説明

屋根上取付具

【課題】重ね式接合構造の波形屋根の場合において、波形屋根の上面に突設したボルト体に、鍔片間でずれが発生するおそれがなく、確実、強固にかつ安定した状態に取り付けることができる屋根上取付具を提供する。
【解決手段】一対の挟持部材10を開閉自在に支点連結して挟持具1を形成し、挟持具1の作用点とされる一対の鍔片13を相互近接させ固定して、波形屋根30の頂部31aより突出したボルト体Bに挟着させる構造とした屋根上取付具Aであって、挟持部材10の鍔片13の先端部13aには、相互に対向し、内周が円弧形に湾曲した分割雌ネジ凹所13aaが形成されており、両分割雌ネジ凹所13aaは、ボルト体Bの雄ネジ部B1を挟み込んで噛合する構造となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波形屋根の上面に突出したボルト体に挟着させて屋根上に取り付ける屋根上取付具に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、折板屋根(角波形屋根)、丸波形屋根等の波形屋根の上面に、例えばテレビアンテナや空調機器、屋上緑化トレイ、太陽電池パネル、断熱シート等の各種機器・部材類を配設することが実施されており、従来には、これらの機器・部材類を屋根上に取り付けるための種々の屋根上取付具が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
具体的には、特許文献1に記載の屋根上取付具は、下方に向けて拡開した、2つの挟持部材よりなる挟持具の交差状に連結した両上板に、挟持具締付ボルトを貫通させたうえで締付ナットを螺合し、脚片の下端から相対向した両鍔片を鋏のごとく近接させて、波形屋根の頂部における屋根材のハゼ式の接合により形成されたハゼ部に挟着させて取り付ける構造となっている。
【0004】
同文献に記載された屋根上取付具は、2つの挟持部材よりなる挟持具を、開閉自在の緩んだ状態から、挟持具締付ボルト、締付ナットによる螺合により上板を締め付けて固定する構造となっているため、操作を容易に行うことができ、さらに締付操作をするための締付ナットを上板の上面側に配しているため、螺合する際の作業性はきわめてよい。また、挟持具締付ボルトを上板のボルト貫通孔に下方より貫通させる際の作業性をよくするために、鍔片の先端中央に半円状の切欠き凹部が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3368374号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の屋根上取付具では、上板に形成された切り溝同士で噛み合わせ可能にした2つの挟持部材を組み合わせて開閉自在な挟持具を構成しているため、締め付けたときに、2つの挟持部材の鍔片が水平方向にわずかにずれるおそれがある。特に、上板の切り溝やボルト貫通孔には、作業時の開閉操作をスムーズにさせるための遊びが含まれているので、その遊びによって大きなずれが発生する可能性もある。
【0007】
このように、上記文献の屋根上取付具は、ずれが発生するおそれがあるため、水平方向の多少のずれが起こっても問題のない、ハゼ部への装着に限定したものと想定でき、波形屋根の重ね式接合に使用されるボルト体への装着については全く想定していないものと考えられる。このことは、上記文献において、鍔片の先端中央に施工性をよくするための切欠き凹部を設けたことからも想定できる。
【0008】
かりに、鍔片の先端中央に切欠き凹部が形成されておらず、先端が直線状で平行に向かい合う形状であったとしても、そのような形状では、波形屋根の上面に突出した円柱状のボルト体に対してずれなく装着させることが、きわめて困難であると予想される。
【0009】
このような事情から、上記文献の屋根上取付具のごとく2つの挟持部材で構成した挟持具を、波形屋根の上面に突出した円柱状のボルト体へ装着させるためには、ボルト体との間でずれが発生し得ないような特殊な係止構造を有することが必要とされるが、そのようなものは現在のところ提案されていない。
【0010】
