能である。それは、仕込み原料の質量に対してS 200〜5000ppm、好ましくは500〜2000ppmの間で変動し得る。チオフェンおよびベンゾチオフェン化合物の族が多数を占め、チオールは、非常に低い量、一般的には10〜100ppmでしか存在しない。FCCガソリンはまた、一般的には100ppmを超えない比率で窒素含有化合物を含有する。
【0003】
新環境規制を満足する改質ガソリンの製造には、オクタン価を高く維持するために可及的にわずかにそれらのオレフィン濃度が低減させられることを必要とするが、それらの硫黄含有量は大幅に低減させられなければならない。現行および将来の環境規制は、ガソリン中の硫黄含有量を、2005年には多くとも50ppmの値に、2010年の後には10ppmの値に低減させることを精製業者に強要する。このような規制は硫黄の総量に関係するが、チオール等の硫黄含有化合物の性質にも関係する。接触分解ガソリン(ガスプールの30〜50%を示し得る)のオレフィンおよび硫黄含有量は多い。改質ガソリン中に存在する硫黄は、ほぼ完全に、FCCガソリンに起因する。ガソリン、主としてFCCガソリンの脱硫(水素化脱硫)は、それ故に、規制を満足させる場合に明らかに重要である。接触分解ガソリンの水素化処理(または水素化脱硫)は、当業者に知られる従来の条件下に行われる場合、留分の硫黄含有量を低減させることができる。しかしながら、当該方法は、水素化処理の間の全オレフィンの飽和のために留分のオクタン価における非常に大きな降下を引き起こすという大きな不利益点を有する。それ故に、オクタン価を高く維持しながらFCCガソリンが脱硫されることを可能にする方法が提案された。
【0004】
特許文献2には、ガソリンを分画する工程と、軽質フラクションをスイートニングする工程と、従来の触媒を用いて重質フラクションを水素化処理する工程と、その後の、ZSM−5ゼオライトを用いてそれを処理して、初期のオクタン価をほぼ取り戻す工程とからなる方法が提案されている。
【0005】
特許文献3には、高温、低圧および高水素/仕込み原料比の条件下でのFCCガソリンの処理が特許請求されている。このような特定の条件下で、再結合反応により、チオールが形成され、脱硫反応により形成されたHSが用いられる結果となり、オレフィンは最少にされる。
【0006】
最後に、特許文献4には、多段法:第1の触媒による水素化脱硫、液体および気体フラクションの分離および第2の触媒による第2の水素化処理によって非常に低い残留硫黄含有量を達成し得る概要が提案されている。液体/気体の分離は、第1の反応器において形成されたHSを除去し得、その結果、水素化脱硫とオクタン価喪失との間でより良好な譲歩が得られる。
【0007】
所望の反応選択性(水素化脱硫とオレフィンの水素化との間の比)を得ることは、それ故に、方法の選択に一部起因し得るが、全ての場合において、本質的に選択的な触媒系の使用が通常キーファクターである。
【0008】
一般に、このタイプの適用のために用いられる触媒は、第VIB族元素(Cr、Mo、W)および第VIII族元素(Fe、Ru、Os、Co、Rh、Ir、Pd、Ni、Pt)を含有するスルフィドタイプの触媒である。それ故に、特許文献5において、0.5×10−4〜3×10−4のg/mのMoOの表面濃度を有し、高い水素化脱硫選択性(93%水素化脱硫(HDS)に対して33%のオレフィンの水素化(HDO))を達成し得る触媒が特許請求されている。さらに、特許文献6および7では、オレフィンの水素化を制限するためにドーパント(アルカリ、アルカリ土類)を従来のスルフィド相(CoMoS)に加えることが有利であり得る。
【0009】
触媒の本質的選択性を改善し得るさらなる経路は、触媒表面上に沈着物を含有する炭素の存在から利点を引き出すことである。特許文献8には、ガソリン水素化処理に用いる前に、部分的に不活性化するように従来のナフサ水素化処理触媒を予備処理することが提案されている。同様に、特許文献9には、3〜10重量%のコークを担持される触媒の予備処理により、触媒性能が改善されることが示されている。この場合、C/H比が0.7超であってはならないことが述べられている。
【0010】
選択性を向上させるために、担体の面積(m)当たりの第VIB族酸化物の密度を最適にすることも可能である。それ故に、特許文献10には、担体面積(m)当たり第VIB族元素酸化物4×10−4〜36×10−4グラムの表面密度が推奨されている。
