説明

尿失禁を治療するためのワクチン組成物および方法

本発明は、尿失禁を制御または治療するために、抗LHRHワクチンを含む組成物を使用することに関する。さらに本発明は、哺乳動物、特に外科的に去勢された哺乳動物、例えば卵巣除去されたメスイヌにおける尿失禁を治療または制御する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、尿失禁を制御または治療するための抗LHRHワクチンを含む組成物の使用に関する。さらに本発明は、哺乳動物、特に外科的に去勢されている哺乳動物、例えば卵巣除去されたメスイヌにおける尿失禁を治療または制御する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
尿失禁は、膀胱または尿道括約筋機能不全による尿の不随意損失または排泄である。尿が正常に貯留されている間は、膀胱が充満しても、尿道括約筋はしっかりと閉じていて、漏れを防ぐ。そして、尿が排泄されるべきときには、尿道括約筋が緩んで、尿は尿道を通過することができる。尿失禁は往々にして、締まる能力を低減する尿道括約筋緊張の喪失の結果である。このような場合、膀胱内の圧力が、尿道を締めるために必要な圧力を上回るたびに、尿失禁が制御されずに生じる。この問題は往々にして、哺乳動物がリラックスする場合、例えば深い睡眠の間に、または膀胱の圧力が一時的に増大する場合、例えば哺乳動物が咳またはくしゃみをする場合に顕著である。
【0003】
この状態に詳しい人であれば、尿失禁が成人女性に多いことは分かるであろう。尿失禁に伴う社会的不名誉により、多くの患者が、この問題を健康管理提供者に報告すらしていない。結果として、この医学的問題は、非常に過少診断および過少報告されている。
【0004】
尿失禁はさらに、イヌでもかなり一般的である。通常、メスイヌで、最も多くは卵巣除去されたメスイヌで生じる。オスイヌも、この状態になりやすいが、メスイヌよりも一般的ではない。既に、卵巣除去または去勢されたイヌにおける失禁の発症機序は、卵巣または精巣の除去後の低い手術後エストロゲンまたはテストステロン濃度に関していることが説明されている。メスイヌの場合には、エストロゲンホルモンは、尿道括約筋に緊張を与える要因であると考えられている。卵巣除去後、エストロゲンホルモンは、卵巣除去前よりもかなり低い量で産生される。副腎が少量のエストロゲンホルモンを産生するが、産生されるレベルは、括約筋緊張をもたらすには不十分である。このような場合に、失禁が生じることがあり、何らかの形態の治療が、括約筋緊張を支持するために必要である。同様に、主要なテストステロン源である精巣を除去する去勢後に、オスイヌも尿失禁を発症することがある。
【0005】
尿失禁の治療は従来、尿道閉鎖圧を改善することを目的としている。これに関連して、尿道または膀胱頚の抵抗を高める物質が処方されている。特に、これらの医薬品には、エフェドリンまたはフェニルプロパノールアミン(「PPA」)などのα−アドレナリン作動性物質が含まれる。これらの医薬品での治療は通常、医薬品の長期使用を必要とし、ヒトにおいて重度の心臓の電気生理学的副作用をもたらすことが判明している。これらの有害な副作用には、これらに限られないが、心室細動および心不整脈が含まれうる。このような潜在的に致死性の心臓副作用により、最近、米国食品医薬品局(「FDA」)によってリコールされたPPAを含めて、ヒト用のいくつかの医薬品が市場から撤退している。α−アドレナリン作動性物質も、緑内障および進行性腎症の場合には禁忌である。
【0006】
別の治療として、エストロゲンまたはエストラジオール、例えばジエチルスチルベストロール(またはオスイヌの場合にはテストステロン)代替療法の形態を使用することもでき、これは、尿道のカテコールアミン受容体の応答性を改善する。しかし、エストロゲン療法は、イヌにおいて骨髄抑制をもたらし、死に至ることもあるので、α−アドレナリン作動性物質の使用よりも安全性が低いと広く見なされている。
【0007】
最近では、エストロゲンレベルが低いこと自体よりもむしろ、ゴナドトロピン卵胞刺激ホルモン(「FSH」)および黄体形成ホルモン(「LH」)の血清濃度が高いことが、成人女性および卵巣除去されたメスイヌにおける尿失禁の原因であると仮定されている。Reichler,I.M.ら、The Effect of GnRH Analogs on Urinary Incontinence after Ablation of the Ovaries in Dogs、Theriogenology、60:1207〜1216頁(2003年);米国特許出願公開第2005/0043342号(後記ではまとめて「Reichlerら」と記載)。