また、重ね式接合構造の波形屋根では、波形屋根の上面に、上記ボルト体に螺着されるナットが配されているから、そのナットよりも上方位置に屋根上取付具を取り付ける必要があり、そのため、屋根上取付具を屋根に密着した状態で取り付けることはできず、かりに2つの挟持部材の両鍔片がボルト体に挟着できたとしても、不安定になってしまうおそれがある。
【0011】
本発明は、このような事情を考慮して提案されたもので、その目的は、重ね式接合構造の波形屋根の場合において、その波形屋根の上面に突設したボルト体に、鍔片間でずれが発生するおそれがなく、確実、強固にかつ安定した状態に取り付けることができる屋根上取付具を提供することにある。特に、一対の挟持部材よりなる挟持具を採用した屋根上取付具において、ボルト体への確実な装着を可能にすることを主たる目的としている。また、部品点数を減らすことも本発明の目的に含まれる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、請求項1に係る屋根上取付具は、一対の挟持部材を開閉自在に支点連結して挟持具を構成し、挟持具の作用点とされる相対向する一対の鍔片を相互近接させ固定して、波形屋根の頂部より突出したボルト体に挟着させる構造とした屋根上取付具であって、挟持部材の鍔片の先端部には、相互に対向し、内周が円弧形に湾曲した分割雌ネジ凹所が形成されており、両分割雌ネジ凹所は、ボルト体の雄ネジ部を挟み込んで噛合する構造となっていることを特徴とする。
【0013】
請求項2に係る屋根上取付具は、挟持部材は、中央にボルト貫通孔が開設され、ボルト貫通孔から一方の側端縁に至る切り溝が形成された上板と、上板の基端より下方に延びる脚片と、脚片の下端から上板と略同一の方向に延びる鍔片とより構成されており、挟持具は、2つの挟持部材の上板同士を相対向させた状態で、相互の上板の先端が相手の上板の基端の下に配されるように、上板の切り溝同士を相互差し込みして両上板を揺動自在に噛み合わせてボルト貫通孔同士を一致させ、その一致させたボルト貫通孔に挟持具締付ボルトを通し、締付ナットを螺合することで鍔片の先端同士を近接させる構造としている。
【0014】
請求項3に係る屋根上取付具は、分割雌ネジ凹所が鍔片の先端部の辺縁を切り欠いて形成されている。
【0015】
請求項4に係る屋根上取付具は、鍔片の先端部に先端部から上方に延びる起立片がさらに形成されており、分割雌ネジ凹所は起立片の上下方向に凹溝状に形成されている。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、次のような効果がある。
【0017】
すなわち、請求項1に係る屋根上取付具によれば、両鍔片のそれぞれの先端部に、相互に対向し、内周が円弧形に湾曲した分割雌ネジ凹所が形成され、その分割雌ネジ凹所がボルト体の雄ネジ部を挟み込んで噛合する構造となっているので、鍔片間にずれが発生することなく、鍔片をボルト体に強固に挟着させることができる。また、鍔片に雌ネジ構造が備わっているので、ボルト体と螺合するナットを必要とせず、部品点数を減らすことができる。さらに、ナットが不要なため、鍔片を波形屋根の上面に密着させることができ、屋根上取付具を波形屋根に対して、安定して強固に取り付けることができる。もちろん、ハゼ式の場合にも、鍔片をハゼ部の脚部に挟着させて取り付けることができる。
【0018】
また、屋根上取付具が2つの挟持部材を用いた構造であり、閉操作時に遊び等による水平方向のずれが発生する可能性があるが、2つの分割雌ネジ凹所でボルト体を挟み込む構造であるため、そのようなずれが発生するおそれはない。
【0019】
このように、本発明の屋根上取付具によれば、1つの屋根上取付具だけで、ハゼ部だけでなく、重ね式接合構造の折板屋根に対しても簡単かつ確実に取り付けできる。
【0020】
また、ボルト体に挟着させる挟持具が一対の挟持部材を支点連結して形成されているので、力点部分を操作するだけで容易に、作用点とされる一対の鍔片を相互近接させることができ、ボルト体への挟着作業を簡便に行える。
【0021】
