説明

局所熱伝達率決定プログラム及び局所熱伝達率決定装置

【課題】冷却条件を変更しても短時間で局所熱伝達率を決定できる局所熱伝達率決定プログラム及び局所熱伝達率決定装置を提供する。
【解決手段】基準冷却条件が設定されたとき、局所熱伝達率決定装置1内の定常熱流動解析部13は、数値解析手法により計算領域内の温度分布を算出する。基準局所熱伝達率算出部14は、算出された温度分布に基づいて、基準局所熱伝達率href(x)を求める。基準冷却条件と異なる対象冷却条件が設定されたとき、対象局所熱伝達率決定部15は、基準冷却条件により決定される基準平均熱伝達率hmrefと、対象冷却条件により決定される対象平均熱伝達率hmと、基準局所熱伝達率href(x)と、対象冷却条件における所定表面位置xでの対象局所熱伝達率h(x)とが、式(1)を満たすように、h(x)を決定する。
h(x)/hm=href(x)/hmref (1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱処理炉内でガス冷却される被処理材の表面の局所熱伝達率を決定する局所熱伝達決定プログラム及び局所熱伝達率決定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス冷却による焼入れ処理では、被処理材である金属製品の焼入れ後の寸法精度及び焼入れ性を向上するために、供給ガス流量や供給ガス温度といった冷却条件の適正化が必要である。
【0003】
このような冷却条件の適正値を求めるため、最近では、有限要素法や、有限体積法、差分法といった数値解析手法により焼入れ後の被処理材の歪みを予測する歪み予測シミュレーションが利用されている。歪み予測シミュレーションを利用することで、新しい熱処理プロセスの開発に必要な時間を短縮でき、開発費用を削減できる。
【0004】
歪み予測シミュレーションは、境界条件として、被処理材表面の局所熱伝達率を利用する。したがって、歪み予測シミュレーションの精度を向上するためには、精度の高い局所熱伝達率を求める必要がある。
【0005】
高い精度の局所熱伝達率を決定する従来の方法として、熱伝導逆解析を用いた方法(以下、第1の従来技術という)と、非定常熱流動解析を用いた方法(以下、第2の従来技術という)とが知られている。
【0006】
第1の従来技術は、特許文献1(特開平7−188734号公報)、特許文献2(特開2003−42984号公報)及び非特許文献1(「熱処理変形シミュレーションと冷却」、奈良崎道治、熱処理42巻5号、2002年、第333頁−第340頁)に開示されている。従来技術1では、次の手順により局所熱伝達率を決定する。まず、被処理材の温度変化は、式(2)に示すエネルギ保存式(非定常熱伝導方程式)で表される。
【数1】

【0007】
ここで、ρsは被処理材の密度(kg/m)、Cm,sは被処理材の平均比熱(J/kg/K)、λsは被処理材の熱伝導率(W/m/K)、Tsは被処理材の温度(K)である。各符号の下付添え字のsは固体(Solid)であることを示す。式(2)中の「・」は内積を示し、「∇」は∇≡(∂/∂x,∂/∂y,∂/∂z)で定義される微分演算子である。また、式(2)中のtは時間(s)を示す。
【0008】
式(2)中の平均比熱Cm,sは、真比熱Csを用いて式(3)で定義される。
【数2】

【0009】
この従来技術では、被処理材内部及び表面の温度分布を得るために、数値解析手法を用いる。具体的には、まず、解析対象である被処理材を要素や格子といった微小領域に分割する。次に、式(2)を各領域に離散化し、各領域での温度を算出する。このような数値解析手法では、境界条件として被処理材表面での局所熱伝達率が必要である。局所熱伝達率h(x)(W/m/K)は式(4)で定義される。
【0010】
h(x)≡q(x)/(Tf−Tt,s) (4)
【0011】
ここで、q(x)は被処理材の所定表面位置xでの熱流束(W/m)である。Tfは雰囲気流体の温度(K)であり、ガス冷却の場合、雰囲気流体の温度としてガスの供給温度(以下、供給ガス温度という)が用いられる。Tt,sは時間tにおける被処理材の表面温度である。
【0012】
熱伝達率は熱伝導率のような物性値ではないため、被処理材の所定表面位置xや冷却条件により異なる値となる。そこで、第1の従来技術では、次の手順により局所熱伝達率h(x)を決定する。
(1)所定の冷却条件で実験を行い、被処理材の1又は複数の所定位置での温度推移データ(冷却曲線)を採取する。つまり、実験により温度データを取得する。
(2)被処理材表面での局所熱伝達率h(x)を仮設定する。仮設定された局所熱伝達率h(x)を用いて式(2)を離散化し、上記所定位置での温度を算出する。つまり、シミュレーションにより温度データを算出する。
(3)同一時刻における所定位置の実験温度データとシミュレーション温度データとを比較し、両者の温度差が許容範囲内となるまで、局所熱伝達率h(x)の仮設定値を変更して繰り返しシミュレーションを実施する。両者の温度差が許容範囲内となったとき、仮設定された局所熱伝達率h(x)を、歪み予測シミュレーションに利用する局所熱伝達率に決定する。
【0013】
以上のとおり、第1の従来技術では、予め実験により温度データを測定しておき、数値解析手法に基づくシミュレーションにより得られた温度データと比較して、局所熱伝達率h(x)を決定する。
【0014】
しかしながら、第1の従来技術では、局所熱伝達率h(x)を設定するために、必ず実験データを採取しなければならない。また、決定された局所熱伝達率h(x)は、実験データを前提とした値であり、実験時の冷却条件下において最適な値となっている。そのため、採取した実験データと異なる冷却条件の場合、異なる冷却条件下で実験データを新たに採取し、採取された実験データに基づいて、局所熱伝達率h(x)を決定し直さなければならない。つまり、第1の従来技術では、冷却条件を変更するたびに、新たな実験を行わなければならない。
【0015】
第2の従来技術(非定常熱流動解析による決定方法)は、数値解析手法により、時間進展させながら被処理材表面での熱流束を算出し、算出された熱流束に基づいて局所熱伝達率を決定する。第2の従来技術は、シミュレーションのみにより局所熱伝達率h(x)を決定することが可能であり、第1の従来技術のような実験データは不要である。
【0016】
この方法では、被処理材の温度分布を算出するためにエネルギ保存式(2)を用いるとともに、被処理材を囲むガス流れ場の温度分布を算出するために、次に示す質量保存式(5)、運動量保存式(ナヴィエ・ストークスの式)(6)、及び、エネルギ保存式(7)を用いる。なお、ガス密度と圧力との関係、及び、ガス密度と温度との関係の精度を上げるために、これらの式(2)、(5)〜(7)に加えて、気体の状態方程式を利用してもよい。
【数3】