情報によると、下垂体は、黄体形成ホルモン放出ホルモン(「LHRH」、一般にゴナドトロピン放出ホルモンまたは「GnRH」またはゴナドトロピン放出因子「GnRF」と称される)の産生に応答してその系にLHおよびFSHを放出する。LHRHは、様々な因子に応答して、視床下部から血流へと拍動性に放出され、その制御は通常、複雑であると考えられている。その放出は、視床下部ニューロン活性によりプラスの影響を受け、低レベルのエストロゲンならびにインヒビンAおよびBなどの他の生殖ステロイドおよびホルモンによりマイナスに制御される。放出されたLHRHは血液を介して下垂体に移動する。脳下垂体前葉内の受容体細胞が、LHRHの上昇に応答して、ゴナドトロピン、FSHおよびLHを放出する。次いで、発情周期の経過を通して変動するFSHおよびLHの相対レベルが、卵巣によるエストロゲンの産生を刺激する。卵巣除去されたメスイヌでは、卵巣(即ち主要なエストロゲン源)を除去した後、エストロゲンは非常に低い血清濃度でしか測定することができない。顆粒膜細胞により卵巣で分泌されるインヒビンなどの生殖腺で通常は生じる他のホルモンは選択的に下垂体FSH分泌を阻害する。したがって、フィードバック機構がもはや存在しないので、FSHおよびLHは阻害されずに分泌され、これら2種のゴナドトロピンが高濃度になる。Reichlerらは、尿失禁を患う閉経後女性および卵巣除去されたメスイヌのいずれにおいても、FSHおよびLHのレベルが正常レベルを超えて高いと主張している。したがって、Reichlerらは、尿失禁を制御または治療するための医薬品においてアゴニスト、アンタゴニストまたは抗体などのLHRH類似体を使用することを提案している。
【0008】
しかしながら、この手法に伴う明瞭な欠点が存在する。特に、通常は高用量のLHRHアンタゴニストまたはアゴニストが、所望の抗ゴナドトロピン作用を達成するために必要である。さらに、このような類似体の使用効果は即時的であり、これらは短期間であるので、頻繁な投与が必要である。加えて、いくつかのケースでは、大量のこれらの類似体は、望ましくないか、有害な副作用をもたらすことがある。さらにこれらは、その使用、したがってその利用可能性が、ホルモン依存性腫瘍の治療に通常は限られているため、非常に高価である。同様に、非常に費用がかかることに加えて、LHRH抗体は、比較的短い半減期を有するという欠点を有し、このことにより、短い治療期間および複数回投与の潜在的必要性が生じている。したがって、この手法を用いる場合のLHRH抗体の必要な頻回かつ継続的な投与は、イヌの飼い主にとって費用がかかると同時に、不便である。したがって、LHRH類似体は、このような獣医学的用途に実際には使用されない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
現在利用可能な尿失禁治療のうちのいくつかの報告にもかかわらず、これらの治療に対する完全な応答は、まれにしか観察されないか、重度の副作用を伴うか、長期作用を欠いているか、維持するには費用がかかりすぎるか不便すぎる。新規の治療計画、特に費用的に有利に尿失禁を長期制御および治療することができる一方で、現在の治療の死に至るかもしれない副作用(心不整脈または骨髄抑制など)を低減する治療計画の開発が依然として必要とされている。本発明は、これらの必要性に応える。
【課題を解決するための手段】
【0010】
これまで認識されていなかった尿失禁治療に対する代替および/または付加的手法は、ワクチン組成物の使用により免疫系をターゲットとすることである。活性免疫療法の潜在的な利点は、ゴナドトロピン、FSHおよびLHの非制限の産生および放出の有効かつ長期制御に対する対象自身の免疫応答を高めることにより、改善された効果を提供することである。
【0011】
したがって、本発明は、哺乳動物における尿失禁を治療または制御するための抗LHRHワクチンおよびその使用に関する。特に、本発明は、このような治療を必要とする哺乳動物における尿失禁を治療するための方法を提供し、ここで、この方法は、哺乳動物に治療有効量の抗LHRHワクチンを投与することを含む。本発明の一態様では、尿失禁の治療を必要とする哺乳動物は、メス、好ましくは黄体形成ホルモンまたは卵胞刺激ホルモンの血清濃度が高いメスである。他の態様では、尿失禁の治療を必要とする哺乳動物は、メスイヌである。特に好ましい実施形態では、哺乳動物は、外科的に去勢された哺乳動物、例えば卵巣除去されたメスイヌである。
【0012】