請求項2に係る屋根上取付具によれば、挟持具は、2つの挟持部材の上板同士を相対向させた状態で、相互の上板の先端が相手の上板の基端の下に配されるように、上板の切り溝同士を相互差し込みして両上板を揺動自在に噛み合わせてボルト貫通孔同士を一致させ、その一致させたボルト貫通孔に挟持具締付ボルトを通し、締付ナットを螺合することで鍔片の先端同士を近接させる構造としているので、2枚重なった上板を挟持具締付ボルトと締付ナットで上下方向に締め付けるだけで容易に鍔片をボルト体に挟着させることができる。特に、締付ナットを上板の上面側に配するようにすれば、さらに締付操作を簡単に行える。
【0022】
さらに、挟持具が2つの挟持部材で構成され、それらが開閉自在に支点連結されているので、挟持具締付ボルトと締付ナットとが緩んだ状態にあるときは、2つの挟持部材も緩んだ状態にある。そのため、鍔片を閉状態に固定するためには緩んだ締付ナットを締め付けて上板同士を固定するだけでよく、そのような締め付けは手操作でもできるため施工性がよい。
【0023】
請求項3に係る屋根上取付具では、分割雌ネジ凹所が鍔片の先端部の辺縁を切り欠いた形状となっているので、特別な部材を必要とせず雌ネジ構造を形成できる。
【0024】
請求項4に係る屋根上取付具では、分割雌ネジ凹所が鍔片の先端部から延びた起立片の上下方向に凹溝状に形成されているため、ボルト体の雄ネジ部のほぼ全長に対して噛合することができ、屋根上取付具を波形屋根に強固に取り付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る屋根上取付具の第1の実施形態の説明図であり、屋根上取付具を波形屋根へ取り付ける前の状態を示す分解斜視図である。
【図2】同屋根上取付具を波形屋根へ取り付けた状態を示す斜視図である。
【図3】同屋根上取付具の分解斜視図である。
【図4】(a)、(b)は、同屋根上取付具の施工状態を示す部分断面正面図である。
【図5】(a)、(b)は、同屋根上取付具の施工状態を示す部分断面正面図である。
【図6】同屋根上取付具の他の波形屋根への取付例を示す分解斜視図である。
【図7】本発明に係る屋根上取付具の第2の実施形態の説明図であり、屋根上取付具を波形屋根へ取り付ける前の状態を示す分解斜視図である。
【図8】同屋根上取付具を波形屋根へ取り付けた状態を示す斜視図である。
【図9】同屋根上取付具の分解斜視図である。
【図10】(a)、(b)は、同屋根上取付具の施工状態を示す部分断面正面図である。
【図11】(a)、(b)は、同屋根上取付具の施工状態を示す部分断面正面図である。
【図12】(a)、(b)は、本発明に係る屋根上取付具のさらに他の実施形態を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しながら説明する。なお以下には、本発明の屋根上取付具の取付対象である波形屋根として、角波形屋根、つまり折板屋根を例示しているが、丸波形屋根(略半円形の山部と谷部とが交互に連続する屋根)にも適用できる。また、屋根の素材としては、金属や合成樹脂、セメント系等のものが適用できる。
【0027】
図1は、本発明に係る屋根上取付具の第1の実施形態の説明図であり、屋根上取付具を波形屋根へ取り付ける前の状態を示す分解斜視図を示している。図2は、同屋根上取付具を波形屋根へ取り付けた状態を示す斜視図である。図3は、同屋根上取付具の分解斜視図である。また、図4(a)、(b)および図5(a)、(b)は、同屋根上取付具の施工状態を示す断面図である。
【0028】
本実施形態に使用される折板屋根30は、山部31と谷部32とが交互に連続する屋根であって、複数の折板屋根材を側端縁の山部31の頂部31aで重合し、その重合部30aでボルト体Bと、後述する屋根上取付具Aの分割雌ネジ凹所13aaとの螺着によって連結した重ね式接合構造となっている。また、ボルト孔30bからの水浸入を防止するために、頂部31a上面のボルト孔30bの周辺等に防水パッキン(図示省略)を取り付けることが望ましい。
【0029】
一方、屋根上取付具Aは、金属板または硬質樹脂板よりなり、折板屋根30の頂部31aより上方に突出した重合部連結用の上記ボルト体Bに挟着して、取付、固定する構造となっている。
【0030】