【0011】
さらに、触媒の本質的な選択性を向上させ得る別の経路は、担体にリンを加えることである。特許文献11には、触媒重量に対してPを1〜23重量%の比率でリンを加えることが提案されており、特許文献12には、0.1〜10%の比率で加えることが提案されている。特許文献13および14に説明されるように、リンはまた、炭化水素仕込原料の水素化脱硫活性のためのドーパントとして用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】欧州特許第10685552号明細書
【特許文献2】米国特許第5318690号明細書
【特許文献3】国際公開第01/40409号パンフレット
【特許文献4】米国特許第5968346号明細書
【特許文献5】米国特許第5985136号明細書
【特許文献6】米国特許第4140626号明細書
【特許文献7】米国特許第4774220号明細書
【特許文献8】米国特許第4149965号明細書
【特許文献9】欧州特許第0745660号明細書
【特許文献10】米国特許出願公開第2004/0007504号明細書
【特許文献11】米国特許出願公開第2005/0261124号明細書
【特許文献12】米国特許第6746598号明細書
【特許文献13】米国特許第4880525号明細書
【特許文献14】米国特許第5246569号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、ガソリンの水素化脱硫方法において用いられ得、炭化水素留分、好ましくは、FCCガソリン留分中の総硫黄およびチオール含有量を低減させ得るが、ガソリンの大きな損失がなく、オクタン価の低減を最少にもする触媒を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明の触媒は、少なくとも1種の担体と、ニッケルおよびコバルトから選択される少なくとも1種の第VIII族元素と、モリブデンおよびタングステンから選択される少なくとも1種の第VIB族元素と、リンとを含む、ガソリン留分の水素化脱硫触媒であって、担体の単位表面積当たりの第VIB族元素の密度は、担体面積(m)当たり第VIB族元素の酸化物2×10−4〜18×10−4グラム(上限および下限値を含む)であり、第VIB族元素に対するリンのモル比は0.35〜1.40であり、第VIB族元素の量は、第VIB族元素の酸化物の重量で1〜20%(上限および下限値を含む)であり、触媒中の第VIII族元素の量は、第VIII族元素酸化物の重量で0.1〜20%(上限および下限値を含む)であり、リン含有量は、Pの重量で0.1〜10%(上限および下限値を含む)であり、担体の比表面積は、135m/g未満である、ものである。
担体は、アルミナ、シリカ、シリカ−アルミナによって構成される群から、または単独で若しくはアルミナまたはシリカ−アルミナとの混合物として用いられるマグネシウムまたはチタンの酸化物から選択される多孔質固体であることが好ましい。
触媒担体は、少なくとも51重量%の遷移アルミナを含むことが好ましい。
第VIB族元素はモリブデンであり、第VIII族元素はコバルトであり、担体の単位表面積当たりのモリブデンの密度は、担体の面積(m)当たりモリブデン酸化物3×10−4〜14×10−4グラム(上限および下限値を含む)であり、モリブデンに対するリンのモル比は0.35〜1.40(上限および下限値を含む)であり、モリブデン含有量は、モリブデンの酸化物の重量で1〜20%(上限および下限値を含む)であり、コバルト含有量は、コバルト酸化物の重量で0.3〜5%(上限および下限値を含む)であり、リン含有量は、Pの重量で0.2〜5%(上限および下限値を含む)であり、触媒担体は、少なくとも90重量%の遷移アルミナを含み、担体の比表面積は135m/g未満であることが好ましい。
また、本発明は、上記のいずれか1つに記載の触媒の存在下にガソリン留分を水素化脱硫する方法である。
水素化脱硫されるべき仕込み原料は、コーキング装置、ビスブレーキング装置、水蒸気分解装置または接触分解装置に由来する硫黄を含有するガソリン留分であることが好ましい。