【0017】
ここで、ρgはガス密度(kg/m)、Ugはガス流速(m/s)、pgはガス圧力(Pa)、Tgはガス温度(K)、μgはガスの粘性係数(Pa・s)、Cm,gはガスの平均比熱(J/kg/K)、λgはガスの熱伝導率(W/m/K)であり、各記号中のgはガス(Gas)を示す。ガスの平均比熱Cm,gは、真比熱Cgを用いて式(8)で定義される。
【数4】

【0018】
以下、第2の従来技術による局所熱伝達率h(x)の決定方法を図1を参照して説明する。この方法ではまず、冷却条件として供給ガス温度Tg,in、供給ガスの質量流速Gin(及び供給ガス組成)を設定する(S101)。このとき、非定常熱流動解析の計算終了時間tmaxも設定する。計算終了時間tmaxは、例えばガス冷却開始から終了までの時間と同じ時間とする。
【0019】
続いて、時間ステップn=0とし、時間ステップn(=0)でのガス流速Ugn、ガス圧力pgn、ガス温度Tgn、及び被処理材温度Tsnを設定する(S102)。つまり、初期時間ステップ(n=0)におけるUgn、pgn、Tgn、及びTsnの初期値を設定する。
【0020】
設定後、ガス流速Ugn、ガス圧力pgn、ガス温度Tgn、被処理材温度Tsn、及び、被処理材の所定表面位置xでの局所熱伝達率h(x)の時刻歴応答解析(非定常熱流動解析)を実施する(S103〜S107)。具体的には、時間t=t+Δtとし(S103)、式(2)及び式(5)〜式(7)を用いて数値解析手法に基づくシミュレーションを行う。その結果、時間ステップnからΔt経過した時間ステップn+1でのガス流れ場におけるガス流速Ugn+1、ガス圧力pgn+1及びガス温度Tgn+1の分布と、被処理材温度Tsn+1の分布とが算出される(S104)。これにより、時間ステップn+1における被処理材内の温度分布及び被処理材表面近傍の境界層内の温度分布が得られる。
【0021】
ステップS104で得られた温度分布に基づいて、時間ステップn+1における局所熱伝達率h(x)を算出する(S105)。
【0022】
所定表面位置xでの熱流束q(x)は式(9)を満たす。
【数5】

