説明

局所的鼻腔投与のためのオロパタジンの製剤

鼻のアレルギー性または炎症性障害の治療のためのオロパタジンの局所製剤が開示される。水性製剤は、オロパタジン約0.6%(w/v)を含有する。一つの実施形態において、本発明は、鼻のアレルギー性または炎症性障害の治療のための生成物として有効な局所用オロパタジン製剤を提供する。本発明の製剤は、オロパタジン約0.6%を含む水溶液である。該製剤は、製剤のpHを3.5〜3.95の範囲に維持することができ、かつ塩化ナトリウムの存在下でオロパタジン薬物を可溶化する一助にもなるリン酸塩を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、アレルギー性および炎症性疾患を治療するために使用される局所製剤に関する。より具体的には、本発明は、オロパタジンの製剤ならびに鼻のアレルギー性または炎症性障害を治療および/または予防するためのそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
(先行技術の説明)
共にBurroughs Wellcome Co.に譲渡された特許文献1および特許文献2(「Burroughs Wellcome特許」)に教示されるように、オロパタジン(化学名:Z−11−(3−ジメチルアミノプロピリデン)−6,11−ジヒドロジベンズ[b,e]オキセピン−2−酢酸)を含むドキセピンのいくつかのカルボン酸誘導体は、抗ヒスタミンおよび抗ぜんそく活性を有する。これら2つの特許は、ドキセピンのカルボン酸誘導体を、抗ヒスタミン作用を有する肥満細胞安定化剤として分類しており、それはこれらが、肥満細胞からオータコイド(即ち、ヒスタミン、セロトニン等)の放出を阻害し、標的組織へのヒスタミンの作用を直接的に阻害すると考えられているからである。Burroughs Wellcome特許は、鼻腔用スプレーおよび眼科用製剤を含む、ドキセピンのカルボン酸誘導体を含有する様々な医薬製剤を教示している。例えば、特許文献1の第7段落、7〜26行ならびに実施例8(H)および8(I)参照のこと。
【0003】
協和発酵工業(株)に譲渡された特許文献3(「協和特許」)は、ドキセピンの酢酸誘導体、特にオロパタジンが、抗アレルギーおよび抗炎症活性を有することを教示している。オロパタジンは、式
【0004】
【化1】

を有する化合物のシス形である。ドキセピンの酢酸誘導体について協和特許によって教示されている医薬品形態は、広範な許容可能な担体を含むが、経口および注入投与形態にしか言及されていない。
【0005】
Alcon Laboratories,Inc.および協和発酵工業(株)に譲渡された特許文献4は、アレルギー性眼疾患を治療するための、オロパタジンを含有する局所用眼科用製剤を教示している。特許文献4(’805特許)によれば、局所製剤は、溶液、懸濁液またはゲルであってよい。該製剤は、オロパタジン、等張剤、および「必要に応じて保存剤、緩衝剤、安定化剤、粘性賦形剤等」を含有する。第6段落、30〜43行参照のこと。「ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸等」が、粘性賦形剤として挙げられている。第6段落、55〜57行参照。
【0006】
PATANOL(登録商標)(塩酸オロパタジン眼科用溶液)0.1%は、現在唯一市販されている眼科使用のためのオロパタジン製品である。そのラベル情報によれば、オロパタジン0.1%に相当する塩酸オロパタジン、塩化ベンザルコニウム0.01%、ならびに非特定量の塩化ナトリウム、二塩基性リン酸ナトリウム、塩酸および/または水酸化ナトリウム(pH調節のため)および精製水を含有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第4,871,865号明細書
【特許文献2】米国特許第4,923,892号明細書
【特許文献3】米国特許第5,116,863号明細書
【特許文献4】米国特許第5,641,805号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
鼻のアレルギー状態または炎症状態を治療するための生成物として有効な局所用オロパタジン製剤が望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(発明の要旨)
本発明は、鼻のアレルギー性または炎症性障害の治療のための生成物として有効な局所用オロパタジン製剤を提供する。本発明の製剤は、オロパタジン約0.6%を含む水溶液である。それらは、その比較的高いオロパタジン濃度にもかかわらず、物理的安定性を強化する成分としての任意のポリマー成分を含有しない。該製剤は、製剤のpHを3.5〜3.95の範囲に維持することができ、かつ塩化ナトリウムの存在下でオロパタジン薬物を可溶化する一助にもなるリン酸塩を含有する。
【0010】
他の要素の中でも、本発明は、オロパタジンの安定な鼻腔スプレー用溶液製剤が、該製剤の可溶性または物理的安定性を強化するための任意のポリマー成分を必要とせずに、リン酸緩衝液を使用して3.5〜3.95のpH範囲内で調製できるという知見に基づいている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1A】オロパタジンのpH−可溶性プロファイルを示す図である。
【図1B】オロパタジンのpH−可溶性プロファイルを示す図である。
【図2】NaClおよびNaHPOの、オロパタジンの水への溶解に対する作用を示す図である。
【図3】NaClおよびNaHPOの、オロパタジンの鼻用賦形剤への溶解に対する作用を示す図である。
【図4】NaClおよびNaHPO濃度の、鼻用賦形剤へのオロパタジンの溶解速度への作用を示す図である。
【図5】オロパタジン鼻用スプレー組成物の緩衝能を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(発明の詳細な説明)
別段の指定がない限り、すべての成分量は、%(w/v)ベースで表され、オロパタジンの量へのすべての言及は、オロパタジン遊離塩基へのものである。
【0013】
オロパタジンは、その内容全体が参照によって本明細書に組み込まれる米国特許第5,116,863号に開示の方法によって得ることができる公知の化合物である。本発明の溶液製剤は、オロパタジン0.54〜0.62%を含有する。好ましくは、該溶液製剤はオロパタジン0.6%を含有する。
【0014】
オロパタジンは、カルボン酸官能基(pKa=4.18)および第3級アミノ基(pKa=9.79)の両方を有する。オロパタジンは、溶液のpHに応じて、様々なイオン形態で存在する。オロパタジンは、負に帯電したカルボン酸基および正に帯電した第3級アミノ基の2つのpKa値の間のpH範囲において、主に双性イオンとして存在する。オロパタジン双性イオンの等電点は、pH6.99にある。pKaより低いpHでは、カチオン性オロパタジン(イオン化第3級アミノ基を伴う)が優勢である。pKaより高いpHでは、アニオン性オロパタジン(イオン化カルボン酸基を伴う)が優勢である。
【0015】
オロパタジンの酸−塩基平衡
【0016】
【化2】