水素化脱硫のための仕込み原料は、接触分解装置に由来するガソリン留分であって、その沸点が5個の炭素原子を含有する炭化水素の沸点〜250℃であるものであることが好ましい。
水素化脱硫の操作条件は、200〜400℃の温度、1〜3MPaの全圧、100〜600リットル/リットルの炭化水素仕込み原料の容積当たりの水素の容積比であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の触媒は、少なくとも1種の担体と、ニッケルおよびコバルトから選択される少なくとも1種の第VIII族元素と、モリブデンおよびタングステンから選択される少なくとも1種の第VIB族元素と、リンとを含む、ガソリン留分の水素化脱硫触媒であって、担体の単位表面積当たりの第VIB族元素の密度は、担体面積(m)当たり第VIB族元素の酸化物2×10−4〜18×10−4グラム(上限および下限値を含む)であり、第VIB族元素に対するリンのモル比は0.35〜1.40であり、第VIB族元素の量は、第VIB族元素の酸化物の重量で1〜20%(上限および下限値を含む)であり、触媒中の第VIII族元素の量は、第VIII族元素酸化物の重量で0.1〜20%(上限および下限値を含む)であり、リン含有量は、Pの重量で0.1〜10%(上限および下限値を含む)であり、担体の比表面積は、135m/g未満である、ものであるので、ガソリンの水素化脱硫方法において用いられ得、炭化水素留分、好ましくは、FCCガソリン留分中の総硫黄およびチオール含有量を低減させ得るが、ガソリンの大きな損失がなく、オクタン価の低減を最少にもする触媒を提供することができる。
【0016】
本発明はまた、この触媒の存在下に硫黄およびオレフィンを含有するガソリン留分を水素化脱硫する方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、少なくとも1種の担体と、少なくとも1種の第VIII族元素と、少なくとも1種の第VIB族元素と、リンとを含む触媒であって、担体の単位表面積当たりの第VIB族元素の密度が担体面積(m)当たり第VIB族元素酸化物2×10−4〜18×10−4グラム(上限および下限値を含む)であり、第VIB族元素に対するリンのモル比が0.25以上であり、第VIB族元素の量が第VIB族元素酸化物の重量で1〜20%(上限および下限値を含む)であるものに関する。本発明はまた、炭化水素仕込み原料、好ましくは流動接触分解ガソリンタイプの水素化脱硫方法に関する。
【0018】
本発明は、所与の活性および所与の選択性を有する、水素化処理方法における使用のための触媒を得ることを目的とする。活性および選択性の値は、実施例(下記表を参照)における触媒1を基準として利用することによって規格化される。
【0019】
下記方法は、触媒の活性および選択性を評価するために用いられる。硫黄含有化合物およびオレフィンを含有する流動接触分解(fluid catalytic cracking:FCC)ガソリンを代表するモデル仕込み原料が、最初に気相において現場外硫化された種々の触媒を評価するために用いられる。反応は、閉グリニアタイプ反応器において行われる。サンプルは、種々の時間間隔で取り出され、試薬の消失を観察するためにガスクロマトグラフィーによって分析される。
【0020】
活性は、水素化脱硫反応(HDS)の速度定数kHDSとして表される。この速度定数は、酸化物形態の触媒の容積に対して規格化され、硫黄含有化合物に対して一次反応であると仮定する。選択性は、反応定数の規格化された比kHDS/kHDOとして表される。kHDOは、オレフィンの水素化反応(HDO)についての速度定数である。この速度定数は、酸化物の形態の触媒の容積に対して規格化され、オレフィンに対して一次反応であると仮定する。
【0021】
活性および選択性の値の全ては、下記に挙げられる特徴を有する触媒1を基準として利用し、かつ、kHDS/kHDO=100およびkHDS=100とみなすことによって規格化される。
【0022】
【表1A】

【0023】
本発明の触媒の選択性(規格化された値としてのkHDS/kHDO)は、110以上、好ましくは119以上、より好ましくは122以上、一層より好ましくは127以上である。
【0024】
本発明の触媒の活性(kHDS(規格化された値))は71以上、好ましくは73以上、より好ましくは74以上、一層より好ましくは82以上である。