【0023】
ここで、n(x)は、所定表面位置xにおける法線ベクトルである。ステップS104で得られたT又はTの温度分布データを用いて、式(9)より熱流束q(x)を算出する。算出された熱流束q(x)を式(4)に代入して、所定表面位置xでの局所熱伝達率h(x)を求める。
【0024】
算出後、ステップS103で設定された時間tが計算終了時間tmaxに達していない場合(S106でNO)、nをインクリメントしてn=n+1とする。このとき、Ugn=Ugn+1、pgn=pgn+1、Tgn=Tgn+1、びTsn=Tsn+1に設定する(S107)。設定後、ステップS103に戻る。要するに、時間tが計算終了時間tmaxに達するまで、シミュレーションを繰り返す。
【0025】
このように第2の従来技術は、実験データを使用しない。そのため、冷却条件を変更するごとに実験データを採取する必要がない。さらに、被処理材の表面形状が複雑であっても精度の高い局所熱伝達率h(x)を得ることができる。
【0026】
しかしながら、この第2の従来技術は、時刻歴応答解析を実施するため、1つの冷却条件における計算結果を得るのに多大な時間を必要とする。さらに、先に設定された冷却条件と異なる他の冷却条件での局所熱伝達率h(x)を決定する場合(図1中のS108でYES)、ステップS101に戻って時刻歴応答解析を再び最初から実施しなければならない。そのため、冷却条件を変更するごとに、多大な時間をかけて非定常熱流動計算を行わなければならない。
【特許文献1】特開平7−188734号公報
【特許文献2】特開2003−42984号公報
【非特許文献1】熱処理変形シミュレーションと冷却、奈良崎道治、熱処理42巻5号、2002年、第333頁−第340頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
本発明の目的は、実験データを必要とせず、かつ、冷却条件を変更しても短時間で局所熱伝達率を決定できる局所熱伝達率決定プログラム及び局所熱伝達率決定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0028】
本発明による局所熱伝達率決定プログラムは、熱処理炉内にガスを供給して被処理材を冷却するガス冷却における被処理材表面の局所熱伝達率の決定をコンピュータに実行させる。局所熱伝達プログラムは、熱処理炉内の空間のうち、被処理材を囲む所定範囲のガス流れ場領域を計算領域に設定するステップと、供給ガス温度と、供給ガス質量流速と、被処理材表面温度とを含む基準冷却条件を設定するステップと、基準冷却条件に基づいて、数値解析手法により計算領域の定常熱流動解析を行うステップと、定常熱流動解析の結果に基づいて、基準冷却条件における被処理材の所定表面位置xでの基準局所熱伝達率href(x)を求めるステップと、供給ガス温度、供給ガス質量流速及び被処理材表面温度のうちの少なくとも1つが基準冷却条件と異なる対象冷却条件を設定するステップと、基準局所熱伝達率href(x)を求めた後、基準冷却条件により決定される基準平均熱伝達率hmrefと、対象冷却条件により決定される対象平均熱伝達率hmと、基準局所熱伝達率href(x)と、対象冷却条件における所定表面位置xでの対象局所熱伝達率h(x)とが、式(1)を満たすように、対象局所熱伝達率h(x)を決定するステップとをコンピュータに実行させる。
【0029】
h(x)/hm=href(x)/hmref (1)
【0030】
好ましくは、本発明による局所熱伝達率決定プログラムはさらに、ガスの粘性係数、ガスの比熱及びガスの熱伝導率を含む複数のガス物性値を複数の温度と対応付けて物性値データベースに登録するステップを備える。対象局所熱伝達率h(x)を決定するステップは、基準冷却条件で所定表面位置x上に形成される乱流境界層の基準膜温度と、対象冷却条件で所定表面位置x上に形成される乱流境界層の対象膜温度とを求めるステップと、基準膜温度に対応する基準ガス物性値と、対象膜温度に対応する対象ガス物性値とを物性値データベースから取得するステップとを含む。対象局所熱伝達率h(x)を決定するステップは、取得された基準ガス物性値に基づいて決定される基準平均熱伝達率hmrefと、取得された対象ガス物性値に基づいて決定される対象平均熱伝達率hmとが、式(1)を満たすように、対象局所熱伝達率h(x)を決定する。
【0031】
ガス冷却では、ガス流れ場が完全発達乱流となる。そのため、ガス流量及びガス温度といった冷却条件が多少変更されても、マクロな流れ場形状は常に相似となる。その結果、被処理材の所定表面位置での局所熱伝達率の分布形状も、冷却条件に依存せず、ほぼ一定となる。本発明による局所熱伝達率決定プログラムは、局所熱伝達率の分布形状が冷却条件に依存せず相似となる点を利用する。具体的には、ガス冷却では、相似則に基づいて式(1)が成立する。したがって、基準冷却条件時における基準局所熱伝達率href(x)を定常熱流動解析により求めておけば、冷却条件が変更されても、変更された冷却条件における対象局所熱伝達率h(x)を、式(1)に基づいて短時間で決定することができる。つまり、従来のように冷却条件を変更するごとに、実験データを取得したり、時間のかかる熱流動解析を行ったりする必要がない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳しく説明する。図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0033】
[本発明による局所熱伝達率の決定方法]
【0034】
初めに、本発明による局所熱伝達率の決定方法の概略を説明する。
【0035】
ガス冷却時のガスの流れは高速であるため、ガスの流れ場は完全発達乱流となっていると考えられる。完全発達乱流では、ガス流量及びガス温度が多少変更されても、マクロな流れ場形状は相似となることが知られている。
【0036】
このように、マクロな流れ場形状が相似となる流れ場においては、被処理材表面の局所熱伝達率の分布も、ガス流量、ガス温度、表面温度といった冷却条件の変化に依存せずほぼ相似となる。以下、この点について実験結果を踏まえて説明する。
【0037】
中心軸から外周面までの断面形状が図2に示す形状となる自動車用アウトプットギアブランク材を被処理材に想定し、コンピュータを用いて、図3に示す計算領域に対して熱流動解析を行った。このとき、被処理材の温度は一定とし、被処理材を除くガス流れ場領域のみを計算領域とした。また、ガス流れ場が定常状態であると仮定して、計算領域の定常熱流動解析を行った。
【0038】
定常熱流動解析では、式(5)〜(7)の時間微分項を消去した式(10)〜(12)を用い、これらの式(10)〜(12)を離散化した式を求解した。
【数6】