様々なアミノ酸などの多くの双性イオン分子では、分子内のイオン相互反応は著しくはなく、または存在しない。しかしオロパタジンの構造は、おそらくは反対に帯電した官能基間の距離および結合角度により、分子内相互反応が存在し、著しくなるようなものである。この相互反応は、分子のイオン特性および双極子特性を効果的に低減する。反対に帯電した官能基間の分子内相互反応の全体の作用は、オロパタジンの水溶性の低減である。オロパタジンは、図1A(理論上)および1B(リン酸緩衝液を使用して得た)に示されるpH可溶性プロファイルを有する。
【0017】
一般に、オロパタジンは、薬学的に許容できる塩の形態で添加される。オロパタジンの薬学的に許容できる塩の例には、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩およびリン酸塩などの無機酸塩;酢酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩およびクエン酸塩などの有機酸塩;ナトリウム塩およびカリウム塩などのアルカリ金属塩;マグネシウム塩およびカルシウム塩などのアルカリ土類金属塩;アルミニウム塩および亜鉛塩などの金属塩;ならびにトリエチルアミン付加塩(トロメタミンとしても公知)、モルホリン付加塩およびピペリジン付加塩などの有機アミン付加塩が含まれる。本発明の溶液組成物に使用するための最も好ましいオロパタジンの形態は、(Z)−11−(3−ジメチルアミノプロピリデン)−6,11−ジヒドロジベンズ−[b,e]オキセピン−2−酢酸の塩酸塩である。オロパタジンが、この塩の形態で本発明の組成物に添加される場合、塩酸オロパタジン0.665%が、オロパタジン遊離塩基0.6%に相当する。好ましくは、本発明の組成物は、塩酸オロパタジン約0.665%を含む。
【0018】
オロパタジンに加えて、本発明の水溶液組成物はリン酸塩を含む。リン酸塩は、組成物の緩衝能に寄与することによって3.5〜3.95の標的pH範囲内に組成物のpHを維持する一助となるだけでなく、オロパタジンを可溶化する一助にもなる。本発明の組成物に使用するのに適切なリン酸塩には、一塩基性リン酸ナトリウム、二塩基性リン酸ナトリウム、三塩基性リン酸ナトリウム、一塩基性リン酸カリウム、二塩基性リン酸カリウムおよび三塩基性リン酸カリウムが含まれる。最も好ましいリン酸塩は、二塩基性リン酸ナトリウムである。本発明の組成物は、二塩基性リン酸ナトリウム0.2〜0.8%、好ましくは0.3〜0.7%、最も好ましくは0.4〜0.6%に相当する量のリン酸塩(浸透圧の寄与ベースで)を含む。好ましい一実施形態では、リン酸塩は、0.4〜0.6%(w/v)の濃度の二塩基性リン酸ナトリウムである。最も好ましい一実施形態では、組成物は、二塩基性リン酸ナトリウム0.5%(w/v)を含有する。
【0019】
リン酸緩衝液は一般に、中性pH付近で配合される水性医薬組成物に使用される。リン酸緩衝液(pKa=2.12、pKa=7.1、pKa=12.67)は、3.5〜3.95の標的pH範囲の水性組成物には通常選択されず、というのはそれがその領域では緩衝能が低いからである。他の緩衝剤は、酢酸塩、クエン酸塩およびホウ酸塩緩衝剤を含む水性医薬組成物に一般に使用されるが、本発明の局所用鼻用組成物への使用には適していない。ホウ酸塩緩衝剤は、それらが3.5〜3.95のpH範囲で有意な緩衝能を有していないことから適切ではない。酢酸塩およびクエン酸塩緩衝剤は、この領域で緩衝能を有するが、それらが鼻の粘膜組織に刺激ならびに望ましくない味および/または匂いを生じる潜在的可能性を有することから好ましくない。
【0020】