【0025】
本発明の触媒は、少なくとも1種の担体と、少なくとも1種の第VIII族元素と、少なくとも1種の第VIB族元素と、リンとを含む触媒であって、担体の単位表面積当たりの第VIB族元素の密度が、担体面積(m)当たり第VIB族元素酸化物2×10−4〜18×10−4グラム(上限および下限値を含む)、好ましくは担体面積(m)当たり第VIB族からの元素の酸化物3×10−4〜16×10−4グラム(上限および下限値を含む)、より好ましくは担体面積(m)当たり第VIB族元素酸化物3×10−4〜14×10−4グラム(上限値および下限値を含む)、より好ましくは担体面積(m)当たり第VIB族からの元素の酸化物4×10−4〜13×10−4グラム(上限および下限値を含む)である、ものである。
【0026】
第VIB族元素の量は、好ましくは第VIB族元素酸化物の重量で1〜20%(上限および下限値を含む)、より好ましくは第VIB族元素酸化物の重量で1.5〜18%(上限および下限値を含む)、より好ましくは第VIB族元素酸化物の重量で2〜15%(上限および下限値を含む)、一層より好ましくは第VIB族元素酸化物の重量で2.5〜12%(上限および下限値を含む)である。好ましくは、第VIB族元素はモリブデンまたはタングステンまたはこれら2種の元素の混合物、より好ましくは、第VIB族元素は、モリブデンまたはタングステンだけによって構成される。非常に好ましくは、第VIB族元素はモリブデンである。
【0027】
本発明の触媒中の第VIII族元素の量は、好ましくは第VIII族元素酸化物の重量で0.1〜20%(上限および下限値を含む)、好ましくは第VIII族元素酸化物の重量で0.2〜10%(上限および下限値を含む)、より好ましくは第VIII族元素酸化物の重量で0.3〜5%(上限および下限値を含む)である。好ましくは、第VIII族元素はコバルトまたはニッケルまたはこれら2種の元素の混合物であり、より好ましくは、第VIII族元素は、一意的にコバルトおよび/またはニッケルによって構成される。非常に好ましくは、第VIII族元素はコバルトである。
【0028】
第VIB族元素に対する第VIII族元素のモル比は、0.1〜0.8(上限および下限値を含む)、好ましくは0.2〜0.6(上限および下限値を含む)、より好ましくは0.3〜0.5(上限および下限値を含む)であってよい。
【0029】
リン含有量は、好ましくはPの重量で0.1〜10%(上限および下限値を含む)、より好ましくはPの重量で0.2〜5%(上限および下限値を含む)、一層より好ましくはPの重量で0.3〜4%(上限および下限値を含む)、さらにより好ましくはPの重量で0.35〜3%(上限および下限値を含む)である。
【0030】
第VIB族元素に対するリンのモル比は、0.25以上、好ましくは0.27以上、より好ましくは0.27〜2.00(上限および下限値を含む)、より好ましくは0.35〜1.40(上限および下限値を含む)、一層より好ましくは0.45〜1.10(上限および下限値を含む)、さらに一層より好ましくは0.45〜1.00(上限および下限値を含む)、さらには0.50〜0.95(上限および下限値を含む)である。
【0031】
触媒担体は、アルミナ、シリカ、シリカ−アルミナおよびチタンまたはマグネシウムの酸化物によって構成される群から選択される多孔質固体であってよく、これらは、単独でまたはアルミナまたはシリカ−アルミナとの混合物として用いられる。好ましくは、触媒担体は、シリカ、遷移アルミナおよびシリカ−アルミナの族によって構成された群から選択され、非常に好ましくは、担体は、少なくとも1種の遷移アルミナによって本質的に構成され、すなわち、それは、少なくとも51%、好ましくは少なくとも60重量%、より好ましくは少なくとも80重量%、さらには少なくとも90重量%の遷移アルミナを含む。それは、場合によっては、遷移アルミナだけによって構成されてもよい。
【0032】
本発明の担体の比表面積は、場合によっては200m/g未満であってもよいが、より好ましくは170m/g未満、一層より好ましくは150m/g未満、さらにより好ましくは135m/g未満、さらには100m/g未満、さらには85m/g未満である。担体は、当業者に知られたあらゆる前駆体、あらゆる調製方法およびあらゆる成形ツールを用いて調製され得る。