本発明の一態様では、抗LHRHワクチンは、担体とLHRHとの免疫原性結合体を含む。好ましくは、担体は、これらに限られないが、細菌トキソイドを含む広い範囲の既知の担体タンパク質から選択されるタンパク質を含む。最も好ましくは、担体は、ジフテリアトキソイドを含む。他の態様では、担体は、T細胞ヘルパーエピトープを含む合成ペプチドであってもよい。いずれの態様でも、有効形態のLHRHペプチドを、結合を介してか、接触T−ヘルパー−LHRHペプチドの合成の間に、担体に結合させる。本発明の他の態様では、抗LHRHワクチンは、アジュバントをさらに含む。好ましくは、アジュバントは、イオン多糖類、最も好ましくはジエチルアミノエチルデキストラン(「DEAEデキストラン」)を含む。特に好ましい実施形態では、アジュバントは、サポニンおよびコレステロールを含む免疫刺激複合体と組み合わされたDEAEデキストランである。
【0013】
さらに他の態様では、本発明は、哺乳動物における尿失禁を治療または制御するための方法に関し、これは、哺乳動物に、治療有効量の担体とLHRHとの免疫原性結合体を含む組成物を投与することを含む。タンパク質−LHRHペプチド結合体をベースとするワクチンでは、有効量は、約100から約300μgの範囲であり、T−ヘルパー−LHRHペプチドをベースとするワクチンでは、約20から約200μgの範囲である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、黄体形成ホルモン放出ホルモン(「LHRH」またはゴナドトロピン放出ホルモンまたは「GnRH」)に対する免疫応答を誘発するために適した免疫原性組成物およびワクチンに関する。さらに本発明は、尿失禁を制御または治療するために哺乳動物をLHRHに対して免疫する方法において、このような抗LHRHワクチンまたは物理化学的に安定な組成物を使用することに関する。
【0015】
「抗LHRHワクチン」との用語は、受容者においてLHRHに対する免疫応答を誘発することができる何らかのワクチン、組成物または医薬製剤を包含する。さらに特には、本発明の抗LHRHワクチンは、少なくとも1種のLHRH抗原または免疫原を、前記受容者において免疫応答を誘発するために有用な薬学的に許容できる担体中に含む。例にすぎないが、本発明に関連して使用することができる抗LHRHワクチンおよびそれを生産する方法には、これらに限られないが、国際公開第99/02180号パンフレットとして1999年1月21日に公開された国際出願PCT/AU99/01167号明細書、国際公開第99/41720号パンフレットとして2000年7月20日に公開された国際出願PCT/AU98/00532号明細書および米国特許第6685947号明細書に記載されている方法が含まれ、これらは、参照により本明細書に援用される。
【0016】
「LHRH」との用語は、これらに限られないが、LHRH免疫原性を有するペプチド全てを含むLHRHおよびその誘導体の全ての形態に対する言及を含むと理解されるべきである。「誘導体」との用語には、融合タンパク質を含む天然、合成または組換え源からの断片、部分、ポーション、化学的等価物、突然変異体、同族体および類似体が含まれる。LHRHは、当分野でよく知られている天然および合成LHRHを製造、単離および精製するための任意の適切な源および方法から得ることができる。好ましい実施形態では、LHRHは、少なくとも5個のアミノ酸からなるLHRH C末端断片を含む。
【0017】
LHRH自体は、免疫原性であるためには小さすぎるので、本発明に関連して使用されるLHRHは、免疫原性形態にするべきである。それ自体は免疫原性ではない物質の免疫原性形態を製造するための様々な方法が存在することは、当業者にはよく知られている。適切な一方法は、LHRHを免疫原性担体に結合させることである。したがって、本発明の関連では、LHRHを、免疫原性担体に結合させた後に哺乳動物に、LHRHに対するホスト抗体の形成を誘発するための抗原として投与することができる。担体は、有効な抗体応答に必要なTヘルパー細胞を刺激する機能を有する。したがって、担体はT細胞ヘルパーエピトープを形成する長さの少なくとも9個のアミノ酸からなる小さいペプチドを有してもよい。このようなTヘルパーエピトープは、イヌジステンパーウイルス(CDV)に由来してよく、これは特に、たいていのイヌが既にCDVに対して予防接種されているので、イヌに適用するのに適している。このようなワクチンにより誘発された抗体は続いて、体自体のLHRHに対して作用して、長期の抗ゴナドトロピン作用をもたらす。好ましい実施形態では、LHRHを、免疫原性担体に結合させた後にワクチンを介して哺乳動物に投与して、LHRHと反応する抗LHRH抗体を産生する免疫系を刺激し、体内のその濃度を有効に低減する。こうして、尿失禁をもたらすと考えられているFSHおよびLHの高い血清濃度を含む、LHRHの存在によりもたらされる作用が低減または除去される。
【0018】