【0039】
冷却条件は表1に示す冷却条件1〜7とし、それぞれの冷却条件について定常熱流動解析を行った。
【表1】

【0040】
表1中の供給ガス質量流速比Gin/Gin1は、冷却条件1の供給ガス質量流速Gin1に対する各冷却条件の供給ガス質量流速Ginの比である。また、供給ガス流速比Ug,in/Ug,in1は冷却条件1の供給ガス流速Ug,in1に対する各冷却条件の供給ガス流速Ug,inの比である。供給ガス質量流速Gin1は、339(kg/(m/s))とし、供給ガス流速Ug,in1は、10(m/s)とした。また、各冷却条件での被処理材表面温度Tは、3種類(冷却条件5〜7)又は4種類(冷却条件1〜4)準備した。
【0041】
表1中の各冷却条件で定常熱流動解析を行い、図2中の被処理材の各所定表面位置x(upper1〜4,outside1〜3,lower1〜6,inside1)の局所熱伝達率h(x)及び平均熱伝達率hmを算出した。具体的には、式(10)〜式(12)に基づいて所定表面位置x上の境界層内の温度分布を求め、求めた温度分布を用いて式(9)及び式(4)に基づいて局所熱伝達率h(x)を求めた。また、求めた局所熱伝達率h(x)に基づいて、平均熱伝達率hmを算出した。なお式(4)ではTt,s=Twとして、局所熱伝達率h(x)を求めた。
【0042】
算出された局所熱伝達率h(x)及び平均熱伝達率hmに基づいて、局所熱伝達率分布の相似性を評価した。
【0043】
まず、被処理材の温度変化に対する熱伝達率分布の相似性について説明する。図4は冷却条件1で被処理材表面温度を1123(K)、923(K)、723(K)、523(K)とした場合の平均熱伝達率hmを示し、図5は被処理材表面温度を1123(K)、923(K)、723(K)、523(K)とした場合の各所定表面位置xにおける平均熱伝達率hmに対する局所熱伝達率h(x)の比(h(x)/hm:以下、無次元局所熱伝達率(−)という)を示す。
【0044】
図4及び図5を参照して、平均熱伝達率hmは被処理材の表面温度に依存してその値が変化した(図4)。これに対し、各所定表面位置xにおける無次元局所熱伝達率は、被処理材表面温度の変化に依存せず、ほぼ一定であった(図5)。つまり、被処理材の表面温度の変化に対して局所熱伝達率h(x)の分布形状は常に相似であった。
【0045】
次に、供給ガス温度Tg,in、供給ガス質量流速Gin、供給ガス流速Ug,inの変化に対する局所熱伝達率h(x)の分布形状の相似性について説明する。図6は被処理材の表面温度を1123Kとした場合の各冷却条件1〜7における平均熱伝達率hmを示し、図7は被処理材の表面温度を1123Kとした場合の各冷却条件1〜7における各所定表面位置xでの無次元局所熱伝達率を示す。
【0046】
図6及び図7を参照して、平均熱伝達率hmは冷却条件に依存してその値が変化したが(図6)、各所定表面位置xにおける無次元局所熱伝達率h(x)は、冷却条件に依存せずほぼ一定であった(図7)。つまり、冷却条件の変化に対して局所熱伝達率h(x)の分布形状は常に相似であった。
【0047】
以上の結果より、局所熱伝達率h(x)の分布形状、すなわち無次元局所熱伝達率は、冷却条件に依存せず、ほぼ一定となる。したがって、代表的な冷却条件(以下、基準冷却条件という)における平均熱伝達率(以下、基準平均熱伝達率という)hmref及び局所熱伝達率(以下、基準局所熱伝達率という)href(x)と、基準冷却条件と異なる冷却条件(以下、対象冷却条件という)の平均熱伝達率(以下、対象平均熱伝達率という)hm及び局所熱伝達率(以下、対象局所熱伝達率という)h(x)とは、以下の式(1)の関係を有する。
【0048】
ref(x)/hmref=h(x)/hm (1)
【0049】
本発明では、冷却条件を変化させたとき、上述の式(1)に基づいて、対象局所熱伝達率h(x)を決定する。つまり、本発明では、予め基準冷却条件での基準局所熱伝達率href(x)を求めておき、冷却条件を変更したとき、基準局所熱伝達率href(x)を利用して、式(1)より対象熱伝達率h(x)を算出する。これにより、本発明では、冷却条件を変更するごとに実験データを採取する必要はなく、かつ、冷却条件を変更するごとに数値解析手法による熱流動解析を行う必要もなくなる。
【0050】
[対象局所熱伝達率換算式]
【0051】
以下、上述の式(1)に基づいて、対象局所熱伝達率h(x)を決定するための換算式について説明する。平均熱伝達率hmの近似関数は、式(13)で表されることが知られている。
【数7】

【0052】
ここで、Prはプラントル数、Reはレイノルズ数である。Lは代表寸法であり、本実施の形態では被処理材の外径寸法に対応する。Tbは、所定表面位置x上に形成される乱流境界層の平均温度(以下、膜温度という)である。μG(Tb)は、膜温度Tbにおけるガス粘性係数である。Cg(Tb)は、膜温度Tbにおけるガス比熱である。λg(Tg,in)は、供給ガス温度Tg,inにおけるガスの熱伝導率である。これらのガス物性値(粘性係数、比熱、熱伝導率)は温度に依存する。そのため、本実施の形態では、供給ガス温度Tg,in及び膜温度Tbに対応したガス物性値を利用する。
【0053】
膜温度Tbは以下の式(14)により定義される。
【数8】

【0054】
式(13)中のα及びmは、近似関数の作成時に同定される係数である。
【0055】
一般的に、乱流場におけるレイノルズ数Reの指数mは0.8程度であるため、本実施の形態でもm=0.8としてもよい。また、予め複数の冷却条件で定常熱流動解析を行って、その結果を利用してα及びmを求めても良い。図8及び図9は、上記各冷却条件1〜7で定常熱流動解析を行った結果得られた平均熱伝達率hm(図中の点)と、式(13)の近似関数(実線)とをプロットした図である。図8は式(13)のαを0.0286、mを0.8478とし、図9は式(13)中のα=0.0592とし、かつ、乱流時の一般的な指数としてm=0.8としている。いずれの近似関数も近似の精度が高いと言える。
【0056】
式(13)に基づいて、基準冷却条件における平均熱伝達率hmrefは以下の式(15)で示される。
【数9】

【0057】
ここで、Tg,in,refは、基準供給ガス温度である。Gin,refは、基準供給ガス質量流速である。また、Tb,refは基準冷却条件時の基準膜温度であり、式(14)に基づいて以下の式(16)で示される。
【数10】