【0033】
本発明の触媒は、当業者に知られるあらゆる技術を用いて、特には、第VIII族および第VIB族からの元素を選択された担体上に含浸することによって調製され得る。前記含浸は、例えば、乾式含浸(所望量の元素が選択された溶媒に溶解可能な塩の形態、例えば、脱塩水で正確に導入され、可及的に正確に担体の細孔が満たされる)のような当業者に知られる態様を用いて行われ得る。溶液により満たされた担体は、その後、好ましくは乾燥させられる。
【0034】
リンは、担体上への乾式含浸の間に金属塩と同時に加えられ得る。
【0035】
第VIII族および第VIB族元素を導入し、場合によっては、触媒を成形した後、それは、活性化処理を経る。この処理は、一般的には、元素の分子状の前駆体を酸化物相に変換させる目的とする。この場合、それは酸化処理であるが、直接的な還元が行われてもよい。焼成とも称される酸化処理の場合、これは、一般的には、空気または希釈酸素中で行われ、処理温度は、一般的には200〜550℃、好ましくは300〜500℃である。還元処理の場合、これは、一般的には高純度水素または好ましくは希釈水素中で行われ、処理温度は、一般的には200〜600℃、好ましくは300〜500℃である。
【0036】
本発明の方法において用いられ得る第VIB族および第VIII族金属の塩の例は、硝酸コバルト、硝酸ニッケル、七モリブデン酸アンモニウムまたはメタタングステン酸アンモニウムである。十分な溶解性を有し、活性化処理の間に分解可能である当業者に知られる任意の他の塩も用いられ得る。
【0037】
リンは、リン酸の形態で加えられ得る。
【0038】
触媒は、通常、分解されてHSを発生し得る有機硫黄含有化合物と接触させるか、またはH中に希釈されたHSガス流束と直接的に接触させる熱処理後に得られる硫化された形態で用いられる。この工程は、水素化脱硫反応器に対して現場または現場外(反応器の内側または外側)、200〜600℃、より好ましくは300〜500℃の温度で行われ得る。
【0039】
本発明の触媒は、炭化水素留分、例えば、流動接触分解ガソリンを脱硫し得る、当業者に知られるあらゆる方法において用いられ得る。それは、固定または移動または沸騰床の態様において操作されるあらゆるタイプの反応器において行われ得る。しかしながら、それは、好ましくは、固定床の態様において操作される反応器において用いられる。
【0040】
本発明による方法を用いて水素化処理(または水素化脱硫)されるべき仕込み原料は、一般的には、硫黄を含有するガソリン留分、例えば、コーキング装置、ビスブレーキング装置、水蒸気分解装置または流動接触分解装置からの留分である。好ましくは、前記仕込み原料は、流動接触分解装置からのガソリン留分であって、典型的には、5個の炭素原子を含有する炭化水素の沸点〜約250℃の沸点範囲を有するものによって構成される。このガソリンは、場合によっては、常圧蒸留(直留蒸留からのガソリン)または転化法(コーキングまたは水蒸気分解)等の他の製造方法からのガソリンの大部分からなってよい。
【0041】
目安として、流動接触分解ガソリンの選択的水素化脱硫のための操作条件は、約200〜400℃、好ましくは250〜350℃の温度、1〜3MPa、より好ましくは1〜約2.5MPaの全圧、100〜600リットル/リットル、より好ましくは200〜400リットル/リットルの炭化水素仕込み原料の容積に対する水素容積の比である。最後に、毎時空間速度(hourly space velocity:HSV)は、時間で表される接触時間の逆数である。それは、反応器に装填された触媒の容積に対する液体炭化水素仕込み原料の容積流量の比によって定義される。それは、一般的には1〜10h−1、好ましくは2〜8h−1である。
【0042】
(実施例)
(触媒の調製)
触媒の全ては、酸化モリブデン、水酸化コバルトおよびリン酸から調製された水溶液(金属前駆体およびリン酸を含有する溶液の容積は、担体質量の細孔容積におおよそ等しい)を乾式含浸させることからなる同一の方法を用いて調製された。用いられた担体は、(比表面積、細孔容積)パラメータ対が(135m/g、1.12cm/g)または(81m/g、1.08cm/g)である遷移アルミナであった。水溶液中の前駆体の濃度は、所望重量を担体上に担持させるように調整された。次いで、触媒は、12時間にわたり120℃で乾燥させられ、空気中500℃で2時間にわたり焼成された。