前記LHRH結合体の調製で使用される免疫原性担体には、LHRHの免疫原性を高めることができる任意の物質が含まれる。本発明の結合体で使用される免疫原性担体は、天然でも合成でもよい。一態様では、免疫原性担体はタンパク質である。当業者によく知られている様々な免疫原性担体タンパク質のうちの任意のものを、本発明の結合体ワクチンで使用することができる。適切な群のタンパク質には、病原細菌の線毛、外膜タンパク質および排出毒素、このような排出毒素の非毒性または「トキソイド」形態、細菌毒素に抗原的に類似の非毒性タンパク質ならびに他のタンパク質が含まれる。本発明での使用が企図される細菌トキソイドの非制限的例には、破傷風毒素/トキソイド、ジフテリア毒素/トキソイド、解毒P.aeruginosa毒素A、コレラ毒素/トキソイド、百日咳毒素/トキソイドおよびウェルシュ菌外毒素/トキソイドが含まれる。これらの細菌毒素のトキソイド形態が好ましい。最も好ましくは、本発明のLHRH結合体で使用される免疫原性担体は、ジフテリアトキソイドである。ジフテリアトキソイドに対する言及は、ジフテリアトキソイドおよびその誘導体の全ての形態を含むと理解されたい。「誘導体」との用語は、前記定義と同様の意味を有する。誘導体には例えば、ジフテリアトキソイドT細胞エピトープを含む分子または単離された形態のT細胞エピトープが含まれうる。
【0019】
本発明の他の態様では、担体は、少なくとも1個のT細胞ヘルパーエピトープを有する合成ペプチドであってよい。エピトープは、個別であってもよいし、結合して一緒に、単一ポリペプチドを形成していてもよい。エピトープが一緒になって単一ポリペプチドに結合している場合、エピトープは、隣接していてもよいし、それ自体はTヘルパー細胞エピトープではない付加的なアミノ酸によりスペースを空けられていてもよいことは理解されるであろう。一実施形態では、T細胞ヘルパーエピトープは、参照により本明細書に援用される米国特許第6685947号明細書に記載されているものから選択されるペプチド配列の範囲内に含まれる。好ましい実施形態では、合成ペプチドワクチンは、少なくとも1個のB細胞エピトープおよび/または少なくとも1個のCTLエピトープをさらに含む。最も好ましい実施形態では、合成ペプチドワクチンは、約3から約10個のT細胞ヘルパーエピトープを、それぞれLHRH4−10型を伴う直線配列で含み、全ペプチド含量は、アジュバント約80μgと組み合わせてペプチド約120μg/用量である。好ましくはアジュバントは、免疫刺激複合体を含む。
【0020】
LHRHを免疫原性担体に結合させる適切な方法は、当業者によく知られている。本発明をいずれか1つの方法に制限することは意図しないが、例えば、Laddら、American J.Reproductive Immunology 22:56〜63(1990年)またはBonneauら、J.Animal Science 72:14〜20(1994年)に記載されている方法で、LHRHを担体に結合させることができる。生じた結合体を処理して、残留している未結合ペプチドまたは結合の他の副生成物を除去することができる。このような処理は、慣用の透析により、または限外濾過により達成することができる。
【0021】
本発明のワクチンは、アジュバントと組み合わせることもでき、アジュバントをさらに含んでもよい。アジュバントは、ワクチンおよび他の免疫原性配合物に含むか、加えて、免疫応答を高め、場合によっては免疫応答を対象とする。当業者であれば、任意のよく知られている標準的なアジュバントを本発明では使用することができることを理解するであろう。本発明のワクチンで使用するために適しているアジュバントには、これらに限られないが、不溶性アルミニウム塩、特に水酸化物およびリン酸塩形態(まとめて「アラム」)、ムラブチド(murabutide)、フロイント不完全アジュバント、フロイント完全アジュバント、ジエチル−アミノエチル(「DEAE」)基などのイオン性多糖類、サポニン、免疫刺激複合体およびこれらの組合せが含まれる。好ましい実施形態では、副作用を全く誘発しないか穏やかな副作用しか誘発しないアジュバントを使用する。本発明に関連して使用することができる他の適切なアジュバントには、これらに限られないが、参照により本明細書に援用される国際公開第99/02180号パンフレットとして1999年1月21日に公開された国際出願PCT/AU99/01167号明細書および国際公開第99/41720号パンフレットとして2000年7月20日に公開された国際出願PCT/AU98/00532号明細書に記載されているものが含まれる。好ましい実施形態では、アジュバントは、DEAEデキストランである。さらに好ましい実施形態では、アジュバントは、サポニンおよびコレステロールを含む免疫刺激複合体と組み合わされているDEAEデキストランである。