オロパタジンおよびリン酸塩に加えて、本発明の組成物は、等張性調節剤としての塩化ナトリウムを含む。該組成物は、最終組成物が鼻に許容される浸透圧、好ましくは240〜350mOsm/kgを有するのに十分な量の塩化ナトリウムを含有する。最も好ましくは、本発明の組成物の塩化ナトリウムの量は、組成物が260〜330mOsm/kgの浸透圧を有するのに十分な量である。好ましい一実施形態では、組成物は、塩化ナトリウム0.3〜0.6%を含有する。より好ましい一実施形態では、組成物は、塩化ナトリウム0.35〜0.55%を含有し、最も好ましい一実施形態では、組成物は、塩化ナトリウム0.35〜0.45%を含有する。
【0021】
本発明の組成物はまた、薬学的に許容できるpH調節剤を含有する。かかるpH調節剤は公知であり、それに限定されるものではないが、塩酸(HCl)および水酸化ナトリウム(NaOH)が含まれる。本発明の組成物は、好ましくは3.5〜3.95のpH、より好ましくは3.6〜3.8のpHの組成物を得るために十分な量のpH調節剤を含有する。
【0022】
一実施形態では、本発明の水性組成物は、本質的にオロパタジン、リン酸緩衝液、塩化ナトリウム、pH調節剤および水からなり、3.5〜3.95のpHを有する。これらの組成物は、微生物汚染を回避するために滅菌組成物として製造し、多回用量用の加圧エアロゾル容器にパッケージすることができる。別の実施形態では、本発明の水性組成物は、該組成物が、抗菌効果のためのUnited States Pharmacopeia/National Formulary XXX基準、より好ましくは抗菌保存のためのPharm.Eur.第5版基準(Pharm.Eur.B保存効果標準)を通過するように、保存剤およびキレート剤を含有する。適切な保存剤には、p−ヒドロキシ安息香酸エステル、塩化ベンザルコニウム、臭化ベンゾドデシニウム等が含まれる。適切なキレート剤には、エデト酸ナトリウム等が含まれる。本発明の組成物に使用するための最も好ましい保存作用成分は、塩化ベンザルコニウム(「BAC」)である。塩化ベンザルコニウムの量は、好ましくは0.005〜0.015%であり、より好ましくは0.01%である。最も好ましいキレート剤は、エデト酸二ナトリウム(「EDTA」)である。本発明の組成物のエデト酸二ナトリウムの量は、好ましくは0.005〜0.015%であり、より好ましくは0.01%である。
【0023】
本発明の水溶液組成物は、オロパタジンの可溶性または溶液の物理的安定性を強化することを企図したポリマー成分を含有しない。例えば、本発明の組成物は、ポリビニルピロリドン、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルアクリル酸、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムまたはキサンタンガムを含有しない。
【0024】
本発明の組成物は、好ましくは透明なプラスチック容器にパッケージされる。好ましい容器は、鼻用スプレーポンプが備えられている高密度ポリエチレン容器である。好ましくは、パッケージは、参照によって本明細書に組み込まれる、一般に譲渡されている同時係属の米国特許出願第2006/0110328号に記載のスプレー特性を提供するように設計される。
【0025】
本発明はまた、オロパタジン0.6%、リン酸緩衝液、塩化ナトリウム、pH調節剤および水を含有する組成物を鼻腔に局所投与するステップを含む、アレルギー性鼻炎の治療法に関する。組成物は、任意選択で1つまたは複数の保存作用成分を含有する。好ましくは、組成物は、オロパタジン1200mcg(例えば、100マイクロリットルのスプレー当たり600/mcg×スプレー2回)が1日当たり2回各鼻孔に送達されるように投与される。
【0026】
本発明のいくつかの実施形態を、以下の実施例に例示する。
【実施例】
【0027】
(実施例1)
局所投与可能な鼻用溶液
【0028】
【表1】