【0058】
ここで、Tw,refは基準被処理材表面温度である。
【0059】
供給ガス温度、供給ガス質量流速、被処理材表面温度のうちの少なくとも1つが基準冷却条件と異なる対象冷却条件における局所熱伝達率h(x)の決定式は、式(1)、式(13)〜式(16)に基づいて、以下の式(17)となる。
【数11】

【0060】
以上より、定常熱流動解析により基準冷却条件における局所熱伝達率href(x)を算出しておけば、基準冷却条件と異なる対象冷却条件における局所熱伝達率h(x)を、式(1)から導いた式(17)により容易に決定することができる。
【0061】
以下、本実施の形態による局所熱伝達率決定装置について説明する。
【0062】
[全体構成]
【0063】
図10を参照して、本実施の形態による局所熱伝達率決定装置は1は、記憶部10と、冷却条件設定部11と、計算領域設定部12と、定常熱流動解析部13と、基準局所熱伝達率算出部14と、対象局所熱伝達率決定部15とを備える。
【0064】
記憶部10は、図11に示す物性値データベース16を記憶する。物性値データベース16には、ガス物性値が温度と対応して登録される。物性値データベース16は、温度を登録するためのフィールドと、ガス冷却に利用する供給ガスの粘性係数を登録するためのフィールドと、ガスの比熱を登録するためのフィールドと、ガスの熱伝導率を登録するためのフィールドとを備える。これらのガス物性値は、対象局所熱伝達率h(x)を決定するときに利用される。
【0065】
冷却条件設定部11は、ユーザ操作に応じて基準冷却条件及び対象冷却条件を設定する。上述のとおり、基準冷却条件は基準局所熱伝達率href(x)を算出するときに設定される冷却条件であり、基準供給ガス質量流速Gin,ref、基準供給ガス温度Tg,in,ref、基準被処理材表面温度Tw,refとを含む。対象冷却条件は対象局所熱伝達率を決定するときに設定される冷却条件であり、供給ガス質量流量Ginと、供給ガス温度Tg,inと、被処理材表面温度Twとを含む。
【0066】
計算領域設定部12は、定常熱流動解析を行うための計算領域を設定する。具体的には、ユーザ操作に応じて入力されたガス流れ場領域の寸法、被処理材の形状寸法及びガス流れ場領域内での被処理材の配置位置等の情報に基づいて、計算領域を設定する。
【0067】
計算領域設定部12は入力された情報に基づいて、熱処理炉内の領域のうち、被処理材を囲む所定範囲のガス流れ場領域を計算領域に設定する。すなわち、被処理材を除く所定範囲のガス流れ場領域のみを計算領域に設定する。計算領域設定部12はさらに、計算領域を複数の微小領域に分割する。
【0068】
定常熱流動解析部13は、分割された計算領域に対して、基準冷却条件における定常熱流動解析を行う。具体的には、基準冷却条件に基づいて、式(10)〜式(12)を離散化して求解し、各格子点(微小領域)におけるガス温度Tgを算出する。これにより、基準冷却条件時における被処理材表面近傍の乱流境界層内のガス温度分布が得られる。
【0069】
基準局所熱伝達率算出部14は、定常熱流動解析により得られた結果に基づいて、式(9)及び式(4)より、基準局所熱伝達率href(x)を算出する。
【0070】
対象局所熱伝達率決定部15は、対象冷却条件が設定されたとき、算出された基準局所熱伝達率href(x)を利用して、式(1)を満たす対象局所熱伝達率h(x)を求める。
【0071】
図12は、コンピュータ装置20のハードウェア構成を示すブロック図である。コンピュータ装置20は、ハードディスクドライブ(HDD)21と、メモリ23と、CPU24と、ディスプレイ25と、入力部26とを備える。HDD21は、局所熱伝達率決定プログラム22を記憶する。HDD21はさらに、物性値データベース16を記憶する。局所熱伝達率決定プログラム22をメモリ23にロードし、CPU24に実行させることで、コンピュータ装置20は局所熱伝達率決定装置1として機能する。このとき、記憶部10はHDD21及びメモリ23に相当する。冷却条件設定部11、計算領域設定部12、定常熱流動解析部13、基準局所熱伝達率算出部14及び対象局所熱伝達率決定部15はCPU24に相当する。基準冷却条件、対象冷却条件及び計算領域を設定するために必要な情報等は、ユーザ操作に基づいて入力部26により入力される。決定された対象熱伝達率h(x)は、ディスプレイ25に表示される。
【0072】
[動作フロー]
【0073】
次に、局所熱伝達率決定装置1(以下、単に決定装置1という)による対象局所熱伝達率h(x)の決定処理について説明する。
【0074】
図13を参照して、決定装置1は初めに、計算領域を設定する(S1)。具体的には、決定装置1は、ユーザが入力部26を用いて入力した被処理材の寸法、ガス流れ場領域の寸法、及び被処理材の配置位置等の情報に基づいて、被処理材を囲む所定範囲内のガス流れ場領域を計算領域に設定する。計算領域を設置後、決定装置1は、入力部26により入力された格子点数データに基づいて、計算領域を複数の微小領域に分割する。
【0075】
続いて、決定装置1は基準局所熱伝達率href(x)を算出する(基準熱伝達率算出処理:S2)。基準熱伝達率算出処理ではまず、基準冷却条件として、供給ガス温度Tg,in,ref、供給ガス質量流速Gin,ref及び被処理材表面温度Tw,refを設定する(S21)。基準冷却条件は、ユーザ操作に基づいて入力部26により入力される。
【0076】
基準冷却条件が設定された後、決定装置1は、基準冷却条件に基づいて計算領域に対して数値解析手法による定常熱流動解析を行う(S22)。このとき、決定装置1は、被処理材の表面温度はTw,refで一様であると仮定し、ガス流れ場のみの定常熱流動解析を行う。具体的には、式(10)〜式(12)を離散化した式の求解を行い、各微小領域でのガス流速Ug、ガス圧力Pg、ガス温度Tgを算出する。算出された各微小領域のガス流速Ug、ガス圧力Pg及びガス温度Tgは、各微小領域の識別データに対応付けて記憶部10に記憶される。
【0077】