この屋根上取付具Aは、一対の挟持部材10を開閉自在に支点連結して挟持具1を構成し、挟持具1の作用点とされる相対向する一対の鍔片13を相互近接させ固定して、折板屋根30の頂部31aより突出したボルト体Bに挟着させる構造とした取付具であって、鍔片13の先端部13aには、相互に対向し、内周が円弧形に湾曲した分割雌ネジ凹所13aaが形成されており、それら2つの分割雌ネジ凹所13aaは、ボルト体Bの雄ネジ部B1を挟み込んで噛合する構造となっている。
【0031】
まず、本発明の特徴である、鍔片13の分割雌ネジ凹所13aaによるボルト体Bへの挟着構造を除く挟持具1の全体構造について説明する。
【0032】
挟持具1を構成する一対の挟持部材10のそれぞれは、中央にボルト貫通孔11eが開設され、ボルト貫通孔11eから一方の側端縁に至る切り溝11dが形成された上板11と、上板11の基端より折曲して下方に延びる脚片12と、脚片12の下端から上板11と略同一の方向に延びる鍔片13とより構成されている。
【0033】
挟持具1は、上記2つの挟持部材10の上板11同士を相対向させた状態で、相互の上板11の先端が相手の上板11の基端の下に配されるように、上板11の切り溝11d同士を相互差し込みして両上板11を揺動自在に噛み合わせてボルト貫通孔11e同士を一致させ、その一致させたボルト貫通孔11eに挟持具締付ボルト21を通し、締付ナット22を螺合することで鍔片13の先端部13a同士を近接させる構造となっている。
【0034】
ここで、挟持具締付ボルト21としては、図示するように、角根丸頭ボルトを使用すればよく、締付ナット22としては、ハット状の座金22bの頂面にナット22aが回動自在に取り付けられた座金付きナットを使用すればよい。ボルト止め23は合成樹脂等より製され、孔23aの周縁に複数の切り込み23bが形成してある。
【0035】
以上の構造を要約すれば、2つの挟持部材10は上板11に形成され重なり合った切り溝11dで交差状に連結され、挟持具締付ボルト21と締付ナット22で上下から2つの上板11を締め付けることで、切り溝11d部分を支点として力点となる上板11の先端を拡開させ、交差状態にある両上板11をより平板状に近づけ、それによって作用点とされる両鍔片13を相互近接させるような変形鋏構造となっている。
【0036】
また、さらに具体的には、図3に示すように、上板11は平板状の基端部11aと、その基端部11aより先端側に形成された段差部11cと、その段差部11cよりさらに先端側に形成された、基端部11aよりほぼ板厚1枚分低い位置にある先端部11bとを備えている。そして、上板11のほぼ中央には、段差部11cを中心に基端部11aと先端部11bにまたがる長孔が設けてあり、この長孔が上記ボルト貫通孔11eを構成している。さらに、この長孔の先端部11b側の端部側には、下向きに切り起こした押さえ爪11fが形成されている。また、このボルト貫通孔11eに連通する上記切り溝11dは、段差部11cに沿って形成されている。なお上板11は、全体として緩い前方傾斜状となっていることが望ましい。
【0037】
このように、段差部11cを、上板11の中央に設けたボルト貫通孔11eと切り溝11dとに沿って形成することで、上板11の先端部11bが開いたときに、重合した2枚の上板11がほぼ平板状となり、かつ上板11の基端部11aと相手の挟持部材10の上板11の先端部11bとの間の隙間がより小さくなって、ぐらつくおそれのない、より安定した形状とすることができる。
【0038】
このような屋根上取付具Aによれば、挟持具1が2つの挟持部材10で構成され、それらが開閉自在に支点連結されているので、挟持具締付ボルト21と締付ナット22とが緩んだ状態にあるときは、2つの挟持部材10も緩んだ状態にある。そのため、鍔片13を閉状態に固定するためには、締付ナット22を締め付けて上板11同士を固定するだけでよく、施工性がよい。
【0039】
ついで、本発明の特徴である、屋根上取付具Aの鍔片13によるボルト体Bへの挟着構造について詳述する。
【0040】