表1に示した鼻用組成物の例示的な配合手順を以下に記載する。
【0029】
1.磁気攪拌棒を備えた適切な配合容器を秤量する。バッチ重量約80%の精製水を添加する。
【0030】
2.攪拌しながら、二塩基性リン酸ナトリウム(無水)、塩化ナトリウム、エデト酸二ナトリウム、塩化ベンザルコニウムおよびオロパタジンHClを添加する。
【0031】
3.バッチ100ml当たり6Nの塩酸約0.55gに相当するものを添加する。
【0032】
4.各成分の溶解のために、各添加の間に適切な時間をとる。
【0033】
5.最終バッチ重量約90%まで、精製水を添加する。
【0034】
6.pHを測定し、必要に応じて6N(および/または1N)の塩酸および1Nの水酸化ナトリウムで3.7に調節する。
【0035】
7.精製水(QS)で最終バッチ重量を調節する。
【0036】
8.最終pHを測定する。
【0037】
9.0.2μmの濾過膜で濾過する。
【0038】
(実施例2)
塩酸オロパタジンの溶解に対するNaClおよびリン酸緩衝液の作用
水への塩酸オロパタジンの溶解速度に対するNaClの作用を決定した。NaClは、オロパタジンの溶解速度を著しく低減した。しかし、NaHPOの添加により、オロパタジンの溶解は劇的に改善した。NaHPOなしでのオロパタジン0.6%溶液の完全な溶解は、オロパタジンの総量が最終的に溶解するのに少なくとも数時間を消費するが、NaHPOを用いると1分もかからない。結果を図2に示す。
【0039】
(実施例3)
鼻用賦形剤への塩酸オロパタジン溶解に対するNaClおよびNaHPOの作用
EDTA0.01%およびBAC0.01%を含有する鼻用製剤への塩酸オロパタジンの溶解速度に対するNaCl、Na2HPO4およびマンニトールの作用を決定した。結果を図3に示す。この賦形剤におけるリン酸塩の作用は、実施例2で水において示されたものと同じである。
【0040】
(実施例4)
溶解に対するNaClおよびNaHPO濃度の作用
EDTA0.01%およびBAC0.01%を含有する鼻用製剤への塩酸オロパタジンの溶解速度に対するNaClおよびNaHPO濃度の作用を決定した。結果を図4に示す。オロパタジンHClの水溶性は、NaClの濃度が上昇するにつれて低減する。しかし、リン酸緩衝液の増加は、NaClの存在下でのオロパタジンHClの水溶性の増大に相関している。
【0041】
(実施例5)
オロパタジン鼻用スプレー組成物に対するリン酸緩衝液の作用
以下の表2に示される2つの組成物を、実施例1に記載の手順を使用して調製し、配合手順中の様々な点で組成物の透明性の目視観察を行った。結果を表2に示す。
【0042】
【表2】