【0022】
本発明をいずれか1つの理論または作用機序に制限するものではないが、有効量の本発明の抗LHRHワクチンの投与は、LHRHに対する免疫応答を誘発して、脳下垂体前葉からのホルモンLHおよびFSHの放出を予防する。好ましくは、前記抗LHRHワクチンの量は、ワクチンを投与したメス哺乳動物における循環FSHおよび/またはLHの血清濃度を低下させることにより、卵巣切除に随伴する副作用または生殖老化に随伴する症状、特に尿失禁を改善するために有効である。効果は機能的尺度であり、抗LHRH抗体力価のみを参照して定義されないことは理解されるべきである。それというのも、循環抗体の存在のみでは、尿失禁を制御する前記循環抗体の能力は必ずしも示されないためである。したがって、抗体を誘発するための全ての免疫原性組成物と同様に、本発明のワクチンの免疫学的有効量は、経験的に決定されるべきである。考慮されるべきファクターには、アジュバント、LHRHが結合する免疫原性分子、投与経路および投与される用量数の選択が含まれる。このようなファクターは、ワクチン分野では知られており、当業者であれば、過度の実験を伴わずに、このような決定をすることができるであろう。
【0023】
したがって、本発明の方法により、卵巣切除されたメスイヌなどのメス哺乳動物における卵巣切除の副作用または生殖老化に随伴する症状、特に尿失禁を治療または制御することができる。好ましい実施形態では、本発明は、哺乳動物の尿失禁を治療または制御する方法に関し、前記方法は、前記哺乳動物に有効量の抗LHRHワクチンを投与することを含む。好ましくは、抗LHRHワクチンは、LHRH免疫原性担体結合体の形態である。さらに好ましい実施形態では、結合体は、LHRH−ジフテリアトキソイド結合体を含む。別の実施形態では、抗LHRHワクチンは、T細胞ヘルパーエピトープを含む合成ペプチドの形態である。好ましくは、合成ペプチドワクチンは、約3から約10個のT細胞ヘルパーエピトープを、それぞれLHRH4−10型を伴う直線配列で含み、全ペプチド含量は、免疫刺激複合体約80μgと組み合わせてペプチド約120μg/用量である。本発明のワクチンで治療するために好ましい哺乳動物は、メス、さらに好ましくはFSHもしくはLHまたは両方の血清レベルが高いメスである。最も好ましい実施形態では、哺乳動物はメスイヌ、特に、手術により去勢または卵巣除去されたメスイヌである。他の実施形態では、本発明は、有効量の抗LHRHワクチンを卵巣除去の後にイヌに投与することにより、卵巣除去されたイヌにおける尿失禁の発症を予防する方法を提供する。
【0024】
本発明のワクチンは、これらに限られないが経口投与または注射を含む当業者に知られている任意の適切な方法により投与することができる。注射可能な用途に適した薬剤形態には、無菌水性溶液(水溶性の場合)または分散液ならびに無菌注射可能溶液または分散液を即時調製するための無菌粉末が含まれる。これらは、製造および貯蔵条件下に物理的および化学的の両方において安定でなければならず、細菌および真菌などの微生物の汚染作用に対して保護されていなければならない。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコールおよび液体ポリエチレングリコールなど)、これらの適切な混合物および植物油を含む溶媒または分散媒体であってよい。例えばレシチンなどのコーティング剤を使用することにより、分散液の場合には必要な粒度を維持することにより、および界面活性剤を使用することにより、適切な流動性を維持することができる。微生物の作用の予防は、様々な抗菌剤および抗真菌剤、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどにより実施することができる。多くの場合、等張剤、例えば糖または塩化ナトリウムを含むことが好ましい。注射可能な組成物の長期吸収または遅延放出は、吸収を遅らせる薬剤、例えばモノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを組成物中で使用することにより実施することができる。
【0025】
必要量の活性化合物を、適切な溶媒中に前記様々な他の成分と共に導入し、必要な場合には続いて滅菌濾過することにより、無菌の注射可能な溶液を調製する。通常、様々な滅菌活性成分を、ベースの分散媒体および前記のものからの必要な他の成分を含む無菌媒体に導入することにより、分散液を調製する。無菌の注射可能な溶液を調製するための無菌粉末の場合、好ましい調製方法は、真空乾燥、凍結乾燥技術および噴霧乾燥技術であり、これらは、活性成分と共に、その前の滅菌濾過溶液からの任意の追加の所望の成分の粉末をもたらす。