2つの挟持部材10の鍔片13のそれぞれの先端部13aには、両先端部13aがボルト体Bの雄ネジ部B1に挟着したときに、両方で雌ネジ部を構成する分割雌ネジ凹所13aaが形成されている。この分割雌ネジ凹所13aaは、相互に対向した位置にあり、先端部13aの辺縁中央を円弧形(図例では半円形)に切り欠いた形状となっており、その内周面にはネジ溝が切られている。つまり、鍔片13の先端部13a同士がほぼ接触した状態になると、近接した両分割雌ネジ凹所13aaによって、連続した両鍔片の中央には半円ずつに分離された円形の仮想の貫通ネジ孔が形成される。
【0041】
この屋根上取付具Aが折板屋根30に正しく取り付けられたときには、図2に示すように、2つの分割雌ネジ凹所13aaが結合されてできた仮想の貫通ネジ孔にボルト体Bの雄ネジ部B1が嵌挿されるように、鍔片13による隙間のない挟着状態が形成される。このとき、雄ネジ部B1と分割雌ネジ凹所13aaとは、ネジ溝とネジ山が相互に噛み合って、強固な挟着関係が形成される。
【0042】
なお、この例では、両分割雌ネジ凹所13aaによって円形を形成して、ボルト体Bの雄ネジ部B1の全周にわたって噛合できるものを示したが、雄ネジ部B1の周囲の一部に噛合できるものであってもよい。つまり、各分割雌ネジ凹所13aaは、半円に満たない扇形の円弧をなすものでもよい。
【0043】
また、このように雄ネジ部B1と分割雌ネジ凹所13aaとは螺合関係にあるため、図4、5で詳述するように、屋根上取付具Aを回転させて螺進させながら、屋根上取付具Aと折板屋根30との間に隙間ができないように、確実に折板屋根30に固定させることができる。
【0044】
また、屋根上取付具Aが2つの挟持部材10よりなる挟持具1で構成されているため、挟持対象の存在しない状態で鍔片13を近接させると、上板11のボルト貫通孔11eに形成された遊び等により両鍔片13の先端が相互に水平方向にずれるおそれがあるが、ボルト体Bに対して両鍔片13の分割雌ネジ凹所13aaによって挟持、螺合する構造であるため、ボルト体Bを挟持対象とする限りは、そのようなずれが発生するおそれはない。かりに、少しのずれがある状態でボルト体Bを挟持したとしても、分割雌ネジ凹所13aaによりボルト体Bを挟み込んでいるため、ずれが大きくなることはない。
【0045】
以上のように構成した屋根上取付具Aは、以下の要領で折板屋根30に取り付けて使用する。なお、ボルト体Bはあらかじめ折板屋根30の頂部31aに突設させておくが、ナットで固定していないため屋根上取付具Aの取付作業中にボルト体Bが外れることを防止して、ボルト体Bを仮止めするボルト止め(不図示)を用いることが望ましい。
【0046】
まず、屋根上取付具Aを挟持具1の両鍔片13が十分に開いた状態、つまり挟持具締付ボルト21、締付ナット22の螺合を緩めて、2つの挟持部材10を開閉自在に支点連結しておき、折板屋根30に立設されたボルト体Bの上方から、両鍔片13間の間隙Sを通じてボルト体Bを嵌挿するようにして、屋根上取付具Aを折板屋根30の頂部31aの上面に載置する(図4(a)、(b)を参照)。
【0047】
次に、仮止め状態にしていた挟持具締付ボルト21および締付ナット22を締め付けていくと、揺動自在の緩んだ状態で交差状に重合していた両上板11が平板状に近づき、それと同時に両脚片12の下端より延びた両鍔片13も互いに近接して、両分割雌ネジ凹所13aaが相互に近づき、ボルト体Bの雄ネジ部B1をその周囲を取り囲むように挟み込むとともに、分割雌ネジ凹所13aaと雄ネジ部B1とが相互に噛み合って、螺合関係を形成する(図4(b)、図5(a)参照)。
【0048】
この状態では、図4(b)および図5(a)に示すように、鍔片13の底面と折板屋根30の頂部31a上面との間にわずかな隙間が形成される場合があるが、屋根上取付具Aとボルト体Bとは螺合関係にあるので、屋根上取付具Aを螺進回転させることで、頂部31aとの隙間をなくして密着させることができる(図5(b)参照)。
【0049】
こうして折板屋根30に取り付けた屋根上取付具Aの上板11の上には、上板11に立設された挟持具締付ボルト21等によって各種機器・部材類Dを取り付けることができる(図5(b)参照)。
【0050】
このように、鍔片13の分割雌ネジ凹所13aaと、ボルト体Bの雄ネジ部B1との螺合・挟着関係により、屋根上取付具Aを折板屋根30に強固に取り付けることができる。また、屋根上取付具A自体を回転させて固定できるので、工具を使用せずに取付作業を楽に行える。