製剤Aの結果は、それが透明な溶液であることを示している。製剤Bの結果は、オロパタジン0.6%がpH3.189で溶解するはずであることを示すpH−可溶性プロファイルにもかかわらず、オロパタジンが溶液に溶解しなかったことを示す。これらの結果は、リン酸緩衝液なしでNaCl0.7%の存在下、3.6もの低いpHで実施例1に記載の配合手順を使用しても、塩酸オロパタジン0.665%は水に完全には溶解しなかったことを示す。
【0043】
(実施例6)
曇りのあるオロパタジン0.6%鼻用スプレー組成物に添加したリン酸緩衝液の作用
表3に示される製剤3A、3Bおよび3Cをリン酸緩衝液なしで調製したが、広範な攪拌にもかかわらずオロパタジンHClは完全には可溶化しなかった。製剤3Cの一部を取り出し、リン酸緩衝液を添加して製剤3Dを形成した。表3にまとめた結果は、塩酸オロパタジン0.665%が、リン酸塩なしでは試験した鼻用賦形剤に溶けないことを示している。
【0044】
【表3】

(実施例7)
オロパタジン0.6%鼻用スプレー組成物に対する配合の連続の作用
先の実施例1の組成物を、諸成分の添加のための4つの異なる連続を使用して調製した。4つの連続は、表4の「OA」(添加順)カラムに示す。各場合において、組成物の透明性に関する目視観察を記録した。結果を表4に示す。すべての4つの場合では(製剤4A〜4D)、配合手順の最後に溶液は透明になった(溶液は、いくつかの外部からの繊維粒子を含有していたが、これは薬物または製剤賦形剤に関連しているようには見えず、実験装置およびガラス製品に起因する可能性が高かった)。
【0045】
【表4】

(実施例8)
様々な緩衝系の作用
先の実施例1の組成物を調製したが、それぞれ酢酸塩、ホウ酸塩およびクエン酸塩緩衝剤を、リン酸緩衝液の代わりに代用した。組成物のそれぞれの透明性に関する目視観察を記録し、表5に示す。
【0046】
【表5】

(実施例9)
リン酸緩衝液、NaClおよび温水の作用
表6に示す組成物を調製して、(1)塩酸オロパタジン、BAC、EDTA、NaOH/HClおよびNaClを含有する組成物へのリン酸緩衝液の添加の作用、(2)オロパタジン、BAC、EDTA、NaOH/HClを含有する組成物へのNaClの添加の作用、ならびに(3)オロパタジン、BAC、EDTA、NaClおよびNaOH/HClを含む組成物へのオロパタジンの溶解に対する温水の作用を調べた。各場合において、組成物の透明性に関する目視観察を記録した。結果を表6に示す。
【0047】
【表6−1】

【0048】
【表6−2】

(実施例10)
リン酸緩衝液の緩衝能
リン酸緩衝液の実施例1の組成物の緩衝能への寄与を、従来の酸−塩基滴定実験で決定した。結果を図5に示す。実施例1の組成物の緩衝能(リン酸緩衝液なし)は、pH3.5〜3.8では2.66であり、pH3.5〜3.9では2.7であった。実施例1の組成物の緩衝能(即ちリン酸緩衝液を含む)は、pH3.5〜3.8では2.93であり、pH3.5〜3.8では3.1であった。
【0049】
(実施例11)
リン酸緩衝液なしのオロパタジン鼻用スプレー組成物の安定性
下の表7Aに示す組成物(リン酸緩衝液なし)を調製した。各組成物の透明性の目視観察を、各組成物が調製されるときに記録した。結果を表7Aに示す。
【0050】
【表7A】

次いで、組成物のそれぞれを分割した。それぞれの一方の部分を再度3つの保存バッチに分割し(「濾過前」)、他方の部分を、0.2μMフィルターを介して濾過し、次いで3つの保存バッチに分割した(「濾過後」)。それぞれの組の保存バッチの1つを、室温(〜22℃)で保存し、1つを冷蔵庫(〜4℃)で保存し、1つを凍結融解サイクル(週末を除き、ある日は冷蔵庫内(〜−20℃)、ある日は室温)にかけた。製剤7A(BACおよびEDTAなし)の各サンプルの透明性の目視観察を、指示された日に記録し、結果を記録した。結果を表7B(濾過前)および7C(濾過後)に示す。
【0051】
【表7B】

【0052】
【表7C】

9日の観測後、製剤7Aの濾過後の部分を分割し、攪拌棒をシーディング剤として各サンプルに添加した(攪拌棒は回転させなかった)。目視観察を記録し、結果を表7Dに示す。
【0053】
【表7D】

濾過前および濾過後のサンプルの両方に対して、9日の観察後に分割した組成物7Aの他の部分に過剰のオロパタジン(少数の小さい顆粒)を添加して、シーディングがオロパタジンを沈殿させるかどうかを決定した。指定された日に目視観察を記録した。これらの結果を表7E(未濾過組成物)および7F(濾過済み組成物)に示す。
【0054】
【表7E】

【0055】
【表7F】

組成物「7B」(BACおよびEDTAを含有)の安定性を、同じようにして評価した。結果を、表7G(濾過前)、7H(濾過後)、7I(9日後に攪拌棒添加)、7J(9日後に過剰のオロパタジン添加;濾過前)および7K(9日後に過剰のオロパタジン添加;濾過後)に示す。
【0056】
【表7G】