【0043】
(触媒性能の評価)
実施例の第1の系統において、10重量%の2,3−ジメチルブタ−2−エンおよび0.33重量%の3−メチルチオフェン(すなわち、仕込み原料に対して硫黄1000重量ppm)を含有する流動接触分解(FCC)ガソリンを代表するモデル仕込み原料が、種々の触媒を評価するために用いられた。用いられた溶媒はヘプタンであった。触媒は、最初に、気相中500℃で2時間にわたりH中HS(15%)の流れの中現場外で硫化された。
【0044】
反応は、閉グリニアタイプの反応器において、3.5MPaの水素圧、250℃で行われた。サンプルは、種々の時間間隔で取り出され、試薬の消失を観察するためにガスクロマトグラフィーによって分析された。
【0045】
活性は水素化脱硫反応(HDS)の速度定数kHDSとして表された。この速度定数は、酸化物形態の触媒の容積に対して規格化され、反応が硫黄含有化合物に対して一次であると仮定した。選択性は、速度定数の規格化された比kHDS/kHDOとして表された。kHDOは、オレフィン水素化反応(HDO)についての速度定数であり、酸化物形態の触媒の容積に対して規格化され、反応がオレフィンに対して一次であると仮定した。
【0046】
値は、触媒1を基準として利用し、かつ、kHDS/kHDO=100およびkHDS=100とみなすことによって規格化された。
【0047】
実施例の第2の系統では、表1に示される特徴を有する流動接触分解ガソリン(FCC)が、種々の触媒により処理された。反応は、移動床タイプの反応器において下記条件下に温度を変動させることによって行われた。
【0048】
・P=1.5MPa、H/仕込み原料=400リットル/リットル(炭化水素仕込み原料)、HSV=4h−1
温度は、水素化脱硫同転化(iso-conversion)、すなわち、触媒の全部について約94%の水素化脱硫転化)において得られた選択性(kHDS/kHDO比)を比較するために変動させられた(265℃から275℃へ)。
【0049】
触媒は、最初に、酸化物相の硫化を確実に行うように2重量%の硫黄(DMDS(ジメチルジスルフィド)形態)を含有する仕込み原料により350℃で処理された。全ての場合において、残留有機硫黄含有化合物の分析は、分解に由来するHSを除去した後に行われた。流出物は、炭化水素の濃度を測定するためにガスクロマトグラフィーによっておよび総硫黄を測定するためにフランス標準NF M 07075に記載された方法によって分析された。
【0050】
結果は、速度定数kHDS/kHDOの比として表され、水素化脱硫反応(HDS)について硫黄含有化合物に対する一次反応およびにオレフィンの水素化反応(HDO)ついてオレフィンに対する一次反応を仮定した。
【0051】
値は、触媒1を基準として利用し、かつ、kHDS/kHDO=100およびkHDS=100とみなして規格化された。
【0052】
【表1B】

【0053】
(実施例1:本発明に合致するかまたは合致しない)
本発明の触媒は、上記の手順を用いて調製され、それらの特徴(密度(担体の面積(m)当たりのモリブデン酸化物の重量(グラム))、焼成触媒中のコバルト、モリブデンの酸化物およびリンの量、P/Moモル比、担体のBET表面積)は表2に示されている。閉反応器モデル仕込み原料について得られた選択性kHDS/kHDOおよび水素化脱硫活性kHDSもこの表に示される。
【0054】
触媒2〜5は本発明に合致しており触媒1および6は本発明に合致しておらず、71以上の活性(kHDS,規格化された値)およびの110以上の選択性(kHDS/kHDO、規格化された値)を有していた。
【0055】
【表2】

【0056】
(実施例2:比較)
この実施例では、モル比P/Moが本発明に合致していなかった。
【0057】
表3には、触媒の特徴並びに得られた選択性および活性が要約されている。
【0058】
【表3】

【0059】
(実施例3:比較)
触媒9は、モリブデンの密度が高すぎたために本発明に合致していなかった。表4には、その特徴並びにその活性および選択性が提供されている。
【0060】
【表4】

【0061】
(実施例4:実際の仕込み原料を用いた試験)