解析後、記憶部10に記憶されたガス温度Tgを用いて、被処理材の所定表面位置xにおける基準熱伝達率href(x)を算出する(S23)。決定装置1はまず、ステップS22で得られたガス温度Tgの分布のうち、所定表面位置x上の乱流境界層を構成する各微小領域のガス温度Tを記憶部10から読み出す。決定装置1は、読み出されたガス温度Tgを用いて、式(9)に基づいて所定表面位置xでの熱流束q(x)を算出する。決定装置1は、算出された熱流束q(x)を用いて、式(4)に基づいて基準局所熱伝達率href(x)を算出する。このとき、式(4)中のTfには基準冷却条件内の供給ガス温度Tg,in,refを代入し、式(4)中のTt,sには、被処理材表面温度Tw,refを代入する。算出された基準局所熱伝達率href(x)は記憶部10に格納される。
【0078】
決定装置1はさらに、供給ガス温度Tg,in,refを用いて、式(16)に基づいて基準膜温度Tb,refを算出し、記憶部10に格納する(S24)。基準膜温度Tb,refは、対象局所熱伝達率h(x)の算出に利用される。
【0079】
以上の動作により、決定装置1は、基準冷却条件における基準局所熱伝達率href(x)を決定する。基準局所熱伝達率href(x)を算出後、冷却条件を基準冷却条件から対象冷却条件に変更する場合、決定装置1は、対象局所熱伝導率決定処理を実行する(S3)。
【0080】
対象局所熱伝導率決定処理では、決定装置1はまず、対象冷却条件を設定する(S31)。ユーザ操作に応じて入力部26により対象供給ガス温度Tg,in、対象供給ガス質量流速Gin、対象被処理材表面温度Twが入力され、対象冷却条件が設定される。
【0081】
対象冷却条件を設定後、決定装置1は、設定された対象冷却条件に基づいて、対象冷却条件における膜温度(対象膜温度)Tbを算出する(S32)。決定装置1は、対象供給ガス温度Tg,in及び対象被処理材表面温度Twを用いて、式(14)により対象膜温度Tbを算出する。算出された対象膜温度Tbは記憶部10に格納される。
【0082】
続いて、決定装置1は、基準膜温度Tb,refに対応する基準ガス物性値と、対象膜温度Tbに対応する対象ガス物性値とを物性値データベース16から読み出す(S33)。決定装置1は、物性値データベース16内の温度フィールドを参照し、基準膜温度Tb,refに対応する温度と同じレコードに含まれる粘性係数μg(Tb,ref)、ガス比熱Cg(Tb,ref)、熱伝導率λ(Tb,ref)を読み出す。決定装置1はまた、物性値データベース16から、基準ガス温度Tg,in,refに対応する熱伝導率λ(Tg,in,ref)を読み出す。決定装置1はさらに、物性値データベース16から、対象膜温度Tbに対応するμg(Tb)、Cg(Tb)及びλ(Tb)と、対象ガス温度Tg,inに対応するλ(Tg,in)とを読み出す。
【0083】
物性値を読み出した後、決定装置1は、式(1)を満たすように、対象局所熱伝達率h(x)を算出する(S34)。具体的には、決定装置1は、記憶部10に格納されている基準局所熱伝達率href(x)を読み出し、ステップS33で読み出された物性値と基準熱伝達率href(x)とを用いて、式(17)により対象局所熱伝達率h(x)を決定する。式(17)中の指数mの値は予め記憶部10に格納されている。指数m値は乱流における一般的な値である0.8でもよいし、図8のように、事前に定常熱流動解析された結果に基づいて得られた近似関数の指数m値(たとえば、m=0.8478)を利用してもよい。算出された対象局所熱伝達率h(x)は記憶部10に格納され、ディスプレイ25に表示される。
【0084】
ユーザが、先の対象冷却条件と異なる他の対象冷却条件での対象局所熱伝達率h(x)を求める場合(S4でYES)、決定装置1はステップS3の動作を再度実行する。つまり、ステップS2における定常熱流動解析を再度実行する必要がなく、定常熱流動解析に必要な時間を省略できる。決定装置1は、記憶部10に既に登録されている基準熱伝達率href(x)及び物性値データベース16内の物性値を用いて、ステップS3の動作により対象熱伝達率h(x)を短時間で決定できる(S3)。
【0085】
以上のとおり、本実施の形態による決定装置1は、ガス炉内の流れ場では式(1)が成立することを利用するため、基準局所熱伝達率href(x)を使って対象熱伝達率h(x)を短時間で算出できる。そのため、決定装置1は、従来のように冷却条件を変更するごとに、熱流動解析を実行したり、実験データを取得したりする必要がなく、対象局所熱伝達率h(x)を求める時間を大幅に短縮できる。
【0086】
上述の物性値データベース16は、ガス組成ごとに作成されてもよい。その場合、冷却条件設定部11は、上記冷却条件に加えて、ガス組成も設定する。対象局所熱伝達率決定部15は、対応するガス組成の物性値データベース内から所定のガス物性値を読み出す。
【0087】
また、上記実施の形態では、物性値データベースから読み出した物性値により基準平均熱伝達率hmrefを特定して、式(17)を用いて対象局所熱伝達率h(x)を求めたが、他の方法により基準平均熱伝達率hmrefを特定し、式(1)に基づいて対象局所熱伝達率h(x)を求めてもよい。たとえば、定常熱流動解析部13により解析された結果に基づいて平均熱伝達率hmrefを算出し、対象局所熱伝達率h(x)の算出に利用してもよい。
【0088】
また、膜温度Tは式(14)で定義したが、他の定義式を用いてもよい。
【実施例1】
【0089】
図3に示した計算領域を対象として、本実施の形態における決定装置1(本発明例)と、従来技術2(比較例)とで局所熱伝達率h(x)を算出し、その精度及び算出時間を比較した。
【0090】
[熱伝達率の算出時間]
【0091】
まず初めに、本発明例と比較例とで、局所熱伝達率の算出時間を測定した。図14に示すとおり、解析に用いる格子点数(微小領域数)を2種類準備した。ただし、本発明例については、ガス流れ場のみを計算領域として定常熱流動解析するため、被処理材内部の格子は使用しなかった。
【0092】
ガス組成を窒素、基準供給ガス温度を298(K)、供給ガス質量流速を339(kg/m/s)、基準被処理材表面温度を1123(K)を基準冷却条件とし、シミュレーションにより局所熱伝達率を算出した。従来例については、冷却開始時の冷却条件を上記基準冷却条件とし、時間刻み幅Δtを0.01秒として冷却開始後50秒間の非定常熱流動解析を行い、局所熱伝達率を算出した。本発明例では定常熱流動解析を行い、基準局所熱伝達率を算出した。本発明例、比較例ともに数値解析手法として有限体積法を使用した。
【0093】
算出時間の測定結果を表2に示す。
【表2】

