説明

山留め壁載荷試験方法

【課題】山留め壁の中での試験体の縁切りを、手間を掛けずに経済的に、且つ、確実に実施でき、精度の高い試験結果を得られるようにする。
【解決手段】地中を壁状に掘削して形成した山留め壁形成対象範囲2の内に、形鋼からなる複数の芯材3を壁の幅方向に間隔をあけて立設すると共に、硬化性流動体4を満たして一体に形成した山留め壁1に対して、その一部の幅部分を試験体Tとして使用し、原位置載荷試験を行う山留め壁載荷試験方法であって、芯材3を山留め壁形成対象範囲2内に吊り降ろす際に、試験体Tに該当する範囲の両端縁部に壁厚み方向に横断する仕切部5を形成するためのチューブ体6を、芯材3に取り付けて吊り降ろし、チューブ体6を膨らませて仕切部5を形成した状態で山留め壁形成対象範囲2内の硬化性流動体4を固め、試験体Tに対して、山留め壁1の他の部分と分離した状態で原位置載荷試験を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、仮設として使用する山留め壁を、本設杭として利用するような場合に、載荷試験を行って鉛直方向の耐力(押し込み、引き抜き耐力)を確認する必要があり、このような状況下において、山留め壁の一部を対象として、他の部分と分離した状態で載荷試験を行う方法に関する。
更に、詳しくは、地中を壁状に掘削して形成した山留め壁形成対象範囲の内に、形鋼からなる複数の芯材を壁の幅方向に間隔をあけて立設すると共に、硬化性流動体を満たして一体に形成した山留め壁に対して、その一部の幅部分を試験体として使用し、原位置載荷試験を行う山留め壁載荷試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の山留め壁載荷試験方法としては、山留め壁の内で、試験体として選択される範囲を、隣接する山留め壁範囲と分離するために、それらの境界部で応力的な縁切りが行えるようにしていた。
原位置載荷試験に関しては、載荷反力を確保できる状態にジャッキをセットして、前記ジャッキの荷重によって載荷試験を行っていた(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
縁切り部の形成方法に関しては、山留め壁を形成する際(ソイルセメントが未固結の時)に境界部にインターロッキングパイプを挿入しておいて、固結後に引き抜いてその抜き跡を縁切り部とする方法(以後、単に第1従来技術という)や、形成した山留め壁の前記境界部をオーガーで穿孔して縁切り部とする方法(以後、単に第2従来技術という)等があった。
また、別の方法としては、境界部に位置させる芯材の周面に、予め、剥離剤を塗布しておき、試験体に載荷中を作用させた時に、前記剥離剤によるフリクションカット層で縁切りを行えるようにする方法(以後、単に第3従来技術という)があった(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−211520号公報(図1)
【特許文献2】特開2006−57380号公報(図1)
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「基礎工」総合土木研究所、5月号第33巻第5号、2005年5月15日発行、58〜60頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した前記第1従来技術によれば、インターロッキングパイプの設置時に、オーガー掘削装置が必要になることと、引き抜き時には引き抜き装置が必要になると共に、それぞれの設置撤去や、施工に手間が掛かることから、施工費が嵩む問題点がある。
また、オーガー掘削を行う範囲を除けて芯材を設置しておく必要があるから、その部分においては、芯材間隔が広がって山留め壁としての耐力が低下する危険性がある。
更には、インターロッキングパイプの長さに制約があり、当該技術を採用できない場合がある。
上述した前記第2従来技術によれば、オーガー掘削装置が必要になると共に、その設備の設置撤去や、掘削施工に手間が掛かることから、施工費が嵩む問題点がある。
また、オーガー掘削を行う範囲を除けて芯材を設置しておく必要があるから、その部分においては、芯材間隔が広がって山留め壁としての耐力が低下する危険性がある。
上述した前記第3従来技術によれば、山留め壁の厚み内で、芯材とソイルセメントとの接触面においては、縁切りがなされているものの、芯材を包みこんでいる被り部分のソイルセメントに関しては、山留め壁の幅方向に連続しているから、その部分での縁切りが不充分である。従って、原位置載荷試験時に、ソイルセメントの強度が作用し、過大評価となり得る問題点がある。
【0006】