【0026】
活性成分を適切に保護すると、例えば不活性希釈剤または同化可能な食用担体と共に経口投与することができ、硬質または軟質シェル型ゼラチンカプセルに封入することも、錠剤に圧縮することも、食品と共に直接導入することもできる。経口投与では、活性化合物を、賦形剤と共に導入して、摂取可能な錠剤、バッカル錠、トローチ、カプセル、エリキシル、懸濁剤、シロップ、ウェハなどの形態で使用することもできる。このような組成物および製剤は、活性化合物を少なくとも1重量%含有すべきである。組成物および製剤のパーセンテージはもちろん、変動させることができ、簡便には、単位の重量に対して約5から約80%である。このような有用な組成物中での活性化合物の量は、適切な用量が得られる量である。本発明による好ましい組成物または製剤は、経口投与単位形態が活性化合物を約0.1μgから2000μg含有するように調製する。
【0027】
錠剤、トローチ、ピル、カプセルなどは、後記の成分をさらに含むこともできる:アラビアゴム、コーンスターチまたはゼラチンなどの結合剤;リン酸二カルシウムなどの賦形剤;コーンスターチ、馬鈴薯デンプン、アルギン酸などの崩壊剤;ならびにステアリン酸マグネシウムなどの滑剤。投与単位形態がカプセルである場合、これは、前記タイプの物質に加えて、液体担体を含有してもよい。様々な他の物質がコーティング剤として、さもなければ、投与単位の物理的形態を変更するために存在してもよい。シロップまたはエリキシルは、活性化合物、防腐剤としてのメチルおよびプロピルパラベンならびに色素を含有してもよい。もちろん、投与単位形態を調製する際に使用されるいずれの物質も、獣医学的に純粋で、使用される量で実質的に非毒性でなければならない。加えて、活性化合物を、持続放出製剤および配合物に導入することもできる。
【0028】
薬学的に許容できる担体および/または希釈剤には、溶媒、分散媒体、コーティング剤、抗菌剤および抗真菌剤、等張性および吸収遅延剤などの全てが含まれる。獣医学的に活性な物質のためのこのような媒体および薬剤の使用は、当分野でよく知られている。任意の慣用の媒体または薬剤が活性成分と非相容性である場合を除き、治療用組成物におけるこれらの使用が企図される。補助的活性成分を組成物に導入することもできる。
【0029】
投与を容易にし、投与量を均一にするために、投与単位形態に非経口組成物を製剤することが特に有利である。家畜に投与するために、反復予防接種銃に接続されている多回投与用容器を使用することが特に有利である。本明細書で使用される投与単位形態は、治療される対象のための単位投与として適している物理的に別々の単位を指しており、ここで、各単位は、所望の治療効果を生じさせるために算出された予め決定された量の活性物質を必要な薬学的担体と共に含有する。本発明の新規投与単位形態のための規格は、(a)活性物質の独特な特性および達成される特殊な治療作用ならびに(b)本明細書で詳述されたように身体の健康が損なわれる疾患状態を有する生体対象における疾患を治療するためにこのような活性物質を配合する際の当分野固有の制限により規定され、さらにそれらに直接的に依存して規定される。
【0030】
主要な活性成分を、簡便かつ有効な投与のために有効量で、適切な薬学的に許容できる担体と共に前記で開示した投与単位形態に配合する。単位投与形態は例えば、主要な活性化合物を約0.5μgから約2000μgの範囲の量で含有する。割合で表すと、活性化合物は通常、約0.5μgから約2000μg/担体mlで存在する。本発明の医薬組成物における活性成分、薬学的に許容できる担体および任意の付加的な成分の相対量は、治療される対象の同一性、サイズおよび条件に応じて、さらに組成物が投与される経路に応じて変動する。
【0031】
本発明をさらに、次の実験的実施例を参照して詳述する。これらの実施例は、詳述の目的でのみ提供されており、他に記載のない限り、制限を意図していない。したがって、本発明は、次の実施例に限られると解釈されるべきではなく、むしろ本明細書で提供されている教示の結果として明らかになる変更を全て包含すると解釈されるべきである。
【0032】
本発明を具体的な実施形態を参照して開示するが、本発明の他の実施形態および変更が、本発明の真の意図および範囲から逸脱することなく、他の当業者により案出されうることは明らかである。添付の請求項は、このような実施形態および同等の変更全てを包含すると解釈されることとする。
【実施例】
【0033】
(実施例1)
臨床試験の範囲:
外科的に去勢または卵巣除去されているメスイヌは往々にして、尿失禁を患う。この疾患の発生率は20%まで高いと報告されている。現在の治療は、長期間にわたって合成エストロゲンなどの薬物を毎日投与することに頼っているが、これは、費用がかかると同時に不便である。長期作用性ワクチンの使用は、卵巣除去されたメスイヌのこのよくある状態の治療において著しい改善となるはずである。