【0051】
また、ボルト体Bと螺合するナットを必要としない構成であるため、部品点数を減らすことができる。さらに、ナットを使用しないため、鍔片13を折板屋根30の頂部31a上面に密着させることができ、安定感を向上させることができる。もちろん、ナットを使用した構成であってもよい。
【0052】
さらに、本実施形態では、屋根上取付具Aを折板屋根30に取り付けるためのボルト体Bは、屋根材連結用のものが兼用されているため、取付のための部品点数を少なくすることができる。
【0053】
図6は、第1の実施形態で示した屋根上取付具Aを、他種の折板屋根へ取り付ける前の状態を示す分解斜視図である。なお、本図例に示した屋根上取付具Aは第1の実施形態と同一のものであるため、その詳細構造については説明を割愛する。
【0054】
本図例で屋根上取付具Aの取付対象となる折板屋根は、屋根材の連結をハゼ部Cによって行うハゼ式の折板屋根30である。すなわち、このハゼ部Cは、両屋根材が頂部31aより重合、突設してなる屋根材重合基部C1を介して、その先端で結合された構造となっている。なお、ハゼ式の折板屋根30の上面に断面略L字形に突出された角ハゼ等についても同様に適用可能である。
【0055】
屋根上取付具Aの折板屋根30に対する施工手順は、図4、図5に示した施工手順とほぼ同様であるため図示を省略する。つまり、挟持具締付ボルト21と締付ナット22を締めた状態で折板屋根30のハゼ部Cに対して仮止めし、さらに締め付けて、鍔片13をハゼ部Cの屋根材重合基部C1に挟着させることができる。
【0056】
このように、本図例のようなハゼ式の折板屋根30の場合、屋根上取付具Aの分割雌ネジ凹所13aaは用をなさないが、挟持具締付ボルト21と締付ナット22との締付によって両鍔片13で対象物を挟み込む構造であるため、ハゼ式の折板屋根30にも容易に適用できる。また、分割雌ネジ凹所13aaは鍔片13の先端部13aの辺縁を切り欠いた形状となっているので、ハゼ部Cへの挟着には邪魔にはならない。
【0057】
ついで、第2の実施形態について説明する。
【0058】
図7は、本発明に係る屋根上取付具の第2の実施形態を示す分解斜視図であり、屋根上取付具を折板屋根へ取り付ける前の状態を示す分解斜視図である。図8は、同屋根上取付具を折板屋根へ取り付けた状態を示す斜視図である。図9は、同屋根上取付具の分解斜視図である。また、図10(a)、(b)および図11(a)、(b)は、同屋根上取付具の施工状態を示す断面図である。
【0059】
なお、第1の実施形態で示した図1〜図4と共通する重ね式接合構造の折板屋根30の構造については説明を省略する。
【0060】
屋根上取付具Aは、金属板または硬質樹脂板よりなり、折板屋根30の頂部31aより上方に突出した重合部連結用の上記ボルト体Bに挟着して、取付、固定する構造となっている。
【0061】
この屋根上取付具Aは、一対の挟持部材10を開閉自在に支点連結して挟持具1を形成し、挟持具1の作用点とされる相対向する一対の鍔片13を相互近接させ固定して、折板屋根30の頂部31aより突出したボルト体Bに挟着させる構造としたものであって、鍔片13の先端部13aには、相互に対向し、内周が円弧形に湾曲した分割雌ネジ凹所が形成されており、それら2つの分割雌ネジ凹所は、ボルト体の雄ネジ部を挟み込んで噛合する構造となっている。なお、2つの挟持部材による挟持動作構造については、第1の実施形態に示した屋根上取付具と同じであるため、具体的な説明を省略する。
【0062】
本実施形態では、両鍔片13のそれぞれの先端部13aに、先端部13aの辺縁から上方に延びた起立片13bが形成されている。これらの起立片13bは、緊締前において、所定の空隙を介してほぼ平行に起立しており、それぞれの中央には、上下方向に沿って凹溝状の分割雌ネジ凹所(以下では、分割雌ネジ凹溝13baという)が形成されている。
【0063】
分割雌ネジ凹溝13baは、両起立片13bの対向両面に内周を半円形に湾曲させて形成したもので、内周面にはネジ溝が切られて雌ネジ部が形成されている。また、起立片13bのその裏面側の中央には分割雌ネジ凹溝13baによってできた凸条が見られる。