【0094】
表2を参照して、本発明例では格子点数を問わず、算出時間を従来の1/100以下に短縮できた。本発明例による解析で得られた各所定表面位置xでの基準局所熱伝達率を表3に示す。
【表3】

【0095】
[被処理材の温度計算]
【0096】
上述の実験で得られた局所熱伝達率を用いて、本発明例及び比較例で被処理材の温度計算を実施し、両者の計算結果を比較した。
【0097】
表4に示すとおり、冷却条件C1〜C3について、図15に示す被処理材の表面直下の所定位置L1〜L4での温度推移を計算した。
【表4】

【0098】
比較例は、上述の実験と同様に、冷却条件C1〜C3ごとに時間刻み幅Δtを0.01秒として冷却開始後50秒間のシミュレーションを行った。
【0099】
本発明例は、表3の基準局所熱伝達率href(x)を用いて、冷却条件及び被処理材の表面温度の変化に基づいて図13中のステップS3を実行し、局所熱伝達率h(x)(x=L1〜L4直上の表面位置)を求めた。求めた局所熱伝達率h(x)を用いて熱伝導解析を行い、冷却開始から50秒間における位置L1〜L4の温度推移を算出した。
【0100】
図16〜図18に計算結果を示す。図16は冷却条件C1における計算結果、図17は冷却条件C2における計算結果、図18は冷却条件C3における計算結果である。図中の各マーカー(点)は本発明による計算結果を示す。「○」印がL1での温度、「△」印がL2での温度、「□」印がL3での温度、「◇」印がL4での温度をそれぞれ示す。一方、図中の曲線は比較例により得られた計算結果を示す。中の曲線中、細実線がL1での温度、点線がL2での温度、一点鎖線がL3での温度、太実線がL4での温度をそれぞれ示す。
【0101】
図16〜図18を参照して、本発明例の算出結果はいずれの冷却条件においても比較例の計算結果と同等であった。また、本実験の計算時間は、比較例の計算時間の1/10以下であった。本発明例は比較例よりも計算時間を短縮でき、かつ、その計算結果は比較例と同等の精度を示した。
【0102】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】非定常熱流動解析による局所熱伝達率の決定処理を示すフロー図である。
【図2】定常熱流動解析に用いた被処理材形状の中心軸から外周面までの断面図である。
【図3】図2に示した被処理材を含む計算領域を示す図である。
【図4】図3に示した計算領域に対して定常熱流動解析して得られた、平均熱伝達率と被処理材表面温度との関係を示す図である。
【図5】被処理材の各温度と、被処理材の各所定表面位置での無次元局所熱伝達率との関係を示す図である。
【図6】図3に示した計算領域に対して定常熱流動解析して得られた、平均熱伝達率と冷却条件との関係を示す図である。
【図7】各冷却条件と、被処理材の各所定表面位置での無次元局所熱伝達率との関係を示す図である。
【図8】平均熱伝達率の近似関数と定常熱流動解析結果との相関を示す図である。
【図9】図8と異なる他の平均熱伝達率の近似関数と定常熱流動解析結果との相関を示す図である。
【図10】本実施の形態における局所熱伝達率決定装置の機能構成を示す機能ブロック図である。
【図11】図10中の物性値データベースのデータ構造を示す図である。
【図12】コンピュータ装置のハードウェア構成を示す機能ブロック図である。
【図13】図10に示した局所熱伝達率決定装置の動作を示すフロー図である。
【図14】実施例で用いた計算領域を示す図である。
【図15】実施例で用いた被処理材の温度推移の抽出位置を示す図である。
【図16】本発明例と比較例との被処理材表面の温度推移を示す図である。
【図17】図16と異なる冷却条件における、本発明例と比較例との被処理材表面の温度推移を示す図である。
【図18】図16及び図17と異なる冷却条件における、本発明例と比較例との被処理材表面の温度推移を示す図である。
【符号の説明】
【0104】
1 局所熱伝達率決定装置
11 冷却条件設定部
12 計算領域設定部
13 定常熱流動解析部
14 基準局所熱伝達率算出部
15 対象局所熱伝達率決定部
16 物性値データベース
22 局所熱伝達率決定プログラム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱処理炉内にガスを供給して被処理材を冷却するガス冷却における前記被処理材表面の局所熱伝達率を決定する局所熱伝達率決定プログラムであって、
前記熱処理炉内の領域のうち、前記被処理材を囲む所定範囲のガス流れ場領域を計算領域に設定するステップと、
供給ガス温度と、供給ガス質量流速と、被処理材表面温度とを含む基準冷却条件を設定するステップと、
前記基準冷却条件に基づいて、数値解析手法により前記計算領域の定常熱流動解析を行うステップと、