従って、本発明の目的は、上記問題点を解消し、山留め壁の中での試験体の縁切りを、手間を掛けずに経済的に、且つ、確実に実施でき、精度の高い試験結果を得られる山留め壁載荷試験方法を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の特徴構成は、地中を壁状に掘削して形成した山留め壁形成対象範囲の内に、形鋼からなる複数の芯材を壁の幅方向に間隔をあけて立設すると共に、硬化性流動体を満たして一体に形成した山留め壁に対して、その一部の幅部分を試験体として使用し、原位置載荷試験を行う山留め壁載荷試験方法であって、前記芯材を前記山留め壁形成対象範囲内に吊り降ろす際に、前記試験体に該当する範囲の両端縁部に壁厚み方向に横断する仕切部を形成するためのチューブ体を、前記芯材に取り付けて吊り降ろし、前記チューブ体を膨らませて前記仕切部を形成した状態で前記山留め壁形成対象範囲内の硬化性流動体を固め、前記試験体に対して、前記山留め壁の他の部分と分離した状態で原位置載荷試験を行うところにある。
【0008】
本発明の第1の特徴構成によれば、前記チューブ体を芯材に取り付けた状態で、共に山留め壁形成対象範囲内に吊り降ろし、例えば、空気等を送ってチューブ体を膨らませる簡単な手順によって、前記試験体に該当する範囲の両端縁部に壁厚み方向に横断する仕切部を形成することができる。更には、仕切部を任意の位置に設定することができるから、例えば、必要最小限の範囲を試験体と設定して、効率的に原位置載荷試験を行うこともできる。
また、上述のように、仕切部は、膨らませたチューブ体で構成されているから、例えば、空気等で膨らませている場合には、せん断耐力は殆ど発揮せず、仕切部を挟んだせん断力の伝達を実質上、零にすることができ、試験体に対する原位置載荷試験の精度を向上させることができる。
また、前記チューブ体は、簡単に回収することも可能で、例えば、改修した仕切部跡にモルタル等を充填すれば、試験体と隣接する山留め壁とを、より確実に一体化することが可能である。更には、チューブ体そのものを回収しない場合でも、チューブ体の中をモルタル等で充填すれば、強固に固めることができる。
以上の結果、従来のように、大型の機械設備を用いなくても、簡単な手順で迅速に仕切部を形成でき、工期短縮を図れると共に、コストダウンをも叶えることができる。更には、試験体を使用した原位置載荷試験の精度アップも図ることができる。
【0009】
本発明の第2の特徴構成は、前記硬化性流動体が固まった状態で、前記チューブ体を窄めてから、前記試験体に原位置載荷試験を行うところにある。
【0010】
本発明の第2の特徴構成によれば、前記硬化性流動体が固まった状態で、前記チューブ体を窄めてから、前記試験体に原位置載荷試験を行うから、仕切部を挟む試験体と山留め壁との物理的な繋がりを確実に断ち、相互間の応力伝達が無い状態で原位置載荷試験を行うことができ、より精度の高い載荷試験を実施できるようになる。
【0011】
本発明の第3の特徴構成は、前記チューブ体は、前記芯材に沿わせた状態に取り付けるところにある。
【0012】
本発明の第3の特徴構成によれば、チューブ体の姿勢を、前記芯材に沿った安定した状態に保ち易く、それに伴って、仕切部そのものの形状安定を図ることができる。
【0013】
本発明の第4の特徴構成は、前記チューブ体は、隣接する前記芯材どおしのほぼ中間部に位置する状態に取り付けるところにある。
【0014】
本発明の第4の特徴構成によれば、試験体の端部を、前記硬化性流動体の部分に設定でき、前記芯材の周りに硬化性流動体の充分な被り領域を確保することで、山留め壁としての平均的な範囲を試験体として設定することができる。
その結果、上述のような試験体を対象とした原位置載荷試験を、偏りの無い状態で実施でき、現実の状態に近い評価をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】山留め壁の形成状況を示す斜視図
【図2】山留め壁の要部平面図
【図3】別実施形態の山留め壁の要部平面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明による山留め壁の載荷試験方法の実施の形態を図面に基づいて説明する。
この載荷試験の対象となる山留め壁1は、図1、図2に示すように、オーガー(図示せず)などによって掘削された矩形の壁形成穴(山留め壁形成対象範囲に相当)2内に芯材としてH形鋼3を挿入し、さらに、ソイルセメント(硬化性流動体の一例)4などを打設して構築される。なお、壁形成穴2としては、矩形に限らず、円形の掘削穴を連続して掘削して形成する場合もある。
【0017】
山留め壁1の構築にあたって、その一部の幅部分を、原位置載荷試験を実施する為の試験体Tとして使用できるようにするものである。
試験体Tの形成は、図2に示すように、前記壁形成穴2の中の試験体Tに該当する範囲の両端縁部に壁厚み方向に横断する仕切部5を形成した状態で、上述の手順によって山留め壁1を形成することで、前記一対の仕切部5の間の山留め壁1部分が試験体Tとなる。
【0018】
前記仕切部5の形成手順は、図1に示すように、仕切部5に隣接する位置に設置されるH形鋼3に、前記仕切部形成用の複数のチューブ体6を取り付けるための取付部3aを設けておく。この取付部3aは、例えば、アングル部材等を使用して形成し、H形鋼3の長手方向に間隔をあけて、複数個所に設けておく。