【0064】
この屋根上取付具Aが折板屋根30に正しく取り付けられたときには、図8に示すように、2つの分割雌ネジ凹溝13baがボルト体Bの雄ネジ部B1に隙間なく挟着する。このとき、雄ネジ部B1と分割雌ネジ凹溝13baとは、ネジ溝とネジ山が相互に噛み合って、強固な挟着関係が形成される。特に、分割雌ネジ凹溝13baは起立片13bの全高にわたり形成されているので、ボルト体Bの雄ネジ部B1のほぼ全長にわたって鍔片13の起立片13bを挟着させることができる。なお、本実施形態においても、分割雌ネジ凹溝13baは雄ネジ部B1の周囲の一部に噛合できるものであってもよい。
【0065】
以上のように構成した屋根上取付具Aは、以下の要領で折板屋根30に取り付けて使用する。
【0066】
まず、屋根上取付具Aを挟持具1の両鍔片13が十分に開いた状態、つまり挟持具締付ボルト21、締付ナット22の螺合を緩めて、2つの挟持部材10を開閉自在に支点連結しておき、折板屋根30に立設されたボルト体Bの上方から、両鍔片13間の間隙Sを通じてボルト体Bを嵌挿するようにして、屋根上取付具Aを折板屋根30の頂部31aの上面に載置する(図10(a)、(b)参照)。
【0067】
次に、仮止め状態にしていた挟持具締付ボルト21および締付ナット22を締め付けていくと、揺動自在の緩んだ状態で交差状に重合していた両上板11が平板状に近づき、ボルト体Bの雄ネジ部B1をその周囲を取り囲むように挟み込むとともに、分割雌ネジ凹溝13baと雄ネジ部B1とが相互に噛み合って、螺合関係を形成する(図10(b)、図11(a)参照)。
【0068】
この状態では、図10(b)および図11(a)に示すように、鍔片13の底面と折板屋根30の頂部31a上面との間にわずかな隙間が形成されることがあるが、屋根上取付具Aとボルト体Bとは螺合関係にあるので、屋根上取付具Aを螺進回転させることで、頂部31aとの隙間をなくして密着させることができる(図11(b)参照)。
【0069】
こうして折板屋根30に取り付けた屋根上取付具Aの上板11の上には、各種機器・部材類Dを取り付けることができる(図11(b)参照)。
【0070】
このように、鍔片13の起立片13bに形成した分割雌ネジ凹溝13baと、ボルト体Bの雄ネジ部B1との間に螺合・挟着関係があるため、第1の実施形態で示した屋根上取付具Aと同様に、屋根上取付具Aを折板屋根30に強固に安定的に取り付けることができる。また、屋根上取付具A自体を螺進回転させて固定できるので、工具を使用せずに施工を楽に行える。また、分割雌ネジ凹所がボルト体Bの雄ネジ部B1を、より長い範囲で挟着できる凹溝形状となっているので、両者は強く連結される。
【0071】
以上の第1、第2の実施形態では、屋根上取付具Aを隣接する両屋根材の重合部30aに配した例を示したが、重合部30aが形成されていない山部の頂部に屋根上取付具Aを取り付けてもよい。
【0072】
また、以上の第1、第2の実施形態では、山部31、谷部32の方向に沿って両脚片12、12が配列されるように屋根上取付具Aを配した例を示したが、波の方向に沿って両脚片12、12が配列されるように屋根上取付具Aを配してもよい。
【0073】
なお、屋根上取付具Aは上記2種の方向に配することが望ましいが、それら以外のどのような方向に配してもよい。
【0074】
また、上記屋根上取付具は、平板形(波形を形成していない)屋根に取り付けることも可能である。
【0075】
なお、以上に示した実施形態では、分割雌ネジ凹所13aaまたは分割雌ネジ凹溝13baよりなる雌ネジ部が、ボルト体Bの雄ネジ部B1に螺合するものを示したが、両者はすくなくとも噛合関係にあればよく、確実に螺合関係が形成されなくてもよい。つまり、鍔片13がボルト体Bに挟着して、分割雌ネジ凹所13aaまたは分割ネジ凹溝13baと雄ネジ部B1とが噛合したのちに螺進回転できないような構造であってもよい。
【0076】
ついで、図12を参照しながら、本発明に係る屋根上取付具のさらに他の実施形態について説明する。図12(a)、(b)、は、屋根上取付具の施工状態を示す概略正面図である。
【0077】