表5に示された触媒が、実際の仕込み原料について移動床において試験された。表5に示される温度は、94%近くの水素化脱硫転化を得るように調整された。
【0062】
触媒1および8(リンをほとんど含んでいないまたは全く含んでいない)は、本発明に合致していなかった。それらの選択性は低く、その一方で、触媒10(本発明に合致していた)の選択性は最良であった。
【0063】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の担体と、ニッケルおよびコバルトから選択される少なくとも1種の第VIII族元素と、モリブデンおよびタングステンから選択される少なくとも1種の第VIB族元素と、リンとを含む、ガソリン留分の水素化脱硫触媒であって、
担体の単位表面積当たりの第VIB族元素の密度は、担体面積(m)当たり第VIB族元素の酸化物2×10−4〜18×10−4グラム(上限および下限値を含む)であり、第VIB族元素に対するリンのモル比は0.35〜1.40であり、第VIB族元素の量は、第VIB族元素の酸化物の重量で1〜20%(上限および下限値を含む)であり、触媒中の第VIII族元素の量は、第VIII族元素酸化物の重量で0.1〜20%(上限および下限値を含む)であり、リン含有量は、Pの重量で0.1〜10%(上限および下限値を含む)であり、担体の比表面積は、135m/g未満である、触媒。
【請求項2】
担体は、アルミナ、シリカ、シリカ−アルミナによって構成される群から、または単独で若しくはアルミナまたはシリカ−アルミナとの混合物として用いられるマグネシウムまたはチタンの酸化物から選択される多孔質固体である、請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
触媒担体は、少なくとも51重量%の遷移アルミナを含む、請求項1または2に記載の触媒。
【請求項4】
第VIB族元素はモリブデンであり、第VIII族元素はコバルトであり、担体の単位表面積当たりのモリブデンの密度は、担体の面積(m)当たりモリブデン酸化物3×10−4〜14×10−4グラム(上限および下限値を含む)であり、モリブデンに対するリンのモル比は0.35〜1.40(上限および下限値を含む)であり、モリブデン含有量は、モリブデンの酸化物の重量で1〜20%(上限および下限値を含む)であり、コバルト含有量は、コバルト酸化物の重量で0.3〜5%(上限および下限値を含む)であり、リン含有量は、Pの重量で0.2〜5%(上限および下限値を含む)であり、触媒担体は、少なくとも90重量%の遷移アルミナを含み、担体の比表面積は135m/g未満である、請求項1〜3のいずれか1つに記載の触媒。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つに記載の触媒の存在下にガソリン留分を水素化脱硫する方法。
【請求項6】
水素化脱硫されるべき仕込み原料は、コーキング装置、ビスブレーキング装置、水蒸気分解装置または接触分解装置に由来する硫黄を含有するガソリン留分である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
水素化脱硫のための仕込み原料は、接触分解装置に由来するガソリン留分であって、その沸点が5個の炭素原子を含有する炭化水素の沸点〜250℃であるものである、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
水素化脱硫の操作条件は、200〜400℃の温度、1〜3MPaの全圧、100〜600リットル/リットルの炭化水素仕込み原料の容積当たりの水素の容積比である、請求項5〜7のいずれか1つに記載の方法。

【公開番号】特開2012−176403(P2012−176403A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−98668(P2012−98668)
【出願日】平成24年4月24日(2012.4.24)
【分割の表示】特願2007−196982(P2007−196982)の分割
【原出願日】平成19年7月30日(2007.7.30)
【出願人】(591007826)イエフペ エネルジ ヌヴェル (261)
【氏名又は名称原語表記】IFP ENERGIES NOUVELLES
【Fターム(参考)】