前記チューブ体6を、各取付部3aにわたる状態に配置して、例えば、接着剤等で取付部3aに固定する。
因みに、前記取付部3aは、取り付けたチューブ体6が、隣接する前記H形鋼3どおしのほぼ中間部で、H形鋼に沿う姿勢となるように寸法設定をしてある。
【0019】
前記チューブ体6は、例えば、合成樹脂製の弾性チューブで構成してあり、内空部に空気を圧入することで膨脹し、隣接するチューブ体6との間が塞がって、壁状の仕切部5を形成することができる。
また、内空部の空気を抜くと窄み、引き抜く等の手段で簡単に撤去することができる。
尚、前記試験体Tの原位置載荷試験を実施する際には、このチューブ体6の空気は抜いて窄めておくか、又は、撤去しておくことで、試験体Tに加えた載荷重が、隣接する山留め壁1に流れることを防止でき、該当する試験体Tを使用した原位置載荷試験の精度を向上させることができる。
【0020】
前記原位置載荷試験は、試験体Tの頭部に載荷試験用ジャッキ(図示せず)を設置して、該当試験体Tに鉛直荷重を作用させることで実施される。
【0021】
また、原位置載荷試験を実施した後は、前記仕切部5跡に、モルタル等を充填することで、前記試験体Tを隣接する山留め壁1と一体化することができ、一連の山留め壁1として構成できる。尚、山留め壁1は、その内側の地盤を掘削する際に山留めとして使用される。
【0022】
当該実施形態による山留め壁載荷試験方法によれば、従来のように、大型の機械設備を用いなくても、簡単な手順で迅速に仕切部を形成でき、工期短縮を図れると共に、コストダウンをも叶えることができる。更には、試験体を使用した原位置載荷試験の精度アップも図ることができる。
【0023】
〔別実施形態〕
以下に他の実施の形態を説明する。
【0024】
〈1〉 山留め壁に挿入される形鋼は、先の実施形態で説明したH形鋼3に限るものではなく、例えば、I形鋼や他の形鋼であってもよく、それらを含めて形鋼と総称する。
〈2〉 前記取付部3aは、先の実施形態で説明したように、チューブ体6を、隣接する前記芯材3どおしのほぼ中間部に位置する状態に取り付けるように構成されたものに限るものではなく、例えば、図3に示すように、芯材3の表面に沿わせて前記チューブ体6を取り付けるように構成してあってもよい。この場合、取付部3aとしては、特別の部材を用意しなくても、前記芯材3の表面を取付部3aとしてもよい。
〈3〉 前記硬化性流動体4は、先の実施形態で説明したソイルセメントに限るものではなく、例えば、モルタルやコンクリート等であってもよく、それらを含めて硬化性流動体と総称する。
【0025】
尚、上述のように、図面との対照を便利にするために符号を記したが、該記入により本発明は添付図面の構成に限定されるものではない。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0026】
1 山留め壁
2 壁形成穴(山留め壁形成対象範囲に相当)
3 芯材としてH型鋼
4 ソイルセメント(硬化性流動体の一例)
5 仕切部
6 チューブ体
T 試験体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中を壁状に掘削して形成した山留め壁形成対象範囲の内に、形鋼からなる複数の芯材を壁の幅方向に間隔をあけて立設すると共に、硬化性流動体を満たして一体に形成した山留め壁に対して、その一部の幅部分を試験体として使用し、原位置載荷試験を行う山留め壁載荷試験方法であって、
前記芯材を前記山留め壁形成対象範囲内に吊り降ろす際に、前記試験体に該当する範囲の両端縁部に壁厚み方向に横断する仕切部を形成するためのチューブ体を、前記芯材に取り付けて吊り降ろし、
前記チューブ体を膨らませて前記仕切部を形成した状態で前記山留め壁形成対象範囲内の硬化性流動体を固め、
前記試験体に対して、前記山留め壁の他の部分と分離した状態で原位置載荷試験を行う山留め壁載荷試験方法。
【請求項2】
前記硬化性流動体が固まった状態で、前記チューブ体を窄めてから、前記試験体に原位置載荷試験を行う請求項1に記載の山留め壁載荷試験方法。
【請求項3】
前記チューブ体は、前記芯材に沿わせた状態に取り付ける請求項1又は2に記載の山留め壁載荷試験方法。
【請求項4】
前記チューブ体は、隣接する前記芯材どおしのほぼ中間部に位置する状態に取り付ける請求項1又は2に記載の山留め壁載荷試験方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−163748(P2010−163748A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−4663(P2009−4663)
【出願日】平成21年1月13日(2009.1.13)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】