前記定常熱流動解析の結果に基づいて、前記基準冷却条件における前記被処理材の所定表面位置xでの基準局所熱伝達率href(x)を求めるステップと、
前記供給ガス温度、供給ガス質量流速及び被処理材表面温度のうちの少なくとも1つが前記基準冷却条件と異なる対象冷却条件を設定するステップと、
前記基準局所熱伝達率href(x)を求めた後、前記基準冷却条件により決定される基準平均熱伝達率hmrefと、前記対象冷却条件により決定される対象平均熱伝達率hmと、前記基準局所熱伝達率href(x)と、前記対象冷却条件における前記所定表面位置xでの対象局所熱伝達率h(x)とが、式(1)を満たすように、前記対象局所熱伝達率h(x)を決定するステップとをコンピュータに実行させるための局所熱伝達率決定プログラム。
h(x)/hm=href(x)/hmref (1)
【請求項2】
請求項1に記載の局所熱伝達率決定プログラムであってさらに、
前記ガスの粘性係数、前記ガスの比熱及び前記ガスの熱伝導率を含む複数のガス物性値を複数の温度と対応付けて物性値データベースに登録するステップを備え、
前記対象局所熱伝達率h(x)を決定するステップは、
前記基準冷却条件で前記所定表面位置x上に形成される乱流境界層の基準膜温度と、前記対象冷却条件で所定表面位置x上に形成される乱流境界層の対象膜温度とを求めるステップと、
前記基準膜温度に対応する基準ガス物性値と、前記対象膜温度に対応する対象ガス物性値とを前記物性値データベースから取得するステップとを含み、
前記取得された基準ガス物性値に基づいて決定される基準平均熱伝達率hmrefと、前記取得された対象ガス物性値に基づいて決定される対象平均熱伝達率hmとが、式(1)を満たすように、前記対象局所熱伝達率h(x)を決定することを特徴とする局所熱伝達率決定プログラム。
【請求項3】
熱処理炉内にガスを供給して被処理材を冷却するガス冷却における前記被処理材表面の局所熱伝達率を決定する局所熱伝達率決定装置であって、
前記熱処理炉内の領域のうち、前記被処理材を囲む所定範囲のガス流れ場領域を計算領域に設定する計算領域設定手段と、
供給ガス温度、供給ガス質量流速、及び被処理材表面温度を含む基準冷却条件と、前記供給ガス温度、供給ガス質量流速及び被処理材表面温度のうちの少なくとも1つが前記基準冷却条件と異なる対象冷却条件とを設定する冷却条件設定手段と、
前記基準冷却条件に基づいて、数値解析手法により前記計算領域の定常熱流動解析を行う定常熱流動解析手段と、
前記定常熱流動解析手段の解析結果に基づいて、前記基準冷却条件における前記被処理材の所定表面位置xでの基準局所熱伝達率href(x)を求める基準局所熱伝達率決定手段と、
前記基準局所熱伝達率href(x)を求めた後、前記基準冷却条件により決定される基準平均熱伝達率hmrefと、前記対象冷却条件により決定される対象平均熱伝達率hmと、前記基準局所熱伝達率href(x)と、前記対象冷却条件における前記所定表面位置xでの対象局所熱伝達率h(x)とが、式(1)を満たすように、前記対象局所熱伝達率h(x)を決定する対象局所熱伝達率決定手段とを備えることを特徴とする局所熱伝達率決定装置。
h(x)/hm=href(x)/hmref (1)
【請求項4】
請求項3に記載の局所熱伝達率決定装置であってさらに、
前記ガスの粘性係数、前記ガスの比熱及び前記ガスの熱伝導率を含む複数のガス物性値が複数の温度に対応して登録された物性値データベースを記憶する記憶手段を備え、
前記対象局所熱伝達率決定手段は、
前記基準冷却条件で前記所定表面位置x上に形成される乱流境界層の基準膜温度と、前記対象冷却条件で所定表面位置x上に形成される乱流境界層の対象膜温度とを求める膜温度決定手段と、
前記基準膜温度に対応する基準ガス物性値と、前記対象膜温度に対応する対象ガス物性値とを前記物性値データベースから取得するガス物性値取得手段とを備え、
前記取得された基準ガス物性値に基づいて決定される基準平均熱伝達率hmrefと、前記取得された対象ガス物性値に基づいて決定される対象平均熱伝達率hmとが、式(1)を満たすように、前記対象局所熱伝達率h(x)を決定することを特徴とする局所熱伝達率決定装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate


【公開番号】特開2007−332444(P2007−332444A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−167770(P2006−167770)
【出願日】平成18年6月16日(2006.6.16)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】