【0034】
考察:
イヌにおける尿失禁を治療するための配合物は、有効な抗LHRHワクチンを含む。多くのこのようなワクチンが先行技術でも記載されているが、それらの多くが、市場で存続するのに十分に高い効力および安全性を提供することはできていない。イヌに関する文献に記載されている有効なワクチンの例は、ほんの僅かしか存在しない。現在、特にオーストラリアおよびニュージーランドで商業的に入手可能なLHRHワクチンの例が、いくつか存在する。これらには、オスのブタにおける非去勢オスブタ病毒を制御するためのIMPROVAC(登録商標)ならびにメスウマおよびメスの子ウマにおける発情関連行動を制御するためのEQUITY(登録商標)が含まれ、これらの製品は両方とも、Pfizer Animal Healthから市販されている。これらの配合物は、大型動物に適用されており、イヌなどの比較的小さな動物においては安全ではないと考えられ、イヌおよび他のコンパニオン動物において安全かつ有効に使用するための変更が必要と考えられる。他の配合物が、成体の無損傷オスイヌにおける良性前立腺肥大症を治療するためにUSAにおいてUSDAで条件登録されている。このワクチンは、成体のオスイヌにおいて安全かつ有効であることが証明されており、次のように、本発明においてイヌ尿失禁(CUI)の制御に使用することが企図される。
【0035】
試験は、CUIワクチンまたはプラセボを投与される2つの群を伴う二重盲検試験として行い、ここで、プラセボはアジュバントのみからなる。飼い主も臨床獣医師も、行われている治療を知らない。
【0036】
動物:
地域社会のメンバーにより家庭用ペットとして飼われているメスイヌ(35頭まで)を、例えばThe University of Melbourne/Veterinary Clinicの登録簿などの臨床登録簿から無制限に選択する。尿失禁の長期臨床状態を有し、この状態に関して以前に(スチルベストロール、エストロゲンの合成形態などの他の認められている治療で)またはPPAなどのα−アドレナリン作動性刺激剤で治療を受けたことのある2歳を超えている卵巣除去されたメスイヌのみを、試験のために選択する。
【0037】
ワクチン:
一実施形態では、ワクチンは、良性前立腺肥大症の治療のためにPfizer Animal HealthにUSDAにより以前に認可され、担体としてのジフテリアトキソイドに結合しているLHRHペプチド2−10型の結合体200μg/用量を、国際公開第99/02180号パンフレットとして1999年1月21日に公開された国際出願PCT/AU99/01167号明細書に記載されているDEAEデキストラン10mgおよび免疫刺激複合体80μgの組合せアジュバント系と共に含有するものを含む。他の実施形態では、ワクチンは、約3から約10個のT細胞ヘルパーエピトープを、それぞれLHRH4−10型を伴う直線配列で含み、ここで、全ペプチド含量が、免疫刺激複合体約80μgと組み合わせてペプチド約120μg/用量である合成ペプチドワクチンを含む。
【0038】
ワクチンは、試験において各イヌに、28日間隔で少なくとも2回投与する。
【0039】
次のパラメーターを、各予防接種の直後に測定した。体温、昏睡を含む様子、注射部位の疼痛および注射部位の腫脹。加えて、血清試料を採取して、LHのレベルおよびLHRHに対する抗体応答を測定する。第1回の予防接種の2週間前から開始して、各メスイヌでの尿失禁スコアリングを、共通のスコアリング系に従い各飼い主が行う。こうすると、個々のイヌは、治療後の変化により、自分自身で制御して行動する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療を必要とする哺乳動物において尿失禁を治療する方法であって、前記哺乳動物に治療有効量の抗LHRHワクチンを投与することを含む方法。
【請求項2】