【0057】
【表7H】

【0058】
【表7I】

【0059】
【表7J】

【0060】
【表7K】

(実施例12)
リン酸緩衝液の作用
下の表8に示す組成物を、実施例1に記載の手順に類似の配合手順を使用して調製した。すべての4つの場合において、配合中にオロパタジンの後にNaClを添加した。すべての4つの組成物は、標的濃度0.6%の110%に相当する濃度を含有していた。これらの組成物の内の2つをpH3.95で配合し、2つをpH4.10で配合して、極限状態を試験した。結果を表8に示す。
【0061】
【表8】

(実施例13)
保存安定性
実施例1の組成物の溶液安定性を、表9に示されるpHにおいて様々な組成物を調製し、それらのサンプルを13の凍結溶融サイクル(先の実施例11に記載のものと同じサイクル)にかけることによって調べた。最後のサイクル後、各サンプルを冷凍庫の中で約3週間保存し、次いで分析した。オロパタジン(濾過の前後、0.2μMフィルター)の量は、HPLCアッセイによって標示量パーセントとして決定した(0.6%)。各サンプルを、溶液の透明性の4つの試験を使用して評価した。「Nephelos」値は濁度計(HF Scientific,Inc.、Model No.DRT100B)を使用して得た。「透明性」は、溶液の透明性および乳白色度を評価するために、Ph.Eur.(第5版)法に類似の方法を使用して目視観察によって決定した。「沈殿」は、目視検査によって決定し、沈殿物の存在および不在を記録した。「目視観察による粒子」は、ライトボックスの下で目視検査によって決定したが、ここでサンプル5mL当たり3個以下の粒子は、「本質的に粒子を含まない」とみなす。浸透圧およびpHも、各組成物について決定した。結果を表9に示す。5つの場合の内4つ(サンプル1〜4)において、組成物は、凍結溶融サイクル研究後に透明溶液になったが、このことは、ポリマー性の物理的安定性強化剤なしにもかかわらず、実施例1の組成物が安定な水溶液であることを示している。透明溶液のままでなかったサンプルが、サンプル5である(pH=4.45)。
【0062】
【表9】

いくつかの好ましい実施形態を参照することによって本発明を説明してきたが、その特別なまたは本質的な特徴から逸脱せずに、他の特定の形態または変更形態において具体化できることを理解されたい。したがって上記の実施形態は、あらゆる点で例示的であり、限定的なものではないとみなされ、本発明の範囲は先の説明ではなく添付の特許請求の範囲によって示される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)オロパタジン遊離塩基0.54〜0.62%(w/v)または当量のオロパタジンの薬学的に許容できる塩;
b)二塩基性リン酸ナトリウム0.2〜0.8%(w/v)と当量のリン酸塩であって、該リン酸塩は、一塩基性リン酸ナトリウム、二塩基性リン酸ナトリウム、三塩基性リン酸ナトリウム、一塩基性リン酸カリウム、二塩基性リン酸カリウム、および三塩基性リン酸カリウムからなる群から選択される、リン酸塩;
c)NaCl 0.3〜0.6%(w/v);
d)組成物がpH3.6〜3.8を有するのに十分な量のpH調節剤;
e)塩化ベンザルコニウム0.005〜0.015%(w/v);
f)エデト酸二ナトリウム0.005〜0.015%(w/v);ならびに
g)水
から本質的になる、組成物。
【請求項2】
a)オロパタジン遊離塩基0.6%(w/v)または当量のオロパタジンの薬学的に許容できる塩;
b)二塩基性リン酸ナトリウム0.4〜0.6%(w/v);
c)NaCl 0.35〜0.45%(w/v);
d)組成物がpH3.6〜3.8を有するのに十分な量のpH調節剤であって、該pH調節剤は、NaOHおよびHClからなる群から選択される、pH調節剤;
e)塩化ベンザルコニウム0.01%(w/v);
f)エデト酸二ナトリウム0.01%(w/v);ならびに
g)水
から本質的になる、組成物。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−518075(P2010−518075A)
【公表日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−549052(P2009−549052)
【出願日】平成19年2月7日(2007.2.7)
【国際出願番号】PCT/US2007/003285
【国際公開番号】WO2008/097220
【国際公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【出願人】(399054697)アルコン,インコーポレイテッド (102)
【Fターム(参考)】