この屋根上取付具Aは、一対の挟持部材10を開閉自在に支点連結して挟持具1を構成し、挟持具1の作用点とされる相対向した一対の鍔片13を相互近接させ固定して、折板屋根30の頂部31aより突出したボルト体Bに挟着させる構造としたものであって、鍔片13の先端部に、相互に対向し、内周が円弧形に湾曲した分割雌ネジ凹所13aaが形成されたものである。
【0078】
具体的には、この屋根上取付具Aは、上記した第1、第2の実施形態のものとちがって、力点である操作片17が支点の上方にあり、上記した実施形態と同様に、交差状に連結された支点の下方に脚片12と鍔片13とが延びている。そして、操作片17を緊締ボルト25、ナット26等で締め付けることで、鍔片13をボルト体Bに挟着させることができる。こうして取り付けた屋根上取付具Aの操作片17に、各種機器部材類Dを取り付けることができる。
【0079】
なお、本発明の特徴部分である、鍔片13の先端に形成された分割雌ネジ凹所13aaについては、上記した第1の実施形態と同一の構造であるため、その構造および効果についての説明は省略する。もちろん、この屋根上取付具Aに、分割雌ネジ凹所13aaに代えて、第2の実施形態で示した分割雌ネジ凹溝13ba(図7参照)を適用することも可能である。
【符号の説明】
【0080】
A 屋根上取付具
1 挟持具
10 挟持部材
11 上板
11a 基端部(基端)
11b 先端部(先端)
11c 段差部
11d 切り溝
11e ボルト貫通孔
11f 押さえ爪
12 脚片
13 鍔片
13a 先端部
13aa 分割雌ネジ凹所
13b 起立片
13ba 分割雌ネジ凹溝(分割雌ネジ凹所)
17 操作片
21 挟持具締付ボルト
22 締付ナット
22a ナット
22b 座金
23 ボルト止め
30 折板屋根(波形屋根)
30a 重合部
30b ボルト孔
31 山部
31a 頂部
32 谷部
B ボルト体
B1 雄ネジ部
C ハゼ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の挟持部材を開閉自在に支点連結して挟持具を構成し、該挟持具の作用点とされる相対向する一対の鍔片を相互近接させ固定して、波形屋根の頂部より突出したボルト体に挟着させる構造とした屋根上取付具であって、
上記挟持部材の鍔片の先端部には、相互に対向し、内周が円弧形に湾曲した分割雌ネジ凹所が形成されており、
上記両分割雌ネジ凹所は、上記ボルト体の雄ネジ部を挟み込んで噛合する構造となっていることを特徴とする屋根上取付具。
【請求項2】
請求項1において、
上記挟持部材は、中央にボルト貫通孔が開設され、該ボルト貫通孔から一方の側端縁に至る切り溝が形成された上板と、該上板の基端より下方に延びる脚片と、該脚片の下端から上記上板と略同一の方向に延びる上記鍔片とより構成されており、
上記挟持具は、上記2つの挟持部材の上板同士を相対向させた状態で、相互の上板の先端が相手の上板の基端の下に配されるように、上記上板の切り溝同士を相互差し込みして上記両上板を揺動自在に噛み合わせて上記ボルト貫通孔同士を一致させ、その一致させたボルト貫通孔に挟持具締付ボルトを通し、締付ナットを螺合することで上記鍔片の先端同士を近接させる構造としている屋根上取付具。
【請求項3】
請求項1または2において、
上記分割雌ネジ凹所は、上記鍔片の先端部の辺縁を切り欠いて形成されている屋根上取付具。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項において、
上記鍔片の先端部には、該先端部から上方に延びる起立片がさらに形成されており、
上記分割雌ネジ凹所は、上記起立片の上下方向に凹溝状に形成されている屋根上取付具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−47145(P2011−47145A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−195015(P2009−195015)
【出願日】平成21年8月26日(2009.8.26)
【出願人】(593178409)株式会社オーティス (224)
【Fターム(参考)】