前記哺乳動物がメスである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記哺乳動物が高い血清ゴナドトロピン濃度を有するメスである請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ゴナドトロピンが、黄体形成ホルモンおよび卵胞刺激ホルモンからなる群から選択される請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記哺乳動物が外科的に去勢されている請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記哺乳動物が卵巣除去されたメスイヌである請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記抗LHRHワクチンが担体とLHRHとの免疫原性結合体を含む請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記担体がタンパク質を含む請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記タンパク質が細菌トキソイドを含む請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記細菌トキソイドがジフテリアトキソイドである請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記担体が、少なくとも1個のT細胞ヘルパーエピトープを含む合成ペプチドを含む請求項7に記載の方法。
【請求項12】
前記ワクチンがアジュバントをさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記アジュバントがDEAEデキストランを含む請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記アジュバントが免疫刺激複合体をさらに含み、前記免疫刺激複合体がサポニンおよびコレステロール成分からなる請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記免疫原性結合体がLHRH−ジフテリアトキソイド結合体を含む請求項7に記載の方法。
【請求項16】
哺乳動物における尿失禁を治療または制御する方法であって、前記哺乳動物に、治療有効量の担体とLHRHとの免疫原性結合体を含む組成物を投与することを含む方法。
【請求項17】
前記担体がタンパク質を含む請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記担体がジフテリアトキソイドを含む請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記担体がT細胞エピトープを含む請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記組成物がアジュバントをさらに含む請求項16に記載の方法。
【請求項21】
治療有効量のLHRHを含む、メスの哺乳動物における尿失禁を治療または制御するためのワクチン。
【請求項22】
アジュバントをさらに含む請求項21に記載のワクチン。
【請求項23】
前記LHRHが免疫原性担体と結合している請求項21に記載のワクチン。
【請求項24】
前記免疫原性担体がタンパク質を含む請求項23に記載のワクチン。
【請求項25】
前記免疫原性担体がT細胞ヘルパーエピトープを含む請求項23に記載のワクチン。
【請求項26】
前記タンパク質がジフテリアトキソイドを含む請求項24に記載のワクチン。
【請求項27】
前記メスの哺乳動物が外科的に卵巣除去されたイヌを含む請求項21に記載のワクチン。
【請求項28】
ゴナドトロピンの無制限の産生および放出による尿失禁を患う哺乳動物の免疫応答を増強する方法であって、前記哺乳動物に治療有効量のLHRHを投与することを含む方法。
【請求項29】
前記LHRHを抗原の形態で投与する請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記LHRHをワクチンの形態で投与する請求項28に記載の方法。
【請求項31】
外科的に去勢または卵巣除去されたイヌにおける尿失禁を治療する方法であって、前記イヌに治療有効量の抗LHRHワクチンを投与することを含む方法。
【請求項32】
前記イヌがメスである請求項31に記載の方法。
【請求項33】
卵巣除去されたメスイヌにおける尿失禁の発症を予防する方法であって、卵巣除去の後に、前記卵巣除去されたメスイヌに有効量の抗LHRHワクチンを投与することを含む方法。

【公表番号】特表2008−545738(P2008−545738A)
【公表日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−514217(P2008−514217)
【出願日】平成18年5月22日(2006.5.22)
【国際出願番号】PCT/IB2006/001398
【国際公開番号】WO2006/129162
【国際公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【出願人】(397067152)ファイザー・プロダクツ・インク (504)
【Fターム(参考)】